クロスアンジュ-青年から少女に転生した者-(完) 作:森島響
(ミスルギ皇国の処刑場。両手を縛られ、絞首台の上に大勢の国民の前に、奴隷服を着せられているが、ほぼ全裸で晒し者にされていたアンジュ)
(ピシッ!)(シルヴィアがアンジュの身体を鞭で拷問している音)
アンジュ「ああっ!」(鞭の苦痛で悲鳴を上げるアンジュ)
シルヴィア「私を馬から落とした罪」
(ペチン!)
シルヴィア「私を歩けなくした罪」
(ペチン!)
アンジュ「あはぁっ!」
シルヴィア「そしてこれは、生まれてきた罪!」
(ピシィッ!)
アンジュ「あああっ!」
モモカ「お止めください、こんな酷いこと…」
(シルヴィアの後ろで警備兵に取り押さえられていたモモカが、シルヴィアにアンジュの拷問を止めるよう言う)
シルヴィア「この反社会的な化け物が、私のお姉様だったのですよ!? 謝りなさい」
アキホ「シルヴィア様の言う通りよ!!」
マキ「私達の人生を返して!!」
(公開処刑を見ていたアンジュが所属していたエアリア部の元友人達。シルヴィアの言うことに賛同している)
ジュリオ「感謝しているよ、モモカ。 私達に断罪の機会を与えてくれたことを」
モモカ「え…?」
ジュリオ「お前を送り込んでやったのさ」
モモカ「あの…それってどういう…」
ジュリオ「お前を利用していたということだ。 侍女が世界の果てに追放されたノーマに簡単に会えるわけないだろう?」
モモカ「え…そんな…」
モモカ「じゃ…私がアンジュリーゼ様に会いに行かなければ…今頃アンジュリーゼ様は…。 私のせいで…」
(ジュリオは、モモカに自分がアンジュをミスルギ皇国に誘導するよう利用されていたことを説明する。その事実にショックを受けるモモカ)
ジュリオ「国民を欺いた愚かな皇后は処刑された」
アンジュ「処刑…?」
(ジュリオのその言葉を聞き、父親が処刑された光景を思い浮かべ、歯を食いしばるアンジュ)
ジュリオ「今宵、この国は生まれ変わる! このノーマを処刑せよ!!」
(その指示通り、絞首台に運ばれていくアンジュ)
アンジュ「どうして…私が処刑されなきゃいけないの?」
アキホ「みじめー!」
(アメリア部の元友人達に隠し持っていた液体を投げつけられ、アンジュの髪に当たって髪から液体が流れる)
アキホ「アンタは人間じゃない」
マキ「沢山の人を不快に、不幸にした」
トモミ「ジュリオ様が死刑って言ってるんだから死刑でいいじゃない!」
「そうだそうだ」
「ノーマは処刑だ!」
(立て続けにアンジュに罵声を浴びせる元友人達、その他の一般国民達)
モモカ「アンジュリーゼ様は何も悪くありません! 私はアンジュリーゼ様のお陰で幸せに…」
(そんなアンジュを庇うモモカ)
アキホ「つーるーせ! つーるーせ!」
マキ「…! つーるーせ! つーるーせ!」
トモミ「つーるーせ! つーるーせ!」
(アキホから始まり、それに続くようにマキとトモミ。それに更に続くようにその他の一般国民達が一斉に吊るせコールをする)
モモカ「どうしてアンジュリーゼ様が…」
アンジュ『モモカとあそこの人達だけね…差別や偏見、ノーマだとか関係なく、私を受け入れてくれたのは…。』
アンジュ『…そういえば…ミナは今頃私が脱走したと知って、どうしてるかしら…』
(アルゼナルの第一中隊メンバー達との楽しい出来事を思い出しながら、物思いに耽るアンジュ)
アンジュ『それに比べて…』
アンジュ『醜くて汚い豚ども…。 こんな連中を生かすために…私達ノーマは…』
(鳴り止まない吊るせコールをしている国民達を睨み付け、人間達を憎むアンジュ)
(~♪)(急に歌を歌いながら絞首台に運ばれるアンジュ。国民達の吊るせコールが鳴り止む)
アンジュ『私は死なない、諦めない』
ジュリオ「さらばだ」
(アンジュの首に縄が掛けられたそのときだった)
(ドンッ!)(花火が打ちあがった音)
アンジュ「…?」
アンジュ「…な…!?///」
(気付いたら、絞首台から逃れていたアンジュ。しかし自分の股間には、またもや顔を埋めていたタスクがいた)
アンジュ「タスク…? どうしてここに…」
ミナ「アンジュ!」
アンジュ「…? ミナ…? 貴女までどうして…」
タスク「話はあとだ! 今はここから離れるんだ!」
リィザ「ジュリオ様、お怪我はありませんか!?」
(先程の花火で塞ぎ込んでしまったジュリオの傍に駆け寄る近衛長官のリィザ)
(パリィン!)(マナの光で拘束されていたモモカの腕をノーマの力で解くアンジュ。そのままアンジュの手錠を外すモモカ)
ミナ「二人とも、私の後ろに乗って!」
私はやっと再会できたばかりのアンジュとモモカさんを自分の機体の後ろに乗せるよう誘導した。
ジュリオ「その者達を逃がすな!!」
(逃げようとするアンジュ達を周りにいた警備兵達が狙撃。それをマナの光で防御するモモカ)
ジュリオ「何をしている! 逃がすな!!」
ジュリオ「おのれ…アンジュリーゼ…」
(自分の計画が失敗しようとしていてアンジュにしてやられたと悔しがるジュリオ)
ミナ「アンジュ…?」
アンジュ「ちょっと待っててね、ミナ」
アンジュとモモカさんが後ろに乗ったため、飛び立った私の機体。しかし、アンジュにそう言われ、急に飛行を停止させた。
アンジュ「ありがとうシルヴィア。 薄汚い人間の本性を見せてくれて」
アンジュ「感謝していますわ、ジュリオお兄様。 私の正体を暴いてくれて」
アンジュ「さようなら、腐った国の家畜ども!!」
(そう吐き捨て、去り際にジュリオめがけて隠し持っていたナイフを投げつけるアンジュ。しかし、それをうまく交わしたジュリオ)
アンジュ「ミナ! 行って!」
ミナ「う、うん!」
そうして私達は、ミスルギ皇国を後にした。
―――――数時間後―――――
私達は、ミスルギ皇国から離れた場所でタスクが乗って来ていた別の機体に乗り込み、アルゼナルに向かっていた。ちなみに、私のレプリカヴィルキスも収納できるほどの大きさだった。
アンジュ「そういえば、ミナ。 貴女、いつからあの処刑台の前に?」
ミナ「ずっとだよ。 本当は今すぐにでも助けたかったんだけど…タスクがもう少し待てって言うもんだから、手を出せずにいたの」
ミナ「…あの…すぐに助けないで…ごめん」
アンジュ「謝らなくてもいいわ。 私はアルゼナルから脱走した」
アンジュ「なのに、それでもそんな私を見捨てずに貴女は私達を連れ戻しに来てくれた。 その気持ちだけでも私は十分嬉しい」
ミナ「アンジュ…」
私は、アンジュ達を助け出すまでのこれまでの一部始終をアンジュ達に説明していた。それをすぐに許してくれたアンジュに、私は嬉し涙を流しそうになった。
モモカ「…ごめんなさい…アンジュリーゼ様」
アンジュ「貴女のせいじゃないわ、モモカ。スッキリしたわ」
アンジュ「私には…家族も仲間も故郷も何もないって分かったから。 寧ろ、モモカのお陰であの故郷と決別することができたもの。 ありがとう」
モモカ「アンジュリーゼ様…」
アンジュ「それよりも…貴方」
タスク「え?」
タスク「…アタタ!」
ミナ「ちょ、ちょっとアンジュ…」
アンジュ「さっき、助けに来てくれた時もそうだったけど…」
アンジュ「どうして股間に顔を埋めるわけ? 意地なの? 癖なの? 病気なの?」
毎回、なぜ股間に顔を埋めてくるのかぐりぐり攻撃しながらタスクに問い詰めるアンジュ。私はそれを止めようとしたが、またしても聞いていなかった。
モモカ「あの…タスクさん…でしたよね? アンジュリーゼ様とミナさんから貴方の名前は聞いていました」
タスク「え? ああ…そうか、僕のこと聞いていたのか…」
モモカ「それで…アンジュリーゼ様とタスクさん…」
モモカ「お二人はどういう関係で…アンジュリーゼ様にもようやく春が…」
アンジュ「はぁ?」
ミナ「うふふ…」
アンジュとタスクは一体どういう間柄なのか興味津々で聞いてきたモモカさんに私は笑ってしまった。
アンジュ「けど…ミナは分かるけど…。 どうして貴方もあそこにいたの?」
タスク「それはミナにも説明してあるけど…」
タスク「連絡が来たんだ、ジルから。 君を死なせるなってね」
(そう説明しながら、アンジュが身に付けていた緑色の指輪をアンジュに差し出すタスク。どうやら処刑時にジュリオが奪っていたようだが、それを取り返していた模様)
タスク「アンジュの髪、綺麗な金色だよね」
アンジュ「え?」
アンジュ「…そ…それが何よ…///」
ミナ「アンジュ、顔が赤いよ? くすくす…」
タスク「下も金色なんだね」
アンジュ「…! 死ね! この変態騎士!」
タスクに綺麗な髪色を褒められ、頬を染めたアンジュについ笑ってしまった私。しかし、その直後アンジュの股間の色を口にしてきたので、アンジュは態度を変えてタスクをぼこぼこの刑に処した。
―――――アルゼナル到着。タスクと別れたあと―――――
ジル「男に送らせるとは、良い身分の脱走犯だな」
ミナ「…ジル司令…これは…」
アンジュ「ちょうど良かった。 貴女に聞きたいことがあったの」
ジル「ああ。 たっぷり教えてやる。 だが…」
(ドスッ!)(ドサッ…)
ミナ「ちょ…!? アンジュ! アンジュ!」
やっとアルゼナルに戻って来れた私達。しかし、帰りを待っていたジル司令に急に腹部に拳を入れられ、気絶してしまったアンジュ。このあと、アンジュは罰として反省房に収監されてしまうのであった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(全裸で反省房に収監されていたアンジュ)
(バシャッ!)(アンジュがバケツで水をかけられた音)
アンジュ「う…」
サリア「目は覚めた?」
(目を覚ますと、そこにはサリアとエルシャがいた)
アンジュ「ここは…」
サリア「牢屋に決まってるでしょ」
サリア「脱走の罪により、一週間の謹慎、資産、財産すべて没収。 ヴィルキスもよ」
アンジュ「…ミナとモモカは…?」
サリア「安心しなさい、あの二人は牢には入れてないから」
アンジュ「…」
エルシャ「…どうして脱走したの? 外にノーマの居場所なんてないのに…どうして…」
サリア「結局、私達とは違うのよ。 信じるんじゃなかった」
(そう言って、牢屋から立ち去る二人)
ヒルダ「…うっせーなぁ…大人しく寝てたっていうのに…」
アンジュ「!?」
(アンジュが脇を見ると、壁の方を向いて寝ていたヒルダがいた。アンジュと同じく脱走の罪で牢屋に入れられていたらしい)
アンジュ「帰ってきてたんだ…貴女も…」
(アンジュが傍に近寄ると、突然起き上がるヒルダ)
ヒルダ「近寄るな」
アンジュ「その顔…何を…されたの?」
ヒルダ「聞く前に自分から話しな」
(ヒルダの顔がぼこぼこに膨れ上がっていたのを心配するアンジュ)
アンジュ「死刑…。 妹を助けに行ったら、それは罠で、鞭で叩かれて、罵声浴びせられ、首を吊られた」
ヒルダ「ハハハッ。 そりゃ、結構大変だったんだな」
アンジュ「私が話したんだから、次は貴女の番よ」
ヒルダ「…50人にボコられた。 全員再起不能にしてやったけど」
アンジュ「貴女も貴女で随分やられたのね」
(そう会話を終えたら、また眠りに就いてしまったヒルダ)
―――――数時間後―――――
(自分が子供だった頃の夢を見ているヒルダ)
インゲ『ヒルダ。 アップルパイ、焼けたわよ』
ヒルダ『ママ…うん!』
(ノーマだと判明し、アルゼナルに連れていかれるヒルダ)
インゲ『見逃してください!』
(雨が降っている中、水溜まりの上に土下座で座り、ヒルダを見逃すよう頼み込む母親)
インゲ『たとえノーマでもヒルダは私の子! 大切な私の娘です!』
インゲ『…娘を返して…』
(警察に連行されるヒルダ)
ヒルダ『ママー!!!』
インゲ『ヒルダァァー…』
(そこで夢が途切れる)
ヒルダ「やだ…やだ…ママ!!」
(悪夢から目覚めて、息を取り乱すヒルダ。それに驚くアンジュ)
アンジュ「…珍しい。落ち込んでるの?」
ヒルダ「…はぁ?」
(煽るような発言され、アンジュの方を睨み付けるヒルダ)
ヒルダ「…ママだけは…受け入れてくれると思ってた…。 だけど…ダメだった…」
ヒルダ「あれがノーマってことなんだ…。 外の世界に仲間なんていなかった」
(アンジュが収監される数時間前。全裸で牢屋に収監されていたヒルダ。そこにはロザリーとクリスがいた)
ロザリー『なんで脱走なんかしたの? 私ら友達でしょ?』
クリス『友達なんて思ってなかったんでしょ?』
ヒルダ『…ああ。 思ってねーよ、友達なんか』
(その吐き捨てるような台詞に切れて、唾をヒルダにかけるクリス)
クリス『死ねばよかったのに』
(回想終了)
ヒルダ「…あーあ。 なーんもなくなっちゃったな…。 部屋も金もない…生きてる理由も」
ヒルダ「…いっそ殺してくんないかな」
アンジュ「死ぬのはダメ」
ヒルダ「…フフフ…アッハハハ! 流石は元皇女様、言うことが違うね。 希望は捨てずにって?」
アンジュ「違うわよ」
アンジュ「…匂うでしょ? 死んだら。 止めてよ、こんな狭いとこで」
ヒルダ「…はぁ?」
(残念そうな顔でアンジュの方を見るヒルダ)
アンジュ「希望? そんなもの、本気であると思ってるの?」
アンジュ「まったくバカバカしくて笑えてくる…偏見と差別に凝り固まった愚民ども…。 マナが使えないのがそんなにいけないこと…?」
ヒルダ「…」
(アンジュの熱弁を黙って聞き入っているヒルダ)
アンジュ「世界は腐ってるわ…。 壊しちゃおっか、全部」
ヒルダ「地上まで何千キロあると思ってんだ」
アンジュ「長時間稼働できる機体を作ればいいじゃない」
ヒルダ「食料どうすんだ」
アンジュ「魚なら獲り放題でしょ」
ヒルダ「資材は?」
アンジュ「なんとかなるわ」
(そうヒルダとやり取りしたあと、牢屋の鉄格子の柵に手をかけ、熱弁を続けるアンジュ)
アンジュ「私を虐げ、辱め、陥れるしかできない世界なんて、私から拒否してやる」
ヒルダ「…なんだかノーマは自己中心的で暴力的なバケモノみてーだな」
アンジュ「ええ。 何と言われようと構わない。 ぶっ壊してやるわ、こんなムカつく世界」
ヒルダ「…いいねえ。 協力してやってもいいよ?」
アンジュ「…協力してくれるのは有り難いけど…その前に、ミナにも聞いてみてからね」
ヒルダ「は? なんでノーマでもないアイツも?」
アンジュ「特に理由なんかないわ…。 ただ…」
アンジュ「あの子だけは…唯一信用してもいいと思えてきたから…。 それだけのこと」
(その頃。ジル司令にミスルギ皇国での出来事の報告を済ませて、自室に戻っていたミナ)
ミナ「…くしゅんっ!」
ミナ「…風邪引いたかな…。 それより…」
ミナ「アンジュ…今頃何してるのかな…」
(その日の夜…)
(~♪)
(牢屋で、また処刑台の上で歌っていたあの歌を歌い出すアンジュ。ヒルダは傍で再び眠りに就いていた)
メイ「…ん?」
メイ「…歌?」
(アルゼナル格納庫でパラメイルの整備中だったメイ。アンジュの歌に気付く)
(風呂場で入浴中のエルシャとヴィヴィアン)
ヴィヴィアン「問題! この歌は誰が歌っているでしょう?」
ヴィヴィアン「…いい歌だにゃー」
(いつものクイズを出すも、サリアに聞かれたら怒られると思い、風呂に潜ってクイズの答えを言うヴィヴィアン)
ヴィヴィアン「おかえりぃぃ、アンジュゥゥ」
(アンジュの歌声が聞こえる中、ゾーラの寝室でまた全裸でレズエッチしていたクリスとロザリー)
クリス「…ロザリーは私のこと、見捨てたりしないよね…?」
ロザリー「当たり前だろ…んっ…///」
(どうやらクリスが主導権を握っているようで、ロザリーの唇を塞ぐクリス)
モモカ「この歌声…アンジュリーゼ様…」
(アンジュの自室に一人でいて、アンジュの歌声に真っ先に気付いていたモモカ)
ミナ「この歌…アンジュがあの時歌っていた…いい歌…」
他のみんな同様、自室でアンジュの歌声に聞き入っていた私。このとき私は何も知らなかった。アンジュとヒルダが、反省房の中で、私もこの腐った世界を壊す仲間に入れようとしていたことを…。
(その頃。司令室で煙草を吸いながらアンジュの歌を口ずさんでいたジル)
ジル「…なるほど。 最後の鍵は…歌か」
To be continue…。