クロスアンジュ-青年から少女に転生した者-(完) 作:森島響
ゾーラ「行くぞ、初陣だ!」
(出撃したミナと第一中隊メンバー一同)
指揮を取っているゾーラさんの他に、アンジュさん、サリアさん、ヒルダさんやロザリーさんとクリスさん、ココさんとミランダさんの姿を確認した私。他のメンバーの姿は確認できなかった。
ゾーラ「各機、戦闘待機! フォーメーションを組め!」
そう言われて私もフォーメーションを組もうとした矢先、予想だにもしないトラブルが起きた。アンジュさんが登場していた機体が戦線から離脱したと、司令室から連絡が入ったのだ。
サリア「戻りなさい!! アンジュ!!」
アンジュ「私はミスルギ皇国に帰ります」
遠くで、サリアさんの命令を無視して故郷に帰ろうとしているアンジュさんの姿が確認できた私。どこに故郷があるのかも分からないのに、帰れるはずがない、と思っていたら、今度はココさんの機体がアンジュ機に近付いているのを確認した。
ココ「アンジュリーゼ様! 私も連れて行ってください!」
何と、ココさんもアンジュさんの故郷に連れて行ってくれと頼んでいるではないか。周囲にドラゴンが襲撃しに来ているこの状況でよくあのようなやり取りができるなと思っていた。アンジュさんが彼女の方を振り向いたそのときだった。
ココ「魔法の世界…」
(ココの機体、頭上を飛んでいたドラゴンが吐いた光線に直撃)
アンジュさんの目の前で…。いや、アンジュさんだけじゃない。私を含めた第一中隊メンバー達などが見ている前でココさんがドラゴンの攻撃で大量の血しぶきを上げて死亡したのだ。
そのとき、また司令室から通信が。大量にドラゴンが襲撃してきたと聞き、私は絶望していた。
アンジュ「なんなの…これ…」
私だけじゃない。あのアンジュさんまでこの状況に絶望したみたいだ。そんな状態になってしまっていた私達を置いて、他のメンバー達はすぐに体制を整えていた。
ゾーラ「全機、駆逐形態!」
サリア・ヒルダ・ロザリー・クリス・エルシャ・ヴィヴィアン「イエス、マム!」
しかし、それでもアンジュさんは命令を聞こうともせず、単独行動を続けていた。
ミランダ「アンジュ! どこ行くの!?」
アンジュ「帰ります! ミスルギ皇国に」
あの状況でも相変わらず故郷に帰ろうとするアンジュさんの神経を流石の私もちょっと疑った。彼女を慕っていたココさんを目の前でドラゴンに殺されたというのに。
ミランダ「燃料は戦闘分しか積んでない! 辿り着けるわけない!」
アンジュ「構いません! あそこに戻らずに済むのなら」
ミランダさんの言うとおり、燃料は戦闘分しか積んでおらず、当然どこにあるのかも分からない国に帰れるなど絶望的だった。
ミランダ「ココのバカ…何夢見てんだよ…私達はノーマなんだぞ?」
戦死していったココさんのことを涙を流しながらそう発言していたのが聞き取れたときだった。
(ゲシッ!)(ドラゴンがミランダを機体から突き落とした音)
(その様子を振り返りながら眺めているアンジュ)
ミランダ「助け…」
その言葉が最期の遺言とも受け取っても仕方ない状況だった。ドラゴンがミランダさんを丸ごと喰い殺したのだから。
アンジュ・ミナ「「うわああああああ!」」
私とアンジュさんは、その光景を目の当たりにして発狂しながら涙を流してしまっていた。
ゾーラ「あと一匹だけだ! 総員、突撃!」
ヴィヴィアン「滅びれぇぇ!」
ココさんだけでなく、ミランダさんまで戦死で恐怖を感じていた私とアンジュさんを除いた他のメンバー全員が、ゾーラさんの指揮の元、気付けば残り一匹になっていたドラゴンを囲んで殲滅しようとしていた。
ゾーラ「とどめだ!!」
そのときだった。
アンジュ「いやぁぁぁ!! 助けて!!」
(ガシッ!)
何と、恐怖で怯えていたアンジュさんの機体がゾーラさんの機体の方に飛んできてしがみ付いているではないか。予想外の事態にゾーラさんも動揺していた。
ゾーラ「アンジュ! 何してやがる!」
ヒルダ「ゾーラァァァ!!」
ヒルダさんがゾーラさんの救助に向かっていた。しかし、時既に遅かった。
(ガシャンッ!)
ドラゴンが振り下ろした翼がゾーラさんとアンジュさんの機体を直撃して、地面に落ちていった。そのとき、なぜか私も急に意識が遠のいて地面に落ちていくのを感じていた。
―――――数分後―――――
目が覚めた私とアンジュさんの目の前には、大量に血を出していて変わり果てたゾーラさんの死体があった…。
アンジュ・ミナ「「うわあああああああああああああああ!!!」」
(医務室に運ばれ、包帯を巻かれて全裸でベッドに寝かされているアンジュとミナ)
ジル「お前の逃亡がもたらした成果だ。 どんな気分だ?」
ジル司令だけじゃなく、エマ監察官やマギーさんの姿も一緒にあった。そのジル司令の質問に対し、返ってきたアンジュさんの答えは、今すぐにでもクズと罵りたくて堪らない発言だった。
アンジュ「私は…国に帰ろうとしただけ。 悪いことは何もしていません」
私が言葉を発しようとした矢先だった。
ロザリー「人殺し!!」
ロザリーさんが物凄い形相でアンジュさんを睨みながら罵倒したのだ。その台詞は、彼女が言わなかったらきっと私が代わりに発していたであろう発言だった。クリスさんも、そんなロザリーさんの後ろで泣いていた。
アンジュ「ノーマは…人ではありません」
ヒルダ「この野郎!!!」
アンジュ「あああっ!」
アンジュさんのその発言に激昂したヒルダさんがアンジュさんの身体を片足を振り上げて蹴り飛ばした。
無理もない。ずっと前からかもしれないが、私と一緒に、ゾーラさんにあんなことやこんなことをされるほど愛されていたのだから…。
ジル「ところで、なぜお前まで一緒に意識を失った? 司令室のモニターから見ていたが、全く戦闘にも参加せずにアンジュ達の様子を眺めていただけだったじゃないか」
ミナ「え…? い、いえ…実は私もよく分かっていないんです…」
ミナ「ただ…訓練のときもそうでしたが、アンジュさんの思考がなぜか私にも流れ込んできたりすることがあって、多分それが影響して…」
エマ「それって…どういうこと? 貴女達、もしかして生き別れた双子か何か?」
マギー「冗談言ってるんじゃないよ。 まぁ、そんなことはさておき…それは気になる謎だな」
マギー「ちょっとこっちで調べておく。 だからお前も今日はこの姫様とゆっくり休め。 ジルもそれでいいな?」
ジル「ああ…」
アンジュ・ミナ「「…」」
私がずっと気になっていた謎のことを調べてくれると言ってくれたマギーさん。本当に私とアンジュさんが、まさかの生き別れた双子なのか…?
前世の記憶を無くしている私にとっては、エマ監察官の言っていたことが流石に冗談に聞こえなくなっていた。
(既に医務室を立ち去っていて、廊下で歩きながら雑談している第一中隊メンバー)
ヴィヴィアン「最後まで生き残ったの、アンジュとあの子だったね」
(ヴィヴィアンのその言葉にも、全く何も反応していない他のメンバー)
―――――翌朝―――――
アンジュ「モモカ…!」
アンジュさんのその言葉で、隣のベッドで寝ていた私は目が覚めた。モモカって、一体誰のことだろう?
ジル「いつまで寝ぼけている」
モモカという人のことを考えている暇もなく、アンジュさんの傍にはジル司令がいた。
アンジュ「嘆願書は…?」
ミナ(嘆願書…? アンジュさん、そんな物を司令に頼んでいたの…?)
ジル「全て受け取りを拒否された」
その発言のあと、アンジュさんにとって、更に追い討ちをかけるように絶望的な発言が返ってきた。
ジル「あと、もう“ミスルギ皇国”はないそうだ」
故郷が無くなったと知って、悲しそうな表情を浮かべていたアンジュさんを私は見逃さなかった。
ジル「皇女がノーマだったんだ。 国民が反乱でも起こしたんだろう」
(そう発言して、煙草を吸うジル)
―――――数時間後―――――
外は雨が降っていた中、私はアンジュさんと一緒に基地の入口にいた。戦死していったゾーラさん、ココさんとミランダさんの墓を建てるためだった。なお、ここにはジル司令と初めて会うお婆さんの姿もあった。
ジル「死んだ仲間の墓を建ててやるのさ。 お前が運ぶんだ、アンジュ」
ミナ「あの、私は…? それと、そちらの人は…?」
ジャスミン「ああ、会うのは初めてだったね。 アタシはジャスミン。 この基地で『ジャスミン・モール』っていう市場開いているのさ」
ジャスミン「それと、アンタは無理に運ばなくてもいい。 恐怖で戦いについてこれなかったらしいしね」
ミナ「は、初めまして…。それとすみません…。 私…何も…何も出来ずに…ただ立ち尽くして見ているだけでした…」
“ノーマ”“ドラゴン”など、色々とわけの分からないことばかりな上、まだ未熟で何も出来なかった自分自身の不甲斐ない行動に、私は大量に涙を流してしまった。
ジル「お前が責任を感じることはない。 その気持ちだけでも、戦う意志はあったんだからな」
ジャスミン「だから、元気をお出し」
ミナ「…」
(3つの墓を荷台に載せて運んでいるアンジュと、そのあとをついて行っているジルとジャスミン、そしてミナ)
(アンジュ、墓を建て終える)
アンジュ「私はこれから、どうすればよいのですか」
ジル「ドラゴンを倒す、以上だ」
ジャスミン「そっちの彼女はさておき…」
ジャスミン「皇女様としては本望だろう、世界のために戦えるんだからね」
これからどうすればいいのか迷っていたアンジュさんに向けて即答で返事を返した司令とジャスミンさん。それに続いてジャスミンさんが言葉を発した。
ジャスミン「平和ボケしたアンタの世界は、ここで死んでいったノーマが守っていた」
ジル「今度は、お前が守る番だ」
アンジュ「…知りません…そんなこと。 私はノーマではないのに」
その言葉に、心の中でまたもや苛立ちを覚えてしまった私だったが、ジャスミンさんや司令の発言を聞いて、何とも言えない気持ちが同時に湧き上がって、ゾーラさんやココさん、ミランダさん達を助けられなかった自分自身に葛藤していた。
アンジュ「マナの光よ! 今だけ…少しマナが使えないだけで…こんな地獄みたいな所…理不尽です…」
ジル「これを決めたのはお前達だろ。 お前は、お前達が作ったルールに従ってここに来た」
ジル「ノーマは人間じゃない…か。 だったらお前は何なんだ! マナも使えず、敵前逃亡し、死なせた!」
アンジュさんのマナが使えないからこんな扱いは理不尽だという発言に対して、その状況を作ったのはアンジュさんの故郷そのものだと罵倒し返してから、ジル司令は更に罵倒を続けた。
ジル「死んだ仲間の分もドラゴンを殺せ、それが出来ないなら死ね」
アンジュ「では…殺してください…」
ジル「ダメだ。 戦って死ね」
そんなやり取りをしていた矢先、サリアさんが突然やって来た。
サリア「ジル。 またあのドラゴンが現れたわ」
ジル「分かった…。 アンジュ、ミナ。 出撃だ」
ゾーラさん達を殺したドラゴンが再び現れたと報告を受けて、またあの機体に乗るのかと思うと、アンジュさんと私は怖くて足が震えてしまっていた。
しかし、このあと、私達二人はあの機体に乗るなどとは、このときは思いもしなかった…。