決意
「はあぁー」
辺りはすっかり暗くなり、乗客もまばらになった電車の中で1人の男が力なくため息をついた。
(なんだよあのポンコツ部長、俺ばっかりノルマ増やしやがって。。ちょっとは自分でしやがれ)
ーーガタンゴトン、ガタンゴトンーー
(…………退屈だ。。。)
中小企業に勤めるこの男は今年でちょうど40という区切りの年を迎える。
そこそこの役職まで昇格していった彼だが、毎日繰り返す仕事や直属の上司からの嫌がらせ等に対して本気で飽き飽きしていた。家に帰っても誰もおらず、この年になってからも気軽に会いに行くような友達もいない。恋人なんかいたことがないから女性経験はそっち系の店でだけってくらい。親からの「孫の顔がみたいねぇ」という言葉も昔はイライラしながら聞いていた今では綺麗にスルーすることができるようにまでなった。朝起きて、会社にいって仕事をして、家に帰って寝る。そういった一日の繰り返しの日々は彼の心から新鮮さを奪い取っていった。
(なんか人生変わるような事が転がってこねーかなー、社長のお気に入りになったり、若くて可愛い子からめっちゃもてるようになったりとか)
我ながら悲しい願いだと男は思った。そこそこの役職とはいえ所詮は高卒でできる仕事も限られてて社長とは言葉すらかわしたこともない。顔もお世辞にもよいとはいえずむしろ下の中~上といったところだろう。そんな自分に人生の急展開なんて訪れるはずが無い。
「はあぁー」
またしても自然にため息がこぼれる。ドア付近にある手すりに掴まって外の景色をみていた顔をなんとなく逸らして車内を見渡す。
「・・・・・ん?」
ふとその時何かが男の視界に入った。高校生とみられる女子二人組が電車のドアに寄りかかって会話をしている。爪にマニキュアを塗ったり派手なアクセサリーをしているような今時の若者ではなく、手持ちのバッグにかわいい動物のようなストラップをつけているぐらいの平成の初期頃を連想させるような女の子たちだった。
ただ・・・・・・
(めちゃめちゃ可愛いじゃねぇか)
男は率直にそう思った。二人とも近くにある学園の制服を着ているもののまだ顔に幼さが残っており中学生といわれればそのまま信じてしまいそうな顔立ちをしていた。二人組のうちひとりは髪をツインテールのようにまとめて妹キャラのようなイメージでもう1人の方はショートカットで美少年のような感じの子だった。
(あいつらどこかでみたことあるような…………あっ!)
まるで数式を解いたかのように男は頭の中でスッキリとした感覚があった。
(そうか、通りで可愛いはずだあいつらはSPiKAのメンバーだ!!)
SPiKAとはここ杜宮市ではもはや知るものはいないとすら思われる人気アイドルグループだ。歌唱力のリオン、正統派アイドルのハルナ、プライドの高いレイカ、努力家のワカバ、ボーイッシュなアキラの5人で構成されている。最近では杜宮市外にもその活動を広めてきていてちょくちょくテレビにでたり雑誌の表紙を飾ったりしている。男も立ち寄ったコンビニで雑誌を読むときにたびたび紹介されていたのでおおまかな情報は入っていた。
電車の中にいたのはそのSPiKAの中のワカバとアキラだ。SPiKA二期生として同時にグループ入りした二人は私生活でも仲がいいようで今も楽しそうに笑顔見せ合いながら、時に軽くこじゃれあいながら会話をしていた。
「新曲のダンスのフリ覚えきれないよー」
「頭で覚えようとするから難しく感じるんだよ。音楽に合わせて体を動かしてその感覚を反復練習によって覚えさせようとするかんじ。私はいつもそういう風にしか覚えてないよ」
「アキラちゃん運動神経とかすごいもんね、ダンステクニックならもう先輩たちと同じくらいになっちゃってるもん」
「ワカバだってちゃんと努力してるんだからみんなに負けないダンスができてるよ」
「でも私みんなとちがって長所といえるとこがないからなー」
「これからでるんじゃない?」
「アハハ。そうだといいんだけど………」
「そんなネガティブだとこれからやってけないよー。ウリッ!」
「ワッ!!アキラちゃんひどい。いきなりほっぺつつかないでよー」
「アハハ、反応がおもしろくてね」
(雑誌とかでも可愛いと思ってはいたが生でみるとここまで違うもんなのか。このルックスがありゃあそりゃあアイドルとして世の中にでていけるだろうな)
男は軽く嫉妬とも似たような感情で、けれども確かに二人のことを賛美した。気がつけば目が離せなくなっていたがふと気になった。他の乗客は気づいてないのかと周りを見渡してみると何人かの乗客はとっくに気づいているようだがまるで綺麗な虹でも見たかのようにラッキーだとか、今日はいい夢見れそうだとかそのようなことを言いたげな顔をしていた。
(なんだよ?アイドルを見れたんだろ?もっと騒いだり写真を撮るような素振りくらいみせてもいいのになんでみんなそうしないんだ?)
そういえば…‥‥と男はこういった噂を耳にしたことがある
《SPiKAというのは杜宮市においてはもはや高嶺の花ともいえる存在であり、変に騒ぎを起こしたり彼女たちの障害となる行動は一切禁止されている》
といったものだ。別にこれを破ったからといって何かしらの特殊部隊のようなものが報復しにくるというわけではないはずだが暗黙の了解のようなものということだろう。10年前の東京震災から驚異的な復興スピードをみせてきた杜宮市の住民たちの団結力、みんなで支え合っていこうという意志はなんと強いものか。ひょっとするとSPiKAという存在は杜宮においては復興のある種のシンボル的なものになっているのかもしれない。5年前に他県の支部から異動してきた彼はSPiKAのことを確かにすごいと感じてはいたがそこまで崇高な存在に押し上げることはできはしない。むしろアイドルをみて何もしようとしない他の人達を気味悪く思い始めていた。
そうこう考えている内に2人が電車から降りる準備をはじめた。まもなく停車予定の駅は利用者数がそこまで多くないらしく。降りる乗客もそこまでいなさそうだった。
(・・・・・・・・・・・)
特に考えがあったわけではない。だが男は電車を降りる準備をしていた。本来ならばまだ後3駅進んでいったところが本当の下車駅となるのだが、SPiKAの2人が降りた駅に男もまた降りていった。
『ドアが閉まります。ご注意ください』
無機質な機械音が男の耳に響く。そのアナウンスをはじめに男は尾行をはじめた。
自動改札機を抜け駅前の広場へと歩いていく彼女たちをつかず離れずの距離で尾けていく。一番の大通りでワカバは左に、アキラは右に別れようとしていた。
「じゃあまた明日」
「バイバーイ、アキラちゃん」
そういった声が微かに聞こえてきたところで、男はこの先のことについて迷う。ここからは街とは少し離れていって道も暗くなる。そんな中で若い女の子を中年が尾けているのを誰かに気付かれたら冗談ではすまされなくなる。
(会社に知れたら一発でクビになるだろうし………ん?)
自分の考えにちょっとした疑問を感じた。
(クビになるだろうし?俺は繰り返す仕事の日々に嫌気がさしていたんじゃなかったのか?なんで今更そんなことを恐れているんだ。このまま働いていたってこの先には明るい未来が約束されているわけではない。
そうだ。別に自分の保身なんてどうだっていい、自分の人生なんだ、ちょっとくらい自分の好きにしたっていいじゃないか!)
男の無気力だった目に何かしらの光が灯った。
「さて・・・・・」
どちらにいこうかと悩む
(左は健気なロリ顔の女の子、右はボーイッシュな強気の女の子か。。。)
じっくり考えたようにも一瞬だったようにも思う。一度深呼吸をして男は右に曲がった。
ビルの明かりやバカかい看板の光が照らす交差点を過ぎて街灯と中規模の建物が並ぶ道をアキラが歩いていく。その後ろをなるべく足音と気配を消し、ただの仕事帰りのサラリーマンのようなフリをしている。アキラは耳にイヤホンをさしており周りのことが人よりもみえていないようだ。幸い今日は木曜日という人がそんなに飲みに繰り出す日でもないのでほとんど通行人もいなかった。
(・・・・なにやってんだろうな俺は)
平日の夜に若い女の子のあとを歩いている自分に少なからず自己嫌悪していた。
そうこう考えている内にアキラが一つの建物を見上げる
(・・・あのアパートか?)
そこにあったアパートをずっと見つめる彼女から、ここが彼女の家ではないかと推測する。入り口まで差しかかったところで急にアキラが後ろを振り返る
(マズイ!!)
男はとっさにそばにあった電柱の陰に隠れる。辺りは薄暗くそれなりに距離も離れていたためどうやらバレずにすんだようだ。
(あっぶねー。)
心臓の音が外にまでもれているんじゃないかと思わせるくらい強く鼓動していた。
アイドルなのだから自宅を知られるのはマズイ。そのため誰もみていないかどうかを毎回確認しているのだろう。しかしその作業もずいぶんとおざなりにすまされいるようだ。
アキラは前へと向き直すと自分のアパートへと入っていった。アイドルの家ということでもっと豪勢なところに住んでいるのかと思いきや、どこにでもありそうなごく普通のアパートだった。さすがにエレベーターなどで一緒になるのはマズイので下から彼女が入っていく部屋をみていた。
「SPiKAのメンバーの部屋は四階の三つ目の部屋か」
今をときめくスーパーアイドルのアパートを知り、部屋を知った。それだげで男はまるで自分が七瀬晶を知り尽くしているような錯覚におそわれそうになる。しかしまだこんなものでは終わらない。最初は大した考えもなくあとをつけていったが、今ではあの娘を自分の好き放題にして従わせたいという欲求が現れてきている。
(あんな可愛い女の子に俺のチ○ポをいれて中でだしてやったならさぞかし気持ちいいだろうな)
自然と口元がにやける。だが理性がその思考を遮る
(あの娘たちは夢に向かって頑張っているんだ。そんな彼女たちを俺が自分勝手に犯してもいいってのか。俺と違ってまともに生きているのに…………。)
またそこでも疑問に思うことがあった。
(俺と違ってまともに生きている?俺はまともに生きてこなかったか?学生時代から道から外れたことはせず、社会人になってからも真面目に仕事に取り組んできた。それなのにどうして今自分はこんな所でこんなことに悩まされている?)
沸々と男は怒りが沸いてきた。
(俺にだって他の奴らと同じように好きなことをして生きたっていいはずだ)
もはや怒りで感情と欲望のコントロールができなくなっていた。
(やってやる。これまで割とまともに生きてきたつもりだ。この年になってこんな体たらくの俺は生きていないのとおんなじだ。だから……)
男は狂気で顔が埋め尽くされていた。心臓の鼓動が収まろうとしない。自分がこれから何をはじめていこうとしているのかの自覚もきちんとあった。しかしもう止まることができない。これまでため込んできた気持ちを抑えることができない。
(待ってろ!七瀬晶!お前を調教して、俺なしじゃ生きられないようにしてやるよ)
決意を固めて、その場を静かに去っていった。
ということで第一話でした。処女作となりますので誤字等が多いと思いますが今後もよろしくお願いします。