※この作品はR-18です。

プロトガハマさん【習作】(R18)   作:凍傷(ぜろくろ)

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だからこそ、人は人として手を伸ばす

 他人がする当然を、俺は知らない。

 知る機会もなかったし、そのための余裕もなかった。

 磨り減る自分と腐っていく世界に堪えることで精一杯で、どれを常識として構えればいいのかも解らない。

 正しいことに憧れた。憧れを貫いていたら嘘つきと呼ばれた。

 まちがっていることを選んでみれば、さすが嘘つきと見下された。

 人の言う常識に従ってみれば、嘘つきが正直者の真似をしていると笑われる。

 この世界に正解なんてないのだろう。だったらきっと……目指した本当の先も、泣いてしまう原因であった偽りでしかないのだと。

 

  そんな腐った世界に色をつけてくれた人が居る。

 

 そんな相手と抱き締め合い、そこに居るということを確かめ合ってゆく。

 キスはしなかった。

 ただ、同じ場所に居てくれる喜びを、互いを強く抱きしめることで感じてゆく。

 こうする前に、俺は結衣に言った。他人の知識や経験で得たことよりも、俺達は俺達として繋がろう、と。

 結衣は嬉しそうに頷いてくれた。

 当然、そこに不安がなかったわけじゃないだろう。

 でも、受け入れる努力をしてくれるのだ。それが、たまらなく嬉しかった。

 

「…………」

「……~……」

 

 眼鏡を外した世界は、なんとも灰色だ。

 そんな中、ただなにも言わず、存分に、寝転がりながら抱き締め合った。

 時々ごろごろと右へ左へ。

 その度にかかる相手の重さが、なんだかくすぐったい。

 風呂上りだからか、いつもより高く感じる体温と、ふわりと届く香りに頭がくらくらする。

 ああ解らない。女の子ってなんでこんな、いい匂いするんだろうか。

 シャンプーの違い? なにそれすげぇ。

 でもなんか違うんだ。こう、なんていうのか、匂いからしてやわらかいっていうの? 解らん。

 

  ……どれほどそうしていただろう。

 

 存分に抱き締め合って、いつしか微笑を浮かべていた俺達は、やがて頬擦りから始め、額を合わせ、見つめあい……キスをする。

 いつものように静かに、ゆっくりと、密着部分を増やしながら。

 する度にじぃんと胸に届くのは幸福感。それが爆発するとどうなるのかを、俺達は知っている。

 だからこそ、それを強く刺激しないように、少しずつ刺激するように、外側から麻痺させてゆく。

 ただ……“そういった覚悟”があったからか、それらはいつもと少しだけ違っていた。

 なにかしらの期待がある。

 ただ互いの幸福を刺激して、爆発させるだけのそれではなくて。

 幸福を合わせ、確認し、刺激して、溶け合わせ、ひとつになるかのように───高め合ってゆく。

 

「ひっきー……ヒッキー……!」

 

 すんすんと、結衣の鼻が鳴る。

 それはまるで泣きじゃくる子供のような動き。

 どんな情報でもいい、互いのなにかを漏らすことなく受け止めたいと、離れないように求めてゆく。

 

「ゅぃ……結衣……!」

 

 それは俺も同じで、普段から冷静に振る舞いながらも見てきた少女のなにもかもを、見逃さずに受け止めようと必死になって彼女を求めた。

 途端、相手を滅茶苦茶にしたい衝動に駆られるも、それを慈しみに変えて、やさしくやさしく求めてゆく。

 

「ん……っ……ちゅ……はぷっ……はぁっ、んくっ……こくっ……はぁ、ひっき、ひっきぃ……っ……」

 

 唾液の交換をして、されて、飲み込むごとに、ぴりぴりとしたナニカが、頭の中にあるストッパーを蝕んでゆく。

 何を我慢すればいいのか、何をするべきだったかが少しずつ溶かされて、けれど相手をいとおしく思う気持ちだけは溶けず、だからこそ求め、溺れてゆく。

 結衣はまるで、自分についたやわらかい石鹸の香りを嫌うかのように、俺の体に自分の体を擦り寄せてくる。俺の体からも石鹸の香りがすると知れば、もどかしそうに口を求め、息を荒くする。

 俺は……動くたびに、汗を掻く度に次第に広がってくる女性の香りとやわらかさに、頭がぼうっとしてきていた。

 近しく感じることはあっても、愛しく感じることはあっても、こんな、全てを自分のものにしたいだなんて思うことはなかった。

 冷静ではいられない。

 嗅いだことのない女性の香りと、ふるりと震えて唇を離し、やわらかく幸せそうな笑みを浮かべる大人びた結衣の笑顔に、心が鷲掴みにされてゆく。

 知らない情報を整理しようとする頭はとっくに溶かされていて、ただただ二人、溶け合ってゆく。

 

「ひっきぃ…………きもちいい、ね……」

 

 ふと、うっとりとした表情で、結衣が訊いてくる。

 そんな彼女の頬に、覆い被さられた状態のままに手を添える。

 目を閉じ、俺の手に頬を擦り寄せる顔は幸せそうで、俺も迷うことなく、「ああ」と返せた。

 そうだ、気持ちいい。

 素肌と素肌が擦れ合うだけで、それが好きな人の肌だと意識するだけで、こんなにも心が擽られる。

 未知のなにかに触れようとする好奇心に引っ張られるように、けれどそれが破壊衝動になってしまわないように、手探りで進む初体験。

 

「……、」

「……ヒッキー?」

 

 ふと、湧き出した疑問に喉が詰まる。

 それを感じ取ったのか、結衣が朱に染まったままの顔で訊ねてくる。

 

  “一番気持ちよくなる方法は、相手に───”

 

 ……いや無理だろ、訊けないだろ。そして俺は上手く出来てるか? なんて今の疑問は当然訊けない。

 けど。失敗してしまい、傷つけるくらいなら、俺の恥なんて───……

 

「ヒッキー」

「《くいっ》うおっ……!? ……結衣?」

 

 頬に手を添えられ、真っ直ぐに見つめられる。逸らそうとしても、めっ、とばかりに直されてしまう。

 

「……うしろめたいこと、考えてたでしょ」

「っぐ……! な、なんで」

「解るよ。ヒッキーのことだもん。……なにか不安があるんだよね? 言って?」

「や、けどよ、さすがにこれは」

「…………えと。進め方が解らない?」

「ぶはっ!? なんでズバッと言えるかなお前は……!」

「だって、ヒッキーすごくおどおどしてるし。……そっか、そだよね。一人でもしたことないって言ってたもんね」

「……いや待て、言ってない。言ってはいないぞ俺は」

 

 それは譲れん。てかこんな時にも締まらん俺である。

 せ、性知識って大事なのんなー……初めて知ったわー……。

 

「……大丈夫だよ、ヒッキー。焦らないでさ、ゆっくりしよ? えと、そりゃ、あたしも恥ずかしいけどさ。こうして抱き合って、ちゅーして、じっくりするのも、なんかあたしたちらしくていいかなって」

「……けどな」

「疑わないで、受け止めてよ。ヒッキーになら、全部受け止めて欲しいって思えるんだ。……あのね? ヒッキー。大切にしたいって気持ち、いっぱいいっぱい届いてるよ? でも、我慢してるのも感じてる。……大丈夫、信じて、ヒッキー。あたし、ヒッキーが思うほど弱くないよ? ……えへへ、弱かったらね、きっと……突き放されてた時点で、ヒッキーから離れてたよ」

「───……《しくんっ……》」

 

 仰向けの俺へ、真っ直ぐな笑みが向けられる。

 震える手が、頬に添えられたままの手が、軽く……けど、確かに、彼女を自分へと引き寄せる。

 その過程、にっこりと笑みのまま目を閉じる彼女へキスをして……頬から離れた手を回し、腰を引き寄せた。

 

「んむっ……ん、ふっ……」

 

 キスをしたままの口から声が漏れる。

 構わず、強く、もっと強く、近くに居てほしいとばかりに抱き締め、引き寄せ、深く深くキスをする。

 

  足りない

 

 どくんと燃えた欲望が、押さえ込んでいた衝動が立ち上がろうとする。

 けれど、それは本当に解き放っていいものなのかと抑える。

 護ってきた人だ。愛しい人だ。大切な人だ。傷つけたくない人だ。

 他のなにからも興味を無くしても、この人だけはと内側で守りたい人だ。

 

  でも、それで全てを向けたことになるのか?

 

 自分のいいところだけを知ってもらって、欲望なんてものは見せない自分。

 後ろをついてきてくれるからこそ、何もしなくても慕ってくれるからと余裕を見せている自分。

 じゃあ、そんな我慢の所為で彼女が自分を諦めたら、果たして自分は───

 

「───」

 

 欲しい。

 どくんと黒いなにかが動く。

 

「───……」

 

 欲しい。

 この、誰よりも自分に近しい女が、たまらなく欲しい。

 

「……」

 

 欲しい。

 この黒いなにかに身を任せるまま、いっそこの色ごと塗り潰して───!

 

「《ぐいっ───》え……?《どさっ!》ひゃっ! え、あ───ひ、ひっき《じゅるるるる!!》んむぅうっ!!?」

 

 仰向けの状態から目の前の女性を組み敷き、その口を貪る。

 驚きに目を見開く姿を気にもせず、反射的に顔を出した彼女の抵抗を手で押さえ込み、理性を焼く欲望のままに、そのやわらかさに牙を立てようとして───…………ぷつり、と。その欲望が、涙となってこぼれた。

 

「…………、……ヒッキー……?」

 

 両手首を左手で押さえ込まれ、頭上でクロスさせている女性。

 その顔に、ぽたぽたと落ちる涙は、たぶん……自分の弱さの結晶。

 女性に乱暴をしたいわけじゃない。相手が男でも、乱暴を働きたいわけじゃなかった。

 欲しかったのはほんの小さなやさしさだった筈なのに。

 辛いと口にした時、誰かが手を差し伸べてくれれば、きっとそれだけで救われたいつかを思い出した。

 

「………」

 

 気づけばその涙を舐めていた。

 彼女の……結衣の頬に落ちたそれを、牙を突き立てていた犬が、警戒を解いたように。

 押さえつけていた手も離して、ごめんなさいと謝るように。

 ……そうだ。暴力なんて振るいたいと思ったことはなかった。言いたいことは山ほどあっても、傷つけたいわけじゃなかった。

 沸き起こる破壊衝動なんて長く続くわけもない。

 俺はただ……やさしさが欲しかったのだから。やさしさを、与えたかったのだから。

 

「……ほら、やっぱり。ヒッキーはやさしすぎるんだよ。いっつも我慢して、自分ばっかり傷ついて」

 

 結衣の手が、背中に回ってくる。

 ぽん、ぽん、とやさしく撫でてくる感触が心地いい。

 それ以上言ってほしくなくて、喋り途中のその口を塞ぐ。

 

「んむっ……あ、は、ん……ちゅっ……」

 

 いとおしい。

 ちっぽけな破壊衝動のあとには、もうそれしかなかった。

 たった一人に自分の感情の全てを捧げようとした自分の中に、他にどんな感情が隠れているかも解らない。

 それでも、今はただただ、目の前の女性がいとおしくてたまらない。

 

  ……高まりたい

 

 心がまだ寂しいと叫んでいる。

 もっと深く、もっと近くに。

 そう思ってしまえば、焼ききれた理性なんかじゃ衝動は抑えられなくて。

 

「……我慢しちゃ……やだよ……。ヒッキーのぜんぶ……ちょうだい? もう、絶対に……ひとりぼっちになんか、させないから……」

「───……」

 

 独りぼっちをもらうと言った少女が居た。

 俺はそいつのことが好きで好きで大切で。

 でも、そんな大切な人に幸せになってほしくて、傷つけなきゃいけなくて、それでも……それでも、欲しいと言ってくれるのなら。こんな臆病な自分を受け止めてくれるというのなら。

 それが依存だろうとまちがっていようと……ああ、そうか。それは正しく、愛なんだ。

 ママさんの言っていた言葉の意味が解った。

 

「~~……」

 

 言葉にならないなにかが、口から出る。

 なんと言ったのか、自分には解らなかった。

 だから、なんて考えることも出来ないままに、ありがとうを心に込めたまま、深く、深くキスをした。

 

……。

 

 じゃれ合うような抱擁とキスが続き、時間がどれほど経ったのかも解らなくなり、いつしかそんなことさえ気にしなくなった。

 たっぷりと、長い時間をかけて外側から刺激され、内側に向かっていった幸福感は、ぴりぴりと全身を焼いている。

 そっとやさしく肌に触れると、結衣はぴくんと体を震わせ、表情を緩ませた。

 そしてまたキスをする。

 触っていないところは女性を象徴するところばかり。

 それが解ってて、けれど踏み出せないままでいる自分。

 積み重なった幸福が爆発しないのも、その一歩が足りないのだと自分でも解っていた。

 溶け合い、重なり合えば到達出来た数日前とは違う。

 求める幸福が以前よりも奥にあって、そこに手を伸ばすことに躊躇があった。

 

  壊してしまわないだろうか。

 

 見てしまった、痛いという文字や血が出るといった文字が躊躇を増幅させる。

 傷つけられてきた自分だからこそ、痛みを知っている自分だからこそ、大切な人だからこそ、それが出来ないでいた。

 人としての本能は進めと叫んでいる。

 それでも、どこかに酷く冷静な自分が居るのか、自分の股間は反応も見せないままに静かだった。

 

「───」

 

 手を伸ばす。

 そうしていいのかを自問する。

 胸に伸ばされた手に気づいて、結衣がぴくりと緊張するのが解った。

 けど、それも一瞬。

 俺の目を見て、蓄積された幸福に涙を浮かべたまま、こくりと頷いてくれた。

 

「………」

 

 導かれてばかりの自分が男として恥ずかしい……なんて気持ちは浮かばない。

 まちがっていても受け止めるからと笑ってくれるその笑顔が、たまらなく嬉しい。

 自分は許されている。

 傷つけたりしないから、一緒に、と。そう言ってくれているようで、心に安心が満ちてゆく。

 

  やがて、人差し指が触れる。

 

 可愛い熊のプリントのパジャマ越しに、女性の柔らかさが伝わってくる。

 

「ふあっ……」

 

 ぴくりと結衣の体が跳ねた。

 驚いて指を離しそうになり、けれど……結衣がそれを止める。

 俺の手に自分の手を重ねて、荒い息のまま、再び頷いてくれる。

 

「…………」

 

 さっきからごくりごくりと喉が鳴る。

 呼吸は荒いまま。

 人差し指が沈み、薬指が沈み……あまりの柔らかさに驚いた時、中指が硬いなにかに触れた。

 

「んんっ……!」

「! え、あっ……!」

 

 聞いたことのない結衣の声に、荒かった息が詰まり、いつの間にか胸に集中していた意識が戻る。

 

「だ、だいじょぶ……ん、大丈夫だから……続けていいよ……ひっきぃ……」

「い……や……、けど」

「ちゃんと、恋人になろ……? 幼馴染のままは……大切なだけなのは、やだよ……」

「……、……」

 

 また、しくんと心に走るなにか。

 それは不安だろうか、恐れだろうか……いや、多分全部だろう。

 結衣にはいろんな感情を向けてきた。負になるようなもの意外を、幸せにしようと頑張るために。

 けど、それだけじゃ……本当に依存にしかならないから。甘いだけじゃ進めない。痛みを知ることで一人で頑張る自分を作れたように、今度は……そうだ、一緒に……。

 

「一緒に……」

「……うん、一緒に、だよ……ひっきぃ」

 

 ……手を伸ばす。

 躊躇はないつもりが、無様に震えている手をそのままに、結衣の胸へと導いた。

 

「ん……っ……」

「……っ……」

 

 喉が鳴るのを気にもかけず、指を埋め、慈しむように優しく、指全体で包む。

 ……途端、心の奥を目指していた幸福に、別の何かが紛れ込む。

 喉を通っていった、あの苦く辛いようななにかが、熱を爆発させるかのように。

 

「……う、わ……」

 

 それは好奇心だろうか。それとも欲望だったのだろうか。

 知らないなにかに動かされるまま、指を動かし、そのやわらかさに驚く。

 指が沈む。なんだこれ、手に納まりきらない。やわらかすぎるくせに、弾力があって……しっかりした形なのに軽く握るようにすれば、指の間からこぼれそうで───

 

「───、あ、なに……!? 痛っ……」

 

 ずくん、と。ある場所に痛みが走る。なにが、と考えるまでもなく、いつの間にか硬く張り詰めていたそれに気づいた。

 え……え? いや、なにこれ。ぼうっとしていた頭が急激に冷静になるも、ソレは冷静になることもなく、ぎちぎちと音でも鳴らすかのように、寝巻きを押し上げていた。

 ……四つんばいみたいな時、押し上げるってのはちと違うだろうか。そんな冷静な言葉にも無反応だ。

 

「……? ひっき……ひっ!?」

 

 やがて結衣が気づいた。さっきまで静か過ぎた股間から隆起するソレに。

 

「え、え……? あの、ひっきぃ……?」

「…………~……もう恥もなにもないよな……ああくそ、なのに恥ずかしいってなんなのこれ」

「……興奮、してくれてる……の、かな……」

「じゃなきゃ、こうまでならないだろ……」

 

 思えば抱き合いながらキスしても、どれだけ愛を囁いても反応を示さなかったソレ……えぇと、なに? に、肉棒?

 だというのに、今は痛いくらいに、つーか痛い、ほんと痛いくらいに勃起しているそれを見て、真っ赤なお顔の結衣は両頬に手の平を当て、指の隙間から覗くようにしてあわあわ言っていた。

 

「な、なにこれ……え? これが……ひっきぃの……? わ、わぁ、うわぁあああ……ひゃわぁああああ……!!」

「その、悪い。たぶん結衣の言うとおりだ。今まで、大切すぎて、守るべきものではあっても……きちんと女性として意識してなかったのかもしれない」

「……今は?」

「今この状態でそれ訊くかよ、おい……」

 

 言ってみるも、指の間から俺を見上げる目は潤み、“言って? 言って?”とねだっているようだった。こんにゃろ可愛いじゃねぇか、襲うぞ。……襲ってました。

 

「う、だ、だから、その……アレだよ。まあ……だから、さっき言った通りっつーことで……《きゅっ》……ぐぉ」

「…………《うるうる……》」

 

 結衣の顔の横に立てたままの手を、きゅっと掴まれました。

 言って言って状態はちっとも解けない。

 女の涙ってほんと武器ね、性質悪いったらない。

 

「……お前が欲しい。結衣がほしくてたまらない。正直、めっちゃくちゃにしたい。経験したことのない熱いなにかが、腹ん中で暴れ回ってるみたいな気分だ。え、えー……あー、つまりだな、その……すまん」

「え? あ、ひゃんっ!?」

 

 一言ぺこりと謝り、すぐに首筋に吸い付いた。

 手は胸に触れ、最初はやさしかったそれも、今は求めるがままに。

 寝巻きの股間部分を押し上げ、苦しいままの隆起を結衣の太腿に押し付け、体にぞくぞくと走る何かを高めてゆく。

 

「やっ、やぁあっ……ひっき、んくっ……ひっきぃ……!」

 

 仰向けだろうが可愛い寝巻きを持ち上げる双丘を両手で掬い上げるように揉みしだきながら、羞恥以外の何かで赤く染まる顔にキスを降らし、滲む涙を舐め上げる。

 いとおしい。けど滅茶苦茶にしたい。なんなのだろう、この衝動は。

 結衣が聞いたことのない高い声を出すたび、背筋にぞくぞくと知らないなにかが走ってゆく。

 それが気持ちよくて、もっと鳴いてほしいと手を這わす。

 人間観察は得意だとばかりに集中し、どこをどうすれば鳴いてくれるのかを探った。

 指を走らせ、首を舐め、やわらかく揉み、硬くなった突起をつまみ───

 

「《びくぅっ!》ひゃうぅんっ!? あっ、ひっき……だめっ……! そこ、弱くてっ……!」

「───!」

 

 ばか。なんで言っちまうんだ。探してるだけならよかったのに、言われたら抑えられない。

 

「やっ! ひっき、ひっきぃ! ん、ぃぁぅっ───!」

 

 頭がぐわんぐわんする。

 

「やっ、やっ、やぁっ……! あ、あぅ、んんぅっ……!!」

 

 欲しい。もっと、ぞくぞくとしたなにかが。この先にそれがある。ああ、布が邪魔だ。

 

「ひっ、ひっき、ひっきぃいい……! や、やだ、こんなのっ……しらな……っ、ひらないっ……! やっ、やっ……!」

 

 取っていいだろうか。いいよな、受け止めてくれる。結衣なら、結衣なら、結衣なら───!

 

「───」

 

 ……で。俺なら冷静になれる。OK欲望に飲まれるの、よくない。

 俺達は俺達らしく高めていく。そこに破壊衝動はいらねぇだろ、アホか。

 正直、“八幡の八幡の勇気の鈴”がリンリ~ンリ~ンすぎて痛いんだが、痛い思いをさせるとしても俺自身が結衣の恐怖になるのはダウトだ。そしてよし、アホなこと考えたお蔭で大分落ち着いた。シラケるにはくだらないことを考えるに限る。

 痛くあっても幸福なままであれ。痛みを知っているなら、少しでもそれ以外で幸福にしろ。

 

「……結衣」

「はっ、はぁっ……ふあっ…………っ…………ひっきぃ……?」

 

 遠慮なく愛撫された結衣は息も絶え絶えに俺を見つめてくる。

 涙もぽろぽろとこぼれ、全身を覆う痺れたなにかに、ぴくんぴくんと体を震わせていた。

 かたかたと顎が震え、口の端から涎がこぼれている。

 それを舐め取り、上から頭を抱えるようにして頭を撫で、キスをする。

 

「ひっく……ひっき……ひっきぃ……えぐっ……」

 

 欲望ってやつの恐ろしさを知る。いくら相手が受け止めてくれると言ったって、相手が相手のままだから安心出来るというのに。

 やさしい人が急に人が変わったように裏切る姿を、その醜さを、俺は知っている。

 だから冷静になれ。欲望に負けるな。

 

「んくっ……んっ……んちゅっ……は、ふっ……ひっきぃ……ヒッキー……ヒッキー……! ひっき……っ……ちゅっ……ひっきぃい……!」

 

 力が入らなくなっていたらしい腕が持ち上がり、俺の頭を抱き返してくる。不安にさせてしまっただろうか。悪いことをした。だってのに肉棒はギッチギチでございます。なにこれ。

 思考の渦にぐるぐると沈んでいる中でも、結衣はちるちると俺の舌を吸い、こぼれる唾液をこくこくと喉を鳴らして飲んでいる。

 湧き上がるのは愛情と……やはり破壊衝動。ここまでくると愛と破壊って表裏一体ってやつなんだろうかと疑いたくなる。

 

「……結衣」

 

 だから、妥協案。

 やさしさだけじゃ進めないなら清濁合わせの一歩一歩。

 勃起の痛さと欲望の波に顔をしかめながら、結衣に語りかける。

 結衣は……それで悟ったのか、潤んだ目をあちらこちらに逃がしながら、最後に俺を見て……涙を浮かべたままの笑顔で、頷いた。

 

「………」

 

 ごくり。喉がうるさい。

 けど、乾いてしまうそれは仕方ない

 手を伸ばし、外そうとするそれは、結衣の二つの主張を閉じ込めているボタンだ。

 それを、ひとつひとつ外していく。

 

「……、……ぉぃぉぃ……」

 

 小声で漏れたソレは呆れを多く含んだもの。

 ひとつ外すごとに、閉じ込められていた熱が逃がされ、それとともに……石鹸の香りではなく、結衣の香りが溢れてゆく。

 それを嗅いでしまっただけで、肉棒にはさらに血が集まっていった。痛い。まじ痛い。初体験は痛いってこれのことなの? え? まじ? い、痛くて苦しいか……な、なるほど……! さっきから腰周りがぞわぞわして気持ち悪いけど、それもその影響なのかな……!?

 

「ぅぇっ……!?」

 

 頂上となっているボタンに手をかけた時、ボタンがぶちーんと弾けとんだ。思わず“OH!”とか言いそうになる。いや言わんけど。

 その反動、というのだろうか。一番の窮屈さから解放されたそれが、ふるんと震えた。

 あ、ほら、ボタン取る時ってさ、多少……こう、引っ張るじゃない? そしたらほら……ネ?

 

「……………」

「……や、ちょっ……ヒッキー、胸見すぎ……!」

「ふえぁっ!? わ、わるいっ!」

「あ、ううんっ!? そのっ……ヒッキーになら、いいんだけど……うぅう……」

 

 反射的だったのだろう。咄嗟に両手で隠した大きな双丘が、ゆっくりと解放される。

 同時に、寄せられた後に解放されたからか、丁度いい具合にボタンが外れたらしく、目の前にふるんと震える大きな肌色ふたつと、ピンと尖った綺麗な突起。

 

「───……」

「そ、その……あんまりじっくりやられるとさ、はっ、恥ずかしい、から……あの。い、急いでやってってゆーんじゃなくて、その……」

 

 ……結衣は恥ずかしさのあまりそっぽ向いてしまっていて、気づいていない。

 一方の俺は……その女性の象徴に惹かれるように、ゆっくりと体を折り、首を曲げ……それを、口に含んだ。

 

「ふえっ……あ、え? なに《ぞるり》んきゃぅうううぅぅぅっ!!?」

 

 左手で右の乳房を揉み、口で左の乳首にしゃぶりつき、その頂を舐め上げた。

 途端に跳ね上がる結衣の体と、悲鳴のような嬌声。

 

「ひぅっ! あぅっ! な、なっ、んで……!? ぱじゃまっ……ぃっ、ひぅっ……!」

 

 胸にしゃぶりついたまま見上げれば、訪れるであろう羞恥にそわそわしていた顔はそこにはなく、ただただ驚きに満ちた、けれどどうしてもとろけてゆく顔がそこにはあった。

 興奮が湧き上がってくる。

 背筋を執拗に撫でてくるぞくぞくが次を次をと訴えかけ、けれど急ぐことなく冷静と欲望を混ぜてゆく。

 急ぐことはしない。代わりに、欲望を満たすように、しかしやさしく。つまりはたっぷりねっとり、その、あれだよ。女性に男性を受け入れるための準備? をさせてゆく。

 

「ま、まってひっきー、まってっ、ひっ、ひうぅっ、いき、いきなり、なんて、ひぃくっ……! おいつ、けなっ……《かりっ》っ……え? ァ、~~~……いいぁあああああああっ!!! あ、あっ! あぁあぁあっ!!」

 

 体が跳ねた。え、と何が起こったのか解らない表情のあと、体は震え、跳ね、声が溢れて、体を思い切り仰け反らせた。

 硬く尖った乳首を甘く噛んだ途端だった。

 胸から離れ、腕を立てて見下ろす結衣は、なにが起こったのか解らないといった表情のままに、天井ではなく仰け反らせた視線の先、カレンダーのかかった壁を見つめていた。

 あれほど荒かった息も震えるばかりで、かちかちと歯と歯が軽く触れて音を出している。

 

「あっ、ぁぅっ、ひぃぅっ、あっ……」

 

 ぴくんぴくんと断続的に跳ねる身体。

 いつかのように幸福が爆発したのだろうと、慈しむように腕や足を撫でてゆく。

 

「んやぁぅう……!! やっ……やぅうんっ……!!」

 

 それだけでなにかがあるのか、結衣は涙をこぼしながら、手から逃げようとする。

 ……力が入らないのか、もぞもぞするだけだったが。

 

「……結衣?」

「……、……? ふぁぅ……? ひ、っき……?」

「───……うあ……」

 

 呼びかけると、仰け反らせた顔が俺を正面に捉える。

 見下ろすそこには涙をこぼし、口からは涎をだらしなく垂らした姿がある。

 なのに、その姿がたまらなく美しく見える。

 受け止めたい、受け入れたい、たまらなくいとおしい。

 自分の張り詰めた肉棒なんて気にもしないで、ただただ幸福に溺れてほしい。

 そう強く思ってしまった。……思ってしまった。

 

「……結衣……!」

「ふぇ、ぇえっ……!? ま、まって、まっひぇえ……ひっきぃ……! あ、あたひ、いっ、いっひゃっはばっかれ───ひああぁああっ!!」

 

 再び外側から内側へと刺激を集めてゆく。

 指先に触れただけで、ぴくんと震える体を撫でるように。

 

「ん、んんんっ! んっくぅうっ! ひゃあぁあっ……!! ひっき、ひっきぃいいっ……やぁああ……!!」

 

 二の腕を撫で、腰周りに指を這わせ、結衣の反応を観察し、刺激と高ぶりを集める。

 なんかもうどこを触っても喜んでくれている気がしないでもないけど……え? そういうもんなの? でも悪い。今は待っては聞かない。代わりに幸福にさせてくれ。

 

「───! ───!! あ……ッ……、ィァッ───!! ぃいいぅううううっ!!!」

 

 結衣の体が仰け反る。同時に、体を撫でている間中、ずっと彼女がもじもじさせていた足の間に差し込んでいた自分の膝あたりに温かな感触。

 不思議に思って、パジャマ同士が密着しているそこに手を伸ばすと、荒く息を吐いていた結衣がハッとして、なにかをしようともがき出す。

 

「ひっ……!? や、やぁ、やぁあああ……!! やめ、やめっ……やぁあああっ……!!」

 

 手を伸ばそうとしたのだろうか。俺の手を止めようとしたのだろうか。

 解らないまま俺の手はそこへと至り、くちゅり……と。濡れた感触とともに指がそこへ埋まった途端。

 

「───!!!! ッ───あ、あぁあーーーーっ!! アァアアアアアあぁあああっ!!」

 

 結衣は、これまでとは比較にならないくらいの悲鳴を上げ、涙を散らしながら身体を跳ねらせた。

 緊張しすぎた身体にぎちぎちと力が篭り、がくがくと震え、シーツを掴もうとした手だけが間に合わずに彷徨い……それに手を添えると、必死になって掴んできた。

 

「ひっ、ひぃっ、ひぃぅっ……うぅうっ……かふっ……~~……! ぃあぁああ~~~……!!」

 

 びくりびくりと跳ねる身体と、ぎゅうっと閉ざされた目からこぼれる涙と……子供の泣き声のように、震える口からこぼれる声。

 俺の膝部分が触れている……結衣の足の付け根はぐっしょりと濡れて、ようやく開かれた瞼の先には、なにも映さないようなぼうっとした目があった。

 

「……これって」

 

 震える体と焦点の合わない視線を前に、足の付け根に触れた指を持ち上げた。

 そこには粘性のある透明の液体があり、くっついた指を離せば、つう……と橋が出来た。

 

「結衣……?」

「あ……う……? ……あ……、……や、やら……やぁああ……っ……ひっきぃ……、見ないれぇ……! 見ひゃやらぁあ……!!」

 

 完全に溶けてしまった自分を見てほしくなかったのだろうか、結衣は上手く動かせないらしい身体でもぞもぞと動き、顔を隠そうとしていた。

 けれどようやく持ち上がった手を、意地悪くも掴むと、その顔を見つめながらキスをする。

 

「ひゃぅんっ……!? んぷっ……ひっき……んぅっ……ぷあっ、やぁ、ひっきぃ……!」

 

 弱々しく抵抗しようとする姿が愛らしい。

 苛めたいわけじゃないのに、愛しいはずなのに、意地悪をしたくなるのは何故だろう。いやそれイジメだろ。落ち着け。でも違う。あの反応は幸福の爆発だよな? あの時のよりやたらと反応が大きい気もするけど、そうだよな?

 あの多幸感は素晴らしいものだ。それを結衣に与えられる喜び。最高だ。

 最高なんだけど、ワタクシの男に血が集まりすぎてほんとまじ痛い。だがこれも結衣の幸福のため。

 どうしたら痛みが消えるのか知らんけど、行為が終われば自然としぼむとか書いてあった気がするし、つまり───結衣を幸せにし続ければ───!

 

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