不名誉な二つ名
---リュー---
いきなりソレは起きた。逃げ場の無い一本道。前後からモンスターの集団が襲ってきた。
「ファルコン、リューだけでも助けて…」
団長の悲鳴のような声が響いた。私は彼と最後列にいた。彼は団長からの指示を受け、私を抱き抱えて、そのままモンスターの群れに切り込む。
「リュー、生きろ。幸せになれよ」
と、彼はいつもの優しい声で、私の耳元で囁き、頬に優しく口づけをした後、私を遠くへと投げた。私は咄嗟に受け身を取り、彼の元へと引き換えそうとしたけども、私とモンスターの間に『ファイヤーウォール(火の壁)』を発現して、彼は私に笑顔を向けた後、みんなの元へと向かって行った。
「みっ…みんなぁぁぁぁぁ~!」
私は大声で叫んだ。喉がつぶれるのでは無いかと思うくらいに…でもみんなからの返答は無く、返って来たのは、悲鳴、うめき声、咀嚼音…私は、一人地上に戻り、主神の元へと帰り、事の次第を話し、主神を街から逃がした。そして…アレを仕掛けたファミリアへの復讐を開始した。
---ベート---
逃げ場の無い一本道を走り抜けようとしていた。ここは以前、敵対ファミリアによるパス・パレードの罠によって、とあるファミリアが壊滅した場所で、パスパレード通りと呼ばれていた。俺達も用心はしているが、こんな逃げ場の無い場所って、用心のしようがないので、走り抜けることにしていた。
ロキ・ファミリアの先遣隊として、この道の安全を確保する任務を受けていた。メンバーは団長のフィンを始め、俺、アイズ、レフィーヤ、ティオナが選ばれた。
「もう少しで抜ける。みんな、がんばれ~!」
フィンが鼓舞して、励ましてくれた。戦闘力は高い俺達ではあるが、ここの長い廊下の様な通路を、全力で走り抜けるには、ちと体力が足りないか。
しかしソレは突然、起きた。通路の壁から湧き出てくるモンスター達。前からも後からも、壁から湧き出て来た。これは、避けられないだろう…
「ティオナ、後方の敵を叩いて、レフィーヤに伝令に行かせろ」
ティオナはアマゾネスでパワーファイター系で、レフィーヤはエルフで魔法での後方支援系である。この物量を生かしたモンスターを相手にするには、レフィーヤには荷が重く、団長は伝令役をして、安全地帯へ逃がす気なのであろう。
本隊は俺達の後方、少し開けた場所に待機していた。俺達が前方の開けた場所に出たら、安全確保の合図を送り、本隊を開けた場所まで誘導する手筈だったのだが…
「前方はベート、アイズ、頼むぞ。俺とティオナで後方を叩く」
団長のフィンから、指示が飛ぶ。しかし、敵の数が多い上、この階層よりはるか下にいるはずのモンスターまでいやがる。何をされたんだ?
俺は担当する前方のモンスターの後方に、術者らしき者が何かを唱えているのを見た。
「アイズ、あの術者を叩かないとダメだな」
相棒のアイズはヒューマンで有るが、風を身体に纏える魔導戦士である。その為、風の力を利用して、素早く動くことが出来るのだ。
「わかった。ベート、援護を頼む」
アイズの為に、道を作る。モンスターの密度の低そうな箇所に攻め込み、アイズが通れる位の隙を作っていった。アイズはモンスター達をすり抜けたと思った瞬間、彼女に隣接している壁からモンスターが出て、彼女は木の葉の様に吹き飛ばされた。
「アイズ!大丈夫か?!」
彼女の呼び掛けるが彼女からの返事は無い。ヤバい。喰われる…俺はアイズに気を取られ、モンスター達の攻撃を食らってしまった。ダメか…
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目覚めると、知らない場所にいた。地獄か?うん?身体中に包帯が巻かれていた。助かったのか?
「気が付いたか?お前の彼女も、助かったぞ。安心しろ」
隣のベッドには、俺と同様に包帯が巻かれたアイズが、寝ていた。
「ここは?」
俺達を助けてくれた男が、俺の方に振り向いた。どこかで会ったような…
「ここは、パス・パレード通りにある階層の安全な場所だ。ここなら、モンスターは来ない。安心しろ」
男は薬草をすり潰し、煮込んでいるようだ。薬草独特の鼻を突くような香りがする。
「なぁ、俺とどこかで会ったことないか?」
俺は、男に声をかけた。
「う~ん、どうだろうな。ここ数年、地上に出たことが無いから」
うん?地上に出たことが無い?どうしてだ?
「ここに住んでいるのか?」
「あぁ。ここは安全だ。あの一本道の壁の裏側だ。余程のバカで無い限り、ここには来ないし、モンスターも出て来ない」
「なんで、地上に出ないんだ?」
男は煮だした液体を器に入れて、俺に手渡した。
「鎮痛解熱剤だ。飲め」
ここまで手当をしてくれたのに、今更毒は飲ませないだろうって判断で、手渡された器の中身を一気に飲んだ。なんだ、苦げぇなぁ…
「地上は怖いところだからな。僕自体はたまに、地上で買い物をしに行くが、仲間がまだ動けないんだよ」
男が奥の部屋を指差すと、女性がベッドに横たわっていた。気配を感じないくらいに、弱々しい女性…彼女も喰われ掛かったのか?
「まったく、動けないってことはないんだけど、歩く速度はゆっくりなんだ。日常生活は出来るが、襲われたら戦えないし、僕としては彼女を、護り切る自信が無い」
「地上で助けを呼べば良いだろ?」
「信用出来る者がいない。誰を信じて良いのかもわからない」
目の前の男の表情は、何かを諦めているようだった。
「助けてくれたお礼に、俺達のファミリアで救出する。約束する」
「地上に出ても、住むところが無い。戦えない者、働けない者は、君達のファミリアには住まわせてもらえないだろ?」
それはそうだけど…
「だから、ここで良い。お前達が動けるようになったら、18階層に連れて行く。そこからなら、自力で帰れるだろ?」
「あぁ…そうだな…そうそう、名乗っていなかった。俺はロキ・ファミリアのベート・ローガ、彼女はアイズ・ヴァレンシュタインだ」
驚いた表情をした男。俺達のどちらかと知り合いなのか?
「それは奇遇だ。久しぶりだな、クソガキ♪こんなに立派になりやがって…。そうか、アッチはアイズか。まだ熟していないみたいだな」
目の前の男は笑顔になった。この顔…どこかで…この男は、俺とアイズを知っているのか?いや、俺のことをクソガキって…遠い昔、冒険者になる前、ケンカに明け暮れていたような時代、唯一俺をしかってくれた男がいた…まさか…
「まさか…ファルコンか…なぁ、ファルコンの兄貴なのか…」
「ベート、デカくなったなぁ」
あの時と変わらない優しい視線を感じる。俺の涙腺が緩くなっていく。俺にとっての恩人だ。今の俺があるのは彼のおかげと言って過言では無い。
「兄貴…会いたかった…どうして、突然いなくなったんだ?」
長年抱いていた疑問を兄貴にぶつけた。ある日を境に、兄貴は突然、街から姿を消したのだった。
「パス・パレードを喰らった。生き残ったのは、俺と彼女と、もう一人だけだ。後は、モンスター共に喰われた。酷い戦場だったよ」
兄貴は目を閉じ、目頭を押さえて俯いた。惨劇を思い出したのかもしれない。そうか…
「まさか…ファミリアが壊滅したっていう…」
「あぁ…地上に逃げた仲間が、復讐を果たして、お尋ね者になったらしいな。主神はオラリオから追放されたらしいし。なんで、罠に嵌められた方に、厳しい罰が来るんだ?この街の神々は腐っているのか?」
だから、地上にいないのか…街にいる神々を信じられないから…
「なぁ、兄貴。一緒に地上で暮らそう。遠征の時は無理だけど、それ以外の時は、俺が二人を護る。だから…」
俺はファルコンの兄貴に縋っていた。ごく自然の動作だった。こんな俺の姿は、誰にも見られたく無い…
兄貴には騎士道って言う物を習った。普通の騎士道とは違い、『護るべき相手を護る為の戦いをする』っていう物だ。この道から外れないケンカなら問題は無いって、笑顔で説き聞かせてくれた。だけど道から外れたケンカがバレると、躾と称する体罰を受けた。懐かし想い出だ。
「ファミリアに所属しているなら、寮生活だろ?ベートに迷惑を掛けたく無い」
隣のベッドに気配を感じた。
「ベート…ここは?」
隣のベッドに横たわっていた、アイズが目覚めた。
「アイズ、怪我を治すんで、全裸にしたからな。だいぶ成長したな♪」
って、兄貴がアイズに伝えた。兄貴の言葉に戸惑っているアイズ。
「え…えっ~っと…あ…あっ…あの~、どなたですか?」
「ファルコンだ。いい女までもう少しだな、アイズ♪」
アイズの頭を優しく撫でる兄貴。
「え…エフお兄ちゃん…生きていたの…」
アイズの顔は驚きの表情から、泣き顔へと変化していった。
「なんで…急にいなくなったの…私を置いて…ねぇ、お兄ちゃん…」
そんなアイズを、兄貴は優しく抱きしめた。
「なんで?まぁ、旅の途中だったから…旅立つことを言うと、お前は泣いて、離さなかっただろ?だから、黙って旅立った」
俺の知るアイズはそこにいなかった。俺の知るアイズは表情を顔に出さないクールビューティー系の女だったのだが、今目の前にいるアイズは、表情が豊かで、どこかほんわかムードの女の子であった。
「ねぇ、お兄ちゃんと一緒に住む。いいでしょ?」
兄貴は困った顔をした。たぶん、俺に話した事情を、もう一度するのがつらいのかも知れない。なので、俺からアイズに聞いた話を伝えた。
「わかったよ、お兄ちゃん♪ロキ・ファミリアを抜ける。だから、お兄ちゃん、傍に置いて…もう私を捨てないでよ~」
アイズの決断は早かった。いや、簡単にロキが手放さないと思うんだけど。あの女神のお気に入りだしな、お前は…
「ロキかぁ…僕がいたころ、駆け出しの主神だったかな。あの酒臭い女神だよな?」
酒臭いって部分で、俺とアイズは頷いた。
「初めての眷属が出来たって上機嫌のアイツと寝た時、僕は吐きそうになったもんな」
って…え?ロキと寝た?はぁ~?
「兄貴、女神と寝たんですか?」
「まぁ…なぁ…僕の二つ名は『女神喰い』だそうだ。自慢できる二つ名で無いけど」
兄貴は苦笑いしながら、アイズの視線から逃げるように、顔を俺に向けた。
「なんですか?その二つ名は…」
ロキと寝ただけでは、そんな二つ名は付かないと思う。なにをしたんだ?
「う~、ロキ、フレイヤ、イシュタルとは関係を持っていたかな…昔のことで、よく覚えていないけど」
兄貴…それって、すげぇ~事だと思うが…って言うか、ヒューマンな兄貴だと、女神とは交われないだろうに??添い寝だけかな?まぁ、それでもすげぇ~事だな。
「ファルコン、人間の女性にも興味持ってね」
って、奥の部屋から、弱々しい女性の声がした。
「あぁ、彼女には、まだ手を出していないんだよ」
って、俺に小声で呟いた。何してたんだ、この人は…俺の惚れているアイズの全裸を見ても発情しないみたいだし…兄貴の好みって何?