---ベート---
まさか、リヴェリアまで…兄貴、恐るべし。たぶん、知り合ったのは、兄貴がこの街に来る前だよな。アイズもそうだったし。
「ベート、ギルドまで護衛を頼む」
小屋から兄貴だけ出て来た。俺は兄貴の後ろを追うが、アイズもついてきた。
「アイズは、ベルを教育して欲しいんだけど…」
「私がお兄ちゃんを護るの!」
今や愛しい女性でなく、妹のような存在になったアイズが、兄貴に吠えた。
「もう、甘えっ子だな。お前の教育方針を間違えたかもな」
アイズの頭を優しく撫でる兄貴。嬉しそうなアイズ。なんか、微笑ましい親子に見えるな
。
ギルドへと向かう道で、不貞不貞しい顔のオッタルが待ち伏せしていた。俺とアイズが兄貴の前に出て、構えるが…
「兄貴、俺をしばらく帯同してください。そして、俺を鍛錬してください」
突然、オッタルが兄貴に頭を下げて懇願した。
「フレイヤは、なんと言っている?」
「兄貴の力になれと」
「わかった。作戦に加える。改宗はさせないので、傭兵の扱いにするが良いな」
「兄貴に従います」
兄貴とオッタルの会話に、周囲の者がどよめいていた。いや、響めくよな…この街で一番の猛者のオッタルが頭を下げて弟子入りって…
「何者だ、あいつ。あのオッタルが稽古をつけてくれって、頼んでいるぞ」
「なんで、ベートとアイズを従えているんだ?何者だ?あいつは」
などと周囲からヤジ馬の声が聞こえる。だけども兄貴は、周囲の雑音に関心がないみたいで、ギルドに向かう。ギルドで、リヴェリアの改宗の作業をして、無事に改宗が終了したようだ。オッタルを含めた4人でホームへと帰ると、ナァーザが待っていた。
「ミアハ様からの指示で、このファミリアが、遠征をする時の手伝いをするように言われました。回復役は多い方が良いでしょ?」
「頼む。もう誰も死なせたくないから」
---フィン---
仮のホームで緊急幹部会が開かれた。青天の霹靂的な事が起きたのだった。一番ルールを重んじていたと思う副団長のリヴァリアが、突然改宗した。なんでだ?
「なんでや?あいつはなんで裏切ったんや?おい、フィン!」
ロキの怒りが、僕の方に向いていた。そんな事を言われても分からない。
「一番、喰って掛かっていたのに…なんでだろうな?」
ふと、昔のことが頭を過ぎった。そうだ、想い人を探しに、この街に来たんだ。きっと、見付かったんだ。
「なぁ、ロキに訊きたい事がある。素直に白状しろよ!」
リヴェリアを強制的に入団させた主神を尋問をする。
「なんや、フィン…そんな怖い顔をして。どないしたんや?」
「あの男は元聖騎士か?」
「どうやったやろか?昔のことやからな…」
惚けているみたいだ。
「ロキ、本当の事を教えてくれないと、手が出せないんだけどな!」
語気を強くしてみる。主神の顔は青くなっていった。
「あぁ、都合が悪い事があるみたいね」
ティオネが追い詰める。僕の意図がわかったようだ。そうだ、この主神が元凶なのかもしれない。
「なんもあらへんよ。なんや?みんな怖い顔をするな」
この部屋を出て行こうとするが、ドアの前にはガレスが立ち塞がった。
「いや、なんもあらへんよ。ほんまやで~」
「僕の質問に答えてくれないかな?」
「う~、どうだったかな?初めて会ったんは天界やったから、昔のことすぎて覚えておらへんよ」
天界で会った?アイツは神ではない…聖騎士は、地上で抜擢された者が集まる天界の騎士団じゃなかったか?
「ロキ、わかったよ。リヴェリアが改宗した理由がな。あの男は、リヴェリアの想い人だったんだ。たぶん、彼女もアイツがその人物だと気づいていなかったのかもしれない。でも、気づいてアイツの元に行ったんだろ」
「え~なんやて~あの女狐め~」
って、ロキもアイツの関係者のようだ。となると、アイズ、ベートもそうなのかもしれない。洗脳ではなくて、自分の意志だったんだ。
「ロキ、今回の件は、お前が蒔いた種だ!責任を取れ!」
「なんでや~!」
------
翌日、僕とティオネで、アストレア・ファミリアのホームを訪ねた。立派な塀と門とは裏腹に、ホームはログハウス風の小屋と、テントが何張りかが張られていた。
「これがホームなのか?野営みたいだけど…」
「まだ、建築中なんだよ」
アイツが建築途中の建物を指差した。
「イシュタルの売春宿の館をモチーフに設計したんだ」
はぁ?こいつ、イシュタル様とも関係があるのか?
「で、何の用かな?」
「僕達の元仲間と話し合いをしたい」
「それは、この前、断ったよね?ギルドから通達が行っていないのかな?」
通達?あの『問題を蒸し返すな』かな?スルーしておくか。
「なんのことかな?君はギルドにも通じているのか?」
「そうだよ」
はぁい?あっさりと白状したぞ。
「そうか、ギルドの通達は無視か。さすがにロキ・ファミリアだな。どうしようか、エイナさん」
エイナと言う女性が僕達に近づいてきた。
「私はこのファミリア専属のギルド員で、エイナ・チュールと申します。そうですか。ギルド通達は無視ってことですか。それは由々しき事ですわ」
専属のギルド員?なんで?なんで、このファミリアは優遇されているんだ?
「ギルドで更なるペナルティーを、神会を通じて課すことにします。それで良いですか?ファルコン様」
「いいんじゃない」
コイツ、ギルドをコントロールできるのか?
「では、お帰りください。僕達は忙しいんです。ギルド通達を無視するような、極悪ファミリアの相手は出来無いです」
「なんだと~!」
ティオネが得物を手にして構えると、アイズ、ベート、オッタルが臨戦態勢に入った。
「おいおい、僕達のホーム内で暴れるんですか?困ったファミリアだ」
あれ?なんで、オッタルが?まさか、フレイヤ様も関係があるのか?
「痛い目に遭いたいのかな?リヴェリア、結界を張って、退路を塞げ」
「了解です!」
声はしたが、見渡すがリヴェリアの姿を見つけられなかった。
「さぁ、どうする?逃げられないぞ」
ティオネがアイツに襲い掛かるが、
「遅い!お兄ちゃんは、私が護る」
アイズが、ティオネの手元を叩き、得物を落とさせ、剣先をティオネに首筋に向けた。
「お兄ちゃんの敵は、私が許さない!」
「アイズ、なんで、こんなヤツの味方をするのよ。目を覚ましなさい」
ティオネがアイズに言葉を投げかけた。
「はぁい?今までずっと、本来の自分を隠していた。本当の私は、お兄ちゃんにしか見せないって決めたの」
アイズはロキ・ファミリア内では猫を被っていたのか?それはそれで衝撃的だ。ティオネにとって、アイズのカミングアウトはクリティカルな攻撃に近かった。
「そんな…私達を信頼していなかったの?」
「信頼はしていた。でも、何かと私の身体を狙う、あの神とエルフは許せなかった。私の身体はお兄ちゃんだけの物なのよ。それなのに…」
ロキとレフィーヤか?確かにあの二人のアイズ好きは群を抜いていた。
「ベートはどうなの?」
ティオネはアイズに惨敗して、矛先をベートにしたようだ。
「あっ?俺?俺は兄貴の紹介でロキ・ファミリアにいただけだ。兄貴が戻った今、ロキ・ファミリアにいる理由はない」
入団前からの知り合いなのか…っていうか、ロキのヤツ、ベートの素性を知っていたんじゃないか…主神に不満が積もっている俺。
「じゃ、リヴェリアはどうなの?」
「私は彼に耳を捧げた。身体も捧げた。なので私は彼の者なの。彼の傍に居たい。ただそれだけだ」
耳を捧げたって…契りを結んでいたのか、リヴェリア。
「これでわかってくれたかな?彼らは彼らの意志でここにいる。入団後1年経てば、改宗の自由が保障される。そうだよね、エイナさん」
「はい、そうです」
「その自由を、洗脳したとかいちゃもんを付けて、破棄させようとする。どうなの、エイナさん」
「ルール無視な行為です。でも、ファルコン様が一番ルール無視ですよね、ふふふ」
どういう意味だ?
「僕は、どこのファミリアにも、入団していない。だから居候として、自由にファミリアを移動できるんだよ」
おぃ…いいのか?それって…
「良いも悪いも、別に神の恩恵なんかいらない。僕が一番嫌なことは、神に縛られることなんだよ。神の恩恵頼りの冒険者にはわからないだろうけどな」
恩恵なし…そういう選択肢もあるのか…
「で、お前らの処分だけど、小人族はうちに改宗で、そこのアマゾネスはイシュタルに寄付でどうかな?」
「ふざけるなよ!ティオネは物じゃない!」
「そうだよ。同じことをお前に言う。ベートもアイズもリヴェリアも、ロキ・ファミリアの物じゃない。お前らが返せって言える物じゃないんだ。ここから、何もせずに帰るか、僕の裁定を受け入れるか、君の自由だ。ロキ・ファミリア団長、フィンよ!」
アイツの言っている意味はわかるが、引けないな。
「戦争遊戯で勝負しろ!」
僕の口から出た言葉は、ファミリア同士の総力戦だった。
「論外だ。お前らは勝て無い。命を無駄にするな」
「論外だと?」
「そうだよ。お前らは死線を越えたことがないだろ?僕とリュー、団長のアリーゼはアレの生き残りだよ。本当の死闘を知っているんだ、ふふふ」
アイツの周囲に黒いモヤが出現して、アイツはそれを纏始めた。
「まずい!フィン、逃げろ!」
リヴェリアの声がした。彼女はアイツを抱きしめていた。
「お願いです。戻って来て下さい。闇に堕ちないで…」
アイズもアイツに抱きついた。
「ダメだよ、お兄ちゃん…私をもう一人にしないで~お願いだから…ねぇ!」
「まずい、ベート、オッタル。あの二人を門の外に出して!」
リューの指示が二人に飛んだ。何が起きたのか?
「「了解!」」
俺とティオネはベート、オッタルにより、門の外に出された。
「もう、兄貴を怒らすな。次はお前らの命は無いからな」
そう言うとベートが門を閉めた。門の外にはヘルメス様とフレイヤ様がいた。
「お前ら、ファルコンを追い詰めるな。俺達天界の神々も、地上にいる全ての者も、アイツが自由に生きていくことを見守る義務がある」
何を言っているんだ?
「そう、ファルコンには、恩義があるだろう?お前らには。我々神々は、懺悔一杯だしな」
意味が判らない。
「どういう意味ですか?アイツは何者ですか?」
「はぁ?ロキは説明していないのか?あのバカタレが…散々、アイツに迷惑をかけているのに」
やはり、ロキは関係しているようだ。
「古に起きた神々の大ゲンカの伝説は知っているか?」
「地上に住むの者達が、神々に捧げ物をして、ケンカをやめてもらったって話ですよね?」
「彼は、その捧げ物だ。お前ら地上の者は、アイツとアイツの仲間の命を、神々に捧げたんだ。地上にいる者達には痛みが無いから、二つ返事で捧げたらしいぞ。だから恩義すら感じないのだろう、お前らは…」
え…
「アイツは仲間の命を保証してくれるならと、潔く自ら自分の首を斬り落としたそうだ。なのに、その当時の神々は、口約束を護らずに、アイツの仲間達を殺した。アイツは、死に関して敏感なんだ。だから、もう追い込むな!」
え…でも…
「年齢が合わないですよね?アイツはどう見ても20歳くらいだし」
「あぁ、アイツは転生できないように、不老不死の呪いを掛けられて、悪魔界に堕とされたんだ。転生して悪魔界から逃げられないように、死んで痛みから逃げられないように…アイツにとって、あの呪いがある限り、安息な日は訪れない。俺達神々がアイツに懺悔しないといけない理由だ。呪いを掛けた神が誰なのか、今はもう分からない。分かったとしても、もうその神は天界にいない。俺達神々でも、呪いはもう解けないんだ」
転生ができない…いや、死にたくても死ねないのか…仲間の元には行けないってことなのか…神はなんて酷い呪いを掛けたんだ。
「いいか、最後通告だ。これ以上、アイツを追い込むな。もし、ロキ・ファミリアが追い込んだことが分かれば、俺達、アイツを英雄として尊敬する神々で、お前達に呪いをかける。いいな」
ヘルメス様とフレイヤ様は、俺達にそういう言い残すと、門の中に消えた。