翌朝、晴れ晴れとした気持ちになったシル。
「おはよう~、お姉ちゃん♪」
目の前にいる弟。
「おはよう、フレイ」
彼を抱きしめて、起き上がる。裸で抱き合って寝るなんて、初めてであったシルであるが、スキンシップをしながら寝るっていいものだなって思った。
「アイズさん、ティオナさん、おはようございます」
同室の二人にも挨拶をしたシル。
「今日はどうされます?」
服を着ながら、二人に訊いた。
「換金して…じゃが丸君かな?」
って、笑顔のアイズ。
「あと、ホームに戻って、連絡事項が無いか、確認してくる」
ホームとはロキ・ファミリアの本拠地のことである。
「じゃ、今日もフレイのことをお願いします」
二人に一礼をして部屋を出て、厨房に向かうシル。朝の豊饒の女主人では、冒険者向けに、お弁当を販売していたのだ。その手伝いをシルは、ほぼ毎朝手伝っていた。気になる冒険者がいたから。
「ほら、フレイも服を着ろよ」
ティオナが、まだ寝ぼけているようなフレイに、服を着せていく。
「ティオナ、良いお母さんになれそうだね」
って、アイズが冷やかす。
「フレイが貰ってくれるかな?どう思う、アイズ♪」
その冷やかしを切り返すティオナ。
「ダメ!私が…」
「私が?何かな何かな?」
ニヤニヤしてアイズに詰め寄るティオナ。真っ赤な顔して、抵抗するアイズ。そんな二人の様子をぽっか~んとした表情で眺めているフレイ。
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「あっ、ベル君!」
弁当売りをしていたシルは、一人の冒険者に声を掛けた。
「シルさぁ~ん、おはようございます♪」
白髪で小柄な少年、ヘスティア・ファミリアの冒険者のベル・クラネルが好意を表した挨拶をした。
「ベル君、今後お弁当を作ってあげられなくなったの。ごめんなさい」
えっって表情のベル。シルのお弁当が、冒険生活で楽しみの1つであったから。
「どうしたんですか?何かありましたか?」
心配そうに訊くベル。
「弟と生活することになって、朝ギリギリまで、弟といたいの…ごめんなさい」
頭を下げて、ベルに詫びるシル。
「いや、いいんですけど…シルさんに弟さんっていたんですか?」
怪訝な顔付きのベル。
「いたの…昨日、初めて会って…」
「お~い!ベル、アイズとシルの二人狙いか?」
シルと話していて気づかなかったが、ティオナがベルの背後にいた。
「えっ…ティオナさん、どうして?ここに?」
「アイズもいるよ」
ティオナが指差した先にはアイズがフレイと共に立っていた。ベルはアイズと目が合い、狼狽えた。そんなベルをスルーして、
「ねぇ、その人が、シルお姉ちゃんの彼?」
フレイがシルに尋ねた。顔を真っ赤にするベルとシル。
「フレイ、誰に…そういう言葉を習ったの?」
「うん?ティオナお姉ちゃん♪」
「ティオナさぁ~ん!」
シルはティオナに一言言おうと思ったのだが、既にそこにはいなかった。
「いい?ベル君はお友達よ、わかった?フレイ」
ベルは、シルが好意を持っていてくれているものと思っていたので、ショックを受けていた。
「フレイ、ベル君は私でなくてアイズさんを…」
「私はフレイ君が大好きです。お姉様!」
シルをお姉様と呼んでしまったアイズは、顔と耳を真っ赤に染めた。それに対して、速攻でアイズに否定された上、シルの弟が大好きだと宣言されて、ショック倍増のベル。
「ベル、ダブル失恋だな♪」
そんなベルを冷やかすティオナ。凹んでいるベルの肩を叩いて、ニヤニヤしている。
「ベル、フレイとは決闘はするなよ。殺されるからな」
真顔でベルの顔を覗き込み、ティオナが忠告をした。
「彼は…強いんですか?」
「強いというか…危険だ。ミノタを連続で100匹ほど倒せる」
ティオナの言葉に驚愕するベル。
「ミノタウロスを100ですか?」
真顔で頷くティオナ。
「これから魔石を換金に行くんだ、じゃな~♪」
ミノタウロスにトラウマのあるベルは、仲睦まじい三人の背中を見送った。
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「どこで換金ってするんですか?」
フレイはティオナにきいた。
「ギルドっていう場所でもできるが、珍しいのがあるから、ヘファイストス様の所で換金をしようと思う」
ギルドでは一般的な物しか換金が出来ない。今回は、イレギュラー発生した上、大きな身体のミノタウロスの魔石があるので、専門店での換金にした。ヘファイストス・ファミリアのホームの受付で、魔石を出して、
「換金をしたいんだけど、鑑定して貰えるかな?」
と、受付の者に伝えた。魔石を見るや、受付の者が
「これは…少々お待ちください…」
と、奥に下がった。しばらく待つと、奥にいるこのファミリアの主神のヘファイストスの部屋に通された。
「ロキ・ファミリアか…この魔石はどこで手に入れたのだ?」
「先日のイレギュラー発生時の時に、見た事のない大きなミノタウロスから、手に入れました」
ティオナが説明した。
「う~、見た事の無い魔石故、値段が付けられない。預かりで良いか?最低でも500万は出す。もし加工が出来たら、売値の半値でどうか?」
ティオナはフレイを見たが、フレイには相場がまったくわからなかったので、
「ティオナお姉ちゃんにまかせます」
と、伝えた。
「わかった、フレイ。では、ヘファイストス様、それでお願いします。あと、これも」
ヘファイストスの目の前に、通常のミノタウロから手に入れた魔石を置いた。
「こんなに大量にか?」
「凄いでしょ?彼一人で手に入れたんですよ」
と、フレイを指差すティオナ。
「こんな小さい子供が?君はいくつかな?」
「いくつって?」
アイズを見るフレイ。
「フレイ君の歳よ」
「歳?それ、なぁに?」
キョトンとしたフレイ。
「歳を知らないのか?」
「すみません。この子は、生活風習の違う集落から、来たばかりなので」
アイズがヘファイストスに平謝りをした。
「おい、その剣…」
ヘファイストスは、フレイの腰に帯同している剣に視線を移した。
「なんで、君が…」
血の気が顔から引いていくヘファイストス。首を横に傾けて、考える素振りのフレイ。
「そういうことなのか…」
フレイの目の前に歩み寄り、彼の得物をしみじみと見始めた。
「なぁ、このダガーナイフと短刀の持ち主はどうしたんだ?」
哀しい記憶が甦り始めて、顔が歪み始めたフレイを、アイズは抱き抱えて、宥めていく。
「その持ち主は、彼の育ての両親でしたが、ラキアに…」
ティオナが代わりに答えた。
「そうか…」
「彼の育ての親を知っているんですか?」
「あぁ、その二降りは、私が打った物だ。勇猛果敢な戦士だったよ、夫婦揃ってな。ある時、目にしなくなったのだが、そうか…その子をこの街から退避させたんだな」
「退避って、どういうことですか?」
「この街は、腐っているから。彼のような純粋無垢な者が生きるには、難しい街だ。わかるだろ?」
「フレイを知っているんですか?」
「いや、直接は知らない。でも、その剣は、純粋無垢な心の持ち主としか、契約しない。持ち主として認めない剣なんだ」
「持ち主を選ぶ剣ですか?」
「そう…無垢な心が闇に包まれる時、その闇を吸収して、剣は息を吹き返すのだ」
ヘファイストスの説明で、納得が行った感じのティオナとアイズ。
「そうか…すると、その子は、フレイヤ・ファミリアの関係者ってことだな。それが、どうしてロキ・ファミリアに?」
「ロキが言うには預かっているって」
「なるほど…彼の母親は…おっと、彼の前では出すのは止めておこう。親殺しなんかさせたくないからな」
「親殺し?」
ティオナが、きいた。
「詮索はしない方が、彼の為だ。彼を護るのが、君達の役目だろ?」
アイズから離れたフレイは、ヘファイストスの目の前に立ち、抱っこをリクエストしだした。彼女は彼を抱っこしてあげると、彼の手の平が眼帯に触れて、その瞬間、
「何だって…」
驚くヘファイストス。
「どうされましたか?フレイが失礼なことをしましたか?」
アイズが尋ねた。
「違う…」
フレイはヘファイストスの顔を笑顔で覗き込んでいた。
「それでもう、その黒いのはいらないでしょ?お姉さん♪」
フレイを抱いていない方の手で、眼帯をはずし目の周囲を確認した。
「ありがとう…」
両手でフレイを抱きしめるヘファイストス。
「え?フレイ君って回復魔法持ち?」
アイズがヘファイストスの喜ぶ様子を見て、呟いた。
「アイズお姉ちゃん、魔法って何?」
説明に困るアイズ。
「不思議な力のことだよ。フレイ」
ヘファイストスが代わりに答えた。その後もフレイの質問で、話が一時中断しながら、彼女と談笑をしたフレイ。
「またおいで。君のことは歓迎するから。困ったことがあれば来てくれ」
と、帰り際にヘファイストスから、言われたフレイ。
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「あの屋台だよ、フレイ君♪」
じゃが丸君の屋台に向かう三人。
「じゃが丸君を50個くださ~い♪」
大人買いするアイズ。呆れるティオナ。
「お前、どんだけ好きなんだ?おいおい…」
山盛りのじゃが丸君を近くのベンチに腰掛けて、食べ始める一行。
「おいしい…こんな食べ物あったんだ」
じゃが丸君の味に感動するフレイ。
「こういう食べ物は無かったのか?」
ティオナがきいた。
「野草摘みと狩りで各家庭で調理だよ。こういう物は売っていないよ。そもそも、お店なんか無かったし」
目を輝かして食べ進めるフレイ。そんなフレイに負けずに食べようとするアイズ。
「じゃ、じゃが丸君の調理の仕方を覚えようかな♪」
「なんで?ティオナが?覚えるのは私でしょ?」
ティオナにつっかかるアイズ。
「お前、どんだけ、じゃが丸君とフレイが大好きなんだ?」
「とっても~♪」
「って、じゃが丸君とフレイは同列の扱い?」
苦笑いするティオナ。からかっていて楽しいくらい、フレイと一緒にいるアイズは感情が豊かであった。ティオナにしたら、それは斬新な出来事である。フレイと知り合う前のアイズは感情を滅多に出さない。出しても怒りくらいだったのだ。
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じゃが丸君三昧を終え、ロキ・ファミリアのホームに立ち寄る三人。
「あっ…ロキ兄ちゃん♪」
ロキに駆け寄るフレイ。その光景に目が点になるほど驚くアイズとティオナ。
「おぉ、フレイ。思い出してくれたんやね~」
フレイを抱き抱えるロキ。
「ロキって、フレイ君と面識があったの?」
「あったんよ。産まれる時に立ち会ったし。この前は酒臭かったから、わからなかったようやな」
「それで、酒断ち?」
ティオナの言葉に照れ笑いするロキ。
「で、なんで、お兄ちゃん?」
「うん?あれ?ロキお兄ちゃん、女の人になったの?」
不思議そうな顔でロキの胸を見るフレイ。
「いや…元々女なんよ」
「え?前に会った時、男の人だったよね?ティオナお姉ちゃんより平らだったし」
フレイの何気ない一言に苦笑いするティオナ。
「大人になると大きくなるんやで~」
「うん?ティオナお姉ちゃんは、僕と同じで子供なの?」
なんかとっても、立ち位置が怪しくなる気がしたティオナ。
「ロキ、そう言う言い方は、ケンカ売っているぞ」
ロキを睨むティオナ。少し勝ち誇ったロキ。二人を宥めるアイズ。
「楽しそうだな」
リヴェリアが割って入って来た。
「あぁ、フレイの居る所、楽しいぜ♪」
ロキへの睨みを解かずに、返答したティオナ。
「で、何か連絡事項はありますか?」
アイズがリヴェリアに尋ねた。
「うーん、特に無いかな。ベートとレフィーヤは、反省しているから、牢から解放はしたが、自室で謹慎だ。まったく、アイツらと来たら」
溜息をするリヴェリア。
「まぁ、フレイのおかげで、ロキが酒断ちしてくれたのは、ありがたいかな。酒代で財政が圧迫されていたしな」
リヴェリアもロキを睨む。
「フレイは臭いで人物判断しよるから…酒臭さは敵やな」
「臭いで?」
「そう…スキルになるんかな?臭いで、人物特定とか、腹黒さとかがわかるんや。あぁ、臭いっていってもな、身体の臭いじゃなくて、魂の臭いだよん」
「魂を見るのか…そうか、母親がわかったぞ…ロキ」
リヴェリアがロキに言った。
「ヒント出しすぎたな…フレイには言うんやないで。自分で見つけないと意味はないからな」
「うん♪」
フレイはロキの言葉に頷いた。その後、フレイをアイズ一人にまかせて、ティオナが幹部会に出席をした。
「で、フレイはダンジョンに行けるのか?」
リヴェリアがロキに質問をした。
「一応、神やから、止めた方が良いと思うんや」
「でも、行きたがった場合はどうする?」
ティオナが更に質問をした。
「そうやな…癇癪を起こすのもあかんなぁ~どないしようか?フィン、何か良い考えはあるか?」
「神がダンジョンに入ると、モンスター達が荒くれだったり、この前みたいにイレギュラー発生しかねないよな。う~ん、俺達でガードして潜るかだな。とりあえず、5階層くらいを目処にして。でもね、正直な所は、彼が戦っている現場を見てみたいんだよ」
「それは、私も同感だ」
リヴェリアも同意見のようだ。
「預かっている以上、危険に晒す訳にはいかん。その辺を考えてや」
「癇癪を起こすとどうなるんだ?」
「う~ん、たぶん、アイズたんが初遭遇した時のような」
「あぁ、味方と敵の見境が無くなり、迷わず屠りにくる。あの時はアイズの命は紙一重で助かったと思う」
ティオナがアイズが腰を抜かした場面を、思い返していた。
「それは、それで危険だな。その時の対策は?」
「アイズがいないと危険が一杯だと思う。私には、フレイの暴走状態を止める勇気は無いよ。剣を振り翳しているのに、アイズと来たら、ノーガードで抱きしめようとしたんだよ」
絶句する一同。
「どんだけアイズは、フレイを大好きなんだ?」
「なぁ、ロキ…フレイには魅了の能力でもあるのか?」
フィンが疑問を口にした。
「アイズの好き加減が異常に思えるんだけど」
「ある…ただ、あいつの魅了は、魅了しようと思っても出来無いんや」
「パッシブか?」
「そうや…魂が同調する者だけ、魅了するんや。だから、フレイに罪は無い」
「同調しない場合はどうなるんだ?」
「敵対…殺害対象というか…アイツには溺愛か敵対かスルーの3つしかないんや…問題やと思うん」
「う~ん、厄介なスキルだな」
「でもなぁ、同調する場合は、心の闇を浄化してくれるんや。幸せな気分にしてくれるというか」
「それにしても厄介だろ?」
「まぁ、厄介や無い神なんか、おらへんで、フィン」
「それはそうだな」
「それって、私は同調していないってことなのか?」
リヴェリアが喰い付く。
「好きとかの感情は無いし、敵対もされていないようだけど…それはそれで、哀しい物だな」
「男性にも有効なのか?」
「フィン、男の場合はわからん。でも、ベートを見ていると、魅了されたっぽいなぁ。あんなに嫉妬しとったのに、かわいい弟子って、どんな変わりようや?でだ、フレイの魅了は神にも有効なんや。おかげ、酒断ちや~♪」
凹むロキ。
「能力を知っているロキでも魅了されるのか。問題は、魅了されても、されたってわからない程度なのか。厄介だな」
「ティオナはどうなの?」
ティオネから質問が飛んだ?
「私?フレイのこと、好きだよ。アイズの次くらいかな?」
「魅了されているの?」
「そういう感覚は無い。ただ、何をされても嫌な気はしないし。どうなんだろう?」
「何をされても?何をされたの?」
ティオネは実の妹のティオナに質問を浴びせていく。
「私は特に…まぁ、されたっていうのは語弊があって、こっちから行動は起こしている。例えば、アイズは、混浴もしたし、裸で抱き合ったし、裸で添い寝もしたし」
「おいおい、裸で抱き合った?アイズが?」
「あぁ、自然にだよ。エロとかの要素は、まるで無い」
「それは魅了の為せる業なのか?」
「わからない。ティオネが体験すればわかるんじゃないか?」
「え?私は団長だけにしか、裸は見せないもん♪」
フィンに視線を送るティオネ、スルーするフィン。
「なら、私が被験者になる」
リヴェリアの発言に一同、目を見張る。
「おい、ハイエルフはダメだろ?」
「ハイエルフだから、わかるはずだ。心を許した者にしか肌は触らせないからな」
「それはそうだが…」
「じゃ、リヴェリア、子守りを頼むで」
ロキからテスターになる許可がおりた。