---ベート---
そして、10日ほど経過した。俺もアイズも怪我が徐々に治ってきた。まだ戦えるって状態では無いが、動けるようにはなってきた。
「まさか、兄貴が回復魔法を使えるとは、思わなかったよ」
ガキの時分にかわいがって貰った記憶は有るのだが、何故か兄貴の素性が思い出せなかった。なんで、魔法を使えるんだっけ?
「魔法は、オラリオとは違う場所で習ったんだ。元々、とある国の聖騎士だった。でも、ある戦で僕の部隊は、僕以外は全滅してしまった。僕はどこをどう歩いたのか、わからないけど、アイズの暮らす村に辿り着いた。そこで、しばらく保養をしていて、アイズとは仲良くなったんだ。そして、その村を出て、色々な街や村や里に寄りながら、オラリオに着いた。そして、アストレア・ファミリアにスカウトされて、現在に至ったって感じだよ」
「お兄ちゃん、私も剣に風を纏わせることが、出来るようになったんだよ♪」
アイズが、これまで見た事の無い、とてもかわいい笑顔で、兄貴に報告していた。惚れ直してしまいそうだ。でも、ライバルが兄貴じゃ…いや、それ以前に、俺の知っているアイズとは、もはや別人なレベルへの変貌なんだが…
「そうか、良く鍛錬したな」
アイズは兄貴に頭を撫でられると、とても嬉しそうな表情になった。こんな顔が出来るのか…アイズの表情は俺に衝撃を与えた。無表情でモンスターを狩る姿に惚れていたのに…今の彼女から想像が出来ない、俺の惚れた彼女…
「で、ベートとアイズって、つきあっているのか?」
「つきあってないよ」
アイズが即答…少しは悩めよ。
「アイズは、好きな男は出来たのか?」
「お兄ちゃん以外、考えていない。もっと、がんばって、強くて良い女になる。ねぇ、そうしたら、お兄ちゃんの隣で戦いたい」
って…兄貴は困った表情をしている。
「だから、ファミリアは抜けられないぞ。無理だから、ファミリア内で、見つけなさい」
って、俺の方を見ている兄貴。心を読まれているのかな…って、兄貴とアイズの会話が弾んでいる時、入り口の扉がノックされた。
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「おい、誰かいるか?」
団長のフィンの声だ。
「フィン、俺だ。ベートだ。アイズもいる」
俺の声を確認したのか、扉を無理に開けようとしている音がしてきた。
「おい、僕の家に無断で入ろうとするな。ロキ・ファミリアは、押し込みをするのか?」
兄貴がフィンに声をかけたが、扉をこじあけようとする音は止まらない。
「ベート、止めろ。家が壊れる」
確かに、天井をハンマーで叩く音がしてきた。
「フィン、止めろ。恩人の家を壊さないでくれ~!」
俺はフィンに叫んだが、時既に遅し。家は壊れた。兄貴は奥の部屋に駆け込んだ。
「アリーゼ、大丈夫か?」
あの女性の名前を呼んでいる。
「やっと、見つけた。ベート、アイズ。アイツに囚われていたのか?」
フィンは勘違いをしている。まずい。
「違う。助けてくれたんだ。なんで恩人の家を壊したんだ?」
「こんな場所に、家って怪しいだろう?こういう物の排除もロキ・ファミリアの仕事だろ?忘れたのか、ベート!」
確かにそうだけど…状況を勘案して欲しいなぁ。
「あの局面で救い出してくれたんだよ。それなのに、なんで…」
「ここの住民は保護して、地上に連れて行く。地上に住めない理由が有る犯罪者なんだろ?どうせさぁ」
って、ティオネ。兄貴は犯罪者じゃねぇ~!
「おい、クソアマゾネス。兄貴を犯罪者呼ばわりするな!」
「おい、ベート。洗脳されたのか?」
って、フィン。なんで、わかってくれないんだ?
「されていない。なんで、ダンジョンに住むと、そういう目で見るんだ?おい、団長!」
「何があった?」
フィンが訊いてきた。が、
「ベート、話さないでよい。僕は護るべき者を護る為に戦う」
彼女…アリーゼさんは、兄貴の護るべき者なんだよな。兄貴の騎士道は変わっていないことに、俺は感動していた。兄貴が剣に手をかけて構えると、空気が一変して張り詰めたようになった。なんだ?これは…
「ベート、アイズ。もう会うことは無いだろう。じゃあなぁ♪」
兄貴は、アリーゼさんを背負い、目の前の敵、ロキ・ファミリアのメンバーへ攻撃して、道をつくり、ここから脱出を謀っていた。レフィーヤ、リヴェリアが詠唱に入った。躊躇無くアイズが、二人に襲いかかり、詠唱を中断させていく。アイズの表情は、獲物を狩るハンターのような顔に戻っている。俺達の知っているアイズだ。
「アイズ、何をする?」
怒りに満ちた副団長のリヴェリアの声がした。それに対して、アイズは声がした。
「お兄ちゃんを虐めるヤツは、誰であろうと私が許さない」
アイズの表情に迷いはなかった。俺もアマゾネス姉妹を叩きのめしていた。そして、兄貴の後を二人で付いて行く。
「なんで…お前らも…マズイだろ?仲間に手をかけたらさぁ」
こんな局面でも困った表情をする兄貴。こんな状況でも、俺達の心配をしてくれる兄貴。昔と変わらないなぁ…
「お兄ちゃんを虐めるヤツは、誰であろうと私が許さない」
兄貴には、笑顔でそう言ったアイズ。しかたないなぁって表情の兄貴。そして、俺達4名は、地上に出て追っ手から逃げることに…
---ファルコン---
4人で…いや、アリーゼを連れて、隠れ住むにはつらいので、昔の知り合いを訪ねた。ギルドの秘密の入り口から地下へと降りる。
「誰だ?」
この街に君臨している神の声が聞こえた。
「久しぶりだな。ファルコンだ」
僕のことを思いだしているのか、無言な時が流れていく。そして、
「ファルコンだと…あのファルコンか?」
「あぁ、不名誉な二つ名『女神喰い』のファルコンだ」
彼の周囲にある結界に穴が出現して、そこから彼に近づいた。
「久しぶりだな、ウラノス」
「生きていたのか、ファルコン」
「あぁ。それで、本題なんだが、アレ以来、ダンジョン内で暮らしていたんだけど、ロキ・ファミリアに立ち退きさせられた。どこか静かに暮らせる場所は無いかな?」
「立ち退き?ギルドからは、そんな命令を出してはいないぞ」
「ダンジョンに住むのは犯罪者って、決めつけられた。僕とアリーゼは、犯罪者なのか?」
「いや、被害者だ…だが、リューは冒険者の資格は失っている。アストレアは追放処分だから、アストレア・ファミリアは事実上、刑を執行された側だ」
「おかしいだろ?僕達以外団員は、モンスターに喰われた。僕達はモンスター達のエサじゃない。この街の神々は腐っていないか?」
「強い者が正義なんだ…すまない。ファルコン、お前を護れなくて」
コイツを責めてもしかたないし。
「リューはまだ生きているのか?」
「『豊穣の女主人』という店で、ウェイトレスをしている。アストレアは、街の外の森で、暮らしているはずだ」
「わかった。アストレア様を訪ねてみるよ。街の外なら、静かに暮らせるよな?」
「たぶん…街の外で何が起きようと、街のルールは適用しない」
「了解だ」
僕は彼の元を去ろうと、彼に背を向けた。
「私のファミリアに改宗しないか。ファルコン?」
「そのうちな。今はアリーゼを安全な場所に連れて行きたい。フェルズを貸してくれるか?」
「わかった。街を出るまで、サポートさせよう」
僕は、彼の元を去った。地上に出ると、フェルズの気配を感じたので、そのまま歩いて行く。
『リューとアストレア様の居場所の地図をくれないか?』
彼に念話を送ると、
『御意!』
と、、即答だった。彼も僕のことを覚えてくれているようだ。僕はアリーゼ達の隠れている場所に行き、フェルズのサポートで街の外へと出た。そして、街を出る際に、フェルズから貰った地図でアストレア様の元へと向かった。
貰った地図の通りに道無き道を歩く。アリーゼはベートが背負ってくれ、アイズと僕とで、警戒しながら道を進む。
---フィン---
ファミリアのホーム内の会議室で、幹部会を開いた。議題は、今回のベート、アイズの反乱についてだ。
「反乱なのかな?僕達のヤリ方が間違っていたかもしれない」
ベート達を助けてくれた恩人の家を、何も壊す事はなかった。今回の反省点であると思う。
「ロキからの命令だっただろ?不貞な輩の潜むような拠点は排除しろって」
副団長のリヴァリアは、僕の考えに否定的なようだ。
「だが、あの家は…」
「だが、いずれ利用されるかもしれない。あの階層に潜める場所は、無くさないと今後も危険だ」
そうなんだが…僕の親指は疼いていた。危険を察知すると疼く僕の親指。この先、どんな危険な局面に出逢うのだ?
「で、ベートとアイズさんはどうなるんですか?」
レフィーヤが質問してきた。
「団長命令を無視して、仲間に攻撃をした。それなりの処罰は必要だ」
リヴェリアは、二人に重い処罰を科したいようだ。まぁ、ファミリアの規律を引き締めるには、幹部の命令違反に対しても、甘い処分にはしない方が良いのだが。
「リヴェリア、あの男はアイズの関係者なのかな?”お兄ちゃん”って呼んでいただろ?」
僕は心に引っ掛かっていた事を尋ねた。
「あぁ、そう言っていたな。洗脳されたのかもしれないぞ。事実確認出来るまで、油断をしない方が良い」
突然、ノック無しでドアが開き、主神のロキが入室してきた。
「ギルドに呼び出されてなぁ、行ったんやけど…」
凄く気落ちをしているようだった。主神から、ギルドで受け取ったらしい書類を受け取った。
『犯罪の被害者にした今回の仕打ちは、ギルドとして許せない行為であり、以下の処分を言い渡す。
・ロキ・ファミリアの財産の1/4を没収
・ベート・ローガ、アイズ・ヴァレンシュタインの改宗を認めること
・今後、彼らに出逢っても、問題を蒸し返さぬこと』
と、書いてあった。
「なんでや~。ベートとアイズたんを…大打撃やでぇ~」
頭を抱えて蹲る主神ロキ。
「犯罪の被害者とは?」
「あの場所で壊滅したファミリアの生き残りだったようなんや…あんな目に遭ったんや、地上に出ても何をされるかのか怖くて、あの場所にいたらしいわ」
「あの事件に生き残りがいたのか?」
あのパス・パレード事件は、団員では俺とリヴェリアくらいしか知らないだろうな。その位昔の話である。
「いたんや~。それも最悪や~、アイツ生きとったようだ」
ロキは絞り出すような小声で言った。
「アイツって?」
ティオナが訊いた。
「ファルコンや。たぶん、アイズたん達を助けてくれたんのも、ファルコンやろ」
「ファルコンって?」
「元アストレア・ファミリアの猛者…」
「ファルコンって、元聖騎士の?」
リヴェリアが驚いた声を上げた。
「そうや。なんで、お前が知っとるんや?」
「私の憧れの騎士様でした…ハイエルフの里にいらして、しばらく保養していたんです」
あの男は、リヴァリアの知り合いなのか。リヴェリアの発言に驚く一同。彼のことを話すリヴェリアは僕達の知っているリヴェリアでは無かった。凜々しくも毅然とした彼女は、乙女のような弱々しさを感じる。まさか、彼女の探し人って…
「面影が無かった…気付け無かった。彼は真っ白い鎧を着ていたのに…」
「目の前で仲間が喰われたんや。心は壊れているんやろな、きっと…」
ロキは一瞬、寂しそうな顔をした気がした。
「ロキ、ギルドの決定は飲むのか?蹴るのか?」
僕は主神に決断を訊く。
「飲むしかないやろな。アイツと戦ったら、ここも壊滅するやろうし。アイツに勝てる冒険者はいないんや。たぶん、オッタルでも無理やろ。アイツは魔導剣士やから…」
魔導剣士…魔法でも剣でも攻撃可能なのか…それって、この街ではいないタイプ…いや、アイズが近いか?それは貴重な戦力だな。
「彼をこのファミリアに、入れることは出来ないのか?」
「出来へん!アイツは神々に縛られるのが嫌いなんや。フレイヤでも、イシュタルでも縛れなかったんやで。アストレアだけは、アイツを縛らなかった。だから、アストレア・ファミリアに入団したのや。はぁ~」
フレイヤ様、イシュタル様の『魅了』が効かないのか?それは厄介だな…
---ベート---
アストレア様の家に住み初めて数日後、ギルドから知らせが届いた。アストレア・ファミリアと元団員のリューさんって方の再認定と、俺とアイズの改宗を認める知らせだった。早速、俺もアイズも、アストレア様から恩恵を受けた。
「これで、兄貴と潜れる」
「お兄ちゃんの隣で戦える♪」
喜ぶ俺とアイズ。
「ギルドも、厄介なことを認めたなあ。まぁ、ここなら、アリーゼも安心かな」
兄貴は、アリーゼさんとアストレア様を、暖かい目で見ている。
「ファルコン、リューも誘ってみてください」
俺達の新しい主神が兄貴に声を掛けた。
「まぁ、アイツの気持ちを訊いてからだな。ベート、アイズ、明日は街に行くぞ」
俺とアイズは笑顔で頷いた。