透明に見えるマントを全身に被ったアスフィは、フレイを難なくヘルメス・ファミリアのホームまで連れて来られた。
「凄い…透明になれるマント…お姉ちゃん、凄いんだね♪」
ホームに着くまでの間に、マントの中でアスフィはフレイに魅了されてしまった。そう、あの笑顔に堕ちてしまったのだ。
「フレイ君、そんなに誉めないで~」
顔を赤く染めて、照れるアスフィ。こんなに誉められたことは無かったから。
「ねぇ、お姉ちゃん、もっと凄い物はないの?」
「え、えっっと…あるよ。うんうん、私の部屋においで、フレイ君♪」
アスフィの部屋に向かう二人。そんな彼らを見ているヘルメスとタケミカヅチ。
「タケ、どうだ?使えそうか?」
タケミカヅチはフレイのオーラの色を見ていた。
「あれなら、生け贄に持ってこいだな。純粋無垢その物だし。でも、いいのか?あんな子を生け贄って…」
「あぁ、ウラノスの祈りでも、抑えられない闇の気配があるそうなんだ。ここは、天界に認められていない、彼に働いてもらう」
「彼の両親はどう思うんだ?」
「はぁ?こんな腐った街で生きるより、みんなの為になれる方が、彼の為だろ?アイツの両親?天界で産まない方が悪い。出産の為に天界に戻れば、二度と地上に降りられないからな。クソみたいな神だ、きっとな」
フレイに睡眠薬入りのお菓子を食べさせて、ウラノスの元に持ち込んだヘルメスとタケミカヅチ。
「なるほど、汚れのない純真無垢のようだな。では、急ごう。彼の両親が動く前に、後戻り出来ないようにしないとな」
ウラノスは、フレイを円柱の容器に収めて、密閉した。その容器を、魔法陣の中心に置き、呪文を唱える、ウラノスの眷属であるフェルズ。
容器は光輝き、床に沈んでいき、この場から消えた。
「これで、闇の元凶の前で容器が開き、闇を吸収してくれるでしょ」
フェルズが、ヘルメスに説明をした。
「これで、当分、安泰だな、ウラノス」
ヘルメスがウラノスに笑顔を向けた。
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オッタルからの報告を受けて、目を見開いて驚くフレイヤ。
「どうして?どうして、見失ったの?オッタル、答えなさい!」
「おかしいです。周囲をフレイヤ・ファミリアでガードしていた。なのに、姿を見失うって…透明になったのか?」
透明…フレイヤの目が更に見開いた。
「アスフィ…透明に見えるマントとかを色々持っていたわね?」
「まさか、ヘルメス・ファミリア…それであれば、納得します。ロキ・ファミリアへの奇妙な依頼を含めて」
「オッタル!ヘルメスの元に行くわよ」
「御意!」
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ヘルメス・ファミリアのホームで、ヘルメスと対峙したフレイヤ。
「どうしたんだ?フレイヤ、そんな怖い顔をするなんて、珍しいな」
「あの子を返しなさい。腹黒き神よ!」
ヘルメスの言葉に表情を変えること無く、言葉を告げたフレイヤ。
「あの子って?誰のことだ?」
「ここで差し違えても良いんだよ。私はね。あの子が戻らないんなら」
「だから、誰の事を言っているんだ?」
「お前…では、アスフィに訊く、あの子はどこ?言いなさい!」
フレイヤに睨まれて、顔から血の気が引いていくアスフィ。
「おいおい、うちの団長に聞くのはお門違いだ。用が無いなら帰れ!」
「どうなの!アスフィ!」
ヘルメスが一歩出ようとすると、オッタルが、フレイヤをガードするために一歩出た。
「おい、フレイヤ、いい加減にしろ!」
「それは、こっちのセリフよ、ヘルメス!」
「はぁ?言っている意味がわからないぜ、フレイヤよ」
「そう…お前には言わないでおこうと思ったけど…私とお前の間に出来た子共を、どこにやったんだ?まぬけな父親、ヘルメスよ!」
「へ?何を言っているんだ?たわけた…こと…を」
ヘルメスは、記憶を思い起こしていた。フレイヤは地上に降りた男神総てと関係を持っていた。が…そう、ヘルメスと交わった後、しばらく身を隠していたことに思い当たった。
「まさか、あの時…身を隠したのって…」
「私ほどの女神が、身重な身体を晒すと思う?ロキとヘファイストスに手伝って貰って、産んだのよ…それなのに…お前と言う男神は…あの子をどこにやったのよ!答えなさい!」
「あの子…ヘルメス様の子供…」
血の気が失せているアスフィが呟いた。
「アスフィ、どこにやったの?答えなさい!」
「私…知らないんです。ヘルメス様が…」
「俺は…俺は俺の子供を…」
ヘルメスはその場にへたり込み、号泣した。
「おい、ヘルメス、泣いて済む話で無いんだが」
「そう…だな…ウラノスのところだ…」
「ウラノス?なんで?あの子をどうしたのよ、ヘルメス、答えなさい!」
「ウラノスに訊いてくれ。詳しくは知らないんだ。アスフィ、遠征の準備を至急してくれ。俺の子供を助けてくれ…」
アスフィは頷き、団員達に指示を飛ばし始めた。
「どこにいるの?遠征するって、場所を知っているんでしょ?ねぇ、ヘルメス」
「60階…闇の蠢くスポット…そこに転移させられた。蠢く闇を吸収させる為に…」
自分の顔から、血の気が引いていくのが分かるフレイヤ。立ちくらみをして、オッタルに倒れ込んだ。
「フレイヤ様、大丈夫ですか?」
「吸収しきれない闇を吸収しようとすると、あの子は闇を纏う。闇墜ちする…闇墜ちした神は死ぬだけ…あの子は何の為に産まれたの?何の為に生きてきたの?ねぇ、ヘルメス、答えなさい!」
「男と女の気の迷いによって産まれただけだ。それだけの価値なんだろうな」
フレイヤの拳が、ヘルメスの顔面を捕らえた。この場には、誰もヘルメスを気に掛ける者はいない。
「だって、そうだろ?フレイヤ、作りたくて交わった訳では無いだろ?」
「そうだけど…だけどね…あの子にとっては…そんな理由じゃダメだろ?違うか、ヘルメス」
「もう、賽は振られた。闇を吸収し始めているだろう」
「お前は、地獄へ堕ちろ、ヘルメス!天界になんか戻さないからな。オッタル、全軍を率いて、フレイを討て!」
フレイヤの指示に耳を疑うオッタル。
「今なんと言いましたか?フレイを討てって…何でですか?」
「闇墜ちした神は、神として死に、悪魔と成り下がる」
「討てないです…俺には無理です」
可愛がっていたフレイを手に掛ける自信が無いオッタルは、初めてフレイヤの指示を拒否した。
「無理でもやりないさい!フレイを地上に出さないで!地上にフレイが…あの子が出たら、ここは地獄になる。ダンジョンの入り口で、私は待機する。最悪でも、私があの子と差し違える」
「御意…」
オッタルは涙を流しながら、団員に指示を出し、遠征の準備をしに、フレイヤ・ファミリアのホームへと急いだ。
「ヘルメス、お前には死ぬ覚悟なんか無いんだろな。地獄で生き延びてみろ、このクソ神野郎!」
フレイヤは、その場を後にした。
「死ぬ覚悟?無いな。アスフィ、行き先を変更だ。この街を捨てる。いいな」
ヘルメスの変わり身の早さに驚くアスフィ。
「あの子を助けに行くんでしょ?」
「行かない。まだ、死ぬには早い。いや、死にたくは無い。アスフィ、準備をしろ。でき次第、街から出て、違う大陸を目指すぞ」
「そう…ですか…」
アスフィは、フレイを見捨てていくことはできなかった。短時間の出会いではあったが、あの笑顔に心は奪われていたのだ。
「私は…退団します。お世話になりました」
「ちょっと待て!アスフィ、何を言っているんだ?お前も来るんだよ」
「行きません。彼を見捨てては行けません。私のした行為で、彼は…あんなに小さいのに…もう、身勝手なヘルメス様にはついて行けません!」
目を真っ赤にしたアスフィは自分の部屋に道具を取りに戻っていった。
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フレイが目を覚ますと、闇に覆われていた。
「ここは?お姉ちゃん?どこ?ねぇ!」
声を出すも、反応をしてくれる者はいなかった。
「なんで?どうして?一人で部屋にいなかったから?お仕置き?ねぇ、シルお姉ちゃん!」
今いる周囲の探索をしてみる。闇しか見えない。いや、遠くの方で闇が渦を巻いているように見える場所があった。そこへと向かうフレイ。
闇の渦は闇を排出していた。渦の周囲は人型のような形に見える。
「君は誰?どうして、闇を出しているの?」
闇の人型にフレイが触れると、闇はフレイに向かって押し寄せて来た。
「え?なんで?僕に…」
闇はフレイに吸収されていく。そして…フレイの中で欲望が暴走していく。そして、維持神の仕込んだ魔王の魂が起動した。フレイの無色透明な魂は漆黒に染まっていく。神の器を持つ魔王の誕生である。
「もっとアイズお姉ちゃんといたい、もっとティオナお姉ちゃんといたい、もっと…」
フレイの中で何かが壊れた。その衝撃で彼が纏っていた闇は霧散していった。神性と魔性の隔たりが壊れ、神魔が融合していく。膨大な力がフレイにもたらされていく。それは、維持神の想像以上な力だった。
「なんで、僕を一人にしたの?僕はジャマなの?僕は誰なの?僕は誰の為に産まれたの?僕は誰の為に生きてきたの?僕はみんなの為に死ぬの?」
フレイは必死で薄れいく意識を保とうとしていた。
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祈祷を捧げているウラノスの前に、フレイが現れた。
「ねぇ、なんで、僕はみんなの為に死ぬの?」
「死んだのなら、死者の国に行け!」
フレイに向けて祈祷を捧げるウラノス。しかし、神魔一体となったフレイには効果が無い。
「死ねる訳無いでしょ?僕はお姉ちゃん達ともっといたい。お姉ちゃん達ともっと触れ合いたい。お姉ちゃん達ともっと楽しみたい。お姉ちゃん達と…」
フレイの身体から、闇が浸み出し、ウラノスに襲いかかっていく。
「ウラノス様!」
ウラノスの眷属のフェルズが、魔法で応戦をし始めたが、レーヴァティンで一刀両断されるウラノス。
「まずい、恩恵が…」
ウラノスの恩恵が無くなったフェルズは、闇に飲み込まれて、消え去った。
「次は誰に訊けば、答えてくれるのかな?ふふふ♪」
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『もっと、アイズお姉ちゃんといたい…』
18階に到達したアイズの脳裏に、フレイの声が聞こえた気がした。
「フレイ君!」
呼び掛けるが、フレイはここにはいない。
「どうしたんだ、アイズ?」
ティオナが近づいていった。
「フレイ君の声がしたような」
「禁断症状か?」
リヴェリアが声をかけた。
「そうなのかな?心配だな。フレイ君、お留守番できているかな?」
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『フレイ君!』
フレイの脳裏にアイズの声が聞こえた気がした。
「アイズお姉ちゃん…どこに行ったの?仕事だから、お留守番しないとダメだよな。ここには玩具が一杯あるから、遊んでいれば、戻ってきてくれるかな?」
フレイは手にしたウラノスの首を放り投げた。
「誰か、遊んでくれないかな?」
階段を上がっていくと、ドアが有り、そこを開けるとたくさんの人達がいる。でも、誰もフレイに気が付く者はいなかった。フレイは手にした得物で、男性ののど笛を斬っていく。
「ここのお姉ちゃん達は遊んでくるかな?」
独り言を言いながら、のど笛を斬っていく。血しぶきが至るところで上がる。
「きゃ~!」
叫び声が様々な場所から上がる。その悲鳴は今のフレイには歓喜の声に聞こえていた。
「喜んで貰えているようだ。もっと、斬らないと♪」
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アスフィ達、眷属に逃げられ、一人ホームに残っていたヘルメスの所にギルドから駆け込んできた血まみれの者がいた。
「助けてください。何者かにギルドが襲撃を受けています」
「ギルドが?誰にだ?」
「わかりません…見えないのか、すばしっこいのか、姿を確認できないんです」
ヘルメスの脳裏には、先程フレイヤが、地上は地獄になるようなことを言っていたのを思い出した。
「まさか、フレイヤは討ち漏らしたのか?いや、早過ぎる…まさか、魔法陣を逆行したのか?」
独り言を言い、考えを纏めたヘルメスは、ウラノスの祈祷を捧げている部屋に急いだ。
「なんだ、ここ…どうして…」
ウラノスが祈祷を捧げているはずの部屋は、血まみれだった。何かが脚に当たり、拾い上げると、ウラノスの歪んだ頭部だった。
「ウラノス…フェルズ?フェルズ、いないのか?」
部屋の中を探すと、頭を潰されたフェルズが倒れていた。
「そうだ、なんで、ウラノスの死体があるんだ?死んだら、天界に帰るはずだろ?なんでだ?」
通常、神が地上で死んだ場合、天界へと帰るだけで、死体は残らないはずであった。思考を巡らせていくヘルメス。
「なんだろうか?何を見落としているんだ?」
どさっ!どさっ!と、何かがこの部屋に投げ込まれている音がする。入り口の階段には、のど笛を斬られた男性の死体が、次々に投げ込まれていた。
「おい、そこに誰かいるのか?」
ヘルメスの問いに答える者はいなかった。階段を昇り地上を目指す彼に、死体が投げつけられて、死体共々、階段を転げ落ちていった。そんな彼に追い打ちをかけるように、死体が次々に頭上へと降ってきた。
「うぉ~、止めろ…おい…あっ…」
身体を捻り、落下して来る死体を避ける。段々と出入り口は死体で埋め尽くされていく。
「くそっ…脱出ができない…どうするか…」
他に脱出できるルートが無いかを探すヘルメス。そんな彼の耳に信じられない声が届いてきた。58階層に生息する砲竜、ヴァルガング・ドラゴンの泣き声…魔法陣から身体を乗り出して居るが、頭部が天井にぶつかり、完全には出て来られないようだ。砲竜は口から砲撃を放っていた。天井や壁が崩れていく。
「地獄…フレイヤ、お前の言う通りになりそうだ。俺達はやっちゃいけない事をしたのかもしれない」
砲撃を避けながら、脱出ルートを探すヘルメス。
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ダンジョンへの入り口、バベルの地下1階では、ヘファイストス、フレイヤ、ロキが武装していた。フレイヤ・ファミリアとヘルメス・ファミリアは、フレイ征伐へとダンジョンを進んでいった。そこにギルドのエイナが駆け込んできた。
「大変です。街が襲われています」
「誰にだ?」
「姿を確認出来ません。今、ガネーシャ・ファミリアとタケミカヅチ・ファミリアが防戦していますが、死者が絶えません」
「まさか…アイツ…別ルートで地上に来たんか?」
ロキの顔が恐怖で歪む。
「他にルートがあるとは思え…あっ…転送魔法陣。逆流させたのか?」
フレイヤの顔も恐怖で歪んでいく。
「あの子に、そんなことが出来るのか?」
ヘファイストスがフレイヤにきいた。
「出来ると思う…闇墜ちすれば、本来のあの子とは違う属性になるから。優しくて心根の良いあの子は、今は残虐で冷血な悪魔になっているはず」
「どうする?」
「前線に行こう。ここからは来ないんだろうな…いや、待てよ。逆流しているとなると、ダンジョンの60階層からモンスターが送り込まれて来る…まず、ウラノスの所だ。エイナ、案内をしてくれ」
「はい!」
ギルドはウラノスの眷属で組織されていた。戦士ではない為、ウラノスの恩恵は与えていないが、ウラノスのことは知っていた。
三柱の女神はエイナの後に続き、ウラノスが祈祷を行う場所を目指した。
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「お姉ちゃん達、遊ぼうよ~♪」