---フレイ---
その後のアストレア・ファミリアだけど、主神のアストレアは、僕のファミリアの副神となり、徐々にギルドでの仕事を覚えて貰っている。アストレア・ファミリア解散とは言ったのだが、それは書類上でのことで、実際はリューとアリーゼ以外は、アストレアの眷属のままだった。この地上にアストレアがいる限り、そして改宗でもしない限り、彼女との血の契約が解除されないのが原因であった。
なので、彼女の眷属の住める場所を、ギルドの2階に増設した。ギルドに住めば、アストレアが襲われる心配もないしね。ギルドの地下にはウラノスがホームを持っているので、ギルド内に作っちゃダメって、ルールは無い。なので、神会からの反論は出なかった、。
アストレアにギルドの業務を任せられるようになった頃、僕は僕のやりたいことをし始めた。まず、豊饒の女主人の裏手の土地を購入して、そこに建物を建築した。3階建てで、2階には豊饒の女主人へ行けるように、渡り廊下を設置した。1階は店舗で、2階、3階はホームにするつもりだ。
今後、メイドに適さない眷属が出来るかもしれないので、ニャーのお店で働けない者が住むスペースとなる予定だ。今後と言ったけど、すでにアリーゼがメイド向きではなかった。
「私の為に…メイドが性に合わない私の為に…でも、私は何をさせられるんですか?」
とっても、不安そうなアリーゼ。リュー達は苦笑いしている。
「取り敢えず、酒場でもしようかと」
「ライバル店か?」
ニャーが怒鳴る。
「客層を変える。ニャーのお店は大衆酒場だけど、僕の描いているのは、ショットバーかな。賑やかというより静かに飲めるスペースだよ」
「お酒はどうするんです?」
ルノアが訊いてきた。
「当面は、父さんに仕入れてきてもらう」
「ソーマ潰しですか?」
「あの酒は危険だよ。中毒性はあるし、神以外だと毒性もあるし。かと言ってファンが多い大衆酒だから、廃止にもできないし。だから、本当においしいお酒を広めて衰退させたいんだ♪」
「大義名分はそうなんでしょけど、ロキ様の中毒を治したいだけでしょ?」
シル姉さんから、心を見られたようなことを言われた。「なるほど」ってみんなにクスクス笑われているし。
「ち、ちっ、違います…そんなんじゃ…」
言葉が続かない僕。図星と取られたようだ。
「で、私は力仕事か?」
気を入れ直して、アリーゼに返答する。
「いや、自前でもお酒を作ろうと思っているんだ。その作ってくれる神の手伝いをしてほしい」
「神?誰?」
「バッカスっていう酒の女神さまを、副神にしたから」
「いつの間に?」
「地上に降り立ての処をゲット!って感じです」
「ねぇ、いつから、そんなに手の早い弟になったよ~」
シル姉ちゃんが、少し怒っている。
「父さんから伝授されたというか…」
「ヘルメスか~!お母様から、注意してもらうわ」
シル姉ちゃんの言うお母様はフレイヤ母さんのことである。
「そんなに怒ると、顔に皺ができるよ」
「できたら、フレイに治してもらう!」
僕を睨みながら言う、シル姉ちゃん。
「じゃ、ちょっと、ロキ兄の処に行ってくるね」
っと、その場から逃げるように立ち去る。ロキ兄っていうのは、ロキっていう女神様なんだけど、小さい頃お兄さんと思っていた名残で、そういう呼び方をしている。「ロキ姉」って言おうとは思ってはいるんだけど、当の本人から「ロキ兄でえぇで~」って、言われて、そのままになっていたりする。
ロキ兄のホームの入り口で、門番の人に取り次いで貰えるように頼むと、中に入って良い許可が出た。勝手知ったる他人の家って感じで、ロキ兄の部屋を目指す。
途中でフィンに出逢った。
「良いところに来てくれた。なぁ、フレイ様からロキに言ってくれないか?血の契約の際にセクハラを止めるようにさぁ」
って…ロキの部屋から、女性の喘ぎ声が聞こえる。
「ロキ兄…また、女性の冒険者に?まったく…」
ドアを開けると、ロキ兄はアマゾネスと思われる女性の身体を弄っていた。
「誰や~、契約中は、入って来るなっていうただろ~!」
ロキ兄の怒鳴り声が、僕に向けられた。
「ロキ兄、それってセクハラだよね?」
無断入室したのが僕と分かると、血の気が失せ始めたロキ兄が後ずさりした。
「なんや…フレイやないか…どないしたんや?ははは」
「ねぇ、いい加減そういうこと止めない?知り合いだから、摘発してないけどさぁ…」
「いや…なんや?合意の上やて…な、わかるやろ?」
「血の契約なんか、こうすれば直ぐ終わるでしょ?」
僕は自分の指先を傷つけて流血させて、目の前に立っていた少女の額に、血判を押した。その後、傷を治す為に自分の指を舐める。
「これだけで良いはずだけど…まぁ、血判を押す場所は神ごとに違うけどさぁ…」
ロキ兄と、フィンが唖然として僕を見ていた。なんでだ?
「なぁ、フレイ…新人の子、眷属にしちゃったけど、良いのか?」
フィンからよくわからないことを言われた。僕のファミリアでは、新人さんは募集していないから。
「眷属?なんで…あっ…実演したからか…」
自分のしてしまったことに後悔…あぁ、やっちゃった。呆然としている金髪の女の子。
「まぁ、1年経てば、ロキ兄のファミリアに改宗すれば良いはずだよ」
金髪の女の子の頭を撫でながら、言い訳がましいことを言う僕。やばっ…
「君、強くなりたいんだろ?なら、この契約は正解だよ。ロキよりも良いステイタスが得られるらしいからね」
フィンがフォローをしてくれていた。
「で、何をしに来たんや?」
セクハラ疑惑から話題を変えたロキ兄。僕も話題を変えたいので、それに便乗する。
「良い話と悪い話、どっちから聞く?」
「良い話や~♪」
「ロキ兄のソーマ酒中毒を治す為に、僕が酒場を開く。美味しい酒と美味しいつまみを用意して、静かに飲める場を作るから、ソーマ酒は飲むのを止めてね」
「フレイ…そうまでして、うちの心配を?で、店やるって、ギルドの仕事はどないするんや?」
ロキ兄の感情は顔からはよくわからない。喜んでくれているのかな?余計なお世話かな?
「ギルド業務は、アストレアにまかせた。重大な案件以外は、彼女が処理してくれる」
「…で、悪い話は?」
「滞納している税金を払ってください。これ以上の滞納は、差し押さえです…」
「あれ?この前、払いに行ったんじゃ?」
フィンがロキに睨みを入れた。
「あぁ、あれか…あれは…酒代に消えたでぇ~」
そんなことかと思っていたよ。
「フィン…あと、1ヶ月待つ。稼いで来てくれない?」
「いきなりは無理だよ。遠征準備資金もないし…」
フィンが困った表情をし始めた。
「じゃ、フィンとリヴェリアと僕とで潜ろう。それで稼ごう」
「いつも、すみません…」
ロキ兄の収めるべき税金は、僕とフィンとリヴェリアで稼いでいたり。ここ数年はそんな感じだ。だからこそ、ソーマ酒の中毒を治さないと、いつか、ギルドの主神たる僕は、ロキ兄に罰を与えなくてはならなくなる。小さい頃から知っているロキ兄には、それはしたくないんだけど。
「明日から1週間潜る。フィン、いい?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
僕はその場を去ろうとすると、僕の服を金髪の少女が掴んだ。
「私を一緒に連れて行ってください。あなたのファミリアに入団させられたんですよ」
僕を睨むように見る少女。でも、彼女の放つオーラはどこか懐かしい。どこかで会ったっけかな?
「そうだね。僕のうかつな行動で…まず、装備を整えないと…」
彼女と二人で、ロキ兄のファミリアから立ち去った。で、向かったのは、自宅。ヘファ母さんにお願いをしに。彼女を目にした母さんの目付きは、何か暖かい。気に入ってもらえたのかな?
「明日から、フィン達と彼女の4名で潜るんだけど、彼女に装備を与えたいんだよ。僕のお小遣いで賄えそうな物って、ありますか?」
母さんは無言で、肩当てと胸当て、それにレイピアを出してくれた。
「見たところ、速度勝負なようだ。軽装の方が良いと思う」
って、装備を彼女に装着してくれた。なぜか、採寸したかのように、彼女にぴったりだった。
「それで、行っておいで。もっと良い物が欲しい時は、自分で稼ぎなさい」
って、彼女に助言までしてくれた。
「母さん、ありがとう♪」
ヘファ母さんに抱きつきお礼を言い、ホームへと戻った。
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ホームでは、アリーゼが設計図通りに、設備を設置していてくれた。
「おかえ…り…って、その子はどうしたんだ?」
あきれるように言うアリーゼ。事情を彼女に話した。
「実演した?フレイ…お前なぁ…実演したら眷属になるだろ?」
確かに…反論出来ずに、ひたすら凹む僕。
「で、明日から、彼女と潜るから」
「はぁ?私も連れて行きなさいよ!」
「アリーゼは留守番…」
「異論反論は認めない。付いていくからね。一人で外歩かすと、心配だよ」
心配性だよな、アリーゼは。
「で、その子の名前は?」
「知らない…」
「おい、せめて名前を聞いてから眷属にしなさい!」
もっともです。更に凹む僕。
「君の名前は?僕はフレイ、彼女はアリーゼだ」
「私はアイズ・ヴァレンシュタインです。よろしくお願いします」
---ヘファイストス---
ロキと私とフレイヤで、会合を開いた。
「ロキの処に入団しないで、フレイの処に入団するとは…」
予期していないタイミングでの出会いに、フレイヤ達は驚いていた。
「フレイが連れて来た時は、驚いたよ。まさか、アイズが…まぁ、彼女がいつ来ても良いように、装備を作っておいたので渡せたわ」
「ティオナは、うちに入団したん。いつ、フレイに惹かれるやら」
ロキが嬉しそうに言う。他にも嬉しいことがあったそうだ。
「ロキの為に、ヘルメスに頼んで、海の向こうの大陸から酒を買い込んだそうよ。あなた、中毒を治しなさいよ。あの子はただでさえ忙しいのに、余分な仕事ばかり増やしているんだから」
フレイヤは窘めながらロキを睨む。ギルドに収める税金で飲んだって…その穴埋めにフレイが潜るって、私も看過できないことだ。潜っている間は、添い寝が出来ないじゃないか!
「ロキ、反省だけでなくて、行動も伴いなさい!」
「だな…反省してもしきれんや…」
私達の視線を避けるように、頭を抱えるロキ。
---フレイ---
翌日、迷宮の入り口には、フィン、リヴェリア、昨日入団のアマゾネスの姉妹、僕、アイズ、アリーゼ、リューが集った。アマゾネス姉妹はティオネ、ティオナという双子だそうで、姉のティオネがフィンに一目ぼれしてのロキ・ファミリア入団のようだ。妹のティオナは姉の付き添いみたいな感じかな。戦闘経験が浅いこの二人にポーターを頼んだ。
「で、どこ辺りで稼ぐんだ?」
フィンがきいてきた。
「15~17階」
「ミノタとゴライアスか?」
「途中、パントリーがあれば、おいしいけどね」
「じゃ、18階に一気に降りて、宿を取ってかな?」
「まぁ、そんな感じだけど、アイズに経験を積ませたいから、アリーゼとリューは、彼女のフォローを頼む。フィンは全体のペース配分を頼む。リヴェリアは回復と万が一の敵に対処だな」
そして、迷宮へと入っていった。1~4階では、ゴブリン、コボルドでアイズの経験積みをして、たまに出てくるダンジョン・リザードは僕、フィン、リヴェリアで対処する。
ワンフロア攻略するごとに、アイズのステイタスの更新をし、反省点を伝えていく。そんな鍛え方にアマゾネス姉妹は興味津々のようだ。
「主神が一緒に潜るとそういうことが可能なんですね」
ティオネが訊いてきた。
「可能だけど、主神だと、僕しか潜れないんだ」
「え?なんでですか?」
「僕だけ、地上で産まれたから、特性が違うらしいんだ」
へぇ~って感じで僕を見るアイズと、アマゾネス姉妹。
7階、アイズは『新米殺し』キラーアントに手こずる。僕は毒をまき散らすパープルモスを見つけ次第、屠る。こいつは、僕以外のみんなを危険に晒すから。
10階、ここらに来るとアイズの成長ぶりよりも敵の強さが際だって来る。アイズのフォローだったリュー、アリーゼにも戦闘に加わってもらう。もちろん、フィンにも。でも、リヴェリアは回復の為に、魔力を温存してもらう。僕の回復方法は特殊だから…
11階、レアなインファント・ドラゴンを見つけ次第、僕が速攻で屠る。レアだけにコイツの魔石は高く売れるから。
今日はここに1泊。このフロアは霧が発生して見通しが悪い。敵から身を隠すことができるので好都合である。敵が近づけば、気配でわかるので、大群でない限り、いや、大群であれば、屠りがいがある。テントを張り、女性陣だけ、そこで寝て貰う。僕とフィンは寝ずの番だ。明日18階に着いたら、爆睡は確実だ。
「フィン、まだ足りないよな?」
「足りないです。でも、いつもすみません、フレイ様」
フィンは二人っきりの場合は様付けで呼んでくる。
「いいって。ロキ兄は、僕にとって大切な兄さんだもの。女神だけどね♪」
「フレイ様は、神様の中で、一番働いていますね」
「そうなのかな?僕はヘファ母さんの方が働いているって思うけどね」
「いつか、俺もフレイ様の…」
「今のままでは不満かい、フィン?」
「まぁ…主神があんなんですから」
「酒好き、女好きの女神だもんな…破天荒でいいなぁ。僕なんか、なんにも面白みがないよ」
「でも、他の神様のことを考えてくれている。そんな神様は、フレイ様以外いないですよ」
フィンの眼差しが熱い。
「まぁ、ギルド主神だからね。隅々まで目を届かせないといけないんだ。ただそれだけ。つまらない男だよ、僕はね」
「何?男二人で熱い会話しているの?たくさんの美女が無防備に寝ているのにさ」
リヴェリアが笑いながら、話に加わってきた。僕の隣に座り、頭を僕の肩に、ちょっこんと載せた。
「無防備に寝ていても、どうすれば良いのかわからない」
苦笑いする僕。
「フレイさ…フレイらしいなぁ」
リヴェリアがいるので、様付けを止めたフィン。
「リヴェリア、寝ないで良いのか?明日は回復が忙しくなるぞ!」
13階には好戦的なウサギのアルミラージ、『放火魔』の異名を持つヘルハウンド、大ミミズのダンジョン・ワームがいる。コイツらは結構手強い。
「ヘルハウンドはフレイにおまかせだな。アレは、大怪我の元だ」
僕の頬に時折り、リヴェリアの耳が触れる。なんとも、気持ちが良い。彼女流の誘惑らしい。
「アイズにはウサギさんだな。今の彼女のAGIなら、行けそうだよ」
「え?そうなると、俺がミミズですか?」
困った表情をするフィン。ミミズは誰でも嫌だよな。ドロップは諦めて、魔石を一撃にしたいな。
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翌日、テントを畳み、簡易的な食事をして、更に下層へと足を踏み入れた。13階は予定通りの布陣で挑んだ。
15階、ミノタウロス。1体2体なら、アイズでも行けるみたいだが、大群が発生すると、僕が前線に出て、2体くらい残して殲滅をする。
17階、どう猛なライガーファングとゴライアス。どちらも強敵である。ポーターの二人を護りながら、全員で倒しにかかる。
で、どうにか18階にある安全地帯に到着。『リヴィラの街』に入り、まず宿屋で部屋を押さえる。僕が先導して、怪しい雰囲気のある通りの宿に、みんなを誘導した。
「ここなら、安全だ」
「え?ここは危険地帯でしょ?」
フィンですらビビっている。
「危険地帯だから、安全なんだよ、フィン。変なヤツでも、ここには寄りつかない。マスター、部屋空いている?」
宿屋のマスターに空室状況を確認した。
「若くらいですよ、こんな場所に泊まりに来るのは。ははは」
「4部屋でいいかな?アマゾネス姉妹、リューとアリーゼ、リヴェリアとアイズ、フィンと僕でさぁ」
アイズが僕の服の裾を握り絞めている。フィンがそれに気づき、
「俺とフレイは別部屋の方が良いかもな。男同士だと、ちょっと嫌かも」
って、気を利かせてくれた。
「この通りでは、僕と一緒なら安全だけど、僕がいない状態だと命の保証はできないからね」
って、一応忠告はして、5部屋を借りて、それぞれの部屋に入った。
僕の部屋に一緒に入ったアイズ。
「どうしたいの、アイズ?」
「一緒にいたい…ただ、それだけ…」
いるだけならいいか。僕は血まみれになった身体を洗う為に、お風呂に入る。脱衣室で衣服を脱いで、風呂場に。スポンジで石けんを泡立てて、身体の汚れを落として、湯船に身体を沈めた。あぁ、まったりと、良い気分だ。
そこに全裸のアイズが入って来て、身体を僕同様に洗い、僕の目の前に立った。
「私って、魅力が無いですか?」
「あるよ」
「でも、何もしないんですね?」
「そんな所に立っていると冷えるよ。湯船に入ったら」
僕の言葉で、湯船に一緒に入るアイズ。
「傍に居ると、心が温かくなるんです。後、何か懐かしい気がするんです」
「僕も懐かしい気がするんだけど、どうしてかな?」
「…」
そのうち、アイズの寝息が聞こえてきた。疲れたんだね。僕は彼女を抱いて、お風呂場を出て、彼女の身体の水気をタオルで拭い、彼女をベッドに横たえた。
そして、衣服を着て、ソファでまったりしていると、ドアがノックされた。
「誰?」
「アリーゼだよ。リューもいる」
ドアを開けると、二人が入って来た。
「うん?お姫様はお風呂場で爆睡?」
アリーゼに訊かれた。
「そういうこと。で、食事かな?」
「うん♪フレイ抜きだと危険だから。食事に連れて行ってよ~」
アリーゼが甘える様に言う。その姿をリューが見て笑っているぞ。
「リュー、アイズを起こして、衣服を着せて」
頷いたリューは、アイズを起こしに行く。
「そうだ。今日の分を換金しないとなぁ。アリーゼ、フィンにそう伝えて」
「了解♪」
アリーゼはフィンの部屋に向かった。