---ベート---
翌日、兄貴と俺、アイズの三人で街へと戻って来た。
「兄貴、今日の予定は?」
「う~んと、リューに会うのと、換金と、ギルドで登録と、薬と食材の買い込みかな」
兄貴はメモを見ながら、俺達に伝えた。
「ねぇ、お兄ちゃん♪私、食べたい物が有るんだけど…」
甘えるというより、子供っぽい言い方でアイズが、兄貴にお強請り。少し困ったような表情の兄貴。アイズという娘にタジタジのオヤジという構図に見える。さしずめ、俺はアイズの兄って構図かな?
「何かな?」
「ジャガ丸くん♪」
「わかった。じゃあ、まず換金だな。お金が無いと何も出来無いからな」
「兄貴、ギルドが先じゃないのか?」
メモを見ながら、行き先を訂正する俺。
「あぁ…そうだ、ギルドで換金が出来たよな。よし、ギルドにゴーだ」
ギルドに行き、受付でファミリアの申請をした。
「え?剣姫さんとベートさん…改宗ですか?」
頷く俺と笑顔のアイズ。こうして、ファミリアの再認定、改宗手続きをつつがなく終了。
「で、これを換金したいんだけど」
兄貴は、懐から袋を取りだし、中身を見せた。
「これって…ちょっと、お待ちください」
中身を受取り、奥へと走り去る受付の人。しばらくして、戻って来たが、
「申し訳ありません。これはギルドでは換金できません。ヘファイストス・ファミリアで換金してください」
と、中身が兄貴に返された。
「そうなのか…ベート、ヘファイストスと面識は?」
「無いです」
「私も無いです」
役立てなかったアイズは、寂しそうだ。コイツ、こんなに表情が豊かだったっけ?今まで猫を被っていたのかな?強くなる為に、自分を殺して…俺もそうだった時期が有るし…
「う~ん、昔のツテを頼るか。紹介状を書いてもらおうっと♪」
「兄貴、換金の時に、一々紹介状は要らないぞ」
俺の言葉に笑顔を返す兄貴。
「ベート、初めての取引きだ。アストレア様の顔に泥を塗らないように、礼儀を大切にしないといけない。ロキ・ファミリアでは、どうだったか知らないけど、うちは初めは肝心だと思っている。いいな、二人共。イヤならロキの処へ帰れよ」
昔と変わらない兄貴。引き締める時は引き締めて、それ以外はのらりくらりだ。俺とアイズは頷いた。追い出されるのはイヤだから。二度と兄貴と離れ離れになるのはゴメンだ。
「昔のツテ…どこにするかな…あっ、久しぶりに顔を見に行くかな」
兄貴の後を、俺とアイズが付いて行く。で、着いた先はバベルだった。
「ここに誰がいるんですか?」
俺の問いをスルーして、奥に進み、エレベーターで上階を目指す。降りたのは最上階だった。バベルの最上階って…イヤな汗が滲んで来る。ここって、あの恐い女神のプライベートルームだったはず。ドアをノックして中に入る兄貴。
「お~い!フレイヤ~いるかぁ?」
予想的中…それも名前呼びだし…大丈夫か、兄貴は…
「貴様、誰だ?」
フレイヤ・ファミリアの団長、オッタルが現れた。この街最強の猛者だ。俺とアイズ二人でも勝てるかどうかのレベルの相手では有る。
「おや…ハナタレか?立派になったなぁ♪」
おい、オッタルをハナタレって…それはダメだよ、兄貴…
「誰がハナタレだ~!貴様は何者だ?」
怒り心頭で、尚かつ警戒しているオッタル。
「アストレア・ファミリアのファルコンが来たと、フレイヤに伝えてくれ、ハナタレ坊や♪」
驚いた表情のオッタル。あれ?まさか、お前もなのか…
「え…エフの兄貴…生きていたんですか?」
オッタルの顔から血の気が引いていく。そして、後ずさりして…
「あぁ…どうにかな。立派になったな、本当に。良かったな、こんなに立派な顔付きになって、オッタル♪」
オッタルの頭を優しく撫で始めた兄貴。兄貴って、どんな人脈で、どこにパイプが有るのやら…
「オッタル、何を騒いでいるの?」
部屋の奥から、この部屋の主の声がした。オッタルの主神、フレイヤ様が俺達の前に現れた。兄貴の顔を見ると、毅然とした表情が崩れ、まるで少女のような穏やかな顔になっていく。
「生きていたの?ファルコン…」
「あ…ただいま、フレイヤ。心配を掛けたかな?」
兄貴に抱きつくフレイヤ様。閉じた目の目尻から涙が…
「心配したわ。パス・パレードを喰らって、生還しなかったって聞いたし」
兄貴とこの女神はどういう関係だ?アイズも、この展開を予想してなかったのか、ぽっか~んっとした表情で、成り行きを見守っていた。
「アリーゼがボロボロだったから…修復に時間が掛かっちゃってなぁ。魔力の上限を上げておかなかった僕のせいだよ」
兄貴がフレイヤ様の額に額を当てている。フレイヤ様は、そんな兄貴の口を奪う。激しい口づけ、これがディープキスって言うヤツか?兄貴がフレイヤ様の両肩を優しく押し、距離を取ると、兄貴の口からフレイヤ様の舌が出て来た。
「ディープキス…」
囁くような小さな声で、真っ赤な顔になったアイズが呟いた。コイツ、こんな表情も出来たのか?なんか、兄貴と一緒にいるようになって、アイズのイメージが壊れていくぞ。
「フレイヤに頼みがある。ヘファイストスに換金を頼みたいが、会ったことないので、紹介状を書いてくれないかな?」
「いいわよ。ちょっと待ってね」
フレイヤ様が、すぐに紹介状を書いてくれたようだ。
「ねぇ、また来てくれる?」
フレイヤ様が、指で兄貴の胸元をこねている。こんな仕草をするんだ…怖いイメージの女神様だったけど。
「街に住んでいないから、毎日は無理だよ」
「えっ…住んでいないの?」
「アストレア様は追放の身だ。追放処分が解除されないと、僕だけここに住む訳にはいかないよ。わかるだろ、フレイヤ」
兄貴はフレイヤ様の頬に、自分の頬を合わせた。まるでフレイヤ様を魅了しているような感じだ。
「うん♪わかったわ。アストレアの身分を、回復できるようにフォローするわよ」
「ありがとう、フレイヤ♪街に住めるようになったら、2日に1度くらい来ようかな」
「いや…そのね…4日くらいに1度がいいなぁ。ファルコンは激しいから…」
顔を紅潮させて俯いたフレイヤ様。兄貴…魅了の女神様に何していたんだよ~
「わかった。フレイヤの都合になるべく合わせるよ」
兄貴はフレイヤ様の額に口づけをして、紹介状を手にして部屋を出ようとした。
「待ってくれ。エフの兄貴、俺と手合わせをしてくれ」
オッタルが兄貴に申し出た。
「うん?僕なんかでいいのか?引退した戦士の僕より、アイズとかベートの方が良いんじゃないの?」
「えっ…なんで、お前らがいるんだ?」
オッタルは兄貴の発言で、俺達の存在に気が付いたみたいだ。兄貴が居ると、俺達はモブ扱いか…ははは
「う~、いや、兄貴とやりたい。兄貴に勝てれば、俺はこの街一の猛者って名乗れる気がする。で、万が一負けたら、兄貴の元で鍛錬をさせてください」
そういや、兄貴の戦っているところって見た事がないなぁ。俺達を助けてくれた時は、俺達は意識が無かったしな…興味はある。
「わかった。ハンデは無しで良いのか?」
「もちろん、使える力は全て使ってください」
「フレイヤ、屋上を借りるぞ」
屋上?ここって、そういうのがあるのか?兄貴は、勝手知ったる他人の家って感じで、屋上へと階段を昇っていった。
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屋上、バベルの最上部故、街が一望できる。
「ここでよくヤッたよな、フレイヤ♪」
兄貴の発言に頬を赤らめるフレイヤ様。あん?ヤッた?何を…まさか…おぃおぃ…
「そうね。満天の星空の下でのプレイ。最高だったわ。懐かしいな…ここではファルコンとしかプレイしない事にしているの。想い出が汚れるのが嫌だからね」
って、紅潮させた顔を俯かせた女神様。
「あぁ、フレイヤ。殺さない程度で良いのか?それとも…」
「殺さないで、私の処の団長なのよ、彼は今…この償いは私がしますから。だから、お願い、ファルコン…」
「わかった。フレイヤ、コイントスを頼む」
兄貴とオッタルが向かい合い、フレイヤ様がコインを上にはじき、コインが地面に落ちて、手合わせが開始された。開始早々、兄貴が呪文を唱えた。
『ファイヤーミスト(火の粉の霧)』
オッタルは霧に飲み込まれ、霧の中では時々赤い点が見える。次第にオッタルのうめき声がしだし、地面に崩れる音がした。兄貴が手を払うと霧が無くなり、全身火傷を負ったオッタルが、痙攣して倒れていた。
「微細な火の粉が飛び交う霧だ。地味な攻撃魔法だけど、タイマン勝負だと威力は絶大だよ」
あの赤い点って火の粉なのか…
兄貴が左手をオッタルに翳すと、薄緑色の光にオッタルが飲み込まれて、光が霧散すると火傷がほとんど治っていた。
「フレイヤ、すまない。今の僕には、ここまでしか治せない」
「いいわよ。コイツが身の程知らずな事をしたんだから。手間を取らせて、ごめんなさい」
フレイヤ様が兄貴に頭を下げた…女神って謝ることをするのか…
「じゃ、またな。フレイヤ♪」
フレイヤ様の頭を元の位置に戻し、唇を重ねた兄貴。女神様の細い腕が、兄貴の首を抱き締めた。その腕を優しき振りほどき、手を上げてその場を後にした。
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そして、兄貴と俺達はヘファイストス様のホームへと向かうことにした。
「ねぇ、お兄ちゃん♪あの屋台だよ。ジャガ丸くん♪」
兄貴の腕に縋りついて歩いていたアイズが、屋台を指差した。
「換金前だから、あまり持っていないけど…これで足りるかな?」
ポケットから小銭を出して、アイズに見せる兄貴。
「大丈夫♪足りるよ~」
で、兄貴が屋台で一人分のジャガ丸くんを買い、アイズに渡した。
「ありがとう、お兄ちゃん♪」
おいしそうに食べるアイズ。幼さ全開の無邪気なアイズを見ていると、恋愛対象って言うより、妹みたいな存在になり始めている。それも悪くないかなって、思える自分に驚くけどな。