---フレイ---
朝、目覚めるとアイズお姉ちゃんも、アリーゼも、昨晩添え寝をしてくれたリヴェリアも、他のみんなもいなくなっていた。いたのは、僕の知らないおじいさんだけだった。
「目覚めたか。お前と共に暮らしていた者達は、再び記憶を弄り、地上に戻しておいたからな。お前は魔王って自覚が無いのか?」
見も知らぬおじいさんに怒られる僕。なんで?
「おじいさんは誰?」
「誰でも良いじゃろ?お前は知らないで良い」
「再びって?」
「初めて、この部屋の扉を開けた時も、お供の者と地上の者達の記憶を弄り、お前のいなかった世界にしたのだ。今回も、リヴェリアとアリーゼは閑古鳥の店員、リューは豊饒の女主人の店員、アイズとティオナはロキ・ファミリアに戻した。くれぐれも、この者達に接触はするなよ。同じ事の繰り返しになるからな」
すごく横柄なおじいさん。
「良いか?お前の今後のシナリオは、既に出来ているのだ。天上界の神々が創ったシナリオ通りに、生きろ!良いな?」
「シナリオ?」
「そうじゃ。お前は、いずれ来る勇者に討たれるのじゃ。そして、その勇者は地上に戻り、英雄となり、地上の者達に、平和と幸せを届ける。お前の姉シルを嫁にし、お前の母親にかわいがられ、お前の好きなアイズ、ティオナを愛人にして、幸せな一生を終えるのだ。そして子々孫々、英雄の血族が地上を平和の名の下に、支配するのだ。あと、英雄の仲間の一人はヘファイストスと結婚をし、これも幸せになる、良いか?お前は前世で酷いことをし尽くしたのだ。そのことを踏まえろ!」
僕が勇者に討たれれば、みんな幸せになるのか…
「いいか、優しさを捨て、地上の者達に恐怖を与えろ。それが、魔王となるお前の使命だ」
姉ちゃん達に恐怖を?無理だよ。いや、やりたくない!
「やだ!」
困惑しているおじいさん。
「何故?お前は魔王なんじゃぞ」
それが、おじいさんが発した最後の言葉となった。
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誰も僕を知らない地上で、買い物。アイズお姉ちゃん達とすれ違うも、僕をスルーしている。記憶に無いんだね。おじいさんの言う通り。デメテルのお店でバターを購入して、その後、閑古鳥に向かう。
リヴェリアとアリーゼが、開店前の準備をしていた。リリはいなくなったのか…彼女達の動きをぼ~っと見ていると、後ろから声をかけられた。
「フレイ…フレイだろ?」
僕のことは、みんな忘れたんじゃないの?振り返ると、父さんがいた。
「父さん…記憶を弄られたんじゃないの?」
「アスフィに、記憶を弄られないようにする装置を創ってもらった。だから、俺とシルはお前を覚えている」
父さんと姉ちゃん…だから…
「どうしていたんだ?」
僕は父さんに、今までのことを話して、助言を求めた。
「あぁ、なるほどな。その爺さんの顔はどんな感じだった?」
僕はバックパックから、おじいさんのデスマスクを出して、父さんに見せた。
「お前…殺したのか…コイツは、勇者になるベルってヤツの育ての祖父をしていた神だ」
「じゃ、シナリオ通りにしていたんだね」
「そうなると、天上界の神を説得して、シナリオを変えてもらうか?」
僕はバックパックから3つのデスマスクを取りだし、父さんに見せた。驚く父さん。
「お、お前…天上界の神達を全員、殺したのか…」
「だって、父さんと母さんの悪口を言うから…僕のことは我慢出来るんだけど…」
考え込む父さん。
「その三名を殺したってことは、天上界へ行けるのか?」
頷いた僕は父さんと天上界へと向かった。
---ヘルメス---
天上界には誰もいなかった。天界と同じ様なシステムだったはず。シナリオを弄れるかを試すが…ダメだった…しかし、シナリオの全貌は見られた。これは…こんなことの為に、フレイは犠牲に…フレイには言えない本当の原因…並行世界の俺とフレイヤの為に…維持神を殺したってことは、シナリオによると、コイツ、神のくせに転生するのか…どうにかしないと、地上は地獄になる…
「フレイ…シナリオは変えられないが、お前が自由に生きれば、シナリオに狂いが生じるかもしれないぞ」
「父さん、シナリオ通りでも良い。でも、シル姉ちゃんと結婚をする英雄が、愛人を持つことだけは許せない!」
フレイが珍しく、怒りを露わにしている。その割に、暖かいオーラが出ているのが、不思議だ。これでは魔王になれないだろ?お前は…
「父さん、僕はどうしたら魔王になれるの?」
「なったことが無いから、わからない。知り合いに魔王もいないし…」
悩み始めた息子、フレイ。なりたくて、なれる者では無いんだが。
「どうすれば、恐怖を与えられるの?」
「与えたことがないから、わからない」
「僕…どうすれば良いの?」
俺に縋りつき、泣きわめき始めたフレイ。どうにもならんな…あの爺、余計な事に手を貸しやがって…今は亡き神を恨む俺。
---フレイ---
困った時は頼って良いって、父さんに言われて、その場で別れた。腹が減ったし、豊饒の女主人で食事をすることにした。店は繁盛していた。リューにカウンター席へと案内され、オーダーをした。しばらくすると、オーダーしたした品と、オーダーしていない、いやメニューに無い料理が目の前に置かれた。
「タコさんウィンナー、フレイ、好きだったよね♪」
シル姉ちゃんだった。
「ありがとう…姉ちゃん…」
「閉店後、私の部屋に来て」
奥に戻る前に、僕の耳元へ、誰にも聞かれないよう押し殺した声で囁いた。
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閉店後、姉ちゃんの部屋に灯りが灯った。僕は姉ちゃんの部屋へと向かった。
「フレイ♪」
僕の顔を見るなり、僕に抱きつく姉ちゃん。
「さぁさぁ、脱ぎなさいよ。今夜はたっぷりと、スキンシップだよ♪」
って、僕の服を脱がせ、姉ちゃん自身も脱いだ。そして、ベッドで添い寝状態に。姉ちゃんの耳元に囁くように、これまでの事を話した。
「うん?私はフレイとしか結婚しないよ」
うん?それダメでしょ?
「弟だよ、僕は…ダメだよ、結婚はさぁ」
「あぁ、母親が同じだもんな。じゃ、アイズと結婚しなさい。私は愛人になるから」
「愛人ならいいの?」
「うん♪」
嬉しそうな姉ちゃんの顔を前にすると、受け入れるしかない気がしてきた。
「でも、僕…勇者に殺されるよ…」
「う~ん、一緒に違う国に逃げよう。そうだ、そうしよう。ヘルメス様に相談してみるね」
駆け落ちってヤツ?それは悪いことなのかな?それなら、いいかな。
「これから毎晩、通える?」
「難しかな。毎日は地上に転移できないかも」
「そうか…じゃ、どこか、逢い引きできる場所も探しておくね♪ここだと、ミア母さんにバレると、うるさいから」
姉ちゃんは、僕のアレを自分の中に収納した。その為、僕と姉ちゃんの胸は密着した。
「フレイの感触…変わらない。うん、心が休まるよ♪」
目を瞑り、自分の頬を僕の頬に密着させてきた。僕にとっても心が休まる瞬間である。しばし、そのまま、お互いの感触、臭い、オーラを感じ合った。突然、ドアが開けられるまで…
ガチャ!
ドアが突然開けられて、ニャーとリューが入って来た。
「シル、どういうつもりだ?男を連れ込むって…説明しな!」
ニャーに、突然質問をされ、姉ちゃんは膣痙攣をおこしてしまった。
「姉ちゃん、深呼吸して。僕が治す」
回復器官は既に入っているので、念じることで回復用のオーラを、シル姉ちゃんの膣内に放出していく。
「ありがとう、フレイ」
姉ちゃんは立ち上がり、僕を護るように、たちはだかった。
「この子は、私の弟、フレイです。なんで、忘れちゃったのですか?」
「フレイ?」
怪訝な顔をするニャーとリュー。
「いいよ、姉ちゃん…接触しちゃダメだから…姉ちゃん、ありがとう。幸せにね♪」
僕は、その場から服と共に転移をした。
---リュー---
「シル、あいつは本当に弟なのか?シルに弟がいるなんて、聞いたことが無いんだけど」
項垂れて泣いているシルに声をかけた。あの少年が転移して消えて、シルは彼のいた場所を見つめて泣き始めてしまった。
「なんで、想い出してくれないの?ねぇ、リュー。あなたは、フレイに恩があるはずよ」
恩?シルに恩はあるが、フレイという者は知らないのだが。
「いい、リュー。あなたが乱暴を受けて助けたのは私じゃなくて、フレイよ。私には回復のスキルが無いんだから」
看病してくれたのはシルでなかったのか?
「パスパレードの時、助けたのは私でなくて、フレイよ。私には戦闘能力なんか無いんだから」
勇猛果敢に戦ってくれたのは、シルでなかったのか?
「ミア母さん、あの子はニャーっと言って、慕っていたのよ。なんで忘れちゃうのよ~」
シルはヒステリーの発作をおこしたように、パニックに陥っていた。そんなシルを抱きしめて、落ち着かせるミア母さん。
「もういい…シルは嘘を吐く娘で無いのはよく知っている。だが、フレイという者は、記憶にないんだ」
「なんで~。酷い…あんなにみんなの為に動いていたのに…それなのに、殺すなんて…酷すぎる…」
私の記憶にも無いんだ…ごめん、シル。
---フレイ---
何をしていいのか、わからない僕は、ダンジョン内のモンスターの皆殺しを開始した。60階から地上に向かって進軍をして、疲れたら部屋に戻るを繰り返した。何百回繰り返すと、ダンジョンが学習したようで、モンスターの出現頻度が減ってきた。
部屋にはドロップ品がたくさん貯蔵されるようになった。一人住まいでは広すぎる部屋なので、余裕で山積みにしてある。いずれ来る勇者への土産にするかな。魔王のお宝ってことで。
モンスター退治が飽きてきたので、久しぶりに地上に転移した。しばらく、歩いていると、エルフの少女が、乱暴されかかっていた。僕は、迷わず、乱暴している輩を全員屠る。人殺しは悪いことだったはず。これで良いんだなって、満足げに帰ろうとしたのだが、エルフの少女が僕の手を握ってきた。
「ありがとうございます。こんなに汚れて…う~、ちょっと来てください」
少女に手を引かれて、人目に付かない道を連れ回されて、一軒のアパートに連れて行かれた。ここって、記憶にあるんだけど…そして、記憶にある部屋に連れ込まれた。
「ここは、ファミリアの先輩が借りている部屋なんです。うちのファミリアはお風呂事情で、ゆっくり入浴できないから…で、ここはゆっくり入浴する為の部屋なんです」
そうだった。そういう理由で借りていたよな。遠い昔の記憶に浸っていた僕の服を脱がせていく少女。
「お風呂に入ってきてください。その間に、服と装備を綺麗にしておきますから」
って。彼女からは腹黒さは感じない。って、いうか、この部屋の持ち主が腹黒いヤツに貸す訳がないし。僕はお言葉に甘えて、入浴をした。お風呂から出ると、服も装備も綺麗になっていた。
「ありがとう…こんなに綺麗にしてくれて」
僕は、少女にお礼を言った。
「いえ…助けてもらったのは、私の方ですし…この装備なんですけど、ヘファイストス様のお手製ですか?」
僕のガントレットを見て、尋ねてきた。僕は服を着ながら、会話を続けた。
「うん、そうだよ」
「凄い…一体いくらするのやら…」
「値段?わからない。貰った物だからね」
「収納されているナイフ2本もそうですよね?」
「それも貰った物だから、わからないよ」
「ヘファイストス・ファミリアの方ですか?」
僕を羨望の眼差しで見る少女。
「違うよ。どこのファミリアにも入っていない」
「えっ…入っていないんですか?なんで…」
魔王だからって言えないよな…どうするかな
「ソロだから…迷惑を掛けたくないからね」
「そうなんだ…」
驚いたような表情の彼女。そうだ、彼女に得物を創ってあげようかな。僕はバックパックから、魔石と鍛冶ハンマーを取り出して、彼女をイメージして打った。出来たのは、短剣だった。僕の鍛冶仕事を興味深そうに見る少女。
「これ、プレゼント。砲龍の魔石3個使っているから、ヘファイストス製並のはずだ」
更に驚く少女。
「砲龍の魔石?貴重じゃないですか、それも3個も?」
「いっぱい有るからいいよ。もらってほしい。効果は念じて振れば、狙撃ができる。地上では試さない方がいいかも」
威力がデカすぎたかな。まぁ、護身用にだ。
「ちょっと、ごめんね」
「えっ?」
彼女の指先に針を刺して、彼女の血を短剣に与えた。その後、指先を舐めてあげた。
「これで、この短剣は君に帰属した。君にしか使えない」
装備を装着して帰る準備をしていく。
「あのお名前を聞いて良いですか?私は、レフィーヤ・ウィリディスです。ロキ・ファミリアに所属しています」
「僕はフレイ・フローヴァです。また、どこかで会いましょう。今日はありがとうございました」
僕はドアを出ると直ぐに転移をした。
---レフィーヤ---
フレイともっと話したかった私は、ドアを開けて彼を呼び止めようとしたのだが、煙のように彼は消えてしまった。何者だったのかな?彼にもらった短剣を腰に装備をした。どんな威力なんだろう。天に向けて、念じながら振ってみると…天空へと狙撃をしていた。天界の神様は大丈夫かなってくらいの威力だ。街行く人達が、空を見上げている。咄嗟に窓から身を隠した私。
いいのか?こんなに凄い得物を貰ってしまって…助けて貰ったのは私の方なのに、お礼を言って帰って行った彼。何か凄い罪悪感が…あぁ~。
ホームに戻り、主神のロキ様に相談をした。彼の名前を聞いて、言葉が詰まるロキ。
「えっ…フレイ…あぁ…そうか…そうやったな…。もらっときや、レフィーヤ。お前に帰属しているんであれば、お前しか使えへんし」
「でも、こんな値段の付かないような物を…」
「あいつの腕は確かや。たぶん、ヘファイストスの次にええモンを創るでぇ~♪」
「あの~、彼とは知り合いなんですか?」
「あぁ…遠い昔に知り合いやった。今、名前を聞いて、想い出したんや。そうか、元気なんやな。レフィーヤ、アイツの事は深い追いするな。アイツが苦しむだけやからな」
ロキは遠い目をして、昔を懐かしんでいるようだった。
---フレイ---
また、モンスター狩りに飽きて、地上へと転移をした。ダンジョン住まいにとっては、太陽の日差しは目にしみる。日陰で慣れてからでないと、目が開けられないや。日陰で目をつむり、太陽の光に徐々に慣れていると、
「フレイ…見つけた~♪」
って、声がして、抱きつかれた。誰だ?胸の柔らかさを背中に感じた。
「今日も、私につきあってくださいね。この前のお礼をしたいです」
って…この前?あ…あの時のエルフの少女か?徐々に目を開けると…レフィーヤとアイズお姉ちゃん、ティオナお姉ちゃんがいた。
「この子?レフィーヤの彼氏って?」
アイズお姉ちゃんから言われた。あぁ、この子扱いなんだね。少し寂しい気がした。
「いえ…彼氏では無いです。恩人ですよ。アイズさん♪」
「ふ~ん、恩人かぁ。どこで知り合ったんだ?」
他人行儀なティオナお姉ちゃん…この場にいるのが辛い。でも、レフィーヤに抱きつかれていて、転移ができない。どうしよう。
レフィーヤがアイズお姉ちゃん達との会話をしだして、抱きつく力が緩んだので、もうダッシュしてその場から逃げる。どこをどう逃げたかが、わからないくらいだよ。でも、目的地は決めてあった。困ったら、父さんの処だな。
ヘルメス・ファミリアのホームに逃げ込んだ。
「よぉ、フレイ。どうしたんだ?そんなに急いで。まるで逃げ込んだみたいじゃないか」
って、父さん。僕は、逃げ込んだ経緯を話した。
「それは災難だったな…だって、ロキ」
「あぁ、フレイ、すまんな。アイツらが迷惑をかけたようで」
って、ロキ兄が話しかけてきた。え?記憶は?
「レフィーヤから、フレイの話を聞いたら、想い出したんや♪忘れていて、すまん」
「そうなんだ…ね、僕を殺して、ロキ兄…」
「出来る訳無いやろ?フレイを殺すなんて…」
僕を抱きしめたロキ兄。
「どうするかな。このままじゃ、フレイが心配だ」
「もう地上に来ない方が良いかな、父さん」
「いや、もっと出て来いよ、フレイ。そうだ、ここにお前の部屋を作ろう。うんうん。そこに転移して来い。アスフィに言えば、シルを呼びに行かせるようにするからな」
僕の頭を優しく撫でてくれる父さん…
---レフィーヤ---
抱きついていた力を緩めた途端、逃げ出してしまったフレイ。
「恥ずかしがり屋かな?彼氏は♪」
冷やかし気味に言うティオナさん。
「ベルより速そうだな、彼は。お手合わせしてみたいな」
獲物を見つけたような目付きのアイズさん。
「フレイはあげませんよ!」
きっぱりと言っておく。他の事は譲るけど、こればかりは譲れない。私の恩人だし。私の王子様…きゃはっ♪
「それよりも、ヘファイストス様の処に行こうぜ。ソレの価値を見てもらおう」
って、私の手を引っ張っていくティオナさん。アイズさんが後に続く。確かに、本来の目的はソレでしたけど、価値を見極めるって、作り手に失礼だと思う。って、ティオナさんに、アイズさんに、そんな事は言えない私。
ヘファイストス様のホームに着き、鑑定をお願いした。得物を手にして、目の色が変わるヘファイストス様。
「こっ、これは…おい、誰がこれを作ったんだ?」
怖い顔のヘファイストス様が私に迫ってきた。
「え、えっ…フレイ・フローヴァって言う男性です…」
「フレイ…あぁ…フレイなのか…なぁ、フレイはどこにいるんだ?おい、答えろ!」
え?いきなり、胸倉をヘファイストス様に掴まれた私。フレイの名を聞いて豹変したようだ。アイズさんも、ティオナさんも突然のことで、どうして良いか、わからないようだった。
「あ、あの…先程まで一緒にいたのですが…どこかに行っちゃいました」
「そうか…突然、すまない…」
掴まれた手は力無く離れた。ヘファイストス様の声にも力は無くなっていた。
「どうされたんですか?彼は何者なんですか?ヘファイストス様に頂いたというガントレットとナイフを2本、お持ちでしたけど」
「そうか…あの子は、肌身離さず持っていてくれたのね」
ヘファイストス様は、喜んでいるような表情をされた。
「フレイは何者なんですか?」
再度、尋ねてみた。
「お供の二人に訊いてみろ。彼女達の得物もフレイの作った物だ」
アイズさんとティオナさんが、お互いの顔を見合わせて驚いている。
「あの子の作った物で、コレが一番良い。私を超えたかもしれないな」
「彼は?」
「私の一番弟子だ。実の子供のようにかわいがっていた…レフィーヤだったな、その短剣は大事に使え。あの子の遺作になるかもしれないから」
ヘファイストス様は、部屋を出て行った。
---ヘルメス---
今日は珍しい客が多い日だ。ロキが来て、フレイが来て、今度はヘファイストスか。
「フレイは?」
「お前も思い出したんだな。奥にいる」
奥の部屋にヘファイストスを連れて行った。フレイを見るなり、抱きつき、涙する彼女。
「フレイ…ごめんなさい…忘れていた愚かな母を許して~」
「ヘファ母さん…想い出してくれたんだね」
フレイもヘファイストスに涙を溢しながら、抱きついた。
「神はフレイの名を聞けば、想い出すのかもしれないな。問題は、神以外だな」
アイズとティオナだけは、フレイのことを想い出して欲しい。フレイの父親としての願いではあるけど。殺し合う寸前で想い出しても、局面が混乱するだけだろうしな。このまま行けば、確実にベルのお供はロキ・ファミリアだろうし。
ロキが心配そうに俺を見ている。
「こちらでも考えてみるから、そう心配そうにするんやないでぇ~♪」
ロキの軽口に救われる俺。そうだな。一人で抱えても解決出来ないだろうな。
「ねぇ、父さん…ヘファ母さんに幸せになってほしいから、僕を…」
「ダメだ!フレイ!」
息子が最後まで言う前に、言葉で遮った。どういうことって表情で、ヘファイストスが俺を見ている。俺は、彼女にこれからの事を話した。
「フレイ…私はお前が居れば、それだけで幸せなんだよ。だから、変な事を考えないで、ねぇ、お願いだから」
泣きながら、フレイに縋るヘファイストス。彼女の本心だろうな。天上界のクソ神の創ったシナリオは間違っているはずだ。でも、最終的に起きる出来事は必要ではある。どうすれば良いんだ…
「父さん、僕、どうしたら良い?また、ヘファ母さんを…怖いんだよ…」
俺を見るフレイの顔は、青ざめていた。毎日一人で、恐怖と戦っているのか、封印の間で…
---レフィーヤ---
アイズさんとティオナさんが考え込んでしまった。二人共、得物を入手した記憶が曖昧なようだった。
「そうだよね。ヘファイストス様製のアーマーとレイピアをどうやって手に入れたのか、考えてもいなかった。あと、もう1本のレイピアも」
「私もこの剣をどうやって手に入れたんだろう?思い出せない…」
ティオナさんの剣は、斬ることも叩くことも出来る、不思議な形状な剣であった。同じタイプの剣が無い上、ティオナさんに帰属していた。そう、私の短剣のように。
「彼は何者なんだ、レフィーヤ?」
アイズさんに訊かれるも、答えを持っていない私。
「わかりません。私も知りたいです。アイズさんのアパートで、作ってくれたんです。あんなに手軽に作って、こんなにも強烈な得物って有るんですね…」
「そういえば、ティオネの得物も、同じタイプの物を見た事がないや。あれもそうなのかな?」
ティオナさんが独り言のように言った。あぁ、あれは不思議な弓ですよね。矢が無くても放てる不思議な弓。
「なんで、思い出せないんだろう…」
アイズさんの姿は痛々しかった。目を真っ赤にして、謎の作者のレイピアを手にして、見ている。
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三人でホームに戻るも、アイズさんは自分の部屋に籠もってしまった。ティオナさんはティオネさんと記憶のすりあわせをしているようだ。私は、古株で、団長のフィンさんにきいてみることにした。
「ヘファイストス様の一番弟子?団長の椿だろ?」
怪訝な顔付きで答えたフィンさん。常識的な質問だものな。
「でも、椿さんはヘファイストス様を、超えていないですよね?」
「ヘファイストス様を、超える腕を持つ弟子か?いないんじゃないかな」
「でも…」
ヘファイストス様とのヤリトリをフィンさんに聞かせた。
「う~、思い浮かばないなぁ。のれん分けしたって、聞いたことも無いし。誰のことだ?でも、レフィーヤの得物の作者は、俺も興味有るな。ダンジョンで見た限り、とんでもない代物だぞ、それは」
試射をするため、フィンさん、アイズさんとで潜った私。威力は絶大だった。呪文要らずの高性能な短剣だったのだ。縦に振れば単体の敵を、横に振り抜けば複数の敵を、ロングレンジで屠れた。魔力は多少使うが、魔法を使ったと思えば、お釣りが来るくらいだ。
「まぁ、ティオネの弓も反則級だけどな。弾切れの心配がないし。そう考えると、このファミリアには彼の作品を使っている者が多いみたいだな…う~ん、誰なんだ?」
フィンさんも考え込んでしまった。
---ヘルメス---
ダンジョン内を調べている眷属から、報告が上がってきた。ダンジョン内のモンスターの数が激減しているそうだった。たぶん、フレイのモンスター狩りの影響が出始めたのだろう。ここのダンジョンは生きている。外敵、要するに冒険者のことだが、コイツらを排除するために、モンスターを生み続けてきたのだが、内敵、ラスボスことフレイが目に入るモンスターは総て狩り始めたことで、生むのを止めたか、生み控えているのかもしれない。
この現象が続けば近々、封印の間に到達できる部隊も出てくるだろうな。対応策を早く考えないといけないな。
フレイを生き続けさせる為に…