※この作品はR-18です。

ラスボスになりたい~   作:もっち~!

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神々の宴の終わり

 

---ヘルメス---

 

風がいつもと違う。そろそろ…かな。窓から月を見ている俺。街は静かだった。大規模な遠征団が組織され、60階にいるラスボスの殲滅に向かったから。

 

ふと背後に気配を感じ振り返ると、アイツがいた。

 

「父さん、明日辺りだ。今日はお別れを言いに来た」

 

フレイが涙を堪えているような表情で、佇んでいた。

 

「そうか…思い残したことはあるか?」

 

「みんなと楽しく暮らしたかった…それだけだよ」

 

「一人で戦うのか?」

 

フレイは頷き、

 

「今は、僕一人しかいないからね」

 

呪いの封印の間…記憶を戻した者がフレイと暮らし始めると、数週間後に記憶を封印され、街へと戻される。その為、フレイは一人で生きる事にして、俺の処にしか来なくなっていた。フレイと接触すると記憶が戻ってしまうから。

 

「アイツらに殺されるのに、気が引けないか?」

 

「一太刀一太刀を受けながら、想い出を楽しむよ。母さん達にも別れを言いたかったけど、このタイミングで記憶が戻ると、哀しみしか残らないから…逢わないことにした」

 

産みの親フレイヤ、育ての親ヘファイストス、それぞれの記憶は封印されたままだ。フレイのことを未だ想い出してはいない。

 

「なぁ、天界で逢えるといいな」

 

俺は希望を口にした。

 

「でも、僕は天界に行けない。天界で産まれていないから…僕はどこに行くのか、それとも完全に消えるのかな」

 

息子であるフレイの目尻に輝る物が見える。俺は息子に近づき、そして抱きしめた。

 

「すまない…俺は無力すぎだよな」

 

「そんなことは無いです。逆にごめんなさい。僕が産まれたから、こんなことに…」

 

最高神達の仕掛けた、罠の起動キーにされた息子。コイツが死ねば、この街も終わる。地上に降りた神々の宴は終わり、神々の黄昏が始まる。冒険者達は、冒険する場を奪われ、そして、俺達地上に降りた神々は天界へと戻される。息子、フレイの死を以て。

 

そして、この街崩壊の際に発生するエネルギーで維持神だった神族は人間…英雄の子孫に転生するそうだ。その為にフレイは…並行世界での俺とフレイヤはその神族の憎む相手を手助けしたようで、その恨みは、俺達に苦しみを抱かせることを、復讐の1つにしたようだ。この後、避けられない悲劇が、フレイと、並行世界で助けたとされる者に向けられるらしい。

 

「父さんさん…今まで、ありがとうございました。心が折れないで、生きられたのは、父さんのおかげです」

 

フレイは、感謝の言葉しか言わなかった。恨み節でも口に出してくれれば良いのに。これでは、むなしさばかりが募っていく。

 

「シルにも逢わないのか?」

 

「英雄の奥様になるんでしょ?逢える訳ない…僕は、史上最悪なラスボスだから…」

 

この街の為に生き、この街の為に逝ってしまうフレイ。元はと言えば、天界での仕事を放棄して、地上で好き勝手にやっている俺達神々のせいなのだが。

 

「父さん…さようなら…」

 

フレイは目の前から、名残惜しそうに消えていった。

 

------

 

この街で…いや、この世界で、フレイのことを覚えているのは、俺だけだった。なので、誰にも相談は出来ない。でも、アイツの為に何かをしてあげたい。アイツの為に、あがいてあげたい。でも、実際にできることは、アイツのことを忘れないでいることだけだった。それも、天界に戻れば、忘れてしまう危険性が高い。アイツはいなかった、存在しなかったことになるんだから。

 

どうすれば良いんだ…

 

 

 

---フレイ---

 

英雄ベル・クラネル一行は、60階に姿を現した。ここ、封印の間まですぐに辿り着くだろう。想い出を振り返りながら、英雄達一行を待つ。この時間が意外につらい。涙が止まらないし…

 

ゴトッ!

 

封印の間の扉が開く音がした。視線を扉に向ける。目の前には、英雄ベル・クラネルを先頭に、アイズお姉ちゃん、ティオナお姉ちゃん、レフィーヤ、リヴェリア、リュー、ベート兄ちゃん…知った顔、懐かしい顔が並んでいる。封印の間に入って来る、英雄ベル。しかし、彼しか入っては来られない。僕に触れると、僕との想い出が蘇ってしまうから、ベル以外は、ここには入って来られないようにした。

 

ベルは振り返り、アイズお姉ちゃん達と何かを話しているが、しばらくすると意を決して、僕の方へと向き直した。彼が得物を手にして、構えた。僕も呼応するように得物を手にして、構える。勝負は一瞬で付けないといけない。長引くと彼が不利になる。

 

彼が僕の方へと飛び込んで来た。僕も彼の方へと飛び込む。彼の刃先が僕の胸元に迫って来たので、ケリを入れて軌道を変えた。そして、その瞬間、僕は獲物をガントレットに収納して、彼に喉笛を斬り裂かれた。

 

「何で?」

 

彼が呟いた。僕はその場に倒れ込んだ。立っている力が残っていなかったから。僕が地面に身を預けた瞬間、遠くで何かが起動する音が聞こえた。それが、僕に聞こえた最後の音…

 

 

 

---ヘルメス---

 

地面が激しく振動している。外に出ると、バベルが土煙を上げながら、地面に飲み込まれて行く。フレイは逝ったのか。目頭が熱くなり、目を閉じ、壁に手を当てて、立ち尽くす。

 

「どういうことだ?おい、ヘルメス」

 

フレイアの声がした。

 

「ふっ…どういうこととは何だ?」

 

彼女の方へと振り返った。

 

「何故、バベルが地面に飲み込まれて行くのだ?」

 

「神々の宴が終わったって合図だ。もう少しすれば、俺達は強制的に天界に戻される」

 

空を見上げて、フレイの顔を想い出す。しかし、アイツの顔が徐々に記憶から消えていく。

 

「だから、どういうことだ?お前は何を知っているんだ?」

 

怒ったような言い方をする彼女。

 

「封印の間のアイツを殺せば、ダンジョンの役割は終わる。だから、ダンジョンを破壊するんだよ、バベルの重みでな。で、ダンジョンが無くなれば、冒険者も要らなくなり、この街の役割も終わるんだよ」

 

「誰が仕組んだんだ?」

 

「最高神だ。天界に残っている神々の要請で、そういう仕組みを組み込んだらしい」

 

「防ぐことは?」

 

「無理だ。アイツらは逝っちゃったようだし…もう聞き出せない。もうすぐ、バベルの屋上…現在地表に出ている部分から、英雄が帰還する。それを以て、この街は終わる」

 

バベルのあった方を見る彼女。バベルの屋上部分から、広場へと橋が架かっている。あの橋を英雄が渡れば、この宴は終わりになる。

 

「いつから、知っていたんだ?」

 

「ウラノスのいつも座っていた場所の床から、今回の計画書を見つけた時からだ」

 

そう、あの時から、俺はこの事態を避ける為に、何が出来るかを考えていた。フレイとシルを駆け落ちさせる…夜明けと共に、フレイが封印の間に強制転移されるので失敗。

 

記憶を消されない装置の開発…記憶を消そうとする度に、記憶忘却術が凶悪化していき失敗。装置を付けていたシル、アスフィでさえも忘却してしまった。

 

失敗する度に、フレイの心の傷が大きくなっていった。そして、

 

「もういいよ、父さん。父さんだけが覚えていてくれればいい」

 

って…フレイ…すまない…

 

「ヘルメス、大丈夫か?お前が泣くなんて、らしくないぞ」

 

と、フレイア。

 

「あぁ、俺は大事な者を失ったんだ。喪に服したいんだよ」

 

「うん?誰が死んだのだ?」

 

言葉が詰まる。こいつは記憶に…

 

「うっ…俺の…俺だけの大事な者だ。お前には関係の無い話だ」

 

 

-------

 

 

街に残っていた者達は、バベルのあった場所を取り囲んでいた。しばらくすると、英雄一行が地上に戻ってきた。バベルにあったエレベーターを使って、脱出出来たのだろう。彼らを拍手で出迎える、この先の事を知らない住民と神々。

 

しかし、地上に戻ってきた彼らの表情は浮かなかった。どうしたんだ?

 

 

 

---レフィーヤ---

 

ラスボスは、ベルに討たれた。でも…あれって…ラスボスは、ベルの手にしたナイフの刃先を自分の喉笛に誘導して、斬り裂かれる瞬間、自分の得物をガントレットに収納してしまった。

 

討たれたんじゃなくて、無抵抗で討たしてくれたのだ。何で?

 

ラスボスを倒したベルは茫然自失で、彼の亡骸の前に立ち尽くしていた。

 

「何で?」

 

ベルの目には涙が溢れていた。彼が討たれると、私達も封印の間に入ることができた。彼にすばやく駆け寄るアイズさん。

 

「あっ…そうだった…ごめん…フレイ君…」

 

彼のガントレットに触れた瞬間、絞り出すような声で呟いたアイズさん。ティオナさんの耳に何かを囁くと、ティオナさんは彼を抱き抱えた。

 

「フレイ…ごめんな…痛かっただろうに…」

 

彼女達の目からは大粒の涙が零れていた。

 

「どうしたのだ、アイズ、ティオナ」

 

リヴェリアさんが詰問をした。

 

「大事な人の事を忘れていて…」

 

「大事?なっ…フレイ…どうして…」

 

彼に触れると、彼の事を思い出していく面々。それは、私も例外に無く…

 

「フレイ君…ごめんなさい…」

 

ラスボスを倒した英雄ベル以外、彼の事を知っていた。彼の事を懐かしんだ。彼の事を…

 

「そうだった…ベルに討たれることが、フレイの最終目的だったもんな…」

 

彼がベルに討たれることは、以前から知っていた。リヴェリアさんは力無く、彼の亡骸にもたれ掛かった。

 

「地上にフレイ君を連れて行ってあげたい。いいでしょ?フィン!」

 

アイズさんは団長に掛け合った。その結果…

 

 

------

 

 

ラスボスを倒したと言うのに、喜んでいる者は一人もいなかった。ティオナさんが、大事そうに、愛おしそうに彼を抱き上げて、地上を目指した。フロアの中央辺りに、それまで無かった建造物が出現していなかった。

 

「これって、バベルのエレベーターじゃないか?」

 

オッタルさんが声をあげた。何で、バベルのエレベーターがここに?確かに、この真上にバベルはあったけど。オッタルさんがエレベーターの内部を点検して、罠が無いことを確認して、それに乗り込む私達。人数が多かったので、1回では無理で、数回に分けて乗り込むことにした。

 

第1陣には、ベル、オッタルさん、ティオナさん、アイズさん、リヴェリアさん、私などが乗り込んだ。一番上の階のボタンをアスフィさんが押した。

 

「それだと50階に行くんじゃないのか?」

 

フィンさんが尋ねた。

 

「事前に、ヘルメス様より指示がありました。フレイが死んだら、バベルが地面に飲み込まれて、屋上部分が地上になると」

 

アスフィさんから、衝撃的な事実を知らされた。バベルが地面に飲み込まれた?ということは、本来の地上部分は屋上になるのかな?

 

しばらくすると、50階に着いた。オッタルさんの案内で、フレイア様の部屋に入り、屋上へと出ると、そこは地上で、バベルのあった場所の周囲を神々と住民が取り囲んでいた。そして、私達に声援が送られてきた。

 

でも、誰一人、その声援に応える者はいなかった。私達がしてしまったこと…みんなの大事で大切な者を、この世界から消してしまったから。

 

広場へは橋が架かっていた。そこを渡る私達…

 

「良くやったよ~ベル君♪」

 

ヘスティア様がベルに抱きつき、彼を労う。しかし、ベルの顔には笑顔は無かった。未だにショックから立ち直れていないようだ。

 

「どうしたんだよ~ベル君」

 

ヘスティア様は心配そうに、ベルに話し掛けた。愛しい主神の声ですら上の空になる位、彼は衝撃を受けていた。喉笛を斬り裂かれる直前、フレイは笑顔だったそうだ。その顔が頭から離れず、苦しんでいる、そんな感じに見えた。

 

「どないしたんや?みんな…まるで葬式みたいやないか」

 

私達の主神のロキが話し掛けて来た。でも、誰もその声に応えない。

 

「なぁ。何があったんや?フィン、報告し~や」

 

「ベルがラスボスを屠りました…」

 

フィンさんが絞り出すような声で報告をする。

 

「そっか♪で、何で、沈んでおるんや?」

 

フィンさんは、ティオナさんが抱いている者を見た。

 

「誰や?そのガキは?」

 

パッシーン!

 

アイズさんが、ロキの頬を叩いた。その行動に驚くロキ。

 

「なっ、何すんのや、アイズたん…」

 

「フレイ君をガキ呼ばわりするな!」

 

「フレイ?誰や?アイズたんの何なんや?」

 

「私の大事な弟…一緒にいたかった…ずっと…」

 

フレイ君へ縋り付くように、泣き始めたアイズさん。

 

「おい、アイズ…そういうのは止めようって、決めただろう。私だって我慢しているんだから…うぉ~~~」

 

その場で、堰を切ったように号泣してしまったティオナさん。リヴェリアさん、私もすすり泣く。

 

「ど…どないしたんや…みんな…」

 

私達の行動が理解できないロキ。そんなロキにリューさんが、フレイ君の髪の毛を手渡した。

 

「なんや、これは…あっ…フレイ…何でや~、おい、フレイ、何寝ているんや。起きろや!」

 

彼の髪の毛に触れた事で、記憶の封印の解けたロキ。彼を揺り動かして起こそうとしていた。

 

「だから…うっ…ラスボスは…フレイだった…んだ。あぁ~~~~」

 

泣きながらも説明をしたティオナさん。

 

『ありがとう…みんな…僕の為に哀しんでくれて』

 

「「えっ!」」

 

フレイ君の記憶を取り戻した者達が一斉に、声をあげた。脳裏に彼の声が聞こえたから。そして、一斉に彼の亡骸を見ると、彼の身体は光の粒子で形作られていて、少しずつ粒子が天へと昇っていった。

 

それに伴い、ロキ…いや、ヘスティア様を含めた神々の身体も光輝き出し、天から伸びて来た光の柱に閉じ込まれていった。

 

「なんや?これは?えっ…そんな…」

 

フレイ君の身体が昇華していくのにあわせて、主神達は光の柱を昇っていく。

 

「フレイ君…行かないで…ねぇ、もっと…」

 

アイズさんが、フレイ君の身体に縋るが、彼の身体を透過してしまうようだ。

 

「神々の宴は終わり、神々の黄昏が始まったのです」

 

アスフィさんが意味有りげなことを言った。

 

「どういうことだ?」

 

リヴェリアさんが詰め寄る。

 

「これもヘルメス様に、事前に聞いていたことですが…彼の死を以て、迷宮都市オラリオという神々の宴の場は、お開きになるそうです。バベルが地面に飲み込まれたということは、ダンジョンの機能が失われた、いや、生きていたダンジョンも死を迎えたと言うことです。もう、この街には冒険者は必要ありません。神々は地上で宴をする時間も終わりです。フレイは、地上を満喫していた神々を天界へと誘う為の存在にすぎないってことです」

 

そこまで説明すると、今まで我慢していたのか、アスフィさんも泣きつぶれてしまった。

 

「そんなことで…そんなどうしょうも理由で、フレイは産まれたのか…」

 

リヴェリアさんは、最後の1粒となったフレイ君を見つめて、呟いた。

 

『大丈夫…明日になれば、僕の事を誰も覚えていないから…』

 

そう脳裏に声が響くと、最後の1粒も天へと昇っていった。みんなで、その1粒を目で追う。目で追いきれなくなっても、空を見上げ続けた。

 

 

 

---------

 

 

 

バベルという塔があった場所に、一晩で作られたという神殿がある。そこには、この街の宝物が祀られていた。ヘルメスナイフ、フレイアナイフ、ヘファイストスガントレット…それらは、三種の神器として、丁重に祀られていた。かって、神々が地上で人類を統治していた世界から、本来在るべき世界へと導いてくれた、神フレイが祀られている。

 

それらの神器と対面すると、彼の記憶を持つ者は、彼と会話出来たそうだ。いや、出来る気がしたのかもしれない。この街にはもう出来る者はいないから…

 

私には彼の記憶が無かったのか、何も想い出せないけど。きっと遠い昔、神々が地上に住んでいた頃の話なんだろうな。でも、何で私は、神殿のある場所に、以前バベルという塔があったことを知っているのだろうか?

 

三種の神器の前には、『誰がために産まれ、誰がために生き、誰がために逝くのか』と、記された銘板が掲げられている。

 

 

 

 

 

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