冥府
---フレイ---
「もうお兄ちゃん、妹と交わりすぎだよ~」
僕の下にいる妹のアイリスが笑顔で、僕の耳に囁いた。妹とは自然にこんな関係になっていた。実の妹とこんな関係は、モラル的にどうって問題はあるが、毎晩どちらともなく寄り添い、交わっている。
僕はフレイ。彼女無し歴は年齢と同じだ。
「お兄ちゃんの彼女に会いたいなぁ…」
「いないのに?」
「うん♪私はお兄ちゃんの彼女にはなれない。妹枠だもん♪」
僕の背中に腕を回し、僕を抱きしめる妹。妹アイリスは、優秀な回復要員である。で、明日から1年間、勇者のパーティーに参加して、遠征にでかけるのであった。
「1年後には、彼女を作っておいてね♪」
無理なお願いだ。僕の通う学校は男子校だし…異性に出逢う機会は、微塵の欠片も無い。
「うっ…いい…お兄ちゃん、サイコー♪」
妹の声は、心地良い。よし、今夜は朝まで生で交わろうっと♪
--------
1週間後、変わり果てた妹が戻ってきた。妹はもう僕とは交われない、いや僕とはもう会話出来ない、いいや、誰とも会話が出来ない姿で戻って来た。粗末な木の箱に押し込められた妹の身体は全裸で、舌はちぎられ、顔は歪んでいて、身体のそこら中に切り傷があり、何よりもあの大事な部分は裂けていた。
「なんで…」
僕は箱に縋り付き、泣いた。箱の蓋部分には
『不良品につき返品』
と書かれていた。なんだよ?不良品って…妹は物じゃない…
妹をスカウトした元賢者のアズに掴みかかる。
「なんで?なんで、妹は…」
「事故だった…すまない…」
アズは詳細を語らず、謝るだけである。何があったんだ?勇者のパーティーに参加出来て、喜んでいたんだぞ!
「あの書き込みは何だ?」
「すまない…勇者以外の戦士は消耗品扱いなんだ…」
「妹は物じゃねぇ~!」
「あぁ、物じゃないよ、屑だ!」
礼拝堂の入り口から声がした。妹を屑だと?
「ふざけるなよ~!」
僕はソイツに殴りかかりに行くが、『ヘルズフレイム(地獄の業火)』という呪文が聞こえ、僕の身体が燃えていく…そして…
---アズ---
私のスカウトした賢者候補の僧侶のアイリスの死体と共に、彼女の兄の待つ礼拝堂に来た。彼女の兄から恨み節を聞かされ、詳細を聞かれたが、何も答えてあげられなかった。
弔問客達が、遠巻きに私と彼女の兄フレイとのヤリトリを見ている。そんな時、入り口から
「あぁ、物じゃないよ、屑だ!」
と、勇者の声が聞こえた。フレイが勇者に詰め寄っていく途中、信じられない呪文を聞いた。『ヘルズフレイム(地獄の業火)』という闇属性の呪文だ。これは魂を冥府へと送り、転生すら出来ないようにする、呪い系の呪文であった。
「おい、それは…」
唱えた者の姿を見て、固まる私。唱えたのは勇者だった。
「アズ、勇者を襲おうとした輩だ。こういう凶悪なヤツは冥府送りで良いんだ」
「襲おうとした訳でないだろ?アイリスの事を屑って言う、お前が…」
グサッ!
「おい、勇者をお前呼ばわりは罪だぞ、アズ」
アイツの剣が私の利き手側の肩を貫いた。
「これくらいで済ませてやる。温情だぞ、アズ」
アイツは礼拝堂から出て行った。
「アズ様…どういうことですか?」
弔問客達が、私を取り囲むように近寄って来た。
「フレイはどうしたんですか?」
「すまない。勇者保護法により、何を言えない」
勇者の名誉を守るために、そういう法律がある。
「あの方が勇者ですか…フレイを返してください、アイリスを返してください」
二人の母親から詰め寄られた。でも、元賢者の私には、出来る事が少ない。
「すまない」
余計なことを告げられない私。
------
この世界において、王族、貴族以外の者に対して、勇者は好き勝手をやって良い。それだけの働きをしたことへの報償のような特権である。
そして、勇者保護法という法律により、仮に勇者が不名誉な行いをしても、記録には残さずに、名誉のあることだけを後世へ記録を残すことになっていた。なので、フレイ、アイリスにしたような理不尽なことは、記録に残らず、無かったことになるのだ。
この勇者は、ラスボスを倒したという記録は無い。ただ、勇者の証の装備を纏っていることだけが、勇者としての認定理由であった。それが、本来の勇者から奪った物だとしても、王の前に最初に現れた者が勇者に認定されるのだった。
その疑念は王ですら持っていた。この勇者の立ち振る舞いは、尋常では無かったから。アイリスの場合、優秀な僧侶であり、回復スキルも王ですら認める程であり、賢者へ転職する前の報償として、勇者のパーティーに組み込まれたのだ。だが、勇者は、アイリスに肉体関係を迫り、それを拒否するや、拷問にかけて瀕死の重傷を負わせてから、強引に交わり、彼女は無念の内に命が果てたのだった。
「あの程度で死ぬ?有り得ない。屑は屑ってことだ」
と、王の前でのたまった勇者。
王の前で、礼拝堂で起きたことを報告した。勇者の名前を出さずに。
「何?アイリスの兄が闇属性の呪いを?アイツか?」
頷く私。
「酷い過ぎる…彼は何も悪く無い…なのに…」
拳を力一杯握り絞める。それくらいしか、出来ない不甲斐ない私。
「そうか…仲の良い兄妹だったのに、あの世で、あの二人は出逢えないのか…かわいそうに…アイリスがよく笑顔で兄の話をしていたよな」
アイリスを娘のようにかわいがっていた王は、昔を懐かしむような目付きで、窓から天を見ていた。
---フレイ----
意識が戻ると、身体の感覚は無かった。闇のような場所にいるようだ。音は聞こえず、何も見えず、ここがどこかを判断する材料は無かった。身体の感覚が無いので、脱出もできそうにない。どうするか…
声を出して叫ぼうと思うが、声も出ない。僕の身体に何が起こったのか?
『お兄ちゃん…助けて…』
脳裏に妹の声が聞こえた。どこにいるんだ?ここから出なきゃ。
『あぁ~おにいちゃ…』
妹の声が遠くに去って行くようだ。こんな場所に居座って居られない。どうにかしないと。どうにか…しかし、僕は落ちこぼれのへなちょこ戦士だ。スキルも能力も魔法も持っていない平民並の戦士だった。でも、気持ちだけは負けない。もう死んでも良いって思うくらいに、前方に集中した。
パリ~ン!
何かが割れる音がした気がした。前方からは冷たい風が吹き込んできた。風の吹き込む方向へ向かおうと思うが、進めない。なんでだ?脚はあるのか?脚に神経を集中するが、感覚がまるで無い。
戦士学校で習ったことを思い返す。こういう場合は…麻痺かロストだ。麻痺なら時間が経てば、感覚が戻るけど、ロストだと手の打ちようがない。たぶん、ロストなんだろうな、これって…僕は魂状態の可能性がある。音が聞こえたのは空気振動を魂が感じたからで、風を感じたのも、空気の変化を魂が感じたからだと思う。
結論はここから出られないだ。凹む僕。あぁ、どうしよう、アイリスを助けに行きたい。気持ちばかりが空回りする。身体が欲しい…身体が…妹と抱き合いたい。だから、身体が欲しい…妹と寝たい。だから、身体が欲しい…
『おい、身体の欲しい理由がエロ方向に行くのは、どういうことだ?』
脳裏に誰かの声が聞こえた。
「妹と交わることは、僕の生きがいだ!何が悪い!」
正直な気持ちを伝える僕。
『面白い。そこまで自分に正直なヤツは珍しい。力を貸してあげる。僕の身体をプレゼントするよ。その代わり、悪いことを一杯してね♪』
手に感覚が戻っていく。脚に感覚が戻っていく。心臓の鼓動は感じられない。あれ?
『あぁ、僕には心臓が無いから…気にしないで。僕は君といつまでもいる。僕の名前はフレイ。君の名前は?』
「僕もフレイだよ…同じ名前なんだね」
『そうか…だから、引き合えたのかもしれない。僕の装備も与える。両腕にガントレット、ガントレットにはナイフが1本ずつ入っている。ナイフのスキルは身体が覚えている。君は、屠りたい相手を念じれば、身体が反応してくれる。記憶を統合するよ。そうだ、妹さん絡み以外は、僕が主導権を取ろうかな。いいかな?』
「うん。僕は、勇者を倒して、妹と交わりたいだけだから♪」
『ははは、本当に正直だな。わかった。相棒、勇者を倒そう。僕も勇者は嫌いなんだ♪』
-----
僕は、ようやく魂を手に入れた。身体という器だけしかなく、動けなかった僕。でも、魂だけの者と手を組み、器に魂を収めることができた。これで、甦られる。魔王としての僕は、勇者を倒すことを目標としようかな。
闇から出ると、氷と雪の世界だった。カプセル状の物がたくさん凍り付いていた。あの仲に魂だけが幽閉されているのか。出口を探すついでに、カプセルを見て回る。うん?名前がついている。何を幽閉したか、わかるようにかな?その中の1つの名前に心辺りがあった僕は立ち止まった。
『ウロボロス』
僕の知っているヤツかな?中のオーラを探ってみる。
『フレイかい?ねぇ、助けて~』
あ、知り合いだ。カプセルから出して上げると、深い蒼い色のドラゴン姿になった。
「ムゲン、なんで、こんな場所に?」
ウロボロスドラゴンのムゲンに声を掛けた。
「ジャマだったんだろうね。フレイ、君のようにね」
ムゲンは、ダークブルーの髪の女性の姿になった。ドラゴン姿では表面積が多いので、寒いようだった。
「この姿でフレイに付いていくよ。ヒューマンタイプの女性好きだよね?」
あぁ、寒さからでは無く、僕の好みか。そうだね。そうだったかもしれない。長いこと魂がなかったので、記憶が少し曖昧であるけど。
「戦闘になったら、蒼い龍の鎧にでもなろうか?」
そうだね。以前もそうしてくれた気がするし。しばしカプセル沿いの道を歩いていくと、四つ角に出て、出会い頭に横から来た者と衝突した。僕は何とも無いけど、ぶつかった者は飛ばされて、倒れていた。うん?黒髪ロングの少女のようだ。
「大丈夫か?」
声を掛けるも返事は無い。身体を触ると、冷たい。死にかかっているのか?どこか、暖が取れる場所を探す僕達。しかし、見付からない。そこで、雪を固めて、カマクラを作って凌ぐことにした。
カマクラの中で、僕達と少女は全裸になり、抱き合う。体温で温め合う戦略だ。ムゲンは彼女の背中側から抱きつき、僕は胸側から抱きつく。意外に胸の感触が気持ちが良い、少女。見た目は幼いが、股間の成熟具合からして、適齢期のようだ。僕は、彼女の体内に入り、内部からも温める事にした。
腰を動かして、摩擦熱を彼女に与えていく。
「あぁ…いい…もっと…あぅ…」
パンパンとリズミカルに肉をたたき合う音が、カマクラの中に響いた。
「ここは…」
意識を取り戻してきた彼女。
「君の名前は?」
「ハーです」
「ハーちゃんか。僕はフレイで、彼女はムゲンだ。よろしくね」
---ハーデス---
出会い頭に何かにぶつかり飛ばされた私。気が付くと、知らない男性と交わっていた。身体の内部が暖かい。こんな経験は初めてだった。ここ冥府は死神の集う国。その死神達の頂点にいる冥府の女王である私が、暖かさを感じるなんて…何かの寵愛を受けたのだろうか?
私と交わっている彼は、私をハーという名前だと勘違いしている。「ハーデス」と名乗ったのだが、「ハーです」と受け取ったようだ。なんか微笑ましい。そんなことを思っていたら、頬が緩んだ。
「ハーちゃんって、笑顔もかわいいんだね」
そんなこと言われたことがない。胸がキュンとしてきた。死神の女王がこれでいいのかな?などと考えているのだけど、身体は素直に反応して、口からは喘ぎ声が漏れていく。
近くに手下達の気配を感じたので、
『しばらく、この者達といるわ。仕事をよろしくね』
と、念話を送った。なんか、彼と一緒にいたい気持ちが一杯であった。
「身体は温まってきたかな?」
彼が俯いていた私の顔を覗き込んできた。そして、口を重ねてきた。えっ?
「あっ、ごめん。ハーちゃんの唇、乾いていたから、湿り気をって。驚かしてごめんね」
って。いや。心が持って行かれた気分。こんな風に、私を気遣って接してくれた者は、今までいなかった。だから新鮮であり、死神故の冷たい心が、何故か暖かくなっていく。とても不思議な感覚であり、不思議な気分である。
『ボス。ソイツ、魔王フレイでは?一緒にいるのはムゲンのようです』
部下から念話が送られて来た。魔王?こんなに暖かいのに?有り得ない。ムゲン?最厄のドラゴン?背中にいるので姿は確認できないけど、邪悪なオーラは感じられない。
『まぁ、魔王なら好都合でしょ?魂を一杯生産出来そうだし』
と、死神の業務が頭に浮かんで、念話で返信していた私。
「ねぇ、ハーちゃんって、死神?僕達と一緒に旅をして大丈夫?」
私の正体に気づいた彼。でも、遠ざけるのではなく、私の立場を心配してくれた。こんな経験も初めてだ。死神だと後ろ指を差されてきた私には、彼は斬新で興味があり、一緒にいたい存在になりつつあった。
「大丈夫。私、フレイを護るから♪」
魔王と死神のタッグなら無敵に近いだろうな。ふふふ。
---フレイ---
こうして、冒険の幕が開かれようとしていた。
主な登場人物
フレイ
産まれながらの魔王。魔王としての素質、資質はまるで無し。得物はガントレットに収納してある2本のナイフ。得意な術は回復系。
フレイ(バカ兄)
妹を愛することは誰にも負けない、シスコンな男。
ダークフレイ
フレイの魔王として素質、資質を受け持つ別人格。誰よりも、フレイを大事に思っている。
ハーデス
冥府を司る死神。フレイに触れ、一緒に冒険することを決めた。
アイリス
バカ兄の妹。元聖戦士な回復師。バカ兄大好きなブラコン。
リリアン
グリーンなロングヘアなハイエルフ。回復もこなせる魔法使い。
リヴェ
リリアンの祖母。昔、フレイのパーティーにいたらしい。
ティーズ
金髪ロングヘアな風の妖精。
ティヌ
風の谷の妖精の始祖。昔、フレイのパーティーにいたらしい。
ティオ
アマゾネスの戦士。昔、フレイのパーティーにいたらしい。
オナ 黒髪で胸が小さめなアマゾネス。ティオの子孫。
オネ オナの姉。
英雄(勇者) 実は、神の魂を取り込んだ魔王。