笑顔で堕ちた初心者
円満退団できたと思う。退団金という慰労金と年金が、所属していたファミリアから、出るそうなので、当面の生活には困らないと思う。しかし、仕事を見つけないと…
退団直後から、様々なファミリアから、入団しないかって話が来た。有り難いことだが、総てお断りをした。縛られるのが嫌だし、何よりも恋愛が自由に出来ないし…
退団の理由…彼女が欲しい。まぁ、修行が優先だから、ある程度は覚悟はしていたけど、想いを寄せていた主神に、彼氏が出来たことがショックだった。それも退団した仲間だったことが、更にショックだった。将来、主神と共同作業が出来るようになることが、夢だった。それは、もう叶わぬ夢だ。
あの主神にスカウトされ、改宗をした。以前在籍したファミリアとの関係は、今も悪くない。これは救いだと思う。改宗後も出入りをしていたし。これについては、二柱の神様達は、黙認してくれていた。
そして、今…ホームの隣にある建物を買い上げてくれて、それを無償で貸してくれた神様がいて、僕の腕を見込んでのことで、そこを住居兼店舗にして欲しいという。その申し出を受けてみた。条件は、優先的に彼のファミリアの仕事をすること以外は、何も言われなかったから。
そして、仕事の為の道具を揃えて、お店を開業した。仕事は、以前いたファミリアから貰って来て、下請け作業を行う。スポンサーのファミリアからのメンテナンス作業も、お金を貰えた。細々とやっていくには良いかな。
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古巣のゴブニュ様の工房へ、仕事を貰いに行くと…ロキ・ファミリアのティオナが騒いでいた。遠征でボロボロにしてきた得物のメンテを頼んでいるようだった。
「あ、ジムさん…いいところに。これ、頼めませんか?」
工房の元同僚が、僕に彼女の得物を手渡してきた。酷い…刃がボロボロだ。力任せすぎる。斬ると言うより叩き斬るのだろうか?
「頼むって?」
「ジムさんの工房でお願いできませんか?」
「お前、スミスなのか?ここじゃ、見ない顔だよね」
ティオナが声を掛けてきた。
「まぁ…個人工房だからね…」
「個人?何で、ファミリアに入ってないの?う~ん…」
不思議そうな顔をするティオナ。まぁ、この街では、ファミリアに入っていないと、商売は辛いもんだなぁ…
「それじゃ、ちょっと、頼めないな~」
僕の手から自分の得物を、奪い取る。まぁ、面倒事は嫌なので、スルーをする。奥へと進み、ゴブニュ様の部屋に行った。
「おぉ、ジム、いいところに来た。このお嬢さんに、代替え品を2週間位、出せないか?」
ゴブニュ様の指差した先には、ロキ・ファミリアの剣姫、アイズが立っていた。お世話になっているゴブニュー様の頼みは断れない。
「確か…風を纏うんだっけ?」
頷くアイズ。
「工房まで一緒に来てくれる?今、持ってないから」
少し間が空いてから、頷くアイズ。僕は、元主神様に、メンテを施してきた剣を数振り、手渡した。
「これを頼む」
元主神様が、新たな仕事をくれた。彼の手から数振りの剣を受け取った。仕事を受け取り、仕事場に帰る僕。僕の後ろには、アイズとティオナが付いてきた。立ち止まり、振り返る。
「ティオナさんは、どうして付いて来る?」
「私にも貸して~♪」
甘えるような笑顔。心が持って行かれそうになる。女性の笑顔に飢えていると思われたくないので、動揺を見せずに対応をする。
「何で?個人商店で、腕を信用していないんじゃ?」
「ゴブニュ様が信頼しているようだし…それに、アイズだけなんて、ズルいよ~♪」
って、はにかむティオナ。彼女の笑顔に、とうとう心が持って行かれる、女性の笑顔に飢えていた僕。ズルいのはそっちだと思う。笑顔で堕とすなんて…
ヘルメスファミリアのホームの隣にある、僕のお店に招き入れた。店内には、商品が何も展示していない。基本、メンテ専門だからな。
「うん?何も無いじゃん?」
意外そうな顔付きで、ティオナは店内を見回している。商品がアレコレと展示してあると思っていたのかな?僕は奥にある倉庫から、剣を2振り、ハンマーを1本手にして、彼女達の元へと戻った。
「これを貸す。アイズさんには剣を2振り、ティオナさんにはハンマーソードを1本だ。ゴブニュのおやっさんの直伝で、不壊特性にしてある」
実際は直伝では無いけど、そういうことにしている。詮索されるのが嫌だから。僕の鍛冶スキルは、この世界のと違う。こことは違う世界で手に入れたスキルである。もっと言うと鍛冶スキルでは無い。どっちかというと、錬金術に近いかな?たぶん、この世界では知られていないスキルだと思う。
手にしている武器を、彼女達に手渡す。不思議そうに見ている二人。
「ハンマーソードはハンマー部分で叩き、ソード部分で斬るんだ。ハンマー部分はインパクトの瞬間、ミートポイントから雷撃を放てるようにしてある。で、ミートポイントに埋め込んだ属性攻撃部分は、不壊では無くて、定期的に交換が必要だからね。交換出来るから、好きな属性に変えることが可能だよ」
って…僕の説明中に、指でハンマー部を叩いて、感電しているティオナ。おい、説明を聞けよな!
「うっ…ビリビリする…」
「インパクト時の衝撃力に、雷撃破壊力は比例する。むやみに叩くなよ」
少し青い顔のティオナが頷いた。よく見ると、涙目っぽい。痛かったんだね。でも、その表情もいいなぁ…うぅ~もっと、虐めたい…
「で、このソードは切れるの?」
実演販売のように、ソード部分に薄い紙を落とす。静かに真っ二つになる紙。
「刃の部分には触れるなよ。簡単に腕なんか斬り落とせるからな」
またしても説明を良く聞かずに、刃の部分に触れようとしたティオナが、更に青い顔へとなって固まった。
「で、ソッチの剣だけど、炎の剣と吹雪の剣だ。風の力を纏わせると、炎属性、氷属性の飛ぶ斬撃が放てる。イメージを剣に送り込むと、氷の粒の大きさや、炎の温度などへの影響がある。練習は必要だよ。で、剣先が折れても、飛ぶ斬撃は放てる。刃は魔力切れの時に物理的なダメージを入れられる。この場合は斬撃は飛ばない。注意して」
目を見開いて剣を見つめるアイズ。言葉が少ないので、感情がよくわからない。アイズには説明はしないけど、種を明かせば、ツバ部分に属性攻撃用のユニットを埋め込んで有り、剣の部分は滑走路というか照準みたいな物だし…極端な話、慣れれば刀身部分は要らない。ツバだけあれば、飛ぶ斬撃は放てる。で、刃身は魔力により属性ごとの刃身を発現することも可能である。2週間の貸与なので、そこまで酷使するとは思えないので、説明はしないけど。
「どうする?簡単な調整をしておくか?」
頷くアイズとティオナ。二人に粘土で出来た棒を手渡した。
「ソレを得物を握る感じで握ってみて。専用の持ち手部分を作る」
手型を取ると、それぞれの得物の持ち手部分と交換をして、魔法陣を描いた羊皮紙を載せて、術を発動させた。僕には錬金術以外に、創造系の術があるのだ。創造系というには語弊があるかな?分子レベルで組成の組み替えが出来るというか…これも、この街には無い知識なので、説明する気は無い。
元主神達は、魔石に魔力を注入したハンマーで叩いて、得物を作り出すが、僕の場合は、もっぱら錬金術と創造術の併用だ。元主神に頂いた鍛冶ハンマーもあるけど、メンテ用途向きでは無いので、あまり使わない。
「今度は、どうかな?」
二人とも簡単な調整だったけど、手に馴染んだようで、嬉しそうに素振りをしている。危ないから、店内でしないで欲しいんだけど…
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2週間後に、あの二人がやってきた。代替え品を返しに来たはずなのだが、借り物を返さずに、笑顔を返して来た。
「コレ…買い取りたい♪」
「私も私も♪」
と、買い取り希望な二人。
「それは、代替え品だよ?ゴブニュのおやっさんから、本来の得物を返してもらったんだろ?」
「だって、これって使い易いんだもん♪」
「これがあれば、もっと上を目指せる…」
この街のトップ戦士達に、気に入ってもらえて嬉しいけど…
「売るとなると、高いよ…払える?」
様々な魔石をふんだんに使っているので、製作原価が高いのだ。
「予算500万でどうかな?」
と、笑顔のティオナ。今日はその程度の笑顔では、堕ちないと思う。桁違いだし…
「ハンマーソードは、1振り5000万プラス調整費3000万だ。炎氷セットは1セット1億プラス調整費5000万だけど…払えるの?」
言葉を無くすティオナ。
「ねぇ、じゃが丸君をおごるから、まけて♪」
「え?」
アイズの申し出に耳を疑う僕。じゃが丸君で?それは、無理だって…
「えって…ダメなのか…」
残念そうなアイズ。貸した剣を鞘ごと、しっかりと抱きしめ、返す気が無いのがわかる。どうするかな…
「あら、お客さん?珍しいわね」
って、古巣の男装の麗人っぽい主神様が現れた。店内にお客がいるのは初めてだし。彼女は、ティオナが手にしている得物を目にして、
「え?それを売っちゃうのか?」
元主神様が欲しそうな目をしている。そんな元主神様に、ティオナが訊いた。
「ヘファイストス様、暴利ですよね?1振り8000万って…ベルのヘスティアナイフで2億って考えるとさぁ」
ティオナがヘファイストス様に、僕の値付けに対しての疑問をぶつけている。ヘファイストス様は鍛冶系ファミリアの主神である。
「はぁい?ジムの装備がその値段なら安いわよ。彼の作品は、滅多に市場に出回ることは無いんだから」
って。え?そうなの?僕、ヘファイストス様の元で、結構作った気がするけど。初めて聞かされた事実。
「出回らない?ねぇ、僕の作品って、売り物に成らなかったの?いっぱい作ったのに…」
ヘファイストス様に縋り、訊いてみた。
「私のコレクション用途で、ほとんど売らなかったんだ。で、私の気に入らない作品だけ、売っていたんだ。私が気にいらないのに、1億でも売れたぞ。そのことが気に入らないんだが」
苦笑いしている元主神様。売らないでコレクションって?それはそれでショックだ。装飾品扱いなのか…凹む僕。
「ヘファイストス様のコレクション?どんだけの価値が有るんだ?」
凹んだ僕の耳に、ティオナの驚いた声が届く。
「そのハンマーソードも欲しかったの。でも、ジムは手放さなかった。もし売る気になったのであれば、10億で買うわよ♪」
ヘファイストス様のコレクション作家だった…だから、僕は売れない作家だったのか…ショックすぎる事実…
「それって、虐めですか?僕の作品売れないのは、とっても高いからだよね?」
目に涙が溜まり始めた僕。嫌われていたのか…彼女に…製作作品の売上成績、万年ビリで、メンテナンス部門に転向した僕。
「嫌っていない。おいおい、泣くなよな。男の子なんだから」
ハンカチで、僕の目元に溜まる物を拭ってくれたヘファイストス様。
「むしろ、好きな作者だったんだ。異性としてはアレだけどな…異性っていうより、弟枠だしな♪」
僕に対して、はにかんでいるヘファイストス様。
「だから、私の価値感で、値を付けていたんだ。わかる人にだけ、わかってもらえて、それでも欲しい者には売るって感じだ。ヘルメスも、ジムの作品のファンだよ。だから、眷属にせずに、スポンサーになってくれているのだ…あっ、これは内緒だぞ。口止めされているから。あいつは、ジムにとっての、足長おじさんになりたいみたいなんだよ♪」
そんな…嬉しいやら、哀しいやら…
「ねぇ、欲しい。どうしても、欲しい。どうすれば、売ってくれる?お金無いんだけど…」
って、目に涙を溜めているアイズ。彼女の表情にくらっと来た僕。戦場へ向かうとき、戦場から帰還した時の彼女の表情からは、予想出来無かった。たぶん彼女の素の表情…僕の心は奪われていく。
「僕の彼女になってください。そうしたら、ソレをプレゼントします。今後、スミスとして、恋人として、アイズさんを支えますから…」
ふと、あまり考え無いで、僕の口から出た言葉…
「うん♪いいよ♪ジムが一緒にいてくれれば、もっと上を目指せるし♪」
即答…涙目の顔が一転…笑顔な彼女からの返事…えっ?まさかの嘘泣き?そんな事出来るとは思いたくない僕。
「へ?アイズ、恋人の意味を知っているの?」
目が点になったヘファイストス様から質問が飛んだ。僕もそう思う。即答で良いのか?こういう返事って。彼女いない歴イコール年齢の僕にはわからないけど。
「うん?知っているわ。一緒に住んで、一緒に寝るんだよね?あっ、一緒にお風呂も入るんだよね、ティオナ♪」
訊かれたティオナの耳が、茹でたように赤い。
「いや…その…なんだ…たぶん…そうだと思う」
俯いてモジモジしているティオナ。かわいい…こんな仕草は、豪腕な女戦士としてのイメージから想像できない。
「ヘファイストス様、どうなんですか?」
僕は、最近恋人の出来たヘファイストス様に訊いた。
「え…えぇ…っと…ねぇ…」
顔を紅潮して、俯くヘファイストス様。
「概ね正解…で、将来は結婚して…子供が…きゃぁ~!」
悲鳴を上げて、更に紅くなるヘファイストス様。何を想像したのだろうか?
「ねぇ、ジム…調整して♪私も、剣も♪もっと上を目指せるように…ねっ♪」
剣を2降り手渡して来たアイズ。え?アイズも調整?って…妄想が膨らんでいく僕。
「ちょっと、待ったぁぁぁぁ~!私も彼女になるぅぅぅ~!」
って、茹で上がったような顔のティオナ。
「恋人は二人も要らないけど…」
恋人って、一人で充分なはずだ。彼女いない歴イコール年齢の僕には、いきなり二人は無理だと思うし。
「えっ?そうなの…じゃ~、ハーレムにしようよ♪、男ならさぁ~!」
ハーレムって?
「ねぇ、ヘファイストス様、ハーレムって何ですか?」
意味不明の言葉を、元主神様に訊く。
「え…えぇ…っと…大勢の裸の女性に囲まれる生活…」
「裸だと風邪引かないかな?」
「いや…あっ、ヘルメス♪いいところに来たな。お前の専門分野だぞ♪」
賑やかだったので、様子を見に来たのかもしれない、大家のヘルメス。彼に耳打ちをしたヘファイストス様。
「ふ~ん、そうなのか。ジムとアイズがなぁ。で、ティオナは愛人か?ハーレムは、ジムには無理だろう。あぁいう物は経験が必要だよ。いきなり、ハーレムは難しいと思う」
「ヘルメス、愛人って?」
ヘファイストス様よりも、知識が豊富で専門家らしい、ヘルメスに訊いた僕。
「恋人の予備だ。いると便利だぞ♪」
「そうなんだ。じゃ、ティオナは愛人ってことで。二人にはソレをプレゼントするよ。婚約指輪代わりに♪」
「え?愛人って、婚約するんだっけ?」
ティオナがヘルメスに訊いている。
「しても良いんじゃないかな?そういうのって、気持ちが大事なんだから♪」
って、答えるヘルメス。
「ねぇ、ヘルメス。愛人って恋人の影武者?」
「う~ん…まぁ、そんな感じだよ、ジム♪難しく考えるな。行動で示せってなぁ♪」
笑顔のヘルメスが答えてくれた。