---フィン---
休日なので朝食時に、アイズ、ティオナは食事に顔を出さなかった。う~ん、どうなんだろう…いや、今問題なのは、リヴェリア達に気づかれずに、ホームから出る事だな。ジム達と潜る約束をしたのだが、リヴェリア達も、付いてくるような事を言っていた。どうするかな…
ベタな方法…窓からシーツでヒモを作り、脱出。まるで、彼女に隠れて逢いに行くスリリングさだ。彼女いない歴イコール年齢だから、想像ではあるが。無事に脱出、塀をよじ登り、ジムの工房へ向かう。
「おはよう、フィン♪」
ジム達は朝食中だった。飲み物とサラダを、僕に出してくれたジム。
「で、何階まで攻めるんだ?」
今日の予定を訊く。
「低層階にあるパントリーと未解放領域だよ」
未解放領域とは、皆に知られていないダンジョンの中に存在するエリアで、ギルドに認識されていない場所である。普通はギルドに報告するのだけど、秘密にして占有しているファミリアもあるとは聞いていたが…
「このメンバーなら、大丈夫かなって」
未解放領域には未知のモンスターがいるらしい。それも、階層レベルにそぐわない強敵が多いらしい。
「何階くらいのモンスターなんだ?」
確認しておかないと。
「僕は諸事情で、18階までしか行けないんだ。で、たぶん、18階以降だと思う。結構厄介だし♪」
厄介?何か嫌な予感がするが、僕の親指はぴくりとも震えない。アイズのドロップアウトより安全ってことか?
「とにかく、現場に着くまで、フィンは新しい剣に慣れてね♪そうそう、槍の調整も終わっている。ちょっと魔石が足りなかったから、バランス重視での調整だよ。魔石が手に入ったら、もう少し弄るから、待っていてね♪」
---リヴェリア---
フィンにやられた…まさか、窓から逃走するとは…しかし、行き先は分かっている。ティオネとレフィーヤを伴い、ダンジョンの入り口で待ち伏せることにした。
しばらく待つと、フィンとアイズ、ティオナとアイツがやってきた。
「フィン、どういうことだ?」
「は?休日だよ。友人と潜るのに、問題は無いと思うが」
フィンは涼しい顔をして答えた。
「ティオナ、目を醒ましなさい」
ティオネが妹を説得している。
「アイズさん、間違っていますよ」
レフィーヤは、アイズを説得中だ。
「フィン、時間がもったいないから、僕一人で行く。話し合って、円満に解決してね♪」
アイツが一人、ダンジョンに向かう。アイズ、ティオナはティオネ、レフィーヤを振り切り、アイツを追う。振り切られた二人は、彼らを追っていく。
「リヴェリア、あの二人、危険だそ。何か遭ったらどうするんだ?」
フィンの言うことはもっともだ。話し合う為に来たのだ。潜る為では無い。装備が街中のままだ。
「僕達も行こう。今後のことを話しておきたい」
今後のこと?フィン…お前、まさか…
---ヘルメス----
静養している女神の元を訪れた。俺の顔を見るなり訊いてきた。
「アイズたんは、どいつに持っていかれたんや?」
「ジム・ナイト・クロウだ」
俺は女神の問いに即答した。
「あぁ、アイツかぁ…魅了持ちの…じゃ、しゃーないか」
怒り心頭だった女神の顔が、穏やかに成っていく。ロキもジムのことを知っている。能力のことも。
「悪気は無いだけに、タチが悪いんや、あの能力は」
ジムが発動しようと思っても発動出来無い。彼の「魅了」は特殊だ。普通は、魅入らせて、能力者の意に叶うようにするのだが、彼の場合は、相手にしたいようにさせる。相手を相手に魅了させ、自信をつけさせてしまう。こうしたいと思うだけでなく、行動をさせてしまう。そうだな、相手の背中を押すのだ。その行動は、彼に向いた物に限られるので、問題は少ない。彼自身、何かして欲しいってことは特に無いから。有るとすれば、恋人とか家族が欲しいだけだし。
「お前がガミガミ言わなければ、今まで通りじゃないか?ジムの恋人と愛人っていうのがネックであれば、問題かもしれないが」
「ナイト・クロウやろ?問題無い。他のどーしょも無い野郎に、どうこうされるよか、ましや」
ロキも俺同様に、隠れあしながおじさん、いや、おばさんだ…ジムを影から見守っていたりする。たぶん、この街にいる神、女神で、ジムと敵対しようとするヤツはいないだろう。それなりに危険人物であるから。関わらなければ問題は無い。でも絡むと厄介だ。ウラノスからの指令…この街の裏の仕事をしているのだから。非公式ではあるが、殺人許可証を持っているとの噂もある。実際は、そうなんだけど…知っているのは、ウラノスの仕事を請け負っている俺とフレイヤくらいかな。
「一応、俺のファミリアに名義貸しした状態だ。ロキの恩恵は生きているから、今まで通りで良いはずだ。税金面を除いてな」
「ファミリア付きのスミスにならんかな」
「アイツのメンテ代は高いぞ。お前の所じゃ賄えない」
ジム自体は人件費は並の上くらいなのだが、材料費が途轍もない。納得できる材料しか使わないのが難点なのだ。
「アイズ、ティオナ、フィンの専属スミスにはなっているようだ。それで良いだろ。現状はさぁ。徐々に友達が増えれば、お前の望んだ通りになる。アイツは友達思いだからな」
---リヴェリア---
フィンの動きに無駄が無い。いつの間に戦闘スタイルを変えたんだ?アイズもティオナもそうだけど。
「どう?フィン」
「あぁ、手に馴染んでいる。まるで身体の一部だよ」
そうか、得物を変えたのか。あのスミスの作品に。従来の得物は背中に背負っている。アイズも従来の剣を背負っていた。ティオナは新しい得物だけを、持って来た。
「ティオナ、相手の特性を見極めて、ハンマーかソードかを瞬時に決めると、いいよ」
「うん♪」
あの三名は楽しそうだ。モンスターを屠る事が楽しいのでは無く、あの得物を使えるのが楽しいようだ。
落ちている魔石を拾い集めるアイツ。コイツは何者なんだ?単なるスミスとは思えない。
通路から外れて歩き始めるアイツ。どこへ行くのだ?あっちには何も無いはずだが。フィンもアイズもそれを指摘しない。なぜだ?
「ここだよ♪」
「ここはパントリーか?」
「心して入ってね。あぁ、そちらの3名は入らないでね。命の保証は出来無い。あと、入ったら、アイズ、ティオナは前衛、フィンは討ち漏らしを頼みます」
こんな低層に命の保証が出来無いエリアが有るのか?彼は、壁に魔法陣を発現させて、術を発動したようだ。壁が剥がれ落ちていき、穴が空いた。アイツを先頭に、フィン達が入っていく。私達も続く。
「え?来たの?命いらずだな~」
アイツが私達に言った。目の前には、大きな池…いや、湖か?が広がっている。穴の内部は明るい。地面が見えるのは、今いる場所から5メートルくらいの範囲しか無い。後は広大な湖が広がっている。
「ここのポイントは1つ、地面のある場所まで、引きつけてから倒すんだよ。じゃないと魔石は水の中に落ちるから♪」
引きつけてから?おい、逃げ場が無いだろ?
「あぁ、魔法はダメだよ。こんなに引きつけてから撃つと、味方に被害が出るから。フィン、槍はダメだよ。味方に当たるから」
ま、魔法がダメ?魔法使いの私とレフィーヤはお荷物なのか?で、槍がダメ?だから、フィンに剣を?
「遠くに黒い点が見えるでしょ?あれがモンスターだよ。段々と大きくなるから、倒す間合いを間違えると、大怪我…で済むかな?」
黒い点が段々と大きく成っていく。あれって…ドラゴンか?やたらにデカイ…
「入った場所へ走り込めば、出られるけど、再入室は出来無い。まぁ、命が危なそうだと思ったら、逃げてね」
って…早速、私とレフィーヤは逃げた。
---フィン---
これはきつい…戦闘域が5メートルって…相手はドラゴンで、一撃で倒さないと、危険だし。リヴェリアとレフィーヤは逃げた。こんな狭い戦闘域で魔法なんか撃たれたら、こっちが危ないし。
ジムは慣れているのか、落ち着いている。バックパックの口をひらいて、戦闘域の端に置いた。魔石を拾って投げ込んで行くようだ。彼もガントレットから得物を引き出して、構えた。どうやら、ナイフの二刀流のようだ。
「来るよ!」
ジムの声がすると、目の前にドラゴンが次々に近づいて来ている。アイズとティオナが討ち漏らしたドラゴンを、ジムが仕留めていく。たまに僕の方まで来るのもいる。いや、戦闘域にはドラゴンが一匹いるだけで、足場が無い。その位の大きさのドラゴンだ。
「フィン!上だ!」
ジムの声で上を見上げると、急降下してくるドラゴン。それも次々と…仕留める合間に魔石を拾っては、バックパックに投げ入れるジム。彼は一人で、こんな事をしていたのか。
「バックパックが満タンに成ってきた。撤収して!僕がしんがりをするから」
アイズ、ティオナが穴から出て行き、僕も続いた。最後に、バックパックとティオネを抱えて、ジムが出て来た。あっ、ティオネがいたんだ…忘れていた。
「じゃ、バックパックの中身を売って、食事して、もう1回行くよ♪」
「ねぇ、それでいくら位になるんだ?」
ティオナが訊いた。
「そうだね…5000万くらいかな?」
耳を疑う額…そんなに?
「目標は5億だよ。そのくらい無いと、新しい装備が作れないし」
材料費が5億なのか?それは高くなる訳だ…
「なぁ、原価率ってどのくらいなんだ?」
気になったことを訊いてみた。
「フィンのソレだと、僕の売値は3億、調整費5000万で、材料費は3億4000万くらいかな…」
え?これって…そんな安かったっけ?
「で、ヘファイストス様の値付けだと、10億だっけかな?調整無しでね」
そう、その価格だ。お店で見たのは…
「フィンのその剣って…そんなにするのか?」
リヴェリアが青ざめている。いや、僕も顔から血の気が失せている気がする。
「基本的に僕の取り分は1000万だよ。残りは材料費になる」
「それで、未解放領域を一人占めか?」
強張った声のリヴェリアが問い質した。
「一人占めってことでは無い。ウラノスにもヘルメスにも報告はした。で、戦闘域が狭いので、ギルドには報告しないことになったんだ。実際問題として、君達、魔法使いは戦えないだろ?いや、言い方が違うか。魔石を拾わずに戦うのは無意味だろ?」
「それは…」
無意味だ。経験値だけを上げるには、危険が多すぎる。数で圧倒も難しい。あの戦闘域では、味方を斬ってしまう可能性がある。この位の人数がベストなんだろう。
「高額なドロップが見込めると、ギルドで公表したら、あそこは死体の山になるよ。いいの?それでさぁ」
項垂れているリヴェリア。ジムの言うことに反論が出来無いようだ。
「湖に落ちたのを、拾えば良いと言うかもしれないけど、試しに入ってみれば?僕だって入りたくないくらい危険だよ。とても深いし、粘性のある液体で、身動きが取れないし。初めて行った時に、僕死にそうになったもん…」
ソロで死にそうって…
「すまない…無責任なこと言って…そうだな。あれでは、魔法使い、弓使いは使えない。槍使いもダメだな。剣士4名くらいがベストだ」
ジムの意見に同意したリヴェリア。
「で…いつまで抱きついているんですか?」
ジムがティオネに言った。穴から救い出して貰ってから、ずっと抱きついている。
「え…いや…何て言うか…」
「ティオネ、離れろよ!私のジムなんだから」
姉に文句を言うティオナ。
「ティオナの何?」
「私の…」
顔を紅潮させたティオナ。
「いや、彼の愛人だよ…私は…彼と…に、に、肉体…関係…だよ…」
恥ずかしいのか、言い澱んでいる。アイズは暖かい目で見ている。婚約者である強みか?
「えっ…ティオナ…あなた…経験を…?」
ティオネの問いに、真っ赤な顔で頷くティオナ。
「ずっ…ずるい…知らない間に…」
「で、いつまで抱きついているのかな?確か、フィン一筋じゃないの?」
笑顔のアイズが、ティオネをジムから引き離した。
「あ!団長…恐かったです」
って、今更、僕に抱きついて来たティオネ。はぁ~。
一旦、地上に出た。