---フィン---
ジムは迷わずバベルにあるヘファイストス・ファミリアの店に入った。入るとすぐに店長が近づいてきた。
「ジム先輩、買い取りですか?」
「うん、これ、いつものだよ」
ジムはバックパックの中身と、メモを渡した。
「これで足りるかな?」
メモに目を落とす店長。
「う~ん、午後も行くんですよね?」
「そのつもりだけど…」
「まぁ、足り無ければ、どうにかします。俺の仕入れのテクでね♪先輩にはお世話になっているし。仕入れで困ったら、いつでも頼ってください」
って言われて…店を出た僕達。無理が利きそうな店長との関係をジムに訊いてみた。
「あぁ、彼はヘファイストス・ファミリアにいた時の同僚だよ。僕を先輩って言うけど、彼の方が歳上だし。で、彼の作品の調整を手伝っていたんだよ」
あぁ、それで恩を感じているんだな。ジムの調整があれば、価値は上がるし。
「で、食事はどこで?じゃが丸君の屋台かな?」
「うん♪うん♪」
ジムの言葉に喜ぶアイズ。
「ダメだよ。栄養バランスを考え無いとさぁ。肉も食べようよ~♪」
って、ティオナ。肉大好きなだけでは?
「どこか、お店ある?僕、いつも自炊だから…お店は知らないよ」
この街の人気店の1つに連れて行く。しかし、昼時なので、満員で入れない。
「あれ?ジム…ジムだよね?」
きょとんとしているジム。この店の看板娘のシルが、ジムに抱きついた。
「あっ…シル…さん?」
「そうだよ。思い出してくれた?」
知り合いなのか?外食をしないのに?
「そうか、来てくれたのか…う~ん…今、満員なんだよ~。ジムが来てくれたのに。ごめんね。少し待って♪」
店内に戻るシル。
「ジム、シルさんと知り合いなの?」
アイズが訊いた。
「う~ん…ごめん…ノーコメント…」
「えっ?まさか、隠れて…」
哀しそうな顔になるアイズ。
「う~ん…仕事絡みだよ…だから、言えない。アイズとティオナ以外の身体は知らないよ」
って、恥ずかしがらずに、すぱっと言い切るジム。それを聞き、女性陣の顔が真っ赤になっていく。アイズですら意味がわかったようだ。
「ジム…そういうことは…お外で言わないでね」
モジモジするアイズ。こんな行動が出来るようになったのか。恋人が出来るって凄い。ティオナはティオネを、勝ち誇ったような態度で見ている。関係を持つって、こんなに立場が強くなるのか。
しばらく待つと店内に入れ、ようやく食事にありつけそうだ。メニュを見るジム。
「ジム、メニュは読めないだろ?」
って、店主のミアさんが、ジムに言った。知り合いなのか?
「あ…」
「幽霊でも見たような顔するな。生きているよ。ピンピンしている」
「そうなんだ…良かった」
ジムはぼそっと呟いた。
「ジムに習った料理でいいよな」
頷くジム。うん?ジムに習った?どこでだ?仕事絡みなのか?って、仕事って?ジムの様子はビクビクしている。何に怯えているんだ?ミアさんにか?まさかな…
暫くすると、各々が頼んだ料理が目の前に置かれていった。ジムの前には、見慣れない料理が置かれていた。スープのように見えるが…
「ジム、それは何?」
ティオナが訊いた。
「干し肉のスープ仕立てと、鷹の爪とガーリックのパスタ♪」
「味見させて♪」
ティオナ、アイズ、ティオネが味見をした。三人とも複雑な表情だ。まずかったのか?
「戦地では、こういうのしか食べられなかったんだ。材料は最小限で乾物しか持ち歩けないし」
美味しそうに食べるジム。戦地って?どこだ?少なくても、この大陸には、そのような食事をしないが。
「このスープは有り得ないだろ…」
レフィーヤとリヴェリアが気になったのか、一口飲み、リヴェリアが感想を漏らした。
「パスタのゆで汁で、干し肉を戻しただけだからね。でも栄養価は高いよ♪」
どんな食生活だったんだ?ゆで汁で干し肉を戻す?極貧生活だったのか?
「この肉は何?」
ティオナが訊いた。
「ミノタンの腕♪」
味見をした皆が青い顔になった。ミノタウロスの腕だって…
「殺しちゃうと灰と魔石になるから、殺さないように、腕だけを切り落として、干し肉にしたんだ♪」
理屈はそうだけど…アレを喰うのか?それも、美味しそうに…
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午後の狩り、僕とジムだけで行く。女性陣は体調を崩した。ミノタウロスの肉を食べたという精神的なショックのようだ。
「なんで、体調崩すかな?僕はこんなに栄養満点なのに♪」
食文化の違いは恐ろしい…ジムが以前いた場所はどこなんだ?
「二人だから、パントリーにしよう」
ジムは午前中とは違う階に向かった。道すがら、ジムに気になったことを訊いた。
「なぁ、仕事絡みって?」
「フィンだけならいいかな?ギルドの裏の仕事…ウラノスとヘルメスとフレイヤの3つのファミリアの限られたメンバーだけで」
ギルドの裏の仕事?聞いたことが無いが。
「内容は言えない。そういう仕事だよ。僕はその3つとも在籍をしたことあるし…」
内容が言えない…非合法な仕事だと容易に想像が出来る。それは…暗殺…そういえば、噂で聞いたことがある。ギルドの命令を無視していた傍若無人な者達が、或る日突然消えたとか…都市伝説に近いレベルの噂だけど。
「まぁ、たぶん…フィンの想像通りだよ。そういう仕事だ。僕にしかできない。この街の者が手を染めるべきものでは無い」
ジムの言葉は、彼だけはこの街の者では無いように聞こえた。どこの者なんだ?
「フィンだけの胸にしまっておいてね♪」
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夜、気になってしかたがなくて、ヘルメス様の元を訪れた。用件を言うと、人払いをした部屋に連れて行かれた。
「そうか…ジムが…フィンとしては気になるよな、やはり」
「気になります」
「フィンだけの胸にしまっておいてくれるか?」
頷く僕。
「ジムはこの世界の者では無い」
想像の範疇を超えた話から切り出された。戸惑う僕。
「え?どういうことですか?」
「ある日、ダンジョンの天井から落ちてきたそうだ。未知との遭遇をしたのは、オッタルだ。ダンジョンを探索中に、上から降ってきたそうだ。当然、不審人物として捕縛され、フレイヤの前に突き出された」
降ってきた?天井から?どうして?疑問が頭の中で次から次へと湧き出していく。
「フレイヤはジムの魂の色に惹かれたそうだ。漆黒で周囲を囲まれた碧だったそうだ。その色に魅入られたフレイヤは、ジムを「魅了」しようとしたんだけど、逆に「魅了」されてしまった」
魅了を反射したのか?
「だけど、通常の「魅了」とは効果が違っていたので、気づかなかったようで、魅了したと思って眷属にして、ジムのステイタスを見て、愕然としたそうだ。スキル【カウンター】ってヤツにさぁ。効果は相手の能力を反射しつつ、自分の物にもしてしまうって。その時、フレイヤは自分の方が魅了されたことに気づいたらしい。更に、普通の魅了と違い、自分の思う通りできる訳では無く、魅了された者は、魅了された本人を魅了する。訳わからない魅了だろ?」
自分で自分を魅了?なんだ、それは…
「要約するとだ、自分で思ったことを行動に移せるようになるんだ。アイズ、ティオナは魅了されている。フィンもそうだ」
え…いつの間に…
「発動はジムの意志で出来無い。運で左右されるものだ。まぁ、俺もロキも魅了されているし。神をも魅了できるんだ。危険だろ?ふふふ♪」
えっ?ロキも…
「で、アイツはスキルを無限に増やせる。アイツの意志に関係無く。攻撃された分だけな」
危険だ…攻撃されるほどに強化され、ジムの意志を関係なく発動されるって…
「あと、アイツにとっての問題も教えてやる。」
問題?
「LV2になって発現したアビリティに問題があった。【守護者】ってやつで、護りたい相手を、護る為に、全身全霊を掛けて、護り切るんだそうだ。アイツは本当の危機に直面した場合、自分の命と引き換えに、俺達を助ける運命なんだ」
護りたい者って…ジムにとって…仲間か…
「ウラノスの能力で封印したことに成っている。実際は神としての能力を使うと、天界に戻されちゃうから、封印なんかしていないが、ジムは封印されていると思っている」
それって…18階までしか降りられないって、そういうことか。仲間が危険に晒されないレベルでの冒険ってことなのか…
「封印の件は言うなよ、ジムには絶対に。言えば、アイツは引きこもりになっちまう。で、俺達神々は、アイツを危険から遠ざける為に、スミス系のファミリアへ書類上の改宗をさせたんだよ」
引きこもりになったのか?
「あと、人に言えない仕事の件だな。まぁ、フィンの想像通りだ。アイツだけは、この世界の者では無いから…でも、それは間違っていた。気づいた時には、アイツの精神はボロボロだった…アイツは笑顔で殺しが出来るようになってしまった。それも躊躇無くな」
神々が作り上げた殺しのプロ…今のジムから想像が出来ない。
「今でもそうなんですか?」
心配になり、訊いてみた。
「あぁ、指令が出ればな。ミアのところでビクビクしていたのは、指令書を届けていたのは、シルだったからだ。フィンやアイズ達の前で指令書が、手渡されるかと思い、恐かったんだろう」
僕は彼に安らぎを求めていたけど、彼もまた僕達に安らぎを求めていたのかもしれない。
「まぁ、そんなところだ。あぁ、後はあれだ…アイツのいた世界と理が違うらしく、魔法体系が違う。だから、魔法を習おうとしても無駄ぞ」