ミアのお店がお休みなので、シルとおでかけ。リューはアストレアに付きっきりである。話したかったことが山ほど有るようだった。
「で、どこに行くの?」
「デメテル・ファミリア」
「アイズさんの材料の仕入れ?」
「そんな感じ…アレがあると機嫌のコントロールがしやすいんだよ」
「ねぇ、私の機嫌のコントロールは?」
シルが僕の顔を覗き込む。
「難しいよね」
「何で?」
お店でのスマイルを繰り出してきた。う~ん…確かに可愛いのだが…罠の気がする。僕に営業スマイルを向ける時は、罠の時が多いし。基本、僕には素で接しているシル。
「ねぇ?可愛くない?」
「う~ん…」
罠かどうかを考え込んでいた僕の唇を、なんの前触れ無く奪うシル。
「うっ…うぅ~ん…どうかな?上手くなったかな?てへ♪」
シルとのスキンシップをしていると、知らない冒険者に声を掛けられた。
「シルさん、その方はどなたですか?」
小柄で赤目白髪のウサギのような少年が、僕のことを良い視線で見つめている。
「あっ、ベル君。彼は…」
言葉に詰まるシル。うん?ベル?確か…シルの彼氏だっけ?
「なんだ、シル。彼氏と待ち合わせか。とんだ、道化だわ。じゃあな!」
僕はシルを残して、その場を去った。で、一人でデメテルでの用事を済ませて、帰路に着くと、会いたくないヤツに出会った。向こうも僕とは会いたくなかったようで、視線を逸らせて、すれ違っていく。
「待って!僕と戦ってください!」
振り返ると、先程のウサギ君と驚いた顔のアイツがいた。
「何で戦わないと行けないの?理由も無く戦えない」
「シルさんが泣いていました。遊びでシルさんの心を惑わせないでください」
惑わしているのはシルの方なんだけど…まぁ、アイツの表の顔を尊重しないとな。
「わかった。じゃあな!」
「言葉だけで無く、行動で示してください。僕と戦って、僕が勝ったら、シルさんに近づかないでください!」
正義感をビシバシと感じる。でもなぁ、同居しているんだけど…別居してくれるかな?それはそれで、平和になるかな。
「いや、戦わないでもいい。シルに首輪を付けて、お前の手元に置いておけ」
「シルさんをペットみたいに扱うなんて、許せない」
ガントレットから、ナイフを2振り取り出した彼。僕と戦闘スタイルが被るんですが…
「悪いけど、僕は冒険者じゃない。だから、対人戦はしない。うん?ヘスティアナイフ?おい、ヴェルフ!お前の知り合いか?」
「ベル…止めろ!相手が悪い…」
ヴェルフの顔色が悪くなっていく。
「なぁ、ヴェルフ。他のファミリアの団長に、往来で戦いを挑むって、それがどういう意味かわかっているか?」
「おい、ガキの言う戯言だ。流してくれ」
「じゃ、お前が躾してくれ。お前の顔は見たく無い!」
ヴェルフが動くよりも先に、ウサギ君が動いた。早いなぁ。ウサギだからか?兎人って種族いたかな?そんなことを考えていたら、
痛っ!マジで斬りつけてきやがった…でも、対人戦は禁じられている。団長として、ルール厳守だ。傷は浅い。回復術でどうにかなるレベルだし。
「これで気が済んだかな、兎君。じゃあなぁ」
「じゃぁな?じゃないでしょ?大丈夫?ねぇジム」
斬りつけられた現場を、知り合いが見ていて、声を掛けてきた。事態がデカくなりそうだな。
「大丈夫だよ、シャクティ。これくらいは問題無い」
「問題無いって流血しているわよ…往来で、団長を斬りつけるって…ねぇ、君達は、ヘスティア・ファミリアのベルさんとヴェルフさんですよね?どういう事です?何が原因なの?私は、ガネーシャ・ファミリアの団長シャクティです」
シャクティの正体を聞き、青ざめる二人。
「シャクティ、もういい。頼むから、事を大きくしないでくれ」
こいつがしゃしゃり出ると、事がデカくなりすぎる。
「でも…ジム…」
僕は回復術で傷口を治した。
「ホラ、なんとも無い」
が、久しぶりの魔法の行使で、ふらつく。シャクティの肩を掴んで、立っていられるレベルだ。
「何ともなく無いじゃない。大丈夫?ねぇ、ジム…おい!そこの二人!主神に謝罪をするように言いなさい。いいですね!」
シャクティが僕を優しく抱き締める。
「シャクティさん、彼はシルさんを泣かせた。ペットの様に扱い、遊びで付き合っていたみたいです」
兎君が間違ったことを言っている。シルの事をシャクティに言うのは、得策では無いんだけどな。
「はぁ?ジムがシルと遊びで付き合っていた?どこから、そんなデマを聞いたの?」
シャクティが呆れたように言い返した。
「もう、いいよ。シャクティ。彼の誤解なんだから」
「良くない…私の大切なジムの悪いデマを流されるのは、心外だもの。ベルさん、シルはジムの家に押し掛けて、同居しているのよ。遊びだったら、彼はそんなことを許可しない。ペットの様に扱うようなマネは…う~ん…たまにされているかな…」
何か、誤解に油を注いでいないか?まぁ、いいか。確かに、僕がペットのような扱いを受けているのは間違い無い。
「すまないけど、シャクティ。家まで送って…」
「うん♪」
なんか必要以上にスキンシップをしながら、抱きついているシャクティ。それだと、運び難いだろうに…
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夜、ホームでまったりしていると、エイナが駆け込んできた。
「団長、戦争遊戯の申し立てが来ましたけど、何かやらかしましたか?」
うん?いや、対人戦はしていないし。恨まれることはしていないし…身に覚えが無い。戦争遊戯というのは、ファミリア同士の果たし合いみたいな物だ。恨みをかっていないのに、果たし合いって、どういうことだ?
「無いよ。闇ファミリアか?」
「いえ、表のファミリアです。最近勢いづいているヘスティア・ファミリアです」
「覚えが無いなぁ。間違いで無いのか?」
申し立て書に目を通す。う~ん団長ナイト・クロウになっているし…ウラノス・ファミリアを戦争遊戯に引き摺り出すって、どんなファミリアなんだ?ギルドにケンカを売るような物だと思うが…
「まぁ、売られたケンカは買うけど…殺さないで倒すのは難しい…どうしようかな?」
「でも、アストレア・ファミリアで受けた方が戦闘力高いでしょ?」
まぁ、あちらは実質全員LV6以上だしなぁ。
「わかった。受ける。ウラノス・ファミリア団長ナイト・クロウとして、受け付ける。相手にそう伝えてくれ」
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翌日、特ダネとして、オラリオの街を駆け抜けた、戦争遊戯の話。どこのリークだよ。
ギルド内で調印式。ウラノスは動けないので、僕だけが参加した。相手側はじゃが丸君の屋台の人と兎君が来た。
「条件は負けた方が土下座をする、これでいいわね!」
じゃが丸君の屋台の人が言う。まさか、この人が主神?兎君は、相変わらず良い目をしている。
「いいよ。で、殺しても文句無しって、付け加えてくれる?僕、手加減が出来無いから」
「いいわよ。私の眷属を舐めないで欲しいわね」
あぁ、やっぱり、この人が主神なんだ。この女神、頭は大丈夫か?胸がやたらに大きいのは、頭に栄養が行っていないのかな?
「じゃ、エイナ。コイントスしてくれ。コインが地面に付いたら、戦闘開始だ♪」
「はい、団長♪」
エイナがコイントスをした。
「え?今から?」
慌てる主神。
「神様は僕は護る」
開始の合図を待たずに、兎君が飛び出してくる。僕に近づき『ファイアボルト』と唱えた。魔法が使えるのか。しかし、彼の放った魔法はカウンターされ、彼に向かっていく。
「何で?」
自分の放った魔法を必死で避ける兎君。
「エイナ、アイツ、反則負けだろ?」
「そうですね。フライングしました。では、ヘスティア・ファミリアはウラノス・ファミリアに土下座をしてください」
エイナの裁定にあっけに取られたような兎君。
「えっ?負け?認めないわ。再戦を要求します。全員参加で勝負をしなさい!」
デカ胸女神が、再戦を要求してきた。これ以上は、死者が出る気がするんですけど…
「じゃ、1時間後に、コロシアムで♪僕は先に行くよ」
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1時間後、コロシアムで待っている。が、相手は来ない。
「エイナ、不戦勝でいいかな?僕、疲れて来たんだけど…」
「ですね。30分待って来なければ、不戦勝で良いかと思います」
そして、不戦勝が確定。不毛な戦いだ。眠い…家に帰って寝る。しかし、直ぐに起こされた。また、エイナがやって来た。
「今度は何?」
「えぇっと…ヘスティア・ファミリアが、今度はアストレア・ファミリアに戦争遊戯だそうです。相手を間違えたそうです」
書類に目を通すと、団長ジムに対してになっている。う~ん…
「同じ…いや、更に悪い選択をしていないか、あの女神は…」
「ですよね~」
エイナが困った顔をしている。いや、僕も困った。既に2勝しているのだが、相手が負けを認めない。う~ん…どうすれば…
「ジム、どうしたの?」
アストレアがやって来た。事情を彼女に話す。
「それはヘスティアのわがままでしょ?エイナさん、どうにかならない?ジムはもう無理よ」
「一応、今日の結果は公示します。負け逃げした事実も含めて。それとは別に、どうします?」
「だって、家事系のファミリアだよ。普通に考えて、冒険系のファミリアに勝てる訳無いだろ?あっ、それが狙いか?不戦勝狙い…う~ん、それはそれで悔しいなぁ。で、いつやるの?」
「3日の猶予をくれるそうです」
「わかった。受ける。全員招集だな。家事系ファミリアだと舐めたことを後悔させる。徹底的に潰すよ」
---フィン---
ベルがジムに戦争遊戯をふっかけたそうだ。家事系ファミリアってことで、舐めているようだし。僕達のホームに呼び出し、回避を促している。ジムは対人戦禁止だしなぁ。
「どうしてですか?だって、アイツは酷いヤツですよ。シルさんに対して無理やり、同居するなんて…」
怒りに震えているベル。アイズ達は、招集がかかり、ジムの元に向かっている。書類上の眷属だけども、ジムの為に働きたいようだった。
「それでですね。アイズさん達を助っ人でお借りできませんか?」
って、無理なことを。現実を知らせた方が良いかな?相手を知らなすぎるもんな。
「ベル、いいか?アイズとティオナは、ジムのファミリアに改宗している。レフィーヤとリヴェリア、ベートはジムの助っ人で参加するそうだ。後、シャクティ、アスフィ、オッタル辺りも援軍として参加するらしい」
僕の言葉に驚いているベル。
「なんで…あんな酷いヤツに…アイズさん達は騙されているんですよ!」
「騙されているのは、君の方だと思うけど。いいか、アストレア・ファミリアを家事系だと思って、舐めるな。あそこは眷属は全員、実質LV6以上で構成されている。はっきり言って、ヘスティア・ファミリアでは無理だ。いや、ロキ・ファミリアでも無理なんだ。それくらいの戦力を誇っている」
更に驚いた表情のベル。
「れっ、レベル6…以上…だって、ギルドでの資料では…」
「あぁ、Lv4とLv2だろ?事情があって、正確なデータでは無いんだ。出来れば、今日中に土下座して来い。既に、ナイトに2連敗して、負け逃げしたそうじゃないか」
「負けていません!」
「フライング負けと不戦敗だっけ?立派な負けだよ。殺されるから、あそこは止めておけ。実戦になれば、手加減なんかしれくれないぞ」
「なぜ、フィンさんまで、アイツの肩を持つのですか?」
「じゃ、自分の目で見てこい。アイツの部屋に連れて行ってやる」
誰に洗脳されたんだ?ベルって、こんな無謀なヤツで無かったはずなのに…
---ジム---
中庭で軽く手合わせ。ベートとルノア、リヴェリアとクロエ、アイズとリュー、ティオナと僕、レフィーヤと僕で、寸止めルールで組手。
「なぁ、魔法で寸止めって、どうなんだ?」
リヴェに訊かれた。
「最後の1ワードだけ言わなきゃ、発動しないでしょ?」
「なぁ、乳首責めって、どうして?」
リヴェが訊いてきた。
「ティオナもレフィーヤも悦ぶし♪」
アイズとリュー、ベートとルノアだけは、真剣に取り組んでいる。そこに、
「ジム、いいかな?」
珍客付きのフィンが訪れた。珍客は、戦う相手の兎君だった。
「ジャマしなきゃいいよ。おい、レフィーヤ、歌を止めるな!」
「はい、師匠」
「だから、指で乳首を弾くなよ、ジム」
「嫌なら、避けろよ、ティオナ!」
兎君が動いた。僕に真っ直ぐ向かってきた。その動きにリュー、アイズ、ベート、ルノアが反応して、兎君の手からナイフを奪い取り、制圧した。
「ベル、ジムを襲うな!」
アイズがキレている。みんなも殺気立っているな。
「練習終わろう。これ以上やると、死者が出そうだ」
練習を切り上げて、シャワーやお風呂に向かう一同。僕はフィンと兎君を連れて、僕の部屋に向かった。ドアを開けると、
「お帰り、ジム♪」
満面の笑顔のシルが抱きついて来た。でも、肩越しに兎君の姿が見えたのか、筋肉が一瞬にして強張っていく。
「シルさん…どういうことですか?」
「え…えぇっとねぇ、ベル君…」
「シルさんにとって、彼は何者なんですか?」
言葉に詰まるシル。うん?この行動が原因で無いのか?勘違いされるとしたら、この行動だろうな。質問を変えてみるか。
「シル、僕はシルに取って何者だ?」
僕が訊いた。
「えっ?王子様…命を救ってくれた勇者様…」
僕の問い掛けには即答するシル。そして、僕の頬に自分の頬を擦り合わせる。そんなシルの姿を目の当たりにして、兎君は、
「おい、シルさんにかけた魅了を解け!」
魅了?そんな物は持っていないはず。もし、持っていれば、兎君を魅了して一件落着になると思う。何か、勘違いされているんですけど…シルのせいか?
「兎君、シルが欲しければ、僕を殺せ!」
「ベル!ジムを殺したら、私は貴方を絶対に許さない」
シルは即断して兎君に言い放った。
「なんで?シルさん…どうして?アイズさんも…どうしてなんだ?」
あぁ、そういえば、あの場にヴェルフがいたな。あいつか?禄でも無い事を吹き込んだのか。
「シル、兎君を納得させておけ。フィンも頼む。僕は戦争遊戯を回避してみるから」