---ジム---
「遠征は1ヶ月位らしい…う~ん、しばらく、逢えないのがつらい」
アイズが寂しそうな顔をしている。今日から遠征だという。カドモスの泉の水の採取が主たる目的だと知らされているんだとか。囮にされたとも知らずに…
僕はアイズの首に、ペンダントを装着した。
「これは?」
「僕の念を込めたお守りだよ。心から願う願いを1つ叶えるようにしてある」
「いいな…私は遠征しないから、貰えないんだよね?」
シルが羨ましそうにアイズを見ている。そんなことは無い。彼女にも、ペンダントを装着した。
「親子になった記念ってことだ」
「「ありがとう、お父さん♪」」
お父さん呼びに戸惑う僕。そんな僕を見て笑っている二人。そんな僕へお返しなのだろうか、両頬に柔らかな唇が重ねられた。気持ちいい…ここで時が止まれば良いのに…
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アイズとシルの出勤を見送り、僕も作業を始めた。まず、アストレアの部屋へ行く。哀しそうな表情の女神。
「リューと人生を楽しめよ」
「もう、行くのね…今まで、ありがとう…」
彼女と見つめ合う。涙が湧き上がる前に、彼女と彼女の部屋の荷物を、豊饒の女主人のリューの部屋に転移させる。ミアの許可は、既に取ってあるので、問題は無い。あと、シルとアイズ、ティオナ達の荷物を、彼女達の本来の部屋へと転移させていく。
そして、ヘルメスの元へ…
「アスフィはいないけど…」
平静な態度で応対してくれる彼。僕は彼に、僕の財産目録を手渡した。
「これは?」
「僕の財産目録だよ。完成品はヘファイストスへ売却、売却したお金の半分は娘達に、もう半分はフィン達の装備のメンテ代に当てて欲しい。砥石と道具類はゴブニュのおやっさんに…差し出す代わりに、フィン達の研磨を無料にして欲しい。あと…まぁ、細かく書いて置いたから、後は頼む」
「なんでだ?帰って来るんだろ?なぁ、ジム!」
表情が強張るヘルメス。
「アレを使わないようにする。でも…たぶん、ダメだと思う。断った案件なのに、ウラノスが許可を出すって…そういうことだろ?」
無言で頷くヘルメス。
「だけどな…」
「頼むよ、ヘルメス。いってきま~す♪」
僕は逃げるように、その場から転移した。
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ダンジョンの入り口で疾風と落ち合う。今回は裏案件なので、ランスロット達には、関わるなと伝えてある。でも、彼らも結末は予想出来ているのだろう。いつか、また再会できるように足掻くと笑顔で言われた。
「ナイト、準備はいいのか?」
思いに浸っていた僕は、疾風の声で現実に戻って来た。
「あぁ」
そして、二人でダンジョンへと足を踏み入れた。黒猫と黒拳は既に出発したそうだ。
18階へは順調に進んだ。ロキ・ファミリアの遠征隊、ヘルメス・ファミリアの遠征隊は、ここの宿で1泊して、ロキのところのみ、先へ進む。ヘルメスのところとフィルヴィルはこの階層の調査をする予定である。ガネーシャ・ファミリアは17階層に野営をして、休息をしている。ロキ・ファミリアのメンバーに気づかれないように。
僕らも、それぞれのガード対象を監視できる場所で野営をして、休んでおく。いつ戦闘になってもいいように。
「どこで仕掛けてくると思う?」
疾風に訊かれた。
「たぶん、次の野営ポイントだろうな。それの次だと、フィン達の警戒がきつくなるし」
下の階層に行く程、野営の警戒心は強まる。なので、襲う側の思考にして考えた結果を伝えた。
「役割は、リューはガード役で、僕は探査だ。見つけ次第、僕も戦闘する」
「わかっている…別れの挨拶はしたの?」
アイズとシルにか?
「していない。普段通りだよ。任務は他言無用。そうだろ?」
頷く彼女。
---シル---
仕事が終わり、ホームへ帰ると、扉に鍵が掛かっていて、入れない。う~ん…工房のドアへ向かうと、
『留守にします』
と、ボードが掲げられていた。突然の素材探しかな?朝、何も言っていなかったし。その時、イヤな予感が脳裏を過ぎった。今日は、リュー、クロエ、ルノアが揃って休みだった。そして当分、お弁当販売だけだとミア母さんに言われたのだ。これって、まさか…私は私に似た神の元へと向かった。
「ね、どういうこと?」
女神を問い質す。
「ごめんなさい…護れなかった」
護れなかった?誰から?何から?
「でも、彼はシルを見捨てない。だから、彼を待っていてあげて…」
うん、見捨てないと思う。昔の私を覚えていてくれた。そして、約束を叶えてくれた。だから、見捨てはしない…でも…
---ナイト---
野営の準備をし始めたロキ・ファミリア遠征隊。リューと離れて、監視をしている。どこから襲ってくるかわからないから。食事を終え、寝始めていく。静かな寝息が聞こえる。何も起きないで欲しいって願う。が、地面に微かな振動を感じた。リューと僕に緊張が走る。見える部分に変化は無い。まさか…近くのリヴェリアのテントの中に潜ると、テントの下から触手が無数に生えていて、リヴェリアの穴という穴に侵入していた。触手を切り裂いて行く。しかし、リヴェリアは何かを注入されたのか、僕に襲い掛かってきた。
そんなリヴェリアを、リューが峰撃ちして倒した。
「ナイト、探索をお願い。ここは私が引き受けるから」
アイズのいるテント…何かが蠢き、アイスが抵抗しているように見える。
「早く行って!被害が大きくなる前に」
アイズの元に直ぐに行きたい…でも…僕は床を撃ち抜いて、下の階層へと落ちていく。階層を移動するや、フロア探索を繰り返し、術者を探す。そして、7階層下で見つけた。術者を屠りに行く。
術者は僕に気づき、何かを召喚した。地面が鳴動して、多数のリビングデッドが這いだして来た。聖剣を呼び出して、ソレを手にして、リビングデッドを浄化していく。しかし、なかなか手強い。ダンジョン内で息絶えた亡骸を使ったのだろう。生きていた頃のレベルの技量を持っているようだった。
何体、何十体、何百体倒しただろうか、まだまだ湧いてくるリビングデッド達。術者までの距離が詰められない。聖剣切れ味も落ちて来ている。まずい状況だ。
アレを使おうか悩み出した時、隣に心強い味方が現れた。既にリビングデッドであったが、生きていた頃の記憶をかろうじて持っているようだ。
「ジム…雑魚はまかせて…」
左手でペンダントヘッドを握り、意を決して、雑魚狩りに飛び出してくれた。僕は、術師への距離を縮めていく。
そして、術師の前に出られた。が、術師の姿は、僕の良く知っていた赤毛の…僕の腕の中で息絶えた…そんな彼女の亡骸を器として使っていた。僕の中で怒りが加速していく。
術師の剣捌きは生前の彼女のようだ。華麗で軽やかで、苦戦する。動きを封じないと、浄化出来無い。一進一退の攻防を続けていると、チャンスは訪れた。術師は剣で突いてきたのだ。僕は剣を身体で受け止めて、貫通させて、筋肉で剣を抑える。術師の動きが一瞬止まり、『ホーリークロス(聖なる十字架)』という強力な浄化術を撃ち込む。術師の身体は灰になっていき、魔石が見えてきた。僕は切れ味の落ちた聖剣を手にして、斬るのではなく、叩き割った。粉々になった魔石は灰になり、消えていく。それに伴い、周囲にいたリビングデッド達も灰へと姿を変えていった。
コトン!
僕の足元に何かが落ちた。魔石の無くなったペンダントヘッドだ。ソレを握り締め、最後の仕事をやり遂げ始める。僕の血で、魔法陣を書き、鞘に収めた聖剣を、次の英雄が手にするまで休ませる為、魔法陣の中心に突き立て、深く床へ押し込んでいく。これで、いいかな…
僕の隣にアイズがいた。僕の視線の先には、聖剣に身を預ける、僕の器だった身体が見える。アイズを見ると笑顔で、
「これから、ずっと一緒だよね?私の英雄さん♪」
って、僕を優しく抱き締めてくれた。
アイズ達のいたフロア…全滅なのか、生なるオーラをまったく感じ無い。僕は、損傷した器達を修繕して、天へと向かっている魂達を器へと戻していく。アイズは、僕の作業を興味深く見つめている。
「ねぇ、スミスって、そんなこともするの?」
アイズに訊かれた。
「う~ん、普通はしないよ。僕だけかな?クレイジーなスミスだから」
と、答えておく。
1つ上の階層…ここはかろうじて生なるオーラを感じる。シャクティは、虫の息のようだ。ここでも、彼女達の器の損傷を修繕して、天へと向かった居る魂達を、器に返して行く。
そして、18階層。生なるオーラは割と残っている。アスフィを庇うフィルヴィルがいた。
でも、彼女達から生なるオーラは感じなかった。ここでも、彼女達を含む、このフロア全員の器の損傷を修繕して、天へと向かっている魂を返却していった。
僕とアイズはゆっくりと上昇していた。地上に出ると、普段と変わらない風景が広がっていた。更に上昇をしていく。バベルの屋上に、シルに似た女神が、僕達に手を振っている。そうだ、彼女には魂が見えるんだったな。彼女に見送られて、僕達は、僕が元々いた世界へと旅立った。
---シル---
ジムがいなくなって数日後、リュー達が帰って来た。ミア母さんと何かを話して、また、どこかへと消えていった。
ミア母さんが私に近づいて、声を絞り出すように言う。
「明日は、喪服を着て来なさい」
って…喪服…誰が死んだの?ジムは、消えるだけのはずだけど…
翌日喪服を着た私は、ミア母さんと、ダンジョンの入り口で、何かを待っていた。私達だけで無く、ヘルメス様、ロキ様、ヘファイストス様など多数の神々が喪服で何かを待っていた。
ダンジョンの奥から行進する足音が響いてきた。フィンさん、アスフィ、シャクティ、フィルヴィルが棺を大切に運んでいる。その後ろにはリヴェリア、レフィーヤ、ティオナ、ティオネが棺を大切に運んで来ていた。私の知り合いが死んだの…そこにあるべき姿が無い者がいた。私と同時に、彼の娘になった彼女の姿が見えないのだ。じゃぁ…
2つの棺は聖堂へと運び込まれ、祭壇に並べて置かれた。1つの棺には、装備品しかなかった。魔石の無くなったペンダントヘッドの枠…剣が3振り…ハーフメール…彼女の持ち物だ。しかし、遺体はそこには無かった。
もう1つの棺には、彼がいた…左胸に穴が空いた彼が横たわっていた。穴から、黒ずんで萎んで固くなった彼の心臓が見える…意識を保てたのはそこまでだった。
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意識が戻ると自分の部屋のベッドにいた。心配そうにミア母さんとリュー、クロエ、ルノアが、私を見ていた。
「なんで…ジムは…消えなかったの?」
アレを使えば消えるはずなのに…
「使えなかったんだ…」
リューが消えそうな声で答えた。
「使えないって?」
「アイズがリビングデッドにされたんだよ…アレを使えば、アイズは魂ごと消滅してしまう」
え?リビングデッド…生きる屍…
「アイズを救う為に使わなかったのかもしれない。すまない。一緒に居たのに、二人を助けられなくて…」
私に縋って泣いてしまったリュー。一緒に居た?どこに?
「ミア母さん!どういうことよ!」
ミア母さんの目は腫れていた。私が意識を飛ばしている間、泣いていたのかもしれない。
「被害を最小限にする為だ。二人の犠牲で済んだ…でも、寄りによって、あの二人とは…」
ミア母さんは部屋から出て行った。部屋の外から、号泣するミア母さんの声が聞こえてきた。そして、ミア母さんと入れ違うように、ヘルメス様が入って来ていた。
「どうだ?落ち着いたか?」
優しい眼差しで、私を見ているヘルメス様。彼も目が腫れている。
「何がどうなったんですか?」
「それを話して置こうと思って、来たんだよ。ジムは英雄だったんだ」
「えっ?大罪人じゃないの?」
いきなり意外な結論を言われて、呆気に囚われた私。
「彼の持つ聖剣は、英雄の手を渡り歩く剣なんだ。彼は死の間際に、次の英雄が聖剣を手に出来る様に、聖剣を封印したようだ。封印した聖剣の周りに、彼の血で描いた魔法陣があったそうだ。言い伝えによると、それは英雄になりし者の間で、受け継がれていた物らしい」
英雄…そんなことは一言も言ってなかったよ…
「彼が以前、言っていただろう?生きている英雄は有り得ない。英雄って、死んだ後に付けられる称号で、その人の生き様に対しての誉め言葉みたいだと。まさにそれなんだよ。生きている間は英雄では無いんだ。聖剣を命と引き換えに封印して、初めて英雄になれるようだ」
あぁ、言っていたかな…そんな事を…そうだ、アイズにだ。
「だから、何ですか?ジムはいつ帰ってくるんですか?」
私の質問に答えてくれない神様。
「英雄で無くてもいい。家族であれば、それで良かったの!なんで、スミスのまま、見守ってくれなかったんですか?次の戦場はダメだって、ジムも言っていたでしょ?」
ヘルメス様は、悔しそうに俯いて、何かに耐えているように見えた。
「そうだったよな、すまない…護り切れなかった…」
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今夜は新月か…外は真っ暗だ。聖堂へ向かい、忍び込む。ジムの棺の蓋を開け、燭台の蝋燭に火を灯して、彼の姿を眺める。花で埋め尽くされて、顔だけが見える。私は喪服を脱ぎ、産まれたままの姿になる。彼にもらったペンダントヘッドを握り締めて、彼の上に寝そべる。そして、目を静かに閉じ、ペンダントヘッドに願いを込めた。
『一人にしないで…せっかく家族になったのに…』
ふと、私は浮遊感を感じた。目を開くと、眼下にジムの遺体の上に寝そべる私の身体があった。私は上昇しているようだ。聖堂の屋根が見え、それも徐々に小さく見えていく。
バベルへと目を向けると、屋上へと走ってきた女性の姿が見えた。彼女は私に手を振ってきた。あぁ、彼女も魂が見えるんだった。私の旅立ちを喜んでいるように見える。
バベルの屋上すら小さく見え、オラリオの街も小さくなり…私の上昇は止まらない。
どの位経ったのかな?現在、私は闇に飲まれている。上下左右、前も後ろも闇である。浮遊感はまだ感じるので、しばらく待っていると灯りが見えてきた。段々と大きく見える灯りの正体…何かの門のようだ。私が近づいて行くと、門が開き、笑顔で私を迎えに来てくれたジムとアイズがいた。