森全体が、たいまつの炎のように燃え上がる。逃げ惑う集落の者達。
「フレイ、みんなを安全はな場所に誘導しろ!」
鎧に身を包んだ男性から言葉が飛ぶ。
「僕も、父さんと母さんと戦う」
フレイと呼ばれた少年が、前線で戦う男女ペアに声を掛けた。
「ダメよ、フレイ。みんなの避難を…早く誘導して」
二人の男女は勇猛に敵を屠っていく。
「でも…」
「お前は生き延び、本当の両親に会え。成長した姿を見せてやれ」
フレイにとって、この戦士風の男女は、義理の両親であった。本当の両親は、地位も名誉もある者で、この二人に子供の育成を頼んだのだった。
「わかったよ。みんなを誘導し終えたら、戻って来るからね。それまで、待っていてね」
涙が溢れてくるが、泣き顔を見せずに、集落の者達の避難を助けに向かう少年。
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みんなが避難し、安全な場所に誘導し終えて、急いで両親の元に戻ると、森は何事も無かったような静けさだった。ただ、得体の知れない気配を纏う者達の咀嚼音だけが、耳に届く。嫌な予感がした少年は、周囲を見回し、両親を探した。
「フレイ!無事か?」
父親の疲れたような声が耳に届くと、声の主の方へと反射的に振り返った。そこには、疲れ切った両親の姿が…
「父さん!母さん!」
少年は二人に駆け寄る。
「魔導戦士様のパーティーが、助太刀してくれてね…敵を屠り、森を再生してくれたんだよ」
少年の両親は、森の入り口の方に向き、頭を下げた。
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あれから何事も無く、年月は経ち…少年は15歳になった。誕生日に両親から、衝撃的な事実を知らされた。両親と思っていた男女は、産みの親から養育を託された者達であったこと、実の両親は迷宮都市オラリオという街にいることを知らされた。
少年は思い悩んだ結果、オラリオに行き、両親を探すことにした。身分を証明する為に、産みの母親が、育ての両親に託した剣、レーヴァティンと共に…
---フレイ----
少年が旅立ち、見送りの者達から見えない場所に達した時、僕は彼を同化吸収した。
「どうだ?」
シュウさんに訊かれた。彼の記憶が脳内で映し出され、僕の記憶と統合されていく。
「大丈夫です。彼の想いを引き継ぎました」
「じゃ、ホームへ帰ろう」
シュウさんの転移術で、オラリオにあるホームへと戻った。なぜ、ここにいるかと言うと、
シールズタウンでアイリスさんを目にしたシュウさんが、あることに気づいたから。アイリスさんは元々ファルコンさんの愛した者であり、僕の妹だったアイリスは、アイリスさんの器に姉ちゃんの魂を入れていて、記憶を改竄した者だったらしい。現在のアイリスは、アイシルの手下の者の魂と記憶がメインで、アイリスさんと姉ちゃんの魂は、その器に封印されているらしかった。
もし、現状でアイリスを倒すと、3つの魂が融合される恐れがあるらしいので、作戦は断念することになった。
「なっ、言っただろう?アイシルは頭がキレるんだ。くそっ!」
悔しそうなシュウさん。ちなみにアイシル自体も簡単に屠れば良い訳では無い。英雄ベルとアイズ姉ちゃん、英雄ベルとシル姉ちゃんの間に、それぞれ産まれた子供を掛け合わせた者らしい。当然、同じ父親で近親交配になるのだが、産まれた子供から英雄ベルの遺伝子を抜いて、純粋に母親二人の遺伝子だけを受け継いだ身体を得たそうだ。そして、産まれた子供の魂をロストさせ、神様転生特典を活かして、その子供に転生したそうだ。
「なので、アイツから、シルとアイズを剥がす必要がある」
「剥がす?」
よく解らないので、シュウさんに質問をした。
「ベルをヘスティアと結ばせて、ベルとシル、アイズが交わらないようにするんだ♪」
過去に戻って、歴史を変えるってことらしい。それならば、大元のファルコンさんの世界に戻れば良いと思ったのだけど、僕のいた世界の並行世界がファルコンさんの世界で、アイシルによって、その並行世界はロストされており、戻れないらしい。
「維持神って立場を最大限に利用して、世界を自分のシナリオ通りに動かしているんだ。だから、厄介だ」
と、怒りの目をした笑顔のシュウさんが呟いた。
こうして、僕達は僕の初めての世界へ転移してきたのだ。
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ホームは豊饒の女主人の敷地内の一角を借りたそうだ。3階建ての洋館風で1階に店舗兼工房と、奥にリビングルームと水回り類が有り、2階、3階が住居だそうだ。
ファミリアの設立は済ませており、眷属登録もひとまず終わっているそうだ。
「フレイに、今回の参加メンバーを紹介する。主神には元最高神のメイビス。団長は僕がやり、団員は、フレイと、元龍騎士のファルコン、元最高神のジム・ナイト・クロウ、魔王見習いの莉愛、メイドで元悪魔のフィア、元セラフのガブだ。で、スミスは僕とジムとフレイが担当する」
絶句する僕…元最高神が2柱いるし、僕とシュウさんを入れると、このファミリアには4柱いることになる。そこに魔王見習いと元悪魔と元セラフと元龍騎士って…たぶん、この街にいない種族ばかりだと思う。
「あぁ、あと、書類関係は、元ギルド神のフレイが担当だ」
それは良い布陣かもしれない…このメンバーだと、僕が一番の下っ端で雑用係である。
そうそう、シル姉ちゃん、アイズ姉ちゃんと、どう出逢おうかを考えていたのだけど、シュウさん以外の皆さんが口々に言う。
『女性は、女難の相持ちのエロ神シュウさんに寄ってくる。だから自然に出逢える。心配するな』
って…シュウさんはシュウさんで、
『エルフ系は苦手…今回こそ逃げ通したい』
と、意気込んでいる。過去に様々なオラリオの世界で、エルフ達によって痛い目にあったようだ。
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裏口がノックされたので、僕が応対に出た。扉を開けると、大家であるニャーがいた。
「店子達の顔を拝みに来た。みんな揃っているのかい?」
と、訊かれた。僕は頷き、奥にいる皆さんに向けて、用件を伝えた。
「ニャーさんが、店子の顔も見に来られました」
と…いきなり、ニャーに肩を掴まれたので、手首を極めて、地面に倒してしまった。
「おい、フレイ…大家さんに何しているんだ?」
シュウさんが笑顔で言われた。あぁ~、ダメじゃん…僕はニャーの手首を離して、彼女から離れた。
「すみません。いきなり、肩を掴まれて、反射的に…」
手首をさすりながらニャーが立ち上がり、僕を睨んでいる。マズい…
「なぁ、なんで、その呼び名を知っているんだ?今、フレイって呼ばれたなぁ…まさか…フレイ・フローヴァか?」
頷く僕…そうか、やらかしてしまった。ニャーをニャーと呼んでしまったようだ。
「フレイかい?」
ニャーが僕を抱き締めた。優しく、大切な物を扱うように。
「こんなに立派になって…私を地面に這わせるなんて…強くなったねぇ」
「ニャーも元気そうで良かったよ」
僕を充分に抱き締めたのか、僕から離れ、団長に向き合ったニャー。
「フレイがいたから、ここに?」
「それも有るけど、ここくらいしか良い物件が無かったし」
「そうか…あとで、フレイを連れて店の方へも来てくれるか。フレイに逢わせた者がいるんだ」
そういうと、ニャーは店の裏口に向かって、歩き出した。
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この街一番の繁盛店、豊饒の女主人。ニャーが店主の食事を出来る酒場である。味、量共にコストパフォーマンスが良いと評判のお店である。シュウさんと比較的空いている、お昼の時間が終わった頃、訪れた。
店内には…アイズ姉ちゃん、ティオナ姉ちゃん、ティオネ、レフィーヤが何故かいた。これはシュウさんの女難の相の引力が為せる事態なのだろうか。僕もシュウさんも店内にいる客の一団を見て、後ずさりした。
「おぉ、来たな!まぁ、入れ!シル、奥の席に案内して!」
ニャーの声が店内に響く。何事かと、アイズ姉ちゃん達が僕達を見た。彼女達と目を合わせないようにして、僕達はシル姉ちゃんに誘導され、奥の席に着いた。ニャーが厨房から出て来て、シル姉ちゃんを横に立たせる。
「シル、お前の生き別れの弟で、フレイ・フローヴァだ。フレイ、お前の姉のシル・フローヴァだよ」
僕は立ち上がり、シル姉ちゃんの前に進みでた。
「姉ちゃん♪」
とっても久しぶりに姉ちゃんに抱きついた僕。でも、戸惑う姉ちゃん。
「えっ?私に…弟?ミア母さん、どういうこと?」
ニャーが僕の頭を撫でながら、
「シルと父親が違うから、別々の育て親に養育を頼んでいたんだ。で、彼が団長を務めるファミリアに入団して、別館予定地をホームとして借り上げてくれてたんだ」
「ごめんなさい…弟って、急に言われても…実感が…」
僕を押しのける姉ちゃん。そうなるか…少し寂しい気分になる僕。
「まぁ、徐々に兄妹の溝を埋めなさい。彼は裏に住むんだからな」
姉ちゃんの頭も撫でるニャー。
「ねぇ、何系のファミリアなんですか?」
て、いつの間にか、シュウさんの前にいるアイズ姉ちゃんが、シュウさんに訊いた。凄い引きだな…僕に対して苦笑い気味の笑顔を見せるシュウさん。
「スミスです。まぁ、たまに素材を求めて潜ると思いますけど」
シュウさんが、アイズ姉ちゃんに説明をしている。
「スミス?ねぇねぇ、研磨とか修繕もやってくれるのかな?」
ティオナ姉ちゃんも寄って来ている。
「実物を見てみないと、出来るかの判断は出来無いよ。手持ちの素材で出来るのであれば、メンテはしてあげられる」
「ふ~ん…ねぇ、後で持ち込むから、見積もりしてくれるかな?私は、ロキ・ファミリアのティオナ・ヒリュテで、彼女は相棒のアイズ・ヴァレンシュタインだ」
「僕は、メイビス・ファミリアの団長のシュウ・ヨハネ・鬼門です。よろしく、お願いします」
二人と握手をするシュウさん。
「じゃぁ、後で♪」
二人は自分達の席に戻って行った。ニャーは僕達の前に料理を運んで来てくれた。あっ、僕の好きなタコさんウィンナーがいる♪
「ありがとう、ニャー♪」
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ホームに戻ると、
「早速、キーパーソンと接触ですか?シュウの女難の相は相変わらずね」
って、メイビスさん。
「いや、エルフでは無いので大丈夫だと思いたい…」
冷や汗を垂らしているシュウさん。予想外の接触だったんですね。僕の『魅了』より厄介な能力『安堵』持ちのシュウさん。僕の場合、傍にいたいレベルらしいが、シュウさんの場合は身体を交わらせたくなるレベルらしい。なので行く先々で、エルフ達の猛アタックから逃げ回っているそうだ。
「今回の主役はフレイだ。僕はモブで良いんだよ…」
そんなシュウさんに、暖かい視線を送るみんな。
「ジム、メンテ用の素材って、どんだけ有る?」
「う~ん…フレイの封印されていた場所にあった魔石と、ラキアの兵士の装備くらいです。足り無ければ、本拠に打診して送ってもらいますけど…」
シュウさんの本拠の倉庫には、様々なオラリオでゲットした大量の魔石が保管されているらしい。
「取り寄せる際は59階層までのにしてくれ。この世界はたぶん60階層が底だと思うから」
どこかのオラリオの世界では、999階層まであったらしい。そこに拠点を置き、鍛錬しながら魔石をゲットしていたとか…
「了解です♪」
ジムさんが返事をした。シュウさんは、奥の作業場に籠もり、メンテ用の素材を作り始めたようだ。ファルコンさんは、店舗部分の最終チェックをしている。僕は、書類類に目を通し始めた。
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夕方近く、ティオナお姉ちゃん達が来店した。
「これなんだけど、どうかな?」
ファルコンさんが受け取り、ジムさんに手渡した。
「品物は無いのか?」
リヴェリアが呟いた。まだ新装開店したばかりなので、展示品が何も無い店内…
「あぁ、基本受注販売なので…お探しの品はどのような物ですか?」
ファルコンさんが接客を始めた。
「メンテは50万だな」
見積もりを終えたジムさんがティオナ姉ちゃんに伝えた。
「今できるか?」
「できる。少し待っていてくれ」
ティオナ姉ちゃんの得物と共に、奥へと消えるジムさん。
「私のもメンテしてもらおうかな?」
アイズ姉ちゃんが、得物を僕に差し出して来た。
「わかりました。少しお待ちください」
得物を持って奥へと行く。奥ではラキアの兵士の装備と砲龍の魔石で合金を作り出し、箔状態にしていた。その箔を刃先に載せ、馴染ませている。馴染んだら、砥石で再研磨して、出来上がりである。先に頼まれたティオナ姉ちゃんの得物を持ち、店内に戻った僕。
「メンテが終わりました」
ティオナ姉ちゃんに得物を手渡す。刃先をチェックする姉ちゃん。
「刃こぼれは無いなぁ…これで50万なら安いかな♪」
キャッシュで払うティオナ姉ちゃん。奥からジムさんが、アイズ姉ちゃんの得物を持って来た。薄い紙を空中に投げ出し、刃先で受けると、紙は真っ二つになった。
「凄いキレ味…前よりも斬れる気がする…」
得物を受け取り、代金を払うアイズ姉ちゃん。
「おぉ~、私のもキレ味が…」
ティオナ姉ちゃんもキレ味チェックをして、感動している。
「また、来るね♪」
嬉しそうに3名の女性達が店を出て行った。