その昔、天界が1つではなく、アースガルドとオリュンポスに分かれていた頃、双方の勢力間で諍いがあり、ケンカに発展した。神々のケンカの余波は地上にも影響を及ぼし、天変地異と言われるくらいの被害を出していた。
長引く神々のケンカを前に、双方の神を信仰する者達は、祈りを捧げ、神々の怒りを鎮めようとしていた。しかし、そんな地上での思いを余所に、神々のケンカは終わらなかった。
業を煮やした地上では、神々に使者を出し、神々のケンカを諫めるようとする動きが出た。その役目は、龍騎士と呼ばれている、ドラゴンを相棒とする騎士達に白羽の矢が立った。彼らは、ケンカをしている神々を信仰しておらず、神に堂々と物を言える立場だったのだ。
龍騎士団の精鋭が集められて、神々のケンカをしている高い山を目指して、進軍していった。しかし、地上の者達は知らなかった。神はドラゴンを蛇と呼び、忌み嫌っている生き物で有る事を…
突然、現れた龍騎士団とドラゴンの集団。神々は驚き、ケンカをするのを忘れ、彼らとの戦闘になった。地上の者達が望む結果となったのだが、龍騎士団は、ほぼ壊滅し、敗走していった。その中でも敗走をせず、皆が逃げる時間を稼ぐために、最後まで戦った騎士が一人いた。彼は、相棒であるドラゴン2匹と共に、神々を蹴散らしていった。彼に恐怖を抱いた神々は、地上の者に停戦を提案した。その停戦条件は、彼の死…一人の死で、神々との戦争が終わるならばと、地上の者達は彼の命を差し出す決断を下した。
そして、地上に住む指導者達は、彼の師匠である者に、彼へ命令を下させた。
「我々の為に、神々に命を捧げてくれ」
と…彼は、神々の代表の前に進み出て、
「僕の命はくれてやる。でも、僕の相棒達には手を出すなよ、絶対にな!」
と言い残し、自ら自分の首を斬り落とした。彼の死を確認した神々は、彼の相棒であるドラゴン達を迷わず、彼の自決に驚き、動作が固まっていた彼らを、なぶり殺した。
彼と彼の相棒達の亡骸は、戦争の終結地に放置された。亡骸にツバやドロをかける神々。彼らにとって、彼とその相棒達は、同胞を蹴散らした忌々しい者達だったので、不満や怒りをぶつけていた。その後、オリュンポスとアースガルドが1つにまとまり、地上にある迷宮都市オラリオに神々を降臨させていくことになる天界へとなっていった。
年月が経ち、自分達の理不尽さに気づき始めた神々。その中の1柱は、彼らの為に石碑を作り、亡骸の残っている部分を埋葬した。その神、ウラノスは彼の無念さ、彼の相棒達の怒りを鎮める為に、毎日石碑の前で祈りを捧げていた。
更に年月が経ち、その石碑に祈りを捧げる幼き女神が現れた。彼女は、神々の傲慢さ、自分勝手さを悲観して、そういう神にならないように、いつまでも優しさの絶えない神になりたいと、願いを祈願していた。
天界の神々の数が増えてきて、仕事をさぼっても差し支えがなくなってくると、一部の神は地上へ、迷宮都市オラリオへ降臨して、地上の者達を眷属と言う名の下僕にして、思い通りに命令し、好き勝手に日々を過ごし始めた。或る神は戦争の駒として使い、或る神は自分の作りたいものの手助けをさせたり、或る神はペットにして、或る神は欲望の糧にしていた。
石碑を建立した神ウラノスは、地上で好き勝手をしている神々を統べる為に、地上へと赴任することになった。最後の祈りを捧げる為に、石碑の前で祈祷を捧げる。
「地上に降りるのか?」
石碑から声がした。ウラノスが石碑に視線を移すと、石碑の前に一人の青年が現れた。
「そなたは?」
「龍騎士ファルコン…お前らに命を捧げた者だ」
「何故、生き返ったのだ?」
「魂を悪魔界に堕とされたんだけど、ようやく魔王を屠れたから、ここに戻って来られたようだ」
「これから、どうするのだ?」
「ここで残りの人生を消化でもするかな?」
ファルコンは笑顔で答えた。
「あなたと幼い女神の祈祷のおかげで、僕の魂は闇堕ちを防げたんだと思う。それには感謝している。騎士としての誇りを護れたからね」
「なぁ、天界の騎士として働かないか?君を死に追いやった勢力として、言えた義理ではないが」
「それも悪くないな。僕は騎士だ。戦うことしか出来無い者だ。その仕事を受けるよ」
ウラノスは彼を、天界の騎士団である聖騎士団の本拠地に連れて行き、彼を入団させた。
「ウラノスよ、彼は何者なのだ?」
聖騎士団を束ねる女神アテナに尋ねられたウラノス。
「我々が死に追いやった龍騎士だ。彼のことを頼むぞ、アテネ」
「え?あの時の騎士?なんで生きているの?」
アテナはファルコンの身体を調べた。すると、
「『不老不死』スキルがあるみたい。これのおかげで死ななかったみたいだけど、どこで付与されたのかしら?ね、ファルコン、どこで手に入れたの?」
アテナはファルコンに尋ねた。
「何言っているんだよ。あなた方、神々の呪いだよ。転生する事を不可能にして、悪魔の世界で永遠に苦しめって…」
「古き神々は、そんなことをしたの?信じられない…」
「そんなチートなスキルは、神様以外に誰が付与できるのさ?おかげで、僕は永遠の20歳だよ♪」
っと、ファルコンが怒る素振りも見せずに、アテナに答えた。
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聖騎士となり、神々の為に働くようになったファルコン。様々な紛争地域に派遣された。時には天界での神同士のケンカの仲裁など、言われたことを淡々とこなしていった。
ある時、ファルコンの『不老不死』スキルを巡って、都市伝説ならぬ天界伝説が流れた。
『彼と交われば、永遠の美が保証される』
っと。これに喰い付いたのが美の女神と称されるフレイヤ、イシュタルだった。その2柱には『魅了』スキルという、魅了した者を下僕のように使える能力を共に持っていた。2柱は、競ってファルコンを『魅了』しようと試みたのだが、彼のスキルは呪詛系だった為に『魅了』はリバースされ、2柱は逆にファルコンに魅了されてしまった。
天界を代表する美の女神2柱が魅了されたファルコンは、天界で有名になり、彼女達に魅了され、下僕扱いをされていた男神達から『女神喰い』の二つ名が与えられた。
そんなファルコンに興味を抱いたのは、天界のお騒がせ女神のロキ。ファルコンを誘惑しようとするも失敗し、『魅了』されて、ゾッコン状態になってしまった。どうやら、ファルコンに掛かった呪いは、リバースさせたスキルを取り込む能力もあるようだった。
このままでは、天界の女神が全員、ファルコンに『魅了』されるのではないかと、危惧を抱いた男神達は、彼を天界から追い出す作戦に出た。
『地上で暴れている赤いドラゴンと白いドラゴンを制圧して来い。援軍も出すから、安心して先遣隊として行って来い』
っと。ファルコンは指令を受けて、彼の所属する部隊と共に、制圧をしにいった。彼の所属する部隊には、アテナが統轄する聖騎士と、オーディンが統轄するバルキリーが所属していた。聖騎士はファルコン以外、地上で名誉ある戦果を上げて男の戦士で組織され、バルキリーは地上で名誉ある戦果を上げた女戦士で組織されていた。
しかし、現場では、2匹のドラゴン以外に、戦闘が大好きな邪龍と呼ばれるドラゴン数匹も暴れており、地上の者を捕食していた。その光景は、見るに堪えない光景であった。生きたまま頭からバリバリと音を立てて食べている邪龍達。尻込みしたり、逃げ惑う聖騎士、バルキリー達。そんな状況でも、確実にドラゴンを屠るファルコン。白い聖騎士の鎧がドラゴンの血と砂埃で汚れていく。待てども、天界から援軍が来る気配もなく、ファルコンは、神の罠だと気づいた。
「おい、戦えない者は撤収しろ!僕が時間を稼ぐから。早く!」
ファルコンの言葉で、逃走する者が多数出た。ファルコンと共に戦うと決心した者は、バルキリーのアイリスだけで、二人で赤いドラゴンと白いドラゴンを制圧した。しかし、アイリスは大怪我を負ってしまった。ファルコンは彼女を、拠点としてい使っていた森にある小屋に連れて行き、看病することにした。
回復魔法などを覚えていないファルコン。なので、森で薬草を探して来て、アイリスの傷を手当したり、服薬させることしかできない。
「ねぇ、ファルコン…そんなに自分を責めちゃダメだよ」
弱々しい声のアイリスが、ファルコンの闇に堕ちそうな心を支えた。日々、弱々しくなっていくアイリス。ドラゴンが暴れたおかげで、生き物も薬屋すらない地域。万策は尽きていき、アイリスの手を握ることしかできないファルコン。
「ファルコン、ありがとう…最後まで一緒にいてくれて…誰も恨まないで…いつも優しいあなたでいてね…」
アイリスは、穏やかな顔で息を引き取った。ファルコンは、彼女の手を握り続けた。彼女の身体から水分が抜け、ミイラ化して、風化するまで、ずっと…
---ファルコン----
どこをどう歩いたのか定かではない。自分がどこにいるのかも、わからない。僕は大木に背中を預け、寝てしまった。
「ねぇ、生きている?お兄ちゃん、生きているのかな?」
耳元で女の子の声がして、目が覚めた。金髪金眼の女の子。頭を撫でてあげると、喜んでくれた。
「ねぇ、なんで、ここで寝ているの?」
僕に興味があるみたいだ。まぁ、こんな処でこの装備で寝るのは、敗走戦士だけかな?
「ここで疲れたから。特に意味はないよ」
僕の顔を覗き込み、僕の頬に小さな手の平を当てて来た。
「泣いていたの?」
あぁ、アイリスの事を思いだしていたのかな?
「大事な人が死んでしまったから…」
「私と同じ…」
え?こんな小さな子の大事な人って…
「お兄ちゃん…一緒に生きて…」
えっ?僕は彼女に手を引かれ、彼女の家らしき小屋に入った。ベッドでは、彼女の母親らしき女性の遺体がある。
「お兄ちゃん…お母さんのお墓を作って…」
泣きたいだろうに、気丈に笑顔を作っている女の子。僕は頷き、彼女の母親を埋葬してあげた。彼女の名前はアイズ・ヴァレンシュタインというらしい。
それから、僕とアイズは一緒に暮らした。せめてアイズが、もう少し大きくなるまで一緒にいようと思う。
アイズの住んでいる森は、アイリスと過ごした森とは違い、生命が満ちあふれていた。池で魚を釣ったり、森でウサギなどを狩ったりして、食を繋いでいく。
「ねぇ、なんで、食べる前に手を合わせて祈るの?」
不思議な顔をして、アイズに尋ねられた。
「食べ物だって、生き物だよ。食べ物になる為に産まれた訳ではないんだ。その尊い命を食するのだから、彼らに感謝の祈りを捧げないといけないんだ」
アイズは頷き、僕と同じように、食前、食後に祈りを捧げた。
「すっごい…綺麗な鎧…」
同居生活に余裕が出て来た頃、聖騎士の鎧を磨きあげていた。真っ白な鎧を見るのは初めてなのか、アイズは興味深そうに見ている。
「お兄ちゃん…強いの?」
「弱いよ。護りたい者を護れなかった…」
「私、大きくなったら、お兄ちゃんと一緒に戦いたい♪」
僕に抱きついて、そんな事を言うアイズ。
「アイズは戦う者でなくて、優しい者になって欲しいな。そうだな、どこかの国の王子様と結婚してお姫様になるとかさぁ」
僕の言葉に不満みたいなアイズ。
「私、お兄ちゃんのお嫁さんになるもん!」
「なんで、僕なんか…僕はクソ弱いクソ戦士だよ」
「お兄ちゃんと一緒にいると、心がねぇ休まるの♪だから、ずっと、いたいんだよ♪」
っと、言うアイズ。僕には癒やし属性はないはずだけど…あれ?
年月は流れていく。僕は呪いのせいで、まるで成長しないのだが、アイズは確実に女の子から少女になり、確実に一歩一歩女性への階段を昇っていく。同居し始めた時から、寝る時は添い寝をしていたのだが、最近は、彼女の身体に欲情してしまいそうになる。まずい…
「なぁ、アイズ。そろそろ一人で生きていけるだろ?」
僕はいつか切り出さないといけない話を、切り出した。
「嫌だ!嫌だよ!お兄ちゃんと一緒にいたいよ!」
僕に抱きつき、僕から離れようとしないアイズ。
「でもなぁ…僕は呪われているから、一緒に居ちゃダメなんだよ」
「私には関係ない。お兄ちゃんがどんな者でも、私はお兄ちゃんの傍にいたいの!」
反抗期かな?いや、彼女の言い分もわかるけど…どうしよう。
その後も、別れを切り出すが、泣き付かれて、ここを離れることができないでいた。しかし、意を決して、アイズには申し訳ないけど、寝ている隙に、僕は逃亡した。
『大好きなアイズへ ごめん!僕は行かないといけない場所があります。いつか、アイズが強くて良い女になって出逢えたら、僕の隣で一緒に戦ってください』
っと、書き置きを残しての逃亡だった。もう、逢うことは無いだろうと思って…