耀のお話。
前半地の文ばかりです。
どうぞ
「ん、……はっ」
デートから帰り、水浴びをして汗を流して夕飯を終えた後、春日部耀は自室に戻り、今晩部屋に行くと言っていた少女を待っていた。
「……あ、んっ、……あすか」
彼女は久遠飛鳥のことを考えるだけで、身体が熱くなってしまう。1週間前、想いを伝えた。好きだと言った。一糸纏わぬ姿で密着し、互いの身体を求めあった。
しかし、次の日から彼女と目が合わせられなくなった。恥ずかしかった。この感情も確かにある。でも、1番の理由はそこではなかった。
怖かった。今まで恋人は愚か、人間の友達さえいなかった。飛鳥は生まれて初めての人間の友達だった。絶対に大切にしようと、彼女にだけは裏切るようなことはしない。そう誓っていた。
彼女は強い。ゲノムツリーを持つ耀や十六夜とは違い、彼女の身体は本当にただのか弱い女の子である。なのに、彼女には何者にも立ち向かう勇気がある。
そんな彼女に憧れていた。一緒に戦い、ふざけあい、笑いあっているうちにその憧れは恋へと変わっていった。
そんなのおかしい。自分たちは女の子同士である。これはしてはいけない恋だと、何度も何度も自分にそう言い聞かせた。
それでも、この想いは消えてくれなかった。それどころか日に日に大きく大きくなっていった。
いつ頃だっただろうか、自分の自慰の回数が増え始めたと気づいたのは。そして、1人の少女のことばかり考えてしていたと気づいたのは。その頃から夢の中にまで彼女は出てきていた。
この想いは絶対に叶わない。誰にも言えない。でも、でもせめてどうせ叶わないのだから、夢の中では、自分の作り出す妄想の中だけでは私を愛して欲しい。貴女の笑顔が大好き。だからこの想いを伝えて、貴女を困らせたくはない。夢の中だけでいいから……
「……あっ、あっ、あすかっ、」
でも、そんなもの所詮は妄想。自慰の回数は増えていくばっかりなのに、それをした分だけ、虚しさが耀を襲っていった。
あの日、初めて飛鳥に自分の自慰姿を見られたとき、耀は「誰かに見られているかもと思いながらオナニーすると、とても興奮する」と言った。そんなの嘘である。もし、他の者が廊下を通っていたら、すぐさま止めていた。
どちらにしろ、変態なのはわかっている。それでもただの友人なのはもう耐えられなかった。飛鳥だから、飛鳥だけに見られたいから、あんな馬鹿で愚かで変態な行為をしたのである。
今思えば、確かにあのときの耀はおかしくなっていた。それでも、自分の自慰姿を見て、飛鳥が興奮してくれているとわかったときは凄く嬉しかった。
本当は声なんてかけるつもりなかった。
でも、そうせずにはいられなかった。ただの友人、ただの親友という関係から脱したかった。例えそれが、どれだけおかしくて、変態的な関係だとしても。もしかしたら、嫌われてしまうかもしれない。けれど、その危険を犯してでも、今のままの関係では我慢できなかった。
だから飛鳥を煽った。箱入り娘だった飛鳥には刺激が強いだろうことばかり言って、余裕を無くさせ、言質を取り、プライドを逆撫でして。
結果としては、自分の自慰を見てもらうという、不思議で変態的な関係になった。
でも、人間とはやはり、欲深い生き物である。
1度手にしてしまうと、さらにその先を手にしたいと思ってしまう。
これ以上は駄目だ。絶対に戻れなくなる。
それでも、3日ももたなかった。
飛鳥の身体が見たい。いやらしく喘ぐ姿が見たい。頭がどんどんどんどんおかしくなっていった。
本当にどうかしている。初めは、夢の中で愛してくれればそれでいいと思っていたではないか。これ以上は駄目だ。絶対駄目だ。止まれ。止まれ。
自分はこれほどまでに己を制御できなかっただろうか。
また飛鳥を煽っている。飛鳥が耀の弱点に気付いてくれるように仕向けている。
散々からかったのだから、自分の弱点を晒せば、彼女の性格からいくと、攻めてくれるかもしれない。
案の定だった。すべて計算通り。そしてその仕返しとして、自分も飛鳥を攻めることができる。これで、自分たちの関係はもっと先へ進んだ。
まさか、威光のギフトまで使うとは思わなかったが、その分自分もギフトを使えた。思いっきりイカせてあげることができた。彼女の喘ぐ姿を見ることができた。
今の流れならいけるかもしれない。
絶対に叶うはずないと思っていた願いが叶うかもしれない。
『飛鳥。大好き……』
『私もよ。春日部さん……』
やった。願いが叶った。夢にまで見た願いが。
飛鳥と恋人になれた。
耀はその夜、嬉しくて嬉しくて、中々寝付けなかった。
だが、ようやく眠気が襲ってきて、目をゆっくり閉じた。
アレ?本当にこれで良かったのか?
これは、あの何でも自分の思い通りになった夢の中と何が違うのだ?
私は飛鳥にあの言葉を言わせるように仕向けただけなんじゃないのか?
私は飛鳥を自分の掌の上で転がしていたのではないか?
あの言葉は本当に飛鳥の本心なのか?
飛鳥が私を好きになったんじゃなくて、私が″無理矢理″飛鳥が私を好きになるようにしたんじゃないのか?
私は本当に彼女を大切にしていたのか……?
次の日から、私は彼女の顔が見られなかった。
「あすかっ、ごめんなさいっ、ごめん、なさいっ、んんんっっーー!」
飛鳥を待つ間、ずっと謝りながら1人で自慰をし、果ててしまった耀。
耀は仰向けになりながら、廊下で部屋のドアにもたれかかっている1人の少女に話しかける。
「……ねぇ飛鳥」
ちょっと前から、ドアの前に飛鳥がいるのは耀はわかっていた。
「……なに?耀」
「私は、卑怯者なんだ」
「……」
「飛鳥が私を好きになるように仕向けた」
「……」
「初めて飛鳥が私の部屋を覗いたときも、飛鳥以外ならそんなことするつもりなかった。飛鳥に攻めてもらおうと、わざと煽って、わざと弱点に気付かせた。私は飛鳥を自分の掌の上で踊らせてた」
「……」
「……ごめんなさい。嫌われても文句は言えない」
「……耀は、私のことが好きでも何でもないということかしら?」
「違う!大好き。それは、絶対に。でも、飛鳥の好きは違う。それは私が仕向けたことによって生まれた感情」
「……」
「飛鳥が愛してるって言ってくれて嬉しかった。……だからこそ、大好きだからこそ、こんなの間違ってる。」
「……」
「私たちは初めから間違ってた」
「っ!」
飛鳥は思いきりドアを開けると、耀に向かって歩いていく。
「飛鳥?……っ!」
パチーン!!!
乾いた音が部屋に響いた。
「舐めるな……」
「え?」
「私の気持ちを舐めるなーーー!!」
「っ」
大声を張り上げる飛鳥。
「仕向けられた恋?この気持ちは貴女が作った?舐めんじゃないわよ!貴女に、貴女ごときに、私の気持ちが操られるわけないでしょう!」
「あ、飛鳥?」
「誰かを操るのは私の専売特許よ。今まで何百人操ってきたと思ってるの?その私から言わせてもらえば、貴女なんてまだまだよ。この気持ちは私が、私で、自信を持って作り出したもの!勝手なこと言ってるんじゃないわよ!」
「で、でも」
「でもじゃない!私は貴女が好き!それは、紛れもなく本心よ!」
その言葉を聞き、耀の瞳から涙がこぼれる。
「昼も言ったでしょ?例え現世で貴女と出会っていたとしても、私は貴女に恋をしていたと」
「でも、でもぉ……っ!」
飛鳥はまだ何か言おうとする耀を抱き締める。
「でもじゃない!」
「う、うわぁぁぁん。あぁぁぁぁん」
耀の瞳から大粒の涙が流れていく。
そんな耀を飛鳥は強く強く抱き締める。
「ごめんなさい、飛鳥ぁ、ごめんなざいぃぃ」
「ふふっ。そんなに泣かないの。可愛い顔が台無しよ」
飛鳥は謝り続け、泣き続けている耀の涙を袖で拭う。
「……飛鳥。大好き……。愛してる……」
「私もよ。耀……」
ゆっくりと2人の唇が重なる。
2人の本当の気持ちを、想いを、全てを曝け出してからの初めてのキスは、少し塩辛い涙の味がした。
アフターストーリー終わりました。
地の文ばかりで読むの疲れたと思いますが、ご勘弁を。
次回からは新章に入ります。
感想お待ちしております。