※この作品はR-18です。

金瞳の二丁拳銃 アイナ   作:我楽娯兵

11 / 42
インシデント

 昼もとうに過ぎ、キッチンでハンバーガーを温める。

 静かな家で電子レンジの作動音だけが寂しく響き、アイナは無性に寂しさを覚えた。

 理由は特にない。ただ一人でいることが寂しく思えた。

 あれだけあれだけ恐ろしく、憎く、愛憎の権化であるフランシスがいないという事が寂しかった。

 

「今日は……帰ってこない……」

 

 籠の中の鳥。いや、狼だ。

 極東の端っこで切り離されてしまった狼。

 過去から逃げる為にここに逃れ、結局過去に囚われ幽閉され取り残される。

 いつも与り知らぬ所で物事が進み、アイナが気づけば取り返しがつかず、取り残されていく。

 二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)を継承した時も、大尉防衛警備機構の時も。

 フランシスの頭を撃った時だって。何も知らなかった、何も知らされなかった。

 アイナはいつも、取り残された狼(ディンゴ)だった。

 レンジがベルを叩きバーガーが温まった事を知らせてくる。

 萎びたサニーレタスと脂でギトギトの肉、パサパサのパンが一層安物出る事を表していた。

 甘ったるいエナジードリンクをおかずに食べながらリビングに戻りニュースを見続けた。

 一連のフラタニティが起こした断頭死体に事件が流れ、気取ったコメンテーターが身勝手な憶測を披露し観客を感心させる。野放図で過激な暴力的政治主張(テロリズム)と言っているが、計画性はある。

 フランシスであるからこそ知っている。大陸防衛警備機構が起こした米連国防官僚連続暗殺事件をフラタニティは、いや、フランシスはそれを再現しイーグル&サンクチュアリを、米連を動かそうとしているのだ。

 どうしても動かざる得なくしている、タカマガハラを戦場に変えようとしている。

 誰もが望まない残虐で残忍な戦争を。徹底的な殲滅戦を始めようとしている。

 どこであれは歪んでしまったのか、どこで私たちは足を踏み外したのか。

 ――どこで人の命に価値を見出せなくなってしまったのか。

 あの時までは人の命が尊かった、あれから外れてしまった。

 倫理の枷が腐食し始めた事件(インシデント)――

 

 

 

 

 

 私たちはニコラスに引き取られ初めて、町に連れて来られた。

 食料品を買い溜めるためにモーテルから一番近い所に来て、私たち子供は人混みに酔った。

 長い期間 隔離状態で人との関わりが少なく、小さな町だったが人が行き交うところは新鮮に感じられるほどに人混みという環境の適正が失われていた。

 早々に酔い気分を悪くした子供たちは近場の食堂、「ロードオーダー」という所に入り休んでいた。そこは昼は食堂、夜はクラブとなっており客層はたちの悪るそうな奴らが幾人か確認できた。

 テーブル席で窓際に私とタラー。私の隣にはアナベルが座り、クレイグがフランシスとタラーに挟まれるように座っていた。早めの昼食をとり、僅かな平和を五人で享受していた。

 私はヴェジーバーガーで、タラーは大盛りのフライドポテト、クレイグが血が滴るようなレアステーキに齧り付き、アナベルとフランシスはハラペーニョピザを食べていた。

 カウンターで騒がしくしている輩の一人が、自慢げに仲間内で腕を見せびらかしていた。

 その腕は肘より下が機械――サイボーグになっていた。

 

「兵器がアクセサリーかなんかと勘違いしてる典型だな」

 

 フランシスは煩そうに言い、ハラペーニョの油でぬるぬるになった指先をしゃぶった。

 たしかにあいつらは「人を傷つける」道具を装飾品の類と勘違いしている。あの膝より下の腕は失った為の代用義腕ではない、型落ちではあるが軍用。歴とした兵器だ。

 この頃は私たちも勘違いを起こしていた。

 あいつらよりも銃という兵器に触れているからあいつ等よりもよく分かっている。あんな奴らよりもより理解していると考えていた。得物が違うだけで兵器は兵器であり、より長い時間など関係ない。どれだけ扱いに長けそれを実戦で実行できるかで変わってくるのに、訓練の絶対時間が己の強さと考えた。

 

「あれ古い義腕だね」

 

 タラーがそういい指差した。

 

「古い?」

 

「うん、機械化全盛期の特殊義体、義腕内部に反発性磁気機が内蔵されていて作動中はあらゆる物を弾き返せるんだ」

 

「詳しいね。どこで覚えたんだい?」

 

 アナベルは感心したようであった。

 普段は隠れがちだったタラーの隠れた特技だったのだ。

 気恥ずかしそうに言う。

 

「サイボーグが好きだったんだ」

 

 ポテトを頬張り照れ隠し、そして長所の次は欠点を。

 

「でもあれ、燃費が凄く悪くて機能不全も多かったんだ。磁気を利用したものだから使用中は髪がそばだって、『髪立て義腕(アンダーレイ・スパーク)』ってあだ名があったんだ」

 

 フランシスが大声で笑い出してしまう。店内に響き渡るほどの大声で。

 クレイグもアナベルもフランシスほどではないが笑っていた。

 その笑い声に反応した輩は、こちらに来た。

 

「おい、おめえ俺たちに用があるだろ?」

 

 フランシスの前に立ち、威圧するように言うがフランシスは元北東部育ち(ヤンキー)で不良男児(ヤンキー)。ちょっとやそっとの脅しは屁でもなくそれを助長するように二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)の一部を修めていのだ。

 闘争本能だけは猛り荒ぶっている。

 

「なに言ってんだよ? ダチと笑い話で忙しいんだ」

 

「俺らは笑い声が煩くて堪まらねえんだ」

 

「腕を機械にしたのにお頭はまだなのかよ。生きるのにも一苦労だな、だからそんな髪立て義腕(アンダーレイ・スパーク)なんてダサい骨董品(アンティーク)を付けんのか?」

 

 憚ることなく全力で馬鹿にしていた。

 息をするように罵倒し、他人の怒りをあおることに長けた饒舌ぶり。尊敬しよう。

 

「表に出ろてめえ」

 

「ここでやらねえのか。店の迷惑を考える頭はあったんだな」

 

 フランシスは席を立ち、連中についていく。

 私は少々不安になり後に続くかアナベルが止めて、かなり後ろをゆっくりとついて行く。

 二人共が店を出た途端に始まった。

 相手は鉄の腕を振り上げてフランシスの脳天を狙って振り下ろされる。

 高出力の鉄拳は人間の頭蓋など容易に叩き割れる、一般流通し機能制限を受けているにしても型落ち軍規格義腕は生身の人間には立派な凶器だ。

 フランシスもそこは感づいている訳で、その攻撃は当たらず、まるで演技(パフォーマンス)でもするように格好を付けてアクロバティックに避けて見せた。

 野次馬の微かな驚きの声をいいことにフランシスは楽しげだった。

 手加減無く連打してくる相手のパンチを紙一重で躱しているが、あまりにも鈍間なパンチにフランシスだけでなく、私と三人は驚いた。訓練の成果だった。

 鋭利に研ぎ澄まされた眼機能、それに肩をならべる警戒能力。極めつけはナノ食品による身体強化で「生身」では最高峰の位置に私たちは居たのだ。

 煽られ続け痺れを切らした相手が大振りの左ストレートパンチ――見切る。

 身を低くしたフランシス。右拳が相手の顎にちょうど当たる位置に合わせ――クロスカウンター。

 狙っていたのなら流石、演出目的なら馬鹿、そんな技を平然と行い見事に顎を打ち抜きノックアウト。

 崩れ落ちた相手を見下ろして、野次馬を煽るように腕を広げた。

 圧勝だ。圧勝でフランシスの態度は、倒れ臥す相手を激情させた。

 胸元に腕を突っ込んで取り出したのは――リボルバー。SWのM500を抜いた。

 フランシスの表情が今までにない表情に変わった。眼を見開き、笑っていた表情がスっと一瞬で抜け落ち無表情になったのだ。

 M500を抜いた相手の手の甲を踏みつけ、振り上げた足がその顔面を蹴り飛ばした。

 バスケットボールを地面に打ち付けたような音が鳴り、相手の鼻から血が吹き出て辺りに飛び散った。私たちも、相手の取り巻きも二人を止めに入った、これ以上は人が死ぬ。殺しが起きる。

 アナベルとクレイグの二人掛りでフランシスを羽交い絞めにした。

 フランシスの表情は今だ「無」で、私はその表情が恐ろしくて仕方が無かった。

 その後すぐに駆けつけた警察に私たちは拘束された。

 夜を迎える頃には私たちだけ解放された。ニコラスが警察に掛け合ったのだ。

 驚くことにニコラスの経緯がここでわかった――愚痴る警官の一人が私たちに話した。

 

「あの野郎が、国防総省にいたなんてな」

 

「次世代対魔戦闘転換構想ってなんだよ」

 

 モーテルに帰る道すがら、ニコラスのヒップアップトラックの荷台に乗せられたニコラスとグレイグがそう言い、窓越しにニコラスを見た。

 この身勝手で子供を道具程度に見ている男が、今の米連の魔族及び対魔忍との根本的な戦い方を確立した男だと警官は言うのだ。二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)もそうだが、確かにそれを感じさせる節はあった。あったがやはり信用ならない。

 退職しあちこちの基地などに天下る渡り鳥の類であり、資金泥棒と忌み嫌われていると。

 果たしてそうなのかもわからない。

 次世代を作り出すという点では、私たちの戦闘を転換させているのは確かだ。

 浮き草のようにふわふわと漂うニコラスの存在。

 掴みどころは無かったが、その強さだけは揺るぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 私たちは死体安置所(モルグ)に赴いていた。

 アナベル、グレイグ、フランシス、私、ニコラスでさえも言葉を発さず寝台に置かれた死体を見下ろしていた。

 ギシギシと歯軋りを鳴らすグレイグ。それは食欲から来るものではなく、想像しがたい怒りからだった。

 アナベルの表情からは色合いが抜けていた。薬から脱却したのにその表情は薬を使っていた頃と変わりはなかった。

 フランシスは無表情であった。眼を見開き、ただそれを見下ろしていた。

 寝台に寝かされた遺体。それは――

 

 

 タラーの遺体だった。

 

 

 

 ギリリっと一層グレイグに歯軋りが酷くなる。

 初まりは二日前だった。

 いつものように訓練を行い、夜も訪れたある日、忽然とタラーの姿がなくなった。

 逃げ出すにしても理由がない。訓練は辛いが、皆一丸となって高みを目指していた。

 ニコラスが警察に捜索願を出して、一日。すぐに見つかった――遺体となって。

 その遺体には複数の打撲痕がありリンチにあったようだ。

 ただそれは死因ではなく、死因は頭を一発撃たれたことでの銃殺。

 頭の状態は酷く。柘榴が割れ散ったようにぱっくりと開かれ原形を留めていなかった。

 弾丸の進入痕に星型の痕があり大型の拳銃を額に押し付けて撃ってあった。

 むごい。タラーは私と一つしか変わらない「子供」だった。

 捜査が行われ、タラーを撃った銃がS&WのM500である事が分かり、タラーが消えたその日からの登録中のM500の使用歴を辿り、犯人が見つかった。

 犯人は――フランシスと喧嘩した男のものだった。

 男は現在逃亡しているとのこと、確定であった。

 タラーが死んだ。いとも簡単に――

 タラーが死んだ。いとも容易く――

 タラーが死んだ。易い理由で――

 

「実戦だ。あの男――殺すぞ」

 

 ニコラスはそういった。狼(ウルフ)のように炯々と輝かせたその瞳で。




誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。