※この作品はR-18です。

金瞳の二丁拳銃 アイナ   作:我楽娯兵

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Hシーンは次回もありません。その次の回から所謂Hシーンありの本編です。


タカマガハラの正義

 海岸でバチバチと音を立て燃える仲間達。

 アイナはそれを眺め膝を抱えてみていた。

 彼らを弔う為に、アイナと彼はボートから重油を抜いて彼らに掛けてライターで火を点け、それを眺めている。死んだ仲間達は黒く焼け焦げ、見た目はまさに焼き過ぎたローストターキーだった。

 服も髪も何もかもいっしょくたに燃えて、彼らの体は赤ん坊のように縮み上がり、時折筋肉の収縮に負けた骨がバキバキと折れ砕ける音を立てていた。

 人が燃える匂いは酷く不快と言うが、彼らの匂いは焼きたての秋刀魚と同じ匂いであった。

 脂の良く乗った潮味を感じる旨そうな臭いを放ちながら、彼らは灰へ還っていく。

 ともに歩んだ二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)も、苦難をともにした経験も、すべてが人間と言う概念的生物とではなく物質との体験であったと強く印象づく。

 彼らは物質であった。どこまでも物質であった。

 肉と骨と、それらを動かす脳というソフトウェアが作り出した側面であった。

 私もきっとそうなのだ。

 そう思うと心がふと軽くなり、心臓の奥がナイフで削がれるような感覚があった。

 

 ――俺は生き残ってやる。

 

 彼はそういった。強い意志でそういった。

 

 ――俺は生き残って、お前と一緒に生きるんだ。

 

 彼の左腕に巻かれた包帯から血が滲んでいた。

 アイナを庇って受けた傷であり、左肩から入ったサーベルが肩甲骨を砕き突き抜けていた。

 それは重症ではなく、適切な治療を受ければ四日で治る。しかし拳銃格闘者(ハンド・トゥ・ハンド)には数日でも重症だった。少しの間でも稼動しない筋肉は最大稼動していた状態を忘れてしまう。

 

 ――どうして、拳銃格闘者(ハンド・トゥ・ハンド)になる必要がある。

 

 アイナの口から弱音が漏れた。

 

 ――舐められないためだ。ぽっとの出の奴らなんて言わせねえ。

 

 彼は疲れきったアイナを背負い歩き出した。

 大きな、とても大きな背中に居られることに安心した。あそこで死ななくて良かった。

 アイナはどこに向かうのかもわからなくなっていた。

 

 ――なあ、アイナ?

 

 彼は名前を呼ぶ。

 疲れきった体を動かし、顔を向けた。

 現実と向き合う時間だった。

 彼は背中にいる私に後ろ目に聞いてきた。

 額に黒い穴と一筋の血が流れている、その弾痕は「あのとき」に私が穿った弾痕だった。

 

 ――なんで、俺を撃った――

 

 

 

「ハッ――あ、か、ハぁ、は……はぁハぁ――」

 

 悪夢より目を覚まし現実を取り戻す。

 木製のブラインドより差し込む日差しで目を覚ます。

 ベットの上でじっとりとした濡れたタンクトップが胸に張り付き不快感があった。

 汗ばんだ体で洗面台へと向かう。

 電気をつけ、LEDライトがアイナを照らし出す。

 右目に眼帯をつけた酷く顔色の悪い顔。夢が覚めてなお汗が止まらず頬に汗が伝う。

 洗面台の横に置かれた弾丸の入っていない愛銃に手を伸ばす。

 銃口をこめかみに押し当て呪いのように呟く。

 

「もうあいつの夢は見るな……」

 

 自分自身に言い聞かせるのではなく、自分の脳に、意識に命令する。

 今もこの頭のどこかに巣食った『あいつ』がアイナの銃を冴えを鈍らせる。

 私は私だ――そう言い聞かせる。

 私と言う存在は唯一である、何者にも変わらない、変えられない。師匠とも『あいつ』とも違う私だ。心臓の高鳴りを押さえつけ鏡を見直す。そこには私がいる。

 暗殺者であるアイナ・ウィンチェスターが。

 軽いシャワーを浴び、身支度を整える。紫のボディコンを着てモッズコートを羽織る。

 両脇に銃を吊るし、アイナは家を出た。

 

 

 

 

 

 

 タカマガハラは他の違法都市とは違い『行政』が存在している。

 東京キングダム、ヨミハラ、トミハラ、アミダハラ、アマハラと数々の無法地帯を抱える日本だが、その中で唯一『行政』と呼べるものが機能している都市がタカマガハラだ。

『日本タカマガハラ臨時行政』とは名乗っているが、その実は殆ど日本政府は居ないと言っていい。臨時行政を取り仕切っているのは露帝(露欧連合帝国)と米連の民間警備局、そして日本の環境省だ。

 上階層、すなわちタカマガハラは露帝と米連の警備局が日本では持ち得ない武力で街を治め。

 下階層、アシハラを環境省が取り仕切っている。

 土地が二倍に増えているのだから、北方領土問題がこれで解決仲良く露帝と日本ではんぶんこ。

 ――なんて事には成らないのが世の常。

 択捉の土地が丸々二倍に増えるのだからそれを欲しがる者はいる。米連だ。

 だが元来、米連と露帝は犬猿の仲。表立ってその空飛ぶ都市を寄こせ、なんてことは偉大なる米連(ビコム・グレート・アメリカンユニオン)と帝国主義的な態度は、全盛期の頃より取れない状況にある。

 そのためにタカマガハラの建造に『民間の出資』と言う形で、出来立てほやほやの新設警備会社を臨時行政の中に捻じ込んだのだ。金を出しているんだから口を挟さませろという事だ。

 大国同士のいがみ合いに及び腰の日本は言われるがまま、建造を担当したにも拘らずタカマガハラという大きな日傘の下へと追いやられたのだ。アシハラは常に夜であり、北方に位置するという事が祟りアシハラは常に氷点下、その上に手続と言う面倒な作業が多く住み辛いのだ。

 その代わりといってはなんだがアシハラはタカマガハラより治安がいい。

 調査第三部(セクションスリー)が従える『対魔忍』が有能なのか、それともただ単に無法者と魔族が嫌がって近寄らない為か。

 アイナはモノレールからタカマガハラの景観を眺めながらそのような事を考える。

 絶対安全、完全正義、清廉治安、街灯広告で流れる臨時行政のホログラフが目障りな位にある。違法都市といわれているにも拘らず、絶対安全ななどと虚偽を流す神経が知れない。

 たしかに北東部は露帝の大使館と、出資を行っている『警備局』があり安全に近いが。それでも通常の都市より格段に危険だろう。スーパーマーケットに小銃を持った警備員が立ち、コンビニエンスストアの店員が万引きにもガンをぶっ放す具合には危険性に溢れているだろう。

 銃(ガン)を持つことは抑止力となる、私の生業もそうである。そうでないものもいるがそういった輩は生まれながらに怪物か、機械に体を置き換えている。

 そういったものにはアイナはなっていない。片目だけはナノマシンで冒されているが、それは職業に必須の道具だからだ。

 ――傭兵。

 大陸防衛警備機構から退いたアイナが行き着いた居場所だった。

 今は傭兵、契約中のタカマガハラの警備局に出社中だ。その警備局は先程から触れている『民間の出資』している新設警備会社だ。

 モノレールがビル群を抜けその会社の大型複合ビルが姿を現す。

 一ブロック一キロで整備されたタカマガハラで北東部の十六ブロックを占拠している会社のビルがある。E&Sとビルにロゴが掲げられてる。

 臨時行政警備治安課の領域――イーグル(Eagle)&サンクチュアリ(Sanctuary)社だ。

 鷲(イーグル)は米連の掲げる象徴的動物だ。サンクチュアリは聖域(Sanctuary)を意味している。それは遠回しに『ここは俺達の土地だ』といっているのだ。

 脳味噌までウォッカに漬かった露帝には判るはずもない、弱腰の日本は口出しもしてこない。ようは無意味な冗談広告(ジョーク アドバーティスメント)だ。

 モノレールを降り、真っ直ぐイーグル&サンクチュアリへ向かう。

 威圧するような門構え、『警備治安課』を称するだけのことはあり入り口ゲートにはありえないほどの銃火器が配備されている。正面入り口にフル装備の警備員十人、ゲート上部にM134機関銃を据付ている。

 銃の見本市のようだが、警備のためだから仕方がない。

 敷地に入るためにはいくつものセキュリティーパスを通過しなければならない。

 来客者ならば指紋声紋顔紋網膜脳波と固有生体パターンを取られるだけ取られ、しっかとGPS証明バッチも付けていなければならない。

 社員はもっと面倒だ。先程のセキュリティーパスに加え、さらには敷地に足を踏み入れるために個人証明機能を持った糖質由来のナノマシンを体内に注入される。24時間どこの部署にいてどの通路を通ってさらにはそれらに要した時間まで記録されて、イーグル&サンクチュアリのセキュリティー管理サーバに五年間は保存される。

 厳重すぎると言う声もあるが、そうでもしないと安心できないのが現代だ。

 ドッペルゲンガーという魔族のように生体情報のすべてをコピーするようなものもいる。なって当然、当たり前の処置だろう。従わなければ即時射殺だ。

 身分証、指紋声紋顔紋網膜脳波とナノマシン認証を済ませる。

 

「アイナさん、第四会議室に召集がかかっています」

 

「……わかった」

 

 どうして? なんで? なんて常套句を警備員に聞いたところで返ってくるのはいつも同じだ。

 そう伝達が回ってきているんです。そう言うのだ、その言わせる間も時間の浪費だ。

 警備員の仕事は警備であり、ロビーの受付係ではない。

 バッチを胸元に付け第四会議室に向かう。

 エントランスホールは十二階まで吹き抜け構造になっており開放的な印象だが、今日は些かその印象が薄い。

 

(変なのが多いな)

 

 ゴミゴミと人が多く、忙しなく行きかっている。

 その行きかう人々はいつにも況して攻撃的な人種が多い。

 体を機械に置き換えた機械人間(サイボーグ)や銃を携帯している者、なかには半獣の者さえいる。

 ラフな格好を推奨しているイーグル&サンクチュアリには少々仰々しい連中だ。

 警備員とはまた違う――見るからにタカマガハラの外から来た連中だ。

 おのぼり連中とすれ違いながら目的の場所へ歩いてく。

 いくつもの保安ゲートを抜けて、三十二階の第四会議室に到着する。

 簡素な指認証のデバイスの承認を受け会議室に入った。

 真っ暗な部屋でど真ん中にプロジェクタがありスクリーンはまだ青色で何も映し出されてはいなかった。先客が二人おり先に座っていた。

 一人はフォーマルスーツがよく似合うスーツウーマンだが、スーツの下より覗く青色のボディースーツが普通の者ではないと証明していた。

 もう一人はラフというより普段着だろう、日本人(ジャパニーズ)であると体と顔が言い表し、色鮮やかな髪色は暗い部屋でも眼に刺さった。

 後ろ側の席に座る、それと同時にもう一人が入ってくる。

 それはいつもアイナに仕事を回してくれる人事の人間だった。

 成人はしている筈だが幼い印象を受ける。白い長髪に赤い虹彩、第三帝国を意識しているのか軍服に似た私服で棒付き飴(ロリポップ)を加えていた。

 舌足らずな言い方で彼女は言う。

 

「諸君、よく来た。喜ばしい事だ。この混沌としたタカマガハラは収束と向かうだろう」

 

 プロジェクターのリモコンを操作し、スクリーンにある建物の見取り図が写し出される。

 

「タカマガハラに登って来て事情に疎い者もいるがこの際省略させてもらう。みなも知っての通りタカマガハラは混沌の中にある。我々イーグル&サンクチュアリと露帝大使館とで微妙な勢力関係を保っていたが、忌まわしきフラタニティが現れたことによりそれは崩れ始めていた」

 

 フラタニティ――タカマガハラの中でイーグル&サンクチュアリと露帝の二大勢力を敵に回した自警団(ヴィジランテ)グループの総称だ。

 フラタニティの組織構造は統制というモノがまるでなっていない。個々人達が個別に結成し、主義主張もさまざまで統一性がない。ただ一つ統一されているのは

 ――タカマガハラは日本のものである。

 はじまりはネットの掲示板からだったそうだ。それが徐々に善からぬ方向に向かい、右翼団体との接触で違法火器を手に入れてしまい個々人達がタカマガハラに集結し『タカマガハラに措ける日本国憲法整備』と宣言し、イーグル&サンクチュアリと露帝の両面に戦端を開いた。

 露帝は外務省を通し抗議をしたが日本は謝罪をしただけでそれ以上のことはしなかった。

 フラタニティは一つ発生した後に爆発的にその数を増やし、タカマガハラの南西部にその根を広げていった。米連にとっても良い状況ではなかったが、軍事経済的に考えて悪くはなく今までフラタニティの違法活動を放置していたのだ。しかしだ、一年三ヶ月前にイーグル&サンクチュアリの重役の一人がタカマガハラの南西部で墜落死しのだ。

 タカマガハラでの墜落死の意味合いは一つ。他殺だ。

 上層構造都市という立地で他殺死体をしたに放り投げればそれは自殺に見えるだろう。だがそれは健康管理サーバに体の一部を接続していた重役は自殺でない事をサーバが立証し他殺であると決定付けた。

 殺しとなれば調査が始まる、結果はフラタニティの犯行だった。

 米連もさすがに無視を貫くことは出来ず、フラタニティの掃討に乗り出したしだいだ。

 先日アイナが暗殺した男もフラタニティの幹部だ。

 

「今回君達に与える仕事はフラタニティの一人の暗殺だ」

 

「質問です」

 

 奇抜な髪色の奴が手あげる。

 

「なんだ緋山」

 

「麒麟は暗殺とかそういうの向かないです」

 

「安心したまえ、君は正面ホールの鎮圧だ。暗殺を担当するのは後ろのオライオンとウィンチェスターだ」

 

 名前を呼ばれ、散漫気味だった意識がふいに引き締まる。

 

「説明を続ける。今回の暗殺予定者(ターゲット)は名前こそ割れていない者の行動パターンが割れている」

 

 スクリーンが新しい画像を表示する。

 

「暗殺予定者(ターゲット)は大陸渡りの傭兵だ。戦術指導を各フラタニティで行い、渡り歩き銃の扱いなどを指導しているそうだ。そいつを暗殺する事でフラタニティ同士の連携を崩し、各個撃破する」

 

 オライオンと呼ばれた女が手を挙げる。

 

「暗殺予定者(ターゲット)の情報の発信源は信用に値するの? それとこの任務の危険性は?」

 

「情報源は鑑別所に収容されている未成年のフラタニティ人員だ。任務の危険性は戦場の銃撃戦に身を置くぐらいには危険に溢れているぞ」

 

 オライオンは満足そうに背もたれに背を預けた。

 

「暗殺予定者(ターゲット)は魔族でも生まれながらの怪物でもない、人間で銃を使うそうだ」

 

 アイナは今回の仕事のシミュレートをしていた。戦場の銃撃戦に身を置くぐらい危険という事はそれなりの敵がいるという事だ。混戦的銃撃戦の様相を呈する可能性もある。

 そんな中に二挺拳銃でいくなど以ての外だが、アイナの修めた二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)が仕事場所と適している。

 タカマガハラの立地と、二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)は相性がいい。

 

「ウィンチェスター。お前は質問はないのか?」

 

 訊かれはアイナは答えた。

 

「ねえよ。はじめから」

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