※この作品はR-18です。

金瞳の二丁拳銃 アイナ   作:我楽娯兵

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決戦アリーナが三周年だそうな。
そんなことより【吸血鬼】キシリア・オズワルドがシコリティが高くて、可愛くてエロイなんて大変よろしい。


金色の瞳

「フッ、ふふふっ」

 

 モニターの前で楽しげな笑い声を漏らしたふうま。

 他人の過去を覗く行為がここまで刺激的で楽しいものだったとは知らなかった。

 新たなエンターテイメントではないのだろうか。他者の記憶を他人に移植すればデジタルトリップが可能だ。下世話な商売を思想しながら、アイナ・ウィンチェスターの記憶を観覧し続ける。

 大陸防衛警備機構――米連の対魔族部隊『神災狼部隊(フェンリル)』のガンスリンガー。

 神災狼部隊(フェンリル)に所属するすべての隊員は二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)という特殊な銃術で数多の魔族を屠って来ている。その中にはコロラドの一部を火の海に変えた獄炎の女王も数えられる。正確に言うのなら斃した訳ではなく退けただけだが、敵の能力を鑑みても功績に数えていいだろう。

 この女の記憶を探れば闇へと霧散した大統領暗殺未遂事件の真実も見れるかもしれない。

 記憶を早送りにしようとボタンに指をかけたとき処置室に来訪者があった。

 来訪者と言ってもここの主、桐生美琴である。

 二十後半になる筈だが十八の少女のような容姿。オーソドックスなセーラー服を着こなし申し分ない肉体を納めている。時子とはまた違った長髪の黒髪が魅力的だった。

 ただそこに詰まっているのは女と言うよりは怪物のそれだ。

 マッドサイエンティスト――生命研究の果てに魔界の医学に辿り着いた異端の科学者。叡智の怪物だ。巷で名を轟かしている魔界医桐生佐馬斗の姉でもあり、佐馬斗を越えるサディストでもある。

 

「調べてきてやったわよ。全く人使いの荒い雇い主よ」

 

「すまんな。その仕事はお前にしか出来ない事だったんだ」

 

「っ――煽ててくれちゃって。調子がいいんだから」

 

 人間の心理をよく理解しているふうまだから、こんな壊れた医学者でも顎で使えるのだ。

 

「あなたの言った通りよ。このタカマガハラどう計算しても八柱の必要エネルギーと、火山熱エネルギーの釣り合いが取れてない」

 

「やはりか……巨人の足の神経系が最終的に収束しているのは」

 

 答えは判っていた。

 この街の中心、黒色の三角柱、高効率熱量変換電力タービン。

 

「ええ、孤立した虚岩(モノリス)に接続されてる。数式の通りならあのタービンは熱量変換ロスをゼロと仮定してもそれ以上の電力を生み出してるわ」

 

「と、いう事は熱量変換で生み出されたエネルギーはあの施設の管理にしか使われていない――」

 

「中で燻る『何か』から莫大なエネルギーを取り出して街の電力需要を賄っている。孤立した虚岩(モノリス)の中身は十中八九」

 

 ――魔神級(アスラ・クラス)の魔族。

 魔族の中でも最高クラスの脅威度を誇る獣。魔神級(アスラ・クラス)と認定されているのはこの世でただ一人、エドウィン・ブラックだけだ。

 魔界にはそれに等しい者たちが幾人も居るそうだが、現状人間界ではエドウィンのみだ。

 

「二体目の魔神級(アスラ・クラス)、俺の魔門流儀(マモン・モード)の保留能力に相応しい」

 

「さすがのあなたでもムチャだと思うけどね」

 

「できないか?」

 

「無理っていってもやるんでしょ? この環境を失うのは惜しいし最大限支援はするつもりよ」

 

「よろしく頼むぞ。道半ばでくたばるのは御免被りたいからな」

 

 頬を吊り上げ笑い魔神級(アスラ・クラス)の中身を想像し歓喜する。

 子供がプレゼントの包装紙を破く心境だ。あれを己の能力として取り込むことが出来ればきっと俺は無敵になれる。そうなる予感があるのだ、あの中身はなによりも虚無を抱擁している。

 最強になれると言えば稚拙に思えるがその程度に収まればいいほうだ。

 莫大なエネルギー生産能力。そのエネルギー生成能力を応用すれば可能性は無限大だ。

 都市の電力事情もそうだが、人間の生活にはあらゆるモノにエネルギー消費が伴う。

 孤立した虚岩(モノリス)の中身が熱量変換を行っているのなら、物質をエネルギーに変換する事も可能だ。その逆も然り。――単純エネルギーを物質に作り変えることも。

 ならば死者を単純エネルギーから再構築し蘇らせる事も可能になる。そこに宿っていた魂が真なる個人の魂かどうかこの際関係ない。生命創製を行える。

 その可能性は魔族の発生原因、強いては生命の誕生を探る事になるうる。

 

「唆るではないか」

 

 気を高めるのは自由だが、問題はその過程だろう。

 警戒厳重な孤立した虚岩(モノリス)を突発する方法を模索しない限り生命探求など先の話だ。

 そのための調査だが気を張り続けていれば疲れる。

 結果、息抜きのためにこうして他人の記憶を覗いているわけだが。

 

「他人の記憶を覗く趣味があったの?」

 

 モニターに映る映像から美琴は卑しい笑みを浮かべ訊いてくる。

『ハンニバル』から帰還したその後をちょうど流している。二人とも傷つきこの先少しの間盛り上がりには欠けるだろう。そう思っていた矢先、美琴は奇妙な声を上げた。

 

「ん~こいつ? 誰だったかしら」

 

 目を凝らしモニターを凝視していた。

 

「この女を知っているのか?」

 

「違うわ。この男、どっかで会ったことがあるような」

 

 記憶を探るように左手の人差し指でこめかみをトントンと数度叩く。

 そして思い出したように眼を見開いて、嬉しそうな声を漏らした。

 

「ふ、フフッ。こいつよく生きていけるわね」

 

「知り合いか?」

 

「あなたに会う前に改造した被検体(モルモット)よ。死体を切り刻もうとしたら蘇生しやがったタフガイさんよ」

 

「死体? どうして」

 

「撃ち合ったそうよ。脳味噌の割れ目を綺麗に弾丸が抜けてこん睡状態だったのよ」

 

 あの男に弾丸をくれてやる者にがいるとは。

 フランシスも充分な技量がある。

 ふうまや七衆に殺気を悟らせず拳銃を抜く早業、あれだけ見れば奴は底知れぬガンファイターである事は一目瞭然だ。その男の頭を撃ち貫く者、唆るものがある。

 引きつったように笑う口元を手で覆い隠しモニターを再度見ていると、ふいに美琴が気になることを言った。

 

「でも蘇ってくれたおかげで契約がご破算よ。挙句逃げ出してこっちが狙われたんだから」

 

「契約? 何のことだ?」

 

「こいつ、結構やばい事に足突っ込んでたみたいで軍事系の企業に首を狙われてたみたいなのよ」

 

 神災狼部隊(フェンリル)の一員だ。それなりの悪行はやっているはず。

 だがおかしい、神災狼部隊(フェンリル)の隊員たちは大陸防衛警備機構が解体されすぐに全員が身柄を拘束されアラバマの軍刑務所に収監されている筈だ。

 

「そいつはかなり臭い契約だな」

 

「私怨みたいよ。こいつの率いる部隊に娘の乗った旅客機落されたみたいで生死問わず(デッド・オア・アライブ)でつれて来いって」

 

 溜め息を尽き少々意地悪な顔をした美琴は楽しそうに言う。

 

「でもそんなの面白くないじゃない? 生死問わず(デッド・オア・アライブ)の暗殺予定者(ターゲット)なんてこん睡状態のこいつから幾つか記憶を抜き取ってやったのよ」

 

「っ――それは、酷なことを」

 

 記憶は人を構成する大切な器官だ。心臓や脳、肺に匹敵する『人格』を構成する重要な部分。

 人は幼少から今までに体験した記憶で物事を考え、問題に直面した時にその解決策を記憶に依存している。その記憶を抜き取るという事は問題解決に必要な「参考」が消え失せるという事。

 と成れば答えは限られてくる――逃避か暴力的になるのだ。大人サイズの子供と同じになる。

 フランシスの場合、美琴の話通りなら幾(・)つ(・)か(・)抜かれているのだ。人格を構成できていて、部分的に欠如している。

 そうなった場合、暴力性に偏る。そうなったのなら後は自然崩壊だ。

 何故このように己は暴力的なのかと考え、記憶を探り所々で記憶が欠如している事に気がつき始め最後には人格霧散を起こし廃人となる。

 現状フランシスは己と向き合っていないのだろう。あのように健常者のように生活をしている。

 

「それで、その私怨の矛先からは逃げ切れたのか?」

 

「こいつの抜き取った記憶で手を打ったわ。記憶なんかでいいなんて易い仕事だったわ。それで――」

 

 美琴は処置室の一角からスティック状の記録媒体を引っ張り出してきた。

 

「こいつがその記憶のコピーよ」

 

「記憶も記録媒体にしたら量産は可能か?」

 

「当たり前じゃない。人から人に移すのは骨だけど、人からモノ、モノから人なら簡単なんだから」

 

 スティック媒体をくるくると回す美琴。ふと疑問に思うことを訊く。

 

「私怨という事は個人的な依頼なんだろう? 名前を聞かせろ」

 

「聞いたら驚くわよ。何せこの街のドンなんだから」

 

「ほう?」

 

 耳元まで顔を寄せた美琴は依頼主の名前を愛の告白かのように囁き聞かせた。

 

「――――――」

 

「っ! ……――そいつは飛んだセレブだ」

 

「娘の報復だそうよ。米連じゃあ報復行為は違法、家名もそうだけど会社にも傷つく事必至ね」

 

「揺するネタにはなるな」

 

 ふうまの反応に新鮮で驚きそして楽しがる美琴は記録媒体をモニターに接続する。

 

「それよりこいつの記憶観ない? 観ようと思ってずっとほったらかしてたのよいい機会だし一緒観る?」

 

「そうだな、まずはこれから見よう。楽しい楽しい盛り上がる記憶の部分だ」

 

 ふうまたちは薄気味悪い笑みを浮かべモニターに目を戻した。

 

 

 

 

 

 ――漆黒。

 底のが見えない深淵が、体に纏わり付く重さが、私を更なる深みに引きずり込む。

 沈み込んだ果ては甘く囁きかける『死の渇望』――人が生まれたときから兼ね備えた死への羨望。

 今まで積み重ねてきた教練が、死線がすべて無意味なものだったのか? 私たちは死への供物。

 紅に染まった空を眺め、軍病院の一室で私はタバコに火を灯す。

 深くベットに身を沈め、上半身だけを起こして外を意味無く眺めた。

 ジジッ、と煙草の火種が先を舐め口元へと近づいてくる。

 体に染み渡る弱くそして甘美な痺れが広がり、私の精神を虚無に包み込んだ。

 深く熟考するわけでもなく、思考を棄てた空っぽの無心状態でもない。ただタバコを吸っている自分がいる、そう考えこうしている事の意味を僅かに考えるだけ。

 意味など求めない無関心な精神状態。

 なにも、今は考えたくはなかった。

 

「――スー……――」

 

 煙を深呼吸するように長く深く吸って、吐き、心に渦巻く胸糞悪い気持ちを一掃する。

 半分になった私の世界。包帯で塞がれた右目、実際にはそこに収まっている目は切り裂かれ見る機能は失われている。これでも私は軽症だ、視覚だけですんだのだから。

 だがフランシスは違った。片腕を持っていかれた。あのハンニバルの戦闘でサーベルが彼の右肩は負傷を負って、ガンマンとして駄目になりつつあった。

 サーベルに付着していた魔界の菌類に肩甲骨を蝕ばまれ、治癒したとしても後遺症が残ると。

 片腕がお釈迦になった拳銃格闘者(ハンド・トゥ・ハンド)など笑い話にもならない。

 培養移植治療で肩甲骨の培養は簡単だが、問題はフランシス自身だ。彼は極度の移植拒絶者だ。

 自分に他者を組み込む事を必要以上に嫌がっている。嫌悪感は次第に侮蔑的な差別意識に変わり強化人間(サイボーグ)や魔を遺伝子に組み込んだ対魔忍を毛嫌いしている。

 どこまでも自分自身で登り詰めたいのだ。

 培養移植を行うには奴が同意をしなければ成らない。それが連邦移植法のルールだ。

 

「……するわけはない」

 

 フランシスはこのまま朽ち果てていい人間ではない。

 私などよりずっと強く、ずっと熱意がある。どんなものにもかき消されない揺るぎない報復の炎。思えば思うほど、考えれば考えるほどに自身が惨めで、そして自分の弱さに憤りを憶えた。

 この目を負傷しなければ、フランシスも傷を負う事も無かったのだ。

 己がもっと冷徹であれば、自分がもっと変則弾道(トリック・トラジェクトリ)を自在に操れていたのなら。

 

 ――もっと銃を繰れていたら。

 

 コンコンコン、っと病室の扉がノックされる。そして返答をまたず扉が開かれた。

 鋭い目線で黒のロングレザーコートを羽織る武力。正当性を見出せない威圧的暴力存在。

 ニコラスは冷たくも熱くもない、ただ無関心な目で私を一瞥しベットの隣に置かれた椅子に腰を下ろした。

 

「手酷くやられたな。お前は片目、フランシスは肩甲骨。他の二人は命で」

 

「言わないでくれ……」

 

「驕りが過ぎたんじゃないか。タラ-の時みたいに調子扱いてやった結果の負傷だろ?」

 

「……うるさい」

 

 言うな。何も言うな。

 あの場にいなかった人間が、『あれ』の恐ろしさを知るわけがない。

 

「これじゃあ狩人(ハンター)なんて言えねえな、よくて猟犬だ。俺たちに使われる体のいい捨て駒」

 

「喋るな」

 

「ええ? どうなんだ、抵抗も出来なかったのか。俺はゴミに知恵を与えていたのか?」

 

「黙れぇえええええッ!!」

 

 止まるこの無かったニコラスの嘲笑の言葉が私の心に深く抉りこんできた。

 まるで子供がありを踏み潰す悪意のない攻撃性と同じ、ただ悪意のない言葉で私を傷つける。

 ベットより飛び上がり私はニコラスに飛び掛っていた。

 これ以上仲間を悪く言うな。みんな必死で戦った。

 アナベルも、グレイグも、フランシスも私も、みんな必死であの黒い霞を纏う『何か』と戦った。

 奴の脅威を知らないからこんな風な口を聞けるのだ。

 お前だってあいつの前に立てばッ! 絶対立ちすくむ、喋れなくなって震えるだけの肉の塊になるっ!

 ニコラスに馬乗りになった私はそのスカした顔に拳を叩き込んだ。

 頬の肉が私の拳と頬骨ですり潰れる感触、摩り千切れた皮膚から溢れ出て床に散る血液。

 抵抗の一切を見せず私の殴打をただ受けるニコラスはどこか懺悔をしている罪人のような表情で、その憐憫に満ちた視線で私を見ていた。

 腕を振り上げその鼻をへし折ろうとしたとき、ニコラスがぽつりと言った。

 

「殺しの自由権(フリーキリング)を発行した。お前たちはこれで晴れて死刑執行人だ」

 

「っ――!!」

 

 血まみれの顔で私を見上げたニコラスはどこまでも平坦(フラット)な口調でそういった。

 涙が滲んだ。殺しの自由権(フリーキリング)を今発行する位ならもっと前に、私たちにくれていれば。

 悔しさと、恨めしさが私をヤワにしていった。

 

「償いのつもりかよ、ニコラスッ!!」

 

「な訳ないだろ――」

 

 左腕を振り上げたニコラスは私の右目に注射器を突き刺した。

 治りきっていない左目が僅かに痛み、激痛が走る――ことは無く、異常な痒みが私の眼球を襲った。

 

「がっ――ぐ、くっ。うぁああああッ……」

 

 眼が熱い、まるで溶けた蝋を垂らされているみたいだった。

 そう思ったが、あながち表現としては間違ってはいなかった。

 

「痒いだろ、アイナ。そいつは俺が開発した視覚補助の為の弾道予測補助ナノマシンだ。お前の場合角膜が欠損しているからな、ナノマシンが無理やり接合しているからめちゃくちゃ痒いだろ。目の玉搔き出すなよ」

 

 右目を襲う痒みが引いたとき、私の視界は半分ではなく今まで通り全部見えた。

 いや、それ以上に見える。右目に表示される英文のアシスト文章。拡大と収縮を繰り返した。

 目紛しく、貪欲に、ナノマシンは視界から得られるあらゆる情報を、膨大で濃密な情報を私の脳に叩き込んできた。

 その情報の量に、立っていられなくなり膝から崩れ転げまわる。

 

「ぐっ、あぁっ……あが、なんだっ、これ。頭がッ――痛いっ!」

 

「やはり角膜再生で神経接続フィルターが無くなっちまうのか、このままだと脳味噌がパンクするな」

 

 私に投げて渡された眼帯。それをつけた瞬間に脳にぶち困れた膨大な量の情報が遮断された。

 ニコラスは私を見下ろしていた。その眼は今までの無関心とは違う、力に溢れた暴力性があった。

 

「これまでよくがんばった。お前らがハンニバルで魔族を打倒していたなら、このまま全員二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)の後継者にしたんだがな。この際どっちでもいいか――」

 

 私の銃を目の前に投げてきた。そして言った――

 

「お前らどっちかが二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)の後継者だが――選定だ。お前ら撃ち合って決めろ」

 

 ニコラスの腕が再度振り上げられ、首筋に攻撃性を増幅する向精神薬の注射器を差し込んだ。




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