「
「
コロコロと口の中で
何事も想定内。予想されるゲリラ行動。
アーデルハルトには余りにもこの作戦の推移が不自然に思えた。
『あれだけ』の騒ぎを起こせる行動資金と技術がありながら、この作戦を甘んじて受ける体制。
なにから何まで、組織プロファイルから見れば全くの別組織なのだ。
モニター越しに行われる戦闘行為。この戦闘行為は
適度に奴らを疲弊させ、慢性化したグリーカラー経済の円滑化を図る体のいい消費活動だ。
フラタニティは米連の恥部を知りそれを刺激する犯罪を起こしている。
米連上層部は当然お冠で早期撃滅を望んでいるが、E&S社にそんな気はさらさら無いのだ。
いくら米連に属する仮の国土戦略軍であるが、それ以前に民間複合軍事警備企業なのだ。結果よりも利益を優先する役員たちが多い。
癖のある役員の中でも唯一心を許せるテイラーインダスリー社CEOのソラー・テイラーですら、今回の間引きには前向きであり賛成派だった。
弾薬や燃料、銃に人員がどれだけ集まっても、それを消費する状況が発生しなければその存在意味を失いかねない。従は存在そのものが抑止力ではあるが、その威力を証明しなければただの『凶器』として周囲より爪弾きに遭う。
核もその威力をヒロシマ、ナガサキの使用例が挙げられるからこそ、その威力、その恐怖、その畏怖を現代まで証明できているのだ。『人類の脅威』として人類の共通認識を刻み付けたのだ。
銃は核の脅威ほどの輝きほどはない、そのために可能な限りの実用性を証明し続けなければ存在の必要性が失せ、銃のみならずそれを扱う者とそれを雇用する『会社』が必要とされなくなるのだ。
物資の耐用期間もある、そのために適度な消費活動が必要なのだ。
「米連顧問として歯痒いですか?」
「悠長、本音はそういいたいが。部下を食わす為にはこの悠長さも必要なのかもしれない」
「消費活動こそより良い生活をもたらす行動ですよ」
使い捨てこそ至上、浪費こそ喜び。ソラーはそう言っているのだ。
大量消費経済社会の、しかもその
ただそれによってE&S社の利益になっているのは確かだ。命を搾取し、弾丸を消費し、弾丸の補充で生じる金の動き。銃のメンテナンスレンタル料、各自諸々の諸経費。
マイナスになることなど何もない。
即ちE&S社にとってフラタニティはいい収入源。野を駆ける無謀な兎でしかない。
「それに、この任務の殲滅対象は
「ああ、政治意識の何もない武装集団だ」
そう、現在タカマガハラで屠殺にあっている集団はフラタニティではない。
どこにその証拠があるのかというと。その総体行動心理に如実に表れていた。
フラタニティはテロリストでありその行動に『明確な』意志が存在している。
『タカマガハラに措ける日本国憲法整備』――果たしてそれは日本国憲法なのかそれすら疑わしいものだが。法の整備を目指し違法行動を起こしている。
それに比べ今現在壊滅の憂き目に会っている連中は何のことはない犯罪組織。
系列を辿れば恐らくたどり着く組織はノマドであろう組織は、目的と言えば魔界由来の技術での娯楽の提供及び商業活動。フラタニティとは行動原理そのものが違う。
故に戦闘行動、戦闘推移の二つと今までのフラタニティの戦闘記録を示し合わせれば全くの別組織である事は一目瞭然であった。
「これでは予行演習にもなんな」
「まったくですな。ハハハッ」
役員たちはまるで勝ちの決まったスポーツ観戦をしている様子で笑い声を上げていた。
全く持って不愉快極まりない。人を正真正銘の『駒』としか観ていない。
彼らを雇用し、見定めている側の人間からは彼らにも人生があることは知っているし情が湧いている。
人事局のアーデルハルトには兵士たちを知らない局の人間こそまさに怪物。
足許に広がる骸を知らず、その上を歯牙にもかけず歩く人間共め。
奥歯で
「F分隊応答を。F分隊?」
何らかの通信障害だろう。タカマガハラは
他の通信機器に比べE&S社の通信機器は強力なものだが、やはり千人を超える傭兵を雇用しそれすべての人員に同じものを提供するとなれば利益どころではなくなる。
御国の意向を背負っているとはいえ、E&S社は軍隊ではなく一民間軍事企業なのだ。
すべてを賄えるだけの備品の消費は避ける。となれば傭兵一人一人が個人単位で持つ
そのために本来では必要のない電子通信統括及び戦略領域地形編纂をする『電算局』などというものが存在している。
組織的欠点にぐるりと目を回し天井を見上げた最中、モニターを揺るがすノイズが入り込んだ。
「なんだ、どうしたと言うのだッ!」
役員の一人が急展開して事態に声を荒げた。
原因究明に
椅子に拘束され袋を被せられたスーツ姿の男。その両脇に小銃を提げた覆面の男二人。
明らかに尋常ではない雰囲気。狂気に満ちたプロパガンダ映像。
カメラがガタガタと揺れ、それが映し出された。
素顔の男――ギラギラとした瞳。
中肉中背、アントワープブルーの瞳、襟足が少し長めのダックテイル。
背広の上に羽織った解体された大陸防衛警備機構、対魔戦闘部隊《
口を開いたその声は加工の一切を行っていない肉声であった。
《聞えるか? 禿鷹諸君》
まるで悪戯が成功した子供のような声音で男は語り掛けてきた。
隣に座っていたソラーが慌しく立ち上がった。アーデルハルトはソラーを見上げ僅かに目を顰めた。
温厚で底の知れない老紳士の顔にありありと張り付いた憎しみの表情。その顔である名前を言った。
「フランシス・
《おっ? なになに、オレ知ってる人間がいるわけ? ハハハハッ、嬉しいねえ》
「通信を切れッ! 不愉快極まるッ!」
《無理だぜおっさん。そっちの通信は押さえてんだ、無理に切断すれるとメインサーバが飛んじまうぞ》
見透かしたような言い方をする男。
ギシっと部屋のどこにいても聞えそうなほど大きな歯軋りをしたソラーはモニターを睨みつけた。
激情に極まるソラーを見るのは初めてだった。退室を促し、モニターに向き合った。
「貴様らの要求は何だ? これ見よがしの人質。なにが目的だ」
《今度は女か。ああ、なに要求なんて大層な事はね》
この言い振りからするとあちら側には音声しか届いていないように見えた。
男は人質の頭の袋を乱暴に外した。
「ッチ」
舌打ちが出てしまう。
その男は元E&S社戦略局総務。アーデルハルトその手で
差し詰め自暴自棄になり南西部に言ったのだろう。リンチに合いその顔を腫らしていた。
「その男と引き換えに何がほしい。金か?」
《だから。要求じゃねえよ、ただの――》
ソラーがフランシスと呼んだ男が徐に銃を抜き戦略局総務の頭を――撃ち抜いた。
《見せしめ――あんたらは新鮮なイベントは目もくれねえで、いつもの金稼ぎで躍起になっちまってる。だからもっとショッキングなのがお好みだと思ってねえ。どうだ『
「クズめッ! 死体を積み上げたいのか!」
《人類史は死体で出来てんだよ。これもその砂粒の一つ、タカマガハラを日本のものにする大いなる砂粒だ》
男はカメラを掴み上げ冷たい顔で言う。
《戦争は覚悟の上だ。大軍率いて来い、ハゲタカ》
それを最後に通信は途切れノイズが走る。
不快な音と、静まり返る作戦室。
これは明確な宣戦布告。ただの見せしめの殺しならE&S社は無視を貫けが――。
「奴ら、ついにやりましたな」
役員の一人がそ言う言った。
ああ、やった。やってしまった。――殺してしまったのだ。
私たちの目の前で米国の人間を、アメリカ人を殺したのだ。
今までも奴らと思わしき『米連に対する』テロ行為はあったが、決定的な証拠はなかった。
ただ、タカマガハラという場所での『無差別な』テロ行為であった。
落下死した役員も健康管理サーバの情報開示でフラタニティのテロ行為かもしれないという根拠の薄い電子情報でしかなかった。
――だが今回の行為は違った。あからさまな敵対行動を映像として示してきたのだ。
祖国のものを殺されたのならば我々の行う行為は唯一つ。
――正義の番人。偉大なる
「特戦隊の準備を始めろッ! 知性を知らぬ無頼漢どもに正義の鉄槌を下す時だッ!」
「盛大に戦端を切られましたね教官殿」
黒い天使の首領は撮影機材として使用した、E&S社の生体機材、すなわちナノマシンの注入された眼球を手の平で転がし、床に転がる死体を見下ろした。
ギラギラとした雰囲気を滾らせたフランシスは死体を抱き上げた。
「こいつはわざわざ自らの命を顧みず俺たちの計画に挺身してくれた。手厚く葬ろう」
これが本当の総務であったのなら死体であってもここまで丁寧に扱いはしないだろう。何せオレのアイナを犯したのだから。
そう、これは本物の総務ではない。ドッペルゲンガーが姿を変えただけの偽者。
「これでタカマガハラは慌しくなりますね」
「それが狙いだ」
総務という立場の人間を殺す事によって、E&S社のどの立場の人間もこのタカマガハラという土地では危険が付きまとうという事を証明させたのだ。
そうなれば否応なし役員たちは近衛を侍らせ警戒を強める。
それによってこの広い都市の中から見つけ出しやすくなる。テロリスト風情が都市機能にアクセスし個人検索ツールを使用は出来る事など初めから出来ず、こういった物騒な方法でしか人を見つけ出せない。
「教官殿は顔を晒されになった。今後どうしていくつもりで?」
「生体偽装でもするさ。アンノウンIDは残ってるか?」
「もちろんです。直ちに手配します」
計画は順調。頗る順調。
この土地をフラタニティのモノにする為の第一歩だ。
見つけやすくなった役員の捕まえる。
これまでにしてきた犯罪行為は
E&S社にはあそこに入れる人間、そう役員の中にいる。
そいつを誘拐すれば
すべてテロ行為。そして革命への狼煙。
「楽しくなるぞ。新しい世界だぜ」
「いつまでも米連に頭を垂れる日本ではいけません。我々のように救国の精神を持ちこの国を支えねば」
「ッハ。律儀なこった」
――俺にはその仕える国がない。
喉に閊えた言葉を飲み干し、邪悪な笑顔に変える。
フランシスにとってフラタニティが勝とうが、E&S社に敗北しようが実際とっちでもよかった。
どう状況が推移しようと、オレはアイナとの決着が着けばそれでいい。
愛しい女、愛しい復讐。
彼女と共に過ごしたいのか、それともすべの破壊すればいいのか。
両方の破綻した欲望を共に抱え、その矛盾した欲望に葛藤のようなものを覚えていた。
どうしてこんな事を考えるのか。
深く考えれば考えるほどおかしい。どこか思考の接続点がおかしいのだ。
どこか抜けている。どこかが繋がっていない。
ズキズキと痛む記憶。
フランシスはこの復讐を果たすことだけが人生のすべてのように思えた。
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