銃弾が私を護り、銃声が私の声だった。
そう思えてしまうぐらいアイナと銃の間には密接な関係性が成り立っていた。
怒号と悲鳴が響く倉庫街で、拳銃を握り締め敵に標準を合わせ――
ちっぽけだ。ちっぽけ過ぎて驚くぐらい、人の命は物理的に軽い。
肉体は69キログラムもあるのに、死の重さが9グラムなんて馬鹿らしいだろう。
その人間がどれだけ偉大だろうと、どれだけ卑しく価値のない人間だろうと、死の重さが9グラムなのはどこに行こうとも変わりはしない。
倉庫街の銃撃戦。
血腥い匂いと硝煙の煙たさが、悲鳴と怒声が絡まり合い戦場さながらの様相を呈していた。
たった二人のイーグル&サンクチュアリ社の社員を二人連れて、
投入予定でない攻撃ヘリまで投入されていた。
異常事態と見ていいだろう。フラタニティの連係が高度にとれている。
その安易過ぎる考えの結果が、AH-64Dの投入だ。
タカマガハラは言うなれば馬鹿でかいアメリカンバトルドームだ。上に街を建造した為に下の都市が被害を被る、戦闘行為はどんなに小さいものでもアシハラに『タカマガハラの崩落』の危険性があるのだ。
そのためにタカマガハラは爆発物やガス、液体燃料などの管理は他の都市などより厳重だ。
それを理解したうえでイーグル&サンクチュアリはAH-64Dを投入したのだろう。
攻撃ヘリは近年対地攻撃能力が著しく飛躍している。それが望まれているがタカマガハラには存在そのものが必要とはされていない。必要とされている物は確か制圧技能を持った傭兵だ。
タカマガハラを傷つけない気遣いと明確な武力こそこの街に望まれた人材なのだ。
アイナはそれに適した人材なのだ。
物陰に潜むフラタニティたちが、拳銃を納めていたアイナの前に飛び出てくる。
アイナは屈むが、社員を二人は反応し小銃を構えようとする、遅い。
遅するぎる二人は次の間には額を撃ちぬかれ倒れ付す。銃口がアイナに向く。
敵の数は三人。前方に二人、後方に一人。
よく訓練されている。
訓練されてはいるが未熟だ、
屈伸からの飛翔。身を捻り、脇に吊る拳銃を優しく撫で上げる様に滑らかに引き抜く。
左の拳銃が前方の二人を、右の拳銃が後方の敵を
ドカン! と落雷が落ちたような轟音が鳴り響いた。もちろん落雷など落ちてはいない。
それは一瞬のうちに連射された拳銃の声だった。
フラタニティたちは糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちる。
三人とも下顎から入った弾丸が、脊椎で跳弾して脳へと突き刺さった。
この撃ち型は一人の男から考案された銃術だ。
この戦闘術は三代継続されている。一代目は名は伝えられていないが二挺の拳銃を使う事を考案した。二代目はアイナの師匠だった、ニコラスという。二代目のニコラスが
そしてアイナが三代目だった。アイナしか
技術的に優れてはいない、もっと上を行く奴はいた。だがそいつは死んだ。
死んだからアイナが継ぐしかなかった。
体勢を立て直し、目的の倉庫に向かおうとするが。
「出て来い」
冷たく言い放つ。
気づかないのは馬鹿だけだろう。
絡み付くような視線がアイナの体を舐め、観察をしていたがそれ以上に警戒心が強すぎる。
それがいる方向に眼を向ける。
何もないトタン板の壁であったが一点を睨み続ける。そしてついに根負けして現れた。
ぐにゃりと風景が揺れ動き人の形が浮かび上がる。
両手に短機関銃を持つ水色のボンテージに身を包んだ女だった。
顔のボンテージがやにわに溶け落ち素顔を露にする。
「『
「警戒しないで欲しいわ。
舌打ちをしてしまう。
その名は大陸防衛警備機構時代のアイナの素行を表した渾名だった。
基本的に
それ故に
唯一、狼たちが群れる時がある。同じ技を修めた狼が
足運びや視線、動きを知っているから配慮が出来る。
だがそれはいまだ為しえていないのが現状だ。
子狼が
「先輩に当たるのかしら? 大陸防衛警備機構って情報検索軍の前身だし」
「大陸防衛警備機構が解体されて俺がフリーになった時点で後輩なんていねえ」
「
「おしゃべりの気分じゃねえ。タカマガハラに昇ってきたんなら働け
「
無駄話に時間を割きすぎた。銃声が激しさを失いだした。
いくらフラタニティが高度に連係が取れていようと、やはり烏合の衆であったようだ。
少しつっぱた性質の悪いテロリスト。しかし
急ぎ
倉庫街は迷宮のように作られている。複数の倉庫が無計画に増築を繰り返したせいで、搬入口ら荷物置き場以外は迷路のように入り組んでいる。
そのために少数でも優位に立つ戦術をフラタニティはとっている。ゲリラ戦術だ。
眼で視て、肌で危険を感じることを怠ることなかれ。死とは日常の良き友人だ。
曲がり角の手前でアイナ足を止めた。にわかに曲がり角から暴風雨のような弾が通り抜ける。
くそったれだった。反射板がちょうど曲がり角を望める位置に設置されアイナをフラタニティが覗き込んでいた。こちらもフラタニティを覗き込めたが、
敵の得物はミニミ軽機関銃。ベルギー製の分隊支援火器だ。ソマリアやイラクの作戦でもその信頼性から高評価を受けている銃だ。遮蔽物の越しからミニミを構えている、面倒な場所に陣取ったものだ。
「お先に」
オライオンは足取り軽く、前に出る。
反射板に入り込まない様に動き、水色のスーツが変容する。
スーツが水のように撓み溶け出し顔まで上がって顔のすべてを覆い隠す。
アクアブルーだったスーツは徐々に色合いを失い、トタンの汚れた色に染まった。
まるでカメレオンの擬態だった。
イーオ・オライオンが身に纏うスーツは隠密性に特化した液体金属スーツだった。
強力なHIDランプの光条ですら吸収し周囲と擬態する最新素材。
人体の持つ塩分を伝導体に微細な筋肉の動きを読み取り、弾丸を受け止めるリキッドアーマーとなる米連情報検索軍心理戦部隊の装備だ。
イーグル&サンクチュアリは表立って米連との関係性を避けていたが、これではイーグル&サンクチュアリが米連の国土戦略軍の一局である事がばれるではないか。
同化して消えたオライオンはフラタニティに知られず、フラタニティを排除することなく横を通り抜けていく。嫌がらせだ。先輩にたいする挑戦だった。
「
モッズコートのポケットより弾倉に入っていない弾を取り出す。
左に持つ拳銃のシリンダーにそれを押し込み、息を整える。
天窓があり淀んだ鉛色の雲が見える。曲がり角に滑り込む。
右の拳銃が火花を散らし、天窓を撃ちぬきガラスの雨を降らせた。フラタニティは頭を護る防御姿勢をとった。瞬間アイナは飛び上がり、シリンダーに弾を入れたほうの拳銃を天窓に向かって発砲した。
放った弾丸は天上に向かい飛翔するが、一直線には飛ばず。弾道が湾曲した。
弾丸は放物線を描き、遮蔽物を飛び越し隠れた敵の脳天から弾丸が頭を貫いた。
これは
弾道を曲げるなど出来る事ではない、映画『ウォンテッド』のように腕をスイングさせ振れば弾道が曲がるなど夢物語だ。実験テレビ番組がそれを証明している。だが
弾道が曲がる要素は二つある。
一つはライフリングの除去だ。ライフリングは弾丸を真っ直ぐ飛ばすために開発されて機構で、古くはフランス陸軍のクロード・エティエンヌ・ミニエー大尉が開発した革新的構造だが、
そして二つ目、これが一番強く関わってくる。
――風だ。
弾丸の弾道を捻じ曲げる為には風速を観測する必要がある。
機械などは使わない、使うのは自身の肌の感覚だ。
感覚で風の流れを読み取り、複雑に曲がりくねる空気の道に弾丸を通すのだ。
無論のことだが風が微風のようなものでは曲がりはしない。強風ではくてならない。
この点に関してはタカマガハラは困らない。タカマガハラは他の街より高所にあり強風が吹く期間がほかよりも長い。故にタカマガハラではどこでも
群れを離れた
脳天を打ちぬかれたフラタニティを見下ろし、顔を見た。
非常に若い、少年と言っていい。
現実が構築されていない少年を兵士にするなど、倫理的にもそうだが国際法にも反している。この様なことをしでかすのは
二階へと登り、窓ガラスを蹴り破る。屋根に居り、
行動プロファイリングが正しいのなら恐らく
オライオンのように馬鹿正直に迷路を攻略する気はない。
シャッターが開く音、轟音と共に三台の車が飛び出していく。
インカムに叫ぶ。
「東搬入口。逃走車三台が抜け出した。アパッチをこっちに回せ!」
『こちら作戦本部。緋山麒麟が急行した、足止めを』
インカム越しでも聞える舌打ちをし、作戦に従った。
両拳銃のシリンダーに四五口径の弾丸を装填する。
眼帯を外し、金色の標準機が三台の車輌に目標を定めた。
肌で風を読み、風の道が示された。
弾道が捻じ曲がりながら、タイヤを撃ち抜く――ふいに制御感覚が変化しハンドルを取られている。
足止めはこれでいいだろう。そう思った最中、三台の車輌の前に躍り出る人影があった。
動きやすいボディスーツに腰部に見たこともないデバイスを穿いていた。片手に携えた身の丈を超える特大の剣が放電し、あちこち火花が飛び散った。
緋山麒麟だ。一切避ける気がない、緋山は剣を担ぎ――振り下ろす。
馬鹿馬鹿しいほどに大きな剣であったが、ただの剣。
そう思えたが現代では剣は銃に勝る需要がある。
振り落とした剣は、先頭を走る車輌を難なく縦に斬り割り、両断した車輌は横転し倉庫の一つに追突する。緋山の剣は冴えを失わず後続車両を同じように横に、斜めにと一刀にて両断した。
このような事ができるモノは限られる。
魔族か、――対魔忍だ。
視線が険しくなり、緋山を睨みつけてしまう。
緋山に他意はない。彼女は仕事をしたまでのこと、これはアイナの過去に問題があった。
対魔忍と魔族には個人的な私怨があるだけだ。
『作戦本部より各員に伝達。想定範囲ないのフラタニティの違法活動が沈黙した。広範囲警戒行動に移行されたし』
作戦本部の命令は、アイナたちの任務が終わりを知らせていた。
「200ルーブルだよ」
フラタニティの制圧作戦が終わり、アイナはコンビニエンスストアに立ち寄りジャンキースターを買い足していた。
どこか呆けた表情で、ルーブル札を払った。
フラタニティの制圧作戦は成功を収めたが、アイナたちの暗殺任務は失敗に終わっていた。
三人が三人とも米連の行動プロファイリングを信用しきった為に、
憤慨するわけでもなく、そうなってしまった事に愕然と脱力してしまう。
ジャンキースターを受け取り、胸ポケットに捻じ込む。
どうやって帰ろうか、タクシーを呼び止めようとしたがアイナの鋭敏な感覚がそれを押しとめた。
(いい度胸だ……クソ野郎め)
心の中で口汚く罵った。店内の奥と入り口、そして窓際に二人――フラタニティがいた。
隠れているつもりか、その視線はしっかりと感じ取れた。今回の作戦の仕返しだろう。
息を静かに吐き、ホルスターの留めを悟られないように外す。
店を出ようとしていたが、踵を返しレジの店主に向き合う。
「買い忘れかい?」
「いや、この店保険は言ってる?」
「? ああ一応は入ってるよ」
「そうか。なら良かった」
普通の会話を装い、店内を見回した。
大きな一枚のガラスに本棚を沿わせて、一定感覚で商品だなが並んでいる。奥には飲み物の棚、入り口には印刷機が鎮座している。平凡なコンビニエンスストアだ。
窓ガラスを割れば、風が入り込む。外気圧と室内気圧が違いあれを割れば
「伏せてな」
屈み込むように体を回し後ろを向く。その最中にショルダーホルスターより拳銃を抜く。
その動きにフラタニティたちは一斉に動いた。アイナと同じように拳銃を抜くが、
バン、ババババンと発砲音が落雷のような轟音に響き、窓ガラスが割れると同時に四発の弾丸が吹き込む風に乗り、敵の後頭部、こめかみを刺し貫いた。
一瞬だけ戦場に変わった店内に静寂が訪れる。
紫煙を吐きながら立ち上がる。
ガチャリと危なっかしい音が後ろより聞えた。
「おいおい、そいつを向けるのは俺じゃねえよ」
「うるせえ。俺の店を戦場にしやがって。ふざけんじゃねえ!」
振り返ると店主がアイナの頭にショットガンを構えて怒りの表情を浮かべていた。
「あんたを護ったんだよ。その物騒なの下ろしてくれ」
「黙れ! てめえが銃を下ろすまでこっちも下ろせれるか」
「ッチ」
仕方が無かった。引き金より指をゆっくりと抜く、グリップより手を放した。
銃が重力に従い床へと落ちた。
急に左肩から熱いものが体の中を通り抜けた。対面にいた店主の額に2センチほどの穴が開いた途端後ろの壁に真っ赤な花が咲き誇った。
後より肩をバットでフルスイングされたような衝撃がアイナの体を叩き付けた。
「あガ、あ、ぁああアアアアアアアアアアッ!」
衝撃にアイナの体が耐えられず、倒れ込んだ。
肩から脳に一瞬にして痛みと言う信号が発せられ脳がそれを全身に訴えた。
熱くも寒くもない。とにかく痛い。激痛が全身を刺し回り叫びあげてしまう。
この痛みは知らない。今まで受けた事のない痛みだった。
意識が途切れそうになる。どこからこの痛みが訪れた。痛みで点滅を繰り返す意識の中で背後に頭を回しそれを見た。
真っ暗な夜の中で黒色のスーツを身に纏った男が割れた窓より入ってくる。スーツの上に羽織ったモッズコートはアイナの肩に着く同じワッペンが刺繍されている。
盾に金色の六芒星。それは――解体された筈の大陸防衛警備機構の腕章であった。
「どうしたアイナ。虫の息じゃねえか」
「あ、……ああ、あああ」
悪夢が其処に佇んでいた。
過去の仲間、死んだ筈の仲間、私が撃ち殺した仲間。
「……フラン……シス」
「……ニッ……イぃ……」
顔を引きつらせるように頬を吊り上げ笑ったフランシス。
彼は足を振り上げる。次の瞬間アイナの意識は暗黒に落ちた。
次回ついにHシーンを投稿します
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