「明日葉ッ! 芦名を押さえろ!」
声を張り上げアイナは、明日葉に指示を飛ばしながらオライオンと交戦した。
情報軍との戦闘はやり難いにも程がある。
いくらアイナが大陸防衛警備機構『
こっちは
お世辞にも健闘が出来るものではない。これが殲滅戦なら勝ち目はゼロに近かっただろう。
しかし今回は
サブマシンガンの弾幕を潜り抜け、発射地点に接近する。
二発弾丸を叩きこむが聞こえる音は
ガシャンッ! と音を立てて落下する機械。
ありの背中にサブマシンが取り付けられた無人戦闘ドローン『ドローン・アント』だった。
魔界技術と米連の科学力で生み出した小型戦闘ドローンの一つで、ドローンシリーズの出来損ない。
機動力もなく、防御性にも優れているわけでもなく、かと言って攻撃性に飛んでいるわけでもない。
米連内では駄作といわれているが、こうした暗闇に隠れた諜報員にはちょうどいい兵器となっている。
単独行動が是とされる諜報員は手の内を知られないために、戦闘行為に陥った場合の人数撹乱を主目的とした戦術でドローン・アントを自動機関銃の代りによく使う。
「残念、外れよ」
タンタン、とコンテナの上を駆ける足音と小馬鹿にするような声が木霊する。
そこへ向けは発砲するが、そこにはいない。
絶えず動き回りアイナを疲弊させる魂胆なのは目に見えていた。
コンテナの角に身を隠し、辺りを見渡す。
しかしそんな暇もオライオンは与える気はなく、綺麗に区画整理されたコンテナの通路より新たなドローン・アントが姿を現しアイナに向け撃ってきた。
「ファックッ!! 小慣れた戦術だなクソ野郎!」
それもそうだろう。
数多くの
その憂き目に遭わなかったアイナだったが、今そのツケが回ってきている。
コンテナの通路を走っていては何時ドローンの餌食になってもおかしくはない。
コンテナの一つを蹴り上げその上に腕を突き上る。オライオンのように自在にヒョイヒョイとジャンプ一つで上れる高さではない。
あいつは
アイナも幾らナノ食品の恩恵を授かっていようと垂直跳びで三メートル近くあるコンテナを飛び越えることは不可能だ。
「クソッタレ……最新装備の温室育ちがッ!!」
悪態を付きながらコンテナの上に這い上がったアイナは辺りを見回した。
R・M・Aは環境順応迷彩がある。ただ姿を探そうとしてもどうやっても見つからない。
HIDランプの光条を吸収し背景と同化するその性能はピカイチだ。だが、こいつの環境順応迷彩にも弱点は存在する。
R・M・Aが周囲の背景を表面に投射しているだけであり、熱光学迷彩のように使用者の発する熱を遮断し、光反射を素通りさせるなんて芸当は出来ない。
要はカメレオンだ。自身の影だけは確りと地面に映し出される。
もともと屋内での使用目的であるために、こうしたコンテナの上のような開けた場所では少し捜しづらいくらいだ。
薄暗がりで影は捕らえられないと考えているのだろうが、生憎タカマガハラでの世情は俺の方がよく知っている。
コンテナ街に突如として明かりが灯った。
サーチライトの光、簡易街灯の光、周回偵察ドローン光。すべてが一斉に同時に輝き始めた。
イーグル&サンクチュアリの警備措置だった。日の変わり目に付くように設定されている。
設定はされているが、窃盗犯がいたとしても本社には連絡は絶対に行く事はない。
何故ならここは左遷組みのいい横領場。本社が介入すれば備品の帳尻が合わなくなり監査が入るからだ。
意地汚い人間しかここにはいない。ここにいる人間は根性が腐りきっている為に通報しない。備品が消えようと、人が死のうと、銃撃戦が行われようと。
それをよく知っているからこうして派手に立ち回っていられる。
「今度は鬼ごっこかよ。遊びもほどほどにしやがれッ!!」
コンテナとコンテナの通路の隙間を飛び越えて、獲物をオライオンへと向けた。
応戦するようにサブマシンガンを乱射してくるがその狙いは無茶苦茶。世辞にも狙い定めたモノではなくただ単に近寄ってほしくないといった銃撃だった。
狙いは分かっている。
オライオンは芦名をなんとしても確保しようとしているのだ。
元々は
想定外の事態だ。オライオンはアイナを引き付け、もう一人が芦名を確保。
そしてそのもう一人といま合流しようとしているのだ。
明日葉も十二分に
この動きを見る限り、間違いなくやられた可能性が高い。
二対一はさすがのアイナでも惨敗確定だ。
脚を速め、回り込むようにオライオンとの位置を測る。
この先にオライオンでも飛び越えることが不可能な距離のコンテナの切れ目がある。
そこがこの戦闘を終わらせる場所だ。
オライオンは逃亡の一択でその事を理解していなかった。
そのコンテナの切れ目を認識したオライオンはコンテナから飛び降りた。
アイナも後に続くが、オライオンのように飛び降りはしない。
銃より古い
落下地点は地面ではない。──街灯だ。
簡易街灯を足場に更に飛翔。オライオンが飛び降りた通路を俯瞰する位置に到着したアイナは素早く眼帯を外した。
──18m/s・left Wind──
脳に簡潔に叩きこまれる空間情報の感覚。
眼球内に表示される文章は補助機能に過ぎず、その情報は「読む」や「聞く」よりももっと直感的に『感覚』できる。
空中で体をきりもみさせ、銃全体に遠心力を与える。
腕を伸ばし、タイミングを計りそして理解する。
──trick・trajectory──
引き金を絞り、腕に携えた牙は火を放った。
紅蓮の火の粉を吐き出す牙より飛び出る四発の礫は通路に流れる空気の流れに乗り、その弾道を歪曲させる。
通路を舐めるように、翔ける弾丸は街灯に照らさせた透明の影へと向い、その鋼鉄の先端を叩きこんだ。
「……ガッ」
僅かに聞こえた小さな悲鳴。
R・M・Aを貫けないにしても、無力化の方法はある。
形状を変化させ衝撃を全体に逃がす構造をしているために、強力な局所的な攻撃にはその形状変化で使用者を傷つける可能性もある。
だが、そんな攻撃など
だがアイナはオライオンの
対サイボーグ弾を使うことを視野に入れた構造をしているアイナの銃は、口径の違いは然して問題ではない。
大きい分にはどういった弾丸でも撃てるように設計された
「お前に俺の相手をするには実力が足りねえよ。あのチンピラは諦めな」
倒れこみ、地面を舐めるオライオンに銃口を向けながら近づく。
咳き込みこちらを向くオライオンの表情は歓喜し、甘く蕩けていた。
まるでこの状況がセックスの真っ最中であるかのような、崩れただらしのない表情だった。
艶かしく体を揺らし、隙あらば股座に手を持っていきそうな雰囲気すらあった。
「狂ってんのか?」
「ええ……はぁ、んン。とうの昔にね。そういった貴方は……どうなの? こんなに高ぶる
痺れを切らせ撃ってしまう。
オライオンの顔のすぐ横を撃ちぬき、細かなコンクリ片が飛び散った。
その衝撃と轟音に目を見開いたオライオンの顔が次の瞬間には白目を向き、股座より盛大に潮を吹き散らした。
「話にならねえな。社に戻ってレットスターに報告してな」
背を向け歩き出したアイナに不意にオライオンは吐露した。
「残念ね。この任務、雇用主はアーデルハルト・レットスターではないのよ」
その言葉の連なりに寒気を覚え、振り返り銃を構えなおす。
しかし、そこにはすでにオライオンは居らず。いたであろう痕跡、あいつの潮の痕だけがあった。
どういう意味だ? イーオ・オライオンの雇用主がアーデルハルト・レットスターではない? 。
初めてフランシスを
厳密に言えばE&Sだが人事局はアーデルハルトの牙城であり彼女が採用すれば彼女の所有物ということになる。
だが、いまの雇用主が違うのならば──何のためにフラタニティを追っている? 。
嫌な予感が心の奥底でざわつく。あの時と同じ感覚だ。
明日葉の
小走りが徐々に全力で走り辿り着いた。明日葉のいる場所に。
「馬鹿野郎、無茶しやがって」
「忝い……」
肩から血を流していた明日葉はその場に座り込んで動こうとしなかった。
いや、厳密に言えば動こうとしないのではない、動けない。何せ膝より下が無いのだから。
「移植ドナーには困らねえな
「ええ。──肩を貸していただけますか?」
私は明日葉を背負い、フラタニティ専用の
都市間横断道路を走る黒塗りのキャデラックに搭乗しているのはたったの二人。
かなりの改造を施した装甲車にも劣らないこの車輌は
3.5インチの防弾ガラス、空気除染装置や簡易的な設備、果てには車体前部にはM134ミニガンを搭載し、アメリカ大統領の乗る大統領専用車両と引けをとらない装備だった。
ソラー・テイラーは絶対安全を体現したこの車輌の中でどこかイラついた様子で外を眺めていた。
武器管理局の総務であり、温厚で思慮深い事で社内でも人望が篤い人物がなぜこのようにイラついているのか。
運転手はまるで理解できなかった。しかしそれも致し方ない事でイラついている原因はソラーの口からは一度たりとも社内の人間には話していないから分からないのも当然であった。
「ん? なぜ減速する?」
「すいません。総務。検問が」
都市間道路を降りる先に設置されていた検問。
数人の武装警備員がおり、停車を求め指示器を振っていた。
ゆっくりと速度を落とし停車し、運転手は窓を開けた。
夜間にも拘らず黒レンズの
「
「
「スキャナーがまだ納品されていないんだ。
不要な問答だ。
検問スキャナーがあればノーチェックで通過できるはずなのだが、ここ最近のタカマガハラでの発砲事件の件数から治安局の検問増設はありえなくも無い。
予算のやりくりもせず、無理やり増設しこういった手間だけが増える。
ソラーは運転手に頷き後部座席の窓を開けさせた。
奥に控えている警備員が徐に近づき、防弾ウェストの前面に下げた拳銃を抜き、ドアのロックを撃ち抜いた。
あまりにも自然な動作で、発砲の瞬間まで身構える事もできなかった。
パン、っと銃声がなり運転手の頭部が炸裂した。
荒々しく乗り込んでくる警備員。
手に持つ拳銃は、E&S社の採用拳銃よりも大口径で立ち上る煙は昔ながらの無煙火薬の香りが漂っていた。
ヘルメットを無造作に脱ぎ捨て、素顔を露にした。
「貴様……ッ!!」
「ハロー、ミスタ・ソラー。ご同行願おうか」
フランシスは凶悪な笑顔を浮かべ、その手に握る銃をソラーの額に押し付けた。
新作のアスタロトタペストリー、アイナ抱き枕カバー、ほちい。
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