アイナーーッ!!
面会用のカフェの裏にある公園にふうまとニコラスは移動していた。
囚人を野外に出すとはどういうことだと思うが、監視管理は十分すぎるほどしっかりしている。
両肘、両膝の隙間に埋め込まれた発信機。首筋には代謝可能な電解質マイクロマシンが埋め込まれこれらを取り除こうとすれば肉を抉り取らなければならず、全身不随になってしまう。
発信機の有効範囲は半径十メートルで不安であるが、そこは土地柄として無用な心配だ。
都市部は治安警備ドローンが常時8500機も飛び回りマイクロマシンの電波を広い、尚且つ街灯スキャナー、店頭の社会保障IDリーダーで地上のどこにいようと居場所は分かり、逃亡すれば警察の搭乗飛行用の攻撃ドローンが飛来する。
囚人が逃げるなら未来永劫地下暮しか、誰も寄り付かない自動化された農村部しかない。
結果として囚人は逃亡不可能で、暴動しか自由の手立てがない。
といっても、ニコラスたちのような元は軍人であり暴動を起こせば州軍が万全の装備で囚人を銃殺することを知っている。大人しくするしか道はない。
「ふうま、小太郎って読むのか? この文字は」
渡した名刺を読み上げるニコラスは聞いてくる。
「ああ、そうだ」
「素直に名乗る忍者ってのも新鮮だな。スパイみたいな立場なんだろ、対魔忍ってのは」
「俺は抜け忍だ。抜け忍ってのは君主を裏切った忍者、この場合は国を裏切った者になる」
「同じ境遇の混り者同士ってことか。……それで、その同士がなんでフランシスの経歴が知りたい」
名刺を握りつぶしたニコラスはどこからか取り出したタバコに火を点した。
屈んだ姿勢で膝に肘を突いてタバコを吸う姿はフランシスの姿と瓜二つだった。顔も姿も違うはずなのだが、雰囲気が似ていると何故だか姿形も似てくる。
今世界各地で
「フランシスが如何して同門同士で殺しあっているんだ」
「同門? ……ああ、
「そうだ。極東の廃棄都市でテロリストを装い、アイナ・ウィンチェスターという女ガンマンを囲っている」
ニコラスはタバコを口からはずし、熟考した様子で灰を落とした。
「……どういった理由で囲っているんだ」
「わからない。だが、あの女がどうしても必要なようだ。あの女でなければならにことのようだ」
「…………」
タバコの煙を肺一杯に吸い込んだニコラスは大量の煙を含みこむようにして、鼻から煙を出した。
「俺にもわからないな。どういう理由であれフランシスは俺と同じだ。息子同然に育ててきた、その俺が分からないならもう誰も分からなねえよ」
ふうまの求めている答えは得られそうに無かった。
なぜあの男が他かだか一人の女に固執するのか、外面だけであればすでに双方の力の差は歴然だ。
筋肉量、奮起、技量──すべてに置いてあの女ガンマン、アイナ・ウィンチェスターの上を行く。
ならばほかの目的か? あの女を情婦として近くに置くことがフランシスの心の均等を保つ役割を持っているということか? 。
左手で口元を撫でながら考えに耽るふうまにニコラスは新しいタバコに火を灯し話し出した。
「フランシスとアイナ。あの二人は俺が銃を教えたガキ共の中で一番出来が良かった二人だ。固執があるとすれば原因は俺だ」
「ほう、何をしたんだ」
ふうまの問いにニコラスは何の躊躇いもなく言い放った。
「殺し合わせた。枝の選定と同じようにより太い幹を育てるためにな」
「それで、フランシスは敗れたと」
「ああ、──だが、フランシスはそこから更なる進化を得たんだ」
ニコラスは語りだした。
フランシスが
米連の最大矛とまで呼ばれた軍狼集団『大陸防衛機構・
アイナとフランシスの選定で、フランシスはアイナに敗北した。
敗因は幾つもあっただろう。肩甲骨の負傷も向精神薬の投与量もあるが、一番の敗因はサードアイの適合率がアイナより劣っていたことだろう。
あいつは両肩をお釈迦になった状態で、俺たちの前から姿を消した。
治療の当てはないはずだった。米連に属す正規非正規、表裏の医者どもに掛かれば間違いなく俺の耳には入ってくるはずだったがそういった話は一切聞かなかった。
国外に向かったのはすぐに分かった。何せその年の夏に『台湾危機』の続きで燻っていた紛争の芽がまた芽吹いた年で
フランシスにとっては持って来いで、派兵の契約金は肩甲骨移植したとしてもつりがくる金額だった。
米連にとって台湾は中華連合をアジアに押さえ込むために絶対必要な土地だった。
俺の知るPMCの殆どはその紛争をいい稼ぎ場と踏んで無尽蔵に大量破壊兵器を投入し続けていた。
戦車、戦闘機、クラスター爆弾に燃料気化爆弾。とにかく辺り一帯を破壊できる兵器と、それを扱いきれる傭兵たちが求められた。
事後の台湾復興でガッポリ稼ごうとする姿勢がはっきりと分かった。
俺が一番嫌いな戦い方だった。敵だけをぶっ殺せばいいのに、市民の生活も諸共吹き飛ばすやり方の戦闘行動だった。
米連国内では的確なメディア操作を行い、どれだけ台湾市民を助けたかを報道していたが街の損害を見れば俺たちのような稼業の奴らは理解出来ただろう。
実際、その時の俺は台湾紛争の情報には興味がなくどれだけ
アイナをに各州を回らせスラムのガキどもに教えるように言いつけていたが、スラムのガキは殆どがギャング絡みの抗争で死んだという。
俺は各州軍基地を回って教え回ったが、二人ほどの輝きを持つ使い手は両手の指ほどもいなかった。
望み描いた『次世代対魔戦闘転換構想』などよりも、より手早いサイボーグ化が米連軍部では推し進められていた。そのサイボーグ化の技術をもたらしたのが魔界技術とも知らずにな。
俺は軍部の能天気さに頭を抱えていた時、ある時から興味の薄かった台湾紛争関連のおかしな
──台湾の武装戦災孤児はリベリオンだ──
最初は
二挺の拳銃を繰りながら、戦場を駆け回る戦災孤児たちがいると次第に米連軍部でも噂が流れ始め、その技がまさに俺が作り出した
もうここまでくれば話の筋は分かってくる。
フランシスだった。
アイツは台湾に渡り親のいない戦災孤児を武装させ
チャイニーズのガキたちが全員チョウ・ユンファに様変わりした戦場などぞっとしない。
俺はそれを理解したときにはすでに台湾行きの輸送機に乗り込んでいた。
楽しい楽しい台湾食道楽の旅だ。
国際飛行場に設営された米連軍の後方基地。その基地内にいる兵士の割合は正規兵二割、残りの八割が傭兵といった具合だ。
米連は自国民を他国で死なせることを嫌う傾向が強い。
だからこうして米連諸国であったとしても、属国扱いの国のPMCより傭兵をかき集めている。
正規兵の殆どは
輸送機から降りた俺は肺一杯に台湾の空気を吸い込んだ。
「スー……。ただいま、地獄」
脳裏に焼きついた露帝のEU侵攻作戦の最中の光景。その光景は未だに鮮明に思い出せた。
モンスターの伝承が数多くあるヨーロッパは魔界技術の宝庫といっていい。
まだまだ糞ガキだった俺が小銃の銃口をおしゃぶりみたいに舐めていた戦場で、戦友の断末魔の聖歌が脳味噌にこびり付いて離れない。
手榴弾で片腕が肘から下をなくして探し回るカイル、弾丸が脇腹はいり臍から抜けて腸をぶちまけて母親の名前を泣き叫びながら呼ぶクラリス、ビルの中で俺の目の前で狙撃され頭を木っ端微塵にされたグース。
俺の部隊はみんな死体の原型は人の形を止めていなかった。そこから『あの師匠』に拾われ俺は
今ではただの
育ちのいい米連のPMCとは違い、属国のPMCはお行儀の良い傭兵たちではない。
基地出入りのゲートが徐々に騒がしくなり、詰所からもパン一の傭兵が飛び出してきている。
荷物なんてもともと持っていないような装備。拳銃二挺に予備のマガジン四つ。十分だ。
ゲートへと向かい走り出していた。
「どこで戦闘が起こってんだ!」
「北東一キロの住宅街だとよ! 急げ、急げ!」
傭兵たちの狂騒は次第に一つのコールとなっていた。
『
後方の基地は比較的温和な連中が集まりがちで。僅かな平和を満喫しようとタバコを吹かしたり、女を買ってバカンス気分のはずだが、どうにも長期間の後方待機が続き鬱憤が溜まっていたようだ。
自らの銃を担ぎ戦場に掛けだす傭兵の姿はさながら夏休みの小学生のそれに姿をダブらせしまう。
「オーライ、ビック・ファイ……ビックファイ……」
ゆらりゆらりと戦場に向かい足を進める俺はこの戦場の雰囲気に酔っていた。
統率も何もない。戦いたがりの吹き溜まりそれが、戦線が崩れ敗走した見るに耐えない敗残兵の姿と差ほど変わりはないのだ。
過去の心象に浸りながら俺は戦闘地域に足を踏み入れた。
そこは確かにデカイ戦いが行われていた。中連の兵士たちがゲリラ戦の様相を呈しながら傭兵たちを撃ち殺していた。
装備といえば古き良きカラシニコフのAK-47。耐久性だけが取り柄の銃を使っていた。
今時にあの銃を使う輩は金のない連中か、
「イエローモンガーだッ!」
傭兵の誰かが叫んだ。
別に差別語ではない。その言葉が最適だっただけだ。
黄色の腕章を着けた中連の融魔戦闘部隊だ。魔界技術で作られた運動アシストスキンウェア、尻の尾てい骨辺りから伸びた一本のサポートマニピュレーターがまさにサルの尻尾を思わせ、あちこち弾痕まみれの外壁に捕まりサルと呼ばれても致し方ない。
平面の戦闘を得意とする傭兵に立体戦闘は不利だ。米連のいつも通りの物量戦闘では埋まらない物があるのだ。
壁に張り付き、跳ね回り、地上に降りればハルク並の筋力がスキンウェアで発揮可能なイエローモンガーは通常兵装の連中では手も足も出ないだろう。
「退けッ!」
地面に降りている黄色猿の脇を抜け、ホルスターの留めをはずした。
一人飛び出した俺は得物であるデザートイーグル二挺を両手に持ち、銃口を躍らせた。
敵の数は目視できるだけで五人。全員がモンガーテールパックとアシストウェアを装備。
モンガーテールはさほど問題ではない。問題はアシストウェア、あれに防弾性能でこの勝負の駆け引きが決まる。
あると考え、心臓と顎下から脳を狙う二発。
俺のタイプのデザートイーグルは装弾数八発。二挺合わせて六発のお釣がくる。
「────ッシ」
短い息を吐き、硬い糞をひるみたいに腹に力を込めた。
瞬時に眼前に広がる風速予測アシストと動体予測アシストが表示されるが、それを読みきるよりも前に理解する。
息をするのに肺を動かす命令を考えるか? 歩くのに足の筋肉からバランスを取りながら動くように命令を考えるか? 。
ノー。こいつの金色の目に映るアシストはそれとさして変わりはない。
地面を蹴り上げバク天、敵陣に躍り出た。敵の銃撃が俺のいた位置を蜂の巣にする。遅い。
足を付ける前に狙いを定める。二体の心臓に狙いを定めて、着地と同時にファイヤ。
耳を劈く鷹の咆哮が銃弾を授けた。前方二人の胸部に着弾しその衝撃に耐えられずモンキーたちは壁より落ちた。しかし死んでいない、やはり防弾機能があった。
前転する要領でその場でバク宙、背後の二人の心臓に向かい発砲。
地面に降りていた一人は衝撃に踏み止まったが、壁に張り付いていた奴はさっきのやつ等みたいに落ちていた。
前に向きなおすと同時にカラテの『山突き』のような形で、壁にまだ張り付いているサルの心臓を打ち抜き、地面に落ちた一匹の頭をぶち抜いた。
左手を右脇の下に潜らせ、背後にいる一人と、前方の一人の脳を撃ち抜く。
その場でターンを決めるように立ち上がり両腕を広げ、残りのサルの脳を撃ち砕いた。
「一丁あがり……」
傭兵たちは呆気に取られている様子であった。
あれだけ苦労していたのにたった一人が一分も掛からないうちに全滅させたんだ。当然の反応だ。
イエローモンガーの死体を担ぎ上げる傭兵たち、その死体を道の端に寄せる。
直立自走戦車や命令での正式な進攻をする際に邪魔になるからだ。
あれだけ興奮しとち狂った連中が俺を避けるように作業をしていた。それが普通の反応だ、こんなおかしなことが出来る奴は大概が魔族と混じった連中だ。
混じり者には関わるな、触らぬ神にたたりなしだ。
「混じり気は、……あるか」
左瞼を摩り苦笑いを浮かべた俺はイエローモンガーの認識IDを取ろうと、IDリーダーを取り出し読み取ろうとしたときその死体の異変に気づいた。
一匹の頭の割れ方がおかしい──明らかに俺のはなった弾丸の痕跡と懸け離れた炸裂の仕方をしていた。
サルたちに弾丸を叩きこんだ方向は前方であり、後頭部が外の方向へ星の形に捲れ上がる筈なのだが……。
「脱出跡がぐちゃぐちゃだな……ショットガンか? にしても突入箇所が側頭部とはどういうことだ?」
左右は窓のない建物が塞ぎ、屋上には人はいないことが事前に分かっている。
そんな状況でどうこのバックショットの散弾がこいつの頭を吹き飛ばした。
さて、ではこの散弾はどこから飛来した。
炸裂した頭部に腕を突っ込み弾丸を引っ張り出す。
「分かりやすい。痕跡だな……さて、っと」
散弾なんて戦場では滅多ことがない限り使用しない。しかもこの散弾の弾は古き良き鉛製の弾だ。
こんな骨董品を製造する場所も、仕入れる所は数少ない。
足取りは思いのほか簡単に見つかりそうだ。
仕入先を洗い出し、向かった先は台湾の地下街。
地下開発に力を注ぎ、沖縄からフィリピンへと繋ぐ海底鉄道の開発が進められていた。
無論そういった事には中連は反対派であり、幾度となく開発妨害の破壊工作が起こっていた。
台湾政府はそういった面から銃火器を輸入し、地下警備へと回していた。
そしてこの地下街にショットガンの弾薬を仕入れている場所があり俺が追うフランシスがいる。
静まり返った地下街に足音だけが木霊し、不気味なほど良く響いていた。
それなのに信じられないほど濃厚な殺意が俺に注がれていた。
「ギラついてやがんな。いいことだ」
デザートイーグルを抜き、耳に残る特徴的なマガジンと噛み合う音を鳴らし弾丸を装填する。
その音が連中の闘争本能を刺激する引き金となった。
建設途中で放置されていた足場の骨組みから二人飛び降りてきた。
防塵マスクと偏光サングラスで顔を隠し、このクソ暑い中で袖の長いボロの外套を着て突っ込んでくる。
身を低く、地面を四本の足で駆けるような姿勢は死んだクレイグの獣性を思い出さした。
片脚を引き半身に構えた俺は一人にデザートイーグルを向ける。
その瞬間そいつは僅かにだが立ち止まり、片腕を地面に向け発砲した。
爆音と大量の土煙と石綿の噴煙が立ち込め雲隠れ。奴ら得物を袖で隠している。
「対策をさせないためか……」
もう一人に銃を向けると、そいつは迎え撃ってきた。
両腕を突き出し、銃口の前に垂れた袖など気にせず連射。
両目のサードアイを煌かせ発砲された弾丸を瞬時に理解する。パラベラム弾、大戦前の未使用品だろうガンパウダーの劣化が見られた。
避けるのは容易、しかしこいつより厄介な──ショットガン野郎がいる。
耳の横で風船が炸裂したみたいな大音量のショットガンの爆裂音。石綿の噴煙を突き破り六個の弾丸が飛来する。
膝を折り、マトリックスの弾丸避けみたいに避ける。
背中から倒れるなんて自殺行為だが俺は大丈夫だ。背骨が異様な音を立てて軋み、スプリングが弾け飛ぶみたいに体が跳ね上がる。
体を丸め、両腕のデザートイーグルを二人に構えて撃った。
銃声は冗談みたいな音量となり耳を劈いた。
二人は左右別々の方向へ弾丸を避ける──勝機だが見えた。
避けた二人の間に入り込むように駆け込み、二人を隔てる。
超至近距離での攻防戦。こう持ち込んだなら余裕過ぎる戦いに様変わりだ。
ショットガンは銃身の長さからこうした接近戦では取り回しが利かない。
もう一人は恐らくUZIを使用しているのだろう。しかし俺を挟んだ先には仲間がいる。
双方、下手な発砲は出来ない。
ショットガンを蹴り上げ腹に蹴りを入れ跪かせる。肘でUZIを打ち払いその勢いを生かしたまま顎に回し蹴りを入れノックアウト。
一人は気絶し伸び、もう一人は腹を抑えてゲロっていた。
「えらく慣れた動きしてんだなあ。どこで習った僕ちゃん?」
ショットガン野郎を掴み上げ防塵マスクと偏光サングラスを毟り取った。
驚いたことに、こいつらは本当にガキだった。体格はいいが、見たところハイスクールに入ってもいない位か。
とにかくこいつ等は幼すぎた。
「あんたが
「久しぶりじゃねえが。ええ? 育ての親を見捨てるなんて偉く親不孝になったもんだなあ」
これが俺とフランシスの数年ぶりの再会だった。
アイナの花嫁抱き枕すっごくエッチ。
ドラマCDと合わせると四倍増しでオニャンニャン立ち上がっちゃう。
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。