確かに海外受けしそうな忍者、ファンタジー生物、サイバーパンクと受けそうな要素を確保しているが……
でも、なんだかなぁ?
「日本人は大変律儀だな。あの程度の世間話、聞き流せばいいものを」
「人員を要求したのは貴女でしょう。全く……」
E&S社人事局オフィスで脱帽していたノエルは、デスクの前でため息をついた山本の顔を鼻で笑うような表情を浮かべた。
外見年齢的に祖父と孫娘くらいの差異があるが、実年齢では十も離れてはいない。
「実働可能な人員を、できうる限りの腕利きを揃えて見ましたが」
「ほう……データを」
山本は後ろで組んだ手を解き、片手を横に軽く手刀を切るような仕草をする。
掌を向け、空のモノを受け取る仕草をしたノエルはナノ色彩素子ディスプレイのデスクに資料を広げた。
最新技術を常に取り込み続ける米連企業ならではの光景だろう。
紙メディアは最重要指定物にしか使用されず、部署間や他国とのやり取りであっても電子メディアと取って代わっている。
今のやり取りだって山本が所持していたスマートタブレット内の情報を、入口セキュリティーが一分と掛らず手首に装着している伸縮可変性のあるサクストデバイス、
今の仕草のやり取りもまさにその『感覚的手触り』のある情報のやり取りだった。
個人間でのやり取りは正門ゲートのセキュリティーパスでナノマシン注入のサポートでよって思考レベルでの個々人間での相互認識を識別、送信側の誤送信や受取側の誤受信を防ぎ、尚且つやり取りするデータはE&S社の電算局が保有する十五億六千八百六にも及ぶ暗号化方式を採用し、その暗号方式も一日事に米連の保有する五十台の量子コンピュータが新たな暗号化方式を適用する。
実質的に解読は不可能であり、それが可能なのはE&S社備品局が認証したサクストデバイスだけである。
山本の渡した感覚的手触りのある電子情報を受け取ったノエルはデスクに広がる資料に目を通す。
「えらく若いな。五車学園在学中? 学生を国家間の重要事項に参加させるのか? 日本政府は」
「我々、
「半人前、二人合わせて一人前か?」
「人間の実力は単純な計算では成り立ちません。──懸念はご尤もですが、その二人は私が人選した人員の中で一人前以上の実力を持っているものと考えます」
懐疑的な視線だったノエルだが、確証はある。
山本は根っからの政治家タイプの人間だ。人間を騙すタイミングは弁えている。
タカマガハラの崩壊は日本国危急の危機に直結している。出し惜しむ余裕はない。
日本の持ちえる最大武力の井河アサギ、さくら、八津紫の実践投入が不可能では、それに相当する実力を持つ
資料内の経緯、家系、能力のそれに目を通す。
「この二人、実力のほどは?」
「折り紙つきです、信用に足ります。会いますか?」
「第45会議室に召集しろ。こちらも二人ほど人間を集めてきている、
宙で指を躍らせ、ノエルがヴィクトリア・ザハロフ経由で呼び寄せた人員二人に移動を命じた。
席を立ち、E&S社37階の第45会議室に向かう。山本もそれに続きついてくる。
エレベーターに乗り込み移動の最中、ノエルはカマをかけた。
「あの二人がお前の隠し玉か?」
「ええ。当代、いえ下手をすれば今までにないの才能を持つくノ一と。数百年の月日、魔を殺すことに心血を注ぎその血脈の改良を続けた一族の最高傑作を。──あなたは?」
「現代技術の粋を決した武装を使う正確無比の武力と知力を持つ軍人。冷血非道を極めた生き物を『殺す』ことに特化したシリアルキラーだ」
「双方の隠し玉同士ということですか。あなたは如何にその四人を使う気で?」
その問いに迷いなく即答した。
「フラタニティの壊滅。タカマガハラの守護だ」
「大前提として
「『
「頭が痛くなりますな。エドウィン・ブラックのみならず『
フッ、と鼻笑いをするノエル。
確かに山本の言う通り。この人間界はエドウィンや捕縛体2号などの
目的とする階層に到着し、会議室に向かう。
外部の人間から見ればノーチェックに見える通路だが、そうではない。
天井と床の四隅に配置されたレーザーセンサーでIDスキャンが常時行われている。
人間の目ほど信用ならない物はない。機械は正直だ。物理的、霊的に全てに措いて真実しか映し出せない。
無駄に重厚な扉にIDカードをかざし機械音とともに入室が許可される。
扉の先にはすでに到着していた山本の手下、対魔忍の二人が待機していた。
壁際で律義に起立し、私と山本の顔を見るなり二人は敬礼をした。
私はその反応を歯牙にも掛けず座席に座る。山本は軽く手で合図を飛ばした。
その合図に次ぐさに反応した二人は、敬礼をやめた。
「座れ、ここは軍や政府施設ではない」
「…………」
「では、失礼します」
二人の反応はまさに形式的と表現するのがピッタリだった。
成人もしていないだろうが、ここまで官僚世界の形式に染まっていると気色が悪い。
足を組み、椅子の肘掛けで頬杖をついたノエルは二人を吟味する。
二人とも黒のリクルートスーツ。ラフを推奨するE&Sには無い姿は少々新鮮だ。
男女二人の対魔忍ペア。
男のほうはガッチリとした身体つきで身長は日本人にしては高いだろう。顔つきは精鍛、視線はギラつき何時何時でも戦闘が可能と言っているようだった。
女のほうは何というか冷たい印象を受けた。
黒いスーツとタイトスカートとは対照的な膝に届きそうな真っ白な長髪。
幼げな凛とした
「彼ら二人が私の捻出できる最高戦力です。沙流鳶啓二君と、七瀬舞君です」
「学生の身分でよくぞここまで来てくれた。感謝しよう」
二人は特にと言った返答はなく、黙殺を決めていた。
「レディーファーストといこう。ミス七瀬、君の能力を聞かせてもらおうか?」
「……一口に能力と言っても、どの能力を指すのか判りかねます」
「もっともだ。では具体的に──このタカマガハラに被害を与えず敵の制圧、乃至殲滅の能力はあるか」
「勿論。私はそう言った能力に措いては秀でていると思われます」
「……ふぅん」
まずまずの模範的な回答だ。だが嘘や方便が通用するほど実地は優しくはない。
山本に視線を飛ばした。
「能力の詳細な情報の開示を」
「了解しました」
えらくごつい外装のタブレットを取り出した山本はデータ書類を表示し音声承認を求めてきた。
「日本国憲法第9条に基づき、第175号生、第179号生の秘匿武力の守秘義務に同意しますか?」
「E&S社人事局局長アーデルハルト・レットスターは守秘義務に同意する」
機械音声が同意を確認し第175号生、七瀬舞の
その忍術の内容に少々驚愕してしまう。
「ほう……驚きだ。血中のRD粒子の抽出及び制御……抽出したRD粒子を紙へ塗布し武装化か」
「はい。紙さえあれば私は如何なる武器にもなります。鋭利な刃物にも、強固な盾にも、爆薬にも」
「汎用性は、無限大だな。空港のチェックにも掛らず入手も容易だ。敵には回したくない相手だ」
「賞賛の言葉として受け取っておきます」
ノエルはもう一人の資料に目を通した。
「
「勅旨ですのでお気になさらず」
啓二は静かに答えた。この反応から察するにタカマガハラに召集された理由も理解しているようだ。
井河、甲河、ふうまと並び立つ名門で最も保守的かつ排他的一族として日本のみならず海外からも有名な家系だ。
日本政府に隷属を決めた井河一族。
魔族に一族郎党殲殺され廃家の憂き目にあている甲河。
魔を積極的に取り入れ、他国に公然とその力を売るふうま。
どういう動きであれ『対魔の一族』とはその動向が知れるはずだ。
──しかしながら
動向が一切知られていない。
恐らく日本政府の意向に従い魔を屠っている、そのくらいの情報しかない。
近年でもその家名を輝かせていたのは七年前の、この土地の『
「利家殿の血を引き継いでいるか?」
「自分はまだまだ若輩者。先代ほど──」
「謙遜は今必要とはしていない。当事者に聞いても無駄だな。ジェネラル山本、どうなのだ?」
話を振られた山本は咳ばらいをし、確証を持って言い放った。
「私の目からは十二分に。飛ぶ鳥を落とす勢いとでも言いましょうか」
その言葉だけで十分だった。
あとは問題となりえる相手の能力、
魔を屠るために研鑽された殺しの業。人ならざるモノを殺せるものは最早人にカテゴリーするには無理があった。
生理機能的には人間、運動能力、思考的に人外。双極の力を手に入れたところで敵は中道を征く。
どっちつかずが故に何をしでかすか判らない。判らないが故に厄介だ。
「奴を呼び出すか……」
ノエルは静かに呟き、国際通信回線を開いた。
ピーカンに照り日出る日中。ルイジアナの米連陸軍基地の入口セキュリティーをパスしたアイナは顎に伝う汗をぬぐった。
夏期のルイジアナは湿気が多いい。
亜熱帯気候で仕方がないが、どうにもこの蒸し暑い熱気だけは好きになれそうにない。
じっとりと汗ばみ、胸の谷間が気持ちが悪い。
ニコラスの支持で米連各地の軍基地を回り
いるにはいたが実践となれば
「あっちいな……くそ……」
愚痴っぽくアイナはぼやいた。
ルイジアナ米連陸軍基地は湿原地に建設された基地で、駐屯基地と呼ぶよりどちらかと言えば兵站基地だ。米連の最新装備開発とそのデータ管理サーバ内情報が一度この基地を経由しペンタゴンのサーバに送られる。
何もここで無くともいい、人気もなく、利便性不足。
という輩は多くいた。米連上層部にも勿論いた。しかしここで無くては駄目なのだ。
このルイジアナの
「黒魔術バンザイだ。くそったれ」
ルイジアナは米連のスタンダード宗教のキリスト教が90パーセントだ。しかし残りの数パーセントがこの地を如何なる魔をも退ける聖なる地と作り替えている。
ヴードゥー教だ。
自然崇拝的と言えばいいのか、天使や悪魔といったモノより木や石、それらに宿る『精霊』を崇拝する。
教義といったモノもなく教典もない。あるのは人間の持ちえるアニミズムの直感から来る畏れ。
神と言った上位の存在を崇拝するのではなく、己の取り巻く世界を崇拝する。
故に神や魔の張り込む余地はなく、人間が人間としての世界を形成するのに適した人間の土地として成り立っていた。
超自然発生的超常意識結界──ルイジアナを守る神も魔も退ける識の護りだった。
人間と人間界で人間に存在を許された生物が立ち入ることを許されない地にアイナが赴いた理由は、言わずもがなニコラスからの召集が掛ったのだ。
アイナだけではない。アイナが認めた
この動き、この行動の手際の良さ。達したのだ。
ニコラスが欲した
それらを一か所に集め、軍隊化。
荒唐無稽過ぎたが、すれ違う軍人たちの顔を見れば嘘事と笑い飛ばせないのも確かだった。
「アイナ教官」
「ん? ああ、ナイア軍曹か。お前も召集されたか」
テキサスで教練を行っていた時にある程度の見込みがあり、手取り足取り教えた女軍人だった。
色鮮やかなブロンドが目立つ長身の女性だった。
「教官殿。今回のこの召集、ニコラス・ヒューズという方は一体?」
「俺のお師匠さんだ。なんかしらの悪だくみを考えてんだろうよ」
「悪だくみ、でありますか……」
そんな馬鹿と笑い飛ばしたいのだろうが、周囲の雰囲気、人間たちを見てそうも言えない様子であった。
軍事基地には不釣り合いなほどラフで汚れた格好の連中が目立った。
薄汚れたジーンズやら、ボロのTシャツ、穴の開いた外套を着た奴までいる。
季節感がまるでなく、肌を隠せればそれでいいといった様子だった。
見るからに破落戸だ。銃火器も隠そうとせずほっぽり出している。
拳銃を無造作にズボンに突っ込んだ奴もいれば、大型火器を背に担いだ奴もいる。
少々目を顰めた。下品さもそうだが、銃の種類の多さに。
ハンドガン、ショットガン、サブマシンガン、アサルトライフル、マークスマンライフル、種類が多すぎる。
この基地は半自動化している基地であるために出入りのセキュリティー以外人と会うことはない。即ち此処に居る下品な連中はニコラスに集めれた連中ということになる。
そしてニコラスに集められた連中ということは、
しかしながら
不思議な光景に首をひねりながら歩く。
ドンッ、と体がぶつかる。
前を見ていなかった為の衝突だった。素直な謝罪の言葉が出そうになったがその言葉が出なかった。
ぶつかった相手の顔を見上げた途端に言葉が消え、動きを封じられてしまった。
「教官殿?」
ナイアが不思議そうに私に話しかけるがそれでも言葉が出ない。
ぶつかった相手。長身のガッチリとした身体つきをした男も同じ様子であった。
──一度絡まった運命は互いに引き合いまた絡まりあう。
その男はフランシスだった。
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