※この作品はR-18です。

金瞳の二丁拳銃 アイナ   作:我楽娯兵

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デスストランディングで執筆が相当遅れました。
ごめんなさい。


軍狼

 茹だるような蒸し暑さに支配された空間。旧世代戦闘機を収納した戦闘機格納庫。

 微かに汚れを被っているが何時何時でも出撃は出来そうだった。

 活躍していたはずの空を奪われ燻る姿は、まさに拳銃格闘者(わたしたち)と似た存在だった。

 

「……」

 

 だだっ広い格納庫に無造作に並べられたパイプ椅子に座るアイナは、ただ一点を見ていた。

 その目線には、驚愕と罪悪感と──歓びがあった。

 破落戸を従えるように最前に腰を落ち着かせていた。男の後ろ姿。

 一年前に俺の前から姿を消した戦友、掛けがえのない家族。フランシスの後ろ姿だった。

 今にして思えば当たり前だ。フランシスが両肩の肩甲骨を砕かれたくらいでくたばる玉ではない。

 今にも燃え上がらん復讐心を抱えて斜に構えた態度で罵声を吐く北東部男(ヤンキー)だ。

 堂々と、どっしりと腰を据えたその姿を見れば、この一年でアイナ以上に死線を潜り抜けてきたのは容易に想像が付いた。

 無防備に座っているように見える。腕を組み、顎を前に突き出し見下すような体勢だった。

 しかし右手はしっかりと薄汚れたコートの内側に、ショルダーホルスターに大人しく収まっている銃に伸びていた。

 アイナの前から消える時より、なりを顰めた様に見えるが危険なものに覆いをしただけだ。

 いうなれば、抜身の日本刀(ジャパニーズ・ソード)に布を包んだだけ。いつでもその刃は血を吸える状態にある。

 アイナとぶつかったあの一瞬。

 双方の時間が引き延ばされていた感覚があった。

 何を話すべきなのか、どう声をかけるべきなのか。自問自答の末に二人が導き出した声は不干渉だった。

 俺たちは知り合いだった。だが今は赤の他人だ。

 そうするしかないように思えた。

 フランシスも、アイナも、双方が双方かみ合うことのない棘を自ら生やしていたのだ。

 

「教官殿……あの方がどうかしたので?」

 

 隣に座るナイアが訝し気に聞いてくる。雰囲気から警戒心がにじみ出ていた。

 当たり前だ。今のフランシスの姿は、いや、昔からと言ったほうがあっているが、危険な雰囲気を常に垂れ流している。

 

「昔の知り合いだ。──久しぶりに顔を見たん……だ……」

 

 歯切れの悪い言い方で答えるアイナに首を傾げていた。

 

「あの方がですか……軍属の方なので?」

 

「いや、俺と同じだ……。俺と同じ一匹狼(ローンウルフ)、故障した銃(オートマグ)だ……」

 

「はぁ……」

 

 俺はフランシスの背を見ていることしかできなかった。フランシスに係われるだけの勇気がなかった。

 格納庫に入ってくる二人の人陰を確認した。ニコラスと、上官であろう人物。

 軍属の全員が息を合わせたように起立し、敬礼の態勢をとった。

 対する右前列に固まって座っている傭兵崩れとフランシスは、立ち上がることもせず図太く椅子にケツがくっ付いているとでも言うように座り続けていた。

 軽いハンドサインを出され、着席を促された。

 最前列に立つニコラス。着慣れてない軍服にネクタイが苦しいと言わんばかりに、指を通し襟元を少しでも開こうと悪戦苦闘している様子であった。

 そして隣に立つ女性、女性と形容していいのか。外見年齢が若すぎる。

 幼女といっていいほど若かった。

 パープルのロングヘア―に薄紫の軍服、その上に新調したように小ぎれいなモッズコート。

 赤いネクタイに、少し大きい軍帽を被っていた。

 軍服の襟章は金十字。米連では金十字襟章は、将官相当を意味している。

 ニコラスが口を開いた。おちゃらけ半分の罵声ではなく、固い形式ばった言い方だった。

 

「諸君、こちら南方軍特殊作戦部隊中将閣下だ」

 

 一歩前に出たノエル・ルノアールが幼い声で語りだす。

 

「ノエル・ルノアールだ。お前たちを招集した訳を説明させてもらう」

 

 幼いながらもその言葉は腹の底より冷え込む色を含み、そして確固たる自信のようなものが感じられた。

 

「昨今、魔族による台頭が激しく、米連軍部内でもその対応に頭を抱えていた。そして近年ではエムプーサ殲滅により米連本土の一都市が核で消滅し、そしてそれを差し向けた者がこちらで起業し、人間界に影響力を持ち始めている」

 

 世界史にも残る三度目の実戦投入された熱核爆弾──終末の日の爆心地(グランドゼロ・ラグナロク)。

 そしてを引き起こした男。今や世界有数の多国籍複合企業体『ノマド』の総帥、エドウィン・ブラック。

 

「国連安全保障理事会及び米連陸軍司令部はこの事態を重く受け止め、対策を講じようとした」

 

 そう、対策を講じようとした──だがドブネズミの狡猾さは時にして人間の予想を遥かに上回る。

 

「しかし魔族は一部技術提供と軍事技術提供により各国の国防機関に籍を置くことにより対策を免れた。──それではダメだ。この地は誰もものだ? この星は誰もののか?」

 

 怒りの籠った憎悪の表情がノエルを歪めた。

 

「我々の土地だ。我々人間の土地だ。民族種族の分け隔てなく我々はこの星の環境に適応し土地を奪い取ってきた。子々孫々血涙がこの地を開拓し、我々の住むべき安息の地(カナン)へと作り替えたのだ。その地を易々と異種族のハイエナに明け渡すか──」

 

 小さな手で握りこまれた拳を振り下ろす。

 

「ノーだ。私は奴らの得意げな面にこの拳を叩き込み吐き捨ててやる。おととい来やがれ(ドーント・ユー・エバー・カムヒア・アゲン)」

 

 そうだ。奴らにくれてやる場所はない。

 人間界は俺たちの土地だ。人間以外はお呼びではない。

 

「私は決めた。魔族を完膚なきまでに皆殺しにすると、鏖殺し尽くそうとな。──奴らに慈悲などいらない。徹底した簒奪を、略奪を‼ 奴らの技術を、奴らの血を、奴らの未来を。すべて奪い尽くす‼ 先人に倣え我々はなんだ? 人間だ、そして世界の指導者(ワールドリーダー)のアメリカ人だ。偉大なる米連(ビコム・グレート・アメリカンユニオ)、偉大なる米連(ビコム・グレート・アメリカンユニオ)だ‼ 我々は誰よりも先に、先頭に立つぞ──私は貴様らを歴史に残る対魔族部隊へとするぞ‼」

 

 綺麗ごとのように並びたてられる言葉の数々。

 実際綺麗ごとなのだがその言葉に宿る熱は確かである。

 魔族に対する憎悪。燃え尽きることのない恨みの炎。

 ここに居る全員がとうの昔にうんざりしているのだ。魔族の横柄さに、魔族の尊大さに。

 ここは人間界だ。人間界には人間界の流儀っていうものがある。

 流儀を弁えないクソどもには制裁を。

 アイナもフランシスも、軍人もゴロツキ崩れの傭兵どもも、ノエルの語る『世界の指導者(ワールドリーダー)』主義に感化され始めていた。

 ノエル・ルノアール。米連陸軍に颯爽と現れた大陸出身の軍人。その卓越した指揮能力と状況判断能力は他の追随を許さず南方軍特殊作戦部隊を創り司令まで上り詰める。

 そしてノエルの最も評価されている能力は、指揮能力や状況判断能力ではなく扇動する力。

 他人の思想を己と同一化させる力だった。

 計算された言葉の連なり、芝居がかった演説の仕方。

 まさに天性の──独裁者気質だった。

 ここに居る全員が今まさにノエルの思想と同一化を果たそうとしていた。

 

「先ずは手始め、我々の実力を軍部に示さねばならない。我々がいかに対魔族の力を持っているか、そしてその力を有用に使えるかを示さねばならい。何事もまず『信頼』を得ることからだ」

 

 狂的な笑み、その扇動力は最早病的な効力を持っていた。

 内より込み上げる熱は、殺意を帯び始めていた。

 

 

 

 

 

「ざっけんじゃねぇぞお前ら‼」

 

 対魔部隊ガイダンスを終え、部隊員全員での合同演習を始めたアイナ達であったが。

 アイナは業を煮やし罵声を吐き散らしていた。

 傭兵崩れの一人の胸倉を掴み上げるアイナ。

 

「こちとら一匹狼(ワンマンプレー)じゃねえだよ。団体で動かなきゃならねえだ、独りよがりの行動はいい加減にしろ‼」

 

 胸倉を掴まれている傭兵崩れの少年はアイナの手を荒く払いのけて、唾を吐き捨てる。

 

「悪いな。俺はアンタについて来たんじゃねえ。狼(ロウ)の兄貴とニコラスの叔父について来たんだ。仲良こよしの軍隊ごっこに付き合ってられっか」

 

「なんだと……ッ‼」

 

 頭にまで血が上ているのは百も承知であり、こいつらの年代は反抗の盛りであることはアイナ自身が身をもって知っていた。冷静であらねばならなかったが、火に油を注ぐように少年はつらつらと煽りを加えてくる。

 

「大体なんだ、てめえら正規軍の飯事進行は。先手必勝(ファーストストライク)ばっかり狙いやがって。ゲリラも何も考えちゃいねえ、あのまま進行したら罠に嵌って全滅するのは目に見えてんだよ‼」

 

 声を荒らげて言い放つ少年はふざけた色を一切持っておらず、ただ真剣にこの演習が無価値であるということを的確に射抜いていた。

 アイナが持ち合わせていなかった着眼点。

 今まで通りの、二挺拳銃戦闘術(トゥーハンド・コンバット)の持ち味である先手必勝だけで演習を進めていたのだ。

 こいつの言いたいことは理解できた。

 流動的で不規則的な戦闘行為に措いて、ただ一つの戦術に固執するのは命取りである。

 一匹狼(ローンウルフ)であるならば先手必勝(ファーストストライク)だけを追求すればいいが──アイナ達はすでに一匹狼ではなく、軍狼(ウルフパック)となっている。

 こいつは先手必勝(ファーストストライク)に固執せず、多角的に広い視覚で戦場を見ていた。

 妄信的戦術と懐疑的戦術。どちらが生き残る可能性があるかは火を見るより明らかだ。

 

「…………」

 

 反論に言い返すこともできず、黙るしかなかった。

 鼻を鳴らし、それ見た事かと言わんばかりの少年の態度。

 あまりにもケンカ腰の態度に、アイナの後ろに控えていたアイナを慕い着いて来ていた軍人が前に出ようとしていた。

 片手で制止したアイナ。奥歯を噛み締め悔しさに震えるしかなかった。

 このままではダメだ。このままでは士気がガタガタになる。

 狼の群れではなく烏合の衆へと姿を変えてしまう。

 次の手を、次の策を──そう思考を巡らせている最中、思いがけない助け舟があった。

 ゴツンっ、と骨同士が衝突する痛々しい音が演習場に響いた。

 

「痛ッてぇ‼」

 

 少年の情けない声で現実に引き戻された。

 脳天に拳骨を食らったのか両腕で頭を押さえて蹲る少年。

 その真後ろにいたのは──フランシスだった。

 かなりの力で殴りつけたのか左手を摩りながら少年のケツを軽く蹴り上げた。

 

「生意気垂れるな、聾(ロウ)」

 

「だけどよう狼(ロウ)の兄貴‼ こいつ等のやり方は殺されに行ってるようなもんだ‼」

 

 睨み上げるように聾(ロウ)と呼ばれた少年はフランシスに食って掛かる。

 カチャリと音を立ててフランシスが握る銃からマガジンが滑り落ち、一瞬で薬室に収まる弾丸を排出した。こめかみを銃底で思いっきりどつく。

 ぶっ倒れる聾(ロウ)に甲斐甲斐しい教師のように説明口調でフランシスが言う。

 

「うんなことは知ってんだよ。戦術が拙い事はさっきの演習でこいつら自身がよく分かってる。無知な奴らに現実突きつけるのは酷ってもんだろう?」

 

 煽り半分の言い方に、米連本土方の軍人の眉間には青筋が立っているのが見ずとも分かった。

 殺してくれと言わんばかりの自殺志願者の発言だった。ここにいる軍人全員でタコ殴りにされてもおかしくはなかった。しかしならない。

 フランシスの実力が立ち姿、雰囲気から滲み出ているせいで軍人たちを『諦め』を許さない米連軍精鋭を『諦め』させていた。

 背を見せ、一挺は弾無しなのが理解できる。しかし体の影にもう一挺に立っていた。

 弾丸の排出の手際の良さをワザと見せるようにして聾(ロウ)を銃底でどついたのは、同等のレベルで装填も可能であると固持しているようであった。

 演習の最中も、決して前に出ず、息を殺し静かに獲物に近づき撃ち伏せる。

 その射撃の完成度は──皆が見てわかっていた。

 

 ──こいつには敵わない──

 

 そう直感できるほどの天稟の芸術性が宿っていた。

 正に野生の狼と言って差し支えない。

 野生が故に美しい。無駄なものを一切持たず獲物を駆るために進化した狼の姿。

 フランシスの姿は狼の生き写しのように、獲物を殺すことに無駄がなく美しかった。

 こめかみを押さえながら聾(ロウ)がフランシスを見上げた。

 

「それにお前は自惚れが過ぎるぞ。アイナが言った通り、俺たちはもう一匹狼(ローンウルフ)じゃねぇ。軍狼(ウルフパック)の一軍隊だ。集団行動の出来ねえ奴から死んでいく、中連の人民解放軍相手じゃねぇんだ。敵は今度からもっと純度の高い魔族になってくるぞ」

 

「……うっす」

 

「大体おめえは動きが遅れがちなんだよなぁ」

 

 それに反応したのか顔を真っ赤にして聾(ロウ)が立つ上がった。

 

「そいつは今関係ないでしょう‼」

 

 アイナも米連軍人も感づいていた。

 ティーンエイジャーの見栄っ張りだ、変な見栄のせいでのろま(スラグ)の気取り屋(ピーコック)に成り下がっていた。

 傭兵崩れも、軍人も皆くすりっと笑いっていた。

 この時、アイナは気づいた。

 あれだけ棘ついていた雰囲気が軟化していることに。

 

「演習の続きだ。今度はもっと相互の連携に気を配りやがれ、馬鹿共が」

 

 弾薬庫に一人弾丸を取りに行くフランシス。アイナはその後を追い、意を決して声をかけた。

 

「フランシス‼」

 

 歩調が僅かに緩み、トーンが落ちた声が響いた。

 

「……なんだ」

 

「その……この度、二人で話せないか」

 

 歩みが止まり、僅かな間沈黙が流れた。そしてフランシスが出した答えを言う。

 

「心の準備をさせてくれ」

 

 その言葉にアイナは恐怖を掻き立てられた。

 やはりフランシスはあの後継戦で敗れたことを未だに覚えている。

 ──アイツをダメにした俺を恨んでいる。

 足元が崩れ落ちそうになった。どうすればいい、どう償えばいい。

 何もかも分からなくなりそうだった。

 

「笑ってんじゃねえ蕭(ショウ)‼」

 

 聾(ロウ)の荒げ声に傭兵たちの爆笑が響き、微かに米連軍人からも笑い声が聞こえた。

 その生きのよい声に背を押された気がした。

 

「さっきはすまなかった。助かったよ」

 

 その言葉にフランシスは返答をしなかった。

 しなかったが軽く手を振りって反応を示した。




祝! アクション対魔忍配信!
感想! ちょっと劣化した崩壊3rd、もしくわレベルの上がった魔法少女兵器。
以上!
想像以上の出来栄えに驚きを隠せなかった我楽です。

誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。
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