「今回の演習は俺たちと同じ新設の対魔部隊との合同だ」
炎天下のサウスダコタ州のハーネー山周辺に作られた米連陸軍演習地でアイナ達は新設の装備を身に纏いながら、簡易ブリーフィングを聞いていた。
「仮想敵部隊はオースティンウェルズ社の資金提供を受けているライアット・モルズ陸軍少佐殿の御膝元の部隊だ。最新魔界技術満載の面白チンドン部隊だが侮れねえぞ」
ニコラスは概要資料を
確かに魔界技術を惜しげもなく使い、人員コストを極限までそぎ落とした部隊構成だった。
アイナは人員の少なさに眉を顰め、ニコラスに訊く。
「部隊人数がたったの二人ってどういう事だ」
「最新鋭のドローン・ドックで補っているんだ。総機体数は百機ピッタリ、一個中隊規模でオレ達よりも断然多い」
統一された銃の動作を確認しながらフランシスが答えた。
私と同じ、自動拳銃に回転拳銃のシリンダーを内蔵することで口径の違う弾丸を使用することが可能になる革新的な構造の銃で、設計は何を隠そうニコラスだ。動作の正確性は折り紙付きだ。
自動式シリンダー内蔵拳銃『ガン・ローダー』だ。
「二個分隊規模の俺たちにはこの演習は不利過ぎるな」
「弱音か? フランシス」
「馬鹿言うなよニコラス。唆るじゃねえか」
頬を釣り上げ笑うフランシスの眼光はギラつき、撃鉄をカチカチと鳴らしながら片手の脈をしっかりと計っていた。
不安点は無くしておきたい。アイナは敵部隊の疑問点を聞いた。
「どうやって立った二人でドローンを操作するんだ。無人機操縦士も部隊換算に入るはずだ」
「その二人で操作する筈だ。外部電脳で同時演算をする気でいるんだう」
「それじゃぁ操作に遅延が出る」
フランシスが割って入り、指摘する。
「外部電脳は主流から外れた。今の戦場はドローン操作のすべてを魔界の機器から接収したコアモジュールを流用した大規模無遅延演算が主流だ。その二人が機械化してるなら演算機を搭載して歩き回った方が拠点制圧の危険性を減らせる」
現在の戦場の世情をよく知るフランシスだから言えた情報だった。
積極的に魔界技術を採用している中連の解放軍とのゲリラ戦では敵情報は生死を分ける必須のモノだ。過少でもオーバーな情報でも準備が足りないより、余るくらいの準備が必要だった。
「ドローン・ドックの詳細なスペックは分からないのか」
「企業秘密だそうで、部外秘だ」
舌打ちをし、9ミリホローポイントに、44マグナム弾を4カートリッチ分をコート内側のマガジンポーチ収めていた。
「敵がどのようにドローンを操作するにしても、作戦は予測がつく」
「俺たちの分断、各個撃破か」
アイナの答えに僅かに表情を強張らせるフランシスは軽いジェスチャーで応じる。
「機動力で俺たちはドローンに負けている。
ニコラスは老いを実感しつつ唸り声をあげていた。
「
フランシスはショルダーホルスターに共通装備を収め、そう言った。
「根拠は?」
「犬型に固執しているってことは、機動力はあるが立体戦闘には向かないってことだ、俺たちは幸い
目聡く利口なフランシスだからこそ考え付く戦略。
アイナも、ニコラスですら古い戦術に固執し新しい戦術に辿り着けず相手の土俵に乗ろうとしていた。
正規軍には持ちえない犠牲をいとわない柔軟な発想力。そして
姑息に幼少期を生き抜き、転戦を行った男が導き出した生活の知恵ともいえた戦法だった。
「勝算はあるのか?」
私はフランシスに訊き、その真意を確かめた。
フランシスの心境はどう接すればいいのか、どう返答すればいいのかと迷いが読み取れ、僅かな間をおいて答えた。
「個々人の
住民の激減で経済が回らなくなり軍が接収した街を利用した演習地は、奇妙は生活感を感じさせカウボーイハットを被った奴らが一騎打ちをしそうな雰囲気を感じる
演習指定領域は
到着と同時に演習は開始しアイナ達、
『連中は高機動力を生かした攪乱戦術をとってくるだろう、
フランシスは骨伝導インカムの通信で作戦要項を伝える。妥当な戦略だ。
敵連中が操る
それくらいの速度なら私たち
動力源は魔界由来のモノを使用しているらしく連続稼働時間は無限大に近いと考えていいだろう。
何より厄介なのは奴らは遠隔操作された機械であることだ。
戦場より離れた場所から操縦者が捜査している為に恐怖や緊張と言ったモノとは完全に切り離された
対する俺たちは戦場に生身で立つが故に恐怖や緊張に囚われる。
「ディンゴ隊は西方より密集移動だ! 猟犬と猟犬使いに軍狼の恐ろしさを特と味わわせる!」
慣れない隊長の立場に気が重い、何より体が物理的にも思い。
愚痴っても仕方がない、周囲の音と肌を撫でる風と舌と鼻に感じる臭いを感じた。
全身が研ぎ澄まされる。疾走するアイナ率いるディンゴ隊は女性中心の狼たち、選抜されたのは私、ナイア、
ナイアの実力は私が直接仕込んで疑いようがないが、
フランシスが
不安要素ではあるが、もう戦端は切られたのだ。
「俺たちは
ナイアと
脚の速さ少し飛ばした車より僅かに遅いくらいだが、それでも人間のそれとは懸け離れた速さで私たちは町を駆ける。
砂塵が舞い目に入り、目も開けていられない。眼帯を取りゴーグルを装着してくるべきだった。
そうこう考えている内に、耳に入ってくる風音と共に金属質な足音が混じっていることに気が付いた。
「ドローン確認、総数は十!」
ナイアは的確に言い、拳銃を顔の前に構えて臨戦態勢を取った。
「総員散開、ドローンを搔き回せ!」
新調された銃を構え、鉄製の犬もどきに撃ち込む。
紺色の表面装甲板に着弾する。しかし装甲は貫かれず、凹みが出来るだけだった。
「奴らの装甲、想定よりも厚いぞ!」
『44マグに切り替えろ、9ミリは至近距離ないしゼロ距離の時に使え』
「ファック‼ 簡単に言ってくれるぜ」
ニコラスの指示に軽く悪態をついたアイナは射撃で敵の視線を集め、そいつらは背にピッタリとついてくる。細い路地に入り、ゴミとなった車を足場に廃ビルの二階の窓へと飛び込んだ。
うるさい位のドローンたちの足音がビルの中へと入ってくる。
止まっている暇はない。足を止めず別のビルへと飛び移るため移動する。
壁紙もびりびりに破けむき出しになったコンクリートに伝う振動で、ドローンのある程度の位置がわかる。鼻も頗る利く。
銃のシリンダーに44マグの弾をぶち込み、向かいの部屋の配管へと向けて撃つ。
跳弾に次ぐ跳弾。火花と甲高い金属音と硝煙の匂い。
部屋を通り過ぎる最中に眉間を撃ち抜かれたドローン・ドックが音を立て崩れ落ちる姿が見えた。
「ドローン、1ダウンだ!」
壁から隣のビルへと飛び移り、路地に群がるドローンたちを見下ろした。
斉射の逆さ雨。ドローンの使用する弾はゴム弾であるが、搭載されている自動機銃は一般兵科の使用する小銃が流用されている。炸薬量も据え置きだ、当たれば下手打てば骨折もあり得る。
そうだったとしても、アイナはそれにあたるノロマではない。
シリンダーに新たな44マグを装填、電柱を使いポールダンスのように足を絡ませ逆さに四体のドローンの運動総括ユニットを撃ち砕いた。
「ドローン、4ダウン!」
『5ダウン。思っていたよりとろいぞこいつら』
開始数分でフランシスは余裕であると言わんばかりの言い方で、潰したドローンの数を言う。相変わらず手際が良い。
逆さの視点で路地の先を望んだ時、
切れのある動きだった。それこそ私の仕込んだ連中に引けを取らないくらいのいい動きだった。
体躯に見合わないサブマシンガンをむやみやたらに撃っているように見えて、その弾丸はすべて計算し調整された軌道を描きドローンの装甲をベコベコにしてゆく。
銃の支給品を拒み、『ガン・ローダー』を使用していないために44マグほどの威力が、装甲の凹み具合や関節部の可動域を計算し、機動力を凹んだ装甲で阻害し動きを封じて的確にCPUと通信部を破壊していた。
「ガキの癖にやるじゃねえか」
ほくそ笑んだ私は地面に飛び降りて、カラカラに乾いた戦場を掛ける。
それこそ本物の狼のように。
「祝勝だ! 今日は俺の奢りだ呑め!」
歓声と共に安酒しか取り揃えていないバーで演習の勝利を満喫する。
みんなハイテンションに互いのジョッキ同士をぶつけ合い馬鹿笑いを上げていた。
ラピットシティの寂れた酒場で、みんな可笑しくなり始めていた。
店内に流れる妙なテンポのヒーリングミュージックに首をひねりながら、アイナはアブドゥーグをゆっくりと楽しんでいた
「アイナ隊長! 飲みましょう!」
顔を真っ赤にしてボイラーメイカーのジョッキを私の前にドカッと置いてくるナイアも他隊員と同様に酒に酔わされていた。
「俺はいい、ゆっくり飲むさ」
「そんなぁ! 飲みましょうよぉ!」
ウザイ絡み方をしてくるナイア。筋肉質で女性ビルダーといっても疑わないその身体はこのクソ熱い土地で、尚且つ酒で火照った今の状況では本当に鬱陶しい。
コバエでも払うように手で払い、ため息を付いた。
今回の演習は敵がドローンであり魔族ではない。しかも操作しているのは人間であり兵器自体も新型で挙動にラグが多かった印象だ。
元より勝ち戦に近い演習。ニコラスも相当な根回しを行い相手の整備を買収している素振りも見えた。
戦略的勝利だった。勝利は勝利だ。しかし──。
「浮かねえツラじゃねえか」
「ッ……フランシス」
落ち着いた様子で隣に座ったフランシスの眼は緩んでおり、手に持った水パイプからはマリファナの香りが漂っていた。
連邦法でマリファナが合法化され幾久しく、州で取り締まるところもあれど米連の殆どでマリファナの所持が認められている。酒類と同じく規制対象のいい課税品だ。
「煙草の次はマリファナか?」
「まさか、酒のせいで血行が良くて傷が疼くんだよ。米連だとモルヒネよりマリファナの方が手に入りやすいからな」
肩を揉み様な仕草で、傷の箇所をアピールするフランシスの表情は基地内にいた時よりも柔らかくなっており、リラックスしている様子だった。
隣にフランシスが来て、話したいことは山ほどあった。だが喉の奥でその内容はつまり魚の骨のような違和感ばかりがあった。
「変に気負うなよ。あの時のバトルはドラッグのせいだ」
「でも……あの時冷静ならお前は……肩を故障せずに済んだ」
私は顔を伏せ、白いアブドゥーグも黒く染まるような心持だった。
謝りたかった。そして許されたかった。
家族同然に隣に居続け、私はフランシスを突き放した。なのにフランシスは怒ることもなく隣にいた。
怒らないのか? いっその声を荒げ、感情のまま私を殴りつけてくれれば私も気が晴れる。
それが贖罪なのだと割り切れる。
「こっち向けよ」
「……フランシス、俺は──イッテぇッ!」
額を指で弾かれ、頭を押さえる。
フランシスは水パイプをテーブルに置いて、私の目をにこやかに眺めていた。
その表情は憎しみや恨みのような負の感情に支配された人間のそれとはまったくの別物で、解き放たれすがすがしいといった様子だった。
「気負うなって言ったろ? オレはあれでよかったと思ってる。今まで魔族をぶっ殺すことしか目的がなかったが、あのバカ共の面倒を見てるうちになニコラスの心境も分かるようになったんだ」
「心境が、分かる?」
言っている意味が分からなかった。
ニコラスとフランシス。確かに似通った部分はあるが二人は確実に違う。
人は人を完全には理解できない。ソウルメイトなんて嘘っぱちだ。
「多分疲れてたんだ。オレもニコラスも、距離感ってのは大事だろ?」
不思議とその意味がすんなり入ってきた。確かに精神的にも肉体的にも疲れていたことは否めない。
決定的な引き金はあの魔族、『
あれが、あの任務が私たちのターニングポイント。
深く、より深くフランシスを理解しようと努めているが、しかし。
「うるさいな、この変なヒーリングミュージックッ!」
「そうか? まあ、アーティストの町だしな」
「みんなチューバッカみたいになりやがって、宇宙人が来てんじゃねえんだぞ」
フランシス以外の隊員もどこからか手に入れたマリファナを吸ってハイになり、変な唸り声を上げ始めていた。そんな状況に愚痴った私にフランシスがケタケタと笑った。
「何言ってんだアイナ。デビルズタワーの近くだ、宇宙人はここから数キロ先に来てんだろ」
「ポールがこの町でタマをまさぐられたってか? よしてくれあんな駄作」
「あ? ポールは名作だろ。もう一か見直して来いよ」
「宇宙人関係の映画で名作は2001年宇宙の旅だけだ」
その反論にフランシスは本気の目で向き合ってきた。
「キューブリック信者さまだったかお前は。あんな奴の映画何が良いんだ? 社会保障番号は管理社会の第一歩って本気で思ってる口か?」
「舐めんなよこの野郎。ルドヴィコ療法くらわしてやろうか? あ”ぁ?」
額を突き合わせ睨み合う私たち。言い合っている割にはその目に悪意や憎悪の色はなくむしろ懐かしさに目を輝かせ二人とも楽しんでいる。
その様子に触発されたのか、他隊員が騒ぎ出す。
「隊長たちがやり合ってんぞ!」
「
アリの群がりのように近寄ってくる隊員たちを押しのけて私たちは日本の酒の瓶を持ってデカいテーブルに向き合って座った。
「
「バカ言うじゃねえよフランシス。そのままでいい」
ショットグラスに注いだ酒を私たちは共に飲んだ。
楽しかった、そして嬉しかった。ともにこうしてまた家族と過ごせる時間が、尊い時間が。
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