※この作品はR-18です。

金瞳の二丁拳銃 アイナ   作:我楽娯兵

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レッドダイア

 顔から滴る汗が床を濡らし、アイナはひたすらに腕立てを繰り返していた。

 芦名を捕らえ損ね、結果としてただ立ち入り禁止の軍施設への不法侵入の罪だけを重ねたアイナは、忸怩たる思いに駆られる。

 人員を率いることはどれだけ時間を重ねようと慣れることはなかった。

 犯罪の片棒を担がされ、派手な銃撃戦を繰り広げ結局のところターゲットは逃し、襲撃者であるイーオに雇い主を吐かせることもできず逃した。

 徒労と失敗が重なり、苛立ちにも似た感覚に襲われるがその感情をぶつける捌け口はない。

 存在意義である銃も弾けず、積み重ねて人生の糧を奪われアイナという一個人だけが残った。

 

「クソッ、クソッ! 何だってんだ!」

 

 悪態をつくが、その悪態を返してくる男は不在だ。

 拭いきれない過去に引き摺られ、囚われたアイナ。否が応でも昔に向き合う機会が多い。

 神災狼部隊(フェンリル)の、懐かしい群れの世界を。

 

 

 

 

 

 演習を終えて、米連軍部の米連七軍『対魔軍(エクソシスト)』の話も現実味を帯び始めていた。

 神災狼部隊(フェンリル)には他の軍隊が対応できなかった魔族関連の事案が次々と舞い込み、私たちは各地に飛び回った。

 治安維持の魔族排斥、銃でナニが出来てしまうほどガン・ローダーが手に馴染んで、古き良き悪魔祓い(エクソシズム)で使う聖書(バイブル)と同じくらい重要な仕事道具になっている。

 私が率いる治安維持部隊(ディンゴ)たちは各州に配置され、大小なりの登録魔族の取り締まりをして、犯罪を犯すようならば処刑した。

 フランシス率いる組織テロ部隊(コヨーテ)はノマド関連と魔界由来の麻薬を次々と潰し功績を上げ続けている。

 隊長である親狼(ジェヴォーダン)、ニコラスは軍部に足げなく通い神災狼部隊(フェンリル)の地位向上の根回しを怠らなかった。

 目まぐるしいくらいに任務は積み重なって、それを達成するたびに私たちの軍部での訓練依頼が多くなり一般兵科の人員の対魔族対処の方法を叩き込むことが多くなった。

 軍から接収した男性人員は殆どコヨーテ部隊、女方は私のディンゴだ。

 ただ問題も少なからずあった。

 フランシスが連れてきた連中だった。海外国籍、もしくは国籍なし。

 身分証もなければ、国際バンクの登録もなし。何一つ電子的な存在証明が出来ない連中ばかりだった。

 ニコラスはそれに頭を抱え、無理くり米連国籍を取得させ住居を用意して見せた。

 もう使われなくなった老人ホームを買い取って、隊員宿舎としたのだ。

 私もニコラスもそこに暮らす様になって、五か月になる。

 

「蕭(ショウ)。見回り行くぞ」

 

 私はナイアにハンヴィーのエンジンを付けておくように指示する。

 ナイアは国籍もありきちんとした奴のはずだがなぜかこの掃き溜めに住んでいる特異な奴だった。

 リビングホールを覗くと、プロジェクターに旧式の据え置きゲーム機で兄妹揃って遊戯に興じる蕭(ショウ)の姿があった。

 

「非番だバカタレ」

 

 私の呼び声に代りに答えたのは兄の聾(ロウ)であり相変わらずの一丁前な口を利いてくる。

 やけにグロい格闘ゲームで画面内でゼリーみたいに砕け散るキャラクターが良い具合にシュールだった。

 

「適当ほざくなロウ、ショウは持ち回りだ。暇ならお前も来い」

 

 子リスのように私の元に駆け寄ってくるショウの頭を撫で、車に向かう。

 昼間に見回りをしても成果はないが人間は明るいうちが活動時間、組織というのもそれに合わせて意識的に動くものだ。

 神災狼部隊(フェンリル)の隊員証である紫のモッズコートに腕を通して町に出る。

 大きな作戦はここ数ヶ月行われず、平和を極めているが野に蔓延る魔族の事件は相変わらず発生し続けている。それこそ毎日だ。

 軍隊所属の部隊であるが、その活動は訓練やトレーニング等の反復活動とは無縁であり、実働のみだ。

 とにかく魔族を殺すことに重点を置かれた組織だ。といっても米連本土での実弾使用の出動はそうそうない。

 窃盗、器物破損の軽犯罪の取り締まりがもっぱら。強盗や違法薬物の密売もあるが片手の指の数ほどだった。ディンゴの特質上仕方ないが、鬱憤はたまるものだ。

 組織犯罪は州警察の持ち回りで要請がない限りは動くことはないが、神災狼部隊(フェンリル)は組織的隔たりを飛び越えた出動権限を持ち合わせている。

 魔族をぶっ殺せ(キル・ア・デビル)。フェンリルの合言葉だ。

 

「登録魔族のID照合はどのくらい進んだんだ?」

 

 ショウは見回りを散歩と勘違いしているのか楽しげに車に乗った。

 車に乗り込んだ私はナイアに訊く。

 フロントディスプレイに国土安全保障省の国内市民権取得魔族のデータを開き、そのリストを照らし合わす。

 

「今日で五百件ですね、この町ではどれも照合どおりの結果です」

 

「そうか、未登録の奴らはやっぱり密入国か」

 

 ここ最近ディンゴ部隊は登録魔族のID照合に手を焼いていた。

 フランシスの部隊『コヨーテ』より、未登録の魔族が数多く発見され拘留されるケースが増えているいう。何でも外見上普通の人型魔族(プレーン)の魔族が多く、テロ監視用のドローンを総出でID判別と並行で出動しているようだがあまりにも多く、国内での魔族出生率では説明がつかないそうだ。

 

「チャイナタウンの潜伏率が多いそうだが、やはり龍門が手引きだろうな」

 

「龍門……いっつも横柄、嫌い」

 

 口数の少ないショウが珍しく口を開いた。眉毛をㇸの字にして唇を尖らせた。

 台湾は龍門の息の懸かった組織は数多いと聞く、ショウも紛争が再燃する前からあの連中はいけ好かないそうだった。

 

「州警察から当たってみるか」

 

 車を出し、警察署へと向かう。

 空をぶんぶんとうるさいくらいに飛び回るドローンに、煩わしいほど煌くオーグメント広告が目に刺さる。完全に国内テロを封じ込め外に闘争を求めた国の光景というのは、どこか退屈さを漂わせる。

 人々は家に閉じこもり待ちに出歩く人間は私たちのような肉体労働者(ボディ・ワーカー)ばかりだ。

 飲食店はテイクアウトばかりになり、店内で食べられる場所は数少ない。セブンイレブンは姿を消し、通販配送所が軒を連ねる。

 コミュニケーションも、買い物も、仕事も、全ての事柄がネット接続で済む世界では、社会的孤立主義者(プレッパー)とも違う『繋がった孤立者(コミューン・プレッパー)』が世界を構成する。

 電脳化によりネットワーク世界は深化し、都市維持事業の殆どはオフィスを畳みネット空間に居を構える存在と化した。

 ただ肉の喜びを知る者たち、時代に取り残されたボディ・ワーカーだけが、上級市民(アッパー・クラス)である繋がった孤立者(コミューン・プレッパー)に消費される存在になった。

 格差社会は商業主義の裏側だ。

 

「今日は一段と人が少ないですね」

 

「良い事だ、後ろ暗い人間しか表に出てこない」

 

「孤独死が増えてるってCNNでやってましたよ」

 

「そんでもって俺達みたいな『実働する少数派(ワーカーヒッピー)』の懐に金を落としてくれるんだ。いいことこの上ない」

 

「隊長、人の命を金みたいに言うのは悪いですよ」

 

「悪い、──ナイア、窓開けてくれ」

 

 胸元に収めたタバコに火を付け、煙を胸一杯に吸い込んだ。

 これももう骨董品と呼ばれるようになって幾久しい。実体のある嗜好品はもうこの時代では旧世代の代物で、大概のものが電子メディア化し電脳化した者たちは今私の脳状態を電子データで再現することで嗜好化している。

 といっても一度生まれた文化はそうそう消え去らない。未だに実物を欲しがる実働する少数派(ワーカーヒッピー)がおり、数少ないが繋がった孤立者(コミューン・プレッパー)もいる。

 私が死ぬまでこの骨董品があり続けることを願うだけだ。

 州警察署に到着し入館口に向かい仰々しいスキャナーゲートを通る。

 受付担当はきちんと制服を着ているが、その態度はお世辞にもよろしくなかった。

 

「IDと社会保障番号を──」

 

 アイナは無視して奥の拘留室に向かう。

 ナイアもショウも後に続き受付は声を荒らげそうになるがモッズコートの部隊章に椅子に座り直した。

 古き良き鉄格子の拘留室に押し込められた奴らは千差万別、大人しく反省している奴もいれば喚き散らしている奴らもいる。中にはドラッグでハイになってひっくり返って病的な笑い声をあげている奴もいた。

 しかしこうした所には普通の犯罪者しか押し込まれていない。私達はその先の部屋に用があった。

 鉄格子が消え、代りにフェンスが中にいる者たちと私たちを隔てていた。

 フェンスは静かな振動音が聞こえる。電流を流しているからだ、しかも痺れるだけでは済まないくらいの高電圧だ。

 中にぶち込まれている連中はどれも大人しく突っ立っている。

 それもその筈、両手には冗談みたいに分厚い一枚の鉄板で作られた手枷が肘まで隙間なく覆い隠し首にも枷が嵌められチェーンが天井に繋がれていた。

 座ることがきりぎり出来ない長さで突っ立つことしか許されていない。

 こいつらが、未登録の魔族の犯罪者たちだ。

 

「追加で入った奴が大勢いるな。──コヨーテの報告書であったのはどいつだ?」

 

「多すぎて取り調べも面倒そうですね」

 

 ペーパー端末で新しく収容された名簿を出した。

 

「どれも、メキシコ系……」

 

 もごもごとショウがいう。

 

「メキシコギャングと龍門はズブだ。流入の元を辿ればランダムゲートだな」

 

 常時開通している魔界門というのは世界的に見ても五ヵ所、日本のアミダハラとヨミハラとアマハラ、露欧連合帝国、赤の広場に開通したレッド・ゲート、絶望岬のホールしか確認されてない。

 魔界門は人間界で常時開通することは物理的に不可能。魔術的補強を受けなければこの地球上では維持が出来ないのだ。

 しかしながら一時的には開通する。

 それがランダムゲート。科学者たちの見解ではこの世界の空間はボロボロのビニール袋なのだという。

 袋の中には地球があり、その中で自転して、ゲートの穴は常に移動してその大きさは均一ではない。稀にその穴が魔界門並みの規模で巨大化して魔界からその生物が流れ込んだり人間界から物質が移動する。

 その不規則な空間的穴を私たちフェンリルはランダムゲートとなずけている。

 龍門は何らかの方法で穴を開けているのか、それとも穴の発生位置を事前に把握していると見るのが正しい。

 

「ABCの順で幾か……」

 

 警官に指定した哀れな羊の枷を外す指示を仕様とした瞬間に、特別取調室の扉が勢いよく開く。

 

「クソッタレ! くたばれクソ犬野郎!」

 

「さっさと房に戻れバカが……、おお、アイナ来てたのか」

 

 取調室から顔から血を流す拘留者が警察に引っ張られ連れ出された後にフランシスが面倒といった表情で現れた。

 警察署は全州で禁煙が定められている筈なのだが、咥え煙草ので凝り固まった首を捻りながら灰を床に落とした。

 

「IDの照合か? 今日はもう終わりだ、どれも未登録で後は国務省の仕事だ」

 

「早いな。収穫はあったか」

 

 隣を歩き取り調べの内容を訊く。

 

「あるにはあった。だが直接行動(ダイレクト・アクション)には繋がらない」

 

 フランシスは胸ポケットから小さな紙袋を投げて渡してくる。

 小さな石が袋から透けて見え、手の平に広げて確認する。

 

「レッドダイアモンド? 小粒の上に形も悪いな」

 

「ダイアモンドならよかったんだけどなぁ」

 

 含みのある言い方でフランシスは頭を掻いた。面倒事がまた一つ増えたといった様子だ。

 

「レッドベリルだ。鉱山も閉山してもう産出もされなくなった幻の逸品だ」

 

「これが?」

 

「その一粒で、ビバリーヒルズの豪邸が買える」

 

 思わず手の平から落ちそうになるくらいに体が震えて驚いた。

 ナイアは素っ頓狂な声を上げ、ショウは欲しい欲しいとねだり始めた。

 その反応に胸糞が悪いといった様子でフランシスは吐き捨てる。

 

「今の魔族共の通貨トレンドは暗号通貨じゃなくてそ(・)れ(・)だそうだ。道理で最近の連中、正規流通の武器をしこたま仕入れてた合点がいったよ」

 

「その閉山した鉱山に不法侵入しているのか?」

 

「今部下を向かわして調査中だ。鉱山会社曰くそういった輩はいないそうだが」

 

 となればその調査は空振りに終わるだろう。

 鋼鉄よりも強固な米連の公共監視はそうそう欺けない。今にも空を覆い隠すレベルのドローンやIDスキャナー、センサー類はこの国に生まれたならば避けられない。

 ID・社会保障番号のない者(アンノウン)は余計にだろう。何しろそいつのいる空間だけぽっかり空白が存在しているようなものだ。

 異常に監視され過ぎた社会故に人間社会の成り立ちから浮いた存在となりえる。

 

「害獣調査の段階だ。愛しい殺しが恋しい」

 

 フランシスはそう言い私たちは警察署に拘留されたすべての拘留者のIDを取り、仕事を終えた。




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