※この作品はR-18です。

金瞳の二丁拳銃 アイナ   作:我楽娯兵

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故郷

「報告が回ってきた。《レッドダイア案件》は始まり戻ったぞ」

 

 ホログラスに表示されたニコラスの調査が徒労に終わったことを自傷交じりの苦笑いで言ってみるも、隊員からはため息が出るばかりであった。レッドダイアを通貨とし始めた米連国内での闇社会の情報統制能力はある意味では国の最重要案件にも相当する強固さだ。

 

「手掛かりなしか──よし、それはいい事じゃないか? ハイテクの世界でローテクな足で稼ぐ操作としゃれこむか」

 

 皮肉交じりのフランシスは煙草に火を付けて、空中に座って見せた。

 このデブリーフィングで出席している男性陣は皆、出動中であり、目の前に見えている者たちは拡張現実(オーグメント・リアリティ)技術のデジタル会議だった。

 

「大体あのダイア。レットベリル……だったか。あれはもう採掘されていなんだろ? 産出地どうこうより、どうやって未登録魔族が手に入れたかを調べるべきじゃないか」

 

 私の疑問にフランシスは迅速に答えた。

 

「手元に入ること自体おかしんだよ。今確認されている米連国内での所有者は187人。そう内レッドベリルを競売にかけただの、取引所に流しただのそういった報告は一切なかった。完全な未登録のレットベリルだ。アイツ等がもっていたレットダイアは出所不明の魔法の産物だ。どこから流(・)れ(・)て(・)きたかを調べるより、どこから採(・)っ(・)た(・)かを調べたほうが根っ子から殺せるんだよ。お嬢ちゃん」

 

 超稀少な宝石の足跡を探すより、出生地を調べたほうが悪い奴らに近づける。

 正しい発想であり、この案件の場合は捜査の定石だ。

 

「カリカリすんな、そんなお前たちに朗報だ」

 

 ニコラスが関連情報をAR空間に表示して見せる。

 宝石の構成成分、加工状態、それらに付随するメタデータの数々。

 

「未登録魔族の持っていたレッドダイアは世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)にも確認されていない完全未確認の産物だった。しかもその加工痕に面白いことが分かった」

 

「面白い事?」

 

 レットダイアを拡大表示して、その痕(・)跡(・)を露わにする。

 極小の刻印。──『GRF』。

 

「組織名……いや、加工者の名前か?」

 

 拡大された刻印に食い入るように見る私はそういう。

 フランシスも見落としたと言わんばかりの表情を浮かべて頭を掻いて見せた。

 

「意味は分からなかったが、今は世界中が見えないインターネットの糸で繋がっている。困ったことがあればまずワールド・ワイド・ウェブ(www)だ」

 

 さらに新しい関連資料を表示して説明を始めた。

 

「検索の結果、ここ数ヶ月で『GRF』の単語でSNS等での情報交換が頻繁に行われていた。内容は低俗な堕胎器具のウェブ販売の広告だ。サイトに取引履歴の公開を求めた結果、こいつが可笑しなことに販売ページも実際に器具も存在しない架空の商品だった」

 

「詐欺か?」

 

「いやいや、実際に取引は行われてレビューも評価☆5の優良会社が運営している。しかし──妙なことに購入者たちの経歴がみんな真っ黒だった」

 

 SNSアカウントの情報すべてのリストが送られてくる。

 その経歴に笑い声をあげたのはフランシス。その笑いの理由も頷けるぐらいの真っ黒な経歴の数々にアイナも鼻笑いが漏れた。

 

「こいつは銃の違法製造、こっちは放火」

 

「見ろよアイナ。こいつ麻薬の製造で六百年の刑を食らってるやつだ。これに至っては魔族のDNAの違法入手。真っ黒過ぎて笑えるぜ」

 

 私とフランシスはその経歴一覧をおもちゃのカタログみたいに笑ってみていた。ニコラスも初めてこれを見て笑ったのだろう、思い出し笑いを漏らしながら手を叩いた。

 

「話を戻すぞ。取引相手の経歴は真っ黒、じゃあ販売所は? 結果は灰色だった」

 

 販売会社の履歴を表示する。

 

「エイドリアン・フォース社。数年前まで米連国防省より出資を受けていた企業だったが元より経営不振で、台湾危機の煽りを受け経営規模を縮小した。しかしここ数ヶ月、資金の出入りがやけに激しくなり始めている。売却したはずの第二工場を買い戻しも行っている」

 

 私はじらす様にいうニコラスに切り出した。

 

「もったいぶらずに言えよ。収入元は」

 

 ニコラスはやれやれといった様子で首を振り、最後の関連情報を表示する。

 

「収入のほぼすべてが正規の手続きを済ませているがただ一点、接待費という名目で数万ドルが明瞭になっていない。確定だ、恐らくここがレッドダイアの出所だ」

 

 本社の所在地、そこを守る警備会社名。エイドリアン・フォース社全ての情報が開示される。

 

「生命向上主義(ライフレーズム)万歳。サイボーグの目白押しだぞ。ここは」

 

 所在地にフランシスは面倒くさそうな声を上げた。

 

「コロラド? あんなクソッ田舎に会社を建てるたあ、なんて物好きだ。そう思うだろアイナ。──アイナ?」

 

 私は僅かに目元が狭まり、偏頭痛のように眉間が痛みだず。

 コロラド──私の故郷。私の生まれた土地であり、復讐の始まりの土地。

 

「私がいた孤児院がある、そこに泊めてもらおう。シスターにも挨拶したいしな」

 

 あの魔族の邪悪な笑顔が、あの対魔忍の歪んだ嘲笑が耳の奥にこびり付いて離れない。

 苛立たしい奴らに風穴を開けてやりその躯をベンチにして煙草をふかしてやりたい気分だ。

 だが、今は任務に専念せねば。

 

 

 

 

 

 各地に散っていた隊員たちがコロラド州に集結し始め、私とフランシスも共に向かい始めていた。

 フランシスの愛車であるメルセデスベンツGクラスでハイウェイを爆走し、テキサスを北上し今はダラス付近を走っていた。

 

「なに柄にもなく悩み込んでんだ。アイナ」

 

「俺も悩みたい時はあるんだよ」

 

 通り過ぎる荒れ果てばかりを眺めて両親の事ばかり考えていた。

 あの時に私の人生は確実に狂っている。正しい道を外れ、銃と殺しの血腥い世界へと頭までどっぷりとつかり込んでしまっている。

 ずぶずぶでもう抜け出すこともできず、もがき苦しんで血の沼で窒息している。

 過去のシコリを完全に取り除くにはアイツ等を殺すことが最も手っ取り早いが、その道程で奴らはまるで癌細胞に見たいに姿を変えて私を蝕んでゆく。

 煩わしい、狂おしい、気が狂いそうだ。

 冷静な怒りが私を焦らせ、煙草ばかり増えてゆく。

 

「ホント、柄にもないことするなよ。ブサイクになったお前を助手席に乗せたくない」

 

「うるさいぞ! フランシス」

 

 ミュージックプレイヤーを入れてウーワーから鼓膜を割くような爆音でKPOPミュージックを流し出す。

 

「ッ……急に流すなよ!」

 

「音楽はいいぞ。クソみたいな感情を消し飛ばしてくれる」

 

 人相や人柄には一切合わないような可愛らしいテンポのKPOPミュージックの振り付けを片手ハンドルでノリノリで大声で歌い、踊って見せるフランシスにポカンとしてしまう。

 こんなにも踊れて、歌える原因は台湾出身の陣(チェン)兄妹とフランシスがともに行動することが多いからだ。

 陣(チェン)兄妹、主に蕭(ショウ)だがKPOPが大好きであり、よく後部座席に座ってこれの曲を流していくれとフランシスにねだるり見回りの最中に歌って踊る姿を何度も見ている。

 きっとフランシスもそれを見続けていたために覚えたのだろう。

 

「Roly Poly Roly Roly Poly |날 밀어내도 난 다시 네게로 다가가서《私を追い出してたとしても、またあなたに近づいて》~♪ Roly Poly Roly Roly Poly |나만 보일꺼야 너에게 나를 보여 줄꺼야《私しか見えなくなる様に私の本気を見せてあげる》~♪」

 

 フランシスに似つかわしくない愛らしいダンスに、私は思わず苦笑が漏れ出た。

 人とは日々成長してゆく生き物だ。フランシスもそれに当てはまり、汚い罵声交じりの励ましを飛ばすだけではなく、こうした普(・)通(・)の励まし方を学んだのだ。

 肩を揺らして笑顔で踊る様に、私は観念したように両手を上げた。

 

「分かった。分かったよ、やめてくれ。俺を笑い死にさせる気か?」

 

「まさか、やってみると案外面白いもんだぞ。やってみろよお前も」

 

 くねくねとするダンスは得意ではない。こういったパーティーミュージックは第一として聴かないし、ついていけるか心配だったが私は体を動かしてみることにした。

 

『Roly Poly Roly Roly Poly |날 밀어내도 난 다시 네게로 다가가서《私を追い出してたとしても、またあなたに近づいて》~♪ Roly Poly Roly Roly Poly |나만 보일꺼야 너에게 나를 보여 줄꺼야《私しか見えなくなる様に私の本気を見せてあげる》~♪』

 

 本当に私の柄じゃあない。

 でも、こうした時間が尊いものであることは理解できた。

 友人であり、戦友であり、家族であるフランシス。

 息つく間もない戦いの世界で私は人間として生きていける居場所がフェンリル(ここ)なのだ。

 夕暮れも近い時間帯にテキサスを抜けて、コロラドの私が身を寄せていた孤児院に到着した。

 他の隊員の姿が見えなかったが、各自休息を取れる場所(セーブポイント)を見つける事が殆どだ、群れて行動することを嫌う爪弾き者たちの集まりだ。

 教会に隣接した三階建ての孤児院の窓から、子供たちが珍しい来訪者に好奇心に突き動かされ私たちを覗き見ていた。

 小さくその子たちに笑顔に手を振って見せ、私とフランシスは孤児院の玄関を潜った。

 階段の陰からのこちらを覗く子供たちの表情はキラキラと輝いており、その目はまだ淀みを知らない。

 

「まるで珍獣扱いだな」

 

 フランシスはそう言う。

 仕方がない事だ。ここは孤児院で来訪者と言えば引き取り手の親か新しい子供ぐらいなもので、みんな前者を待ち望んでいる。

 

「ここは孤児院はこんなもんだ。無断居住者不良(ヤンキー・スクワッター)には分からないだろうが」

 

「希望より現実を見てたからなオレは」

 

 過去のここは業種特化児童生産所(ギフテッド・プラント)であった。

 私もその一人であったが、今はその業態を大きくシフトしている。

 方向転換は前院長の死去もあったが一番の理由は世論のバッシングだ。政府の為に犠牲にするという方程式に今まで目を瞑っていた市民たちが声を上げこうして普通の孤児院となっている。

 現在の院長は私がまだいた頃、子供たちに寄り添った『シスター・ローズクォーツ』であり私は今でもやり取りをしている。

 院長室の扉をノックする。

 

『──はい、どうぞ』

 

「失礼します」

 

 扉を開けて、院長と対面する。

 質素で家具の少ない部屋で事務作業をしていたのか少しやつれたシスター・ローズクォーツがいた。

 私の顔を見るとシスター・ローズクォーツは驚いた様子でまぁ、と小さな声を上げて満面の笑みで駆け寄ってくる。

 

「アイナ、アイナ・ウィンチェスターっ! 大きくなって、まぁ!」

 

 きつく私をハグしてくるシスター・ローズクォーツはまるで我が子のような対応であった。

 この人にとって私は巣立った子供であり、私も現にこの人は親のようにも思っている。

 

「今日はどうしたの、アイナ?」

 

「あの、お願いがありまして。少しの間ここに泊めてもらえないでしょうか」

 

「ええ! 構わないわ。子供たちも喜ぶわ。──あら、そちらの方は?」

 

 居心地悪そうにしているフランシスが廊下の角で覗く子供たちを追っ払う仕草をしていた。

 

「私の同僚のフランシス・S・ロキット中尉です。少しこのあたりで仕事が発生したもので」

 

「フランシス・S・ロキット中尉です。どうぞよろしく」

 

 引き攣った営業スマイルで握手を求めたフランシスにローズクォーツは優しく手を握り返した。

 

「ええ、よろしくお願いします。私はアリル・ローズクォーツ、ここでシスターをやっているわ」

 

「そのようで。いい孤児院だ、暴れまわっても音が響かなそうだ」

 

 ローズクォーツは優しく笑って見せる。

 

「ふふ、肩ひじ張らずに無理しないで。お客様は大歓迎よ」

 

 見透かされたフランシスはどうにもやりにくそうに頭を掻いた。

 信仰心を捨てて銃と弾丸に誓いを立てた男には聖職者は苦手と見えた。

 

「積もる話もたくさんあるでしょうけど。もう遅いわ、後でじっくりお話を聞かせてアイナ」

 

「はい、分かってますよ」

 

 ローズクォーツの案内で客用の寝室に通される。

 

「…………」

 

 本当に懐かしい。昔の私はここにいたのだ。

 食堂のテーブルで食事をした記憶、図書室で本を読み漁った記憶、鉄棒で懸垂をしていた記憶。

 すべて大切な、淡くそして薄暗い過去だったと今にして思う。

 寝室は使わていない空き室で、シングルベットが二つ並んで、机と椅子があるだけの簡素なものだった。

 

「夕食はもうすぐよ。手を洗って食堂に来てくださいね」

 

 ローズクォーツは部屋を後にして僅かな静寂が訪れる。

 モッズコートを脱ぎ捨て枕替わりにベットに寝転がったフランシスは疲れていたのか大きなため息を付いた。

 

「あぁ……ガキを見てると精気を吸い取られる」

 

「そう言うなよ車中泊じゃないだけいいだろ」

 

「オレはそっちでもいいんだがな。お前がここがいいって言うから来たんだ」

 

 フランシスは大欠伸をしてこっちを見た。

 

「お前がガキだった頃が懐かしいな」

 

「初めて会った時はお前はボコボコだったな」

 

 互いの過去は遠い昔、里心からついここにきてしまった。

 私の大切な場所に。

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