Hシーンはこの過去の話が終わったら書くんだぜ(2~3話先の予定です)
「明日の夜、お前を抱く」
フランシスはそう宣言した。
食事の最中にそう言われアイナは持っていたフォークを取り落としそうになった。
アイナが安心して食事を取れるようにと距離を取っていたフランシス。その表情はいつものアイナを陵辱するような憫笑に満ちた色はなく、真剣な表情であった。
「何でそんなことわざわざ伝えるんだ」
アイナは目を吊り上げてフランシスを睨みつけた。
フランシスの態度、対応。
アイナは不可解に思い始めていた。
監禁している割には自由を与えすぎているのだ。
送信は出来ないが、ネットの観覧を許し、クレジットカードの番号まで教えている。
今着ている衣服もネット通販で揃えたものだ。食事も出来うる限り共に眼の届く範囲で取るようにと言っているが食べる物に指定も何もしていない。自身で調理し食べている。
何よりアイナの体を求める頻度が少ない――アイナを陵辱する事が目的なら毎日でも体を求めてきてもおかしくはないはず。なのにフランシスが求めてくる頻度は週に一度程度。
その一度がかなりアブノーマルなものが多いが、あまりにも淡白すぎる。
極めつけが、こうして抱く日取りを指定しているのだ。
幾度か体を重ねたが、アイナの体にセックスだけは行わず処女であり続けている。
アイナの問いにフランシスは首を傾げ、答える。
「縛られて剥かれて、物置でやりたくねえて言ったのはお前じゃないか」
アイナはその言葉で思い出す。アナルを始めて犯されたと気に言ったのだ。
(――やめろっ、こんな格好でやりたくねえ)
あれから二週間近く立っている。
行為の中での一つの言葉を覚えている事自体にアイナ驚いてしまう。
「素っ裸の状態で縛られるのは嫌なんだろ? 今回はお前の要望通りに犯してやるよ」
「犯さないって選択肢は?」
「あると思ってんのか? 馬鹿だな。出来るだけ痛くしないように善処してやるよ。
「俺が化粧できねえ事知ってて言ってんのか」
その発言にフランシスは驚いた表情を一瞬だけ浮かべ、次に呆れた表情になった。
色気より食い気、男の竿を握るより
フランシスはどう手を付けるか悩み挙げた挙句に、諦めた様子で言う。
「ならせめて体洗って綺麗にするなり、身なりを整えるなりしとけよ。オレは今日帰らない」
「なんで」
「なんでって、お前を食わせていく為に仕事してんだろ」
リクルートスーツの上から警備機構のモッズコートを羽織る。
脇下の銃を隠し、狼が歩き出す。
「もう家具を壊すなよ。アイナ」
「うるせえっ、さっさと行けよ」
フランシスが背を向けた途端、雰囲気が切り替わった。ピリピリとした雰囲気に。
何も言うことなくフランシスは家を出た。そしてすぐに家の中は静寂が訪れる。
大きな家である為にアイナの声も、空虚に霧散していく。
明日まで帰ってこない。どうするかと悩んだ。
「飯、どうしようか……」
今まではフランシスが食事の準備をし、アイナが臍を曲げて食べずに居たとしてもそこそこに旨い飯を作っていた。今回作る人間が居ない。
刃物類の一切がフランシスが保身のためにチャイルドロック付きの戸棚に仕舞い込んでいる為に切る調理が出来ない。となれば必然的にレトルト、保存食品になる。
もとより料理はからっきしのアイナにキッチンに立つことも考え付かない。
食事を終えたアイナはリビングに向かう。
誰も居ない家、誰も居ない部屋。静けさだけが隣人であった。
あいつが居なくなってからの、唯一の。
ソファーに座りジャンキースターに火を付ける。
タバコの葉が燃える匂い、糸を引く煙。タバコを吸うときはいつも
僅かに苦味が混じる煙の匂いに包まれながらアイナは虚空を見つめた。
静かな家で一人でタバコを吸っているといつも過去のことを思い出す。
アイナという人間の最初から今迄まで。
最後に覚えている両親の記憶は、悲鳴だった。
ベットの下で母親にいわれるがまま隠れ震える瞬間、父の怒号とその断末魔。
荒々しく寝室に乗り込んできたのは、醜く膨れ上がった肉の魔族と男の対魔忍であった。
隠れ潜む私に奴らは気づかなかった。いっその事気づけば悪夢は起きなかった。
母は私の目の前で嬲られた。奴らの嘲笑が耳にこびり付き、母の嗚咽が私を蝕んだ。
いつ終わるかも知れない畜生の宴は、母の死で幕を閉じた。
さんざん母を弄んだ奴らは最後に吐き捨てる言葉は「飽きた」の一言であった。
対魔忍が刀を抜き放ち、母親を肉片に変える様を私は目の前で見ていた。
流れ出た血の河が手の平に張り付き、衣服に染みる。
母の匂いは血の匂い、母の顔は泣き顔で私を哀れんだ。
両親は魔族と対魔忍に殺されたのだ。
いつまでもベットの下で震えて過ごし、私と両親の遺体が発見されたのは二日後の夕刻だった。
私を引き取る親類は誰も居らず米連政府が出資している国営養護施設に引き取られた。
子供の精神の支えである親を失った私は虚ろだった。孤児院に来て一年はただ日々を生きていた、理由も感じられず、ただ生きるという漠然とした理由の元で行き続けた。
二年目の夏にようやく感情の起伏を取り戻し始め、次第に両親を殺した魔族と対魔忍が恨めしく感じ始めた。夜も眠れぬ心の底からの恨みが、私を生きる糧となり奴らを殺す手段を徐々にだが探し始めていた。
縊り殺してやる、刺し殺してやる、すり潰して殺してやる、殴り殺してやる――そんな殺伐とした考えで日々を過ごし、そして殺しかたは米連では手ごろな方法に落ち着く。
撃ち殺してやる。
まだまだ子供であり銃も手に入らない為に、筋トレで復讐の火に薪をくべていた。
時間は永遠に感じ、一年がとても長く感じられた。
そんな
その男は刺々しく、
黒くテカる
「クソガキ。シスターから聞いたぞ、殺したいほど憎んでる奴がいるんだってな」
私の目の前で男は凄み訊いてくる。
威圧する雰囲気と試すような視線が私という一個の存在を捉えていた。
他の子なら泣き出していたであろう場面、私はそれが蜘蛛の糸のようにか細い
腹から湧き上がる期待感を押さえて、男を睨みつけて言う。
「いるよ、粉々にしたいほど憎い奴が。お母さんを殺したクソッタレ共」
逆光で表情はよく見えなかったが吊り上げて笑った事だけはわかった。凶悪な笑顔で、私の威勢に気に入った様子で頭を荒々しく撫でてきた。
「なら、そのいつらを殺す手段を教えてやる。数日待ってろ、迎えに着てやる」
「おっさん名前は」
「おっさんて呼ぶなガキ。ニコラスだ、ニコラス・ヒューズ。お前を養ってやる人の名前はしっかり覚えろ」
ニコラスはそういい養護施設を出て行った。
その日からシスターたちは私に対して優しく接し始めた。
それもそうで私を引き取った養護施設は、国の、米連が必要とする
知らぬ間に
シスターの中に私を哀れむものもいた、いたが私にもそれでよかった。
ニコラスは宣言通りに迎えに来た。
真っ黒なピックアップトラックを転がして来た。
シスターたちは私を送りだしてくれた。子供たちのお別れのポストカードを持たせてくれたが見ることはなかった。助手席に乗った私にニコラスは聞いてくる。
「ファーストネームは」
「は?」
「ファーストネーム。いつまでもガキって呼ばれたくないだろ」
「アイナ」
「ラストネームは」
「ウィンチェスター」
ニコラスはエンジンを掛ける。
ガムを噛み、車を運転し始めた姿は不思議と格好良かった。
「ウィンチェスター――アメリカ開拓時代の西部を征服した銃のメーカーと同じ名前だ」
「俺のラストネームが、銃」
「ああ、俺がガキの頃貰ったキッズライフルはウィンチェスターのM1876センティニアルだった。黒色火薬の骨董品だ」
気分が高揚する。向かう場所へ迎える。
ニコラスの全身から放たれる
日も暮れて、辺りが暗くなり始めた頃に車が停車した。
着いたのは先は、町外れの二階建てモーテルであった。客引きのネオンサインには光は灯っておらず真っ暗で廃業した雰囲気が出ていた。
「俺たちの
「モーテルが? 基地に連れていくんじゃないの」
「一丁前にまともな兵士と同じ待遇受けれると思うな。それにこっちの方が幾分か待遇はいいぞ」
二階に上がっていくニコラスについていく。
受付にも明かりは付いておらず、『売地』という看板がかかっていた。
当分前に廃業したのだろう、掃除も行き届いておらず通路は砂だらけだった。
一番奥の一室の鍵を開け、私を中に入れたニコラスは荷物をすべてベットの上に投げ捨てていく。
驚きだった。四室連なっている構造であったであろうモーテルの壁をすべてぶち抜いて横長の部屋に改造していた。ダブルベットが横一列に並んでいて、家具も一部屋にすべてまとめて置かれ広々というより空虚な印象が強かった。
蚤も虱もベットにいない事を確認している最中、ふいに後ろが騒がしくなった。
叫び声と共にニコラスに躍り掛かる青年がいた。手には間接ライトを持ち殴りかかろうとしていた。
表情を変えないニコラスはそれを避ける。青年がよろめいた瞬間を見逃さず、容赦のない膝蹴りが青年の腹を打ち抜き苦しみで喘ぐ青年に手加減のない蹴りを浴びせ続けた。
「ええッ、飼い主に噛み付くなんていい身分だな。何とか言えよ」
「ぐ、攫っておいて……ごえ、何いって――」
青年の顔に蹴りが入り大人しくなった。
生きてはいた。顔に入った蹴りが効いたのか、痛みで呻きのたうっていた。
「てめえの同居人だ。挨拶しろ」
髪を掴み挙げ私にその顔を見てつけるように顔を上げさせた。
片目は腫れ上がり、青痣があちこち浮かんでいた。あちこち擦り傷切り傷の跡が目立ち服も着古したボロであった。戦慄した、私は
「こいつはいつもこれだ。驚かせてすまないアイナ、同居人だ。仲良くやってくれ」
ニコラスは笑顔でそういい。青年の髪を離した。
力なく臥す青年を足蹴にし、部屋を出るニコラスは言い残す。
「休んでろ。あと四人連れてきたら訓練の始まりだ」
扉を閉め、鍵をかけられる。
内側からは開かず、一瞬で軟禁状態になっていた。
マズイかもしれない。そう思っていたとき、静かなうめきが徐々に大きくなる。
「アア、ああ、あああクソッたれ。あの野郎ぶっ殺してやるッ!」
青年が息を吹き返し、口汚く罵声を吐いた。
あれだけの蹴打を受けて尚もその鋭さが失われていなかった。
青年が私を捉えて聞いてくる。
「攫われたのか?」
「買われた。殺しの手段を教えてやるって言われて」
「
青年は腫れ上がった顔を抑え、キッチンルームから氷を一つかみ持ってきて冷やし始めた。
敵意は一切無く、どちらかと言えば同情のような雰囲気が出ていた。
青年に訊いた。
「なんでここに」
「しらねえ。
誘拐と言ってよかった。といっても、薬を売っているという事は素性は宜しくない。
浮浪者の類の人間だ。魔族の多い
「名前は」
「オレか? フランシスだ。ラストネームは覚えてねえけどみんな
「アイナ・ウィンチェスター」
「子供と同室かよ」
「子供ってお前も似たようなもんだろが」
「俺は十二だ。お前十歳もそこらもいってねえだろ」
口の悪い同居人。私とフランシスの初めての出会いだった。
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