※この作品はR-18です。

吸血鬼コロシっていうおかしな体質   作:上平 英

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第1話 満月の夜のトラウマ 

 雲ひとつ無い満月の夜。

 

 紫色の髪鋭い牙と真っ赤に輝く瞳、お姉さんの裸。

 

 創造の産物であるはずの吸血鬼が舌舐めずりをしながら俺にゆっくりと迫ってきた。

 

 首筋に噛みつかれ、痛みを感じながら血を吸われる。そしてオチンチン食べられた……。

 

 夢のなかで繰り返し蘇る断片的な記憶。

 

 お姉さんの怪しい真っ赤な瞳と淡く輝く紫色の髪。

 

 嬉しそうに吊り上がる唇。

 

 体を弄られ、オチンチンを舐められて、女の子の股にオチンチンが食べられた。

 

 吸血鬼のお姉さんは俺をおもちゃのよう扱い、どんどん体が変な感じになっていって、頭が真っ白になっていって……。

 

 ――あはははははははは!

 

「うわあああああああああああっ!?」

 

 俺は叫び声をあげて目を覚ます。

 

「……はぁはぁ……はぁはぁ……はぁ……はぁ~……」

 

 最悪の気分だ。荒い息を落ち着いて整える。

 

 もう本当に最悪だ……。

 

 少し前から満月の夜に毎回見るようになった夢。

 

 吸血鬼に襲われる夢。

 

 もうなんなんだよ……。

 

 俺は私立の小学校に通うごく普通の小学生なんだぞ!? 名前も中村 拓也って普通なのに、いったいどうしてあんな夢を見るようになったんだ?

 

「もう嫌だ。忘れたい……。吸血鬼に襲われる夢なんて見たくねぇよ」

 

 しかも、夢の最後は絶対吸血鬼のお姉さんの高笑いとか、最悪の起こされ方だし……。

 

「拓也~! そろそろ起きなさ~い!」

 

 お母さんの声。

 

「もう起きてるよ~!」

 

 正直、お母さんに起こしてもらいたかった……。

 

 パジャマから小学校の制服に着替えるためにだるい体を起こした。

 

 ああ……あの夢を見たあとってオチンチンが腫れて痛いんだよな……お父さんお母さんは病気じゃないって言ってたけど……。

 

 ほんとに最悪だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってきま~す」

 

「気をつけていくのよ」

 

「は~い」

 

 自宅のマンションから出て、小学校へ向うバス亭まで歩き、バスに乗り込む。

 

 ここから学校まで30分ほどバスに揺られる事になる。

 

「「おはよう、中村くん」」

 

 いつもの先客がバスの一番後ろの席に座っていた。

 

「おはよう、バニングスさん、……月村さん」

 

 同じクラスの外人みたいな金髪のアリサ・バニングスさんと、紫色の髪をした月村 すずかさん。

 

 あと1人、高町なのはっていうヤツがいて、3人はいつも一緒にいる。学校では仲良し3人組と認識されてる。

 

 他の友達ともあいさつを交わして開いた席に座ろうとするが、ここで問題が……。

 

 席が後ろ側しか開いてない。

 

 いや、バニングスさんや月村さん、それにその間に指定席のように座るなのはも可愛いから学校でも人気だし、近くに座るのが嫌ってわけじゃないよ?

 

 自分でも3人ともすごく可愛いって思うし……。

 

 でもね、でも……。

 

「どうしたの中村くん? 座らないの?」

 

 なかなか座らない俺に声をかける月村さん。そう、この子が問題なんだ。

 

 大問題なんだ……。

 

「どうしたの?」

 

「はっ! はい! 何でしょうか!?」

 

「バス出発するよ? 座らないと危ないよ?」

 

「そ、そうですね! 座ります!」

 

 仕方無しに最後尾の1つ前の席、もちろん月村さんから一番離れている位置に座る!

 

「ねえ、中村くん」

 

「何? バニングスさん?」

 

 視線を前に向けたまま返事をする。

 

「あんた、最近変じゃない?」

 

「変? 何が?」 

 

「まあ、変なのは前からだったけど、最近あんた、すずかのこと避けてるでしょ?」

 

 なっ!? なぜバレタ!? おかしいところなど1つもなかったはずなのに!? っていうか前から変って失礼な!

 

「そんなことないよ~?」

 

 俺はまったく動じずに答える。さてと、昨日借りた本を読まないと。

 

 ぐいっ。

 

「いだっ! 何するんだよ!」

 

 髪を引っ張られた! 絶対10本は抜けた! マジで泣きそう! 酷いよ! マジで酷い!

 

「あ、ゴメン。――って、それより、なんですずかを避けるか言いなさいよ」

 

 表情を消して平然と返す! 怪しまれないようにな!

 

「避けているつもりはな――」

 

「――いわけがないでしょ」

 

 断言ですか……。

 

 バニングスさんが指をさしてきた。

 

「あんた本逆さまに読めるの?」

 

「あ、や……」

 

 クソ! 慌てすぎだぞ、俺! 本を逆さまとかどれだけベタなんだ!?

 

 即座に直して読み始める! 12×32……算数の教科書……うん、分からない。

 

 本を閉じて鞄にしまう。

 

「さて――」

 

 学校に着くまで寝るから、着いたら――。

 

「ねえ、どうして中村くん。どうして避けるの?」

 

 言おうとしたら月村さんがとうとう参加してきたぁあああああ! 絶対に後ろを見るんじゃない! 見ちゃダメだぁああああ!

 

「こっち見なさいよ!」

 

 い、や、だ!

 

「ねえ、こっち見て話そう」

 

「……はい」

 

 月村さんには逆らえません……。

 

「え、えっと何? なんですか? 月村さん」

 

「どうして避けるの?」

 

 不安げに、悲しそうに訊いて来る月村さん。ゴメン、なんか申し訳ない気持ちになるけど……。

 

 ここは正直に――。

 

「……いんだ……」

 

「え?」

 

「聞えないわよ! 何? はっきり話しなさいよ!」

 

 聞えていた風の月村さん。だけどバニングスさんには聞えなかったみたいだ。もう一度言う。

 

「月村さんが怖いの……」

 

「はあ?」

 

 意味不明と眉を歪めるバニングスさん。こちらを見たあと、月村さんの顔を見て訊ねた。

 

「すずかが怖い? なんで? 何かしたのすずか?」

 

「わ、私はなにも……」

 

 うん。月村さん自身が怖いわけじゃないんだよ。

 

「それが……、最近夢を見るようになって」

 

「「夢?」」

 

 首を傾げる2人。俺はうなずいてから話し始める。

 

「うん。吸血鬼に襲われる夢を、ね……」

 

「吸血鬼?」

 

「――っ!」

 

 バニングスさんは眉をひそめて、何を言ってるんだという表情になり、月村さんはビクッと体を跳ねさせた。

 

「その吸血鬼がすずかに似てるって言うの?」

 

 バニングスさんは俺の言いたい事を先読みして言った。さすが学年1位の学力を持つバニングスさんだ。

 

 俺はうなずいて打ち明ける。

 

「そうなんだ。夢で薄く光る紫色の髪の、真っ赤な目をした吸血鬼のお姉さんに襲われる夢を見るんだ……」

 

「紫色の髪に真っ赤な目ね~。紫色の髪は確かにすずかの特徴だけど……」

 

「…………」

 

 じろじろと月村さんの髪を見るバニングスさん。月村さんは何か考えるように無言で俯いている。

 

「ねえ、中村くん」

 

 月村さんが話しかけてきた!

 

「な、なんですか?」

 

「ん~、とりあえず敬語はやめて」

 

「は、はい! ――いや! うん! わかった!」

 

 ニッコリうなずく月村さん。――すごい迫力っ!

 

「その吸血鬼のお姉さんって私にそんなに似てるの?」

 

「え、あ……紫色の髪ってのが似てる。顔は目がずっと赤く光っててわかんなかった……」

 

「それでなんでそんな夢を見るようになったの?」

 

「それは――」

 

 記憶を探る……。え~と……確か。

 

「そう! 高町さん家の恭也さんに本とビデオ借りたときだ!」

 

「「本とビデオ?」」

 

「吸血鬼が出てくるヤツですごい怖かったのをよく覚えてるんだ……」

 

 恭也さんに借りた本とビデオの内容を思い出す。ああ……ほんとに怖かったな……。

 

「どんな内容だったの?」

 

 バニングスさんが気になると聞いてきた。

 

「確か……ビデオではバンパイアのハーフで、バンパイアハンターの男の人がバンパイアたちと戦うヤツで、始めからバンパイアが何人も血を吸って殺してた……。お父さんもお母さんもいなかったし、恭也さんに1人で見てみろって言われてて……正直見たことを後悔したよ……本の方も同じような感じで吸血鬼が人を襲う話だった」

 

「それは怖そうね……」

 

「…………」

 

 同意するバニングスさん。だけど、月村さんは難しい顔をしたままだ。

 

「ほらこの本を借りたんだ……」

 

「ずいぶんと分厚い本ね」

 

「え~と……これ」

 

 俺の取り出した本は分厚い大きな本で表紙には月明かりに照らされた、真っ赤な目の女の人が口から血を流して微笑んでいるものだ。

 

「うわああ……」

 

「…………」

 

 手にとってパラパラと読み始めるバニングスと、何ともいえない表情で表紙を睨む月村さん。

 

「ちょっとこれ、まだ習ってない漢字ばかりじゃない。あんたに読めるの?」

 

 意外そうに訊いて来るバニングスさん。失礼な!

 

「読めるわけ無いだろ。お父さんとお母さんに読んでもらったんだよ」

 

 頭のいい君たちと違って中の下から下の上ぐらいだからね! 普通に読めません!

 

「威張って言うことじゃないわよ……」

 

「こんな難しい本すらすら読めるのはバニングスさんぐらいだよ」

 

「そりゃあ……塾に通っているし……あ、すずかも読めるわよね?」

 

「あ、ああ、うん」

 

 そういや、月村さんっていつも分厚い本読んでたなぁ~。

 

「じゃあ、あんたは恭也さんに借りたビデオと本読んで、夢ですずかによく似た女の人に襲われたから、すずかを避け始めたの?」

 

 呆れたようなバニングスさん。

 

「そ、そうだけど……」

 

「バッカじゃないの?」

 

「いや、そ、それは……」

 

「そんなんですずかを避けるなんて酷いとは思わないの?」

 

「そ、それは……ごめんなさい……」

 

「私に謝ってもしょうがないでしょ。勝手に避けられたすずかに謝んなさい」

 

「ご、ごめんなさい。月村さん」

 

 座席に座って土下座する。

 

「え、あ、べ、別にいいよ。中村くん……」

 

 気にしていないと微笑む月村さん。どこかまだ悲しそうだった。ほんとにごめんなさい……。

 

「なにしてるの?」

 

 後ろから聞えるお馴染みの声。姿勢を正してあいさつをする。

 

「おはよう、高町さん」

 

 続いてバニングスさんと月村さんもあいさつをした。

 

「おはよう、なのは」

 

「おはよう、なのはちゃん」

 

「おはよう」

 

 と、なのははバニングスさんと月村さんの間の席に座った。

 

「なにしてたの?」

 

 なのはが尋ねてきた。

 

「なにって謝罪?」

 

「謝罪?」

 

「うん」

 

「そーなんだ」

 

 会話終了。

 

「ってそれだけなの!?」

 

 溜まらないとバニングスさんが席から立ち上がって怒鳴ってきた。

 

「それだけって……」

 

 他に何が?

 

 首を傾げる俺となのは。バニングスさんが拳を目の前で握り締めながら話し始めた。

 

「もう! あんたらは! 最近中村くんがすずかを避けてたみたいだから、避けていた理由聞いて謝らせたのよ!」

 

「ああ、そういえば! なんで避けてたの?」

 

 はっと気づいた様子で訊ねてくるなのは。バニングスさんがすぐに答える。

 

「恭也さんに借りた本とビデオで怖い夢見て、怖い夢に出てきたヤツがすずかに似てたから避けてたそうよ」

 

「ああ……。拓也くんってホラー系嫌いなのによく読んだり、ビデオ見たりしてるもんね~」

 

 呆れたように言うなのは! バニングスさんに続いて呆れられた……。

 

「お兄ちゃんも拓也くんにホラー系の本とか貸すから、どうせまた何か怖いものが出来たんでしょ。今度は何? この前は狼男が怖いって犬怖がってから、今度はゾンビ? 吸血鬼? それともフランケンシュタイン?」

 

「――なっ!? おまっ! それは秘密だって――」

 

 なのはの口を塞ごうとするが距離が遠くてダメだ! 月村さんもいるからなお、無理!

 

「へぇ~、中村くんってすごい怖がりなんだぁ~」

 

「狼男の本読んで、犬が怖くなったの? ――ふふ」

 

 バニングスさんが嬉しそうな顔でこちらをニヤニヤ見てきた……! そして月村さん! その質問! そして最後に気づかれないと思ったか!? 笑いやがったな!? クソッ!

 

「そういえば秘密だった!」

 

 今頃口を塞ぐなのは! だから……だから――。

 

「だからおまえは近所の高町さんになって、高町さんから卒業できないんだ」

 

「にゃ!? そんな理由でなのはって呼ばなくなったの!?」

 

 驚くなのは。そんな理由だと!? 俺の秘密を暴露しまくったヤツがそれを言うのか!? もう知らん!

 

 丁度学校にバスが到着したようなので、さっさと出口に向う。

 

「じゃあね、近所の高町家の高町さん」

 

「うう~……!」

 

 後ろで唸っているようだけど、無視!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バスから降りて授業が始まり、早4時間目ももうあと10分で終わろうかというところ。

 

 俺は蛇に睨まれたカエルのように固まっていた。

 

 始まりは授業開始。

 

 背中に鋭い視線を感じたんだ……。

 

 視線を感じる場所は真後ろ……一番端の窓側、後ろから2番目の席に座る俺の後ろは月村さん。月村さんしかいないんだ……。

 

 まるで嘗め回すような視線が朝から続いていた。

 

 当然、1時間目から4時間目まで「視線を感じるんだけど、どうしたの?」とかやんわり注意するチャンスもあったけど、吸血鬼に完全にビビッてる俺ではそんなこと言えるわけもなく視線に耐えていた。

 

 で、手鏡を持っていなかったから窓ガラスの反射で後ろの席の月村さんの様子を覗いて見ると――。

 

 月村さんはまるで美味しそうなケーキをどこから食べようかなと悩んでいるような、ヤバイ顔で俺を眺めていたのだ。

 

 何この子、超怖いんですけど!?

 

 しかも、なにやら後ろから、はぁはぁ聞える!

 

 身の危険を感じて体から嫌な汗が出ちゃう! さらにおしっこちびりそうになったところで、午前の授業が終わった!

 

 終了と同時にバニングスさんがいつものように月村さんを昼食に誘いに来た。

 

 ――ここだ!

 

 逃げろ! トイレへ急げ!

 

 俺は戦略的撤退を行った……午後はそのときになってから考えよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業中。私はずっと前の席に座っている中村くんを眺めていた。

 

 最近、中村くんに避けられ始めたのは気づいていた……というか、あからさまに避けられていたからね。――本人は気づかれていないつもりだったようだけど……。

 

 はぁ……。

 

 それにしても避けられていた原因がまさか恭也さんだったなんて……。

 

 しかも、吸血鬼が怖くなって、私が夢に出てくる吸血鬼に似てるから怖くて避けてたなんて、『夜の一族』っていう吸血鬼みたいな一族の私は笑えない。

 

 中村くんに私が吸血鬼だってバレたら絶対怖がられるよ。

 

 恭也さんもなんでお姉ちゃんと付き合ってるのに、吸血鬼に悪いイメージを持たせるようなものを中村くんに貸すの?

 

 はぁ……。

 

 それにしても中村くんってそんなに怖がりだったんだ。私自身クラスであんまり喋るタイプじゃないから知らなかったなぁ~。

 

 ふふっ、でも狼男が怖くなって犬を怖がったって、フランケンシュタインを読んだら人形を怖がるようになるのかな?

 

 う~ん……どうなんだろう?

 

 試してみたいような気もしないでもないな~。

 

 ……それにしてもいい匂い……。

 

 何の匂いだろう?

 

 中村くんから匂ってくる……。

 

 香水かな? でも小学生が香水つけるかな? そういえば、避けられ始めてからいい匂いがし始めたんだよね。

 

 本当に何の匂いだろう?

 

 はぁ……、美味しそう……。

 

 ――っ!?

 

 今いったい私は何を……!?

 

 な、中村くんの血が吸いたいって思っちゃった?

 

「……か! すずか! すずかってば!」

 

「――っ! あ、はい!? ――って、アリサちゃん」

 

「どうしたのよ、すずか」

 

「いや、な、なんでもないよ」

 

 はぁ……危なかったぁ……。

 

「ほら、昼休みよ。屋上に行きましょ」

 

「うん」

 

 中村くんはいつの間にか消えてた……。いい匂いの正体……知りたいな。

 

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