※この作品はR-18です。

吸血鬼コロシっていうおかしな体質   作:上平 英

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第2話 さすがの恭也さんも、美由希さんの魅力には敵わない

 午後の授業も華麗に気に抜けた俺は校門のバス停でバスを待っていた。

 

「あれ? 拓也くんも今帰りなの?」

 

 後ろから声をかけられた。振り返ってみるとなのはと、バニングスさん――と、月村さんだった。

 

 くっ! まさかバスの時間が重なるなんて……!

 

 こいつらいつも教室に残っていたはずなのに今日に限ってなぜだ!? それに帰りはあまりバスを利用しなかったんじゃないのか!? 

 

 俺の疑問に答えるように、なのはが話し始めた。

 

「もう、いきなり帰るんだから急いできたんだよ」

 

「は? 急いで? なんで急ぐ必要があるんだ?」

 

「え? 今日家のお兄ちゃんに本返しに来るんでしょ。それに道場で遊ぶって聞いていたけど?」

 

「なんで高町さんがその事を……?」

 

 俺は言っていなかったはずなのに!?

 

「お兄ちゃんが言ってたよ」

 

「恭也さんが!?」

 

 なぜだ!? なぜ言ったじゃないですか恭也さん!? 秘密の特訓だからカッコイイのに、話したら秘密の特訓じゃなくなるじゃないか!

 

「むう……お兄ちゃんは名前……。もう! なんで私だけ苗字で呼ぶの!?」

 

「そうよね。同じクラスだし、いい加減名前で呼び合ってもいいんじゃない?」

 

「うん。そうだよね」

 

 お怒りのなのは。そこに便乗するバニングスさんと月村さん。

 

「え、い、いや……それは――」

 

「昔は普通に『なのは』って呼んでたのに……」

 

 涙目のなのは。……うっ。なんか悪いことしているみたいな気分になってきた。

 

 と、そこでバニングスさんが詰寄ってきた。腰に手を当てて人差し指を突きつけてくる。

 

「なにか名前で呼べない理由でもあるの!? 言ってごらんなさいよ!」

 

 校門の前で大声出すから、周りまで騒ぎ始めた!

 

 っていうか、バニングスさんの瞳がヤバイ。外人さんの青い瞳に見つめられると何でもはいてしまいそうになる……。

 

 それに、ここで言わないなんて無理だ……。

 

「さあ、言いなさい! さあ、さあ、さあ!」

 

 どんどん詰め寄るバニングスさん。顔が近い。

 

「う、あ……、だ、だって、お、女の子を名前で呼ぶなんて恥ずかしいじゃん……」

 

「「「はあ?」」」

 

 くっ! 正直に答えたのに! 3人ともポカンとなった。

 

「恥ずかしかったから、いきなり『高町さん』って呼び始めたの?」

 

「女の子を名前で呼ぶってなんか恥ずかしいって」

 

「恥ずかしいんだ」

 

 なのはにバニングスさん、月村さんがニヤニヤこちらを見つめてきた! クソぅ……。

 

 それからニヤニヤ3人娘に弄られること5分後に、やっとバスが到着し、解放された。――一時的にだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的地に一番近いバスから降りる。

 

「ちょっと! あんた待ちなさいよ!」

 

 速攻でバスを降りて逃げようとしたところを、バニングスさんに呼び止められた。その後ろには高町さんと月村さん……。

 

「なんですか?」

 

 目的地に向いながら聞く。もちろん早歩きで。

 

「なにってあんた! 目的地が一緒なんだから、一緒に行けばいいでしょ!? なんで1人で先に行くのよ!」

 

 グイっ!

 

「ぐへっ!?」

 

 いきなり首根っこを掴まれた……、一瞬目の前が真っ白になったんだけど!?

 

「なにするんだよ!? マジでさっき息止まったぞ!」

 

「あ、ゴメン……」

 

 ぱっと手を離すバニングス。だけどすぐに気を持ち直して問い詰めてきた。

 

「――って、それよりさっきの話よ! 何で1人で先に行くのよ!」

 

「男1人で女の子と、それも複数と一緒に歩くなんて出来るか!」

 

 それも学校で人気のある3人と一緒に、しかも、そのなかの1人の家に行くなんて恥ずかしすぎだ!

 

「はぁ……、まったくあんたは……」

 

「どうしてこうなっちゃったんだろう?」

 

「ふふっ……可愛い……」

 

 やれやれと呆れた風のバニングスさん、首をかしげながら苦笑いするなのは……、そして明らかにお姉さんやお母さんみたいな、年上の雰囲気を漂わせながら微笑む月村さん。

 

 こいつらほんとに恥ずかしくないのか?

 

 っと、ここで100m先の前方によく知った人を発見した! 俺は足に力を込めて走り出す!

 

「あっ! 中村くん!」

 

「拓也くん!?」

 

「?」

 

 後ろで3人組みが何か行っているが関係ない。無視して飛び出す!

 

「恭也さ~ん!」

 

「ああ、拓也か」

 

 あちらが認識したところで鞄から本を取り出す! そして――その本で殴りかかる! 狙いはとどいてダメージが大きい腹だ!

 

「覚悟ぉおおおおお!」

 

「ふっ、甘い」

 

「くっ……!」

 

 腹を打ち抜こうとした本を冷静に受け止められた!

 

「まったく……随分と手荒い返却方だな。そんなに怖かったのか、ん?」

 

「すごくっ……! すごく怖かった! それに変な夢まで見るようになったし、最悪だ!」

 

「ははは、それはよかったな」

 

 いい笑顔で微笑む恭也さん。俺がこの本のおかげでどれだけ悩まされているかを知らないのか!

 

「あら、たっくんじゃない。早かったわね。家に帰らずまっすぐ家にきたの?」

 

 と、眼鏡三つ網ポニーの美由希さんが話しかけてきた。あ、いたんだ。

 

「こんにちは、美由希さん。道場で新技試しに着たよ」

 

「うふふ、また漫画とかの技?」

 

 ぐしゃしゃと優しく頭を撫でてくれる。この人料理は破壊的だけど優しくて好きだ。

 

「うん!」

 

 元気よく返事をする。

 

「やれやれまたか」

 

 恭也さんは腰に手を当てて苦笑してる。

 

 …………。

 

 う~ん……美由希さんは学校帰りっぽくてセーラー服か~。

 

 ……よし。今日こそ恭也さんを倒してこの体にうずまくムカつきを全部発散させてやる!

 

 そうと決まれば! がばっと顔を上げて恭也さんを睨む!

 

「恭也さん!」

 

「ん? どうした?」

 

「今すぐ勝負して!」

 

「さっき帰ってきたばっかりなんだが?」

 

「今すぐっ! 勝負して!」

 

 服を掴んで頼む!

 

「いいじゃん! 勝負してよ~!」

 

「着替えてからでもいいだろう……」

 

 めんどくさそうな表情になった恭也さん。美由希さんがこちらをフォローしてくれた。

 

「いいじゃない、恭ちゃん。勝負してあげたら?」

 

「さすが美由希さん! そんな美由希さんが大好きです!」

 

 恭也さんから手を離して、美由希さんの手を取る。

 

「どうしよう恭ちゃん。告白されちゃった~」

 

 微笑む美由希さん。冗談だと分かっているだろうけど、若干頬が赤い……ような気がする。

 

 ん~。やっぱり美人だよな~。

 

 ――ゾクっ!

 

 背後に何か寒気を感じた!

 

 何だ!? 何が……。

 

「へぇ~、拓也くんってお姉ちゃんが好きだったんだあ。だから私のこと名前で呼ばなくなったんだあ」

 

 ヒッ!? こ、怖っ!

 

 背後にいたのはいつの間にか近くまで着ていた3人組。そして俺が絶賛恐怖を感じているのは、なのはだった。

 

 ていうか、マジで怖い! 笑顔なのに、笑顔なのに、細められた瞳はどんより濁っていて、ものすごい迫力を感じた!

 

 急いで美由希さんの後ろに隠れる!

 

「ちょっ!? たっくん!?」

 

 戦闘力では恭也さんよりも低い美由希さんだけど、恭也さんはシスコンだから対高町さんには使えない。だから美由希さんの後ろに隠れる!

 

「……美由希さんバリアー」

 

「なんで私を盾にするの!? 大好きじゃなかったの!?」

 

「俺を守ってくれる美由希さんが大好きなんです」

 

「普通男の子が女の子を守るんじゃないの!?」

 

「でも美由希さんは女の子の前に武人だから。恭也さんも女としてみるなって言ってたし」

 

「恭ちゃ~ん!?」

 

「だから美由希さん、俺を守って」

 

「い~やぁあああああああ!」

 

「――ねえ、ふざけてないで、いい加減お話ししよう」

 

「「ヒッ!?」」

 

 完全に美由希さんと俺のやり取りを無視して、目の前まで接近したなのは! その目はドス暗く、「先に道場に行ってるからな~」と恭也さんも逃げてしまうほど、怖ろしかった……。

 

「じゃ、じゃあ、私も……、じゃあね! たっくん!」

 

「なっ!? 美由希さんまで!?」

 

 どうしよう! 盾が無くなった! しかも、恭也さんへの復讐の手段が無くなった!

 

「ねえ、お話ししよう?」

 

「た、高ま――」

 

 ――そっ……。

 

 優しく頬に添えられる高町さんの左手。温かいのに、暖かいのに、冷たく感じる……。

 

 ど、どうしよう!? 恐怖で体が動かない!

 

 なんはの口がゆっくりと動く。

 

「な、の、は」

 

 ……へ?

 

 しっかりと目を正面から見られる。

 

「『なのは』って呼んで」

 

「いや――そ、それは――」

 

 目を離そうとしたが、なのはの左手と濁った瞳が動くのを許さない!

 

「私、ずっと我慢してたんだよ? いきなり『なのは』って呼ばれなくなって」

 

「うっ……」

 

「私、悲しかったんだよ? 何か悪いことでもしたのかな? って考えたり、悩んだり……、理由を話してくれるまで我慢しようって決めてたのに……名前で呼ばなくなった理由が『恥ずかしいから』って」

 

 でも小学校に入ったら女の子と遊んだり、名前で呼び合ったりするのは恥ずかしいんですよ……?

 

 さらに右手が添えられる。もう足がヤバイです。迫力に負けて倒れそう……。

 

「ねえ、拓也くん」

 

「は、はひっ!」

 

 口が回らない! ここまでビビッタのはあの夢を初めて見たとき以来だ!

 

「これから『なのは』って呼ばなきゃ、――本気で怒るから」

 

 素敵な笑顔で宣言されました……。

 

「わかり、ました……。なのは……さん」

 

「なのは」

 

「わかりました。なのは」

 

「うん! いいよ」

 

 ぱっと手が離され、濁った瞳や暗いオーラも消えた……。

 

 はぁはぁ……はぁはぁ……。

 

 よく泣かなかった……よく泣かなかったぞ、俺ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『高町さん』から『なのは』と呼ぶように強制されてからすぐ、俺は逃げ出すように道場へ走った。

 

 刷り込まれた恐怖を忘れるためだ。

 

 ああっ、それにしてもマジで怖かったな。

 

 ……まったく、それにしてもなのはの迫力はなんだったんだ?

 

 前に桃子さんに感じたものに近い迫力だったぞ?

 

 はあ……。

 

 それより、さっさと準備しよう……。

 

 やっと完成した漫画の技を試せるんだし、嫌な事は忘れよう。

 

「おお、来たか」

 

「あれ? 士郎さん?」

 

 なんで恭也さん達の父にして喫茶店翠屋オーナーの士郎さんがいるんだ?

 

「今日は翠屋が休みだからね。久しぶりに恭也と拓也くんの試合を観戦しにきたんだ」

 

「ん~、試合ってものでもないんですけど? 遊びだし」

 

「あははは」

 

 笑う士郎さんだけど、若干苦笑いな気がする。

 

 まあ、別にいいんだけど。

 

「やっほー、たっくん。生きてたんだね」

 

「何気に酷い!」

 

 ショックを受けて道場に倒れる!

 

「あははは~、ごめんごめん」

 

「うう~……」

 

 美由希さんがしゃがんで頭を撫でてくれるが、心は癒されない……。俺の恭也さんを倒す作戦がなくなっ――あれ?

 

 ライトグリーンなものが視界に入った。

 

 パンツだ。

 

 あれ? 美由希さん、いつもジャージなのになんで?

 

 コツンっ。

 

 疑問に思いながら見ていると美由希さんに頭を小突かれた。痛い。

 

「まったく……、女の子に興味持つのは早いんじゃない?」

 

 立ち上がり微笑む美由希さん。俺はふらりと立ち上がって美由希さんの両手を取る!

 

「ナイスです! 美由希さん!」

 

「ええっ!?」

 

 完全に戸惑う美由希さんだけど、俺の心は燃えていた! これで恭也さんに勝てる! ――かもしれない!

 

「お~い、始めないのか~?」

 

 いつの間にか恭也さんが準備し終えていた。

 

「すぐに準備する!」

 

 俺は急いで準備を開始した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備が終わり、いよいよ始まりました俺VS恭也さん!

 

 審判は士郎さん。観客は美由希さんに、なぜか仲良し3人組。

 

「拓也くん、がんばって~!」

 

「負けるとは思うけど、がんばんなさいよ、拓也!」

 

「拓也くん、がんばって」

 

 3人で遊んでろよとは思うけど、応援してくれてるし、あっち行けとは言わない。

 

 それより、美由希さんの位置を確認しておく。真後ろか。

 

「じゃあ、そろそろ始めようか」

 

「「はい」」

 

 審判役の士郎さんが片手をあげる。

 

 それと同時に戦闘態勢をとる。

 

 恭也さんの武器は木でできた小太刀の二刀流。なんでも御神流とかいうもので、剣道とは違うものだという事は教えてもらった。

 

 その流派には必殺技がいくつもあるらしいけど、見せてもらうだけで、教えてもらっていない。これは遊びじゃないんだって言われて。

 

 まあ、技は知っているし、試合では使わないそうだから関係ないけど。

 

 一方、俺は武器は士郎さんに貰った刀!

 

 もう! この重さがたまらない!

 

 銃刀法違反になるだろうから、本物じゃない模造刀だろうけど、重さから鍔から刀身の輝きから本物っぽいんだ!

 

 鞘もカッコイイし!

 

 恭也さんの持ってる小太刀は木でできた木刀だけど、そっちもカッコいいんだよな~。

 

「……嬉しそうだな?」

 

 恭也さんが真剣な表情で訊ねてきた。

 

「そりゃあ、当然! 漫画みたいな勝負ができるんだから楽しくないわけがないよ!」

 

「漫画って……」

 

「……あはは」

 

 なのはのついでに名前で呼ぶ事になったアリサとすずかが呆れたように呟くけど、テンションマックスな今の俺には関係ないね!

 

「あははは……、拓也くんって昔から漫画とかアニメとかに影響されやすいんだよね~」

 

「別にいいだろ! 好きなんだから!」

 

 強いのに憧れて何が悪い! 俺は漫画もアニメも好きだし、やれる可能性がある技なら試してみたいと思うのは当然だろ!

 

「始めるぞ」

 

 完全に戦闘モードに入った真剣な恭也さん。おっと、忘れていた。

 

 俺はゆっくりと鞘から刀を抜いて構える。

 

 うう……大人用だし、長いから抜きにくいし、動かさずに構えたままはキツイ。

 

 でも――。

 

「本の恨みも、これまでの恨みもあるから、今回はなにがなんでも勝たせてもらう!」

 

「――ふっ、いままで一度も勝ったことのないクセして……。――やってみろ、拓也」

 

 ――シンっと静かになって空気が変わる。

 

「準備はいいね?」

 

士郎さんの手が振り下ろされる!

 

「――では、始めっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――では、始めっ!」

 

 父さんの合図で始まった勝負。

 

 俺は18歳、相手は7歳。

 

 そして俺は古武術、永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術の師範代で、相手はド素人小学生。

 

 ……周りから見れば子供を虐めているようにしか見えないが、俺は勝負で手を抜くつもりはない。

 

 子供と、しかも相手は遊びだと思っているこの勝負では、流派の技を使わないと父さんと決めているので、俺の攻撃は純粋な二刀の小太刀による攻撃だが、それでも普通の小学生が避けたり防いだり出来るはずがない。

 

 それに俺は師範代クラスの実力者。

 

 だが俺の攻撃をこいつは軽く――ではないが、きちんと避けたり、防御する。こいつは決して普通の小学生ではないのだ。

 

「クソ! ほんと子供にも容赦が無い!」

 

 悪態をつく拓也。

 

 一応かなり手加減してるんだぞ。まあ、今回はなのはたちの前で負けるわけにはいかないから、いつもより若干本気だが。

 

 それに勝負の勝敗は一撃が入るか、気絶するかだから、不意に技を決められて負けるわけにはいかないんだ。プライド的にも……。

 

 なので最初から離れさせずに小太刀で攻め続け、集中力を切らせる!

 

 拓也は集中力が高くなったり低くなったりムラが大きいからな。そこを攻めさせてもらう。

 

「――っ! もう! 仕方ないな!」

 

 イライラし始めた拓也は俺の予想通り、回避や防御が疎かになり始めた。

 

 ――が、ここからが本番だ。

 

「とっておきを見せてやる!」

 

 ほらな。

 

 ばっと俺から離れた拓也は刀を真っ直ぐ上に軽く投げ、重力で真っ直ぐ落ちてくる刀を腰にさした鞘で受け止めた。まったく器用なヤツだ。

 

 刀を鞘に戻した拓也は居合い抜きの構えをとった。

 

「――すぅ……」

 

 呼吸を変化させ、異様な雰囲気を纏う拓也。

 

 はあ……、今度はいったいなんの漫画だ?

 

 いや、それよりなんで漫画で居合い抜きが覚えられるんだ?

 

 一応できてる剣術の基礎もガンダム見て練習して覚えたヤツと言っていたし……。

 

 いやいや、今はそれよりも集中だ。

 

 あいつが居合い抜きの構えを取ったって事は、できるって事だ。油断は出来ない。

 

 御神流の技はもちろん、虎の子の神速も封じられているし、不意の一発は怖い。

 

 集中して周りの全てを消し、拓也を狙う!

 

「――っ!?」

 

 拓也目掛けて攻撃を仕掛けようとした瞬間――拓也から動いた!

 

 なっ!? 拓也から動いた!? 居合いはカウンター技じゃなかったか?

 

 どんなとんでも技が飛び出すのかと、俺は距離を取って警戒したが、その警戒が無駄だった事をすぐに思い知らされた。

 

 ガチャガチャッ……。

 

「あ、あれ!? 抜けない!?」

 

「…………」

 

 居合いの格好から刀が抜けなくて困っている拓也……。

 

 最大の勝負となったところでのハプニング……。観客も、父さんでさえ呆れていた。

 

 俺も高めていた集中が切れかけた。

 

 まあ、冷静に考えてみれば当然か。

 

 普通、小さな子供が大人用の刀を腰にさした状態から高速で、しかも滑らせながら抜くなんてこと出来ないよな。腕の長さ的にも。

 

「クソ! 予定が狂った!」

 

 無理やり刀を鞘からだす拓也。ここで倒す事も簡単だが待ってやる。ここで攻撃して倒したら、なのはたちに怒られそうだからな。

 

「よし! 改めてとっておきを見せてやる!」

 

「さっきと構えが変わったが、それはいいのか?」

 

「別の必殺技使うからいいの!」

 

「そうか」

 

 こいついくつ必殺技持ってるんだ?

 

「行くぞ!」

 

「こい!」

 

 先ほどと違って正面から突っ込んでくる拓也。左手で刀の鍔近くの柄を持ち、右腕は力を入れずに流している。

 

 なんだこの構えは? 右腕がないみたいな……。

 

「くらえ! 天!」

 

 横に凪ぐ刀の一閃! 相変わらずド素人の子供とは思えない鋭さだ!

 

「――っ!?」

 

「地!」

 

 横に凪いだ刀を戻してのニ連激!? なんとか避けられ――っ!? まだ続いている!?

 

 戻した刀を頭上に上げて、さらに左足を大きく上げ、一気に振り下ろしてきた!

 

「じぃぃぃいいいいいいいいん!」

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 気合を入れて全力で後ろに下がる。――っく、危なかった……。さっきのは本当でもらいそうになった。

 

「ちっ! 避けられたか!」

 

 悔しそうな拓也。様子は完全に子供だが、放った技の切れ味は抜群だった。

 

 道着の襟部分が少し切れるほどだ。拓也の刀は一応本物だが歯を潰している。なのにこの威力――マジで怖ろしい子供だな。

 

 だが――。

 

「もう通じないぞ」

 

 そうだ。どんなトンでも技だとしても、一度受ければ、もう次から対処できるし、筋力など身体能力でも俺の方が有利。

 

 拓也もこれまでの経験でそれが分かっているらしいが、構えは変えなかった。

 

「なら、今度はとっておきのとっておきだ! 今日は初勝利+これまでの恨み全部晴らさせてもらんだからな!」

 

「恨みって、勝負で一度も勝てないのも大人と子供の勝負以前に、おまえは遊びで俺はずっと鍛えている剣士だから、俺が勝つのは当然の事だ。それともう1つは、おまえが怖がりのクセしてホラー系を見たがるからだろ? 俺はただ本を貸しただけだ」

 

 そう。昔からつきまとってくるのがうるさくて、追い払うのにホラー系の本やビデオを使っていたからな。

 

 今回も「この本とビデオを見終わったら勝負してやる」って言って追い払ったんだし。

 

 ……いや、これだけの理由だと俺が大人気ない最低な高校生にみえないか?

 

 それは違うぞ。

 

 俺は再び拓也に襲い掛かる。

 

「くう……!」

 

 苦悶の表情を浮かべる拓也。俺の視界の端に映った妹、なのは。心配そうな表情で拓也を見つめていた。

 

 そう。これが……なのはが理由だ。

 

 昔から俺につきまとう拓也に、拓也につきまとうなのは……。

 

 数年前、父さんが仕事で大怪我して、俺が家族を守るんだっていきがってバカみたいに無茶な修行して、母さんが父さんの見舞いと翠屋の経営で苦労し、美由希も母さんの手伝いなどで、1人になったなのはを近所で母さんの友人の家に昼間預けていた。

 

 その預けていた家も両親が共働きでなのはと拓也の2人きりになる事が多かったが、うちのように夜遅くまで帰ってこないわけではなかったからなのはを預けていたんだが、預けた家の子供、拓也に問題があった。

 

 拓也がものすごいバカだという問題が!

 

「いい加減倒れろ!」

 

「やだ!」

 

 ほんとに! 昔からこいつはなにかの影響に受けやすくて、子供らしい、天真爛漫という言葉を使えばいいイメージになるだろうが、俺からすればこいつはバカだ! ものすごいバカだ!

 

 どれだけバカかっていうと、夏に熱いという理由で家のなかで全裸で過ごしたり、バカのような悪戯したり、突然ふらりと夜中に外に出て行ったりするほどのバカなんだ。

 

 しかも、1人だけならいいものを、拓也はなのはを巻き込んだ!

 

 周りに大人がいなかったせいもあるだろうが、なのはを悪戯に巻き込んだり、全裸にする必要はないだろう!

 

 今はお互い昔の事はすっかり忘れて、拓也も女の子と遊ぶのが恥ずかしくなり出したようだが……、父さんの退院の日取りが決まって、お互いの両親が気づいた頃、拓也となのはは、男と女の違いを不思議がってお互いであれこれ弄りあっていたそうだし!

 

 もちろんその後キツイお仕置きを2人とも受けたそうだが、理解していないからってお互いで弄り合ったりしちゃだめだろ!

 

 ……だが、そのおかげで子供は大人がしっかり見ていないとダメだと気づき、俺も修行の量を減らして母さんの手伝いして、バカとなのはの2人といられる(見張る)時間を増やして、なのはが実は寂しがっていて我慢していた事にも気づけて、俺も無茶な修行で体が壊れかけていた事に気づいて大事にはいたらなかった。

 

 拓也がバカだったおかげで結果的にいい事があったのは確かだ。

 

 だがしかし! しかし俺は! こいつをものすごいバカだという認識を一生変えるつもりはないし、このバカだけにはなのはを渡すつもりなども一切ない!

 

 父さんも母さんものん気になのはのお婿さん候補などと言っているが、俺は認めん!

 

 ああっ! だんだんイライラしてきた!

 

「うわっ!? やばっ! やばいって! マジで本気じゃん!?」

 

「ちゃんと手加減している!」

 

 本気ならもう終わってるに決まってるだろう!

 

「ちょっ!? いきなりマジでどうしたんだ!? 怖すぎる!」

 

 逃げに入る拓也! 止めだぁああああ!

 

「――っ! 美由希さん、そこどいて!」

 

 突然の拓也の声で座っていた美由希が立ち上がって場所を空ける。拓也は美由希がいた場所に逃げ込む。

 

 俺は左手に持った小太刀を真横に凪ぐ!

 

 ガンっ!

 

「くっ!」

 

 なんとか刀を盾にして止める拓也だが、圧倒的に筋力で勝っているのは大人で長年の修行で鍛え込まれた肉体を有するこちら。拓也の体が浮いて美由希のすぐ近くに飛んだ。

 

「いた~――っ!」

 

 倒れることなく美由希の隣に着地する拓也。痛がっているポーズをとるが、甘い。

 

 勝負は非情なものなんだ。追い討ちをかける!

 

「くらえ!」

 

 美由希がすぐ近くにいるが、これなら大丈夫だ! 上段の構えから両手で小太刀を真っ直ぐ縦に、拓也だけに当たるように振り下ろす! 手加減はしてるが当たれば痛いぞ!

 

 ――ニヤリ。

 

「――っ!?」

 

 笑った!? まさかなにか――「とっておきのとっておきを見せてやる!」――っ!

 

 そうだ! まだなにか隠している技があるんだった!

 

 だがこの場からの逆転? そんなの無理――。

 

「奥義――」

 

 ――っ! やっぱり何か隠してたのか!

 

 そういえば右腕が一切使われていない! だが今はその右腕が以外が動いていないし、その動きも妙だ!

 

 絶対に何かある!

 

 ――が、右手以外動かないという事は右手に集中すればいい事! 両手で小太刀を振りかぶっているが、手加減していて力はそこまで込めてないから対応も可能だ!

 

 俺の目で全て見切って、逆にカウンターを決めてやる!

 

 ――バッ!

 

 ――動いた!

 

「――っ!?」

 

 綺麗な肌色の形のいい太もも、美しい逆三角形に、その美しさを彩っているライトグリーンの……こ、これは――!?

 

「パンツ!?」

 

「え? ああっ! きゃあああああああああああああああああ!」

 

 俺の驚きの声の後すぐにあがる美由希の悲鳴! 右手に気をひきつけさせて美由希のスカートを捲ったのか! って拓也がいない! あの野朗っ! どこに――。

 

 ガオンッ!

 

「――っ!?」

 

 顎を突きぬけ脳を揺さぶる衝撃! いったい何が……?

 

「恭ちゃん!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「――っ」

 

 美由希となのはの声で、意識が浮かび上がり、何とか倒れる事は回避したが、綺麗に脳を揺さぶられた。

 

 立って入られない。無様に膝をつく。

 

 いったい何をしやがったんだ?

 

 顔を上げると満面な笑みとポーズを決めながら技名をつぶやいた。

 

「飛天御剣流、龍翔閃!」

 

 ……るろうにのアレか?

 

 刀の腹で顎をかち上げるっていう?

 

 本当に漫画の技でやられたのか、俺は?

 

 ヤツは刀を鞘に戻して、美由希をキラキラした眼で見ながらつぶやく。

 

「さすが美人で有名な美由希さん! 兄も美由希さんの魅力には敵わなかった!」

 

「え? そ、そうなのかな?」

 

 満更でもなさそうな美由希。そこは怒るところだろ!

 

「――って、女の子のスカートめくっちゃダメでしょ」

 

 可愛く怒るな! ニヤニヤしながら言っても説得力がないぞ!

 

「でも、戦略は大事だって士郎さんが」

 

 あんなもの戦略とは言わん! そこのところきちんと叱らないと! 美由希!

 

「ん~……、まあ、恭ちゃんに勝てたのは事実だしな~」

 

「そうだよ! いつもと違ってスカートはいてる美由希さんがいることが絶対で、勝負が始まってすぐに攻撃避けて、早めに大技を出す! ここで別に避けられることは予想していて、次にもっとすごい大技があるって嘘ついて、美由希さんがいる場所までおびき寄せて、美由希さん立たせて、近くの位置にやられたフリをして移動! そこで大技っぽい雰囲気だして右手だけ動かす! 恭也兄さんが右手に釘付けになったところでスカートを捲って、恭也兄さんが美由希さんのパンツ見て動きを停める! そこを新技で倒す!」

 

 誇らしげに長々と語る拓也。 

 

「がんばって思いついた恭也さんに勝てる手段なんだから!」

 

「じゃあ、拓也くんの戦術に見事にハマってやられちゃったんだ……」

 

 苦笑いの美由希。同情するような目でこちらを見てきた。

 

「ううっ……」

 

 視線が痛い……。

 

 クソ……! 最初から計算どおりだったのか……。というか子供の考えた作戦にやられるなんて……。

 

 うう……情けない……。肉体的なダメージはほとんどないが、完全に脳を揺さぶられたし、精神的なダメージでまだ立てない……。

 

 そこでやっと父さんが勝者の名を叫んだ。

 

「勝者――拓也!」

 

 その直後、父さんの笑い声が道場に響いた。

 

 7歳に負けてしまった……。

 




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