<中村 拓也>
「俺、大勝利~!」
道場からところ変わって、高町家のリビング!
初めて恭也さんに勝利した俺は、上機嫌で桃子さん特製のシュークリームを食べていた。
士郎さんと桃子さん、美由希さんに、仲良し3人組もいるけど、関係ない。
本当だったら仲良し3人組と仲良くおやつなんて食べないけど、もう秘密の特訓してることもバレたし、名前で呼ぶように強制されたからもう色々気にしないことにしたんだ!
あ、今ここにいない恭也さんは裏山に行くとかでいない。なんか落ち込んでいたようだから、俺に負けたことが悔しいんだろ。
ははは! これまで勝負挑んでボコボコされていた恨みだ! ぞんぶんに落ち込んでもらおう!
「お兄ちゃんに勝つなんてほんとにすごいよ!」
「恭也さんに勝っちゃうなんてすごいんだね、拓也くん」
なのはとすずかが褒めてきた。
「ふふふふ! もっと褒めて!」
初勝利を飾った俺をもっと褒めて!
「まあ、作戦はあれだったけど、恭ちゃんに勝ったのは事実だからね~」
「こちらとしては、あんな方法で負けた恭也が情けないだけどなぁ」
「ふふふ、まあ、仕方ないんじゃない? いままでの拓也くんの努力が報われたってことで」
美由希さん、士郎さん、桃子さんも褒めてくれた!
さらにここで隣でうずうずしていたアリサが、とうとう我慢できないと目をキラキラさせながら詰寄ってきた。
「あんたが恭也さんとの試合で使った技ってゲームの技よね!? あと、最後のも剣心の必殺技なのよね!?」
おおう! ものすごい興奮してる!
分かるヤツだったか!
「もちろんそうさ! 何度も練習してできるようになった必殺技なんだ! すっごい格好いいだろう!」
「うん! 生でゲームや漫画の技が見れるなんて思いもしなかったわ!」
「はははは! もっとすごい技も覚えてるんだぜ!」
「じゃあ、チンミの通背拳は?」
「おお、すずか! なかなか渋い! 一応通背拳も使えるよ! まあ、成功率は10回に1回なんだけどね~。――ってどうしたなのは?」
難しい顔、っていうか微妙な顔だ。
あれ? アリサもすずかもいきなりなんだ?
「い、いや……、少し前と態度がかなり変わってるから……」
「そうよね。昨日……いや、道場に行く前と今じゃ、あんた変わりすぎてて、なんかこっちが対応に困るわ」
「うん……さっきまで私のことも怖がってたのに、今は――」
すずかの言葉を吐き捨てる。
「はっ! 恭也さんに勝利した俺に怖いものなんてあるわけないだろ!」
吸血鬼のお姉さんも一発で倒してやるよ! 吸血鬼ごとき怖くないね!
「……拓也くん見事に調子にのってるね」
「そうね」
「ふふ、そうだね」
勝手に言ってろ! 俺は3人組を無視して士郎さんを指差す!
「今度は士郎さんに勝つ!」
「ほう――今度は僕かい?」
……途端に温度が下がったような気がした。
「――っ! さすが士郎さん! ものすごいプレッシャーだ!」
「僕は恭也と違ってさっきみたいな作戦は通じないよ?」
「でも、美由希さんじゃなくて桃子さんのスカート捲れば!」
「ふふっ」
――っ! 士郎さんが隣に座っていた桃子さんの肩を抱いた!
「それでも僕には通じない――諦めるんだね」
「あらやだ、士郎さんったら」
甘ったるい雰囲気をだす2人! パンツ見せたぐらいじゃ動揺しそうにない……!
「くっ!」
作戦が通じなきゃ勝てる相手じゃない……。
「――負けた。ううっ、まだまだ特訓しないと勝てないか……」
「あはは……。――まあ、たっくんはスジも発想もいいんだから、まずは正面から恭ちゃんに勝てるようにならないと」
よしよし、と美由希さんが頭をなでてきてくれた。
「ん~」
美由希さんに抱きつく。あったかくて優しいからやっぱり好き~!
「あはは、甘えん坊だねたっくんは」
「私にも甘えてくれていいのに~」
後ろでなのはが何か言ってきたけど、関係ない! ん~落ち着く~。
思う存分甘えたあとは、ソファーから立ち上がり、帰り支度をする。
「拓也くんもう帰るの?」
なのはが残念そうに聞いてきた。
「うん! 恭也さんもいないし、家でおやつ食べなきゃいけないからね!」
「あんたここでおやつ食べたでしょ……」
アリサが呆れたように言ってくるけど、
「いま帰ればギリギリ、家でもおやつが食べれるんだ!」
そう! いまから走って帰れば、夕飯まで時間が空いておやつが食べれるのだ! これは帰らない手はないだろう!
「拓也くんって食いしん坊なんだね」
すずかが笑う。い、意外と可愛いな……って、そうじゃない! 先におやつだ!
「そういうことだから、じゃあね! 士郎さん、桃子さん、おじゃましました~!」
「気をつけて帰るのよ~」
「道路に飛び出さないようにな~」
「は~い!」
さあ、急げ! おやつが家で待ってる!
◆
<高町 恭也>
「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
俺は今、家の裏にある山でがむしゃらに剣を振っていた。
7歳の子供に負けてしまった。という現実から目をそらすために……。
だが何十何百回木刀を振っても心は癒されない。
――はあ……まったく、自分が情けない。
子供の作戦に見事に嵌り、不意をつかれて敗北するなんて。
しかも、父さんや美由希、なのはの前でだ。
――俺はまだまだ未熟だ。
師範代クラスになったと父さんに認められて、調子にのっていたんだろう……。
実戦であれば俺は死んでいたはずだ……。
「恭ちゃん……もう7時だよ」
背中から聞えたのは美由希の声。
7時? 素振りをやめて周りを見てみると薄暗く、山から見下ろせる街には違う光が灯っていた。
拓也に負けてしまったのは4時ぐらいだったから、もうすでに3時間も素振りしていたことになるのか……。
「はあ……」
自然とため息が口から漏れた。
美由希が心配そうにタオルを差し出してきた。
「はいこれ」
「すまない」
タオルを受け取り、汗を拭い、帰り支度して美由希と一緒に山を降りる。
美由希は特に何も言わない。いや……言えないんだろう。
あんな格好悪い負け方をしてしまったんだ。
はあ……。
山を降りて家の玄関を潜ると、玄関に父さんが立っていた。
「おかえり、恭也。美由希」
「「ただいま」」
父さんは苦笑しながら言った。
「美由希のパンツを見たぐらいで動きを停めてやられるなんて、まだまだ修行不足だな」
「と、父さん!」
顔を真っ赤にして美由希が怒鳴る。一方の俺はというと、父さんの言葉に反論も出来ず、さらに自分の不甲斐なさに正直、泣きそうだった……。
「父さん……」
「なんだ、恭也」
「俺を……もっと鍛えてください……」
搾り出すように、泣いてしまわないように我慢しながら、父さんに頭を下げる。
俺は誰にも負ける事なんて許されなかったのに、負けてしまった。
俺が……、俺が家族を守るって誓ったのに、負けてしまった。
それは俺の心のどこかに隙があったから、油断があったから、慢心があったからなんだ。
もっと厳しい鍛錬を積まないと! 慢心や油断をしないよう体も心も強くしないといけないんだ!
それに――。
それにあんな方法で負けるなんて嫌なんだ!
俺は美由希となのはの兄にして、永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術の師範代でもあるんだから、格好悪いところなんて見せられないんだ!
「お願いします!」
俺は頭を下げたまま顔だけ父さんに向ける。
俺の気持ちが伝わったのか、父さんはふっと笑いを少しだけ漏らすと、親指を立てて笑顔で、
「じゃあ、美由希のパンツを見ても動じないようにしないとな。――とりあえず美由希には鍛錬中下着で――げふっ!」
「セクハラだよ、お父さん」
美由希の一撃で父さんは沈んだ……。
父さん……俺は真剣なんだ。ちゃんと聞いてくれ……。
◆
<中村 拓也>
恭也さんに初めて勝った俺は家に帰って上機嫌でおやつを食べました!
そしてその後、お父さんもお母さんが帰ってきて、夕食も終わって、今はお父さんとお風呂に入っています!
「おお~、ついに恭也君に勝ったのか~」
お父さんの背中をゴシゴシと洗いながら、どうやって勝ったかを話した。
「うん! 美由希さんのスカート捲って、恭也さんが驚いているところに龍翔閃を決めたんだ!」
「美由希ちゃんの……。それは俺も見学しとけば……い、いや。うん。すごいな拓也は~」
お父さんが褒めてくれた!
「と、ありがと拓也。こんどは俺が洗うよ」
「うん!」
お父さんの背中を洗い終わったから、今度は交代して背中を洗ってもらう。
「ん~……それにしても拓也のはすごいな~。体はまんま子供なのに……」
「ん~? なにが~」
「いや、なんでもないよ」
変なお父さん。
「流すぞ?」
「うん!」
体を洗い終えて湯船に入る。はあ~……まったり気持ちいい……。
「拓也」
「なに、お父さん~」
「前に言ってた淫……、いや、吸血鬼のお姉さんの夢。まだ見てるのか?」
「ん~……今日も見たんだけど――」
「なにっ!? そんな羨ましい夢をまた!?」
いきなり大声出すお父さん。
「どうしたの~?」
「い、いやっ! な、なんでもないよ。うん、なんでもない。ああ、それよりも、もう月村さんっていう女の子は怖くなくなったのか?」
「うん。恭也さんに勝ったし、吸血鬼なんてもう怖くないよ」
「そ、そうか」
「今度また夢で襲われたら返り討ちにするんだ」
「それはすごいな~。――そのあとでいいから俺の夢にでてくれないかな~、そのエッチなお姉さん……」
「ん~」
まったりお風呂を楽しみながら時間が過ぎていく。
――お風呂の曇ったガラスにお母さんが映った。
一緒に入るのかな~っと思ったら一言、
「――あなた。あとでいろいろお話しましょう」
と言っただけで、あっちに行ってしまった。怒ってるみたいだった。
あれ? お父さんが震えてる? 寒いのかな? でも、お風呂温かいよ?
◆
恭也さんに勝利してからすでに3ヶ月。
俺は恭也さんと何度も試合したけど、一度も勝てなかった。
なんで勝てないんだろう?
高町家の道場で恭也さんにボロ負けした俺は翠屋に行って、士郎さんに訊ねた。
「ねえ、士郎さん」
「どうしたんだい?」
「恭也さんにどうやったら勝てるの?」
美由希さんのスカート捲っても効かなかったし、どうすれば勝てるんだ?
士郎さんは難しい顔をした。
「そうだねぇ。拓也くんにとんでもない才能やセンスはあるんだけど。恭也に勝つとなると……」
「無理なの?」
士郎さんは首を横に振った。
「いや、前みたいに作戦たてたら勝てただろう。どんなに強くても隙や油断、慢心があれば倒せなくはないよ」
「じゃあ、また作戦たてるの?」
「あ、いや。試合だし、一対一で堂々と恭也と戦ってほしいな。そうすれば君も純粋な剣の腕も上がるだろうし」
「でもそれじゃあ勝てないよ?」
「ん~。そもそも拓也くんはまだ体のできていない子供で、そもそもきちんと鍛えていないからな~。長年鍛えた恭也に勝てないのは当然なんだよ」
「なら勝つのは無理ってことじゃん」
「そ、それはそうだけど……」
士郎さんが困った顔のまま固まっていると、桃子さんがやって来た。
「はい、拓也くん。ショートケーキと紅茶のセットよ」
注文していたおやつだ! すっごく美味しそう!
「ありがとうございます!」
フォークを持ってケーキを食べ始める!
「あははは……」
士郎さんの笑い声が聞えたけど、俺の興味はすでにケーキだ! ああっ! 美味しい! う~ん! 今回はいちごは最後に食べよう!
「うふふ、美味しそうに食べてくれるから、私も嬉しいわ~。シュークリーム食べる?」
「はい!」
桃子さんが微笑んでシュークリームを持ってきてくれた!
「ありがとうございます!」
「うふふ、どういたしまして」
紅茶もすっごく美味しいな~!
「あはははは……拓也君、恭也に勝つ方法はもういいのかい?」
「ん~……、また今度でいいや。今はおやつ優先~」
「そ、そうかい……」
士郎さんがなんか落ち込んだ~。
◆
<高町 士郎>
「ん~、美味しい~!」
カウンター席に座った拓也君がシュークリームを幸せそうに食べていた。
身長はなのはと同じぐらい。髪も黒で顔もすごくいいとは言えないまでも、整っている。
両親も普通のサラリーマンで正式に武術や剣術を習った事もない普通の……あ、いや、少し子供っぽい? ……いや、普通の小学2年生ならこれぐらいが普通なのかな?
アニメや漫画が大好きで影響されやすくて、わがまま言ったり、イタズラしたり、急に女の子と距離を取ったかと思えば、逆にちょっかい出したり、仲良くなったり……。
それを考えると、なのはやアリサちゃん、すずかちゃんは歳相応じゃないんだろうな~。
っと話が逸れた。
要約するとこの子の才能が惜しいんだ。
この美味しそうに紅茶を飲んでいる拓也くんが秘めている才能が。
少し前の試合――マグレであっても、絡め手であったとしても、恭也に普通の子供が勝てるはずがないんだ。
ろくに体を鍛えてもいない。漫画やアニメの動きを真似しただけの子供なんかに……。
それに恭也を倒した際に拓也君が見せた、飛天御剣流の翔龍閃という技。まさに漫画から剣心が飛び出して技を決めたように見えた。
前々からこの子がアニメや漫画にハマって、キャラクターが使用する技を再現できる再現したいと思ったら、その技を覚えるまで夢中になって努力するのは知っていたが、恭也との試合を見学させてもらう度に驚かされる。
特に居合い抜きの構えなど、雰囲気もあり、さまになっていた。刀が子供用であればさぞ切れ味鋭い居合い抜きを見せてくれたことだろう。
恭也を倒せたことからも、この子には天賦の才能があると僕は確信している。
なんせ通背拳を漫画で覚えたぐらいだ。
通背拳は御神流の『徹』と『貫』に通じるものがある。
本当に、正直いうと、この子を鍛えてみたい。
この子がその気になれば、確実に御神真刀流小太刀二刀術の全ての奥義を歴代最速で、しかも、高いレベルで使える剣士になる事だろう。
「どうしたの?」
「あ、いや、紅茶のおかわりは?」
「お願いしま~す」
見すぎてしまったな。気を取り直して空になった拓也君のティーカップに紅茶を注ぐ。
「ありがとうございます」
美味しそうに飲む拓也くん。
はあ~……きちんと鍛えたらどこまで強くなるんだろう……?
「ん~、最高~!」
はぁ~……実に惜しい……。
こちらが流派の技を教えたいと思っていても、拓也くんは漫画やアニメが好きで、再現できたら面白いっていう考えだからな。興味のない技は覚えてくれないだろうし、厳しい鍛錬も積む気はないだろう。
はぁあああ……本当に惜しい……。