夜の執務室。
鎮守府に昼頃到着し、荷を解き漸く一段落が着いた。
「はぁ……」
思わず息を漏らす。いけない、指揮官たる者がこれでは。
一人きりの執務室だが、部下となる艦娘に聞かれては頼りないと思われるかもしれない。
これから僕の部下となる艦娘。初めて会ったのは金剛型一番艦、戦艦金剛だった。
深みのある茶色の長髪、巫女装束のようなミニスカートの衣装。
到着したばかりの僕を案内し、面倒を見てくれた。
可憐だ、と思った。特徴的なイントネーションには少し面食らったが、英国生まれの過去の戦艦、金剛の艦娘である故らしい。彼女と出逢う前だったら、惹かれていたかも、な。
執務机の上、写真立ての中。そこには僕の婚約者、小夜が微笑みこちらに視線を向けている。
これで、彼女にも楽をさせてやることが出来る。
深海棲艦により困窮した今の時代、軍人であっても食べるのがやっとだ。
学生時代から交際を続け、卒業と共に婚約。深海棲艦との戦争中にある中、軍人となる僕との結婚にお義父さんを説得するのには大変苦労した。しかしお義母さんの鶴の一声で何とか認められたのだ。艦娘の登場により戦局が好転していることも背を押した。
その後、僕は『提督』に選ばれた。
僕はとても喜んだ。これで、給金は一気に上がる。妻となる彼女に楽をさせることができる。
もし、僕が戦いの最中に命を落とすことがあっても、保障は他の軍人に比べ天地の差がある。彼女には言うことができないが、僕に万が一があっても小夜の生活は保障されるのだ。
後は、小夜との間に子を成せれば僕の人生は幸福に満ちる。何時終わっても納得出来る。
一人、赤面する。
訓練学校の先輩方にも笑われたが、僕はこの年で女を知らない。
小夜はとても貞淑で、貞操観念の強い女性だ。付き合ったのも彼女が最初で、最後にするつもりでいる僕は彼女の許しが得られる日……結婚初夜まで童貞だ。
それについて文句はない。最愛の人と互いに最初を捧げ合えるというのは、幸運だと思うから。
結婚の準備は半年以内には整えられるだろう。彼女の夫となり、初夜を迎えるまで指折りだ。
口端が勝手に吊り上るのを咎めるようなノック。びくり、と身体が跳ね上がる。
「テートクゥ、起きてますかー?」
「あ、はい。どうぞ」
執務室を訪れたのは金剛だった。
ドアを開け、入室する彼女に立ち上がり出迎える。
「不自由はありませんか? おやすみの前に、紅茶をご用意しましたヨ」
「ええ。何から何まで、ありがとうございます」
何て気の利く子なんだろう。
案内から荷解きまで手伝ってくれて、その上落ち着いた所でお茶の差し入れだ。彼女の手にはポッドと、揃いのティーカップ二つの載ったトレーが携えられている。
執務室の応接セット、そのテーブルにティーセットが置かれる。
ソファーに着いた僕の正面、金剛がカップにお茶を注いでくれる。深い赤。鼻腔にふわりと広がる華やかな香り。そういえば得意だと言っていた。
「どうゾ」
「いただきます」
カップに注がれた紅茶、それをまずは鼻元に近づけて香りを楽しむ。そして、一口。カップを一旦テーブルに置く。まろやかな甘さが舌を覆う。茶には疎いが、美味しいと率直に思った。
「おいひ……ぁ、え……?」
「くふふ」
あれ。身体が痺れる。呂律が、回らない。
金剛が自身のカップにも注いだ紅茶に手もつけず立ち上がる。それを眼球の動きだけで追う。身体は僕の言うことを聞かなくなり、言葉を紡ぐことすらできなくなった。
「……ぉ、ぁ」
「Burning Love……」
テーブルを迂回し、金剛は僕の前に立ったかと思うと身を屈め。
口付けた。
◇
「ぁッ、ぉ……ん」
「ん……ちゅ、ちゅッ……」
金剛、やめてくれ。
ソファーに腰掛ける僕の、膝の上。跨り、腰掛けた金剛は僕の唇を奪っている。
啄ばむような短いキス。甘い。柔らかい。
女性の唇とは、こんなにも瑞々しく、柔らかく、甘いモノだったのか。
「はむっ……れぇ、ろ……」
僕の唇、その味を確かめるように舐められる。唾液の潤滑が劣情を刺激する。
「ん~……じゅる、ちゅる……っ」
やがて唇と唇の間、口内に金剛の舌が捻じ込まれる。ぬるり。
薄い舌が僕の口内に侵入して、歯を、歯茎をなぞられる。身体は痺れ、言うことを聞かない。口内に挿入れられた異物に抵抗する術もない。そして、僕の舌が捕われた。
「ぁぷっ、ぢゅ、んぅ……!」
我慢し切れないと言うが如く、僕の舌と絡められた金剛の舌が暴れまわる。ざらざらとした舌の表面、つるつるとした舌の裏側。互いの上下が慌しく上下を逆にし続ける。唾液が互いの口から漏れ、顎を伝う。もう、それがどちらの唾液かすら分からない。
「っ、ぷぁ……ッ」
ようやく、口付けから解放された。僕と金剛の唇の間に唾液の橋が架けられて、やがて落ちた。
小夜との口付けは、こんなにもいやらしいものではなかった。
結婚を約束して初めてした口付け。震える彼女の肩に両手を置き、精一杯の勇気でしたそれ。
今、小夜ではない彼女としたそれに比べれば子供の遊戯のようなものだ。
気持ちよかった。気持ちよく、感じてしまった。
罪悪感が僕を押し殺す。なんで、どうして。僕に彼女を裏切らせた。
「ぉ、ん……」
金剛。
咎めようとした、糾弾しようとした言葉は痺れにより紡がれない。
「Aha……」
しかし、彼女は僕の意図を読み取ったのだろうか。名を呼ぶ僕に、その意図を解せずに悦ぶように笑みを浮かべる。
淫靡な笑み。
背筋が凍る。金剛は僕の衣服に手をかけ始める。上着の前を開き、シャツのボタンを丁寧に外していく。
これから彼女が何をしたいかを理解する。抵抗は、出来ない。痺れは全身に至っている。
「逞しい、ですネ……」
曝け出された僕の胸板に、金剛の細指が這う。ぞくり、と背筋に別のモノが走る。
痺れて言うことを聞かない癖に、僕の身体は過敏になっていた。
金剛の掌が胸に当てられる。撫でる様に、胸へ、腹へ、脇腹へと滑る。柔らかく、温かな掌。
「ぁっ、ふ、ぅ……」
「気持ちイイですか……?」
女性の手が、こんなにも気持ちいいなんて。小夜の手も、そうだった。
逢瀬の際、これも勇気が必要だったが手と手を繋ぐ時。筋張った僕の掌ですっぽり覆いつくせそうな小さな手。柔らかく、滑らかで、温かかった。手を繋いでいる、それだけで満たされる気分になった。
その女性の手が、愛撫の為、雄の情欲を昂ぶらせる為に触れられるだけで。
「気持ち、イイんですネ……」
こんなにも、興奮するだなんて。
既に僕の男性器は海綿体に充分過ぎる程の熱い血を昇らせていた。僕と下半身を密着させている金剛に偽る手段はない。ズボンを押し上げ、痛いくらいに勃ったそれは金剛の股間に当たっている。身体が、熱い。
「うふ、ふふふ……こんなに、してくれて」
嬉しい、デス。
それは僕にとって断罪の言葉だ。
婚約者に、小夜じゃない女性に欲情している。性交したがっている。
彼女と、金剛と子を、成したいと思っている。
生理だと叫ぶことはできる。
仕方ないと、誰だってこうなると。
しかし、僕は僕を、僕の身体を許せない。
「ほら。ワタシも……」
金剛が腰を上げて、股間を覆う下着の布を横にずらす。初めて目にする女性器。
自身の分泌に濡れている秘所。知識としては知っていても、初めて目にするカタチ。
柔らかそうな肉の合間の割れ目。ひくり、ひくりと時折震え、金剛の指で広げられた小さな穴。
頭に、血が昇る。そこに突き入れたい、貫き最奥まで押し込みたい。本能が求める。
「さぁ。テイトク……」
ベルトを外され、チャックが下ろされる。下着まで脱がされると、臍にまで届きそうな程に僕の男性器が跳ねる。
それに金剛の指が当てられ、びくり、と反応する。そうして僕の男性器を捕らえた金剛は、その先端を女性器へと宛がった。
「ゃ、め……ッ」
「んっ……ふ、ぅ……!」
じゅぷ。じゅぷぷ。
温かい、気持ちいい。
漸く出かけた抗議の声が押し止められる。初めての快楽が僕を支配する。彼女と、小夜と感じるはずだった快楽が、僕を支配する。
始めに感じたのは熱。熱く滾っていたはずの肉棒はさらに熱い抱擁に包まれた。
容赦なく最後まで腰を下ろした金剛。当然、僕の肉棒は全て彼女に抱かれる。
窮屈そうなくらい小さな穴とは思っていたが、どろどろに蕩けた金剛の秘所は簡単に僕を全て受け入れた。
根元が締め付けられる。半ばが緩急つけて食まれる。先端に吸い付かれる。
「ぁッ、ぁ、ぁっ」
「きゃぅ……っ」
射精した。
初めての女性に、小夜じゃない女性に。
痺れて動かないはずの身体、僕の腰ががくがくと震える。多幸感に頭が真っ白になる。どくどくと、絶え間なく続く射精。涎が顎を伝うことを自覚するが、拭うこともできない。
「んふ……」
金剛が僕の頬を撫でる。緩やかに終わりを迎える射精を受けながら、慈愛に満ちた表情で。
まるで褒めるように。自身という牝を認め、孕ませる為の行為を褒めるように。
やめてくれ。違う、僕は――。
「っ、ふっ、うぅ……まだ、硬いデスね……」
そう告げて、未だ緩々と射精し続ける僕の肉棒が撫で上げられる。断末魔を上げるように、びゅるり、と精が吸い上げられた。
「ちゅッ、ちゅ……っ!」
再度、啄ばむような口付け。それで激励されたように、萎えかけた肉棒が硬さを取り戻す。
それを加速されるように金剛が腰を振り始める。
彼女の肉襞で何度も撫で上げられ、子宮口でも口付けを繰り返される。
息苦しくなりながらも、もっと、もっとと本能が僕を駆り立てる。痺れで動けないもどかしさ。
彼女を抱き締めたい。僕も腰を振りたい。
「ぁ――ッ」
ちが、ちがう。
彼女じゃない、僕は、僕が求めるべきは、あっ、ぁっ、もう、また――。
「――Aha」
再度、射精する。今度は、漏らすような射精。
脱力感が痺れよりも全身を支配して動けなくなる。繋がったまま、金剛は深く口付ける。舌が緩やかに僕の口内を刺激して、次を求めてくる。
首すら動かせないまま、口付けをされたまま。
視線を執務机の側に向ける。
その上にある小夜の写真が入った写真立ては、僕に背を向けていた。