『えっち』から始まる恋があってもいいじゃない? 作:カゲロー
IS2第一話を見て、一夏君の残念ぶりに笑った瞬間、もしあの二人がIS学園に入学したら……と。
ゲストに『あのお方たち』もご登場。
どうぞお楽しみください。
2013.11.9 誤字修正&暖かいお言葉を頂けたこともあり、消去は一旦取りやめにしようかと。
神造遊戯がsts編終了したら、むこうの番外編へ移動させようかと思います。
正式名称『インフィニット・ストラトス』
通称『IS』と呼ばれる女性にしか動かす事が出来ない兵器の操縦・整備を学ぶ教育機関。
それがここ、IS学園の存在理由である。
俺、『織斑 一夏』もまた、ここで勉学に励む学生だ。
何故男の俺が女しか入学できないここにいるのかと言えば、世界で初めてISを起動させた男性操縦者こそが俺だったからだ。
事の発端は試験会場を間違ってうっかりISを起動させてしまったのが総ての始まりだった。
世界最強のIS操縦者『織斑 千冬』を姉に持ち、女尊男卑の風習が浸透しつつある昨今、古き力ある男性の威厳復活をと顔も知らない高官様や企業のお偉い方に重い期待を背負わされ、身を護るためにも自治権が認められているこの学園へと入学することを決めた――というか、半ば強制そのものだったが――あの日から早数日。
今日からめでたくIS学園の1年生となった俺は、自分のクラスでたった一つの単語を脳内で反芻していた。
(……帰りたい)
突き刺さる好奇の視線。ちらりと振り返れば、打ち合わせをしたのかと突っ込まざるをえないくらい息の合った動きで視線を逸らすクラスメート達。
唯一の顔見知りである幼馴染に救いを求めても、視線を合わせることもしないで顔を背けられてしまう。
おいそこなファースト幼馴染。それはあまりにも冷たすぎるんじゃないでしょうか?
6年ぶりに再会した幼馴染は少々ツンが強すぎるレディに成長なさったというのか。
武士っぽい雰囲気といい、その年齢から堅物街道一直線だと嫁の貰い手が無くなっちゃうぞ?
――ギロッ!!
「ひぃっ!?」
「ひゃうっ!? お、織斑君? あ、あの、ゴメンね。怒ってる? 怒っちゃってるよね?で、でも、あの、その、出席番号順だと苗字が『あ』行の人から自己紹介してもらいたくて……あの、お、お願いできる、かな……?」
「は、はいっ!? あ、だ、大丈夫です! 問題ありません。やります、むしろやらせてください!」
ひとり寂しく縁側に腰掛けて緑茶を啜るファースト幼馴染(70年後Ver.)を思い浮かべていたら、ぐりん! と勢いよくこっちへ振り向くなり人を殺せそうなアイビームを放ってきたので思わず悲鳴を上げてしまった。――そしたら、これまたタイミング悪く俺の名前を副担任である山田 真耶先生が呼ぶところだったようで、物凄く申し訳なさそうな表情でペコペコ頭を下げられてしまった。眼鏡がいまにもずれ落ちそうになり、サイズの合っていない服装と相まって背伸びした女の子をいじめてしまったような罪悪感が胸を刺す。
……なんだろう、この可愛い生き物は。まさに女子力全開。すこしは我が幼馴染も見習ってほしいものだ。
――ヒヤリ。
……首筋に抜身の刃物を当てられたような感覚が。
眼球だけを動かして恐る恐る殺気の発生源の方を見れば、手に握ったシャープペンを圧潰させんばかりの力で握りしめた鬼の姿。
おお、ファースト幼馴染こと篠ノ之 箒さんや。
いつの間に鬼さんへジョブチェンジなされたのですかな?
怒りを抑えてくださいと、アイコンタクトを送ってみる。
――ア・ト・デ・シ・メ・ル・♡
…………どうやら俺の
流石は《神》サマ。再開を果たした幼馴染を死神に遣わすとは、やることがえげつないぜ。
《――いや、別に俺は何もしていないが?》
『えっ?』×複数
《え?》
……なんか変な電波を受信してしまったようだ。やたらと派手な鎧を着た裏ボス風の男がカラフルなコスプレ集団と喧嘩する光景が見えてしまったぜ。
「お、織斑君? どうかしたんですか?」
「い、いえっ、別に!?」
いかんいかん、つい自己紹介の真っただ中だってことを忘れちまってたぜ。
自己紹介は入学初日に起こす重要なイベント。雰囲気を悪くしないためにも、何か子洒落た一言を述べねば!
席を立ちながら何を離そうかと巡考していると、不意に俺の横の席が2つほど空席になっているのに気づいた。
俺が教卓の真ん前、つまり最前列のど真ん中の席な訳だが、俺から見て右の席2つに生徒が座っていない。
話す内容を纏める時間稼ぎも兼ねて、聞いてみることにするか。俺は手を上げて、不安そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる山田先生に質問した。
「あの、山田先生?」
「はい? どうしました?」
コテン、と首をかしげるのは反則だと思う。っていうかこの人、本当に成人してるのか?
「あの、気になったんですけど。こっちの空いてる席はいったいなんです?」
「え゛!?」
「えっ?」
いま、「え゛!?」 って言わなかったか? なに、聞いちゃまずいの?
「えっと、その……」
ものすごく言いにくそうに口籠る山田先生。
視線を彷徨わせて指先をツンツンさせる姿は、まさに悪戯がばれた子どもの如し。
教師にこんな反応をさせるってことは、相当な問題児か何かなのか? まさか絶滅危惧種なヤンキーとかじゃないだろな?
他の皆も似通った想像をしたらしく、あちらこちらでざわめきが起こっていく。
「あっ、いえ、違うんです!? あの子たちはとってもいい子たちなんですよ!? でも、ちょっぴり……そう! ほんのちょっぴりだけ特殊な事情がありましてっ!」
慌てて弁明する山田先生だったがもはや後の祭。元々こういった話題に目が無い女子がそう簡単に納まりを見せる訳も無く、あっという間にクラス全体にざわめきが広がってしまった
涙目で諌めようとする山田先生が本気で不便だ。
何と言うか……成長の過程で大人っぽさを忘れてきたんじゃないのかっていうくらい幼いっていうか……。
とか失礼な事を思い浮かべていると、
――WAWAWAWAすれモノォオオ~~~~♪
『ごふぁ!?』
突如として、イントネーションをわざと外したような男の声が響き渡った。
俺はもちろん、クラス全体から空気の破裂音が。
口元を抑えながら盗み見て見れば、少なくない女子たちが口元か腹部を抑えながら肩を震わせている。
箒なんか思いっきり窓の外へ顔を背けているぞ。耳たぶまで真っ赤になって……見事にツボへ入ったようだ。
「はわぁ!? ど、どどどどうして狙いすましたかのようなタイミングで着信が!?」
「今の着信音だったんですか!?」
エライ趣味をお持ちなのですね山田先生……。
「うえぁ!? ちっ、違います、違いますぅううう~~! こ、これはこの間の職員会議で大事な書類を机の上に忘れてしまった事を先輩に怒られた時、『うっかり者な山田君にはこの着信音が相応しい。そうだろう? そう思うだろう?』 ――って、IS用近接ブレード片手に脅されて設定されちゃったんですよぉ!」
「だからって、なぜに谷口!?」
「え、知っているんですか?
『実在するの!?』
「ほかにも、用務員のキョンさんとか、整備統括のユキ博士とか、保険医のフランドール先生とか……」
「いやいやいや、最後のはおかしい!?」
「えっ? 『きゅっ♪』としてもらえば一瞬で極楽へイケるっていう凄腕な名医って噂ですよ?」
『それは意味が違うと思いますっ!?』
とんでもないカミングアウトが火種となり、先ほど以上の喧騒に教室が包まれる。
いよいよ収拾がつかなくなってきぞ、こりゃ。
「やれやれ、ピーチクパーチクやかましいぞ小娘共。さっさと黙れ。もしくは喉をかっ裂いて死ね」
納まりがつかなくなったと思っていたクラスに静寂を落とす凛とした声。俺としては聞き馴染んだ、彼女らにとっては映像越しでしか耳にしたことが無いであろう女性の声に、クラス中の視線が一点に集まる。
30にも上る視線を集めながら、当の本人はまるで無人の荒野を歩くかのごとく堂々とした足取りで山田先生の方へと近づいていく。
「すまんな山田君。例の2人の手続きが予想以上に時間を食ってしまった」
「お、織斑先生! ご苦労様でした!」
「うむ」
ダークブラックのスーツを着こなした女性……織斑 千冬は抜身の刃の如き鋭い眼光でクラスを見渡すと、
「諸君、私がこのクラスの担任を任された織斑 千冬だ。君たち新人をわずか一年で使い物にする役目を請け負った。故に反論も泣き言も許さん。黙って私の命令に従え。さもなくば、脳髄をブチ撒けて死ね」
何と言う暴論。っていうか千冬姉、たとえが物騒すぎやしませんかね?
家族である俺ならともかく、初対面の、それも女の子達にきつ過ぎる言葉を投げるのは如何なものかと――と、思いきや、
「キャアァアアアアアッ! 千冬様! 本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「お姉様に憧れてこの学園に来たんです!」
「お姉様のためなら死ねます!」
湧き上がる黄色い悲鳴、っていうか歓声。あれで喜ぶとか、やはり女子の考えはよく分からん。
大体お姉様ってなんだよ、どこの女子高だ。……あ、女子高か。
きゃーきゃー騒ぎたてる女子達は、まるで人気アイドルを前にして騒ぐファン達の如し。
騒がれている千冬姉はかなりうっとうしそうにしてるけど。
あ、頭抑えた。
「毎年、よくこれだけ馬鹿者が集まるものだな、心底感心させられるよ。それとも私のクラスだけバカを集中させているのか?」
頭を押さえながら心底うっとうしそうに溜息を吐く千冬姉。毎年これなら気持ちは分からなくもないが、もう少し愛想良くしてもいいんじゃ……
「きゃあああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って! 蔑んで!」
「でも時には優しくして!」
「それで、つけあがらないように躾してぇ~!」
わからない……クラスメートの考えが何一つわからない。
俺が男だからなんか? だから一人だけ疎外感を感じているのか?
――ハッ!? もしや、これが世に言う女子力というヤツなのか!? ← 注)違います
ちなみに千冬姉、毎年こんな感じなんだね。本当にご苦労様です。また今度、マッサージしてあげなければ。
「はあ……もういい。高宮、竜ヶ崎、入れ」
「「はい」」
千冬姉が言葉をかけるのとほぼ同時にドアが開いてIS学園の制服に身を包んだ2人の生徒らしき人物が現れた。
「は?」
思わす惚けた声を出してしまった俺は悪くないと思う。
何故なら、あれだけ騒がしかったクラスの皆が――半眼で俺を睨み付けてきていた箒ですら――ぽかんと口を開けて間抜けな表情を晒していたのだから。
「ちょうどいい、ここで自己紹介も済ませておけ」
「わかりました。……えっと、皆さん始めまして。竜ヶ崎 葵と申します。皆さんよりも年上になりますが、とある事情でこちらIS学園に通わせていただくことになりました。どうぞ、よろしくお願いします」
まず最初に入ってきたのは艶やかな黒髪を腰までおろした少女。
全体的にほっそりとしていながら、出るところは出ているというグラビアアイドルのようなスタイルの持ち主だった。
歩く姿はどこか千冬姉を彷彿させる綺麗なもの。なにかスポーツをやっているのだろう、身体のバランスが実に美しい。
印象的には箒が近いだろうか? 大和撫子って感じの女の子だ。
街中ですれ違えでもすればまず目を奪われてしまうであろう美少女だが、今この場においてはもう一人のインパクトの方が大きいと言わざるを得ない。
何故ならもう一人と言うのが――――男だったからだ。
「高宮 海斗。見ての通り男だ。まだ公表はされていないらしいが、世間的には世界で2番目にISを動かした男性操縦者と言うことになる。竜ヶさ――」
「……むーっ」
「……コホン。『葵』と同じでお前らよりも年上になるが、まあよろしく頼む」
言い終わると、頬を膨らませながら目尻を吊り上げていた竜ヶ崎さんの頭に手を置いて優しく撫でる高宮。
体格は俺と同じくらいだろう。襟首を緩めて上着の前を開くという格好だと言うのにだらしなさい印象を受けず、寧ろスタイリッシュなカッコよさを感じさせる。
露出している肌からは相当鍛え上げた様子が見て取れるので、なにか武術の心得があるのだろう。
ただ、剣道で全国制覇した箒のように剣気というか武道を嗜んだ者特有の凄みとでもいうべきものが異質な感じがする。
例えるなら、千冬姉や箒は鞘に納められた日本刀というイメージ。
そこに在るだけで存在感を示し、ひとたび鞘から抜かれればあらゆるものを瞬断する鋭さを持つ。
対して、高宮から感じるのは目に見えない恐怖というか……そう、しいて言えば暗器だ。
深く踏み込み過ぎてしまえば、気づけない内に背中をブスリ、ってやつだ。
「……きゃ」
「きゃ?」
「キャァアアアアアアアッ!」
「ぬあ!?」
「ひゃう!?」
大歓声Ver.2。千冬姉の登場に匹敵しないかコレ?
「男子! 2人目の男子がウチのクラスに!」
「しかも美形でクールな俺様系!」
「私、日本人に生まれてよかった~!!」
初日から元気ですね君達。ほら落ち着きたまえ、高宮も目を丸くしてるから。
ビックリしてこけそうになった竜ヶ崎さんを抱きとめながら『わけが分からないよ』って顔してるから。
竜ヶ崎さんに怪我が無いことを確認してから、彼女が立ち上がるのを待ってから身体を放す。
その紳士的な態度に、女子たちのボルテージはさらにアップ。
千冬姉が心底めんどくさそうな顔をしているのが、実に対照的だ。
こういう十代女子の反応が鬱陶しいんだろうな。
「あー、騒ぐな小娘共。静かにせんか」
教卓を叩きながらぼやく千冬姉の隣で、山田先生が必死に騒ぎを納めようとしているのが涙を誘う。
「やれやれ……」
自分が騒ぎの原因だとわかったのか、立ち上がった高宮が一歩前に歩を進め、
「――黙れ」
勢いよく床を踏みつけた。
「な……っ!?」
感じたのは浮遊感。
まるで重力の楔から解放されたかのような、水の中を漂っているかのような感覚に全身が包み込まれる。
他の皆も同じような状態なのか、先ほどまでの喧騒が一瞬で静寂に変わってしまった。突然の事態に千冬姉でさえ、目を見開いているのが見えた。
――ガタンッ!
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
次の瞬間、足の裏と尻に強い衝撃を感じて思わず声を上げてしまった。慌ててあたりを見渡せば、皆も似通った状態らしく辺りを見渡しながら困惑の表情を浮かべていた。
「ふむ……今のは震脚だな?」
「正解」
一瞬で静かになったクラスの中に、愉快そうな声色の千冬姉と高宮の声が響く。どうやらさっきの現象について千冬姉はアタリをつけたらしい。
「床を踏みつけ、気を乗せた衝撃を教室全体に浸透、破裂させることでガキどもを浮かび上がらせたと言ったところか。見事なものだな」
「流石はIS操縦者世界最強。ひと目でこうも容易く見抜かれるとはな……」
ニヤリ、と高宮の口端が吊り上った気がした。
「だからこそ教えを乞うに足る」
「……ふん、生意気な小僧が。ISというおもちゃを手に入れて調子に乗っているのか?」
「いいや、むしろ逆だよ。ここはISの操縦技術を学ぶ場所なんだろ? だったら、最強の存在に教えを乞うのが力をつける近道だと考えたまでのこと。望まぬ現状にふてくされ、目を逸らすのは愚の骨頂――でしょう、織斑先生?」
「ほお……いい目をしているな。だが――言うからには泣き言は許さんぞ?」
「もとより承知。血反吐を吐く程度の苦難を乗り越えずして、力が身につくとは思っていない」
「いい返事だ。――だがな高宮。教師には敬語を使え」
そう言う千冬姉の口元は何とも楽しげに緩んでいたのを俺は見た。
あの表情は、俺が初めて剣道を習いたいって頼んだ時に浮かべていたのと同じものだ。
憎まれ口を叩きながらも、全力で剣の腕を鍛えてくれたあの頃と。
「もう、海斗くんってば……」
竜ヶ崎さんはしょうがないヒトなんだから~とでも言いたげな顔で不敵に笑いあう2人を見つめている。
後に残された俺達(クラスメート一同&腰が抜けたのか床に座ったままの山田先生)は目の前で繰り広げられる光景を呆然と眺める事しか出来ないのであった。
始業式の翌日、同室となった幼馴染、兼、想い人である一夏に引っ張られてきた箒は、むっすりと口元をへの文字にしていた。
いかにも、「私、不機嫌です!」 と言わんばかりに自己主張している幼馴染の様子に、元凶である少年は気づいていない。
現在進行形で声をかけてきたクラスメートの女子(←ここ重要)と楽しげに話している(恋する乙女標準装備の『乙女フィルター』越しには)ように見える。
のほほんとした表情の一夏に、箒のイライラは募るばかり。
数年ぶりに再会を果たした幼馴染を放っぽり出してなにをやっておるかこの不埒者! と声なき怒号を浴びせ続ける。
……しかし、木の根っこから生まれたのでは? と勘繰りたくなるほど恋愛ごとに激ニブ王子は、やっぱり気づけない。
(――ッ! このっ、バカ一夏! ここは同伴している私と昔話に華を咲かせるシチュエーションであろうがっ!)
少々理不尽にも思える箒嬢のお怒りだが、本人は至って真面目なご様子。
ひょっとしてもう昔の幼馴染のことなんてどうでも良くなったのでは? と要らぬ勘繰りをしてしまうほどに、箒の心はテンパっていた。
(くっ……一夏の馬鹿者っ! もう知るものかっ! 一人でここに置いて行かれて不安になるがいい!)
胸の内から湧き上る不安を振り払うかのように味噌汁を一気飲みすると、お椀を勢いよくトレイに叩き付けて立ち去ってやろうと腕を振り上げた――瞬間、
「お? なんだなんだ? 何の騒ぎだ?」
のほほんとした表情がデフォルトなクラスメートとの会話を中断した一夏が、妙にざわつき始めた辺りの様子を怪訝な表情で見渡す。
つられるように箒たちも周囲を見やれば、学園たった2人だけの男子を気にかけつつも思い思いに談笑していた生徒たちが、入口の方を見ているではないか。
「あ~、たかたかとりゅんりゅんだ~♪」
長い袖で包まれた腕をぱたぱたと振り回すクラスメートの視線を追えば、言葉の通り、入り口に渦中の一人である海斗の姿があった。
箒たちと同じように食事を取りに来たらしく、寝ぼけ眼の葵を連れて入り口横の購買器へと向かっていく。
だが……、
「えっ? ひょっとしてもう一人の男……しぃいいいっ!?」
「えっ……ウソ!? アレってまさかあっ!?」
驚愕・戦慄・羨望……生徒たちから吹き荒れる黄色い声の嵐。
それもそのはず。
なんと海斗は、事もあろうに葵を『お姫様だっこ』した状態でご来店なされたのだから!
海斗は日課であるジョギングと朝シャンを済ませた後なのだろう、上着を脱いで腰に巻き付けるという出で立ちであった。
ノースリーブタイプのシャツから覗くのは鍛え上げられた男の肉体美。
ボディビルダーのように盛り上がりすぎず、肉体のバランスを崩さない見事な黄金比を体現している筋肉で覆われた異性の肌を直視して、年頃の乙女たちは鼓動の高まりを押さえつける事が出来ない。
しかも、現在の彼は眼鏡を外し、前髪をかき上げたプライベートモード。
分厚いレンズの奥に隠されていた瞳は、野生に生きる獣のごとし。されど、腕の中でまどろむ少女を見るソレには、情熱的な“想い”が見て取れる。
一見するととっつきにくい雰囲気を纏っていながら、外見ではなく行動で他者を惹きつける魅力に溢れたその姿は、女尊男卑の風習が定着しつつある昨今では希少価値の高い『武士』のようだ。
優しげな瞳とほがらかな性格を持つ好青年である織斑 一夏とはまさに対極。
逞しい腕の中でまどろむ葵が、心底安心した表情で海斗の首へ腕を回し、頬を胸板に摺り寄せていく。
鼻をくすぐる少女の前髪と乙女の香りにだらしない表情浮かべる事も無く、愛しみに満ちた微笑を浮かべながら口元を近づけ――
「ほら、食堂に着いたぞ。いい加減に起きろ、葵。さっさと起きないと――」
閉じられた瞼の上に、軽く、触れるかのような優しいタッチで唇を寄せて、
「――キス、するぞ?」
まるで愛を囁くかのように呟いた。
『――ッキャァアアアアアアアアアアアアッ!?』
お嬢様方、大興奮。
窓から降り注ぐ陽光というスポットライトに照らされて、情熱的な愛のセリフを囁かれる。
それはまるで、美しきお姫様を攫いに来た隣国の王子様が『君を……貰いに来た』と告げるかのごときシチュエーション。
年頃の乙女たちはお姫様な葵と自分とダブらせてしまい、まるで自分が言われてしまったかのような錯覚を覚えてしまう。
かくいう箒も、ここまで大胆な行動は予想だに出来なかったようで、振り上げた味噌汁のお椀を持ち上げた体勢のまま、硬直する事しか出来ない。
「な、なななななななな……!?」
――なっ、何と言う破廉恥な!? こんな、衆人観衆の目の前でっ!?
内心怒りの声を叫びながらも視線を2人から外せないのは箒とて同じこと。
生徒どころか、食堂のおばさま方や見回りに来た千冬と真耶にすら頬が熱を帯びてしまうほどのラブっぷりをご披露してくれた渦中の2人はというと、どこまで言っても平常運転であった。
「んん~……ふぁぁあ~~……ふみゅう……」
「ようやくお目覚めか。まったく……本当に朝が弱いな。俺が同室じゃなったら、絶対毎日遅刻してただろ」
「むぅ~っ、そんなこと無いよ。急な転校とか博士の授業の疲れとか、色々な物が溜まってただけなんだから」
口を『3』の字にしながら海斗の腕の中から抜け出る葵。その際、彼女の手を取って支えることを忘れない海斗の紳士的な態度に、こちらも朝食をとっていたクラスメートの1人、代表候補生でもあるセシリア・オルコットは感嘆じみた吐息を漏らす。
「まぁ……こんな辺境の地にも、あれ程の紳士がいらっしゃられるとは……」
女性の手を優しく、包み込むように握り、繊細な花たる女性の魅力を引き出すような立ち位置を維持し、歩調を合わせて先導する。
英国のお嬢様であるセシリアをして、完璧なエスコートを実現してみせた海斗の評価が彼女のなかで急上昇だ。
俳優としてのバイトの合間に垣間見たプロの動作を見て覚えた海斗にとって、なんとなしにやってみた行動だったのだが、女性ばかりのこの場では最高の選択肢をとったと言って過言ではないだろう。
あの千冬ですら、「ほう……なかなかやるな」と頬を緩め、微笑を浮かべるほどなのだから。
純真な真耶などは、恋愛映画のワンシーンを見ている観客の如きキラキラとした熱い視線を注いでしまっている。
「へぇ~」
黄色い歓声と乙女の熱気に包まれた食堂で、不意に一夏の声が響く。
「一夏……!? お前、まさか!?」
――何か感じるところがあったのか!? もしや……乙女心というものがすこしでも理解できてしまったのか!?
誰もが声をかけられない領域に立つ2人に一夏が何を言おうとしているのか興味が湧いたのだろう食堂中の視線が一夏へと降り注ぐ。
千冬ですら頬が熱を帯びてしまうような2人に向かって手を振りあげながら、一夏が口を開き――
「なんていうか、仲いいな2人共。まるで――」
――ま、まるで……!?
言うのか? 言ってしまうのか!? 誰もが思い浮かべた、あのセリフをっ!
ゴクリ……。
誰かが喉を鳴らす音がやけに大きな音となって、耳に届く。
そんな中、遂に一夏の口からあのセリフが――……!
「兄妹みたいだな『ゴガガンッ!』 ――うおぁ!? ど、どうしたんだ、皆!? 仲良く机にヘッドバットなんか繰り出してっ!? もしかして、おでこが痒かったのか? だったら、かゆみ止めを塗った方がいいと思うぞ?」
「――ッ!! そうじゃないだろうが、この大馬鹿者がぁあああああっ!!」
「なんで兄妹になるんですの!? ここは『恋人みたいですわね』って言うところでしょう!? 常識的に考えて!」
いち早く回復した箒とセシリアが怒髪、天を突くかのごとき勢いで一夏へと詰め寄っていく。
あたりの生徒たちも、一斉に『うんうん』と頷く中、1人だけ意味が解らないと首を傾げた一夏は、
「え? どこが?」
そうのたまった。
真顔で返す一夏を前に、箒とセシリアは水面に顔を出す魚のように口をぱくぱくさせることしか出来ない。
「おりむ~って……ホントーに、残念なコだったんだねぇ~……」
「織斑君……! 私、織斑君にはがっかりです!」
「――私の育て方が悪かったのか……?」
「のほほんさん!? ってか、山田先生に千冬姉まで!? いったいなんなんだよ!? なんで、俺が責められてんだ!?」
「それがわからないから、お前は馬鹿なのだ!」
「まったくですわ!」
喧々囂々。
生徒・食堂の従業員・教師の心が、この朴念仁すぎる少年に呆れている中、原因を作った人物たちはと言うと……
「ん、この煮魚美味いな。ポイントは煮詰める際の時間、かな? ――ほら、あーん」
「あーむ……んぐんぐ……私は海斗くんのお料理大好きだよ? ――はい、あーん」
「ぁむ。むぐむぐ……そう言ってくれるのは嬉しいが。お前には、もっと上手い飯を食わしてやりたいからな」
「えへへ~」
ナチュラルに『はい、あーん』を繰り出しつつ、愛☆フィールドを発動させて呑気に優雅な朝食タイムを堪能していたのだった。
補足:この日の朝のHRの議題に『織斑 一夏に乙女心を理解させるべきだ』という提案されたらしい。
しかし、姉である千冬教諭の一言『この馬鹿者にソレを理解させるには時間が足りない』――によって、この案は次回のLHRまで延期することになったのだと言う。
――だが、残念なことに現在に至るまでこのミッションはいまだ未達成であり、引き続き任務の継続を必要とするものとする。
報告者:ラウラ・ボーデヴィッヒ
「――よし」
本国へ提出する報告書の作成を終えた銀髪の少女、ドイツの代表候補生にして軍人であるラウラはこり固まった肩を解す様に伸びをする。
「あ、お仕事終わりなのかな? じゃあ、ご飯にしよっか」
「了解だ、母よ」
背中からかけられた優しげな声に、真面目な軍人としての顔を見せていたラウラの表情が一変する。
感情の色を無くしたかのような頬は朱色に染まり、鋭利な刃物を連想させていた瞳には人間らしい感情が宿る。
年相応の笑顔を浮かべながら振り返ったラウラを抱きとめながら、母と呼ばれた少女……葵も笑みを浮かべながら特注の3人用食卓机に腰を下ろす。
本来ならば学生寮であるここに無い家具であったのだが、とある理由で3人部屋となった彼女らのために特別に用意してもらった一品だ。
葵とラウラが椅子に座ったのとほぼ同時に、キッチンからほかほかの湯気を立ち昇らせる鍋を抱えた海斗が現れた。
机の中央に敷かれた鍋敷きの上に置かれたのは、大きな土鍋。
重量感のある蓋を開いてみれば、濃厚でうまみが凝縮された海鮮鍋の香りが部屋に溢れ出す。
「おお……! 何と美味そうな! さすがだな、父よ!」
「女が美味そうとかいうな」
目をキラキラさせて尊敬の表情を浮かべる『娘』……のようなクラスメートの頭をやや乱暴に撫でまわす。
輝く銀髪をくしゃくしゃにされて、しかしラウラの顔にあるのは嬉色一色。
彼女が心の奥底で願い、諦めていた“家族の温もり”。
冷たい兵器としての存在だったラウラ・ボーデリッヒという『道具』を、温もりのある『人間』へと引き戻してくれた居場所。
それがどうしようもなくうれしくて、されるがまま、撫でられるがままになってしまう。
もし彼女に尻尾があれば、千切れんばかりに振られていた事だろう。
一通り撫でくりまわして満足したのだろう、ラウラから離れて席に着いた海斗が咳払いをして、両手を合わせる。
つられて、葵とラウラも身体の前で手を合わせた。
「それじゃあ――いただきます」
「「いただきます!」」
彼らの関係を知らない者がこの光景を見れば、仲の良いクラスメートが鍋パーティを楽しんでいるように見えるのかもしれない。
しかし、それは事実ではない。
彼らはクラスメートであると共に、家族なのだ。
プリプリとした食感が堪らないエビを頬張りながら、ラウラは思い返す。
尊敬する教官、織斑 千冬が教鞭を振るうIS学園へ入学してしばらく日が経った頃の事を。
初日から一夏を引っ叩くという暴威に及んだ彼女は、自身が持つ刺々しい雰囲気と相まって腫物のように扱われていた。
ラウラはそんな状況を何とも思っていなかった。むしろ、ファンションの延長線のようにISを扱う生徒たちを見下してすらいた。
だから、どれだけ孤立しようとも、まったく意にも返さなかったのだ。
そんなある日、ラウラは小耳に挟んだ“ある情報”を確かめるべく、放課後のアリーナへと足を向けていた。
(教官に特別指導を受けている生徒がいる、だと……? この私を差し置いて……!)
かつて底辺に落ちた自分に救いの手を差し伸べてくれた存在を独占する人物。
胸中に渦巻く嫉妬に引っ張られるように足早で件のアリーナへと到着したラウラは、そこで信じられない光景を目の当たりにすることとなった。
「ここに教官が……――ッ!?」
それは、身を斬り裂かれるかのごとき濃密な――殺気。
軍人として数多の戦場を練り歩いてきたラウラを以てしても、恐怖で膝を屈してしまいかねないほどの、苛烈で、痛烈な殺意の波動。
「なん、だ……!? これは、いったい……!?」
目の前に聳えるのはグラウンドへと通じるなんら変哲も無い通路。
しかし、彼女の眼にはまるで地獄の門が咢を開いて待ち構えているかのような錯覚を覚えた。
それほどまでに異常な空気が、ここにはあった。
どれだけ固まっていたのだろう。1秒? 1分? それとも……
「――っ、な……!? 殺気が、止んだ?」
唐突に、空気を軋み上げる殺気が納まった。いや……正確には消え去ったかと言うべきか。
「確かめなくては……」
震える足に激を飛ばし、壁に手を突きながら足を踏み入れたラウラ。
のろのろとした足取りでようやくグランドが見えるところに達したところで、彼女は再び言葉を失うこととなる。
「き、教官……!?」
グラウンドの中央には、量産型IS打鉄を装備した千冬と世界で2番目に発見された男性操縦者である高宮 海斗が彼の専用機を装備した状態で対峙していた。
名実ともに世界最強の千冬が量産型とは言えISを纏っている。それはすなわち、最強の戦乙女が顕現していたということ。
彼女ほどの存在となれば、ISの性能差など足枷にすらなりはしない。
千冬がISを纏う。その時点で、彼女に敗北の二文字は存在しない。
それがラウラの……織斑 千冬を知る人々の共通認識である。
だが……それならばこの光景は何だ?
両手に近接ブレードを装備した千冬の顔に油断も余裕も無い。
あるのは眼前に存在する好敵手と雌雄を決さんという戦意に満ちた笑み。
対する海斗の表情も、同じもの。
燃え盛る炎の如き真紅の装甲に覆われた彼のIS。
通常よりも一回り大きいスラスターからは紅蓮の炎が噴き出して、巨大な炎の翼を形成している。
各部の装甲は何処か生物を思わせる光沢を放ち、身の丈を超える巨大な大剣を構える姿は、まるで天空を統べる竜の王者の如し。
絶対勝利を司る戦乙女と対峙するのは、天空と炎を支配する強靭なる竜王。
高まる戦意が渦を巻き、不可視のエネルギーとなってグラウンドで唸りを上げる。
防護フィールドの外で呆然と立ちすくむ事しか出来ないでいたラウラは、ようやく気付く。先ほど己が身を貫いた殺気。
あれは、戦意を高めていく強者2人から溢れ出した余波のようなものであったのだと。
そして理解する。
眼前でぶつかり、閃光の如き速さで剣戟を交差させている千冬と海斗は、己では届かぬ次元に足を踏み入れた存在であるということを。
「『レウス・クリムゾン』――その名が示す
「ほざけ、小僧! 世界最強の二つ名――そんなに欲しくば、力づくで奪って見せるがいい」
「ふ――望むところ!」
「よく吼えた! ならば、ついてこれるか――私の
天空を飛翔して刃を重ね合わせながら、戦乙女と竜王が舞踏を繰り広げる。
それを利用した戦闘方法こそが、千冬や一夏が得意とする超高速戦闘術。
未熟な一夏ならばともかく、千冬のそれは捕えることも出来ない神速の絶技へと至る。
そこに辿り着けるのは世界でただ一人、戦乙女だけだった……なのに、
「竜王飛翔翼最大稼働……!
天空の王者の翼が、戦乙女の領域を侵し、喰らい尽くさんと迫りくる。
「バカな!? そんなデタラメ、ISも操縦者も耐えられるはずがない! 空中分解してバラバラになるぞ!?」
悲鳴じみた叫びを上げるラウラ。
しかし、その無茶を通り越した自殺行為を可能とする潜在能力を、両者は兼ね揃えているのだ。
『レウス・クリムゾン』――海斗に与えられたこのISのコアは世界で管理されているISコアの内には含まれない。
何故ならこれは、IS製作者 篠ノ乃 束博士の生家に残されていた試作品、ISとも呼べないガラクタの部品を手に入れた『ある組織』が独自の改良を施して完成させた新機軸のISコアなのだ。
海斗と葵のスポンサーにして後ろ盾。
彼らへIS学園入学前にISの起動訓練や知識を叩き込み、千冬と互角に渡り合うだけの技量を身に付けさせた謎の組織……『Divine The Game』。
【
その正体を探らんと躍起になっている各国をあざ笑うかのように、逆ハックを仕掛けて重要な国家機密クラスの情報をいとも容易く奪取、あまつさえ、おふざけ満載のメッセージと共に全世界へと公表すると言う暴挙を行ったかと思えば、飢餓に苦しむ人々で溢れかえる紛争地域にエージェントを送り込み、ISどころか生身の肉体一つであらゆる兵器を破壊、国家元首の元へと殴り込んで強制的に難民への対応を命じるなどと言うデタラメなエピソードを起こす。
ある時は数世代先を行く革新的な技術を公表し人々の生活を潤わせ、時に戦争商人に危険な武器を売り渡す。
力無き人々に手を差し伸べたかと思えば、権力者への融資を行ったりもする。
果たしてなにがしたいのか。何をしようとしているのか。その総てが謎に包まれ、されどそれを暴くことが誰にもできない不気味な存在。
それこそが『Divine The Game』。
わかっている事と言えば、あの組織のトップに君臨する人物のコードネームが『
世界最高の頭脳と呼ばれる篠ノ乃 束博士に匹敵、或いは凌駕する才能を持った新たなる天災……『A・T・S博士』と『R・S博士』と呼ばれる鬼才が所属していると言うことくらいだ。
海斗と葵にIS適性がある事が判明した直後、突然日本政府に接触を図ってきた彼らが、とある要求をした。
要求は、“高宮 海斗と竜ヶ崎 葵の両名を『Divine The Game』の専属IS操縦者とする”というもの。
その引き換えとして、『Divine The Game』で開発した新たなるISを両名に与え、彼らの立場も日本所属とする――この提案を、政府上層部は受け入れた。
理由は簡単で、たった2人を差しだすだけで国際法の適応外にある新たなるIS――しかも、束と同等の技術によって生み出された最新型――を自国の所属とできるという旨味に喰い付いたからだ。
そういった迂曲世説の末に海斗の元へと渡されたIS『レウス・クリムゾン』、大空を統べる竜王の如き威容を誇る第4世代に相当するこの機体ならば、パティシェ、兼、戦術教導官の訓練で格段にレベルアップした海斗の身体能力を最大限に引き出すことも、人智を超えた絶技を具現することも可能となったのだ。
「教官が……あれほど楽しそうなお顔を……」
ISのハイパーセンサーで一瞬動きが止まった恩師の浮かべる表情を捉えたラウラが羨望まじりの声を漏らす。
千冬が浮かべるのは満面の笑み。
それは無限の可能性を感じさせる教え子の成長を喜ぶ指導者としての充実感からくるものか。
あるいは、ようやく巡り会えた好敵手と刃を交える事が出来たと言うIS乗りとしての歓喜そのものか。
どちらにせよ、自分では成し得なかった不可能を可能として見せた男に、ラウラは強い興味を抱いた。
とるに足らないと思い込んでいた小物が実は遥かな天上の領域に住まう存在だったのだと言う事実。
恩師の偉業達成の足枷となった一夏とは違う……、自分と同じ『戦うもの』としての瞳を持っていた海斗と言う人物をもっと知りたいと思ってしまったのだ。
後日、情報収集として千冬に海斗への興味を持ったと言う旨を話した所、何故か意地の悪そうな笑みを浮かべられ――
「きょ、今日から世話になるラウラ・ボーデヴィッヒだ――わふぅ!?」
「やーん♪ 何この娘、すっごく可愛いんですけどー!」
「はしゃぎ過ぎだ、葵……。ってか、クラスメートなんだから、毎日顔合わせてるだろうが」
「えー、海斗くんってば鈍すぎだよ。ラウラちゃんがちょっぴり不安そうにしてるのに気づけないなんて」
「え……?」
突然の部屋替えに混乱し、凄まじい戦闘力を見せ受けられた相手との同室。
警戒から、僅かに動揺と不安を感じていたラウラの心で僅かに生まれた不安感。それをひと目で見抜いた葵に、ラウラ自身驚くことしか出来ないでいた。
しかし、振り払おうとは思えない。
いきなり抱きつき、頭を撫でられると言う恥辱。されども嫌ではなく、むしろもっと……
「わ、私は……今、何を!?」
自分の心がここまで乱れているのはどういうことなのか。
混乱する思考で答えを導き出すことは出来ず、結局は葵にされるがまま振り回される。
可愛いモノ好きな女の子力全開モードの葵に、あわあわすることしか出来ないラウラ。
その様子を一歩離れた場所から呆れた風に額を抑えながらも優しく見守る海斗。
機械と油の鎧に身を顰めていた黒い兎が、寂しがり屋な
同居が始まってから約1週間後、後者の屋上に備え付けられたベンチに腰掛ける3人の姿がよく見かけられるようになった。
海斗と葵に挟まれて、年相応の微笑みを浮かべるラウラの姿。
その様子は、誰がどう見ても『家族』と呼べるモノであった。
海斗を『父』と呼び、葵を『母』と呼ぶ。
そう……そこには、確かな家族としての光景が広がっていた。
【おまけ】
「あのさー、シャル。ちょっと聞いても良い?」
「どうしたの、鈴?」
3人家族のほんわかタイムを遠目に眺めていた中国の代表候補生にして一夏のセカンド幼馴染である凰 鈴音は、昼食を同伴していたボーイッシュな少女シャルロット・デュノアに問いかけた。
「アンタって男装してた頃は男性操縦者の情報を盗もうとしてたんでしょ? 同室だった一夏はまあ置いとくとして、海斗の奴には仕掛けなかったのよね? なんで? ずっと師父と一緒にいたからとか?」
鈴音が言う師父とは葵の事だ。
IS学園来訪時、迷っていた彼女を道案内してくれたのが海斗と葵でああった。
その最中、幼馴染でもなく告白されたわけでもない。それでいながら、バッチリ恋人(候補?) をゲットして見せた葵に驚愕し、恋愛の師匠……
問われたシャルロットは、「ああ、あれね……」と遠い目を浮かべながら虚空を見上げる。
まるで、トラウマを穿り返されたかのような反応に、慌てて鈴音がリカバリーに入る。
「ちょ、気をしっかり持ちなさい! なに、何があったの!?」
「あ、あはは……えと、あの頃の僕って男の子の恰好をしてたじゃない?」
「まあ、そうね」
シャルロットは入学当初、性別を男と偽り、男性操縦者である一夏たちのデータを盗み捕ろうと送り込まれていたのだ。
お約束のラッキースケベイベントによって一夏に性別がバレた以降、現在は本来の女子として学園生活を送っている。
「それで、ね? どうにも一部の女の子たちが僕と一夏のことを、その……男同士で、えっと……もにょもにょしちゃう関係みたいな噂を立ててたみたいで」
「は?」
「それが葵
「……師父と?」
「うん」
「初見で?」
「……うん」
「……よく生きてたわね?」
「あはは~……スクラップ一歩手前の状態で、グラウンドの防御シールド上空最高地点からフリーフォールさせられた時には、真っ白な世界でお母様とお茶を堪能することができたよ……」
壊れたような笑みを浮かべるシャルロットに、鈴音は無言で合掌することしか出来なかった。
何故なら、彼女も知っているからだ。葵のIS、その極悪な能力を。
「全身が毒の棘だらけって反則よね~。しかも、地上の機動力は海斗のデタラメISとタメを張れちゃうんだから。流石は世界でただ一対の夫婦IS」
『レイア・エメラルド』
機体の各部装甲は『レウス・クリムゾン』とほぼ同型。違いは、あちらが高速飛翔を可能とする肥大化したスラスターウイングを持つのに対して、こちらは地上を高速で移動できる足の裏のローラー『ランドスピアー』とホバーブースターが備わっていること。
そして、全身の各部に装着された合計8つに昇る棘状の特殊兵装であろう。
これは機体がオートで起動する自立兵装の一種で、敵が一定範囲に近づくと起動し、ひとつの棘が無数に分裂して全身の装甲の上をスライド、攻撃が着弾する瞬間、着弾地点に滑り込んでカウンターを入れるというもの。
しかも、凶悪なのはランダムで設定されたウイルスプログラムを注入してくる点だ。
通称『リオ・ウイルス』と呼ばれるこのウイルスは自己進化機能を持っているので浄化することが極めて困難なのだ。
武器性能を知らない初見ではまず間違いなくカウンターを喰らい、ウイルスを受ける。
そうして動きが止まった相手を、容赦なく遠距離から叩き潰してくるのが葵の戦闘スタイルなのだ。
しかも高速で武器を切り替えて戦うシャルロットに近距離戦闘を挑み、優勢に戦いを進めるだけの技量まで持ち合わせているのだから、たちが悪い。
ウイルスの事を知らず、異常性癖者と思い込まれていた当時のシャルロットは、見事なまでにボッコボコとされてしまい、このころの恐怖から葵の事を『様』付け、海斗の事は横恋慕しないという意志表明も兼ねて苗字呼びとなった。
「……シャルロット、酢豚食べる?」
「うん……ありがとう」
鈴音が作った酢豚の味は、何故がしょっぱかった。まるで――恐怖がぶり返してしまい、とめどなく溢れる涙のように。
静かに涙を零す憐れな友人を、優しく抱きしめてあげる少女。
穏やかな蒼天の下、国家の垣根を超えた小さくも優しい友情が、また一つ生まれていった――――……。
いかがでしたでしょうか? 途中から一夏君が空気になっちゃいましたね……スマヌ。
シャル嬢とか残念な扱いになっちゃいましたが後悔はしていない。
だって、やりたかったラウラ嬢の娘化が出来たからっ!
後日、葵に膝枕されながら海斗に頭を撫でられ、でれっでれになったラウラ嬢の写真を目の当たりにした黒兎部隊一同から、歓喜&お祝いのメールが届けられたことでしょう。
ちなみに彼らのIS適性値は
海斗:C(箒レベル)
葵:B(一夏レベル)
ただし、本人達の戦闘資質や入学前に行われた鬼畜教導訓練のお蔭で戦闘力がうなぎ上り。
訓練成果を具体的に言えば、TV版のび太君が、常時劇場版ヒーロー気質なのび太君に進化してしまうくらい。
その甲斐あって、葵がラウラと同等、海斗がIS(量産型)を装備した千冬に食らいつけるほどとなっております。
2人がタッグを組めば、教師のコンビであろうとも圧倒できるクラス。
もし今の彼らをどうにかすることが出来るとすれば、機体性能を十全に引き出せるようになったセカンドシフト後の白式&赤椿か、絆を取り戻した最強状態の更識姉妹くらいでしょうか。
――しかし、まだ海斗たちはセカンドシフトに至っていないんですがねぇ~♪(爆)。
【補足】
IS世界での海斗のお相手(相性の良い女性)を上げるとすれば、
1位:竜ヶ崎 葵(もはや問答無用)
2位:織斑 千冬(師弟愛的な意味で。後は意外と家庭的な面が弟に似てるから)
3位:山田 真耶(普段はぐいぐいと手を引かれ、戦闘などの限られた状況下では背中を預け合う的なのもありかな、と)
4位:更識 楯無(実はピュアガールな生徒会長と経験豊富な海斗ならバランスがとれているから)
5位:ラウラ・ボーデヴィッヒ(葵を加えた家族と言う意味で)
と、なります。
ワンサマーガールズとは、兎娘を除くと友人止まり。その辺の空気は海斗君も読めちゃうので。
○オリジナルIS解説
謎の組織(爆)が開発した新機軸のIS。2対にして真なる完成をみると称された、夫婦兵器。
その潜在能力は計り知れず、IS開発者の束博士をして『もし機体のポテンシャルを最大限に引き出せる操縦者がこれを纏った場合、1週間で全世界の兵器を破壊しつくすことが可能』と言わしめた。
モチーフはもちろん、MHの火龍夫婦。
・『レウス・クリムゾン』
高宮 海斗に与えらえた第4世代相当の性能を誇るハイ・インフィニット・ストラトス。
コアには束博士が試作品として実家の工房に放置していたパーツを分析・再構築したものを核として”金髪の魔女”と”紫髪の天才”の手で完成させた。
基礎フレームが日本政府から支給された物であるためか、外見は『白式』に酷似しおり、背部のブースターが一回り大きく、全身の装甲も生物的に鋭角なフォルムとなっている。
カラーリングは燃えるような紅を基準に、一部が深い蒼色、全身に銀色のラインが走っている。
武装は身の丈を超える大剣『極皇剣リオレウス』。
武装自体が双剣・ランス・ライトボウガンを組み合わせた合体兵器として構成されており、状況に応じて複数の武装を使い分ける。
各部の装甲を展開、露出したフレームからISの装甲すら溶かす高出力の熱エネルギーを放出し、全身に纏う。あまりにもすさまじい熱量は半ば物質化を起こし、自身の攻撃力の増幅のみならず、敵方の攻撃すら完全に防ぎきるほど。高出力のレーザー兵器であったとしても、炎が生み出す大気の障壁が無効化してしまう。
エネルギー消費が激しいのが欠点だが、パートナーである『レイア・エメラルド』との間でエネルギーの循環・増幅を起こすことで、ほぼ無尽蔵に能力を発動し続けることが可能。
・『レイア・エメラルド』
竜ヶ崎 葵に与えられたハイ・インフィニット・ストラトス。
海斗の機体が空中戦・最高速度・旋回性に優れているのに対して、彼女の機体は地上戦・加速性・突撃能力に秀でた性能を誇る。
外見は『レウス・クリムゾン』と酷似、カラーリングが翠色をベースに一部の装甲が桜色、全身に金色のラインが走っているというもの。
スラスターが一回り小型になっている代わりに、ランドローラーを装着した脚部が肥大化している。
武装は身の丈を超える弩弓『極姫弓リオレイア』。
武装自体が盾とセットの片手剣・昆・ヘビーボウガンを組み合わせた合体兵器として構成されており、状況に応じて複数の武装を使い分ける。
各部の装甲に棘状の刃が仕込まれており、ISの判断で自立稼働を行う。
この棘には【リオ・ウイルス】と呼ばれるウイルスプログラムが仕込まれており、これを受けた相手に様々なバッドステータスを起こす。
ウイルス自体が自己進化する”生きた兵器”であるため効果は様々。
徐々に装甲を溶かしていく【リオ・メルト】、シールドエネルギーの消費を倍加させる【リオ・ブースト】、ハイパーセンサーなどの各種内臓機能を使用不可にさせる【リオ・シャットダウン】、コアネットワークを利用して操縦者の精神へ干渉・幻覚を見せる【リオ・ナイトメア】など。
地上戦を主体としているせいか、エネルギー効率が良い上に、パートナーである『レウス・クリムゾン』との間でエネルギーの循環・増幅を起こすことで、ほぼ無尽蔵にエネルギーを生成することが可能。