『えっち』から始まる恋があってもいいじゃない? 作:カゲロー
最後の修正で後回しにしてしまいましたが、同時進行で完成させたこっちを先にUPしとけばよかったですね。
「ねえ、葵? ありえない、まったくもってあり得るはずも無い、っていうかそんなワケないだろゴラァ! ……ってな感じのつまんない質問があるんだけど」
「いや、あのね早苗? もう色々と日本語としておかしいんじゃないかなと私は思うんです」
朝の洗顔を済ませて、さあ着替えようとしたところで普段に比べて3割増しに凶悪な目をした早苗に捕まってしまった葵はどうにか落ち着かせようとする。
しかし、完全に据わった目を『ギュピーン!』 と妖しく輝かせている親友から心底逃げたいと思ってしまった彼女を一体誰が責められると言うのか。
ぶっちゃけ、ものすごく怖いです。
「……」
「葵? どうして視線を逸らそうとするのかしら?」
「い、いえ、別に……何でもありません……」
(かっ、海斗くんタスケテ――!?)
寝間着の下に滝のような冷や汗を流しながら、強張った表情筋を懸命に動かして微笑みを形づくろうとする。
が、やはり相当引きつった変顔になってしまったようだ。
昨夜の内に買い込んでいたおやつの袋を漁っていた桃花が盛大に噴き出しそうになっているのだから。
「それでね葵……実は朝の散歩をしに外に出ていた時、小耳にはさんだ噂話があるのよ」
逃げられないように、水色のパジャマを着たままだった葵の両肩をぐわしっ! と掴み、居心地悪そうな彼女の顔を覗き込みながら告げる。
「学園のアイドルって呼ばれる某水泳部のエースさんが、どこの馬の骨とも知れない輩と“恋人ごっこ”してたってヤツなんだけど……」
やはり昨夜の件だったらしい。確かに葵のお相手が海斗だとは気付かれていない様ではある。
しかし、それ以前に葵自身は学園関係者の誰もが知っている有名人。いかに普段の清楚なイメージからは連想できない大胆な服装をしていたり、髪型を変えていたと言う変装の努力はしていたとは言え……
(そ、そう言えば、私の方は速攻でばれていた様な気が……)
葵、痛恨のミスである。
昼間のテンションの溜飲が残っていた事もあり、恥ずかしい思いをさせてくれた海斗へのちょっとした仕返しのつもりであんな事――衆人観衆の中での『あーん』など――にチャレンジしてみた訳なのだが……。
見事なまでに自分の首を絞めてしまったようだ。
どう考えても自業自得です。本当にありがとうございました。
――って、違うでしょ! しっかりして私!?
頭の中にどっかで見た様なテロップが流された様な気がして盛大に精神ポイントが削り取られてしまったものの、こんな間抜けな流れで秘密をばらすわけにはいかない。
とにかく、どんな言い訳をするにせよ、如何様な噂が広まっているのかを確認しなければならない。
明らかに興奮してしまっている早苗を苦労して宥めすかしながら、話を聞き出していく。
要約するとこうだ。
昨日、竜ヶ崎 葵がひとりでいる時に大学生らしき男――素の海斗から大人の色気を感じとったらしい――に口説かれた。
男はこの“ホテル冬景色”の利用客だったため、立食形式の夕食会にも参加した。
交際関係にあるといる噂があった某テニス部のエースな幼馴染とは何事も無かったらしいので、葵は初めての恋愛事情に動揺し、舞い上がってしまった。
その結果こそ生徒達が見つめる前でのバカップル的行為であった。さらに、ほぼ同時に夕食会場を後にした彼女らはそのままベッドイン。
学園のアイドルは、見ず知らずの外道に『ぱっくんちょ♪』されてしまったのだ……。
これが、早苗から訊きだした噂の全容である。
それを聞いて、葵は頭を抱える事しか出来なかった。
何故なら、事実無根とは言いきれない……ぶっちゃけてしまえば、まんまその通りですと言えなくも無いものが含まれていたからだ。
(ええっと、別に口説かれてもナンパされてもお持ち帰りもされてないけど……成り行きでえっちしちゃったのはホントの事だよね? それに、昨夜もお風呂でシちゃったのも間違ってないし。後は……
「……葵? どうしてにやけているのかしら?」
「へぅあ!? べっ、別になんでもっ!?」
微妙な表情を浮かべてしまった事に気づかれてしまったらしい。半眼でつぶやく早苗の視線に射抜かれたかのような錯覚を感じる。
昨夜の逢瀬を思い出して現実逃避しかかった思考を切り替え、上手い言い訳が無いか頭を捻る。
「え、ええっと……そっ、そう! 私は口説かれてなんてないよ?」
「言い訳するつもりも無いと言うワケ?」
「そうじゃなくて!
「はあ? そんなマンガみたいな展開が現実にあるワケ無いでしょーが! いい訳ならもう少し真実味がある事言いなさい!」
「うっ、嘘じゃ無いもん! なんならお母さんに電話して聞いてくれてもいいよ?
ハッキリと断言して見せた葵の剣幕に気圧されたのか、それとも彼女の言葉に嘘が感じられなかったのか。
早苗はおもわず「そ、そうなの?」 と返してしまった。
――う、嘘はついてないもん! ちょっぴり……そう! ほんのちょっぴりだけ日本語の言い回しを変えてみただけだもんねっ!
運命共同体とも言える2人の関係は互いの家族が政府との間に合意を以て成り立っている。
さらに、『子作り』という目的を果たせば、必然的に彼女らは夫婦、ないし、家族になるだろう。
つまり、『家族ぐるみのお付き合い』というのはあながち間違っていない。
この件について、葵と海斗の同棲云々の事情は母も十二分に理解しているのも事実だし、
更に補足すると、誕生日は海斗の方が先なので彼の方が『お兄さん』なのも事実なのである。
……確かに
ついてはいないのだが――ドヤ顔を浮かべるのもなんだか間違っている気がしないでもない。場面的な意味で。
「う、うむむむむ……! じゃ、じゃあ、そのお兄さんとやらに会わせて貰えるかしら? 私がこの目で見極めて上げるから」
「あ、それ無理。ゴメン。
流れるような反論で早苗の発言を潰す葵。
ちなみに、これも嘘ではない。
朝の新鮮な陽光を浴びながら散歩するのが海斗の趣味だ。
だから今朝も、海辺を歩くためにホテルから一端
『今頃は飛行機の中にいる』というのは『もしかしたら』という葵の想像なのであって、自室の洗面台で顔を洗っている海斗がいるとしても不思議ではない。
何故なら、あくまでも
「ねえ、早苗ちゃん~。そろそろ朝ゴハンのお時間ですよ~?」
「えっ?」
「おなかすいた~。葵ちゃんの事だから気になるのも分かるけど~、せっかくの修学旅行なんだし~、そう言うのは帰ってからでいいんじゃないかな~?」
どうにも納得がいかないと眉を顰める早苗とギリギリのラインで踏みとどまっている葵の間に漂うなんとも言えない空気を破ったのは、「ふあぁ~」と可愛らしい欠伸をしていた桃花だった。
まだ完全に目覚めていないのか、半分以上閉じられた瞼をくしくしと擦りながら時計を見やる。
言われてみれば、予め決められている朝食の時間が半分近く過ぎていた。
他の利用客の事も考慮して、食事時間の延長は受け付けられないと旅行のしおりに記載されていた事を思い出した早苗が、慌てて洗面所へ向かっていく。
流石に寝癖でボサボサのヘアースタイルで男子の前に出る勇気は無かったらしい。
洗面所の中から「旅行から帰ったら、改めて聞かせて貰うからね!?」 という声が聞こえてくるが、今日一日沖縄を堪能すれば、有耶無耶に出来るだろう。
(よ、よかったぁ~。一時はどうなることかと――)
ほっと胸を撫で下ろす葵に
「葵ちゃ~ん。もうちょっと気をつけないと、海斗っちが大変な目にあっちゃうよ~?」
「う、うん。そうだね――って!? も、桃花っ!? あなた、今なんて!?」
「じゃぶじゃぶばっしゃ~ん。お顔を洗いましょ~♪」
眠気覚ましのチョコレート(!?) を齧りながら洗面所の中へと消えて行った桃花――お約束のように甘いお髭をこさえていらっしゃる女の子(失笑)――に、葵は愕然とした表情を浮かべる事しか出来なかった。
「まっ、まさか……あの子にバレちゃってる、とか? ま、まさかねぇ」
あはは~、と頬を引き攣らせることしか出来ない葵に、桃花へ問い返す勇気は残されていなかった。
――◇◆◇――
沖縄旅行 3日目
この日の予定は終日自由行動。
班員の行動予定を引率の教師に報告しなければならないので、生徒達は自分の所属する班ごとに分かれ、同じテーブルに集まりながら今日の予定を話し合っている。
海斗達の班も例に漏れず、朝食のサンドイッチを味わいながらこれからの予定を話し合っていた。
もちろん、こういう事は旅行前に相談して決めておくことが普通なのだが、班全員で共に行動しなければならない訳ではないので、意見がなかなか纏まらないのだ。
現に、予め今日のスケジュールを決めていたはずの班からも言い争う声が聴こえてくる。
そして、こちらでも……
「だから! 今日はショッピングモールを堪能しつつ、お土産を買い漁るのが一番正しい選択でしょうが!」
「いや、でも買い物くらいなら1時間もあれば十分じゃないか? せっかくの沖縄なんだから、もっといろいろと見て回ろうよ」
「はあ!? ショッピングが1時間ってありえないから! 愛原くん! アンタ、ショッピングを舐めてんじゃないでしょうね!?」
珍しい工芸品や名産物が店頭に並ぶウインドウショッピングと洒落込もうとしていた早苗と、色々な所を観光して周りたいと言う桐生の意見が真っ向からぶつかっていた。
桃花は楽しければ何でもいいと傍観に徹しており、葵は2人を何とか落ち着かせようと四苦八苦している。
その様子を他人事のように眺めている海斗は、さっさと食事を済ませるなり、旅行に出発する時から持っていた筒状のケースの蓋を開いて中身をチェックしていた。
「た、高宮く~ん……」
「はぁ……」
情けない声で助力を求めてくる葵に呆れながらも、無視するわけにはいかないかと諦める。
どちらにせよ、このまま放っていたら、自由時間が減るだけなのだから。
「そこまで喧嘩するのなら、いっそ個別行動にすればいいだろうが。全員でぞろぞろ動いたところで、この感じだと絶対にしこりが残るぞ。だったらいっそ、やりたい事を好きな様にやればいい」
「む……。それはそうかもしれないけど。でも、ホテルから遠出する場合は必ず複数で行動するようにって、修学旅行のしおりにも書かれているのよ?」
「遠出しなけりゃいいんだろ? 誰かと意見があえば好きな所に行けばいいし、もしあわなければ潔く諦めて近場の観光で我慢すれば済む話だろ。まあ、どの道俺は行かんけど」
さらりと自分の要望を通そうとする発言に、デザートのパフェを突っついていた桃花が喰いつく。
「え? 海斗っち、外に行かないの? もしかして、具合でも悪いとか?」
「いいや、俺はコイツを楽しませて貰う」
そう言って、海斗は筒状のケースの中に納めていたある物を取り出した。
漆塗りの光沢が照明の光を反射して
それは、
「……釣竿?」
珍しいモノを見たと、葵が目を丸くする。
海斗が取り出したのは、組み立て式の手入れがされた釣竿だった。
決して高級品と呼べるような代物ではないが、かなりの年月を使い込まれてきた形跡が見て取れる。
折りたたまれた状態の釣竿を手に持った海斗はどことなく楽しげで、なんだかワクワクしているようにも見える。
「海岸の外れに良い釣りポイントがあるらしくてな。ここからそう遠くも無いし、今日は一日中釣りを楽しむつもりだったわけだ。だから俺は一人で楽しませて貰うぞ。構わんよな班長?」
「ええ。問題さえ起こさなければ好きにしてていいわ。それじゃあ桃花、貴方はどうする?」
「ん~……。私は早苗ちゃんと一緒に行く~」
「そ。愛原くんは観光で……葵、貴方も一緒に来るでしょう?」
「え、えっと……その」
さも当然の様に言う早苗に申し訳なさそうに手を合わせながら、葵は頭を下げて謝罪する。
てっきり葵も早苗達と一緒に行動するとものだと思い込んでいた桐生は、彼女の予想外な答えに意外そうな顔をする。
「私、今日も海で泳ごうと思ってるの。久しぶりに、思いっきり遠泳がしたくて……」
恥ずかしそうに俯く葵の言葉に、皆「ああ、なるほど」と納得の表情。
そう言われれば、昨日は浅瀬で遊んでばかりだったような気がする。
海に出かければまず心行くまで遠泳する程に泳ぐのが大好きな葵が、沖縄の海を思いっきり泳がないまま帰るはずも無かった。
「う~ん……流石に2日続けて泳ぐってのは遠慮したいわね」
「葵ちゃん、泳ぐの速いもんね~」
2人の言葉通り、大会さながらの真剣さで一心不乱に泳ぎ続けることができる葵についていけるほどの実力は彼女らには無く、それはテニス部に所属する桐生であっても同じことだ。
彼女がこう言う場合は間違いなく一日中泳ぎ続けるつもりなのだろう。
「……はぁ。しょうがない。わかったわ。残念だけど、ショッピングには私と桃花だけで行くわ」
「ゴメンね早苗~」
「良いわよこの位。――で、愛原くんはどうするワケ? 予定通りに1人で観光するのか、それとも――」
言外に、葵と2人っきりになれるチャンスよ? と告げられた桐生は数年前にお隣さん同士でともに海へ行った時の記憶を掘り起こしていく。
鮮明に残っているのは、3時間ぶっ通しで泳ぎ続ける葵と、彼女に付き合って海に入ったは良いものの、無理に彼女へ追いつこうとしてしまったからスタミナ切れで溺れかかってしまい、結局旅行の大半を旅館で寝込む事になった苦い記憶。
彼女は泳ぎに関してのみ、他人が声をかける隙も無い位自分の世界に入り込んでしまう。
例え葵に付き合おうとしても、結局は延々と泳ぎ続ける彼女をぼけ~っと砂浜で眺めつづけるくらいしか出来ないだろう。
「う~ん、葵の邪魔をするのもなんだし、遠出が出来ないんじゃあ1人でブラついてても楽しめそうにないね。羽村さん、やっぱり一緒に行ってもいいかな?」
少しだけ意外そうな表情を浮かべたものの、特に何かを言うでもなく頷く。
「別にいいわよ。ねえ?」
「うん♪」
意見が纏まったところで、早苗が手を打ち鳴らして全員の視線を集める。
「それじゃあ、確認しましょうか。私と桃花、愛原くんがショッピング、葵はホテル近くの海岸で遊泳……で、高宮が釣り、っと。――これで良いわね?」
最後に全員を見渡して反論が無いことを確認すると、早苗は今日のスケジュールを報告するために席を立つのだった。
――◇◆◇――
海岸の端に乱雑する岩場に囲まれた小さな砂浜。ビーチの死角になっているそこに人影は無く、まさに絶好の釣りスポットと呼べる穴場だった。
自然のいたずらが生み出した天然のプライベートビーチに足を踏み入れると、担いでいた鞄……ロッドケースを下ろす。
組み立て式の釣り座を取り出すと、この場所を教えてもらったホテル近くの釣具屋で購入したゴカイを1匹摘み上げ、海釣り用の針につけてやれば、準備は完了だ。
「よし! やるか!」
学校ではまず見せない、子どものような無邪気な表情をしていることに気づかないまま、海斗は身体を大きく捻らせて竿を引くと、理想的な重心移動を実現することで全身の力を一点に集め、沖合に潜む大物を釣り上げるべく勢いよく放った。
「さて、と」
ロッドキーパーという釣り竿を固定する台座に沖合用の釣り竿をはめ込むと、続いてもう一本の浅瀬用釣り竿を取り出して組み立てる。
沖合用の物に比べて一回り小さくて強度も低い分、入り組んだ浅瀬でこそ真価を発揮するタイプだ。
こちらも手早く組み立てを済ませると、岩場に引っ掛からないよう注意しながら糸を垂らす。
こちら側の狙いは浅瀬の岩場に身を顰める小魚だ。
浅瀬を住処とする小型の魚は、意外と身が締まっていて美味なのだ。
刺身・天ぷら・かば焼き・塩焼き・煮つけ……想像するだけで胃袋から催促の鳴き声が上がってしまう。
朝食を食べたばかりじゃないかと言うなかれ。
自然の中、自力で手に入れた獲物を調理し、食す。これもまた、海の醍醐味なのだ。
「葵には悪いが、こういう一人でのんびりするのもいい感じだな」
久しぶりに訪れたのんびりとした時間を存分に堪能する海斗だった。
「ふぃ~。大漁、大漁」
上機嫌さを隠そうともしない笑みを浮かべながら、レンタルしてきたクーラーボックスの蓋を開ける。
氷嚢を敷き詰めたボックスの中には、色とりどりの魚介類が美しいコントラストを描いていた。
釣り上げた直後に血抜きを施したお蔭もあって、鮮度を保てている。
そろそろ2桁に届こうかと言う釣果にホクホク顔の海斗は、先ほど釣り上げた新たな獲物を手慣れた手つきで釣り針から外し、ボックスの中へとしまい込む。
冷気を逃さないようにしっかり鍵を閉めると、新しい餌を釣り針に取り付けて投げ込む。
釣りに興じる客は少人数派なのだろうか、海斗の他に釣りを楽しんでいる人影は見当たらず、魚の喰い付きも非常に良い。
これがアタリの気配も無いボウズ状態だったのなら、嫌気や退屈を感じていた事だろう。
だが、ほとんど入れ食いのような状況でそんなマイナス思考に陥るはずも無く、太陽が頭上に差し掛かろうというほどに時間が経っていると言うのにやめる気配がない。
水面に浮かぶウキを見つめながら、海斗は修学旅行で最高に楽しいプライベートタイムを満喫していた。
ところが……
「――ん?」
規則的に波が押し寄せては引いていく。そのテンポが唐突に崩れたかと思った瞬間、
「うお!?」
ざぱあっと水中から飛び出してきた何者かが海斗目掛けて飛び掛かってきた。
反射的に竿を放りだしながら両手を広げて受け止めてみると、その正体が見知った少女の物であると理解する。
「おまっ、葵!?」
さほど水深の無い浅瀬とはいえ、それでも岩場の上に登っていた海斗のところまでは1メートル以上は優にある。
そこを、イルカの様にジャンプしてみせた葵の身体能力に感嘆すべきか、それとも岩に激突する危険を冒したことを注意すべきか判断に悩む。
本人は海斗の胸の中で「えへへ~」と笑っているが。
彼の胸に顔をうずめて、葵はほうっ、と安堵の息を吐いた。
「何かあったか?」
「んー……まあ、ね」
「まーた、男に声を掛けられたな?」
返答は、頬を膨らませながらの上目使いだった。
日がな遠泳を楽しむとはいえ、彼女は人魚姫ではなく人間なのだ。泳ぎ続けていれば疲労は溜まるし、休憩のために砂浜に上がることもあるだろう。
全力で泳ぎを堪能して息が乱れて頬が上気する様は、傍目に見ればひどく色っぽく映る事だろう。
加えて、見目麗しい可憐な少女が一人でいれば、男であればまず声を掛けるであろうシチュエーションだ。
「ちょっとだけ砂浜に上がって休憩しようとしたら、なれなれしく話しかけてくる男の人が後を絶たなくて……。中には強引に肩を組もうとしてきた人までいるんだよ!? もう、信じらんない!」
泳ぐことが心の底から大好きな彼女はせっかくの余韻を台無しにしてくれた連中に我慢できず、人気を避けるあまりにここまで来てしまったという事なのだろう。
魚が釣れ易いという事は、それだけあちらにとって過ごしやすい住処があるということ。
このポイントは、海底に大小さまざまな岩場が立ち並んで海底が入り組んでいるので潮の流れが複雑だ。
だからこそ遊泳には向かず人気も無い訳なのだが、そこで釣りを勤しむ海斗を見つけたので近づいてみたという訳らしい。
「やれやれ、魚が逃げちまうだろうが――っと」
「わきゃ!?」
葵の肩に手を置いて密着していたカラダを離した瞬間、彼女の背中と膝裏へと手を差し入れて抱き抱える。
所謂、お姫様抱っこという奴だ。
前触れ無しの展開に、あわあわするしかできない彼女を軽々と抱き上げた海斗は、足場にしていた岩から砂浜へと飛び降りる。
「裸足で岩の上に立つんじゃない。波に磨き上げられた岩の表面は見かけ以上に鋭いんだぞ」
「あ、ありがと」
されるがままの葵は、か細い声でそう返すのがやっとだった。
さっきまでの愚痴を言っていた剣呑な色は跡形も無く消え去り、今では暖かい湯船に身を浮かべているかのよう。
具体的には、ぽやっとしていた。
「……ん? おおっ! 来たぜっ!」
砂浜に敷いておいたビニールシートの上に葵を下ろした直後、遠投用の釣り竿が大きくしなりを見せる。
間違いなく、大物がヒットした証拠だ。本日の1発目ということもあって子どものような笑顔で竿の元へ駆け寄ると、
「ぬっ、ぐっ……いよいしょおっ!」
腰を落とし、全身の筋肉を総動員してリールを巻き続ける。
暴れ回る獲物の動きを捌き、弱らせながら引き寄せていくのが正しい方法なのだが、今回は敢えてセオリー無視の強引な引っこ抜きを敢行する。
かなり乱暴かつ無茶な気がしないでもないが、竿からミシミシと嫌な音が聞こえてくるのだから時間を掛けるのはマズイ。
むしろ、糸と竿がもっている間に勝負を決めるべきだ。
はたして――その策は成った。
岸から6メートルほどの水面が爆発したように飛沫を上げたかと思った瞬間、太陽の光を遮る巨大な何かが空へと飛び出した。
燦然と降り注ぐ太陽の光を漆黒の影で遮りながら宙を舞う、黒光りする魚体。
並みの魚類では到達し得ないサイズの巨体が美しい放物線を描きながら海斗達のいる砂浜へと飛び込んできて――
「っ!? ヤベェ!」
「――きゃっ!?」
自分が何を釣り上げたのかを理解した瞬間、海斗は竿を放り出しながら葵の片腕を掴み、後方へと大きく飛び下がる。
刹那の間を開けて、さほど広くは無い砂浜におろし金を彷彿させる鋭い鼠色の皮膚を持った魚が落下した。
両目が左右に付き出した独特の形状をした頭部、特徴的な3角形の背びれ、あらゆるものを切り裂くナイフを彷彿させる牙。
『ハンマーシャーク』、『シュモクザメ』と呼ばれる獰猛なサメの一種だ。
体長は1メートルを少し超えた程度。まだまだ小ぶりではあるが、それでも海水浴客には十分すぎる危険生物であると言える。
「ひっ……!?」
捕食者という自負が暗い輝きとなって宿る瞳を間近で見てしまったのだろう、葵が引き攣った声を上げる。
それでも悲鳴を上げないのは、己を抱き締めている海斗が、釣り上げたサメを恐れてはいないからだろう。
抱き抱えていた葵を砂浜に下ろし、海斗はゆっくりとした足取りでサメへと近づいていく。
何とかして海の中に戻ろうと砂浜の上で暴れるサメの背中を踏みつけて動きを止めると、無造作にエラへと手を伸ばし、
「ふっ!」
エラの隙間から、腕を差し込んだ。激痛に一層暴れるサメに全体重を掛けることで押さえつけながら、さし込んだ腕に力を込めて――引き裂く。
人間で言う首の部分を引き裂かれたサメは鮮血を流しながら徐々に動きを弱めていき……程なくして、完全に生命活動を停止させた。
海斗は、獲物が事切れたことを確認すると、ロッドケースの中から引き抜いた解体用と思われる大ぶりのナイフを手に、手慣れた動きで解体作業に移る。
その様子をぼんやりと眺める事しか出来ない葵の見守る中、ものの10数分で各部位ごとに切り分けてみせた。
血で汚れた両手を海水で洗い、予めホテルで借りておいたクーラーボックスの中に身の部分を放り込み、皮などの入りきらない部分は袋に入れる。
ほぼ原形をとどめている頭部はそのまま。
「ね、ねえ、頭はどうするの?」
「ああ、コイツは証拠として昨日の監視員に引き渡そうかと。凶暴なサメが出たってことは伝えといたほうがいいだろうしな」
どうやら、頭部は物的証拠として使うようだ。
葵としては、怖いので早く捨てて欲しいところなのだが、そういう事なら仕方がないかと我慢することにした。
「うう~、でもサメが出るんだよね? それじゃあ、もう泳げないよぉ……」
「あー……、なんつーか、ご愁傷様?」
「むっ! すっごく他人事だと思ってるでしょ! ヒドイよ!」
「そんなこと言ったってなぁ……ん?」
困ったように頭を掻いていた海斗の視線が、腰に手を当ててむくれる葵の水着へと移る。
葵によく似合っている、白いホルタ―ネック。
座り込んでいる海斗を見下ろす様に前屈みになっているので、水着では隠しきれない胸の谷間を強調するような状態になってしまっている。
鮫と言う人外の捕食者を間近で直視したことで興奮しているのだろうか。あらわになっている肌はほんのりと紅潮しており、瑞々しい肌の上を汗の雫が滴り落ちている艶めかしさと相まって、何とも扇情的な興奮を感じさせる。
「……葵」
「そもそも、海に来たんだから泳ぐのはごくごく自然な行為なのであって――んにゃっ!? な、なにするのよぉ!?」
「……?」
「不思議そうに見上げない――ひゃうん! ちょ、やっ、だ、ダメだって、ば……あっ、あ、ぁぁ、っ!」
尻すぼみになっていく抗議の声。
それを無視して水着の上から葵の胸をわし掴みにした海斗は、彼女の抗議の声が出る前に、水着越しでも分かる先端の突起物を口に含んだ。
海斗も予想以上の大物を釣り上げたことで昂っているのだろう。いつもよりも数段大胆な手つきで柔らかい乳房と少しずつ硬さを増してきた先端部分を堪能していく。
赤子が母乳をせがむようにわざと音を立てながらしゃぶりついてやれば、葵の口から堪えようのない悦声が溢れ出してしまう。
ムニムニとした心地良い柔らかさを堪能しながら、乳首の根元を甘く噛み、先端を舌で擦りながら刺激を与えていく。
「ひゃあっ、あっ、ふわあっ、ふあ、ひぃうっ! だ、ダメ、ぇ……こんな、トコ……見られ、ちゃう、よぉ」
「悪いけど無理。お前が可愛すぎんのが原因なんだから」
「か、可愛いって――ッ!」
必死に声を堪えながら海斗を引き離そうとしていた葵だったが、海斗の呟いた一言が言線に触れてしまったようで、目に見えて抵抗の意志が消えていく。
その代わり、何かを確かめるように海斗へと抱き着いてきた。
「あ、あの……さっき、なんて……?」
「ん? さっきって――可愛すぎるのが悪いってやつか?」
「ふにゃあっ!?」
素面の時に、海斗から面と向かって『可愛い』と言われたのはこれが初めての事だった。
胸の奥がきゅうんっ、と熱くなるのを感じる。
思わず力が抜けてしまったために寄りかかってきた葵を抱きとめると、海斗は海パンの中からすでに硬度を高めている男性器を取り出す。
彼の腰をまたぐように寄りかかっている葵の水着をずらして秘唇を顕わにすると、亀頭で擦るように刺激する。
すると、トロトロの蜜液が海斗の分身を誘うように溢れ出してきた。葵の顔を覗き込んでやれば、恥ずかしそうに顔を反らす。
その仕草がどうにも可愛らしくて、いじわるがしたくなってしまう。
口端を吊り上げた海斗は、溢れ出してくる蜜液を万遍なく男性器に塗りつけると、秘唇ではなく、その後ろにあるトコロ――昨夜も弄ったアナルへと押し当てた。
「え……!? ちょ、や、やだっ! それだけはイヤぁっ! イヤな――ンンッ!」
不浄の場所に触れられることはやはり耐え難い事なのだろう。
声を抑える事も忘れて暴れ出した葵の唇を強引に奪い、尻肉を揉みしだきながら、海斗は腰を動かしてアナルから秘唇へと亀頭を移動させるとそのまま一気に突き刺した。
「あっ、はぁあああっ! あぁううっ!」
アナルに挿入されるのでは? という恐怖で硬く、きつい締め付けの膣肉を押し広げていく。
幾度となく交わった葵の膣内は海斗の分身を完全に受け入れているらしく、ざわめく肉壁に導かれるまま最奥まで到達する。
熱くぬめった柔らかいヒダと亀頭を絞り上げる硬い子宮口の感触を堪能しながら、海斗の手が葵の上の上着へと伸びる。
「あ……っ!」
持ち上げるように上へずらすと、豊かな乳房がぷるるん、と震える。捲り上げた水着は胸の膨らみに支えられて下に落ちない。
その様が、またなんとも扇情的で、おもわず海斗の指先が伸びてしまう。
豊満な乳房をぐにぐにと揉みしだき、指の合間から覗く乳首を吸い上げ、舌先で突っつく。
さらに腰を回す様に動かして、上から下から際限なく快感を与え続ける。カラダ中から降り注ぐ快楽の波がぶつかり、更なる大波となって彼女を翻弄する。
「んんっ! あっ、うぁ……はぅんっ!」
ひとさし指の第二関節を噛んで声を抑えようと努力するものの、どんどん大きくなっていく快楽を堪えきることなど出来るはずも無く、
「あ、ああっ、あはぁああっ! はううん! あっ、ひっ、ひゃあうっ!」
遂に声を抑えるという意志が無くなったのか、大きく開かれた唇からどんどん悦声が溢れ出していく。
「ちょっと、声、大きい、な……っ!」
「そ、そんな、ことぉ……ひゃあぅ! いっ、いわれて、もぉ……んはあっ!」
息も絶え絶えにそう答えるのがやっとな葵に堪えさせるのは無理だと察すると、海斗は再び唇で彼女の声を封殺すると、腰を掴んで挿入の動きを加速させる。
煽動し、うごめく膣ヒダをかき分けるように激しく動かしながら、亀頭で子宮口を激しくノック。
引き抜く際にはカリの部分でGスポットを抉るように動かし続けてやれば、瞬く間に葵が絶頂へと誘われていく。
それに呼応する様に、秘口が海斗を逃がさないとばかりに収縮し、膣ヒダ全体がうごめいているかのような煽動を繰り返しながら、極上の快楽を齎してくれる。
性感がどんどん昂ぶり、絶頂の時が近い事を本能で悟る。
葵の全身が電撃に撃たれたかのように痙攣を起こし、海斗の首に回された腕に力が籠る。
そして――
「くっ――!」
一際大きな膣肉の収縮によって促された快感に身を委ねた海斗が、葵の最奥で白濁色の欲望を吐き出した瞬間、
「ヒ……ッ! あぁぁあああああああああっ!」
自分の中を熱い何かで満たされているという感覚を感じた瞬間、葵は目の前が真っ白になるほどの衝撃にさらされた。
海斗の唇から逃れた葵は、絶叫を上げたままカラダを硬直させ、言葉を失う。
呼吸をすることすら叶わず、ぱくぱくと口を開閉させるだけの葵の膣内が、海斗の精液を余すところなく吸い上げてやろうと言わんばかりに激しく蠢き、白濁の軍勢を吸い上げていく。子宮が蠢く度にビクンビクンッ! と肩を震わせていた葵は、やがて力無く海斗へとカラダを預けてきた。
荒い呼吸を繰り返す葵の頬に手を添えながら、ついばむ様なキスの雨を降らせてやる。
絶頂を迎えた直後だから全身が敏感になりすぎているのだろう、海斗の唇が触れるたび、痺れたように肩を跳ねさせる。
やがて、ぼんやりと理性の色が瞳に戻ってきた事を確認すると、汗に濡れた彼女のカラダを優しく抱きしめながら、囁く様に告げる。
「……可愛かったぞ、葵」
「……やっぱり、海斗くんってばいぢわるだよぅ」
拗ねたように唇を尖らせる葵を愛おしげに抱きしめながら、海斗は岩場に背中を預ける。
パーカー越しにとは言え、太陽に焼かれた岩からジリジリとした熱さが伝わってくる。
かと言って、流れ着いたガラスの破片などが埋まっているかもしれない砂浜に寝転がるつもりはない。
イッたときの葵の声が観光客にまで聞こえていなければいいけどと淡い願望を抱きながら、眠りに着いた葵を抱き締めた海斗は、足腰が立つようになるまでぼんやりと青い空を見上げ続けていた。
その後に起こったことを語るとしよう。
運よく情事を感づかれることも無く身支度を済ませることが出来た2人は、監視員の詰所へサメの頭部を土産に突貫。
絶叫する監視員達に釣り上げた云々の説明を済ませると、面倒事は御免だとばかりにさっさと撤収。
ホテルに帰還すると、そのまま各々の部屋へと戻ってシャワーと着替えを済ませて夢の中へとGO。
結局2人して夕飯を食べ損ねてしまったというトラブルはあったものの、そのほかに大きな問題は起こらなかった。
そして翌朝、彼らの班のメニューだけが海斗提供の特製サメ料理であったことでひと悶着起こったものの、それ以外にさしたる問題が起こることもなく。
某マッド集団の裏工作でもあったのか、葵関連の噂も有耶無耶になって早苗の追及もどうにかやり過ごすことが出来た。
こうして波乱に満ちた修学旅行は、一応の幕を下ろすこととなるのだった。
ただし……、
「素敵な旦那様を見せびらかしたいなんて、葵ちゃんにも意外な一面があったもんだねぇ~。こりゃ海斗っちも大変だ~♪」
「……お前、どこまで知っている?」
「さあ~? どこまででしょう~♪」
そんな会話が帰路の最中で交わされていたが。
この日、桃花は海斗の中で『侮れない人物』ランクの上位に格付けされることとなった。
水着プレイはややあっさりと。
早苗へのごまかしはかなり苦しかったかな?
そのかわりと言っちゃなんですが桃花に妙なフラグが立ってしまいました。
……別に腹黒キャラへジョブチェンジさせるつもりはありませんよ?
それから、番外編は誤字修正もかねて一旦削除するのもありかもしれませんね。
御目通しする前に、皆様へ不満を感じさせない肉付けをしたほうがよかったかな、と。
やっぱり、1日もかけずに勢いで描いたのをそのまま……ってのは不味かったですかねぇ。