『えっち』から始まる恋があってもいいじゃない? 作:カゲロー
この冬一番の寒さを連日更新中な日々、皆様も体調に十分お気を付け下さいませ。
てなわけで、ようやく完成したプール編後半を代休活かして投下します。
またまたゲストもご登場してもらってますが、あくまでも可能性のひとつ、正体不明な方々ということでヨロ♪
「で、どういう事なのよ、センパイ」
「どうもこうも、
ギラギラと目を輝かせる沙良紗に怯みもせず、むしろ余裕すら感じさせる素振りで海斗の腕を取り、自分のそれを絡ませる。
まるで恋人同士のように自然な動作を見せつける葵に、沙良紗の眼光が鋭さを増していく。
「喧嘩売ってる? ねぇ、喧嘩売ってるわよね? いいわ、買ってやろうじゃない」
「売るな買うな睨み合うな、頼むから俺にも考える時間をくれ。3分で良いから」
凍りつくプールサイド。突如始まった修羅場に、注目が集まってしまうのは仕方がない。
なにせ、どこからどう見ても3、4歳くらいの女の子にパパと呼ばれる男を取り合う女たちの図だったのだから当然である。
「あらあら、ひょっとして学生結婚というやつかしら?」
「言われれ見れば、黒髪の子の面影がありますわね」
「父親の方は何と言うか……普通じゃ無い感じねぇ」
「確かに。何人も女の人を泣かせているような顔ね」
「女の敵だわ」
「あのピンク髪の子も泣かされたクチかしら?」
「ろ、ロリ巨乳……だと……!? バカな! いつからここは夢の国に生まれ変わったというんだ!?」
「黒髪きょぬーとロリきょぬーを独り占めだというのか? くっ……、そんな神をも恐れぬ暴挙が許されると思っているのかあっ!」
「リア充なんて……、リア充なんてっ! 爆散してしまえばいいんだぁっ! ――そんでもって、美少女と仲良くなれる方法を教えてくださいぃ!」
好き勝手に言いまくる観衆に、物凄い居心地の悪さを感じつつ――ごく一部の暴走している野郎共には、2つしかないゴールデンボールが潰れますようにとささやかな呪いをプレゼントしておいて――、ひとまず人目の無い場所へ移動することにする。
睨み合う葵と沙良紗の剣幕に怯えて、海斗の腰にしがみついていた少女を抱き上げて、予想以上に軽かったことに驚きつつ暴れないよう頼みながら肩車する。
「ふわわぁ~♪」 と楽しげな声で耳を擽られつつ、キャットファイト突入一歩前状態な葵と沙良紗の腕を掴み、脱兎のごとく逃げ出した。
……後日、『女子○生を孕ませて子どもをこさえた目つきの悪い男が修羅場っていた』という噂がテーマパーク場全体に広まる事となった。
幸い、現場の画像が白日の下に晒されることは無かったので噂止まりであったが、ある意味被害者な少年は「……もう、あそこには一生行かない……」と項垂れたという。
――◇◆◇――
青々とした新緑を纏った木の幹を囲うようにテーブルが設置された休憩所に辿り着き、辺りに人の気配が無いことを確認してようやく一息をつけた。
備え付けのベンチに腰を下ろしながら、購入しておいたペッドボトルを取り出す。
ヒートアップした口論の後に全力疾走したせいで呼吸を荒げている葵達にはスポーツドリンクを、肩車から下ろされるなり海斗の膝の上に乗っかってご機嫌な様子の少女に炭酸抜きのオレンジジュースを手渡してやる。
「ほれ、ひとまずクールダウンでもせい。ほら、ちみっこ。お前も」
「わぁ~、“おれんじ”だぁ~♪ ありがとう、パパぁ」
「パパ言うな」
相変わらず自分の事をパパと呼ぶ少女にツッコミつつ、目をキラキラさせながら受け取ったペットボトルのキャップを開けようと悪戦苦闘している彼女をじいっ、と見つめながら観察する。
やはり見覚えの無いよう……少女だ。
外見年齢は推測の通り3歳前後くらいか。
ショートボブの黒髪とくりくりとした大きな瞳がかわいらしい将来有望な逸材だ。
ピンク色をしたワンピースタイプの水着を着ている以外、本人の確認ができる様なものを持っている様子は見られない。
せめて迷子になった時に備えてネームカードのようなものを持たせてくれればよかったのに……と、まだ見ぬ本物の少女の両親への悪態を掻かずにいられない。
なにせ、衆人観衆の真っただ中で、微塵も身に覚えのない少女から『パパ』呼ばわりされたのだ。
『そういうこと』への覚悟が足りない海斗にとって、突き刺さる冷たい視線は彼のSAN値をゴリュゴリュと削り取ってしまったようだ。
いや、元を辿れば『そういうこと』を複数の女の子相手にしくさっている自身に原因があるのはわかっている。わかってはいるのだが……せめて、遊んでいるときくらいは安らぎタイムを謳歌してもいいと思うのは贅沢な悩みだろうか?
《それを乗り越えてこその男だぞ。ほれ、器のデカさを見せてみろ小僧》
「あれ、なんか幻聴が……俺、疲れてるのかな……」
何故か脳裏に、さっき出会ったラスボス臭が香ばしすぎる眼帯ダンディの姿が浮かび、こめかみを抑えながら頭を振る。
どうやら、自分でも思った以上にSAN値が削り取られてしまっていたらしい。
「はぁ……よし。こういうのは順番に片していくのが解決の近道だ。と言う訳で、まずはお互いの自己紹介からいってみるか?」
「ん……そう言えば」
「せんぱいはともかく、この人と話すのは初めてだったっけ」
私も~! と両手を上げて自己主張する少女の頭を撫でる海斗に視線で促された葵と沙良紗は、コホン、と咳払いしてから佇まいを治して向かい合う。
「じゃあ、私からね。名前は竜ヶ崎 葵、海斗くんと同じ学校の生徒だよ」
「ふ~ん……クラスメートって事?」
「いいや。クラスも違うし、話すようになったのも今年の春先辺りからだ」
「お互いの噂話を聞いた覚えがあるって程度だったよね、最初は」
「ただ……」と一言おいてから、葵が続ける。
「今じゃあ、同じ屋根の下で一緒に生活するくらいの関係なんだよっ」
「ぶはっ!? そ、ソソソレってつまり同棲って奴じゃないのっ!? ふしだらなっ!」
「あっれれぇ~? どうしてそんなにキョドっちゃってるのかな~。乙女の園出身のお嬢様はいったい何を想像しちゃったんでしょうかねぇ。おほほほほ」
笑みを形づくる口元を手で隠す典型的なお嬢様リアクションを実行する葵は実に楽しそうだ。
「くうっ……!」
悔しげに親指の爪を噛む沙良紗。
しかし、すぐに何かを思い出したかのような表情になると、腰に手を当てて小柄な体躯には不釣り合いなほど立派に育った胸を誇る様にふんぞり返る。
「そういえばまだ名乗っていなかったわよね。私は天凰寺 沙良紗。せんぱいと一緒にお仕事することになった“同僚”で、仕事と日常、どっちの先輩も深く知ってる女よ」
葵が『日常の海斗』を知っていると主張すれば、沙良紗は『仕事時の海斗』との付き合いを引き出してきた。
日常
「わ、私だっていろんな海斗くんを知ってるもん!」
「嘘ばっかり。お仕事に手を抜かない真剣な表情のせんぱいを見たことがあるの? ぶっきらぼうなようで、実はすごく気配り上手なせんぱいをどれだけ知っていうの? ……私は両方のせんぱいをよ~っく知ってるわっ」
「昨日出会ったばっかりなんだがな」
「学校の先生が言っていたわ。本当に相性がいい者同士なら、相手と分かり合うのに時間はかからないってね。せんぱいも私の事理解してくれてるでしょ?」
「ん……まあ、否定はしない。上手く言葉に出来ないんだが……何となくわかる気がする。――けどな、それを言っちまえば、葵もそうだぞ?」
「そうだよ! そんなの私と海斗くんも同じなんだからっ! 一緒に暮らすことになった切っ掛けだって、2人の相性がばっちりだったからなんだからっ」
「何を張り合っとるか。いや、相性云々は間違っていないけど」
「ほら、見てごらんよ。海斗くんも私の方がいいって言ってるじゃない!」
「そんなこと言ってないでしょっ!? 独り占めなんて許さないんだからねっ。ズルい!」
「ずっ、ズルくなんてないもんっ!」
お前らは普通に自己紹介も出来へんのかい、と思わず関西弁でツッコンでしまった海斗。
お互いのことを教え合えば落ち着いてくれるんじゃないかな? と期待していたが、見事に目論見が外れてしまったようだ。
というか、ものの見事に『男をとりあう恋人達』の図になっている。
どう収集つけりゃいいんだ……と額を抑える海斗の顔を膝に乗っかった少女が見上げながら、一言。
「パパって……節装なしさんなの?」
「ぐはぁあああっ!?」
純真無垢な表情からは想像も出来ない言葉の暴力が海斗の
『
目尻に浮かぶ輝く雫を周りに気づかれない様そっと拭いつつ、いまだ口論の真っただ中な2人から少女へ視線を変える。
「そ、それで? ホントのところお前さんは誰なんだ、ちみっこ?」
「ふぇ……」
出来るだけやんわりと問いかけたつもりの海斗だったが、少女はショックを受けてしまったようだ。
ぎゅっと唇を噛みしめ、必死に何かを堪える様に小さな身体を震わせている。
どう見ても泣き出す寸前の女の子の図だ。
予想外の反応に狼狽えたのは、泣かせた本人である海斗はもちろん、少女の事をそっちのけで言い争いをしていた葵と沙良紗もだった。
ぎょっ、と双眸を大きく見開きながら、慌てた様子で駆けよってくる。
「どっ、どうしたのかな!? アレっ、もしかして私の声が大きかったりしたかな!? 怖がらせちゃった!?」
「え、ええと、泣き止んで、ね? ほら、いい子だから……っ」
2人とも、自分達の騒動で怯えさせてしまったと勘違いしたようだ。
小さな子供の前で醜い争いをしていたという自覚はあったらしい。
実際のところ、海斗の発言が引き金になったものの、生々しいキャットファイトの剣幕に怯えていたのも事実なので、彼女らにも責任の一端があるのだからある意味正しいが。
「す、すまん! 言い方がドストレートすぎたか?」
後ろ頭を掻きながら口調が荒っぽかったかと戸惑う海斗に、葵の叱咤が飛びかう。
「もう、海斗くんってば! 小さい子相手に何言ったの!」
「いや、普通に『テメェの名前を言ってみろ』を優しくオブラートに包んでみただけなんだが」
「センパイ、それダウトよ。ていうか、女の子相手にありえないし。普通にいぢめてる者の台詞でしょ、ソレ」
「そんなつもりは無かったんだがなぁ……。あー、その、なんだ。悪かったよ、ちみっこ。謝るから許してくれ」
沙良紗からもダメ出しを受けて内心ヘコみつつも、少女の頭の上に置いた手で優しくあやす様に撫でてやる。
「ん……」
くすぐったそうにぶるぶるっ、と身体を震わせつつ頬を緩める少女。流石は子供、泣くのが速いが泣き止むのも速い。
始めこそ少しおびえた様子を見せていた少女だったが、頭をぐしぐしとなでられると、きゅっ、と目を閉じてされるがままになる。
嫌がる素振りを見せるどころか、すごく心地良さそうに見える。その様子にほんわかしてしまった3人が、彼女を親にグル-ミングされて尻尾を千切れんばかりに振る仔犬の姿に重ね合わせてしまったのは仕方がない事だと言えるだろう。ついでに、女の子に標準装備されている可愛い物センサーをこれでもかと刺激されてしまった葵と沙良紗が両脇から少女を抱きしめてしまった事も仕方のない事なのだ。可愛いは正義。この言葉は、全世界共通な世の真理であるのだから。
「お前ら落ち着け」
両サイドからの抱き締めのみならず、頬を擦り合わせて恍惚を浮かべる葵と沙良紗に、海斗からのドクターストップが。
ぺちんっ、とつっこみチョップをおでこに喰らった犬猫コンビを引っぺがすと、入れ替わるように少女が海斗の胸の中に飛び込んできた。
どうやら2人がかりで撫で繰りまわされたことが怖かったらしい。
小さな身体で精一杯背伸びしながら海斗の首の後ろへ腕を廻してくっついてくる少女の背中をポンポン、とあやしながら、元凶共にジト目を向ける。
――……プイッ
さっきは泣かせたくせに美味しいトコロを掻っ攫った海斗に頬を膨らませてそっぽを向く犬猫コンビ。
こういうときだけ息が合うんだからと、海斗は溜息をこさえずにはいられない。
「おのれら子どもか」
「ふふっ……」
一連のやり取りが受けたのか、くすくすと笑いを零す少女。比喩無しに天使のような微笑みを見せられて心が和んだのだろう、怖がらせてゴメンねと頭を下げる葵と沙良紗。
すると逆に「こわがっちゃってごめんなさい」と出来た答えが返ってきた。
虚を突かれた海斗達に、少女は舌ったらずの口調で……しかし、凛然とした言葉使いでつらつらと事情を説明していく。
曰く、初めて家族と一緒に遊びに来たところ、あんまりにも楽しくて周りが見えなくなり、気づいたら両親とはぐれてしまった。
探し回ったのだけれど見つからず、このまま一生再会できないんじゃないか? ずっと一人ぼっちで生きて行かないといけないんじゃないか?
そんな、どうしようもない不安に苛まれてしまい、涙をこらえながら彷徨っていたら母親と似通った
見た目に反してかなり精神が成熟していたようだ。所々詰まりながらもきちんと順を立てた説明に「ほぁー」と感嘆を漏らす間抜けなお顔のママ(仮)を余所に、海斗と沙良紗は両親の容姿などについて訊きだして情報を纏めていく。
腕を解いて少女をベンチに腰掛けさせると、沙良紗と向かい合って情報を纏め終わった海斗が言う。
「ふむふむ、要約すると、だ。ちみっこの親御さん……ていうか、ママさんは腰まで届く茶髪で葵と同じ赤い水着を着ているってことだな。おまけに、雰囲気的なものも葵とそっくりだからうっかり間違えちまった、と。こういう訳だな?」
小さなお姫様のご機嫌が回復したのを見計らい、今度は彼女と視線を合わせる様にしゃがみ込みながら確認する。
「うんっ! ママはね、すごいんです。さいきょーなパパをお尻に敷いちゃってるんだって、お姉ちゃんが言ってましたっ!」
「え、なにをイイ笑顔で家庭内序列を口走っちゃってんの、この子」
「こういうのって、うっかり属性持ちって奴よね。ま、この人も間が抜けてそうな顔してるし、似てるって言えば似てるんじゃないの? 旦那様をお尻に敷いちゃうくらい下半身がおデブさんってトコも一緒なようだしねぇ?」
「あー、やだやだ。局地的な一部分
「……これはあくまで独り言なんだけど。見た目で相手のことを知った気になる人って思慮の足りない残念な人種って言われてるのよね~。ああはなりたくないわ~……憐れだもの。――……人間的に」
「だから子どもの前で毒吐き合うな」
再びのツッコミチョップを今度は脳天に喰らって悶絶する2人は置いといて、道すがら本当の母親らしき人物とすれ違わなかったか記憶を掘り起こす。
だが、該当する人物の記憶はなし。葵と似た雰囲気を持つと言うだけでも、海斗からしてみれば頭に残りそうなものだがそれも無い。
つまり、ここへ逃げ込むまでの間に会ってはいない……筈だ。さすがに、4桁に達しよう程に大盛況な利用客の顔をひとりひとり覚えておくことなんて出来ようはずも無いので確実に、とは言えないが。
「なあ、ちみっこ。迷子のお子様にこういう事言うのはアレなんだが、やっぱり人違いじゃないか? 葵みたいな女性、俺は見た記憶ないんだけど」
「ふぇ……で、でも、ママと同じ匂いしましたもんっ!」
「匂い? どんな?」
言われ、脳天のダメージから回復した葵がスンスン、と二の腕の匂いを嗅いでみるが、別に何も変化はない。
しいて言えばプールに放り込まれている塩素系の薬剤の匂いくらいだろうか。
疑念に満ちた視線を向けられた少女は、頬を膨らませながら両手を振り上げて反論する。
「違わないもん! ママと同じ、甘いお菓子の匂いがしたんだもん!」
「お菓子……?」
彼女の言葉の意味が理解できず首を傾げてしまう葵。
わかる? と問いかける様な視線を受けた海斗が額にひとさし指を当てながらしばらく思案し、程なくして何かに気づいた様子を見せた。
「もしかして、ちみっこのママさんの仕事ってケーキ屋とかカフェの料理人だったりとか?」
「はいです! ママは喫茶店の『ぱてぃしえ』さんなのですっ」
甘い匂いとは菓子職人特有の職業臭のようなものだったわけだ。指先から身体に至るまで染みついた甘い香り、少女にとってそれは何よりも慣れ親しんだ母の匂いとして記憶されているということか。けれど、ではどうして葵がさも母親であるように錯覚してしまったのだろうか?
「甘い匂い……うあっ、もしかして!?」
「葵……お前さては」
ナニカに感づいた海斗からジト目を向けられ、思わずそっぽを向いてしまう竜ヶ崎容疑者。
あからさまに隠し事しております~的なリアクションをとって下さった葵に大股で詰め寄ると、逃げられないよう両手で肩を押さえつけながら問いただす。
「俺が買い出しへ行ってる間に一人でカスタードチーズパフェを食べたんだな? 待ち合わせのベンチをお前が指定してきたのは、近くにパフェの売店が立っていたからだったんだな!? 確信犯かこんちくしょーめっ」
「い、言いがかりはやめて欲しいかもっ。いったい何を根拠にそんな事をおっしゃられているのかしらっ!?」
あくまでしらばっくれようとする葵に自白させるのは難しいと判断した海斗は即座に方向転換。
ベンチ横に置かれていたハンドバッグ――昼食のためにロッカーから持ち出してきた貴重品などが入っている物――に腕を突っ込み、彼女へ預けていた財布を取り出した。
スリを警戒した海斗は、支払用のカード(自分用)のだけ持っていき、現金などが入った財布はバッグの中に残していた。
つまり、「わぁーわぁー!?」 と天高く掲げられた
「ちょっ、海斗くんタンマ、タンマなんだよ! そんな風に人を疑っちゃあいけないと思うの!お願い、私を信じてっ! ――……で、アナタも胸を私の背中に押し付ける嫌がらせを止めてワイキキ・ビーチにでも行けば良いんじゃないかな。ツンツン女王様な人は殆んどヒモなマイクロビキニでも着て、ガングロサーファ共をひざまつかせてるのがお似合いなんだよっ」
「ハァ? 脳みそ湧いてんじゃないの? あ、そっかぁ、男に媚びるしか能の無い牝はオアフ島にそんなイメージしか持ってないんだ~。うっわぁ、か・わ・い・そ・♡ あ~、ヤダヤダ、いるのよねぇ~、外国旅行する甲斐性もない貧乏性の平民のなかに、又聞きの知識で我知り顔してくださる残念な牝犬……あら、失礼。全世界のわんちゃんたちに失礼だったわよねぇ。同類扱いすんな、ってねぇ」
「……はぁ?」
「……なによ、ヤル気? いいわ、殺ってやりましょうか?」
本日何度目になるのだろう、またもや火花を散らす2人。
「……っ! っ!?」
醜い女の争いに背中を向け、財布の中身を確認する海斗の腰にしがみつく少女が涙目でなにかを主張する。
震える指先で何を指しているのか明確だが、海斗は真顔で気づかないフリ。
誰だって命は惜しいのだ。とくに、普段おとなしい女の子がキレた時の恐ろしさと言ったらもう……筆舌しがたい恐怖しか感じない。
沙良紗に背中側から羽交い絞めにされた体勢から、いつしか四つ手で組み合っている乙女(爆)達。
案の定、きっかりパフェの代金分だけ減っている残金を確認して溜息を吐く海斗の後ろで、いよいよ本格的なドッグ&キャットファイトが開催されそうになった――瞬間、
「えーっと、ウチの娘を引き取りに来たんだけど……これ、どういう状況?」
休憩所の外から呆れた様子の声がした。
海斗は少女にしがみつかれながら声のした方へ振り向く。そこには、少女の言葉通りの容姿をした――長い栗色の髪と真紅のビキニが目を引く――若い女性の姿があった。
妖艶な大人の色気と若草のような瑞々しさを両立させた美貌。
強い意志を宿す真っ直ぐな瞳が、少女を中心にして海斗達の姿を捉えていた。
「ママァ!」
少女の顔がぱあっ! と花咲く様に輝く。海斗から少しだけ名残惜しそうに離れると、一直線に本当の母親らしき人物の元へ。
駆け寄ってきた少女を抱きとめ、抱え上げながら甘えてくる少女に優しい笑みを向ける姿は、本物の母親という雰囲気を纏っていた。
「まったくもう、この子は。ダメでしょ~が、勝手にうろうろしちゃあ」
「ふぇぇ……」
「泣いてもダメ。ほら、悪い事したらどうすればいいんだったっけ?」
「うぅぅ~……ぐすっ。ご、ごめんなさいぃ~」
「よし。よく言えました」
はぐれない様に手を離さないでと言われていたのに、好奇心に駆られて離れてしまったのは少女自身だ。
悪いことをした自覚はあったのだろう、叱られて泣きそうな顔になっている。それでも母に抱きつく腕を緩めないのは、まだまだ母恋しいお年頃だということなのだろう。
「ゴメンなさいね、貴方たちも。ウチの子がご迷惑かけちゃったみたいで」
「い、いえ、そんなことない……です……ぅ」
「は、はぃ……っ」
申し訳なさそうに頭を下げる女性に、掴み合っていた葵と沙良紗がはじけ飛ぶように離れるなり、慌てて頭を下げ返す。
散々怯えさせたことを気にしているのだろうか。あるいは『母親』のオーラに気圧されただけかもしれないが。
心なし、2人の顔が驚愕で引きつっているように見える。
「(ヒソヒソ)わ、若っ!? あれで子持ちって反則じゃないかな!?」
「(ヒソヒソ)お肌すべすべ、胸おっきいし腰もくびれてる……子持ちなのにスタイル崩れてないってどういうこと?」
訂正、どうやら女としてのレべルの違いに戦慄していたようだ。
失礼にならない程度で女性の胸や腰辺りに視線を向けては自分のそれと見比べては、『ずうん……』と黒いオーラを背負う2人は置いとくとして、一方の女性も海斗達3人の様子をどことなく懐かしげな様子で見つめていた。
何と言うか、「うわ~、この修羅場ちっくな空気。懐かし~」的な気になる単語を呟きつつ、感傷深げな表情を浮かべている。
どうにもいたたまれなくなったので、空気を入れ替えようと海斗が声をかけるよりも早く、娘を抱き下ろした女性が真剣な表情で葵と沙良紗に詰め寄って行った。
「貴方達!」
「「はっ、はい!?」」
びくっと肩を跳ねさせた少女らの肩を掴みながら、
「首輪……用意しといた方がいいわよ?」
真顔でとんでもない事を言い出した。
「「はいぃぃ~!?」」 とハモる葵と沙良紗。それに構わないまま、女性は海斗を横目で睨み付けつつ言葉を続ける。
「いい? あの手の男はしっかり手綱を締めとかないと節操なしに女の子へ手を出しちゃうのよ。それこそ、身に覚えがない~的なことほざきながら、人さまの妹とその親友を孕ませちゃうくらいにね。信じられる? 二股かましてどっちも娶った挙句、可愛い義理の娘に『大きくなったら――パパのお嫁さんになる~♪』って言わせたり、性悪マッドに言い寄られてなあなあで済ませようとしたりする訳よ! おまけに、黒髪ドラゴン娘とか他にもいろいろフラグ乱立させよってからに……っ! ――やっぱり去勢してやろうかしら、あのバカドラゴンめ」
途中から完全な私怨にすり替わった女性の剣幕に、がたがた震えることしか出来ない葵達。
片手で肩を抑えられているので逃げることも出来ず、海斗に助けを求めようとも、初対面の女性から女たらしの同類認定を喰らってしまい、あらぬ方角を見ている彼はあてに出来そうも無い。込み上げる何かを堪える様にぷるぷると肩を震わせる愛しい少年に鞭打つのは、恋する乙女としてさすがにどうかと思うからだ。
と言うか、海斗は意外とこういう方向でのメンタルが弱かったようだ。
「ママァ、パパをいじめちゃだめだよぉ」
「いじめてないわ。これはちょうき……もとい、躾よ!」
「微塵も言い直せてないんですけれどっ!?」
「ていうか旦那さんの事なんですかぁ!?」
「そんなことより、なずな。あなたいつまで彼の事をパパって呼んでるの? あのバカが聞いたら拗ねちゃうわよ」
そんなこと扱いされてますますヘコむ海斗の背中を2人がかりでよしよししていた葵と沙良紗の近くへ、促されるままトテトテと近づいた少女……『なずな』がぺこりと頭を下げる。
「間違えちゃってごめんさない……」
「へうっ!? あ、いや、そのぉ、別に嫌だったわけじゃないし、気にしないで欲しいと言いますかっ」
「そういえば私への当てつけで娘呼ばわりしたりしてましたしねぇ?」
「うっ、うるさいなっ! いいじゃない別に! ちょっとしたお茶目なんだよっ。 大体、あなたが海斗くんにちょっかいかけたりしなかったら――!」
「んなっ!? それこそ、アナタに関係なんてないと思いますっ! なによ、人を浮気相手みたいに」
「正妻の座を巡る女の争いか……ふふっ、私も昔に似たような事やったっけね」
乱痴気騒ぎを眺めながら、昔を思い返すような表情で感傷深げに呟いた女性を、なずなが不思議そうな顔で見上げる。
「?? つま~? でも、ママってぇ、パパの『あいじんさん』だったよね? つまじゃないよ~?」
「なずなっ!? アンタ、どこでそんな悪い言葉をっ!? ううん、わからないけどわかったから言わなくていいかな。どうせムッツリドSか性悪マッドあたりの仕業でしょうしねっ! ――てなわけで、急な要件が出来てしまいました。さ、帰りましょ――……っと。そういえば!」
パンッ! と両手を叩いた乾いた音が響く。掴み合いに発展しかけた少女2人が驚いてビクッ、と肩を跳ねさせながら振り向くのを確認してから、ワザとらしい口調で続けた。
「娘の面倒を見てくれてたお礼をしないとね! でも、全員を連れてくのも気が引けるし……そだ! ねぇ、なずな。お姉ちゃん達のどっちかに一緒に来てもらってお礼をさせてもらいたいんだけど、あなたは誰が一緒に来てくれたらうれしい?」
「んう? ん~~……こっちのちっさいお姉ちゃん!」
「ちっさい言わないでっ。て、はいいぃ~っ!? なんで私!? このワン
「ご招待するのはお友達を呼ぶモノなんだって、ママに教わってますからっ♪」
どうやらなずな嬢は、葵に母の面影を感じていたのと違って、背丈も小柄な沙良紗は見た目的な意味で友達のように感じているようだ。
葵にはまるで親にするように甘えさせてもらっていたが、母が見つかったので余裕が出来たのだろう、今度はお友達になれそうな沙良紗と一緒にいたくなったらしい。
腕を引っ張って「ね~ね~、いいでしょ~」と可愛らしいワガママをするなずなを無下に出来ずテンパってしまった沙良紗の背中を若干強引に押しながら、女性がここから立ち去ろうとする。葵は彼女がすれ違いざま自分にだけわかるように目配せしてきたのを見て、そこに込められた目論見に気づく。
――私と海斗くんを2人っきりにしようとしてくれてる……?
彼女の身内に似ているらしい海斗と葵の関係に思うところがあったのだろう、しっかり捕まえときなさいと後押しされた気がして、かっ、と頬が熱くなる。
――あっ、ありがとうございます!
――ま、しっかり甘えときなさいな。いいオトコに甘えるのは良いオンナだけの特権なんだから♪
なずなに手を引かれつつ、閉鎖的な全寮制の学園で過ごす故に姉のように接せられる経験がほとんど無かったたえにまんざらでもなさそうな笑みを浮かべた沙良紗達が見えなくなったところで、葵は今にも体育座りしてしまいそうな海斗の腕を勢いよく引っ張り、立ち上がらせた。
「うおっ。あ、葵?」
「コッチきてっ」
有無を言わせぬまま強引に引きずり込んだのは休憩所の裏手にある空白のスペース。建物の外壁とプールエリアの境になっているレンガ造りの壁との境の隙間を潜った先にある、小さな小部屋のような場所だった。
ちょうど色鮮やかな木々の影になっており、壁の向こうから聞こえる利用客達のざわめきも遠い。
突然このような場所に引っ張り込まれて両目を瞬かせる海斗の胸に飛び込みながら、不安と決意で瞳を揺らす葵が上目使いで見つめてきた。
「海斗くんってさ……」
「は、はい?」
「……おっきなおっぱいが好きだよね」
「ごふあ!? な、ななななにを仰るりますかお姫様ァ!?」
気づいてないと思っていたのか。思わずため息が漏れてしまう。
そもそも、旅行の時に胸で、その……ご、ご奉仕してあげた時の顔、どれだけ弛んでいた思っているのか。
「海斗くんがお気に入りな猫さんもおっぱい
「ご、誤解だっ。いくらなんでも、胸で人の価値を決めるスケベじゃねぇよ!?」
確かに、好きか嫌いかで問われれば限りなく好きだと言わざるをえないが、それはあくまでも魅力のひとつ。
ちっぱいに人権無し! と豪語するおっぱいマニア扱いされる訳には断じていかない!
そもそも、大きなお胸が好きとか以前に――……
「俺はっ!
「わふぅん!? しょ、しょれはちゅまり……じょ、じょうゆーいみれ?」
「え? ……うあ゛っ!? あ、その、これはっ、えと、ちが……わないけど、そうじゃなくてだなっ。俺が言いたいのは、胸でお前をどうこう見てるんじゃなくて、お前のだから好きって言いいたいワケで――って違う違う!? いや、だから、何を言いたいのかってーと……う、うがぁああっ!? だから何でこういう時に限ってテンパってんだ俺はぁああああっ!?」
「かっ、海斗くんっ!? 壁に頭叩き付けても、何も解決しないんだよっ!?」
真っ赤な顔で壁に向かってヘッドバッドを連打ァ! ……をかますおバカな虎さん。
シェイクしすぎて脳がバターにならないか実に心配だ。
いい感じに我を失っている海斗を落ち着かせようと、良い音と共に額に走る鈍痛でふらつく彼の頭部を後ろから抱きとめる。
胸元から零れ落ちそうな乳肉に海斗の後頭部が包み込まれる。
温かく、柔らかな感触。プールの熱気に中てられたのだろう、僅かに滲む少女の汗の香りが鼻孔をくすぐり、海斗の五感をこれでもかと刺激してくる。
揺り篭に眠る赤子に戻ったかのような錯覚を感じて、海斗の目蓋がごくごく自然に閉じられていく。
赤くなった額を撫でる指先が前髪に触れる度、くすぐったいような心地良さを感じずにいられない。
脱力する四肢に力は入らず、壁に寄り掛かる様な体勢のまま重力に引かれるように膝をついたところで頭を放した葵に肩を押され、プール側の壁に背中を押し付けたまま完全に座り込んだ。
「もぉ……変な時におばかさんになっちゃうんだからっ」
しょうがないなあっ、と困ったような笑みを浮かべつつ、抱きしめた愛しい男の髪の感触を楽しむ。
まるで犬が親愛を表現するためにグルーミングをするかのように。
これは自分の物だと
「ちょ、くすぐったいって……っ!?」
「んっ……ちゅっ、ちゅぅ……」
惚けた様子を見せる海斗の両足の間に身体を滑り込ませつつ、身を寄せてきた葵の唇が海斗のソレへと押し付けられる。
仔犬が親愛を主張するかのようなキス。ちゅっちゅっと啄む様に唇を触れさせると、間髪入れずに舌を相手の中へ差し入れる情熱的なものへと変化した。
首の後ろに腕を廻して身体ごとすり寄ってくるように甘えてくる葵に最初こそ面食らった海斗だったが、鼻孔をくすぐる彼女の香りに後押しされるように、彼女を抱きしめ返しながら自分からも舌を動かし始めた。
蕩けるように甘いキス。プールの喧騒に溶けていく淫靡な水音。お互いを抱きしめる腕に力が籠り、肌に押し付けられた掌にはじっとりと熱い汗が溢れ出す。
果たしてどれほどの時間、唇を重ねていたのだろうか。息苦しさすら感じないほどに燃えさかる情欲に駆られるように、互いの口内で積極的に踊る舌。
唇の接合部から溢れ出す唾液が顎のラインを伝って、タイルの上へ落ちていく。やがて、混ざり合った唾液の糸を引きながら唇が離れていく。
いつになく積極的な葵にタジタジな海斗の顔を覗き込みながら、心なしか得意気風に見える笑みを浮かべたお姫様の指先がごつごつとした男の身体の上をなぞるように滑り落ちていく。キスの余韻でうっすらと桜色に火照った指が水着のゴムにかかり、滑り込む様に差し入れられた。
「あの娘もそうだけど、さ。海斗くんがお仕事で他の人とえっちなことやってるのは……その、正直イヤ、かな……」
分身を撫で上げられてくぐもった呻き声を上げる海斗を見つめながら、葵は思いの丈を独白していく。
「私には遠くから見てる事しか出来ないから。だから、いつか海斗くんがいなくなっちゃいそうな気がするの。いろんな人とそういうことしてるうちに、私の事なんて忘れちゃうんじゃないかって」
自分の中で大きな存在になってしまった『ヒト』が他の女性とそう言う行為を行っている。
頭では理解できてても、心では納得できない。そもそも、葵はそういうお仕事の裏事情とは縁遠い、ごくごく普通の世界で生きてきた住人。
人間の欲望を満たすための娯楽を作り上げる業界について、何も言わずに受け入れろと言う方が無理な話だったのだ。
……いや、違う。重要なのはそこじゃないのだ。葵が怒っているのは、そう言う仕事に手を染めていることではなく……、
――あくまでお仕事上のパートナーなんでしょっ。なのに、どうして本気にさせちゃってるのかな、このヒトはっ!
沙良紗が海斗に特別な感情を抱いている事など、とっくに気づいている。
そもそも帰りが遅かった海斗を迎えに行ったあの時、沙良紗が何をしようとしていたのか気づいたからこそ、なずなを消しかける様な真似をしたのだ。
――私とあれだけえっちなことしたんだから、ちゃんと責任とってくれるのが男の子の甲斐性ってやつでしょ!
ちゃんと自分を見て欲しい。日常も仕事も、海斗の全部を教えて欲しい。
むくむくと湧き上がってきた独占欲が悪い方向へ駆け出してしまい、『沙良紗にも優しい ⇒ ひょっとしておっぱいが大きいから? ⇒ じゃあ私もそうなの? おっぱいが大きいから優しくしてくれてるだけなの……?』 と言う風に思考が暴走してしまった。
だからこそ、自分から誘惑するような大胆な真似を強行する羽目になったのだ。ひょっとして、海斗も他の人達と同じように自分の見た目だけしか見なくなったんじゃないかという不安を振り払いたくて。
自分が自分でいられる居場所の心地良さを知ってしまった少女は、それを失ってしまうかもしれないと言う恐怖を胸の内に抱え込んでしまったのだ。
「私にとって、もう、海斗くんがいない日常なんて“日常”じゃないんだよ……。だから……どっか行っちゃヤダよ……」
「葵……」
「あの子にね、海斗くんが優しくしてるの見ると、胸がこう……きゅうっ、てなるんだよ。こんなの初めてなの……だから、責任とってよ……。ずっと一緒にいてくれないと……ヤダっ」
最後は涙ぐみながら本心を吐き出した葵。小さく震える彼女を抱きしめながら、海斗はずっと引っ掛かっていた胸のしこりの正体にようやく気づく。
朝から妙なハイテンションを続けていた葵。純粋にプールを楽しんでいたからだけではなかった。
自分では話がついたと思い込んでいた沙良紗との一件、あれが葵の中で消化しきれていなかったのだ。
仕事の付き合いとは言え、続けるうちに沙良紗のように本気になる相手と巡り合うかもしれない。もしかしたら、本気で好きになる女性と出会ってしまうかもしれない。
普通じゃない出会いで関係を気づいてきた葵だからこそ、身体の付き合いから始まる恋愛もあり得ると実感している。
自分の気持ちすらあやふやだからこそ、海斗が自分の前からいなくなり、居心地のいい居場所を失ってしまうのではという恐怖を払拭できなかったのだ。
葵の言葉を聞いた海斗の返答は、もう一度の優しいキスだった。
唇と唇を重ねるだけの軽い、触れ合いのようなキス。それでも、大切に想う愛おしさを限界まで込めた、不器用な少年にできる精一杯の愛情表現だった。
抱き締める腕の力を強め、引き寄せた葵の耳元で囁くように告げる。
「離さないよ」
たった一言。愛を囁くでも、取り繕うでもない。
けれど、これ以上ないほどに恥ずかしそうな表情と早鐘のように激しい鼓動を繰り返す心臓の音が、言葉の裏に隠れた『本当の意味』を葵に伝えてくれる。
「……そっかぁ」
だからこそ、葵もまた真っ赤な顔をさらに上気させながら蕩ける様な笑顔を浮かべた。
頭の上から湯気が立ち上りそうなくらい上昇する体温は下がる兆しを見せず、そのくせ密着した身体を離したいとは微塵も思えない。
「約束だよ?」
「……ああ、約束だ」
「うんっ! えへへ……あ」
はにかんだ笑顔の葵が、何かに気づいたような様子を見せつつ、指先に意識を集中させる。
(か、海斗くんのおっきくなってる……!)
ゴクリ、と喉がなる。こんな明るい場所で見ることなんてそう言えばなかったなと他人事のような感想を思い浮かべつつも、湧き上がる好奇心を抑えることは出来なかった。身体を起こしながら海斗の水着をずらす。途端、そそり立つ肉棒が水着から零れるように起立し、葵の目の前に姿を現した。
思わず顔を逸らしてしまいそうになるのを堪えつつ、顕わになったソレをしげしげと観察してみる。
「こ、これが海斗くんの……なんだ……」
やや黒ずんだ肌色のソレは女性雑誌でときどき見かけるような輪郭を暈かした類のモノとは一線を介する存在感に満ちていた。
幾度も使い込まれているせいか鍛え上げられた日本刀のような凶悪さ。これは自分の中に入るなんて、人体の神秘だなぁと的外れな感想を抱かずにいられない。
尻部を持ち上げ四つん這いになりながら、興奮で脈動する肉棒を包み込む様に掴むと、おっかなびっくりと言った様子で亀頭に唇を寄せ、舌を差し伸ばす。
先端をぺろっと舐め上げ、前の時のような苦味を感じなかった事に安堵する。
あの時は射精直後ということで精液モロに舐めてしまったが、今回はわずかな汗と興奮の先走り程度だからほとんど味はしなかった。
これなら大丈夫だと安心した葵は、以前見た雑誌に掲載されていたそう言う行為……フェラチオを試してみることにした。
記事では、男性の弱点を刺激できる愛撫であり、女性がイニシアチブをとれるものだとあったし、この間胸でしてあげた時の海斗が気持ちよさそうだったから、もっとしてあげたいという欲望がむくむくと込み上げてきた事もある。
――舐めてあげたら海斗くんも気持ちいいのかな?
唾液で濡れた舌で先端を舐め回し、根元の方をやわやわと擦り上げる。
尿道口を舌がなぞるたびに電流で打たれたかのような衝撃が海斗を襲う。
葵の舌と指が齎す刺激は極上で、肉棒が硬さを増していくのが自分でもわかる。
溢れ出しそうになる呻き声を必死に堪えながら、葵の愛撫に身を委ねる海斗。
そそり立っていく肉棒の感度が際限なく高まり続け、まるで舌先から彼女の熱を吸い取っているかのようだ。
「んっ……んむ……じゅる……っちゅう……はむ」
亀頭を中心に舐め上げていた葵が不意に大きく口を開いたかと思いきや、肉棒をぱっくりと咥えこんだ。
蕩ける様な熱と小さな口が齎す圧迫感が筆舌しがたい快楽を生み出した。くちゅくちゅっといやらしい音を鳴らしながら舌が肉棒をしごき上げ、舌の動きに合わせて粘り気を持った唾液が纏わりついていく。
初めてのフェラチオ、しかも葵からのおねだりでという現実は、ぞくぞくとした背徳感と極上の興奮を海斗に与えてくる。
それに気づいているのか、葵の舌の動きはどんどん大胆さを増していき、最初は味わうようにしゃぶっていただけだった動きが、快感を与えようと激しいものへと変わっていく。舌のみならず、頭ごと上下させる激しい動き。扱き上げるようなそれは、次々と溢れ出してくる先走りの次に来る、精巣の中で暴れ狂う精液の爆発を促すものだった。どれほどの先走りを舐めとったのかわからない。けれど、味がしない筈のソレを舐めとるたびに、葵は自分の下腹部あたりがきゅうんっと疼いてくるような感覚を覚えた。
突き上げられた尻部はゆらゆらと左右に揺れ動き、いつの間にか擦り合わせている太ももの付け根からは、湿り気を感じさせる淫らな音が零れるような気がする。
背筋をゾクゾクとした興奮が駆け巡り、もっと肉棒を感じてみたいと言う欲望が湧き上がってきた。肉棒から口を放して呼吸を整えようとするがうまくいかない。
速太鼓のように荒ぶる鼓動のせいで呼吸が荒くなり、熱に侵された様に頭がぼんやりする。今の状況に酔っているのは間違いないだろう。今ならもっと先に行けるかもしれない。未知へと挑む興奮に、ゴクリと喉を鳴らす。
「ん、んん~~っ!」
海斗の太ももに手を置いて、今度は喉の深くに届きそうなくらい咥えこんでみた。息苦しさすら感じる圧迫感と、上目で捉えた気持ちよさそうな顔の海斗の姿に、こらえようのない興奮で震えてしまう。
にじみ出た先走りと唾液が混ざり合ったそれを、葵の舌が舐め上げ、咀嚼していく。不思議なほどの無音に支配された
「んぶっ!?」
突然の突き上げに面食らった葵が驚きの声を零すと同時に、敏感な亀頭部分が喉の最奥へと突きささった。
唾液で濡れすぼった口内とは違う感触の刺激がダメ押しになって、射精感が一気に限界を超えてしまった。息苦しさを堪え入れなかった葵がそれを吐き出すよりも速く、バネのように激しく脈動した肉棒から興奮の証が勢いよく放出された。
放たれた白濁液を口内で受け止めることになった葵は悲鳴を上げることも出来ないまま、放出が終わるまでひたすらに耐える。
逃げることも出来た。でもしたくなかった。全部受け止めてあげたいという想いが、胸の中で渦巻いていたから。
口の中が欲望の塊で満たされる頃になってようやく射精が収まったのを確かめつつ、葵はゆっくりと肉棒から口を放す。
まるでソレの味を確かめるかのように白い欲望の湖を舌で掻き回してから、意を決したように少しずつ呑み込んでいく。
吐き出すものと思っていた海斗が驚くのを余所に、時間をかけて全てを呑み込んだ葵が盛大に眉を顰めた。
「んくっ……うぇええ~。やっぱり美味しくないよぉ」
「おいおい、無茶するなよ」
「だってしょうがないじゃない。いつ人が来るかもしれないとこに、せーえきなんて吐き出せないよ。……大体、まだおっきくしたままの海斗くんが何を言ってるのかな?」
彼女の指摘通り、海斗の肉棒はいまだ硬度を収める兆しを見せず、それどころかむしろますます大きさと硬さを増しているかのようだった。
「お、俺は悪くないぞ!? いろんな意味でエロい葵が悪いんだ!」
「えろ……っ!? しっ、しつれーなんだよっ。私は真面目な委員長キャラで通ってる女の子なんだからっ! 海斗くんがえっちなのが悪いのっ」
「俺のせいかよ!? 誘惑してきたのお前だろがっ」
「だからそれは――っ、ぅ」
口論――と言う名の痴話喧嘩の最中、唐突に下腹部辺りを抑える葵。
「……葵? どした――ぁ」
「っっ!? み、見ないでよおバカあっ!」
真っ赤な顔でぽかぽか殴ってくる葵の下の水着。ちょうど股の辺りがおもらししたかのように雫を零していた。
それが何なの気づけないほど海斗は鈍くない。彼女の太ももを伝って自分の下腹部に滴り落ちてくるソレが粘り気を含んだ生理現象の産物……興奮した膣内から溢れ出した愛液だと理解すると、お返しとばかりに海斗の指が水着の隙間へ差し入れられた。
くちゅり、と淫らな水音が鼓膜を打つ。受け入れる準備は万全と言うことか。葵は水分を含んだ水着の布を片寄せながら興奮によって赤く火照った舌先で唇を一舐めすると、海斗の腰に跨ってそそりたつ肉棒に手を添えながら位置を合わせつつ、ゆっくりと腰を下ろしていった。亀頭が膣唇と擦れ、甘くすぐったい官能の波が押し寄せてくる。
「んっ……あ……はぁああぁ~~……」
亀頭が膣口を押し開き、ゆっくりと奥を目指して呑み込まれていく。空気と混ざり合った愛液が淫靡な音を立てつつ、葵の大陰唇の先、膣道の最奥にある子宮を目指す。
タイルの上に胡坐をかいた海斗の上に葵が乗る騎乗位という体位のせいだろうか。お腹の中、胃の下あたりが押し上げられるような感覚を葵が感じていた。
お互いを求めるように抱き締め合いながら、ゆっくり時間をかけていちばん深いトコロで繋がり合う。亀頭が子宮口に辿り着いた瞬間、ご馳走を堪能したかのような満足感に包まれるような錯覚を葵は受けた。それは海斗も同じこと。恍惚とした笑みを浮かべる葵に、彼女を満たせているという大きな歓喜を抱き、笑みを浮かべた。
「葵……いちばん深いトコで繋がれたな……。気持ちいいか?」
「うん……気持ちいい、よぉ……海斗くんは?」
「もちろん……俺も、さ」
蕩ける様な笑みを浮かべる少女の頬にキスの雨を降らせながら、柔らかな尻肉をわし掴みにして腰を動かし始めた。汗を吸った水着と火照ったもち肌の産み出す感触は極上で、揉んでいるだけでも十二分に満足感を味わえるだろう。だが、接合部から駆け上る快楽の誘惑に抗うことは不可能だった。
身体ごと持ち上げ、突き落とす様に挿入を行うと、コリコリとした子宮口を亀頭が擦り上げらえる。淫らな水音と飛沫を撒き散らしながら、戦慄じみた快感が葵の背筋を駆け昇る。下腹部からじわじわ広がる熱は子宮口を擦り上げられるたびに高まりを見せ、疼くような満足感を味わえる。初めての体位、葵が上になるこの格好は正常位や後背位よりも子宮をダイレクトに刺激されるようだ。
「あっ、ううんっ……はぁ、ん、んんっ……ふぁ、ぅ……」
膣肉が射精を煽動するように蠢き、激しく扱き上げてくる。根元のほうはきつく締まり、中ほどは優しく包み込む様にからみつき、先端は子宮口を押し開いてほしいとばかりにもっと奥へ引っ張り込もうとする。完全に海斗の形を覚えてしまったらしく、葵の膣肉は本人の気持ちいいトコロと擦れ合うように肉棒を誘導してくる。
緩んでは締まりを繰り返しながら射精を促す膣の肉ヒダに抗いながら、もっと葵を気持ち良くさせたいと感じた海斗の手が水着の中で激しく暴れていた乳房をわし掴む。
「ふやぁ……! っ、あ、あう、んはあっ!」
水着の上から荒々しく揉みしだき、淫靡な形に変わっていく乳肉の先端には、布越しでもわかるくらい大きくなった乳首が自己主張を始めていた。
引き寄せられるように顔を寄せた海斗の唇が、こりこりに固まったソレを咥え、吸い上げる。
「あっ、あ、ああっ! や、そ、そんな……音、たてちゃ……っ! ひやぁあああんっ」
背中を反らしながら、葵が悲鳴じみた艶声を上げる。もはや声を抑えることなど思考の彼方へ追いやってしまったようだ。
長い髪を振り回し、さらなる快楽を求めて膝立ちになった足に力が籠り、腰の動きが加速していく。
膣内の締めつけがどんどん強くなっていく。海斗が半ば無意識に突き上げる腰の動きと葵の動きがシンクロし、怒濤の如き勢いで快感の波が押し寄せてくる。
甘美な悦楽に全身を満たされて、葵の喘ぎ声が強さを増す。
「あんっ、あっ、い、いいっ! いいよぉっ! あっ、ひぁ……あうぁああっ!」
「っく……! あ、葵……このままナカに……っ! いいか!?」
「うん……、うんっ! いいからぁ……赤ちゃん、出来てもいいからあっ!」
抉るように突き込まれた肉棒に絡みつく膣肉が、まるで彼女の心情に答えたかのように強く、強く絡みついてくる。堪えようのない興奮と快感に射精感は天井知らずに高まり、汗に濡れた尻肉を揉む指先に力が籠る。2人の唇と指先が、コレは自分のモノだという印をつけるかのように踊りまわり、キスマークや指の痣を刻み込んでいく。
「やんっ! も、もぉ……おっぱいに吸い付いたりして、ぇ……くすぐったいよぉ」
「お前も、だろ……っ! 吸血鬼じゃあるまいし、首筋に齧りつくな」
「やぁ……葵ちゃんマークをつけるんだからっ。海斗くんはぁっ、私の、なんだからっ!」
「それはコッチの、っく! 台詞だっての」
ちゅっちゅっと赤い印を刻み付ける間も、腰の動きは激しさを増していく。肉棒を愛撫する膣肉がひときわ大きく蠢くと、それがダメ押しになって、膣内を押しのけるように肉棒が大きく膨張する。一突きごとに高まった情欲の熱に全身を侵された葵の限界は近い。もっと繋がっていたいという想いと、早く達したいという欲望が激しくせめぎ合っている。だが均衡は程なくして崩れることになった。
「ふあ、ぁ……あ――……!」
視界が真っ白に染まり、火花が散るかのような幻を垣間見た。それが絶頂の前触れだということを僅かに残された理性が気づき、痙攣してうまく動いてくれない身体に鞭を入れて、腕に残された力を全て注ぎ込んだ。
「い、イクッ……わたしっ、もぉ、イッちゃうよぉっ!」
ソレを察した葵が海斗に力の限り抱きつくのとほぼ同時に、膣肉の圧迫感が爆発的に高まり、締め殺されるのではと錯覚してしまうほど強く肉棒を刺激してきた。
最奥の子宮口に亀頭がぴったり密着するほど深く突き刺さった瞬間、炸裂するかのような勢いで限界が突破された。
「――っうあぁあああああっ!」
絶叫のように大きな声が漏れる。絶頂を迎えた葵は甘痛い痙攣の走る手足を海斗に絡みつかせながら、怒濤に荒ぶる快楽の波を堪能する。
子宮の中へ到達した精液が染み込んでいく感覚。子宮頸管粘液と呼ばれる精液を効率よく吸収する潤滑油のようなものが溢れ出し、混ざり合いながら精液を吸い上げていく。熱い鉄を差し入れられたかのような熱を下腹部に感じ、葵は無意識に自分の下腹部を優しく撫でていた。
長い時間をかけて放たれた射精が終わるのを他人事のように感じていた海斗は、抱きしめる少女の温もりがかけがいの無い宝物のように思えた。
風に漂う雲になったかのようなふわふわとした浮遊感。葵との時にしか感じれない幸福感と満足感が混ざり合ったような温かい気持ちに身を委ねつつ、蕩けきった様子の葵の背中を優しく撫でる。
もしこの状況を誰かに見られでもしたら大事になるのは間違いないだろう。だが、それもいいかとも思えてしまう。
「ずっと一緒……だもんな」
心地良い虚脱感に包まれながら、海斗もまた、寝息を零し始めた葵に釣られるように目蓋を閉じた。
次の更新は神造遊戯よりも先になる予定。
前回チョイ役してくれた桐生を主役にしたプール編裏話を更新予定。
あくまで短編のつもりなので、そんなに時間はかからないかと。
では、また♪