※この作品はR-18です。

『えっち』から始まる恋があってもいいじゃない?   作:カゲロー

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GWちょっと過ぎてしまいました……。
有言実行の難しさをひしひしと感じる今日この頃。
てか、予定だと海斗くん出場の第二競技まで書き切る予定だったんですが、例のごとく文字数が膨れ上がりそうだったんで分割投稿に切り替えました。

ちなみに体育祭編は、題名通りのおふざけ全開で行きます。
まあ、もちろん『体育』祭だからこその『コス』えっちも予定してますよ?



第15話 はっちゃけすぎな体育祭(開始編)

祭りの当日は天候にも恵まれ、絶好の体育日和となった。

生徒はもちろん、教師や観客席にいる親御さんたちも童心に帰ったようなワクワク感で心を躍らせている。

そんな彼らは、ただ今、開会式の真っただ中。

お約束の校長先生によるあいさつや選手宣誓もつつがなく終わり、最後に注意事項の説明を任された教頭がマイクを片手に壇上へ登るころには、待ちきれないとばかりにソワソワしだ生徒の姿がチラホラと目につく様になっていた。

気が逸っている生徒を一瞥し、マイクに向かってわざと咳払いをとって一同の視線を自分に集めると、ざわめき出していたグラウンドが静まりかえる。

女性用のスーツにタイトスカートという出で立ちは、大企業の社長秘書の如き『デキる女』という印象を見る者に与えてくる。

実際、こういった議事進行を問題無く遂行できる技量を見込まれて教頭に任命されたと言う噂がある程なのだ。美貌の教頭先生の登場とあって、保護者と一般のお客様兼用の観客席からため息とも取れる声が漏れていた。

 

「さて、それでは恒例となります優勝チームへ与えられる褒美について説明しましょうか。皆さんご承知の通り、我が校では生徒達のモチベーション増加を目的にして、大きなイベントの優勝チームには学園から褒美が与えられることになっています。そして今年は、優勝チームへの体育祭後片付けの免除、夏休みの宿題10%削減、我が校のスポンサーであらせられる冨士山製菓様より新作駄菓子の詰め合わせを賞与します」

 

『おお~っ!』 と湧き上がる驚嘆の声。

物欲でやる気を煽るのは原始的だが、それ故に効果覿面だ。

しかし、実はSっ気のある教頭先生。上げて落とすのは彼女の得意分野である。

故に――、

 

「その代わり、最下位のチームには体育祭と2学期に用意されている文化祭の後片付け、夏休みの宿題80%増しに加えて、夏季休暇の期間半減かつ特別夏季講習への強制参加を命じます」

 

『うぇええええっ!?』 と響き渡る戦慄の悲鳴。運動が苦手な生徒達の顔が絶望に染まり、適当に流そうかとやる気を見せていなかった一部の表情が、追いつめられた獣の如き必死なものへと変わる。絶対に負けられない戦場へと放り出されてしまった教え子達の悲嘆にくれる姿を見下ろす教頭は、満足げに頷きを繰り返し、頬は恍惚の朱色に染めていた。頬にあてた右手の小指を上気したピンク色の舌で舐め上げる仕草は、何とも言えぬエロティックさを醸し出している。

まさに飴と鞭。加虐趣味(じつよう)建前(ぎょうむ)を兼ね揃えた、見事な策略であると言えよう。

 

「やる気が出たようで何よりです。やはり教育はこういう刺激が生み出すメリハリが重要なのですね。……では、10分後に第1競技の開始とします。出場選手はスタート位置に集合、それ以外の生徒は各々のチームに用意された待機場所へ移動する様に。――あ、ちなみに、集合に遅れた者がひとりでもいた場合、その選手が所属するチームの総合得点を1割減とします」

『鬼ぃいいいいっ!?』

「叫んでいる余裕があるならさっさと動く様に。あと残り9分56秒ですよ?」

 

やけくそ気味な雄叫びを上げながら、生徒達が各々の目的地へと駆け出していく。

その後ろ姿を眺めながら「ふふふ……まるで浅ましい豚のような姿ですねぇ……。なんて可愛らしい……」と聖母如き微笑みを浮かべる教頭先生。

「教育者としてその反応はどうなの?」 というツッコミを入れる勇者は、終ぞ現れることが無かったのをここに記しておく。

 

 

――◇◆◇――

 

 

一般人の入場も許可されている観客用の席と、グラウンドを挟んだ向かい側、校舎を背負う形で用意された3つの待機場所。

ここが、生徒がチームごとに集合する場所であり、陣地と言うことになる。

何故こんな位置取りなのかと言えば、観客席からでも生徒の顔が見えるようにという配慮らしい。

なにせ、男子生徒は多種多様な衣装を纏ったコスプレ姿なのだ。そういった愉快なルールを前面に出そうと言う考えなのだろう。

実際、第1種目の100m走に出場予定のコスプレ集団に向けて、歓声やカメラのフラッシュ光が絶え間なく放たれている。

しかし、邪まな考えを持った部外者も入り込みやすいこのイベント、警備上では問題ないのだろうか?

男子はコスプレしているものの、女子生徒はいつも通りの体操服なのだ。乙女達の魅惑の体操着姿を撮影しようという輩が侵入を試みないとも言い切れないのだが……と、所属チームの集合所に移動した海斗が疑問に思っていたのを見計らったかのようなタイミングで、グラウンドに設置されたスピーカーから聞き覚えのありすぎる声が流れ出した。

 

『皆様、大変長らくお待たせいたします。本日、解説と進行役を務めさせていただきます、腐乱 蝶歌と申します。どうぞ親しみを以て“腐蝶()”とお呼びください』

「ご父兄の方々に様付けを強要した……だと……!?」

『あらあら、皆さん朝からお元気ですわね。まったく、そんなに体育祭を待ち焦がれていたのでしょうか? 鼻息荒く、声を震わせながら開催の合図を待つ……ふふっ、まるでBL同人誌即売会に列を作るイノブタのようですわね!』

「何故にイノブタ!?」

『おや、ご存じありませんの? ひと家族1パック限りの特売品を家族全員で分散し、個別にゲットするという主婦の技を参考に生み出された腐女子奥義……“ブギー・ブギー・トレイン”ッ! 頭数揃えのためにイノブタを引きつれた乙女達が即売会に群がる姿こそ、最近のフォーマルなのですわ! ごらんなさいこの映像を! 即売会の行列に並ぶ、雇い主がひと目で分かるようにはっぴを纏ったイノブタさん達の勇士を!』

 

取り出したスマフォの画面に映し出されたのは、行儀よく2列に並んで順番待ちをする、やたらとカラフルなはっぴ装備のイノブタの群れ。

一緒に映っている係員が真顔で列整理をしているのがとってもシュール。

 

「意味がわからないよ……。どうしてブタさんをチョイスしたのっ!? そんなのぜったいおかしいよ!?」

『人類みな兄弟! ならば、わたくし達と同じ哺乳類である彼らを同士として扱うことに何の問題があると言うのですかっ。大体、イノブタさん達を馬鹿にしないでっ! 彼らは素晴らしいポテンシャルを秘めておられるのですよっ。硬めな体毛がチクチクして、跨った時に下腹部を痛気持ちよくしてくれますし、お腹がくうくう空きましたら美味しく戴かれてくれるのですからねっ!』

「散々こき使った挙句に喰うんかい!?」

 

驚愕の新事実。昨今の淑女諸君のトレンドは肉食系だったようだ。

 

『徹夜並びの必須アイテムといえば、非常食(イノブタさん)、肉焼き器、○トモが鉄板ですからねぇ』

「ハンター!? てか、リアルにいるの!? 喋る猫がっ」

『何を今更。世界一有名な猫さんも人語を理解し、喋られているではありませんか』

「そ、それはもしや皆の友達、未来的な機械猫さんでは……?」

『何を言っておりますか。喋る猫さんと言えばもちろん彼女……こんにちは(ハロー)な○ティちゃんにきまっているでしょう。まったくもう……お・ば・か・さ・ん・♪』

「ここに来て乙女ちっくなリアクションが返ってくるとはっ!?」

 

実況者と選手達による、打てば響くようなボケとツッコミの応酬。

観客席にいる来校者様方は完全に置いてきぼりだ。

 

『ふうむ、ナイスツッコミ。ほど良い準備体操で体調も万全となったようじゃな。流石は我が愛しの教え子達』

「「「「「え、これが準備体操だったの!?」」」」」」

 

ほっほっほ、と黄門様のように笑う校長の一言で見事にハモる生徒一同。

あんぐり大口を開けておまぬけ顔をさらす羽目になった来校者の方々がおられる中、いつの間にか解説席に現れ、あたりの空気を無視して腐蝶とハイタッチなんぞをやらかしていた理事長がにっこりと微笑み、

 

『まばゆいねぇ……。ナイスぶるま!』

 

ゲスな発言をかましてくれやがりました。サムズアップ付きで。

頬はだらしなく緩み、普段は長い眉毛で半分近く隠れている両目を爛々と見開き、鼻息荒くグラウンドを駆ける生徒達……正確に言えば、女子生徒をガン視する。

熱すぎる視線の先にあるのは、女子生徒が装着した運動着……ブルマだった。

しかも3つの色に分かれており、これがチーム分けの目印になっているのだ。

ブルマを学園指定の運動着とするために学園理事会とPTAが集まる総会で熱弁を振るい、感涙の涙と拍手の嵐の中で承認させたという武勇伝まで噂されているのだから、理事長の執念と熱意は本物だ。

 

「まずは始まりにして最強なる紺ッ! 続いて、萌え上がる情熱の如き赤ァ! 最後に、ちょっぴり背伸びしたい乙女心を表現したピンクゥ!! 若人達よ、乙女の汗と舞い踊るブルマァ! の元へと集い、滾るパッションを解放するのですよぉおおおっ! ではここに、第69(シックスナイン)愛武(あいぶ)学園体育祭を開催するっ!!」

「「「いろんな意味で最低だぁあああっ!?」」」

 

声高々に宣言する理事長(オープンスケベ)

絶叫する生徒の数がさっきよりも少ない気がするのは、理事長の演説にうんうん頷いている変態予備軍(せいと)共がいるせいか。こんなんで入学者が増やせると本気で思っているのだろうか?

 

……まあ、ともかく。

こうして、いろんな意味で歴史に名を遺す羽目となる体育祭が開始されるのだった。

 

 

――◇◆◇――

 

 

陸上トラックに引かれたスタートラインに並ぶ生徒達が、体育祭実行委員の合図――ピストル状のアレ――を鳴らすと同時に駆け出していく。

歓声に後押しされるように全力でゴールを目指すその表情は鬼気迫るものがある。

きっと教頭が提示したペナルティを恐れているのだろう。ここで褒賞を狙うために正々堂々全力を尽くす! のがスポーツマンシップ的にも正しい学生の在り様なのだろうが……、

 

『先頭は“ピンクぶるま”チーム所属、ももひきと無地のシャツ、腹巻と下駄を装備した《なんちゃってバカボンのパパ》選手。あえて下駄を脱ぐことによって裸足の加速力をいかんなく発揮しておられます。両手にぶら下げた下駄がカラコロ鳴って、喧しいことこの上ないですわね。とはいえ、なかなかの瞬発力をお持ちなようで。このまま1位をゲットできるでしょうか……どう思われますか、解説の沢尻さん』

『う~ん、そうですね~。私的にはそう簡単にいかないと思いますよ~?』

 

スピーカーから響くのは、どこか幼さを感じさせる少女の声。実況担当の蝶歌の隣にいる、解説役として抜擢された桃花のものだ。

体調不良を理由にした長期入院のため参加できなかった昨年と異なり、今年は解説役として参加することが出来たらしい。

本人も、運動がそれほど得意と言う訳ではなく、こういうイベントのゲスト役を受け持つことで、不足しがちだった昨年の出席日数の埋め合わせをしているのだ。

まあ、本人も楽しそうだから、葵や早苗も深くつっこまなかったわけだが。

 

『ふむ、沢尻さんは何かが起こると予見していらっしゃるのでしょうか? ――っとお! 噂をすれば何とやらかしらっ!? 先頭を駆けていたバカボンのパパさんにまさかのアクシデント発生ぇ――ですわぁ!』

『うわわ、顔面からグラウンドに突っ伏してますね~。これぞまさに、伝説のA・KE・BO・NOダウンです♪』

 

後頭部に大きなたんこぶをこさえたバカボンのパパ(偽)の隣のトラックを駆け抜けていくのは野球のユニフォーム+バット&メット装備の男子生徒。

レンズに炎状のペイントが施された視界ほぼゼロな眼鏡をかけた――もちろん、走る時は危ないので額の方にずり上げている――彼のバットから煙が立ち上っている事、バカボンのパパ(偽)のすぐそばに白球が転がっていることから見ても、下手人は彼で間違いないだろう。

だが、

 

『どうやら、後方からヘッドショットをかましたようですわね。走りながら、人間の頭部にクリティカルヒットしてみせるとは、流石は野球部の副主将なだけはありますわ』

 

マイク片手に、なにやら感心する蝶歌。

桃花も、「お見事!」 と書かれたうちわを振って称賛していることから、反則行為には引っかからなかったようだ。

観客の生徒達からも、「すごいぜ、副主将――!」 「カッコイ――!」 と称賛の声が上がる始末。

勝利を目指して全力を尽くし、切磋琢磨するのではなく、不意打ち闇討ち当たり前。相手を引き摺り下ろして掴んだ勝利の美酒は最高だ! ……という外道がデフォな愛武学園の生徒達の体育祭種目が真っ当な競技であるわけがなかった。

 

ちなみに、第1レースを勝利したのは“レッドぶるま”な生徒会副会長だった。

勝因は、「あ、あの……リタイアしてくれると嬉しい……です……」と、弱々しく上目使い&口元に手を当ててモジモジするという凶悪コンボで、他の参加者(全員男)が一斉に前屈みになって競技続行が不可能となったというアホらしい理由で。

もちろん彼らが、レース後にチームメイト達からフルボッコにされたのは言うまでもない。

 

『て、天然マゾっ娘の本領発揮……っ! 副会長……なんて恐ろしい娘っ!?』

『余計なカミングアウトはいらないですよ~? あ、第2レースの皆さん、『マジでっ!?』 と鼻息荒く興奮してないで、ちゃっちゃと始めちゃってください~』

 

戦慄するお嬢様ポーズを劇画タッチなお顔でかまされる蝶歌はほっといて、桃花のアナウンスを受けた運営委員により競技はつつがなく進められていく。

 

『それにしても……』

 

そんな中、ふと思い立ったように蝶歌が控え場にいる生徒達……しかも、ワザとらしく『とある生徒』のいるほうを流し見ながら呟いた。

 

『こうしてみると、今年は煌びやかで独創的なコスが目立ちますわねぇ。○ャンプ系主人公の恰好に始まり、○ラグスーツ(白とか赤とかピンクとか)やらオーソドックスな演劇衣装的なデザインが目を惹きます。ほら、ごらんなさいな桃花さん。あそこで「僕聴こえな~い」とばかりに顔を背けているスーツの男性なんて、どっからどう見ても夜の帝王にしかみえませんわ♪』

『うわわっ、ほんと~ですね~。白いスーツとはだけられた胸元でジャラジャラ鳴ってるシルバーアクセがすっごく似合ってますよ~』

 

グラウンドに響き渡るアナウンスに釣られるように、一同の視線が夜の帝王呼ばわりされた少年へと突き刺さる。

もちろん、その正体は言わずもがな――

 

「絶対ワザとだろ、あの腐女子めぇえええ……!」

 

今にも殴り込みそうなまでに歯を食いしばり、プルプル震える海斗くんだった。

隣に腰掛けた伊織が落ち着くよう言い聞かせていなかったら、間違いなく暴走していたことだろう。

無関係な生徒に悪口を吐かれてもどうと言うことはないが、さすがに幼馴染の悪戯はクルものがあるようだ。

だがしかし、蝶歌の狙いはそこにこそあったのだ。

それは恍惚で蕩ける様なイイ笑顔を浮かべて鼻息を荒くする彼女の表情が総てを物語っている。

 

『はぁ……はぁ……! くっ、屈辱に悶える殿方が同姓(←ここ重要)の幼馴染に抱き締められ、よしよしと宥めすかされている……くうっ! これだけで食パン5枚はイケますわぁああっ! ――皆様! 淑女な皆様! カメラのスタンバイはよろしくてぇっ!?』

「「「「Sir! Yes.Ser!」」」」

 

乙女の会所属の女子生徒はもとより、観客席からも身を乗り出した奥様方から熱い情熱と眩いフラッシュの嵐が巻き起こる。

コスプレしているのは男子生徒のみ。つまり、夜の帝王(仮)を胸に抱き寄せ、愁いを帯びた表情で落ち着く様に慰めている着物姿の生徒もまた、男子生徒であるわけで――。

「……さんきゅ」「ふふっ、気にしなくていいさ。友達じゃないか」と微笑み合いながら額を重ねたりなんかしちゃってる彼らはつまり『そう言う関係』にしか見えない訳で――……!

 

「「「「「ふわわわわぁぁあああああっ♪」」」」」

 

かつてないピンク色のシャウトがグラウンドを支配した。

 

『くふぁ……ふっ、ふふふ……流石はワタクシの愛すべき幼馴染達……期待にこうまで答えてくださるなんて。――それに引き替え』

 

鼻孔の奥から溢れ出す真っ赤な情熱をハンカチで押さえつつ、脳内フィルターに先ほどの光景を焼き付けてすごく満足そうな笑顔を浮かべていた蝶歌だったが、不意に視線をぐるりと回して他の生徒達を見やりながら、さも期待外れだとばかりに失笑を零した。

 

『やれやれ、私達の願いに応えようという殿方は他に居ないのですか。どいつもこいつもヘタレなチキン野郎ばっかりと言う訳ですね面白くない。もっとこう、ガッツを見せて欲しい物です。その点で言えば、あの方々は実にナイスでしたわね。ドキュメンタリーの撮影かよっ! と言わざるを得ないほど凄まじい数のビデオカメラや記録用の機材を背負い込み、穴の開いた紙袋を被った白衣の一団。入門のところで警備員に捕まっていなければ、今頃は何とも愉快な光景を見れていたかも知れませんのに。ワタクシ、とっても残念ですわ』

 

 

――◇◆◇――

 

 

実は体育祭開催の30分ほど前、校門の前でこんなやり取りが繰り広げられていたりする。

 

「キミィ! たかが警備員の分際で我々の道を阻むとはいったいどういう了見なのかね!?」

「変質者の来校はご遠慮させていただいておりますので」

「ぬぅ~わぁ~にぃ~!? 我らのどこに問題があると言うのだねっ! 紳士の嗜み、超☆ネクタイも装備していると言うのに!」

「素肌の上からドギツイピンク色のネクタイと白衣を羽織り、穴あき紙袋を被った輩を変質者と呼ばずして何と呼べと?」

「決まっておるだろう……紳士だっ!」

「頭に”変態”の2文字が付きますよね、ソレ」

 

喧々囂々。

互いの主張は平行線をたどり、このままでは埒が明かないと判断した変質者共が決断を下す。

それ即ち――

 

「もはや問答無用っ! 行くぞ同士諸君っ! バカップルのいちゃつきを記録するためにぃいいっ!」

「「「「YAHAAAAAAAA!!」」」」

「あっ、待たんか貴様ら!? ってか動きキモッ!? くっ、皆の者、変態の侵入を阻止するのだァ~ッ! であえ、であえい!」

 

数十キロは下らない機材を抱えながらムーンウォークで侵入を目論む変質者集団と、警笛によって召喚された警備員ズによる激しい攻防戦が、ここに切って落とされた――……!

 

 

――◇◆◇――

 

 

携帯片手に観戦していた蝶歌はともかく、実際に現場を見ていない生徒達は信じる様子も無く、ンな奴いねぇよと誰もが笑い飛ばす。

しかし、何事にも例外というものはあるワケで。

 

「「絶対あいつら(あの人達)だ……」」

 

特徴的な変態に心覚えがありすぎる海斗と葵だけは仲良く視線を彷徨わせていた。

一応は関係者と言う扱いになってしまうので、もしばれたら大参事。

変態の身内と言う欠片も嬉しくないレッテルを貼られて、今後の学生生活を送る羽目になる。

 

「ん? どうしたんだ海斗。汗すごいぞ?」

「……なんでもない」

「でも……」

「いや、本当に問題ないんだ。これは、その……体育祭優勝を勝ち取ろうというやる気が溢れてるだけだから!」

「ふふっ、いつからそんな熱血キャラに進化したんだ? まあ、いいさ。もし悩みがあるのならいつでも話してくれ、相談に乗るからな。――ところで、僕の仮装姿どうかな?」

 

くるりとターンを決めながら上目使いにポーズを決めてみせる伊織。

腰まで届く黒髪がふわりと舞うその仕草は衣装と絶妙にマッチしており、思わず見惚れてしまうほどの魅力を醸し出している。

伊織の服装は、純白の鶴が描かれた高級感あふれる着物。解かれた黒髪に簪を差し、紅を引かれた唇が清楚な艶姿を形づくっている。

 

「普通に似合っとるな。一瞬だけどクラッとしたぞ……。にしてもえらく高そうな着物に見えるんだが、一体誰が用意したのやら」

「ありがと。そう言う君も良く似合っているよ。いっそのこと、普段からそう言う格好をしてればいいのに。きっとモテモテになれるが?」

「モテモテて……アホか」

 

冗談だとわかっているからこそ、鼻で笑い飛ばした海斗の恰好は、一言で言えば――ホストだった。

蝶歌の夜の帝王発言もあながち間違っていない。て言うか、実に的を射ていると言わざるを得ない。

なにせ、本当にその道のプロじゃね? と思わざるを得ない程、ベストマッチしているのだ。

純白のスーツに縁なし眼鏡。髪もセットしているのか、海斗が元来持つワイルド系の雰囲気が前面に出されている。

ワザとボタンを外してはだけられている胸元から覗く虎柄のシャツとシルバーアクセが妙なコントラストを描き、指や手首のシルバーリングが金属音を鳴り響かせる。

待機所に敷かれたビニールシートの上にどっかりと胡坐をかく様はなんとも堂に入っており、容姿と相まって夜の繁華街で淑女相手に夢を売る若き皇帝と呼ぶにふさわしい。実際、何人もの女性を(撮影&ベッドの上で)泣かせ(悦ばせ?) ているのだから、あながち間違っている訳ではない。

ちなみに今年のコスプレ衣装のコンセプトは『動物』。コスプレした生徒達は誰もが何かしらの動物を彷彿させるアイテムが付属されている。

伊織の場合は着物に描かれた鶴で、海斗のは虎柄のシャツと尻尾を思わせる腰帯だ。

けれど、彼らはまだマシな方で、生徒の中には明らかに悪意全開だろうとツッコまざるをえないような衣装も存在していた。

例えば……、

 

『さて、第一種目もいよいよ終盤戦。第10レースの先頭に立ったのは……“ピンクぶるま”チームの兎々山(ととやま)君ですわ』

『先輩、先輩。言い忘れてましたけど、コスってる生徒の本名ばらすのはご法度ですよ~?』

『そう言えばそうでしたわね。次から気を付けますわ。にしても悍ましいコスですわねぇ……。彼に宛がわれた衣装はなんとバニーガール。網タイツを突き破る未処理のすね毛と真っ赤なハイレグで異彩を放つ股間のもっこりが実にキモいです』

『一歩ごとにぶらぶら揺れてますもんねぇ~股間の巾着袋~』

『ちょ、食べ物に例えるのはノゥ! ですわよ。おでんのきんちゃくが食べられなくなっちゃうじゃありませんか』

 

エロ可愛いうさぎさんの代名詞たるうバニー衣装。男の子のロマンたるソレを汚された男子勢の嗚咽がグラウンドを支配する。

その一方で女子はと言うと、あまりの気持ち悪さにそろって顔を背けている。……彼のチームメンバーまでもが。

戦意を砕かれた他選手が次々と棄権していく中、一着の証である旗を受け取る彼の眼もとにきらりと輝くモノが浮かんでいるのは勝利の喜びによるものだけではない筈だ。登校拒否にならないか実に心配である。

かつてない心の傷を負ってしまいとぼとぼと待機場所へ戻っていくうさぎ男を迎えた友人らしき亀と狸の着ぐるみのリカバリースキルに期待する。

 

――くいくい。

 

完走したバニー(笑)へ敬礼していた海斗は上着の裾を引っ張られる感覚を覚え、後ろを振り向く。

そこには海斗や伊織が所属するチームの象徴“紺ぶるま”な体操着に着替えた葵の姿。

胡坐をかく海斗に視線を合わせるためなのか、四つん這いの体勢で。

幸運にも彼女の後ろにいた男子生徒達がむっちりと色香漂うヒップラインに魅了され、血眼になりながらガン見していた。

そこそこ厚手の体操着を押し上げる豊かな乳房、水泳で引き締まった太ももの付け根まで露出している脚線美、会場の熱気に充てられたのかほのかに香る汗の香り。無自覚なのだろうが、海斗から見える葵の体勢は非常に蠱惑的な魅力に溢れており、すこし視線をずらせば首元からライムグリーンのブラジャーが見えそうになっている。

葵は周囲から自分に向けられる邪まな視線に気づいていないのか、それとも海斗以外が目に入っていないのか、にっこりと微笑みながら海斗の横へ移動し、彼の隣にちょこんと腰を下ろした。丁度、海斗を挟んで伊織の反対側の位置に。

 

「どした? いつもの面子と一緒かと思ってたが?」

「桃花は解説席だし、早苗は“レッドぶるま”になっちゃったんだ。他の友達も別のチームになっちゃったしどーしよっかなーってキョロキョロしてたら海斗くんを見つけたんだ」

 

だから来ちゃった♪ 

 

ぺろりと舌先を出してはにかむ葵の仕草に胸の鼓動が跳ね上がり……わざとらしく咳払いをついて誤魔化す。

そんな海斗とほとんど肩が引っ付くくらいの距離を確保した葵が、ふふっと笑顔を浮かべた。

周囲からは死角に隠れているが、シートに付いた手と手がどちらともなく重ね合ったから。

傍目には恋人同士の逢瀬に見える雰囲気を醸し出す海斗と葵だったが、それに待ったをかける人物がここにいた。

 

「あ~、コホン。そろそろ次の競技が始まる頃合いじゃないかな。海斗、君も出場するんじゃなかったかい?」

 

2人の空間へ割り込むかのごとく、まるでしな垂れかかるように身体を寄せながらそう言ったのは頬を膨らませた伊織だった。

どことなく面白くなさそうな表情を浮かべているのは、はたしてどういう意味合いがあるからなのか。

 

「むぅ……」

「ふん……」

 

海斗を挟み、ステレオで不機嫌そうな声を上げる葵と伊織。

心なし、繋いだ手とか肩に添えた指とかに力が籠っているような気がする。なんか睨む様なジト目になっているし。

 

「えーと……竜ヶさ――」

「海斗くん?」

 

にっこりと微笑む葵嬢。

僅かに開かれた瞳からハイライトが消えていて、めちゃ怖いです。

 

「何時もみたいに『葵』って呼んでくれていいんだよ? ホラ、せっかく正体がばれにくいコスプレしているんだしね」

「は、はい! わかりました葵様!」

「よろしい。――ふふん♪」

「むっ……。海斗っ、次の競技には僕も出場するんだ。だからスタート地点に行こう。――『一緒に《・・》』、ね」

 

海斗の片腕を抱き寄せながら、どーだ! と言わんばかりのドヤ顔を見せつける葵に反抗するかのように、もう片方の手をぐいぐいと引っ張り上げはじめた伊織。

「お、おぉ?」 と間抜けな声を出してしまった海斗は、自分を尻目に今にもビームが飛び出しそうな眼光をぶつけ合う同棲相手&幼馴染の様子に困惑を隠せない。

 

――あ、あれ? この2人って学園で接点なんか無いよな? なんで不倶戴天の宿敵っ、とばかりにメンチ切り合ってんだ!?

 

頭上に?マークを浮かべる海斗は気付いていないようだが、当人たちは目の前の『敵』は決っして相容れない存在だと本能で察知しているのだ。

 

葵は、幼馴染と言う立場で海斗と積み重ねてきた絆と信頼……そして『友情を超えた感情』を伊織が抱いていることに感づいて。

 

伊織は、誰よりも信頼する『大切な人』を鳶の如く掻っ攫おうとする葵に良い感情が抱けなくて。

 

多少の差異はあれど、つきつけて見れば両者とも『海斗を取られそうなのがムカつく』から不機嫌なのであって。

結果、目の前の相手(こいつ)は何か気に食わないと言う結論に達した訳で。

まあ、要するに――

 

『ひとりの男を取り合う学園のアイドルと幼馴染な王子様の三角(さんっかく)関係(くぅわぁんくぅぇい)っ……! やだなにこの子たち、すっごく美味しいんですけどおっ!』

『先~輩、鼻血ふきふきしましょうねぇ~』

 

私、興奮していますっ! とテンションアゲアゲな蝶歌の腐ったシャウトは、自分たちに降り注ぐ物凄い数の視線の圧力に正気を取り戻した海斗と伊織が身を縮こませながらスタート地点に駆けていくまで続いたという。

 

「帰っていいか? ていうか帰らせて。お願い」

「膝枕してあげようか? 疲れが吹き飛ぶかも」

「……ゴメン。俺が悪かった。だから、溶鉱炉にニトログリセリンをブチ込む様な発言はやめてくれませんかね」

 

伊織の発言で女性陣の歓声が絶叫の域に達する中、深い深い海斗のため息が零れ落ちた。

 

 

 

 

親しすぎる幼馴染コンビが微妙なラヴ臭を振り撒いている一方、待機所に残された葵はと言えば……

 

「ちょ、竜ヶ崎さん! あのホストなお兄さんとお知り合いなんですかっ!?」

「もしかして、修学旅行の時に噂になった彼氏だったりとか!? やっぱりウチの生徒だったんですねっ!?」

「ていうか誰なんですか、あの少女漫画の世界から現れたかのような殿方は!? 独り占め!? 独り占めされているんですかっ!?」

「ズルいですよ葵先輩! 同じ水泳部の同士として、イケメンさんは共有財産にするべきだと進言しますっ!」

「ちょっと好き勝手言い過ぎじゃないかな、貴方達っ!?」

 

競技の真っただ中だというのに「そんなの関係ねぇ!」 とばかりに瞳を爛々と輝かせた女子生徒の群れに詰め寄られて右往左往する葵の姿と、くんずほぐれずにも見えるぶるまの乱舞に注目しまくる男子勢の姿があったとか。

 

なお、この騒ぎで最も割りを喰ったのは、誰も注目していないトラックを必死に駆けていく第一種目の出場選手だったのは言うまでもない。




次は、海斗くん出場の第二競技と昼休憩あたりになるかな~?
えっちシーンを次話に入れるか、おふざけと切り分ける意味を兼ねて次々話にするかで悩み中だったり。

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