※この作品はR-18です。

『えっち』から始まる恋があってもいいじゃない?   作:カゲロー

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熟考の結果、えっちは次話に持ち越しとされていただきます(主に文量的な理由で)。
どいつもこいつも大胆発言ぶっ放してくれてますが、祭りの空気に中てられたという事でひとつ。



第16話 はっちゃけすぎな体育祭(午前の部編)

『さてさて、とっても愉快な第一競技も無事終了いたしましたわね。続きまして、第二種目の借り物競争“ギアスロール”に移りたいと思います。出場選手の皆さまは可及的速やかにスタート場所へ集合なさってくださいませ。さもないと、教職員用テントの裏で喜々とした笑みを浮かべていらっしゃる教頭先生の狂逝(きょういく)的指導その1“愛の有刺鉄線電磁鞭”によるスパンキングプレイを堪能する羽目になりますわよ』

『うわわぁ、一振りごとに地面が抉り取られていってますよ~。ていうかあれ、有刺鉄線をスタンガンに繋いだだけに見えるんですけど大丈夫なんでしょ~か』

『その筋の人種には、最高のご褒美らしいですわよ? 生憎、ノーマルなワタクシには理解の及ばぬ世界ですが』

『えっ? 先輩、いつからご自分が普通の人種だって錯覚していたんですか~?』

『なん……ですって……!?』

「仲良いな、あいつら」

 

マイクのスイッチをONにしたまま漫才みたいなやり取りをする蝶歌と桃花に小声でツッコミつつスタートラインに辿り着いた海斗は、周囲からビスビスと突き刺さる好奇と嫉妬と興味の視線にあえて気づかないフリをしつつトラックを見やる。

すると、ゴールまでの間にレースの小道具らしきカードや簡易の着衣室らしきボックスが手早く設置されていくのが見えた。

意外と大がかりな準備に嫌な予感が湧き上がる。なにせ出場競技を決める際、借り物競争としてしか聞いていなかったのだ。

おそらく、土壇場で体育祭実行委員あたりのテコ入れが入ったのだろう。理由はもちろん、『普通のなんて面白くない』といったところか。

思い付きにも似た提案や競技内容変更に伴って必要になった小道具をこうして準備しきるアグレッシブさは愛武学園生徒の長所でもあり欠点でもある。

こういう場合、大抵碌でもない結果になるのを身に染みて知っているからだ。

何となく、胃がキリキリ痛む錯覚を覚えた海斗が往生際悪く逃げ出そうとしたところを伊織に捕縛されている内に、準備が整ってしまったようだ。

悪あがきを続ける海斗をあざ笑うかのように(実際、蝶歌の吹き出す声がスピーカーから聞こえてきた)、競技開始を告げる無慈悲なアナウンスが響いてきた。

 

『小道具の準備が整ったようですので、第二種目の開始といきましょう。第一組の皆様方、スタートラインについてくださいな』

 

よーい、ドンッ! とお決まりの台詞と共にスタートライン横にスタンバイしていた体育祭実行委員の役員らしき生徒がピストルを鳴らした。

その瞬間、一斉に駆け出していく第一組の出場選手達。先の競技と同じように、今回もまた多種多様なコスプレ衣装の男子生徒と“3色ぶるま”な女子生徒達がトラックを駆け抜けていく。

ほぼ一団となって駆けていく選手が最初のチェックポイントへと差し掛かったのを見計らい、蝶歌が競技のルールを解説し始めた。

 

『この種目は基本的に借り物競争と同じルールに則っております。つまり、チェックポイントに置かれているカードを拾い、そこに記されたお題をクリアしながらコースを走破するのです。チェックポイントは計3つ、お題は〈○○を借りてくる〉といったオーソドックスなものから、何らかの指令をこなすといったタイプのものも含まれております。つまり、借り物を探す探索力と、指令をこなす覚悟力が問われる競技と言う事ですわ』

『覚悟力ってところが気になりますね~。一体、どんな無理難題が書かれているんでしょうか~?』

『それは見てのお楽しみという奴ですわ』

『おお~、何とも意味深な発言~。それじゃ例えば、〈学園一の有名人をつれてくる〉ってお題もあったりするんですかぁ?』

『もちろんですわ。ですが、条件を満たす方が複数おられる場合はどなたかおひとりを連れて来られればOKとします。おっと、そうこうしている内に先頭の選手が最初のチェックポイントに辿り着いたようですわね。ちなみに先頭を往くのは、ひょっとこのお面を被って黄色一色の全身タイツを纏った変態ですか。ボディラインがピッチピチで実にキモいですわね。まさに変質者の鏡以外の何者でもありませんわ。解説の沢尻さん、一言どうぞ』

『夜中にワンちゃんの散歩に出かけたら、10分で職質受けること間違いなしな変態さんにしか見えないですね~』

 

ザッシュウゥウウッ! と無垢な言葉という刃物がピュアボーイのハートをブレイク。

 

――ぐっはぁああああっ!?

――血ィ吐いてぶっ倒れたぁああーーっ!? 衛生兵! 衛生兵―っ!

 

『あらら、豆腐メンタルお持ちの方が多い事で。ま、そんなことより一命(いちめい)リタイア、と。では、レースの解説に戻りましょうか』

『単語のニュアンスがおかしくなかったですか~?』

『いえいえ、間違ってなどおりませんわ。ほら、ごらんなさいな。真っ白に燃え尽きて屍を晒す変質者の姿を』

『なるほど~、そう言われれば確かに言い得て妙ですね~』

「……鬼だ」

 

海斗の呟きに、戦慄に慄く選手たちが一斉に同意を返す。

出場選手たちが明日は我が身と背筋を震わせているのを尻目に、何とも楽しげに解説を続けていく蝶歌と桃花。

実は似た者同士であったということなのか。一応、双方と知り合いである葵や早苗が何とも言えない表情を浮かべているのも頷ける。

とかやっている内にチェックポイントに辿り着き、カードを拾った選手たちがものすごく困った顔で右往左往していた。

設置されたモニターを覗き込みながら、蝶歌が実況を再開する。

 

『ふむふむ、どうやら一筋縄ではいかないお題をひいてしまったようですわね。あ、それから選手の皆さ~ん、一度拾った指令はパスできませんから頑張ってクリアしてくださいませ~』

『ん~? いったいどんなお題が書かれていたんでしょうか。見えるかな? ……あ、見えた。えっとぉ、一番手の選手のお題は――〈用意された文章を朗読せよ〉?』

『ふむ、おそらくはどなたかの自作ポエムあたりを読み上げると言ったところでしょうか。あ、どうやら始まるみたいですわね。しーっですわ』

 

蝶歌のアナウンスに従って一同が声を潜める中、当の女子生徒は頬を林檎のような朱色に染め上げていた。

まるで助けを求めるようにキョロキョロ辺りを見渡すものの、自分が注目の的になっていることに遅れて気づき、いっそう恥ずかしそうに顔を手で覆い、蹲ってしまう。彼女の反応に興味をもったのか、どこからともなく取り出した双眼鏡を覗きこむ蝶歌がカードに書かれた文章を読み始めた。

 

『〈んあっ♪ は、やっ……らっ、らぁめぇ~♪ いっ、イックゥゥウウン!〉……あらら、エロゲー的な喘ぎ声のオンパレードですわ』

 

あっけらかんと、しかしやけに臨場感あふれる蝶歌の喘ぎ声がスピーカーから流れ出す。

ごしゃっ! と実に良い音を鳴らしながらグラウンドに突っ伏す選手一同のみならず、臨場感たっぷりな艶声にご父兄の方々の顔も真っ赤っかだ。

 

『これはこれは、なんて面白……いえ、愉快なお題なのでしょう。ならばぜひ、選手である彼女ご本人に公開○ナニーショーもどきを実行していただなくてはっ』

『あはは~、テンションアゲアゲですねぇ。てなわけで、どうぞ~』

 

ポテチ片手に途轍もないキラーパスが桃花から女子生徒へ。

 

「えっ、えええっ!? わっ、私、出来ませんよっ!」

『やる前から諦めてどうしますかっ! 何事にもチャレンジですわよっ! さあさあ、皆さまもご一緒に! おっじょうさんのぉ~、ちょっとイイトコ見ってみたい~ですわっ♪』

 

蝶歌の勢いに呑まれてしまった可哀そうな女子生徒は、半泣きになりながら手元のカードへ視線を落とし、震える唇をゆっくりと開いていく。

そして――、

 

「ぁ、んっ、っぁ……ふあぅ、……~~ッ! ごめんなさい、やっぱりできませんっ!!」

 

羞恥心がマッハ状態になってしまったのか、手に持ったカードをぺいっ! と投げ捨て、脱兎のごとく逃げ出してしまった。

待機所の生徒達や観客席の親御様方からちょっぴり残念そうな溜息が聞えてきたのを聞かなかった事にしてあげるのが優しさというモノだ。

その他のお題も〈某プロスポーツ選手のカツラ疑惑の真偽を確かめよ〉とか、〈好きな女の子に公開プロポーズせよ〉などと言った「出来るかンなこと!」 とカードを投げ捨てさせるトンデモ指令ばかりで、結局第1レースは全員リタイアという何とも予想外な結果に終わってしまった。

 

「やりすぎるからこういう羽目になるんだよ。ったく、あんな無茶ぶりばっかしなら速攻でリタイアするのもありかねぇ」

 

海斗の呆れた様な呟きを聞き取ったのか、蝶歌の双眼がギュピーン! と煌めき、悪戯が成功した純真無垢な子どもを思わせる満面の笑みを浮かべ、

 

『あ、言い忘れていましたけど、レースの途中棄権は重大なペナルティーが科せられますのであしからず。ちなみにその内容は個別に違いますけれど、どっかのホス虎さんの場合なら、彼女さんとの性生活を事細かく記させていただいた“夜の性活日記”を掲示板に張り出させていただきますが構いませんわよね? 答えは聞いていませんが』

 

――……ブチコロス。

――お、落ち着くんだ海斗っ!? ていうか、オーラ的なナニカが全身から立ち昇ってるんだけどっ!? いつから君はDB世界の住人になったんだ!?

――HA・NA・SE!! あのドバカをタコ殴りにしてやらんと気が済まんッ! 奴がッ! 泣くまでッ! 殴るのをッ! 止めんンンッ!!

――だから、ダメだってば!?

 

『ふふふ、きっとレースで1着をとってやろうと言う気合いが溢れてしまったのですわ。まったく、いつまでたってもお子様なんですからっ♪』

 

――■■■■■■■■■■■――っ!!

――うぉわああっ!? ちょ、せめて人語を話してほしいんだけどもっ!? てか、蝶歌! わかってて挑発するんじゃないっ!

 

言われ、着物美人に羽交い絞めにされた猛獣の図をちらりと流し見してから右手を軽く握り、こつんっと米神あたりを軽くこつきながらペロリと舌を出し、

 

『てへ♪』

 

可愛らしく誤魔化してくださりやがりました。

ますます怒り狂って暴れる海斗と冷や汗を流しつつ身体ごと抱きついて抑え込もうと頑張る伊織。

もはや競技そっちのけでグラウンド中の視線を釘づけだ。

 

『さあ、そうこうしている内にスタートしました第2組の選手達がチェックポイントに差し掛かりましたわ。今度はどんな愉快なお題が待ちかねているのでしょうか』

 

実に楽しそうな蝶歌のアナウンスに毒気を抜かれたのか、盛大に顔をしかめた海斗がようやく大人しくなる。

その際に、例の如く伊織との過激で親密なスキンシップをかまして黄色い歓声を浴びるという一幕もあったものの、その辺はもうお約束なので割愛する。

一方、チェックポイントに辿り着くなり指令入りカードを拾い上げては頭を抱え、足止めを喰らっていく選手達。

そんな中、今や懐かしい黒スーツ、黒マント、デフォルメされたチーターのアップリケを縫い付けられたシルクハットを被り、白い仮面を装着したタキシードな仮面が(仮面のせいでわかりにくいが)何とも言えぬ神妙な表情で硬直する姿に何となく目を向けた海斗が、不意に既視感のようなものを感じた。

 

「んん? あのタキシード仮面……なーんか見覚えがあるような?」

 

妙な引っ掛かりを覚えた海斗が見つめる中、自分を鼓舞するように頬を叩いて立ち上がったタキシード仮面(仮)が簡易の着衣室へ飛び込んだ。

閉じられたカーテン越しになにやらゴソゴソと床擦れのような音が聞こえてくる。

おそらく、着衣室の中に用意された何かしらの衣装に着替えろと言う指令だったのだろう。

待つこと数分、勢いよくカーテンが開かれ、新たな衣装にチェンジした元タキシード仮面(仮)が姿を現した……のだが、

 

「「「「ごふはぁああっ!?」」」」

「へ、変態だ……!」

 

戦慄を隠せない海斗の呟きが、観客の悲鳴の中で木霊する。

とっさに自分の背中に隠れた伊織を庇うようにじりじり後ずさりする海斗の頬に冷たい汗が流れ落ちる。

何故ならば、現れたのは真正の変態と言わざるを得ない化け物だったからだ。

 

股間の紳士が激しく自己主張(もっこり)なビキニパンツとガーダーベルト。

 

今や懐かしいルーズソックスとうっすら見える脛の無駄毛が醸し出すコントラストが実に気持ち悪い。

 

素肌の上から特撮番組の悪役が羽織る様な毒々しいカラーのマントを纏い、乳首には自分で書いたのだろうか、唇の形をしたキスマークが描かれている。

 

首に直接巻かれているのは、眼鏡の名探偵を彷彿させるメカニカルな蝶ネクタイ。

 

原型を留めているのがシルクハットとマスクを付けた頭部のみというのがまた、何ともシュール。

 

どっからどう見ても、100人が100人とも変態! と指差す事間違い無しな純度MAXの変質者がここに降臨した。

 

他の選手たちが「ひぃいいいーっ!?」 と次々に腰を抜かす中、靴紐を固く縛ってやる気を微塵も萎えさせていない“首から下が変態仮面(仮)”が係員に指令が書かれたカードを手渡しながら、勢いよく駆け出した。

呆気にとられて合否判定を下すことが出来なかった係員に変わって蝶歌が双眼鏡を覗きながら、

 

『変態さんのお題は……〈更衣室の中にある衣装のパーツを組み合わせて、思いつく限りの変態ちっくなコスプレをする〉ですか。なるほど、そう言う事ならあの格好も頷けますわ』

「いやいやいや……だからってやるかフツー?」

「子供の成長を微笑ましく見守る母親のような表情で言う台詞じゃないって」

 

殆んど抱き合うような体勢の幼馴染~ズが「ないわ~」状態となっている間に、空手チョップのように荒々しく腕を振り、両足を前後激しくスイングする所謂アスリート走りでトラックを駆け抜けた“首から下が変態仮面(仮)”が第2のチェックポイントへ差し掛かった。

今度はどんな無理難題が用意されているのかと、極力変態(せんしゅ)を視界に入れないよう注意がけながら彼が地面に置かれたカードの中の1枚を拾い上げるのを待つ。そして……、

 

お題:〈仰向けブリッジの体勢でレースの残りを完走せよ〉

 

「覇ァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

シャカシャカシャカ!

 

「「「「「ヒィィイイイイイイイ!?」」」」」

「うを!?」

「ぴっ!?」

 

ドン引きな周囲の視線などなんのその、土煙を上げながらトラックを爆走していく“変態仮面(仮)”はやはり只者ではない! 

一体何が彼を此処まで駆り立てているのだろうか……?

凄まじいスピードで最後のチェックポイントまで駆け抜けた(這いずった?) “変態仮面(仮)”は、荒げた呼吸を整える間すら惜しいとばかりに身体に張り付いた砂を払い落とすこともせずに最後の指令カードを拾い上げる。

すると、

 

「こ、これは……っ!?」

 

なんと、“首から下が変態仮面(仮)”が驚愕の声を上げたではないか。

やはり、第一、第二関門だけに無理難題を宛がわれている訳ではなかったようだ。

それにしても、やはり声も聞き覚えがある。そこはかとなく感じる残念臭、ごく最近のとても印象深い出来事で記憶に焼きついたような気がしてならない。

 

『あらあら? 固まってしまいましたわね。で、どうするんですの? 棄権なさいます?』

「えっ!? そ、それは……」

 

ちらり。

 

「海斗。なんか君、見られてる気配がするんだけど」

「人の背中に顔を埋めてるくせに何でわかるんだ」

 

相変わらず背中に隠れたままの親友に答えながら、彼の言葉通り、意味ありげな視線を向けてくる“首から下が変態仮面(仮)”を睨み返す。

真意を探る様に視線を絡み合わせるも数秒、不意に相手から視線をそらされた海斗が拍子抜けした風に肩をすくめる。

そうこうしている内に“首から下が変態仮面(仮)”が動きを見せた。

未だ他の選手達が第一チェッポイントで足止めを受けているとは言え、のろのろしていたら追いつかれてしまうと焦ったのかもしれない。

何と彼は、100%変態な恰好のまま、“レッドぶるま”チームの待機場所へ向かって駆け出した。

荒ぶる走りで突貫してくる変質者。

悲鳴を上げながら我先にと逃げ出す生徒達。

無言で黙禱を捧げる“紺&ピンクぶるま”チームの皆様方。

阿鼻叫喚の地獄絵図を指差しながら爆笑する蝶歌と桃花。

この瞬間、体育祭の盛り上がりは(悪い意味で)最高潮に達した。

 

『はーっ、はーっ……あー、面白かったですわぁ。迫り来る変態に腰が抜けたのか這いずりながら逃げ惑う様が愉快・痛快・爽快でした♪』

『他人の不幸は蜜の味って言葉の意味、今日初めて知りました~』

 

もはやアナウンスする気すら失せたのか、好き放題言いまくる司会者コンビを余所に、“首から下が変態仮面(仮)”が“レッドぶるま”な女子生徒の腕を引いてトラックへ戻ってきた。

どうやら次のお題は人物を連れてくるものだったらしい。呼び出された女子生徒の表情は勘弁してほしいと言わんばかりに疲れ切っていた。

と言うか――

 

「おや、羽村さんじゃないか」

 

伊織の言葉通り、“首から下が変態仮面(仮)”に連れてこられたのは海斗と相性の悪い“レッドぶるま”な早苗だった。

体操服の胸元を押し上げる豊満な乳房を抱えるように腕を組み、不機嫌さを隠そうともせずに“首から下が変態仮面(仮)”を睨み付けている。

とは言え、彼女の機嫌が急降下中なのは有無を言わせず連れてこられたからだけではない。

性格のキツさを表したかのようなツリ眼がデフォルトの彼女は色恋的な意味での人気はさほど高くない。

男勝りの気性と優秀な知性を併せ持つからこそ、下心目的で近づいて来る男子のガラスハートをことごとく粉砕してきたのは有名な話だ。

しかしその反面、学園屈指のスタイルの持ち主であることも事実であり、神経質な性格からくる体調管理で理想的なボディラインを磨き上げた彼女もまた、隠れファンが多数存在する有名人なのだ。事実、露骨にスタイルが出てしまう体操着姿を晒すのに抵抗を感じてモジモジしている彼女に熱い視線を送る男子生徒があちらこちらに見て取れる。

そう言った類の視線に気づいたのか、不機嫌度5割増しで周囲を睨み付け……ふと、海斗と視線が交差した。

一瞬惚け、すぐに信じられない事実に気づいたとばかりの表情を見せつつ、何度も目を擦る。

 

「あ……ぇ? ちょ、アンタまさか、たかみ――」

「あのー、羽村さん。ごめんなんだけど、協力してほしいんだ」

 

思わず叫び声をあげそうになった早苗であったが、絶妙なタイミングで放たれた“首から下が変態仮面(仮)”の声に遮られることになった。

変態さんの口調から正体を察したらしく、傍目にもわかるくらい盛大に頬を引きつらせ、次いで灰の中の空気をすべて吐き出すような深い、不快溜息をつく。

痛む額を抑えながら視線で会話の続きを促す早苗に頭を下げながら、変態仮面(仮)が懇願するように口を開く。

 

「俺を罵ってくださいっ!」

 

――と!

 

「へっ、変態! 何をトチ狂ってんのよバカ!?」

「ち、違うんだ!? これは決して俺の趣味とかそういう意味ではなく!? ああっ、お願いだから食肉加工所に連れてかれる豚を見るかのような目はヤメテッ!?」

 

二の腕に浮かんだ鳥肌を擦るように自分を抱きしめ、砂煙をたたせながら後ずさる早苗へ縋りつく“変態仮面(仮)”。

股下まで顕わにされた瑞々しい太ももを羽交い絞めするかのように抱きつき、話を聞いてと頬をすりすり。ぞわぞわぞわっと言い表せない悪寒が早苗の背筋を駆け昇り、彼女にしては珍しい女の子な悲鳴が響き渡る。

両者ともいっぱいいっぱいなのか、他人から見た自分たちがどんなふうに映っているのか気づいていないようだ。

どのように見えるのかは、祭りくらいは寛容にいこうと決めていた風紀委員である伊織ですら、教室に置いてきた腰の相棒を探す仕草から大体想像はつく。

そうこうしている内に、自分でも今の状況がよろしくない事に気づいたのか、“変態仮面(仮)”が、手に持った指令カードを早苗に見えるように掲げた。

そこに書かれていたのは――

 

〈性格キツめの眼鏡少女から罵倒を受ける〉

 

「あ、なるほど。確かに条件ピッタリだな」

 

腕を組みながらうんうんと頷く海斗をギンッ! と眉を吊り上げた早苗が睨み付けてきた。

ハンッ! と鼻で嗤ってやれば、今にも地団駄しそうなくらい憤慨の表情を見せる。

とことん相性の悪い、というか正反対な気質の両者を呆れたように眺める伊織が肩をすくめるのとほぼ同時に、“変態仮面(仮)”が早苗に向けて勢いよく頭を下げた。

 

「お願いします! 俺……俺、どうしても勝ちたいんです! だから――罵ってください!」

「うう……っ!?」

 

海斗と睨み合うことでわざと意識の外へ追いやっていた(別名、現実逃避とも言う)が、流石にこれ以上の誤魔化しはきかないようだ。

というより、衆人観衆のど真ん中で変態コスプレに身を包んだ友人(・・)を罵るとか、なんという羞恥プレイ。

私に何の恨みがあるのよ!? と思わず怒鳴りつけそうになるのを必死に堪えつつ、早苗の視線が助けを求めるように彷徨う。

だが、残念な事に彼女に味方してくれそうな人物は見当たらない。

親友の片割れはマイク片手にすごくいい笑顔を浮かべて「いけいけ、ごーごー♪」と煽ってくれやがっているし、もう片方はご愁傷さまとばかりに十字を切っている始末。

後で覚えてなさいと頬を膨らせつつ、もう一度視線を元凶へと向ける。

相変わらず頭を下げたままの“変態仮面(仮)”。何を考えてレースの完走を欲しているのかわからないが、全方位から突き刺さる「罵ってあげなよ~」的な視線に、深い、深いため息を吐いて頭を掻き毟った。

 

「わかったわよ……。やればいいんでしょ、やれば」

「あっ……ありがとう! じゃあ、さっそくで申し訳ないんだけどお願いできるかな?」

「はいはい。ったく、台詞はコッチで考えさせてもらうからねっ」

 

形のよい顎に人さし指を当てて、空を仰ぎ見ながら「ん~」としばし考え込んでから、“変態仮面(仮)”の下腹部辺りに視線を固定して、

 

 

 

 

「ぷっ……、なんて粗末な」

 

 

 

 

男心(ボーイズハート)を打ち砕く暴力(ことば)を投げつけた。

ギャラリーたちの耳に、ガラス細工が砕け散る様な悲音が響き渡る。

 

『おお~、心が砕ける音が聞こえたよ~』

『中々にエグイですわね』

 

能天気なアナウンスが響く中、腕を組み、豊かな乳房を強調するかのように挑発的なポーズをとった早苗が、崩れ落ちていく“変態仮面(仮)”を睥睨したまま追撃をかけていく。

 

「もしかして自分では松茸だとでも思ってたのかしら? くすくすくす……残念でした。それはアンタの願望が生み出した妄想でしかないのよ。せめて椎茸クラスに成長してから出直してきなさい、し・め・じ・さ・ん・♪」

『やめてっ!? 追撃しないであげてっ!? 変態さんのライフはもうゼロだよぉ!?』

『そうですわ、おやめなさい! 大体、DOUTEIな愛原さん(・・・・)は《きのこ》と言うよりかは《たけのこ》と言った方が適切かと。……皮被り的な意味で』

「「「「「傷口に塩を擦りこむのらめぇええっ!?」」」」」」

 

男子生徒、魂の叫びである。

あまりにも厳しすぎる女性陣のコメントに、白濁の涙を流す男子勢がトラックの中へなだれ込んでいく。

彼らが目指すのは、心を粉砕され、両ひざを抱えて蹲る“変態仮面(仮)”、もとい、桐生君の救助。

両手で顔を覆い、しくしくしくととめどなく涙を流し続ける彼に駆け寄り、「泣くな兄弟!」「大丈夫だ。俺も仲間なんだぜ……!」と優しい言葉を掛けながら神輿のように抱え上げて校舎の中へ。

おそらく、重傷人専用の保健室へ緊急搬送したのだろう。見事なまでの連携プレーであった。

愛原 桐生、恥を負いながら完走を目指すも、名誉の負傷で保健室送り(リタイア)

 

『しょっぱなから面白イベントの連発で私、とっても楽しいですわ♪ 皆様もきっと楽しんでいらっしゃるものと信じております。ちなみに、第一レースは出場選手全員がリタイアということで決着がついちゃいましたから、さっさと第二レースに移りたいと思います。選手のみなさまはスタートラインに移動してくださいな』

 

「どの口がほざくか……」という声なき声が聞こえてきそうな空気を微塵も読まず、テンション高めな蝶歌のアナウンスに促され、出場選手である海斗もスタートラインに立つ。

やる気がごっそり削り落とされてしまったとは言え、競争事は嫌いじゃない。

手を抜くつもりは毛頭ないが、何よりも、優勝できなかった時のペナルティが恐ろしすぎる。

まだ先とは言え、学生生活のモチベーションを維持するために必要かつ貴重な休暇期間を失ってたまるものか。

両頬を叩いて気合いを入れると、自分と競い合う輩はどんな奴らなのかふと気になり、肩を並べるライバルへ目を向けてみる。

瞬間――、

 

「……見るんじゃなかった」

 

やる気がマッハで急降下。

燃え盛る炎の様に燃え滾っていた筈の戦意はシュークリームが潰れるかのごとく、ぺたんこに萎えてしまう。

だが、それも仕方のない事だろう。

なにせ、第二レース走者は全員が男子、つまり集団コスプレレースになってしまう。

まあ、それはまだいい。

だが、自分(かいと)以外の出場選手共、てめえらは駄目だ。

版権を意識したのか、眼に悪い蛍光ピンク色にカラーチェンジされた“ふ○っしー”に始まり、某母なる惑星『地球』に住まう生きとし生けるものすべての命よりもネズミ討伐を優先して〈ちきゅうはかいばくだん〉を振りかざす機械猫やら、コロッケを愛しまくってキャベツはどうした? と歌われるに至ったちょんまげ武士とか、お手軽似顔絵が大人気なピンクの悪魔とか、真っ当な恰好のモノがひとりもいない。

 

……しかも全員、『着ぐるみではない』。

 

身に纏うのはビキニパンツ一点のみ。

有名なキャラクターをイメージしたカラーリングで全身を人体に無害な絵の具(水性)で塗りたくったボディペイントマンの群れがそこに在った。

ある者はだる~んとたゆむ贅肉を指で挟みながら鼻息荒く、戦意を高め。

またある者は部活で引き締まった上腕二頭筋を見せつけるかのようにダブルバイセップス・フロント(前面から見える筋肉を強調させるマッスルポーズ)を決め。

またまたある者は、無謀にもレースに優勝して人気者になってしまい、ゆるキャラの新ジャンルを確立してしまったらどうしよう!? と獲らぬ狸のナントやらをかなり真面目な顔でしていたりする。

正直、同類扱いされたくない変態集団としか表現のしようがない連中と一緒に走るのは、ものすごく嫌だ。

けれども、海斗以外の選手全員がイロモノなせいで、唯一まともな恰好の彼に注目が集まってしまっている。

生徒、ギャラリー双方の女性陣からは黄色い歓声と熱い視線がビスビスと背中に突き刺さるのを感じ、「勘弁してくれ……」とばかりに深い溜息を吐かずにいられない。

 

『では始めますわよ~。第二走者の皆さん、位置について――よーい』

 

ドンッ! とピストルが鳴り響くと同時に駆け出す参加選手達。

完走目指して精神的な障害を乗り越える勇者よ現れん! と言葉無き声援に後押しされて、トラックを走り抜けていく選手達。

だが……、

 

「イヤァアアアアアッ!? 気持ち悪いっ!?」

「等身大のド○えもんとかコ○助なんて見たくなかった!」

「やめてぇ! 私の中の綺麗な思い出を汚さないでっ!? 等身大のゆるキャラなんて見たくなかったわぁ!」

 

吹き荒れる悲鳴の嵐。

投げつけられるジュース缶(中身入り)やペッドボトル(こっちも中身入り)。

脳天や鳩尾にスチール缶がめり込み、「○び太君……せめて最後に君の顔を見てから壊れたかった……」「ぐふぅ!? む、無念……ナリ」と無駄に気合いの入った断末魔を上げて倒れこんでいくボディペインターズ。

前のめりに倒れたため、ビキニが食い込む野郎の尻を直視する羽目になりながら、必死に吐き気を抑えて駆け抜ける海斗に向けられる声援が学園生活始まって以来の暖かなものだったのいうのは何とも皮肉な話だ。

そうこうしている内に、変態共が夢の跡地を一気に駆け抜け、最初のチェックポイントにたどり着いた。

地面に散らばる指令カードの並びに法則性は無く、ただ適当にばら撒かれただけの紙切れにしか見えない。

だが侮ってはいけない。その正体は、世にも恐ろしく、恥ずかしい命令が記された回避不可能イベントのアイテムなのだ。

慎重に選んだ一枚のカードを、不発弾を回収するかのように恐る恐る拾い上げて中身を確認してみると、

 

〈美少女な生徒〉

 

「……?? どういう意味だ、コレ?」

『おおっとお、か……コホン。ホス虎さんが引き当てたのは《美少女》です! つまり、世間一般的に美少女と呼ばれる生徒の誰かを連れてくるようにということですわね。さあ、彼は一体どなたを連れてこられるのでしょうかっ♪』

 

わくわくと満面の笑みを浮かべる蝶歌につられるように、グラウンド中の視線が海斗へ降り注ぐ。

突き刺さる視線に心底疲れたと言わんばかりに深いため息を吐かざるをえない海斗だったが、しばし悩んでから意を決したようにうつむいていた顔を上げて『条件に合う人物』の元へ駆けていく。

 

『誰を選んでくれるんでしょうねぇ~。脇目も振らずに駆け出しちゃいましたよ』

『微塵も躊躇されなかったと言うことは、彼の中で美少女と呼べるお相手のイメージがほぼ固まっていると言うことでしょうか』

 

集まる視線をものともせず、一直線に向かうのは自軍である“紺ぶるま”チームの待機場所。

海斗がカードのお題を憎々しげに睨んでいた時は「むーっ」とジト目を浮かべており、彼が自分たちのいる方へ駆け出してからは「ふえ?」 と首を傾げていた『彼女』の元へ。

 

「えっ? あ、あれ? なんでコッチに来てるのかな?」

「んなのお前が欲しい(もくてき)だからに決まっとろーが。頼むから一緒に来てくれ。さっさと終わらせたいから」

 

心の底から早く終わりたいのだと憔悴しきった顔で懇願されては拒否など出来ない(元よりするつもりないが)。

差しだされた手を取って立ち上がった葵と手を繋いだまま、レースに復帰する。当然、何とも絵になるシチュエーションに観客が湧き立たない筈も無く。

 

『あらあらまあまあ! ホス虎さんが選んだのは学園アイドルのひとり、水泳部エースの人魚姫(わんこ)さんでしたか』

『んふふ~すっごいブーイングの嵐ですねぇ~……でも、当人は2人の世界に入っちゃってるみたいだから気づいてないみたいですけど~』

『頬を赤らめて恥ずかしげにそっぽを向きつつ、繋いだ手のひらの温もりとか感触とかを意識しちゃってるカップルにしか見えませんものね』

 

喜々としてギャラリーの妄想を煽るアナウンスにかつてない恥辱を味わいながら第2チェックポイントに辿り着いたホス虎&わん()

手を引っ張られた状態で走ったために息を荒げる葵の呼吸が落ち着くのを待ってから、指令カードを適当に1枚拾い上げて裏返す。

そこに書かれていたのは……〈だっこ♡〉。

 

「……葵」

 

無表情で手招きする海斗。

胸元に手を当てて呼吸を落ち着かせた葵が首を傾げながらてこてこ近づき、

 

「よっと」

「ふわひゃあっ!?」

「「「「「おおおおおっ!? お姫様抱っこだぁぁああああっ!?」」」」」

 

無防備に近づいてきた葵を軽々と抱き抱え、有無を言わせずに駆け出す海斗。

慌てて海斗の肩越しに腕を回して上半身を固定しつつ突然の展開に目を白黒させる葵に指令カードが渡される。

 

「だ、〈だっこ♡〉って……なんて抽象的なっ。て言うか海斗くん、いきなりこういうのはビックリするっていうか、その……心の準備がいるといいますか……」

 

身を寄せている海斗の胸を人さし指でつつきながら、もにょもにょ口籠る葵。

小動物を思わせる何とも初々しい仕草に、観客の男子勢が歓喜に沸き立ち……次いで、彼女を独り占めしている羨ましすぎるアンチクショウに嫉妬満載の視線を放つ。

その一方で、女の子の夢である『ウエディングキャリー』を目の当たりにできた女性陣からは羨望のため息が零れ落ちる。

 

「「い、居心地悪い……」」

 

後になって色々と追及されそうな空気から逃げるようにトラックを駆け抜けていく新婚さん(仮)が胃袋の辺りにキリキリとした痛みを感じ出した頃、ようやく最後のチェックポイントに辿り着けた。

葵が精神的な意味でかなり消耗した海斗の背中をさすってあげながら、最後の指令カードを拾い上げる。

ゴクリ、と緊張で喉を鳴らしながら、恐る恐る裏返していく。

するとそこには――……!

 

『こっ、これはぁあああーーっ!? 〈情熱的な告白を決める〉ッ! 何と言うことでしょう、ここ一番でこんな面白いお題を引かれるだなんてっ!』

 

本日一番の大歓声&黄色い悲鳴&血涙と血泡混じりの怒号がグラウンドを支配する。

もはや個人が何を叫んでいるんかもわからないほど凄まじい音の暴風。

催促を促すスピーカーで増幅されたアナウンスだけが無情にも耳に届く中、緊張か混乱かで固まってしまった葵と見つめ合っていた海斗が、覚悟を決めたように咳払い。

 

「――コホン」

 

刹那、一瞬で静まり返る大観衆。

ここにいる誰もが固唾を呑んで見つめてくる中、数度深呼吸して心を落ち着かせてから真剣な表情に切り替えた海斗が葵に手を伸ばす。

左手は彼女の腰に回して優しく抱き寄せ、右手は柔らかな頬に添えて愛おしげに指を滑らせながら、自分の顔が写り込む彼女の瞳を見つめて口を開く。

 

「いろいろ言いたい事もあるし、妙な空気にあてられたってのもあると思う。けど、これから口にする言葉は嘘偽ない本心だ」

「う、うん」

 

上目遣いで海斗を見る葵。

頬に朱が射し、真っ直ぐな瞳にわずかな戸惑いと……期待を浮かび上がらせる。

理性が静止を呼びかけてくるが、2人の身体は全く動けない。

静かに息を吸い、余計な装飾の一切を排除したありのままの想いで言葉を紡ぐ。

 

「お前の未来(ぜんぶ)が欲しい」

「――……」

 

(((((まさかのドストレーートっ!?)))))

 

愛を囁くでもなく、ただどこまでも愚直に己が求めを告白した海斗に、一同は戦慄を隠せない。

恋愛とかお付き合いをすっ飛ばして、ほとんどプロポーズの領域になっている。

いくらなんでもそれは……、と周囲の誰もが思う中、当人たる葵は自分の心臓が激しい鼓動を刻むのを必死になって抑え込もうとしていた。

だが、出来なかった。顔はまずます赤みを増し、胸の奥がきゅうんっと疼く。

恋人という過程をすっとばし、心と身体を繋ぎ合うほどに深い関係を結んだ。

愛しく想われている事も、大切に思われていることも知っている。

そう。

知っているからこそ、余計な飾りつけの言葉など要らない。欲しいのはこれから先――海斗と共に歩む未来。

 

――ああ、やっぱり。

 

海斗は、彼だけは自分が欲しいと望む想いを向けてくれる。

ただ、ありのままの『竜ヶ崎 葵』を誰よりも深く愛してくれる、求めてくれる。

そんな彼が、どうしようもなく――愛しい。

 

「あは♪ ――ていやっ」

「んお?」

 

頬に添えられた海斗の手に自分の手を重ね、安堵と歓喜が入り混じった笑顔を浮かべながら、ぽすっと海斗の腕の中に飛び込む。

 

「――はい。一生(ずっと)大切にしてね?」

 

ぴょこぴょこと揺れる前方へ飛び出した前髪の一にが鼻を擽られて、ムズ痒そうに困り顔になった海斗に身を委ねながら囁くように答えた彼女の顔は、まさしく『恋する乙女』そのものの笑顔が浮かんでいた。

 

『お、OKしたぁぁぁぁああああっ!? え、てか、マジですのコレ!? それともお題をこなしただけ? え、どっちですの!? ちょっとお!?』

『おおお~ぅ♪ 手と手を繋いでゴールテープをぶっちぎったまま逃げてっちゃいましたね~。あや~、この展開は予想外だったのです~。……あ、でも、もしかしたら盛り上がっちゃった勢いそのままに校舎裏でにゃんにゃんしちゃったりするのかな~?』

 

最後の小声をバッチリ聞き取った一部生徒(眼鏡なぶるまさんとか心の傷を負ってしまった“変態仮面(仮)”とか)が慌てて駆け出していく中、林檎かトマト並みに真っ赤になってしまった犬虎(わんこ)カップルが再び姿を現すのは午後の部が始まってからだったことをここに記しておく。

それまでの間に何があったのかは……お察しくださいという奴だ。




桐生君マジヤベェ……てか、どうしてこうなった。
初期プロットでは海斗君の嫉妬心を煽るライバルキャラだったのに……。
――ま、いいか(爆)。

そんなことより、次回は午後の部までのインターバル。
午前の部の残りの協議をサボった二人がナニをするかは……わかりますよね~?(チラ)
神造遊戯がスランプッてるので、次もこっちを更新するカモです。
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