『えっち』から始まる恋があってもいいじゃない? 作:カゲロー
エロくなく、おふざけ全開で参ります。
……ちなみに今回の海斗君、一時的にはっちゃけます。
『類は友を呼ぶ』
似通った性質や趣味を持った者は、惹かれあうように自然と集まる事象を指す諺だ。
獲物を屠る爪と牙を失い、代価とし知恵を身に付けた人間は、無意識下で理解しているのだ。
己の手は、誰かと繋ぐために在ると言うことを。
それ故に、突出した英傑……己が力のみで歴史に名を遺す偉業を成し遂げた英雄たちに、凡百の人々は彼らを認めようとせず拒絶を顕わにしてきた。
戦国乱世に新たな風を呼び込んだ戦国の英傑『織田 信長』が、将軍や戦国大名たちに認められず、二度に亘って信長包囲網を形成されたように。
乱世の奸雄と称され、血筋に拘らず才能ある者を登用して大陸制覇に王手をかけた覇王『曹操 孟徳』が、敵同士であった劉備と孫権の連合軍に夢を阻まれたように。
人は、自らとあまりにも違い過ぎる存在を前に、敵意と嫉妬を抱かずにはいられないのだ。
そう、それはつまり……!
「海斗くん、お腹の調子はどう? まだ痛いのかな?」
腹部を抑えて唸っていた海斗を膝枕したまま葵が尋ねる。
心配そうに眉根を下げ、海斗の手に自分の指を絡ませるように重ねる姿は、病に伏した夫を看病する新妻のよう。
「あ~、うん……そろそろ大丈夫じゃないかな~って思ったり……だな?」
「むぅ。誤魔化しは通用しませんっ。まったくもぉ、お昼時だからって食べ過ぎなんだよ。私の分まで食べちゃうんだから」
ぷぅ、と頬を膨らませながら顔を寄せてくる葵から、ついっと目を逸らす。
「……あれは食い物じゃない。もっと別の……そう、あれはまさしく言葉にすることも憚られてしまうほどに形容しがたいナニカだ」
「えっ……? そ、それってまさか……!?」
言いにくそうに呟かれた感想に思い当たる節があったのだろう。
葵が驚いたように目を瞬かせ……、
「私のお料理スキルがカリスマシェフレベルに進化していたってコトだね!?」
「まともな練習もしてないくせに、料理の腕が急成長したと何故に考えついた!?」
ものすごいポジティブシンキングな返しに、海斗のツッコミが冴えわたる。
「え? だってよく言うじゃない。『料理は愛情』って」
「いやいやいや……そんな『地球は自転しているのものでしょ?』 とでも言いたげな顔されても」
偉大なるガリレオ先生を全否定しかねない発言&心の底から不思議そうなぽやぽや顔を見せられて、『意味が解らないよ……』と返さなかった海斗は実にオトナだ。
……とまあ、このように。
実にプラトニックなお約束――料理下手な彼女の手料理を完食する定番の好感度upイベント――を見せつけてくれやがる憎たらしいアンチクショウへの憎しみで一致団結する血涙垂れ流しのマスクマンズが存在しても何ら不思議な事は無いのだ。
殺意と憎悪が渦を巻き、天をも貫く螺旋を描く。彼らから溢れ出す強大なるしっとパゥワァー……まさに無限大!
額が汗ばんでいくのは、決して日光を浴びたからだけではない。胃が違う意味でキリキリしてきた。「勘弁してくれ……」と、か細い弱音をぽろりと零してしまう。
現在進行形でSAN値をゴリュゴリュ削り落とされていく
「……」
「?? 海斗くん、汗すごいよ? べちょべちょだよ? もしかして熱射病かな? ……ちょっとごめんね」
言うやいなや上半身を倒し、前髪をかき上げて顕わにした額を海斗の額にくっつける。
コツンッ、と額を重ねながら「う~ん」と唸る葵。意識を集中させるためか、無防備に目を閉じた彼女の顔が視界いっぱいに広がり、胸の鼓動が跳ね上がりそうになった。青い春特有の血気溢れる少年ならば身体の
これにより、己が意志で五感や臓器の脈動すら制御できるようになった海斗は全力で……下肢へ集まりそうになる血流を散漫させた。
衆人観衆のど真ん中、しかも好きな相手の膝枕と言うシチュエーションで醜態を晒すわけにはいかないのだから。
……何とも情けない才能の無駄遣い。蝶歌あたりが聞いたら爆笑されること間違いなしである。
「熱はない、かな……でも、顔が真っ赤なんだよねぇ」
「……気づけ。頼むから」
「ふぇ?」
そっぽを向く彼の頬を優しく撫でてあげながら、自覚症状の無い葵は首を傾げることしか出来ない。
やがて痺れを切らしたのだろう。「むぅ~」と膨れながら、全然説明してくれない海斗の頬を摘まみ、引っ張る。
それでも無言を貫く海斗に「むむむぅ~」と唸り、今度は耳たぶをこしょこしょと擽り始めた。
急所を責められ、吹き出しそうになって身悶えする海斗。強情に口を閉じる様に悪戯心を刺激された葵から、耳元に顔を寄せてふうっと息を吹きかける追撃が。ビクンッ! と痙攣するように震えた海斗の恨めしそうな目線をさらりと受け流し、「んふふ~♪」とご満悦な葵嬢。
お返しだっ、と伸ばされた海斗の指が葵の頬を摘まんで……〈もにもに〉。
じゃれ合いだから痛みは無く、くすぐったそうに目を細めつつ、何かを期待するように潤んでいく葵の瞳。あの日、初めて出会い、言葉を交わし、肌を重ね合ったあの瞬間から自分を惹きつけてやまない黒曜の輝きに見惚れ、ついつい熱の籠った眼差しを向けてしまう。
海斗の視線に込められた意味を当たり前のように読み取り、理解した葵ははにかむように口元を弛ませ、伸ばされた海斗の手に己の手を重ね合わせた。
見つめ合う少年と少女。彼らの間に言葉は要らず、こうして触れ合うだけでお互いの想いを通じ合えるのだ。
お互いを誰よりも必要とする2人だからこそ生み出された絶対不可侵領域。
だが、現在進行形で繰り広げられている行為を、あえて文字に表現するとしたら……
〈いちゃいちゃらぶらぶ、くんずほぐれつ〉。
まさに、この表現こそが相応しい。
青き性を自覚する思春期真っ盛りの少年を冥府魔導の悪鬼へと叩き落す音喩を撒き散らすハイパーピンク
そう……伝説のしっと戦士“
「いい加減にしろやコンチクショウ……! 独り身な俺たちに散々と見せつけやがって……!」
「気が高まる……溢れるゥ……!」
「リア充……RIAZYUUuuuu!!」
――周囲の殺意が質量を持つに至った。
半具現化したメンチビームが華麗に葵を避けて海斗の全身に突き刺さる。
それはもう、ブスブスと。
『はいはい、愉快で痛快な面白フィールド作ってないで、さっさと午後の競技の準備に移りやがってくださいまし。さもないと、教員席で真っ赤な蝋燭片手に鞭の素振りを始められた教頭先生の激・濃厚なお楽しみタイムに強制突入しちゃいますわよ~』
海斗が本格的に戦略的撤退を考え始めた時、これまたタイミングよく響き渡るのは、昼食のお弁当(伊勢海老のホイル焼きとか入っていた五重箱)をぺろりと平らげた蝶歌のアナウンス。
恐ろしい内容によって静寂に包まれる校庭に木霊するのは、革紐……否、鋼鉄の鎖的なシロモノが地面を打ち、先端が音速の壁を突き破る衝撃音。
それに混ざって、女性の堪えようのない愉悦まじりの嘲笑が「クスクス……クスクス……」と。
ひやりと冷たい風が選手達の頬を撫でていく。静まり返る校庭のあちらこちらで顔を見合わせる生徒の顔がちらほらと見え――
「サーッ! 準備完了しましたっ、サー!」
――た瞬間、実に美しい軍隊式整列を決めた生徒衆の姿があった。
「……チッ」
ドSの国の女王様が放った舌打ちなどキコエナーイ! と耳を塞ぎながら駆け足で散開していく生徒達の素早い切り替えによって、体育祭午後の部は予定通りの時間に再開されることになったのだった。
……着替える時間がなく、しょうがないので変態マントレスラーそのままの格好で協議に参加することとなったしっとマスクマンズにツッコム余力は、残念ながら海斗に残されていなかった。
――◇◆◇――
・〈二人三脚〉
「「イチ、ニー! イチ、ニー!」」
「「右、左! 右、左!」」
「「ワン、トゥー! ワン、トゥー! ヘァァァーーッ!」」
思い思いの掛け声を上げながら、二人三脚でトラックを駆ける選手たち。
真っ赤な制服に身を包んだデコパッツンの男子生徒が、ヅラった叫び声を上げている事を除けば本日初めての“まともに進行する競技”。
観客席からの応援に熱が籠るのも仕方がない。
シンプルであるが故に早々問題が起こらない競技だからか、つつがなく進行していく。
最も、全てが問題無しかと言えばそう言う訳でもなく……。
「皆速いね……
「わかったよ
参加10チーム中の3番手からゴールテープを見据えていた青いラインの入ったサッカーユニフォーム姿の男子生徒達が足を紐で結び、肩を組んだ体勢で熱い視線を交わし合った。心なし、瞳の奥がキラキラと輝いているようにも見える。
レースの途中ともあって昂揚した頬から流れ落ちる汗。
密着状態にある胸元がこすれ合い、混ざり合った汗が飛沫となってはじけ飛ぶ。
背景に薔薇の花が咲き誇っていても不思議ではない男同士の『深い』友情に、淑女の方々から黄色い声援が迸る。
頷き合い、覚悟を決めた男の眼差しで前を走るチームを睨み……切り札を開帳する!
「ハートをひとつにするスペシャル掛け声~!」
「レッツ、ゴゥ!」
「あっ」「は~ん♡」
「うっ」「ふぅ~ん♡」
「らっ」「めぇ~ん♡」
「いっ」「くぅ~ん♡」
2人は真面目で真剣な顔で大きく口を開け、連日の猛特訓で習熟した掛け声を大声で上げ始めた。
一歩踏み出して艶声! 二歩目を踏み出して淫声!
声変わりしかけた青い果実である少年達が爽やかに青春の汗をほとばらせながら叫ぶのは、R指定間違いなしの喘ぎ声のオンパレード!
凄まじいまでのギャップに、勢いよく吹き出されていく飲み物の残滓。
タイミング悪く水分を補給していた方々は、一人の例外も無く汚い虹を描く羽目になった。
けれど、阿鼻叫喚の観客席など知ったこっちゃねェ! と足のスライドを加速させてラストスパートをかけていく友情(?) コンビ。
前を走っていた2チームがスッ転んでいるのを良い事に、爽やかに白い歯を輝かせながら抜き去った2人はそのままゴール目掛けて走り抜く。
「ばっ」「かぁ~ん♡」
「ふっ」「あぁ~ん♡」
……もちろん、淫猥な単語を連発しながら。
ちなみに、ゴールした瞬間の掛け声は「ひっ」「ぎぃ~ん♡」だった。
彼らに巻きついたゴールテープが触手に見えてしまった者も少なくなったことをここに記す。
このように、一部の濃い連中が騒ぎを起こしていたが。
とは言え、午前の部ほどの騒ぎに発展することもなく、安心して観客になれる余裕が出来たからだろう。
競技が中ほどに差し掛かった頃には腹痛と言う強敵と死闘を繰り広げていた海斗も紙一重の勝利を手に回復を果たしていた。
顔馴染みが集まり、奇妙な集団になって選手の応援をしている。
「皆がんばれー♪」
「ふふふ、いいよねこういうのって。いかにも普通の青春って感じがしてさ」
「葵ぃ……ねえ、お願いだからそいつと離れてよぉ」
胡坐をかく海斗の右手を抱きしめなら声援を送る葵に早苗が懇願するものの、上機嫌な彼女は笑顔のままで断言する。
「ヤダ」
「即答!? ぐぬぬぬ……!」
「睨むなっつーとろうが。てか、ヒス女。お前は自分の事も気に掛けといた方がいいぞ」
「は? 何がよっ! てか、ヒス女言うなっ」
「握り拳を作るのは良いが、胸元でそれやってると乳房を寄せて上げているようにしか見えんってことだ。しかも怒りでプルプル震えてるんだから、さらに淫猥な感じに」
「んななあっ!?」
慌てて胸を隠す早苗。
指摘され、慌てて周囲を見渡せば下心満載でいやらしい顔の男子生徒見られていることに気づき、早苗の体温が瞬く間に上昇していく。
普段はお固く、強気な態度を崩さない早苗が見せた希少価値の高い無自覚エロスに、男子生徒達のリビドーが眩い輝きを放っていく。彼らの見える表情は、まるで僧侶が天啓を受けた時に見せる賢者の如き穢れ無きものだった。……ごくごく一部の早すぎる者達が身体を震わせているのは気のせいだと信じたい早苗であった。
しかし、ある意味当然かもなと海斗は思う。
自由な方の片腕で葵を撫でながら、改めて早苗の容姿へ意識を向ける。
縁無し眼鏡越しに見えるのは彼女の性格を映し出すようなツリ眼。その奥には理知的さを感じさせる翠眼が覗く。
肌はうっすらと小麦色に焼け、テニス部のレギュラーを掴み取った草食獣のようにしなやかな四肢の美しさが醸し出すコントラストがなんとも眩しい。
ほっそりとしたウエストのラインからは想像もつかないほど豊かに盛り上がった胸は、ツンッと前方へせり出し、体操着を内側から押し上げている。
ヒップのラインが顕わになるブルマから覗くむっちりした太ももを伝って視線を上げれば、プ二プ二と柔らかそうな尻肉がブルマの端からはみ出てしまっている。
――上肢と下肢の筋肉のつき方が違う? ……ああ、そう言えばカウンターテニスの使い手だったか?
早苗の所属するテニス部が地区大会で優勝した際、親友のこととあって彼女の事を饒舌に語った葵の話を思い返しながら納得する。
早苗は積極的に前に出るアクション系と言うよりも、正確無比なショットで相手を翻弄し、最低限の動きで試合を制するテクニック系の選手だ。
真骨頂として、コートの後方中央に陣取り、ボールに多様なスピンをかけることで相手のリターンを自分の構えている方へ誘導する……と、どこかのサムライの如き技を使うらしい。元々スタミナに難があり、走るのが苦手というのも理由の一つだろう。原因は言うまでもないが……敢えて言うなら上半身と下半身の重心バランスがおかしいせいだと言っておこう。
そう言った経緯で、手足こそスポーツ選手のように引き締まっているくせに、胸や尻はむっちりプ二プ二している、と。
「……狙ってるのか?」
思わず内なる声が漏れてしまう。
学生としてでなく、本職としての視点で見ると、羽村 早苗という少女は最高級の
男性の性欲を刺激する女性的特徴……要するに『乳房』や『尻』は豊かに実り、成熟した果実を思わせる一方で、瑞々しい四肢は映像映りの良い多様な体位をこなせる事が出来るだろう。
強気な気性も見る者の興奮を高めるスパイスとなるし、眼鏡というアクセントも商品化の際に前面へ押し出せる強力なアイテムだ。
しかも、修学旅行の件を見るに、若干の露出狂の気があるように見える。
ツンデレ(?)、巨乳巨尻、眼鏡、テニス部所属、露出狂疑い、現役学生……、もし己の両親に知られたら大変な目に遭うこと請負なしである。
――もちろん、早苗だけでなく、
「なによ、アンタまでジロジロ見て……いやらしいっ」
恥ずかしそうに身体を竦ませた早苗は酷く弱々しく見える。
制服という防具を脱ぎ捨て、異性の視線を否応なく集めてしまう体操着という格好にこころもたなくなってしまったようだ。
どんなに凛然と振る舞おうとも、年頃の女の子に変わりはない。
そんな当たり前の事実を再確認したとでも言いたげな表情を見せた海斗に何を思ったのか、彼らの様子をニコニコと楽しげに見守っていた伊織がとんでもない事を言い出した。
「羽村さん。海斗はね、君に見惚れてしまったと言いたいんだよ」
「はい!?」
「わうん!?」
「ぶぅっ!?」
動揺顕わな3人の視線を浴び、至って平然とした笑顔を浮かべたまま伊織が続ける。
「だってそうだろう? 海斗は気に入らない、気にかけもしない相手の事は徹底的に意識の外へ追いやってしまう。敵意を向けてくる相手でも同じこと。なのに、羽生さんのことは有象無象ではなく、『口うるさい女の子』として接している。それはつまり、彼女の事を意識しているってことさ。……まあ、それがどういう意味でのを指すかは知らないけど」
のほほんとのたまう伊織の発言を全力で否定するように、海斗の手が勢いよく横方向へ振られる。
「む……」 と小さな呟きを零してしまったのは果たして誰だったのだろう。
「こらこらこら、ありえない誤解してんじゃないぞ伊織。そんなに俺
「どーゆー意味?」
「決まってるだろ……耳塞げ」
言われるまま、葵達が両耳を抑えた……瞬間、
「「「「フォオオオオオオオオオオオ!!」」」」
「ふん!」
ドパンッ!
「「「「ほぐぁああああああああああっ!?」」」」
釘バットやら鉄アレイなんかを握り締めて跳びかかってきたしっとマスクマンズの一番槍に向けて振るわれた海斗の蹴りが数人の狂戦士どもを纏めて吹っ飛ばした。
しかし、ここで立ち止まることは出来ない。
蹴りの残身もそこそこに踵を返し、全力で逃走を開始する海斗。
その背中をどす黒いオーラを纏った哀戦士の群れが追撃する。
「……なるほどね。『殺される』じゃなくて『力加減を間違って殺しちゃうだろう』って意味だったのか」
「呑気に解説してないでよ……あーあ、走って行っちゃった」
「大丈夫。次の競技が始まるころには戻ってくるよ。だって海斗、強いから」
伊織の指摘通り、〈二人三脚〉終了のアナウンスが流れるのを見計らったかのようなタイミングで、正当防衛でボコったマスクマンズの亡骸(死んでません)を背負った海斗が戻ってきたのを見て、葵と早苗が揃って頬を引きつらせていた。
・〈棒倒し〉
各チームの中で一人、『棒』役に生徒を任命。その生徒を何らかの手段で転倒させ、背中を地面につけることが勝利条件である〈棒倒し〉。
そこかしこで肉体言語が飛び交う男の競技が繰り広げられるグラウンドの中央で相対する2人の男子生徒の姿があった。
「まさかこんなに早く決着をつける日が来るなんて思ってもいなかったよ……高宮」
「あ、うん。……お前はいったいどこの主人公だ」
「ふふふ……これはそう、運命って奴だね。まったく、いたずらな女神様もニクい
『棒』役に任命された桐生が、海斗へ向けて宣戦を布告する。
踵を上げた左足を前に出し、天を仰ぎ見る様に後方へ上半身を逸らしながら指を突きつける。
その雄姿……まさに
「待ちに待った刻がきたんだっ。心に突き刺さった違和感と言う名の棘を取り除くために、ずっと想い抱いてきた願いを成就させるためにっ! 行くぞ高宮ッ! 覚悟の貯蔵は十分かあっ!」
「いや、せめてどれかに統一しとけ。な?
「もはや問答無用っ! 見ろ、この日のために習得した必殺技を!」
「だから人の話を聞けというとろうが――って、なにぃ!? 必殺技だと!?」
やる気の欠片も見せていなかった海斗が驚愕を露わにする。
大人びていると言えど、彼もまた男の子。
必殺技と言うものに心惹かれてしまうのも仕方がないことだ。
この男、意外とノリノリである。
わくわくと好奇心で瞳を輝かせる男子勢が見つめる中、口端を不敵に吊り上げた桐生の両腕の軌跡があるものを描いていく。
指先まで伸ばされた腕の羽ばたきは天空を統べる王者のごとし。
地面を踏みしめる片足は己こそが世界の覇者であると宣言するかのように雄々しく、擡げられた逆足は鉛すら両断する鋼の刃の如きオーラを放つ。
片足立ちで両手を左右に広げた独創的なその構え、背後に浮かび上がる超古代の獣たるビジョンと重なり合った桐生はまさに天空の王者!
人よ、恐れ慄くがよい!
かの構えの名は――!
「必殺っ、プテラノドンの構え!」
背後に浮かび上がる翼竜の咆哮がこだました――気がする。
そう!
まさしく今の桐生は、6500万年もの超古代より現代によみがえった天空の王者そのもの……ッ!
海斗は驚愕で身体を震わせる。否っ、それ以外の行動を選択することができないッ!
地上最強の一角、密林の王者と言えど、立ち向かうにはあまりにも相手が――巨大ッ!
翼長十メートルッ! ナイフの如き刃歯が立ち並ぶ咢が喰らうのは、地べたに這いつくばる者ども総てっ!
奴らの前では、デカいだけの猫如きが渡り合えるはずも無しッ!!
「まさかプテラノドン拳を習得した奴がいるとは……!」
戦慄の汗を手の甲で拭い、緊張で強張る身体を燃え上がる闘志で奮い立たせて構えをとる。
驚きを露わにしていたギャラリー(言うまでもなく男限定)が静まり返る中、海斗がゆっくりと動き出す。
円を描くように立ち位置を変え、桐生との間合いを測る海斗。
彼の背後にも隙を窺う密林の王者のヴィジョンが浮かび上がり、縦に裂けた瞳孔が鋭い殺気となって桐生に突き刺さる。
だが、桐生の笑みを消すには至らない。
悠然と待ち構える王者の如き威圧感を放ち、王に抗おうとする愚か者を睥睨している。
「……」
ゆっくりと歩を進める海斗と天の王者たる構えを解かない桐生の視線が交差し、目に見えぬスパークが迸るッ!
「な、なんてすごい戦いなんだ。見てるこっちの方の息がつまりそうだぜ……!」
「現代に蘇った伝説……。あんな奴に勝てる方法なんてあるのか?」
静かな戦いに固唾を飲んで見守るギャラリーも、これから起こる世紀の戦いを見逃してたまるかと全力で目を凝らす。
「……ねぇ、なんなのかなコレ」
「あはは……女性には理解できない話ということさ」
伊織の乾いた笑い声がやけに大きく耳に届く異質な空気の中、張り詰めた緊張の均衡が遂に破られた。
「……」
「ふっ、無駄な努力だ。この構えの前では、いかなる剛撃であろうと意味をなさないッ!」
「大層な自信じゃないか。だがな、この世に完璧なものなどありはしないということを知るがいい!」
裂帛の気合いと共に、海斗が仕掛ける。
土煙を巻き上げながら瞬く間に距離を詰め、射程距離となる間合いまで肉薄する。
「バカめ! そんな見え見えの突進なんかにやられるものかっ」
当然、やすやすと許す桐生ではない。桐生を起点に旋回するように詰め寄ってくる海斗に対処すべく、即座に方向転換し――ようとした瞬間、桐生に電流が走る。そう、例えて言うならば――『あ……ありのまま、今、起こったことを話すぜ!』、だ。
「う、動けないっ!? バカな!? こんな……こんなバカなぁぁあああっ!? 何故だ!? どうして!? お、“俺の前に奴が居たと思っていたら、いつの間にか背後にまわり込まれていた”……! 何を言っているのかわからないが、俺自身も何をされたのかわからないっ! い、いや、違う! わかってはいるんだ。でも、信じられない……! あ、頭がどうにかなりそうだ……卓越した足捌き? テレポーテーション? いいや、そんなちゃっちいレベルのシロモノなんかじゃあ……ナイッ!?」
「くっくっく……どうやら気づいたようだなぁ? そう、お前の構えには致命的な弱点があるんだよ」
恐れ慄く桐生の斜め後方を陣取った海斗が狂笑を浮かべ、告げる。
あまりにも致命的な……弱点を。
「構えを支えるのは軸足一本のみっ! つまり、構えを維持している限り、お前は方向転換ができないということだっ。そしてェ――!」
草を刈り取る鎌の如き鋭いローキック。
スッパァアアン! と実にいい音を奏でる桐生のふくらはぎ。
「アッーー!?」 と悲鳴を上げながら痛みのあまりエビぞり状態で倒れこむ桐生。
今ここに、雌雄決した。
歴史が物語っているように、恐竜は哺乳類の前に敗北するのが定めだったということなのか。
「なんて……虚しい勝利なんだ……」
握り締めた拳を見つめながら、過ぎ去った過去を振り返る男の横顔で天を仰ぐ海斗。
観客の男性陣が、音を立てて敬礼を取った。
それは、心を揺さぶる激闘を乗り越えた勇者、そして地面に倒れ伏すとも誇りを失わずに突っ伏したまま翼竜のポーズを崩さない英傑に対する最敬礼だったという。
「……でもさ。要するに片足立ちのヘンテコポーズで固まった桐生が海斗くんにすね蹴られて悶絶してるだけだよね?」
「どいつもこいつもバカばっかよ。やっぱり変態の周りには変人しかいないってことかしらねっ」
「失礼な。てか、自分で首絞めてどうするか」
「はあ? どういう意味よっ」
早苗に反論するのは競技を終えて戻ってきた海斗だった。
悪ノリに興じてストレス発散出来たためか、かなり満足げな笑顔を浮かべている。
伊織に手渡された仄かに柑橘類の香りのするタオルで汗を拭く。
そんな彼の斜め後ろに控え、身体の前で手を重ねながら慈しみに満ちた眼で昂揚した海斗の横顔を見つめる伊織の口元が微笑をつくる。
「ふふっ、海斗ってば。スーツの胸元が乱れてるぞ?」
微笑みながらすり寄り、襟首の乱れを整える伊織。
当人も恥ずかしそうに頬を掻くだけで、されるがままに身を委ねている。
数年来の友人関係による絶対的な信頼によるものだが、傍目には仕事帰りの夫を甲斐甲斐しく世話する新妻のようにしか見えない。
うら若き乙女達の美貌が、溢れ出す体液的なシロモノでものすごい事になっている。
「むうーっ!」
そんな様子に、葵は頬を膨らませながら唸り声を零し、
「……ん、んんっ! そう言ういかがわしい事、おっぴろげにしてんじゃないわよっ!」
『何故か』不機嫌になった早苗が刺々しい視線で睨みつける。
指摘されて羞恥心が湧いてきたのか、頬を朱色に染めながら離れる海斗と伊織。
身体に籠る熱は競技の溜飲によるものだけではないのかもしれない。
「あー……ゴホン。話を戻すが、さっきお前は『類は友を呼ぶ』的なこと言ってたな? それってつまり、お前もその片割れ属性持ちってことだろ?」
わざとらしい咳払いで話を逸らしながらの発言が理解できず、固まる早苗。
そんな彼女に、更なる追撃が襲い掛かる。
「それってどっちがどっちだと思う?」
「んー、そうだな……」
早苗の前に屈んで、彼女の全身を値踏みするように見つめてから、
「……“類”」
次いで、自分や葵を指差して、
「“友”、だな」
断言した。早苗もまた『同類』であると。
「……ハッ!? わ、私を基準にすんなっ!?」
キワモノの元凶的な扱いを受けて爆発した早苗が海斗に掴み掛る。
伊織に直してもらった襟を掴み、ガクガクと揺らしながら全力で抗議する。
常識人を自負している彼女にとって、変態共の一員扱いだけは許すわけにいかないのだ。
しかし……発言の撤回にばかり意識が逸れていたため、早苗は致命的なミスを起こしていたことに気づいていなかった。
自分よりも身長の高い海斗に組みつき、至近距離で睨み上げるために正面から抱き着くような体勢になっていることに。
母性溢れる豊満な胸がふにょん、と潰れるほど強く抱きついてきた早苗を受けとめることが出来ず、彼女の両肩を押さえつけるはずだった両腕がところなさげに漂っていたことに。
おまけにそれが、抱きついてきた彼女の背に回され、抱きしめようとする寸前にしか見えなかったりするのだ。
仕上げとばかりに、双方が諸々の理由で頬を朱色に染めているとまでくれば……会話が聞こえなかった皆さんの目にどう映るかなど言わずもがなである。
再発する殺意のオーラ。
グラウンドを支配する怨嗟の声。
『巨乳幼馴染系アイドルを落としたアンチクショウが巨乳ツンツン眼鏡っ娘までもをデレさせた』
この瞬間、学園ランキング『処刑したいモテ男』部門のトップ3に
……もっとも当人は、
・〈玉入れ〉
各々のチームカラーと同じ色の球を籠に投げ入れる競技。
しかし、普通との違いは使用する球の方にある。
普通は布製の球、お手玉に使うようなアレが一般的だ。
しかし、この学園で使用されるのは強化ゴム製の水風船。中には水……ではなく、白濁とした謎の液体(校長が自ら用意した安全設計物と豪語していたが……はたして)。
掴んだり投げたりする程度では問題ないが、爪を立てたり強い勢いで別の水風船とぶつかってしまえば容易く割れてしまう。
そのため、中空で敵側の水風船を撃墜、妨害もありというサバゲーじみたルールを採用しているのだ。
……しかし残念な事に、グラウンドの中央では競技そっちのけでまたもや発生した混沌なる惨状が広がっていた。
「……どういうつもりだ?」
目の前に広がるバカの群れに、海斗はコメカミを抑えつつ問いかける。
答えはわかってるけど一応……念のため。
言葉に出さなくても、哀愁漂う背中がそう告げている。そして、全身を真っ白な粘液で染め上げた
背筋が大地に対して垂直になるよう姿勢を正し、白い粘液の合間から覗く双眸を爛々と輝かせるその姿は、自分に非が無い、むしろ己こそが正義だと確信を抱く狂信者の姿を彷彿させる!
「そこにリア充がいたからです!」
でも、理由がショボイのはお約束。
「ちょっとくらい悪びれんか!」
「あべしっ!?」
海斗、怒りのローリングソバット。
相手が正座した状態だったので、どちらかと言えば延髄斬りの方が正しいかもしれない。
ものすごく真面目な口調でくっだらない主張をかましたバカが泡を吹いて倒れるのを見て、バカその②以降の粘液怪人共が慌てて駆け寄り……もとい、這いずっていく。足を取られて滑るからか、四つん這いになり腕の力だけで地面を這うその姿、まさに惰眠から強制Wake Upさせられたせいで色々と腐っていやがった巨人兵のよう。
「おのれぇ! よくも1号先輩を殺りやがったな!?」
「殺ってない、殺ってない。骨をへし折ってないのが感触でわかるからな」
「首が90度に折れ曲がっているんだぞ!? この人殺しめっ!」
「いや、人体の構造上、前方向に限定して気合い入れれば意外とどうにかなるもんだぞ。経験上……経験上ッ!」
(((((なんか目が潤んでるんですけど!?)))))
ある意味真っ当な(?) ツッコミを入れる海斗だったが、バカ~ズは1号とやらを海斗が仕留めた……と言う設定をごり押ししたいようだ。
嗚咽を零し、すすり泣いてまでいる白濁生物群。チラッ、チラッと傍観者な女性陣へ何か言いたげな瞬き――もしかしてウインクのつもりなのだろうか? ――やら流し目――横目になりすぎてほとんど白目状態だが――を送っているのは……もしかしなくても、卑劣にも暴力と言う許しがたき行為の手にかけられた仲間を想う熱い男の友情――的な印象を見せたいのだろう。
事実、うざったいドヤ顔やら指ピストルを作って顎に当てつつ決め顔を浮かべたりしている輩の多いこと多いこと……。
競技開始の笛が鳴りやまぬ間に、海斗を除いた全参加者(男)からの集中放火を受けて爆発数分前状態だった海斗ですら、いい加減相手をするのが疲れたと言わんばかりの哀愁を漂わせている。
「……もう帰っていいか? てか、帰らせて。お願いしますから」
割とガチで泣きそうな幼馴染の姿に、流石の蝶歌もやりすぎたか? と頬を引きつらせた。
幼いころから色々としでかした自覚のある彼女をして初めて見る悲壮感たっぷりな幼馴染の姿に何とも思わない程、性根が歪んでいないのだ。
『ええ~っと……“癒しの女神”看護婦さん、カモン!』
『葵ちゃ~ん、早苗ちゃ~ん、お呼びだよ~』
「「はあっ!?」」
突然の指名に驚きの声を上げる葵と早苗。
急展開についていけずに愕然とした様子の両者に運営委員会の女性勢が駆け寄り、黄昏る海斗の元へ引きずっていった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいと言ってんでしょが! なんで私たち!?」
『さっきまで彼とイチャイチャしてたからですが何か? ほら、無駄に立派な“おぱ~い”で彼のお顔をサンドウィ~ッチ! して癒してあげてくださいませ。きっと元気になりますから』
多分、二重の意味で元気になってしまう事だろう。
SAN値が急降下している今の海斗なら、男性の本能を抑え込む余力が残されているか微妙だから。
もしそうなれば、さぞや淑女の皆様方の目を奪うヘビーマグナムの一端が御開帳される羽目になるかもしれない。
「無茶言わないでください!?」
「そうですよ! 大体人目のある所でなんて嫌です!」
「待ちなさい葵!? それじゃあ、人目が無かったらやってたの!?」
「……え? そ、それはその……」
自分の知らぬ間に親友が色ボケていた事実に戦慄を隠せない早苗。
しばし呆然となって固まった後、元凶とも言える海斗へ詰め寄って耳を引っ張った。
ねじ切られそうな激痛に、海斗の意識が一瞬で復帰する。
「あだだだ!? 何するか、ツン眼鏡!」
「だれがツン眼鏡か! てか、アンタは葵に何やったのよ!? なんか、私の知らない間に頭のネジぶっ飛んでるんだけどっ!?」
「アイツがエロかわいいのはデフォルトだ!」
「さりげなく惚気んなっ!」
「2人とも失礼すぎだよっ!? ていうかはーなーれーてーっ! 引っ付きすぎっ!」
繰り広げられる眼鏡ツン娘に耳を引っ張られて説教されるホスト男と、そんな2人を引き離そうとする美少女の図。
修羅場的展開に見えなくもないが……残念な事に、この場にいた人々の目には違う感想を抱かせていた。
『……なんか、“片思いの男の子に彼女が出来たことを認められなくて怒っている幼馴染”のように見えますわ』
「あらあら、また面白そうなフラグの気配が♪」 と楽しげに微笑む蝶歌の声は、更なる女の気配を匂わせ始めたアンチクショウへの嫉妬と憤怒と戦慄に渦巻く野郎共の怨嗟の声によってかき消されていった。
結局のところ。
精神的疲労が限界突破してしまった海斗が立ったまま気絶してしまったのでそれに気づいた葵と早苗によって――片方はぶつくさ文句を言っていたが――保健室へ送られ、体育祭閉会までベッドの住人と化してしまった。
しかしそのお蔭と言うべきか、律儀に閉会式を終えてから保健室に襲撃を仕掛けてきたしっとマスクマンズが現れた時には、すでに海斗達は安全地帯である愛の巣(真)へ避難済みだった。
結局、最後まで『海斗 = ホス虎』のカラクリを見抜けなかったしっとマスクマンズが放つ行き場を失った憤怒と嫉妬のオーラは、喜々として鉄鞭を振るう教頭に鎮圧されるまで学園を包み込んでいたそうな。
ちなみに、艶やかな愉悦の嘲笑をあげる教頭が無双しているのとほぼ同時刻に、ようやくSAN値を回復させた海斗が頭の中をぼんやりさせながらシャワーを浴びようとシャワールームの扉を開けてしまい、仲良く汗を流していた葵と早苗に遭遇。悲鳴やら打撃音やらが鳴り響いていたらしい。
実際に何があったのか。
それは翌日、顔中に引っかき傷やら打痕をこさえた海斗と、時折何かを思い出すように頬を赤らめてはそれを振り払うように額を壁に叩き付けていた早苗と、口元は笑っているのにワラっていない目をした葵だけが知っている筈だ。
とまあこんな感じで、騒がしすぎる体育祭はフラグを乱立させたまま終局することとなったのだった。
〆が投げっぱなしジャーマンとな?
ははは、これ以上は海斗君のSAN値が底をついてしまうのですよ。
……主にネタ的な意味で。
てなわけで体育祭編は終了。次は予告通り、期末考査か長い夏休みの葵&サブヒロのエピソードか。
多分エロ的展開満載になるかと。