『えっち』から始まる恋があってもいいじゃない? 作:カゲロー
後編も近日中に投稿致します。
それは一見すると高級マンションのように見える外観の建物だった。
学校の敷地内、昨年に取り壊された旧校舎跡地に僅か1年で建てられた5階建てのマンション。そこが今回の実験に参加する選ばれた男女……高宮海斗と竜ヶ崎葵が生活することになってしまった住居だ。
彼らに宛がわれた最上階はその階総てを1つの住居として設計されていた。1つしかない出入口の先には、20畳は優に超える広々とした空間に必要な生活用品が所狭ましと備え付けられていた。
4階より下の階層は警備員たちの詰所であったり、実験の進行をチェックする研究員たち用の部屋であったりする。ただし、隠しマイクやカメラの類は一切存在しない。
子づくり推進を掲げているとはいえ、さすがに現役学生の情事をのぞき見したりするのは問題がありすぎる。保存した記録映像などが万が一にでも流出でもしてしまった場合、とんでもない騒ぎになることは火を見るよりも明らかなのだ。情報漏えいが騒がれる昨今、そこまでのリスクを負うことは避けようというのが関係者たちの判断だ。
だからこそ、各部屋の防音設備も完璧に仕上げられており、二人がナニをしていようと、誰にも盗み聞かれる心配はないということだ。
「……」
「……」
無理やり部屋に入れられてから10分近く経過したにもかかわらず、どちらも無言のまま時計の針が進む音だけが規則正しく響いている。
「……なあ?」
「っ!? な、なんでしょうかっ!?」
「いや、そこまで警戒すんなよ、流石に傷つくから。……とりあえず中を見てみないか?」
靴も脱がないまま、玄関先で突っ立っているのもなんだしと言う海斗の言葉に葵も頷きを返しながら、用意されていた上履き用のスリッパに履き変えると室内へ足を踏み入れた。
新築特有の鏡みたいに蛍光灯の光を反射するフローリングの上をペタペタと音を立てながら進み、正面奥のドアを開く。その先の部屋はリビングらしい。
フローリング張りの床には趣味の良い絨毯が敷かれ、その上にソファーやテーブルが設置されている。テレビなどの家電用品も一式揃っているようだ。
中には、最近新発売したばかりの新機種らしいものもちらほら見える。
これだけ見ると、校長室で訊かされた話が本気のことだということがひしひしと感じられる。
鞄を手に持ったまま部屋の中央に立ち、物珍しそうに見渡す葵を余所に、ソファーに鞄を放り投げた海斗は部屋の中を家探しするかの如き勢いで手当たり次第に探索していた。
家具をひっくり返すような真似こそしていないものの、物陰や押し入れなどのスペース、挙句の果てにはコンセントや電話回線などを事細かく調べているらしかった。妙に手馴れているような手つきを不思議に思った葵がおずおずといった風に訊く。
「ねぇ、なにしてるの?」
「ん~~? 盗聴器とか隠しカメラが仕掛けられてないかチェックしてんだよ――っと、どうやらそういうのは無いらしいな」
「と、盗聴っ!? な、何でそんな……」
「大臣さんとやらの話が本気の事だって分かったからな。なら、当然監視の目を光らせてると思ってさ」
「……ねぇ? 校長室での話って本気、だと思う……?」
「……マジなんだろうな、きっと。少なくとも、ドッキリとかの類でここまで大それた舞台を用意できるとは思えないしな」
これほどの建物を短期間で造り上げ、金にものを言わせた内装の充実っぷりからみても、本気の度合いが相当のものだということは疑いようも無いだろう。
――どうして……どうしてこんなことになっちゃったんだろう……。
葵は強いめまいを覚えた。
まるで、今自分が立っている場所が足元から崩壊していくかのような……そんな錯覚を感じた。
――ちがう。こんな現実があるはずないよ……これは夢、ううん、たちの悪い妄想なんだよ。
だが。
――
探索を終えたらしく、制服の胸元を緩めながら冷蔵庫からペッドボトル入りのオレンジジュースとグラスを2つ手に持って戻ってきた海斗に促されるようにソファーへ腰を下ろす。
お尻に感じるふかふかの弾力と柑橘類特有の甘酸っぱくも冷たいジュースの味が、葵にここは現実だと告げていた。
ちびちびと舐めるように飲む葵とは違い、喉が渇いていたらしい海斗は一気に煽る様に1杯目を飲み干すと、すぐに2杯目を注ぎにかかる。――が、つい手元がブレてしまったらしく、盛大にテーブルへと零してしまった。
「あ、やべ!」
「きゃっ!? もう……なにやってるの」
葵がスカートのポケットから取り出したハンカチで端から零れ落ちそうになっているジュースをふき取っている間に、キッチンに駆け込んだ海斗がタオルを手にして戻ってきた。
すばやく拭きとれたお蔭で絨毯にまで零れるのは何とか防ぐことができ、二人同時にほっ、と息を吐く。
次いで、思わず顔を向き合わせながら、お互いに小さく苦笑を浮かべる。
海斗がばつが悪そうに頭を掻けば、葵がさもおかしそうにくすくす、と頬を綻ばせる。
意図せずに、緊張をほぐす結果になったのは果たして唯の偶然なのかどうか。
それはさて置き。いい感じに硬さが取れた二人は、ここでようやくお互いの自己紹介もまだだったことに気づいた。
葵と海斗は同学年だがクラスは別で、互いの事も噂程度にしか知らない関係……ようするに『唯の他人』でしかなかった。まあ、そんなことがどうでもよくなるくらい衝撃的な展開の当事者にされてしまっているので、仕方がなかったと言えばそれまでなのだが。改めて二人は、机を挟んで向かい合う相手に関する噂を思い返してみる。
竜ヶ崎 葵
彼女は学校で1,2を争う有名人だ。無論――いい意味で。
抜群のプロポーションと人目を引く美しい容姿……特に、親しい友人と一緒に居る時にだけ見せる柔らかな頬を綻ばせた笑顔は、隠し撮りした写真が1枚数千円で取引されたという逸話まであるくらいだ。
腰まで届くほどの指通りのよさそうな黒髪をポニーテールに纏める普段の彼女は、活発なお嬢様といった雰囲気を醸し出している。部活に力を入れているせいか学業は平均よりもやや下位に留まっているが、そういうちょっとした欠点もまた、男心を引き付けるスパイスとなっているのかもしれない。去年の学園祭で行われた恒例のミスコンでは、堂々の1位に輝いたことからも、彼女の人気がわかる。
対して、高宮 海斗
彼もまた学校で有名な生徒の1人だ。ただしこちらは――悪い意味で。
最近はあまり見なくなった黒縁眼鏡をかけていることくらいしか特徴のない筈の彼に関して、とある噂が学校中に広まっている。
曰く、『高宮海斗が成人指定のアダルトビデオに俳優として出演している』というものだ。
アダルトビデオ、最近はテープ形式ではなく、BVDやBDが主流となりつつあるそれは主に成人男性の性欲のはけ口として活用されるものだ。
主役はパッケージにもなっている女性であり、カメラアングルも主演女性を中心にされるのが普通だ。しかし、こういったものには相手側……つまり視聴者が感情移入できる男性の登場人物も必要不可欠。
故に、主演女性との絡み役として男性俳優も登場するのだが、基本的に女性とは違って男性俳優の方は身体の一部しか映らなかったり、顔部分にモザイクが掛けられたりされる。
パッケージの主演紹介欄にも、男性俳優の名は伏せられている場合が多いのはこのためだ。
くわしい出所は不確かだが、生徒の誰かの偶然視聴したアダルトビデオに映った男性俳優の声が海斗のソレと同じだったという噂話が広がり、いつの間にか『高宮海斗はアダルト俳優をやっている』という噂が、まるで真実であるように定着していった。
生徒たちの大半はこの話を一度は聞いた事があるし、当の本人が否定も肯定もしなかった事も相まって、真実味がある話だと生徒たちの間では話題になっている。
当然葵もこの話を聞いたことがあり、クラスが違うこともあって自分から海斗に関わろうとしてこなかった。
葵が海斗に向ける硬い態度は、こうした噂が影響しているのもまた事実だった。
「……ぁ、えと」
「聞きたいことがあるなら、どーぞ?」
言いよどむ葵を促すように、先手を打って海斗が切り出す。
葵は意を決したかのように、はっきりさせておきたかったことを訊く。
「あ、あの! 最近噂になってる、その……高宮君がアダルトビデオに出演してるって話……本当、なの?」
「まあ、な」
海斗はあっさりと肯定して見せる。
「なぁ竜ヶ崎、お前さんって、俺の親が何の仕事をやってるのか聞いたことあるか?」「え? え~っと、無い、かな」
「そか。まあ知られて困るモンでもないから言っとくけど、俺の親父はアダルトビデオの制作者で、おふくろがそれを販売してんだよ」
海斗の両親が経営している会社名、その名も『極☆H』。アダルトビデオやソフトの制作と販売をしている。若い少女から、大人の色気を醸し出す熟女まで幅広いジャンルを網羅する作品を次々と生み出しているということで、その筋ではそれなりに名が知られている。
しかし、両親には守銭奴という欠点があって、とあるアダルトビデオを制作する時に主演予定だった俳優と出演料を巡って一悶着を起こしてしまったことがあった。
結局、俳優とはケンカ別れのようになってしまい、他の俳優を探そうにも商品の納期が迫っている状況ではそんな余裕などありはしなかった。焦った父親が、『ならば俺が!』と言い出すくらいに切羽詰まっていたと言えば分って貰えるだろうか(バカ親父は発言直後に愛する妻のハートブレイクショットを叩き込まれて崩れ落ちた)。
結局、最後の手段として身内を使えばいいじゃないという結論に達し、当時女性とお付き合いしたことも無かった海斗に白羽の矢が立てられてしまったのだ。
この日以降、海斗の両親が生み出すアダルトビデオの主演男優は海斗が勤めることになってしまった。
さすがに顔映りはNGとしていたが声までは編集されていなかったらしく、今回のように噂が立ってしまったわけなのだが……それなら海斗が否定すれば済む話だったはずだ。でも、出来なかった。噂が広まった方が売り上げも伸びるじゃないかという、ぶっ飛んだ両親の命令で。
「ど、どうして逆らわなかったの? もしこれが公になっちゃったら、大事になるんじゃない?」「親父たちは例え俺が退学にされても構わないって思ってんだ。その時は、エロビ男優一本で喰っていけばいいとか言いだしてな? それが嫌なら、噂を否定しないまま無事に卒業して見せろとか言われて……良いぜ! なら、やってやらー! ――って、つい啖呵切っちゃって」
売り言葉に買い言葉。気付いた時には後の祭り。
上手いこと口車に乗せられた海斗は、そのままズルズルと厳しい視線に晒されながら、亀のように身を縮こまって学園生活を続けてきたわけだ。
「そ、それはまあ……ご愁傷様?」
「見事なまでに引きつった顔で言われても嬉しかね~よ。――……ああ、 もう、ヤメヤメ! この話はもう終わりだ」
海斗は微妙な空気を入れ替えるように勢いよく立ち上がると、制服の上着を脱いで、何故かハンガーに掛けられていたピンク色のエプロン(さすがにフリルとかはついていなかった)を身に付けながらキッチンへと向かっていった。エプロンを纏う姿がいやに堂に入っているのが、なんとも言い難いシュールさを醸し出している。
「ど、どうしたの、高宮くん?」
「な~んか、まるで台風一過みたいなトンデモイベント盛り沢山な一日だっただろ? こ~いう時は、腹いっぱい美味いモン喰うのがお約束なんだよ。さっき冷蔵庫を覗いた時、結構な材料が詰め込まれていたからなんか作る……ああそうだ。竜ヶ崎、お前って――あ、いや、なんでもない。忘れてくれ」
「ちょっと!? そこは『竜ヶ崎さんは料理できるの?』 って訊くところじゃない!? どうして言いよどんだりしたの!?」
「いや、だってなぁ……去年の調理実習で、科学的に存在が立証されていない『ダークマター的な物体X』を錬成した女子生徒がいたって噂を耳にしたんだが?」
葵が目をそらす。心なしか、頬がぴくぴくと震えている。
「しかも、それを試食したテニス部期待のエースが保健室に担ぎ込まれる騒ぎになって――」
だらだら……、と葵の背中に流れる冷たい汗が量を増やしていく。
「挙句の果てに、試食されずに余った分がまるで大気に溶け込むように消え去っていくという超常現象もびっくりな『ダークマター的な物体X』を生み出した生徒の正体が、実はミスコンに優勝経験のあるとある女子生徒だったらしく――」
「わかった! わかりました! もういいませんっ!」
「わかってくれて幸いだ。んじゃ、おとなしく待ってな」
明らかにからかわれたのだろう、ものすごく楽しそうな鼻歌を口遊みながらキッチンへと消えていく『いじわるな同居人』の背中を恨みがましい目で睨み付けていた葵は、海斗が居なくなったリビングが妙に広く、そして居心地が悪く感じてしまった。
平凡な毎日がずっと続くと思っていたというのに、政府の偉い大臣から逃げ道を防がれたうえで『子作り』しろと半強制的に命じられ、あれよ、あれよと用意されたこの建物に押し込まれてしまった。下の階層に支援者――まず間違いなく監視員あたりだろう――たちが控えているとはいえ、住居として用意された最上階に居るのは葵と海斗の二人だけだ。
幸いというか、話してみる限りだと海斗は噂ほどひどいヒトではないらしい(妙に順応性が高いのが気になるが)。
「これからどうなっちゃうんだろう……?」
ソファーに背中を預けながら、シミ一つない天井を仰ぎ見る。
明日からとんでもない毎日になっちゃいそうだよねとぼんやり思う。だが、それは半分だけ正解だった。
なぜならば……とんでもない日常は今晩から始まっていくことになるのだから。
竜ヶ崎葵は、まるで年ごろの女の子としてとても大切なものを粉々に打ち砕かれたかのようにうちひしがれるような表情を浮かべていた。
手元には銀色の光沢を放つスプーンと、山盛りに盛り付けされたカレーの入った皿が置かれていた。
海斗がこしらえた特製シーフードカレーだ。冷蔵庫の中には相当数の食品が詰め込まれていたのだが、ほとんどの肉類は冷凍室に放り込まれており、解凍するにも時間が掛かりそうだったのだ。
だから、すぐに使える海鮮物が中心のシーフードカレーを作ったのだが、存外にうまくいったらしい。葵の向かい側に座って自分も食べながら、料理の出来に満足げな様子で頬を綻ばせていた海斗は、勢いよくスプーンを動かしながらも何やらうちひしがれるようにうつむいていく葵の様子が理解できず、首を傾げた。
「苦手な材料でもあったのか?」
好みなど分かるはずも無いから、冷蔵庫を覗いていた時にアレルギーなどは無いかと訊いたくらいしかしていなかった。もしかしたら海鮮物とかが苦手なのかもしれないか? と一瞬だけ思うものの、最初の1杯目をぺろりと平らげると立て続けにおかわりを繰り返し、現在3杯目に突入している様子からそれはないかと考え直す。葵は恨みがましそうな目で海斗を睨み付けてきた。
「ううん……美味しいよ? 美味しいんだよ? でも、女の子としてのプライド的なモノがガラガラと……」
「ンなものがあったのか?」
「ちょっ!? それどういう意味!?」
「さーて、洗い物、洗い物」
「だからっ! 無視しないでってば!?」
綺麗に平らげられた皿を手に流しに立った海斗は、てきぱきと洗って水気をふき取ると乾燥機の中に入れていく。実に手慣れた動きを繰り出す海斗の後姿を、何とも言いがない表情を浮かべた葵が見つめていた。
「まあまあ、そんなにむくれんなよ」
「むーっ! もう、高宮君って意外とイジワルなんだねっ!」
「はいはい、わたくしめはイジワルさんでございますよーっと」
「むむう~っ! ふんだ! 今に見てなさいよっ! すぐに女子力をレベルアップさせて見返してあげるんだからっ! ――んぐ、んぐ……けぷっ……!」
抗議の声をおざなりに返しながら洗い物を済ませた海斗が戻ると、ヤケ酒じゃあ! と言わんばかりの勢いでオレンジジュースを飲む葵の姿が飛び込んできた。どれほど飲んだのか、彼女の足元には空になった500ミリリットルのペットボトルが転がっている。
「やれやれ……って、ん?」
散らかったペットボトルを拾おうと身を屈めた海斗の嗅覚が、柑橘系飲料水独特の香りに混じった『覚えのある匂い』を捕える。
「あれ? この匂いは……っ!? まさか!?」
気付いた時にはすでに手遅れだった。背中に感じた柔らかな感触と温もりに振り返ってみれば、紅潮した顔の葵がしなだれかかる様に海斗へ抱きついてきた。
トロンと弛んだ瞳は熱に侵されたかのように憂いを帯び、吐き出す吐息は魅惑のフェロモンと化している。
「この反応……!? やっぱりあの匂いは媚薬か! あの連中……、仕込んでいやがったな!?」
今までに海斗が出演してきたアダルトビデオの中には、街中で女性をナンパしてベッドシーンまでの流れを撮影するというものも含まれていた。無論、主演となる女性たちとは事前に打ち合わせしており、双方の合意の元で行われたものだが、出来るところまでリアリティを突き詰めたいという撮影監督である父親の意向によって、素人くささの抜け切れていない新人を採用していた。そして仕事経験の薄い新人たちでも円滑に撮影を行えるように用意された小道具の一つに媚薬があり、それを手配したこともある海斗の鼻はその独特の香りを覚えていた。だからこそ、今の葵の状態が、彼の主演した撮影でも使用された媚薬と同様の効果があるものによる影響だと看破できたのだ。
あの媚薬は飲料水に溶かして飲むタイプのモノだったはずなので、ジュースを自棄飲みしていた葵だから、短時間でここまでの状態になってしまっているのだろう。海斗もそこそこの水分を口にしていたが、量的には少なかったのでまださほどの効果は出てはいないようだ。だが、所詮は時間の問題なのかもしれない。
荒い呼吸を繰り返しながら、豊満な乳房を海斗の背中に擦り付けてくる。
まるで海斗の身体を使って自慰行為を行っているかのようだ。
学校随一の美少女――それも仕事上の関係という公私の切り分けの付けられる関係ではない同年代の少女――の情欲をそそる仕草に、海斗は己の理性を総動員して何とか堪える。
が、彼もまた媚薬の効果でほてりだしていく身体を抑え込むのに精いっぱいで、とてもではないが葵を引きはがす余裕はなかった。
「お、落ち着け竜ヶ崎……お前は媚薬に――っむ!?」
「んっ……んぅ……っ!」
落ち着かせようと声をかけるために後ろを向いた瞬間、海斗の唇が葵のそれで塞がれた。
頭を抱きしめるように回された腕に力を込め、吸い尽くすように唇を密着させてくる。
「んちゅっ……んふぅっ……ぁふ……たかみや、くぅん……ちゅっ……」
「んっ……んんぅっ……り、りゅうがさき……んんっ」
まるで足が床に縫い付けられたかの様に葵を振りほどくことも出来ない海斗の舌が、本人の意思とは無関係に動き出す。葵の口内へと侵入した海斗の舌が彼女の中を蹂躙していく。
さほど広くは無い空間を制圧するかの様に動き続ける舌が、熱っぽい葵の舌を捕える。
流石に恥ずかしいのか逃げだそうとする彼女の舌を、そうはさせまいと絡みつかせて捕える。
葵の舌からは媚薬入りのジュースらしき甘い味がした。それを吸い取る様に彼女の舌を自分の口内へと招きよせて吸い上げれば、彼女の甘い味が口いっぱいに広がっていく。
海斗の方も媚薬の効果が出てきたらしい。身体を捻って葵に向き直ると、彼女の火照った身体を強く抱きしめながら、より激しく、より情熱的に互いの唇を貪っていく。
互いに名前を呼ばれながら熱い口づけを交わし始めてどれほどの時間が経過したのか、どちらからともなく、ゆっくりと身体を離していく。
「……ンっ……ふぅ……っ、はぁっ……ぁ」
切なげな吐息を漏らし、恥ずかしそうに身を震わせる葵の仕草に、海斗の中で抑え込んでいた情欲がどんどんと勢いを増していく。
媚薬のせいだということは分かっている。そうだとしても、このまま己の本能が思うがまま、身を委ねてしまいたいという昂奮が収まってくれない。
「……なぁ、竜ヶ崎……俺、このままだとお前を……」
恥じらいに頬を染める葵の耳元でそっとささやく様に呟く。
葵は目蓋をきゅっと閉じて、小さく頷きを返した。