ヒロイン登場回
「む〜…」
優太が出掛けてからもうすぐ二時間になる。
最寄りの駅まで歩いて迎えに行ったとしても、ここまで時間が掛かるのは流石におかしい。
浮かれた妄想は完全に鳴りを潜め、よそ様の家に一人でいるということと、優太に何かあったのではないかという不安が頭の中でぐるぐるし始めていた。
ガチャ…キィ……パタン
一階から聞こえた玄関の開く音に、俺は飛び跳ねるように立ち上がった。
「帰ってきたか?」
思わず独り言が漏れるが、それだけ不安だったんだから仕方がない。
ここは下に行くべきなのか。それともここで待つべきなのか。
俺が立ったまま進むも戻るも出来ずに躊躇していると、階段を昇ってくる足音が聞こえた。
コンコン
控えめなノックの音に、俺は慌ててベッドの脇に座り込む。
ノックされたってことは、優太はいないってことだ。
なんにせよ優太が戻ってくるまで、美少女との間を持たせなくてはいけない。
まずは第一印象が大事。
俺は漫画を手に持ち、自家発電中に部屋に入ってきた母親を相手にするように平静を装った。
「…どうぞ」
よし、自然な感じで言えたな。
日頃の鍛錬の賜物だ。
ゆっくりとドアが開くと、さっき優太に見せてもらった画像の女の子が現れた。
やべぇ、めっちゃ可愛い。
写真は五割減って言うけど、そんな程度の割合じゃなく、実物は何十倍も可愛く見えた。
服装もフリル多めで、画像のワンピースよりもかなり戦闘力が高い。
これが童貞を殺す服か。
「こ、こんにちは…」
女の子は恥ずかしそうに俯きながら、しかし俺の方をしっかりと見つめながら挨拶をしてきた。
上目遣いの破壊力ヤバい。
声もアニメキャラみたいでめっちゃ可愛いし。
「あっ、どうも、はじめまして……こんにちは……」
ぐぅっ、緊張してまともにしゃべれない。
ってか優太はどこに行ったんだ。早く帰ってこい。死ぬぞ俺。
「優太…くんは、用があるからしばらく戻ってこないって」
「はぁっ!?」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を噤む。
俺の声に驚いて、女の子はビクリと肩をすくめている。
イカンイカン、動揺しすぎだ俺。
落ち着け、落ち着けぇ〜。
「し、しばらくって、どれくらい?」
ちょっと噛んだけど仕方ない。
美少女と二人っきりっていうこの状況は、女性との接点が無くなって久しい俺には持って五分ってところだけど、10分は我慢して見せるから優太帰ってきて!
「え? えぇっと〜…2〜3時間、とか言ってた、かな?」
女の子が自分の顎に手を当てて、小首を傾げながら困ったように呟く。
俺の希望は想像を絶するレベルで裏切られたけど、美少女のあざとい仕草を間近で見られたのは良かった。
いや良くないよ。
可愛い仕草で心臓がバクバク言ってて、もう早くこの空間から逃げ出したい。
帰ろうかな…
「あっ、あのっ! 私、ユウっていいますっ!」
俺が肩を落としたのを見た女の子は、ずずいっと勢い込みながら自己紹介してきた。
「へっ!? あ、俺、文二郎っていいます」
咄嗟に返事を返したけど、女の子に気を遣わせるとか男失格だな俺。
そんなんだから彼女居ない暦=年齢の童貞なんだろうな。
「知ってます! 素敵なお名前ですよね」
俺と女の子の距離がさらに狭まる。
俺が少し手を動かせば、ユウちゃんの剥き出しの腕に触れそうなくらいだ。
うっすらとお化粧してて、おめめぱっちりでめっちゃ可愛い。
綺麗な肌は外の暑さに当てられたのかほんのり上気しており、目元は若干潤んでいる。
電車でくらいしか嗅いだことのない、女の子特有のいい匂いを意識してしまい、俺の股間が一気に硬くなり上を向いてしまった。
俺はそれを隠すために、不自然にならない程度に腕を前に回しながら、慌ててベッドに座り込んだ。
「いや、学校では、け、結構、ネタにされてるんですけどね、アハハ」
実際俺は、文二郎なんていう古臭い名前のおかげで、今までの人生では散々いじられてきた。
いじめって程ではないけど、正直俺は自分の名前があんまり好きではない。
「そんなことないですよっ、とってもカッコいいと思います!」
ユウちゃんはそれが当然なことであるかのように、俺の隣に腰を降ろしながらそう言った。
近い近い近い!
腕触ってる!
ユウちゃんの白く細い腕が、俺のそこそこ筋肉質な腕とぴったり触れている。
ちょっと動いたら触れる、なんてものじゃない。
多少動いても肌が触れたままになるくらいの近さだった。
えっ、何この子俺に惚れてるの?
名前褒められたのと可愛いのとこのスキンシップとで、俺もうだいぶ好きになっちゃってるんだけど?
逃げたら負けなような気がして、動けない。
いや、それは半分嘘だ。
俺の意識は、ユウちゃんと触れている部分に全神経を集中させていた。
俺の股間のムスコがピクンと震え、大粒の我慢汁が溢れ出たのが良くわかった。
生まれて初めて至近距離で感じた異性の存在に、俺のはズボンに擦れるだけでもかなりヤバイくらい追い詰められていた。
「文二郎さんって、本当にカッコいいですよね。写真見たときからずっと思ってました」
ユウちゃんの熱っぽい吐息が、甘い囁きとともに俺の首筋に吹きかけられる。
もうやめて、童貞男子高校生のライフはもうゼロなの!
そして充填率は120%なの!
「いやいやいや、あんな写真、馬鹿だなぁって思ったでしょ?」
優太が見せたのは変顔ボディビルディングのはずだ。
それを見た時からカッコいいと思ってた、なんて言われて、これはお世辞なんだとやっとこさ理解出来て冷静さが少し戻ってきた。
それでもまだ戻ってきた冷静さは本当にわずかで、顔がまともに見れないけどな!
「あれだけじゃないですよ。他にもいっぱい見せてもらってますし、いろんな話も聞いてます」
「えっ!? た、例えば…どんな?」
聞き捨てならないセリフに、視線だけチラリとユウちゃんに向ける。
その瞬間、ユウちゃんの白い足が目に入って、また我慢汁がパンツを濡らした。
再び泳いだ俺の視線が、ズボンにまでシミが浮き出ているのを見つけて、一気に冷汗があふれてくる。
マジかよ、どんだけ興奮してんだよ俺。
ユウちゃんは可愛らしく「ん~」なんて唸りながら、緊張と焦りで硬直している俺にもはや半ば寄りかかるように体重を預けている。
本当に僅かな圧力なのに、俺はそのまま横倒しに倒れてしまいそうな錯覚に陥り、体には余計に力が入ってしまった。
「例えば、あの写真撮ったあと上半身裸のまま、雪が降る屋外で懸垂した、とか」
「ぐっ!」
衝撃のセリフに思わずうめき声が出ちまった。
男同士ならただの笑い話なのに、同じ事実が女子の口から語られるだけで黒歴史と化してしまうのは何故なんだ。
仕方ないじゃん!
あの日はクリスマスだってのに部活やって、夕方には雪まで降ってきてホワイトクリスマスなんて過剰な演出しやがって!
彼女の居ない男子高校生が奇行に走っても、いたって普通なはずだ!
「ふふっ…『ホワイトクリスマスなんて俺が汚してやるっ!』……でしたっけ?」
ぜ、全部バレてる……だと!?
ユウちゃんは俯きながら、本当に面白そうにクスクスと笑っていた。
逆に俺は、もう恥ずかしさが突き抜けて若干放心していた。
今にも出そうなほどギンギンだった股間は完全に委縮してしまい、みっちり尿道に詰まってた大量の先走り汁が、涙のように太ももを伝う。
ぬるぬるが広がる気持ち悪い感覚が、冷めた頭にはっきりとわかった。
「ほかにもいろいろありますよ? いつも楽しく聞かせてもらってます」
ユウちゃんは笑いを堪えながら俺にそう言った。
心なしか、最初あったときよりだいぶ態度が砕けてきたように感じる。
スキンシップは最初っからナイトメアモードだったけど、今はユウちゃんが俺の横ではなく若干背中側に手をついているため、俺の腕に触れる部位が腕からお腹や胸のあたりに変わっていた。
ユウちゃんは胸はほとんどないスレンダーな体型だけど、本当に僅かに擦れるブラジャーのものらしき硬い感触が俺の心をかき乱した。
このままじゃ、ダメだ。
ちょっと気が動転しすぎて呼吸が荒くなってしまい、それを誤魔化そうと無理矢理呼吸を抑えているせいで、若干酸欠気味になってきてる。
心臓の音がこめかみのあたりでドクンドクンと大きく鳴っていて、頭もちょっと痛いくらいだ。
ってか、視界が白くなり始めてる。これはヤバイかも。
若干白んできて視野が狭くなっていた俺の視界に、勇太が最近買った最新のゲーム機が映った。
「そうだ! ねぇ、ゲームやらない!?」
緊張のあまり少し大声になりながらも、俺は転がるように床の上を進むとテレビとゲームの電源をつけた。
入っているのは、各種ゲームのキャラが一堂に会して戦う格ゲーだ。
かなり突拍子もない提案なうえに、急に動いてしまい我ながらとんでもなく不審なのはわかっていたが、混乱の極みに至った童貞男子高校生の必死の逃避行動なので許してください。
「勇太が好きなゲームなんだけどさ、これ面白いんだよ!」
俺は絨毯の上に胡坐をかくと、ベッドに座っているユウちゃんのほうは見ずにコントローラーを突き出すように渡した。
突き出したコントローラーが、ほんの一瞬、空を彷徨う。
受け取ってもらえないのではと思い全身の毛穴から脂汗が噴出した直後、俺にとってはとてつもなく長く感じる一瞬の後にコントローラーが受け取られた。
「いいですけど、私、強いですよ?」
ちょっと呆れたような声。
だが活路を見出した俺は、このまま気にせず突き通すことにした。
「言うじゃん。俺も結構強いよ」
なんてったって、アホみたいに強い勇太に散々いじめられてるからな。
連日の死闘のおかげで、ストレート負けする回数もだいぶ減ったし。
女の子に負けるわけがない。