啄んだ唇から酒精が香り、互いの吐息が小鼻をくすぐった。
過ちの夜、劣情と猜疑に任せた獣のような行為と違って、瞳を交わしたまま唇を重ねるのは酷くこそばゆかったが、それ以上に甘やかな昂ぶりが跳ね踊っていた。
「ん……」
フランの小鼻から悩ましい響きのする息が漏れ、反らしたおとがいがぴくりと震えた。涙を湛えた瞳が微睡むように細められて、幾筋か雫が伝い落ちる。
重ねた唇のあいだで吐息が交わる。キャシアスが抱き締めた腕に思い切り力を込めるとフランの華奢な胸が潰れて、ふっ、と彼女の呼吸が詰まる。それでキャシアスが慌てて力を緩めると、今度はフランの方が唇を寄せ、背中に回した腕でギュゥとしがみついて密着を保つ。
「んぅ……んん……」
喘ぐような、啜り泣くような、艶めいてどこか切なげな音色が、しきりにフランの喉から漏れ出てきた。抱擁と口吸いは互いを引き寄せる切実な衝動のままに、半ば本能的に求め合い、飢え渇いた旅人が湧き水を吸うのにも似て、ぴたりと重なったまま離れがたかった。しかし、その先を求める肉欲も煮えたっていて、がむしゃらな抱擁はどこかもどかしさを伴った。
フランの息が続かなくなったのは、幸運だったかも知れない。そうでなければ夜明けまで際限なく、ただ互いの唇を貪っていたかも知れなかった。
朦朧とした様子で切れ切れに喘ぐフランは、今や止め処なく泣いていた。酔いに蕩けた彼女の微笑は紅潮して艶めき、細い手指がキャシアスの胸を頬を、蜜のように粘り着く手つきで這い回り、撫でさすっていた。キャシアスは小さな背中を支えてフランが息を整えるのを促しながら、頬やおでこに唇で触れて回ったが、フランはその度に「あ」「あ」と悩ましい声を上げ、キャシアスの腕の中でしゃくり上げるように震えた。
「キャシアスさま」
フランが己を名を呼んでいる。
「キャシアスさま」
息をつぐのももどかしいとばかり、熱のうわ言めいて切れ切れに喘ぐ彼女の響きが快い。
掌にフランの呼吸を探って、キャシアスは慎重に慎重に、フランの衣服に手を掛けた――フランの息遣いはゆったりとしたまま深くなり、熱さと湿り気が濃くなって、啄ばまれたキャシアスの頬が溶けるようだった。フランが小さく身をよじり、ドレスを肌蹴るのを手助けしてくれたので、キャシアスは焼き林檎の皮を剥ぐように手際よくフランの肌を暴くことができた。フランは恥じらって身動ぎをしたが、裸身を隠すことも、キャシアスから目をそらすこともしなかった。ともすれば緊張で竦み上がりそうなキャシアスへ泣きながら微笑んで見せた。キャシアスはそのいじらしい気遣いを嬉しく思ったが、謝意を口にする余裕などは欠片もなかった。
つい先刻、傷の手当をするために見たばかりの肌。
紅潮した肌に古傷が浮かび上がっている。左肩から左乳房の裾野にかけて広がる火傷の跡は、快癒後も突っ張った皮をほぐすために切れ目を入れなくてはならず、稲妻状の刻み目が幾筋も走っていた。そして右鎖骨の下から乳房の間にかけて貼り当てられた布はキャシアスの刀が刻んだ生傷を覆うものだ。痛ましい有り様だと思うべきなのかも知れない。だが愛しい娘としてフランの素肌を目の当たりにし、キャシアスの内に沸き上がってきた情動はまるで正反対のものだった。言葉にならない欲情と渇望――もはやキャシアスは欲動に抗うことなく彼女を抱き寄せ、腕に納めたフランの、細い鎖骨のくぼみにむしゃぶりつく。「ふぁっ……!」汗の味と肌理細やかな舌触り。一層近くに感じる温もり。甘く生々しい女の匂い。没頭して吸い上げる都度、フランの息が弾む。彼女の両腕がキャシアスに絡み付くが、それでいてキャシアスが貪る箇所は明け渡すように差し出してくる。フランが受け入れてくれることに興奮と安堵を共に覚えつつ、鎖骨づたいに首筋へ、「あっあっ」薄い首筋の皮膚越しに脈打つ鼓動を唇で探り「ふぅ、ふぅ、んひぅぅっ」愛欲の赴くままに吸い上げると「ひっっっっ!」弾むフランの吐息が裏返り、びくん、と体全体をしゃくるように跳ねて「はっ、ぁ、ぁっ」ぼやけた眼差しを宙に投げ出し、ぐにゃりと弛緩してしまった。跳ね上がった拍子に胸を勢いよく反り返らせてしまったために当て布が剥がれて、膏薬で濡れ光る傷口からじわりと血が滲むのが見えた。
朧な炎の明かりに浮かんだ朱の線は不思議と鮮やかで艶やかで、キャシアスは我知らず、傷口の端、フランの右乳房の裾野へ吸い寄せられ、そのままちぅと吸い付いていた。折角塗りつけた軟膏を夢中で舐め取ってしまうと、その下にぴりりとしたフランの血の味を感じた。途端、
「~~~~~っっっ!!」
フランが声なき絶叫を上げて、がくがくと体を痙攣させた。
そのわななき、細い喉の引き攣れる様は凄まじく、フランの小さな体が弾けて千切れるのではないかというほどだった。皮膚が張り詰め、切り傷が広がって血が滲む。フランの身をいたわるべきだという当たり前の気遣いが愛欲とおかしな風に結びつき、キャシアスはあろうことか舌を滑らせて傷口をなぞった。するとフランは細腰をなおしゃくり上げるように突き上げ、敷布を爪先で掻き毟り、喉からひゅーひゅーと甲高い喘鳴を漏らして悶え転げてしまった。
苦痛故に──ではないことは、燃え上がるように紅潮した柔肌と、キャシアスを掻き抱く腕の狂おしい抱擁、何よりも細い腰を悩ましく踊りくねらせる様から明らかだった。フランがわななき、仰け反るたびに彼女の陰部から粘っこいものが吹きこぼれる気配がした。キャシアスがフランの抱擁から抜け出して彼女の貌を覗き込むと、フランは泥酔したかのように蕩けていた。悦楽に呆けていた。「っっ、はっ──はーっ! はっ、はっ──」狂おしい震え、肉欲を解き放つ時の硬直に引き攣れて、絶息寸前まで強張っていた小さな胸が、ようやく弛緩してめいっぱいに息を吸い込んだ。全身を真っ赤に染めて、血の雫を垂れ流すフランの裸身が激しく上下し、息を貪る。普段は物静かなかんばせが、見たこともない表情に緩み、顔中を汗と涙と色々なものでどろどろにして、淫猥な有様になっていた──キャシアスはその頬に口付けを落とし、髪を撫でつけてあやしつけながらも、フランのあまりに激しい反応に昂ぶりきっていた。フランの細腰を鷲掴み、引き締まった腹に欲望を叩き付けたい衝動が突沸するのを必死に抑え込まなくてはならなかった。
キャシアスはフランの他に女を知らず、悪友から商売女と寝る感触を聞かされたくらいのものだったが、それでもフランの悶え方が尋常でないことくらいは知れた。一度呼吸を整えさせなければ。そうでなければ、フランはあまりに激しい官能に燃え尽きて、本当に息を絶やしてしまうかも知れない。そんな危惧があった。
フランを頬を撫でながら、獣欲を堪え、彼女を労る心を呼び覚ます。
「……フラン、傷が……開いてしまっている……痛く、ないか……手当を……」
「きゃしあす、さま……このまま、どうか……」
フランの瞳が狂気に似た光を宿して泣き濡れている。渇望。愛欲。
「がまん、なさらずに……いいえ、あたしが、もう、がまん、できないです。どうか、どうか」
フランの指が首筋に絡みつき、仰臥した彼女に惹き寄せられる。キャシアスは唇に熱く濡れた感触を覚えた──フランの方から唇を奪いに来たのだと思い至ったのは、たっぷり熱さ甘さを貪った後だった。鼻先に黒いフランの瞳。地の底で見たどろどろと燃える泥のような、粘っこく熱い光だ。フランがどれほど焦がれているか、キャシアスにはよく分かった。自分の赤い瞳の奥にも同じ熱が渦巻いているからだった。
「おなさけを、ください」
キャシアスの無骨な指がフランの最も柔く神聖な部分をまさぐると、煮崩れた果肉のような感触と共に指先はどこまでも沈んだ。フランの掠れた声が漏れ、張り詰めた体がぐんにゃりと脱力して胸が大きく上限した。フランの唇から吐き出された息はあまりに熱く湿っていて、夜気に白く広がった。汗ばんだ裸身が暖炉の炎にてらてらと塗れ光る様が妖しく、艶めかしい──見惚れそうになる己を急かし、キャシアスは己の衣を剥ぎ取った。フランを早く抱き締めたかったし、フランの求めに応じたかった。それにこのまま待たせていてはフランの体が冷えてしまう。
フランの矮躯を再び抱き締めると、彼女の細腕もまたキャシアスの体に絡みついてきた。
二人の唇から火酒のような吐息が混じり合う。
狂おしく蠢く互いの腕は、つがいの蛇がまぐわうかのよう。
隙間無く触れ合う人肌の熱さ、愛おしさは、それだけでも恍惚と我を失って、そのまま微睡みに墜ちてしまいそうな多幸をもたらしたけれども、二人はその先を求めて止まない。
「きゃしあすさまっ──きゃしあすさまぁ──っ」
譫言のようにフランが求め、キャシアスは一番深いところへ体を重ねようとした。だがぴったりと抱き合ったままでは何をどうするべきかが見えず、闇雲にフランの下腹を擦り上げるだけだった。キャシアスは忌まわしくも甘やかな記憶を辿り、あの時はどうしたのだったかと思い出そうとした──と、フランの右手がするりと二人の間に潜り込み、石膏細工のように細くて硬質の指先がキャシアスの肉茎に触れ、フランが腰をしゃくったと思うと、キャシアスはぐぷりと柔らかく濡れた感触に包まれた。
フランの陰唇に獣欲の肉を沈め、しっかりと小さな彼女を抱き直す。
熱い。
柔らかい。
じんじんと、痺れる。
しなやかな脚の間の淫肉がぎゅうぎゅうと雄を締め付けて、フランの手足も身動きのしようがないほどにキャシアスを掻き抱いた。
キャシアスの胸には体を重ねた充足と、愛しい女を抱く昂揚に混じって──積極的な彼女の手際への驚きが沸き立ち、久しぶりにまったく屈託のない笑い声が漏れた。キャシアスの胸板に顔を押しつけているフランが、びくん、と震えた。
「っ、きゃ、キャシアスさま、あたし──な、なんて、はしたないことを──」
あまりにも今更な恥じらいに竦むフランが可愛らしくてならず、キャシアスは童をあやすように彼女の黒髪を撫で、つむじのあたりに唇を触れて囁いた。
「フランから求めてくれて嬉しい」
「~~~~~~~っ!!」
フランは頭をじたばたと振りたくった。キャシアスの胸に顔を押し当てて隠しているが、真っ赤になった耳が見えていた。それは行為の昂揚ばかりでなく、激しい羞恥によるものらしかった。フランのしなやかな体が力み返ると、彼女の胎内がぎゅうぎゅうと雄を締め上げてきたので、キャシアスはそのまま終わってしまいそうになるのを息を整えて耐えた。耐えながら、フランのしなやかな背中を撫で下ろし、肉体の反応を──フランの細い体に苦痛や恐怖の強ばりがないかどうかを、慎重に探った。フランの肉は、その奥深くからびくびくと震えていて、強張っているようで、酷く緩んでもいて、今までに感じたことのない不思議な呼吸をしていた。
「その、痛くないか」
判断がつかず、キャシアスは胸の中のフランに囁きかけるが、フランはそれに答えずに、
「……あの、あの、きゃしあすさま、おねがいが……」
「やっぱり、痛いか?」
「あの、あの、どうか、どうか、はしたないと、おもわないで……」
「そんなこと、思うものか」
「やっ、やくそく、やくそくですよ、やくそく……っ」
「誓う」
「いっ、痛く、ないんです、ちっとも……痛いどころか、あたし、あたひっ、もう、来ちゃ……ッ」
言葉を繋ぐ間に、フランの華奢な体は壊れてしまうのではないかと思うほど収縮した。「うっ」とキャシアスが呻くのを、フランの艶やかな、それでいて絞り出すように切ない喘ぎが呑み込んだ。下腹をくすぐりまわすような淫らな歌声を囀りながら、フランはぶるぶると震え続けた。あまりにいきなりだったので、キャシアスはまぐわいの官能よりも意表を突かれたのが先に来て、臓腑を啜られるような快楽を得ながらも、最後の熱が溢れ出す寸前に留め置かれてしまった。
「っ、はぁっ はぁっ はぁっ はぁっ ~~~~~っっ」
ようやく痙攣が収まると、フランは肺腑の奥底まで絞り出した息を取り戻そうと、必死になって喘いだ。のけぞるようにおとがいを持ち上げたフランは、長い間一緒に過ごして来たキャシアスが想像もしたことのない、弛緩して、恍惚として、理性や自制を全くどろどろに溶け堕とした貌をしていた。さっき胸元の傷を舐めた時のフランの痴態より、なお一層に──
「来ちゃい、ましたっ、きもちいいのがぁっ……キャシアスさまに、抱いていただいて、お腹の中を押し上げていただいて……あたし、お腹がぞくぞくって、じんじんって、おかしくなって……っ」
瘧のような激しい狂態は、女の、雌の、肉の悦びがもたらすものだと、フランは言葉ばかりでなく、その細い体の全てで告白しているようだった。
獣欲の火が、目の裏の辺りで弾けた。
キャシアスはフランの濡れた唇に夢中でしゃぶりついた。フランの熱い舌を啜り上げた。淫靡な喜びに噎び震えるフランの唇は、今や爛熟した果実だった。引き攣れた吐息が、とろみを帯びた唾が、酷く甘い味わいに思えた。蠢く舌肉のこそばゆさが互いの頭の裏を掻き回し、ぬるりぬるりと一繋がりになった口腔の中で水音が反響するたび、ぴったり重なった恥骨同士がざわざわ震えた。そうしながらキャシアスが腰を迫り上げて、フランの胎内の、突き当たりになっている──その神聖な臓腑を押し上げると、
「んぁひいぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!」
フランの軋るような悲鳴が、キャシアスの喉へ直に吹き込まれた。日頃完全に律されているフランの全身があられもなく乱れて狂い、わなわなと痙攣し、堕落した悦びに身を任せているのを、今やキャシアスは間近に感じ取ってしまっていた。彼女の胎内がぎゅうっと窄まって、生き物の口のようにキャシアスを呑み込もうとするけれども、その貪食は彼女自身にも官能の刺激をもたらしているようだ。フランの瞳が焦点を失い、抱きついてくる腕が激しく力み返った。その拍子、あまりに強く抱きついたために、短く切り整えているフランの爪がキャシアスの背中に食い込んだ。キャシアスはその痛みを酷く快く感じた。抱き合った体が自然と揺れて蠢く。ゆっくりと、しかし大きく、深く。フランの臓腑で蜜蝋が燃えて溶け出しているかのように、肉洞からは止め処なく汁が溢れた。そして揺らめく周期のたびごとに、フランの哀切でさえある淫声が響いた。
「ンっ んぅっ んぃいいぃぃぃぃぃぃっ!!」
鳴き、
「ふーっ ふぅぅーーっ、んうぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
仰け反り、震え、
「~~~~~っっ ~~~~~~~~……っっ」
熱い淫花を捏ねくり回すたび、フランは激しい法悦に噎び泣いた。
永いような、ほんの寸の間であったような肉の蠢きを安め、口付けを解いて、
「痛く、ないか?」
と、キャシアスは重ねて確かめるが、今やそれはただ羞恥の責め苦になっていることを理解していた。忠実なフランは、そんな己を嬲る言葉に対し、自失した心に鞭打って応えた。娼婦でもこれほどふやけた声では囀るまいという、淫らに媚びる声を絞り出して。
「いたく、なひ、れすっ……きもちいいのが、ずっと、きゃしあすさま、あたひ、きもちいいのが、ずっと、きてて」
「フラン、辛いんじゃ、ないか? フランが、激しすぎるように、見える」
「ぁっ ぁっ やだ、いわないでっ、いわなっ、あっ、あーーーっ!」
また、フランが掠れた声で叫び、震えて。
キャシアスはそれをぎゅうと抱き締め、唇を貪り、フランの精髄が果汁となって絞り出たような唾を啜る。
くん、くん、と小鼻を鳴らして唇を差し出すフランは、正しく犬の貌で官能を味わい──絶頂の痙攣が引き潮を見るまで、とろん、と悦びに耽溺した。
重なった雄雌の肉が僅かに揉み合うだけでこの有様だから、そのたびにキャシアスはもどかしい小休止を余儀なくされる。フランは「あたしに構わずキャシアスさまの良いように」と訴えるのだけれども、キャシアスは承知をしない。どころか、今夜は一度やめにしたほうが良いだろうと思うのだが、
「やだ、やだっ、やめないでっ、きゃしあすさまが、ごまんぞくされるまで、あたひを、つかってくださひっ──」
と、フランのほうが放しそうに無かった。
加減を探りながら、体を揺さぶる。
泥濘を踏む水音。フランの胎内の感触が、じんじんと痺れて感覚が鋭いのか鈍いのか分からなくなっている男根に絡む。臓腑を押し上げられたフランの危ういほどに甘い吐息。絡みついて来る腕の、肌の暖かさ。折り重なっている彼女の、筋肉のうねりひとすじに至るまでが感じ取れる。
揺さぶる。
獣のような互いの息遣い。
閨の中で燃え上がってしまうような温もり。
濡れた肌がぬらぬらと溶け合ってしまうようだ。
泥濘の音が、揺らめきの周期が、性急になっていく。
そうしていなければ息が継げないかのように、必死になって唇を重ね合う。
互いの舌べろの味。吐息の匂い。
重なる呼吸が合図のようになって、律動が重なっていく。
フランの細くてしなやかな体がうねくり、キャシアスを迎え入れ、舐るように腰を振っている。
肉の蠢きは大河の波の波長から、早馬の拍動に。
いつしかキャシアスの体躯は激しくしゃくり上げられ、フランの小さな体をベッドの中へ埋め込んでしまうほどになると、唇の合わせ目から噴き漏れるフランの嬌声は馬の足音のように短く、跳ねるようになって、「あ゛っ あ゛っ あ゛っ あ゛っ あ゛っ あ゛っ あ゛っ」とはしたなく濁り、ぬちぬちと粘ついた水音が立った。二人の間で捏ね回される雌の淫汁が泡だって、べっとりと互いにへばり付いていた。あまりに激しい淫悦でキャシアスの腰は痺れたようになり、終わり時を見失ってしまっていたけれども、互いの腰をぐねぐねと捏ねくり合ううちに、やがて堰を切ったように熱いものが込み上げて、荒く乱れた呼吸と律動の中で口づけが解け、キャシアスは切れ切れにフランの名を呼んだ。フランのほうもそれと察して、掠れきった声で「ください」「ください」と哀願した。
キャシアスは肉茎をフランの一番奥へねじ込むようにして、込み上げてきたものを押し出した。
息を呑む。
腸が爆ぜた。
腰の中身が引きずり出される。
フランに何もかも呑み込まれる。
押し込めていたものが溢れ出す吐精の、激しい震え。
愛しいつがいに精を植え付けていく充足。
「ひっ ひィっ……」
雄の脈動に同調しているかのように、フランの体が波打った。
時折、びくん、と打ち上げられた魚のように仰け反り、引き締まった腹が波打つ。
その痙攣がフランの胎内を引き締めて、キャシアスの精を啜り上げる。
フランを疑心と衝動のままに犯した時、彼女は静かに、優しく微笑んでいた。
今は陶然と愛欲に身を委ねて──日頃の静かな彼女はどこにもなく──彼女もまた、けだものの、雌の貌で悦んでいる。
昂ぶりの炎から落ちる煤めいて、キャシアスの胸の内を曇らせていた罪悪感が、与えられるばかりでなく、与えることができただろうかという安堵に、幾らか拭われる。
キャシアスが啄むように口付けを落とすと、フランは雛鳥の仕草で吸い返してくる。
官能の余韻にたゆたうがままに、何度も、何度も、口吸いを交わす。
フランのざらざらした掌が、背中を撫で下ろすのが心地良い。
やがてキャシアスはぐったりと崩れ落ちて、フランを押し潰すのは忍びなく、彼女の傍らに転げるようにして横たわった。
フランが胸の中に潜り込んでくる。
いつもの俊敏な彼女とはまるで違う、体中の骨と肉がぐずぐずに煮崩れたような、緩慢な挙措だ。
二人の体は汗だくになっていて、剣の試合をした時の何倍も疲れ果てていた。
「フラン……痛くないか?」
フランは荒い息のまま、言葉を紡ぐのも覚束ずに、かぶりを振って応じた。
汗で濡れそぼった黒髪を撫で、額に口付けを落とすと、彼女はこそばゆげに目を細める。
叫びすぎて声が枯れた彼女は、唇だけで何度もキャシアスを呼んでいる。
愛おしさに任せ、キャシアスは彼女を抱き締めて──
「……」
フランはとろんとした眼差しで、掌を滑らせる。
フランの手指が触れたのは、立ち上がったままのキャシアスの陰茎だった。
これほど疲れ果てているのに、獣欲はまるで静まっていなかった。
あまりに押さえつけてきたせいで、どこか、神経がおかしくなっているのかも知れない。
「いい。今日は休もう」
キャシアスはそう囁きかけるが、フランは淫らに微笑み、片足を腰に絡めてきて──じんじんと熱を帯びている陰唇を、擦り当ててきた。
暖炉の火が消えかける寸前、ぱっと燃え広がって、フランの口元を浮かび上がらせた。
──どうか、ご満足するまで。
彼女の唇は、そう言っていた。
キャシアスは唾を呑み──フランの誘いのままに、抱き寄せた。
閨が熱く湿った闇に沈んでいく。
しっとりと張り詰めたフランの尻肉に指を食い込ませると、フランの喉から「きゃふ」と嬉しげな吐息が弾んだ。フランは陰唇で幹を舐り上げるように、腰をしゃくり──キャシアスは呼吸を合わせて、もう一度体を重ねた。
泥濘の音。狂おしい息使いが、また重なっていく。