(仮)クルゼレイ憑依転生もの 作:WRWI
もう一話続けてみました。
「ほう、堕天使の動きが怪しいと?」
「ええ、クルゼレイ。駒王町で何かを画策しているみたいで……」
ヴェネラナの情報から探りを入れたものの、オーフィスからは禍の団が動いている様子は無いと確認が取れた。あの戦争否定派のアザゼルが吹っ掛けるとも思えず、堕天使の主戦派がいよいよ暴走し始めたか。
「街一つで済ます気も無いだろうしな。海と山の幸がふんだんなこの国をやらせるのは癪に触る」
「論点はそこなのか、クルゼレイ」
「あと、源泉に影響が出る可能性が高い。それは絶対に避けなければならん」
カテレアに呆れた顔をされたが、日本人の精神を持つ悪魔としては大切なことだ。それに滅びの力も馴染んできた頃だ、ここらで魔王の親族に貸しを作るとしようか。
「ただ、そのまま顔を出せばシャルバ達が嗅ぎ付けてくるからな……一つ、手を打つ必要はあるか」
そんなことを言っていると、黒歌経由でぬらりひょん殿から申し出があった。狐の仮面と黒装束一式をオーフィスも含めた四人分提供してくれたのだ。妖術で認識阻害や隠蔽効果も織り込んであるという優れものだ。
「定期的に妖力を注がないと効果が切れちゃうけど、私やクルゼレイがいるから問題はにゃいし」
「これがニンジャ……」
「女はクノイチというらしい、カテレア」
「ほう、オーフィスに教えられるとは」
「『MENMA』という漫画で知った」
通販サイトの『ナイル』は便利だからな。電子書籍であれば書庫の場所も取らない。電子書籍で読んで、本当に手元に置いておきたい本だけを取り寄せる……なんてことを、私やオーフィスはやっていた。うむ、俗世に随分とオーフィスも染まったものだ。
「袖や裾の調整は必要ね。私も裁縫をちゃんと練習しようかしら」
「まー、ヴェネラナの立場じゃ本来必要じゃにゃいものね」
「そうなのよ。ただ、クルゼレイがミシンを使いこなしているのを見るとね……」
「努力の方向性が間違っていると思うんだが、私は」
楽しいぞ、裁縫も。カテレア、何でもやってみるものさ。ちょっとしたほつれを自分で直せると、気に入った服を長く着ることも出来る。なお、黒歌もそういう家事全般は出来るので、彼女が私の女になってくれたのは色んな意味で助かっていた。
「さて、各々のサイズに合わせたところで行くとしようか。ヴェネラナ、戸締りをしてから戻ってくれるかな」
「ええ、こちらはやっておきます。行ってらっしゃい」
ぬらりひょん殿にもお礼と今から片付けてくる旨を連絡して駒王町へ向かえば、既に駒王学園で今にも暴発しような力の高まりを感じていた。必死で結界維持をしているのは、セラフォルーの妹君とその眷属達のようだが……あの力が解放されれば、全てが吹き飛ぶ。
「さっき通ってきた公園で売っている絶品たい焼き。無くなるなど我は許さない」
「ああ、だが結界ごと地を砕くのだけは注意が必要だ。やるならば空へ向けてだな」
「分かった。上へと弾き飛ばす」
だが、最強の助っ人がやる気だ。無論、私も。握り拳を作る姿だけ見れば愛らしいものなのだが。
「止まりなさい! この先は進入禁止です!」
「顔をお見せできなくて申し訳ないが、魔王様関連の指示で一足先に到着したのだ」
魔王様関連=ヴェネラナ。合っているので嘘ではない。ただ、彼らは別の者を頭に思い浮かべただろうが。
「お、お姉様たちがっ?」
「通して頂けるかな」
そして、結界内に入れば膝を着いたものが殆どとなっているグレモリーやその眷属。神の不在を高らかに叫び悦に入っているコカビエルへ、私はすぐに躊躇なく滅びの魔力を球体へと変えて、思い切り投げつけてやる。振りかぶってぇ……投げましたっと!
「あ、ぐぅ!? わっ、私の腕がっ!」
ふん。何とか球体を打ち消しつつ、身体を捻ったか。腕一本だけではなく、そのまま消滅してくれても良かったものを。怒りのままに光槍が降り注いでくるが、それはカテレアの『水鏡』により全てが消滅していく。
「ふむ、思った以上に私も強くはなっているようですね。ここまで強く展開しなくても問題ありませんでしたか」
街を崩壊させる魔法陣についてはすぐに黒歌が動いていた。術者としては最上位に近い才を持つ彼女だ、任せておいていい。彼女の身の回りにはカテレアが水鏡を既に展開させているから、解除に集中してもらえる。
「ほっ」
「ぐぼぁっ!?」
追撃のオーフィスのライジングアッパー。相手の顎は砕ける。むしろ、そのまま頭が砕けなかっただけ、やはり上位の堕天使だけあるといったところか。
「追撃」
空中に飛ばされたコカビエルの翼を無造作に千切り取って行く少女。見ている連中がトラウマになるかもしれんな。なんというかグロい。
「ぎゃぁああああああああがっ!」
「しょーりゅーはーしょーりゅーはーしょーりゅーはー」
飛べない堕天使はオーフィスの連撃で宙に浮かされ続けたままだ。いつの間に格ゲーにも馴染んだのか、これはひどい。カテレアも苦笑いしつつ、水鏡の展開だけを続けていた。
グレモリー達は呆然としている。それはそうだな、拳でお手玉とか斬新すぎる。
「すまない、その辺りにしてもらえないか」
どこかで見ていたものの見るに見かねたのか、空から降りてきたのはフルフェイス全身鎧姿のイケボな青年。あの鎧の形状といい、白龍皇だなおそらく。今代はまだ若いようだ。
「もう再起不能だろうし、ほら、魔法陣の解除も終わったようだ」
「……よし、オーさんそこまでにしよう」
「了解、クーワン」
グシャッと地面への墜落音はさておき。白龍皇は肩口に重体堕天使を担いで、再び飛び立つ準備を始めた。
「クーツーももういいにゃ、ありがとにゃ」
「ビー、了解よ」
今回はコードネームもどきで呼び合う私達だ。アルファベットが被るクーワンは私、クーツーはカテレアだな。変装任務だからこれぐらいの遊びはあって良かろう。
「連れて帰るとするが、君達は相当の猛者のようだ。いつか俺と戦って欲しいな」
「美味いものを持ってきたら考えないこともない」
「む……美味な物か。分かった、よくよく考えるとしよう。美味いものといっても世界は広いからな」
オーフィスの即答に白龍皇が思案する様子を見せたり、この後宝玉に封じられた二天龍の会話があったがその辺りは割愛する。あまり関係の無い話だ。考えるだけで戦うとは言ってないからな。
「では私達も失礼するよ」
「まっ、待ちなさい! 滅びの力を使えることも含めて、貴方達はいったい!」
「ジャパニーズ=ニンジャです」
「そう、私もニンジャよ」
「……クノイチ」
「そうそう、クノイチにゃ」
ヴェネラナの娘は煙に巻いて、そそくさと失礼する。瞳が若干輝いていたのは気のせいだと思うことにした。日本かぶれ過ぎだろ、グレモリー一家。あとは前回訪問時に目をつけていた駒王町の小さな小料理屋で乾杯と洒落込んだ。仕事の後の美味い酒やつまみは格別である。
「そうは問屋が下ろさないんだからっ☆」
「そうです、どうして姉様がクノイチの真似事なんてやってるんですか」
「ここは小料理屋だ。まずは黙って飲め、食え。そして味わえ。あと、あまり大きな声を立てるな。周りのお客さんに迷惑だ」
「アッハイ、ごめんなさい」
「さ、クルゼレイ。お酌するわ」
「うむ、頂こう。ふむ、いい香りだ」
後を追ってきたのか席に押しかけてきたセラフォルーと黒歌の妹も巻き込んで、カテレアの酌でしばらく料理に舌鼓を打つ。セラフォルーは駒王町に学園で妹達に話を聞いた後こっちの魔力を察知して、黒歌の妹である小猫とやらは姉の妖力を覚えていたから迷わず追ってきたらしい。ただ、二人とも追手はしっかり巻いてきたとのこと。
「だって話もゆっくり出来ないじゃない。それに、ソーナちゃん達を助けてくれたんだもん。ありがとうってちゃんと言いたくて……」
「別に貴方の妹達を助けるだけではありませんよ、セラフォルー」
「うむ、手頃な実戦機会でもあったからな。しかし、あの白龍皇とやり合ってはまだ危ういかもしれんな」
「一対一だと分が悪いかもね。オーフィスは別にしても三人でかかればいけるだろうけどにゃ」
姉に強引に酒を飲まされたからか、小猫とやらは既に眠りの中だった。黒歌の膝枕を受け入れている辺り、毒舌や恨み言を言っても姉を慕う気持ちはしっかり残っていたようだ。
はぐれ悪魔? 力の暴走? この黒歌がそんなヘマをするものかな。適当に上層部に吹き込まれたとしか思えん。幼い頃ならまだしもその後も言われた言葉をずっと丸呑みにしていてどうするのか。そんなことを言い放ったところ涙目になってしまって、黒歌に真剣に怒られてしまった。その反応に妹は姉の正気を少しは信じられたようだが。
「カテレアちゃん、変わったね」
「変わりましたよ。貴女と張り合うのが馬鹿らしくなるぐらいには」
「小猫ちゃんは私の特命で数日出張ってことにする。その間に、小猫ちゃんは貴方達のアジトで黒歌と話し合いを持つ。あと、あなた達の協力は執行部以外には伏せる。シャルバに気づかれないように」
「ああ、それでいい。セラフォルー、手間をかけるが頼むぞ」
「クルゼレイちゃんもほんと、別人だよ……その落ち着きぶりも含めて、何があったの」
「今は明かせんさ。私と君は協力関係というだけなのだから」
あと、力づくになっても逃げ切れる程度の実力差にはなっているのが分かるしな。オーフィスが手伝ってくれれば勝てることだし。まぁ、頼りっ放しになる気は無いが。
「クルゼレイ、眠い」
「ああ、話が終わるまでは私の膝を枕にしてるといい」
外套をかけてオーフィスはしばし夢の中へ、だ。そんな私達を見てセラフォルーは顔に疲れをにじませた。
「なんかすごく今のクルゼレイちゃん達は自由、なんだね……」
「そうだな。魔王に拘り過ぎることを止めてからは随分と肩の荷が下りた気がする。カテレアがいて、自分を鍛え、美味い食べ物や酒に舌鼓を打つ。お金に困らない程度に仕事や契約を結ぶ。最低限やるべきことはやり、後は自分の好きなことや興味あることに邁進する。……うむ、充実しているな」
「そろそろ子供も欲しいわ、クルゼレイ」
「そうだな、これである程度落ち着いてくれればカテレアには産休に入ってもらうとするか」
「ぐぎぎ……独り身の前で家族計画の話をするかなっ」
「セラフォルー? 女がしちゃ駄目な顔になってるわよ?」
「だってぇ……この差は何なのぉ? 慢心? 環境の違い?」
「男を見る目じゃないかしら」
「がはっ」
哀れセラフォルー。吐血(する振りを)して突っ伏してしまったか。傷は深いぞしっかりしろ。
「酷くないかなクルゼレイちゃん!」
「煩い。ここの支払いしてやらんぞ。それにお前は俺の女じゃないからな。扱いもそれなりになる」
「じゃあ私もクルゼレイちゃんの女になるもん!」
「趣味じゃない。魔王の立場に巻き込まれるのは勘弁。あと、衣装が痛い」
「ごふっ!?」
痛恨の一撃、三連打。クルゼレイは魔王セラフォルーをたおした! 経験値……何ポイントくらいだろうか。
「やられてないからね!?」
弄りがいがあって楽しいな、意外に。ほら、お前ももう少し飲め。帰ったらまたしばらく自由も無いだろうが。
「うーっ、魔王辞めてやるもん……お爺ちゃま達は勝手ばかり言うし……」
「老害だからな。適当に間引いてやればいい、風通しも多少良くなるだろうさ」
口だけ出して自分達は一切動かない元老院だからな。邪魔でしかないだろうよ。酒を入れるのも久しぶりだったのか、セラフォルーはそのまま本気で眠りに入ってしまった。
今の家に連れて帰ると足がつくしな……ふむ、湯治先の一つに空き部屋がないか当たってみるか。
*****
「知らない天井だよ……」
「そりゃそうだ。地方の温泉旅館だからな」
常連のレイさんなら特別室を使って下さいなと、行きつけの温泉旅館の主人が気を遣ってくれた。少し多めに付け届けを渡しておいて、今回の急な手配を詫びる。朝昼食つきでチェックアウトも夕方まで伸ばして構わないと言ってもらえると、次回もまた来たくなるし、気づけば次の予約を済ませてしまっていた。人情とはいいものだし、時に恐ろしいものでもあるな。
「セラフォルー、部屋に源泉掛け流しの露天風呂がついている。朝食が運ばれてくるまでに済ませてこい」
「そう言って私をキズものに……」
「ないわー」
阿呆なことを言ってないでさっさと行ってこい。カテレアにも鼻で笑われているぞ。
「姉様や他の女の人を侍らせる変態と思ってましたが、意外です」
「君もわりとズケズケとものを言うな。まあ女好きを否定する気はないが、セラフォルーはヤケクソになっているだけだ。それでは互いに遺恨を残すだけだから」
黒歌はといえばまだ布団の中だった。あいつも布団で惰眠を貪るのが好きで、その感覚は分かるから好きにさせている。
「傷も疲れも癒えたようだな。光力のダメージは身体の中に残り続けることもある。黒歌はしっかり処置をしたようだ」
「お陰様でアルコールもしっかり抜いてくれたようです」
「では、しっかりした量の朝食が来るが大丈夫か。山の幸と川の幸、日本の恵みを壊す奴を倒した褒美としてありがたく頂こうじゃないか」
黒歌の妹は健啖家だったようで、食べっぷりが何とも気持ちいいものだった。ただ、仙術や妖力を無理やり抑え込んでいることによる消費エネルギーの反動でもあるらしく、黒歌との蟠りが解けていくことで徐々に過剰な食欲も落ち着いていくだろうとのことだった。
「なるほど。ということは、急激に身長も伸びるかもしれないな」
「インナーやブラジャーはちゃんと合ったものを使うのよ? 費用が嵩んでしまうなら、お姉ちゃんが都合つけるにゃ」
「心配しなくても大丈夫です、姉様。子供じゃありませんから」
「そもそもサラシを使う黒歌ちゃんに言われても説得力がねぇ☆」
「行き遅れは黙ってろにゃ!」
「飯の途中に暴れるな阿呆ども。叩き出すぞ」
食事の時は喧騒に邪魔されず、自由で救われてなければならないのだ。静かに豊かにだな……酒の席とはまた違う趣きであるべきだ。
「なんか性格、変わってます? 感じた威圧感が昨日のコカビエルが可愛く思えるぐらい……」
「食事についての拘りはすごいわ。何よりも真剣に向き合ってると思ってしまうもの」
「食事は生きるための生命線だ、睡眠と同じくな。だから決して適当に向き合ってはいけないと思う。まあ、私個人の考えだが」
この感覚は取り込んだ記憶の影響が大きい。危うい橋を渡ることも多く、食事がまた取れたことへの有り難さ。セックスとはまた違う、深く満たされる感覚。家の庭では簡単な野菜を育て始めているが、いずれば畑を借りて口に入れるものを自分で育てようと考えている。
「悪魔ですよね……? 旧魔王であるアスモデウス家の直系さんなんですよね……?」
「如何にも。私はクルゼレイ・アスモデウスなのだからね」
皆戸惑ってるようだが、どうかしたのかね。ああ、この山菜のおひたしのなんとも言えぬ苦味がまた白いご飯に合う……。
「ご馳走さまでした……」
手を静かに合わせる。大地の恵み、川の恵みに感謝だ。
「……ご馳走さまでした」
カテレアや黒歌は苦笑いしているし、セラフォルーや小猫とやらは複雑な顔つきになっているな。まあ、しっかり食べていたようだし、心配は無いだろう。
「オーフィス、足湯に行こうか。フルーツ牛乳か珈琲牛乳もつけよう」
「我、フルーツ牛乳がいい……!」
銭湯の風呂上がりにやるのが一番なのだが、こういう変わり種もありだろう。さて、新緑を眺めながら楽しむとするかな。
「カテレアちゃん……」
「別人と思われるだろうけど、紛れもなくクルゼレイよ。一緒についていると本当に退屈しないし、優しくなったしいい男になったでしょう?」
「若隠居の資産家みたいに思えてきました……」
「大体合ってるにゃ、白音」
「……あら? クルゼレイは今日は此方なのね?」
「えっ、リアスちゃんのお母様⁉︎」
「あら、セラフォルー。貴女もこちらへ来ていたの。小猫ちゃんも無事で何よりだわ」
「……ご無沙汰、しています?」
ヴェネラナの来訪で宿泊部屋の混沌具合が深まっていることも知らず、俺は牛乳瓶片手にリラックスしたものだった。
「ぷはー、この一杯のために我は生きている……かもしれない」
同様にのほほんとした調子のオーフィスと共に──。
クルゼレイさん、俗世に染まりすぎているご様子。