※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪 異伝   作:時守 暦

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夜種王様よりいただいたSSです。
テンション上がってココイチカレーを丸呑みし、喉とお腹がエラい事になっています。

時系列としては、38・39話近辺との事です。」


第1話

 

 

 

これは自覚なき霊感を持つ若き女が彼を見た、もう一つの物語である。

「安楽の死すら許されない狂気の輪廻に遊ばれる男の運命は幾十も絡まった鎖がごとく。

鉄錆に満ちた海へと沈みゆく彼があの青い空へと手を伸ばせる日は果たして来るのでしょうか。

どうかせめて、名も知らぬ彼の行く末まで御武運がありますように。−榊」

 

 

散るを忘れた花桜を映す湖面を通り過ぎるが一人。

郷里を懐かしみ喜ぶ笠に儚き色が加わり、すっかりにじんだ紅色に華が彩られる。

 

その旅烏は短く艶やかな黒髪をなびかせる女とも男とも見え、背負う大刀は細く長く質素な拵え

に納めていることからハンターと見てとれる。そのハンターの左腰には直刀の小刀を帯びており、

小刀の柄頭が静かに次の獲物へとまっすぐと光らせていた。

脳天めがけて一太刀喰らわせに跳ぶ、兜割りのサカキがユクモ村へと帰郷する。

特例で卒業した彼が訓練所を出てからその一週間後のことである。

 

 

やぁ、僕はサカキ。お兄さんって呼ばれるけどお姉さんだよ。本当だよ。

……髪が短いし胸もないから何度もそう言われるけど……女だからね?

僕は訓練所の教官から一人前のハンターとして認められて活動を始めようと、

僕の故郷であるユクモ村で感覚を鍛えるために帰郷する。村付きのハンターになるためでもある。

 

ユクモ村出身である僕の父は村のハンターで片手剣使いとしてその名を馳せていて、ハンターに

なる前から虫や木々たちの声が聞こえていたんだって。

僕も森のざわめきや獣や竜たちの鳴き声がなんとなく理解できるし、たまに夢で見た事が現実で

起きたりその先を憶えている。僕は予知夢が見える体質なんだ。

 

なんでこんな話をしていたかというと、偶然とは思えない場面や不思議な状況に考えられないほ

ど遭遇してね。僕のその体質に加えてこれから話す、この小刀が何か関係しているんじゃないか、

なんて思って。

この直刀の小刀は父の形見で剥ぎ取りナイフの代わりに使っていたんだけど、この小刀を持って

いると不思議な感覚がたまにあってね。狩りの最中で同じ光景が二度も視えたり、ある人への違

和感を強く覚えたりしてね。

………そう、今は亡きハンター、あの人の事について憶えている限りで語ろう………

 

 

・訓練所で見かけたあの人を見た日

僕よりも後に入ったあの人、彼は見ているこっちが心配になるほどダメダメで、あんな状態でブ

ルファンゴと本当に戦えるのかと僕は思っていた。

ブルファンゴに追いかけ回されてついにど突かれるかと思うと、突然気が狂ったように素手で殴

り殺していた。異様な殺気と共に「尻がぁ!」と叫びながら彼が掘ろうとしていたのは……言わ

ないでおこう。うん。たぶん生殺しにされる。

桁違いな力で持ち上げ、地面めがけてブルファンゴの頭を投げ潰したあの殺意と気迫がどこか悲

しげに見えたけど、別の事がすぐに気になった。

 

…あれ、どこかで見覚えがあるような?

彼の顔も名前もこの出来事も知らないはずなのに、でも僕は確かに覚えている。

そう、久しく忘れて思い出した時の雰囲気や、長らく会えなかった親友とのそれに近い気がする。

でもどこでだろう…?

あ、行っちゃった。うーんと考えていると教官が後ろから僕の肩を叩いた。次は僕の番か。

 

異常な熱意と目覚めた才能で休憩すら取らなかった彼が、翌日には飛び級で訓練所を卒業してい

った。何かが外れたのか?と思わせられた豹変ぶりだった。

僕も一週間後に卒業して訓練所を後にするけど、彼への常識さが当てはまらない奇人さがよく分

かる話題が絶えることはついになかった。

 

 

・ユクモ村に到着した日

古き里のユクモ村に到着してさっそくお世話になった村長や鍛冶屋のじっちゃんたちに挨拶して

回ったんだけど、意外なことに僕が到着する3,4日前に正式な村のハンターが着任していたらしい。

村長の粋な計らいで亡き先代の専属ハンターの娘ということで別の住まいがあてがわれ、正式な

ハンターとは別にクエストを受ける形として移住させてもらえた。

 

その村付きのハンターへ挨拶を交わすため受付嬢にその名前と容姿を聞こうとしたら、急に鼓膜

が破れるような強い耳鳴りが聞こえた。耳をおさえていないと堪えられないほど強くて、名前が

聞き取れなくて何度か言ってもらったけどやっぱり聞こえなかった。

誰に聞いても同じ耳鳴りが聞こえる。…なぜ?

名前を調べようとしても書類がなかったり、誰かが持っていたり、

燃えたり汚れたりして名前を知ることが出来なかった。…どういうこと?

 

クエストをこなしながら彼に会おうとしても必ず会えず、

彼を尋ねようとしても既に受諾を終えて出発をしていたり、村の中で完全に行き違った。

仙人様と呼ばれるほど狩場を転々とするようになり、そこで出会うこともついにはなかった。

……正直言って気味が悪すぎる。寒気すら感じる。

 

それからその人らしいハンターの姿を僕は見ていない。村のみんなやユクモ村に訪れたハンター

たちから信頼され、死の淵にいたハンターとその仲間から本当に拝まれているほどなのに、

なぜ会えないのだろう?

 

死にかけたハンターから話を聞くと、手際よく閃光玉で目を眩ませ煙をまいてジンオウガから離れ

たあとに、摩訶不思議な力と懐から飲まされた薬のお陰で深い傷口が癒え、ハンター稼業に支障な

く絶対安静で済んだそうだ。他にも太刀の技と思えない異様な切り傷を負わせたり、

奇人変人と言える話を聞くと訓練所のあの彼だなぁって思ったけども…本当にあの彼なのかな?

 

 

・祭りの日

村の頼み事をこなしながら"あの人"を探していたら、いつの間にジンオウガが村のハンターによっ

て倒されていた。えっ、あのジンオウガだよ?

父が片腕を失くすほど苦労したっていうあのジンオウガを?

 

…あ、本当なんだ。今度のお祭りはジンオウガを倒した仙人様のためのお祝い、そうなんだ。

あっ僕もお祭りの準備を手伝うよ。何を手伝えばいいの?

(仙人様こと正式な村のハンターさんとは…一体どんな人なのだろう?)

 

 

お祭りが始まって僕は"あの人"へ会いに行った。

訓練所の彼を偶然見かけて声を掛けたんだけど、何度呼びかけても反応がない。

…えっと? あの? 何度も声を掛けてますけど、あのー? え、ちょっ…えっ?

 

"彼"が不意にこちらを向いた瞬間、確かに訓練所の"あの彼"だったんだ。

暗くて前髪が目に掛かってよく見えなかったけど驚いたのはそれじゃない。

彼の顔が「思い出せない」んだ。

彼であると知っているのに彼の顔が分からない、見ている目の前で思い出せないんだ。

なのに"彼である"という事を僕は分かっている。僕が彼の顔を憶えていないはずなのに。

急に突きつけられた訳のわからない矛盾の事実に、僕は驚きその場で言葉を失ってしまった。

 

一方の彼は誰かを追いかけていたが見失って悩んでいたらしく、後ろで口を開けている僕の姿を見

て疑問の表情を浮かべていたみたい。その場で当たり障りのない会話を済ませたけど、

酔っていた彼は僕との面識が無いそう。…そう、だよね、僕が予め知っていただけだよ…ね?

 

僕が憶えていただけかもしれない。確かに見ていただけで彼とは接触していない、

訓練所には個性的な人が多すぎて認識されなかったのかもしれない。

けど、「顔が分からないのに、彼の事を憶えていた」ってどういうこと…?

 

とにかく僕が受けた彼の印象はごく平凡な成人男性だった。

「普遍的」過ぎて意識して見ないと彼だと分からないほど、見る人によって彼の姿が変わってし

まうほど、まるで見る人の姿を映す鏡のような……もう一人の自分がそこにいて、鏡の向こう側

にいる自分が出てきて話しかけているような錯覚を覚えさせる人だった。

当たり前過ぎて忘れたそれを具現化したような人が、それがその"彼"だった。

驚くほど溶け込んでいる鏡の彼は傷一つない、彼の特徴が見えないと言ってもいい。

見る人の姿を描く鏡のようだった。

 

そして僕は忘れる事が出来ない。左腕を小刀になんとなく寄りかからせて会話を交わしていると、

…理由もなく湧いた"時間の違い"を感じさせられた。

そう、誰よりも孤独で途方もなく永い時間を生きてきたような…

まるで僕と、僕たちの生きる時間とは違った時間を歩んでいるように思わされた。

 

…冷たい脂汗が背筋をなぞる。

…彼の背後で何人もの彼が重なり、

…一つの涙が濡らす瞳孔が映すその姿は、

…今に生きる彼らが壊れた時計の針に沿って進んでいるように、僕は視えた。

 

 

……パチパチと呻る焚き火が消える。

照らされた赤い頬と暗き瞳は闇へと消える。

 

「ここまでが僕が語れる、彼についてのお話。」

「祭りのあとで何度か会っても共に狩りはしなかったし、お互いに忙しくて話もしなかった。」

 

「彼の最後に立ち会ったのは村に現れたティガレックスを止めようと彼が屠りにいった時。」

「僕は村の外で見張りをしていて気がついて駆けつけたのだけど、彼以外のみんなは体が痺れて動けなくなっていた。」

「彼がイカリハンマーよりもいびつで大きなドリルランスのような鑓でティガレックスの臓物ごと貫いて仕留めたよ。」

 

「最後に絶命するティガレックスの断末魔は聞くに堪えないものだった。怒り、憎しみ、苦しみ、悲しみ、絶望、」

「その全てが哀しいものだった。聞く者の体を金縛りに合わせるあの咆哮を彼はよく耐えていたと思う。」

「…今思えば耳鳴りのそれと似ていた気もする。」

「でも最後は運が悪かった。もう彼はギリギリだったんだ。」

「血をあまりにも流しすぎた、死にゆくティガレックスの顎門に近づき過ぎたんだ。」

 

「僕も多少は動けてもあれを受けたらひとたまりがない。」

「…哀色の狂える叫びが宙を穿った時、彼の首が折れ肉が抉れ血に濡れた骨が見えていたよ。」

「彼が吹き飛ばされた先に爆弾を抱えていたアイルーがいた、そこにぶつかってアイルー諸共爆発して彼が消えた。」

 

「……報告の通り彼は死んだよ。損壊が酷くて頭が見つからないのはきっと爆発で砕け散ったせいかも。」

「周囲で暴れていたモンスターは僕が抑えた。」

「動けるようになったハンターにまだ息のある人を抱えて避難してもらうように指示もした。」

「のちにレジェンドラスタの人たちが到着して村に残ったモンスターを共に一掃した。」

「あとの話はレジェンドラスタや動けなかったハンターのみなさんがいっている通りです。」

「彼のおかげで僕たちは生きのびることができました。」

 

「…彼は勇敢で立派なハンターでした。」

「確かに風変わりでおかしな人でしたが、僕の知る限りでは誰かの為に自分の命を差し出せる強い人でした。」

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